解決☆納豆仮面!

    ●調理室にて
    「というわけで、菌には食べ物を美味しくしたり、体にいいヤツもいっぱいいて、納豆菌もそのひとつなのよ」
     福島県内の某小学校の調理室。優しそうな中年女性の先生と、中学年くらいの少年がテーブルを挟んで向かい合っている。
     放課後なので校庭からは生徒たちの元気な声が聞こえてくるが、調理室内にはきまずーい雰囲気が漂う。
     困った様子の先生は豆田先生といい、頑なに黙りこくっている生徒はノリオという。3年生だ。

     事の発端は、今日の給食。納豆が出たのだが、ノリオは納豆が大嫌い。
     時は平成であるから、昭和のノリで全部食べ終わるまで居残り、なんてことはないのだが、ノリオはよりにもよって給食中に。

    「納豆なんて、腐った豆じゃないかーーっ!」

     と叫んだのである。
     みんなが美味しそうに納豆を食べているのが悔しかったのだろう。なにせ福島県は納豆の消費量日本一。子供からお年寄りまで納豆愛好家が圧倒的大多数である。
     ノリオの暴言に、繊細な女子などは青ざめて箸を置いてしまったし、納豆好き男子達とは一触即発の雰囲気になってしまい……。

     その場は何とか収めた豆田先生であったが、好き嫌いは仕方ないとしても、ノリオの納豆への偏見だけでも取り除こうと、放課後の調理室に連れてきてお話しているのだ。
    「だからね、腐ってるわけじゃないのよ、わかってくれたかな?」
     豆田先生は微笑んで顔を覗き込んだが、ノリオは先生と目を合わせようともせず、
    「……腐ってるもん」
     ぶっすりと言った……その時。
    「腐敗ではない、発酵だ!」
     開け放っていた調理室の窓から、茶色いマントをひらめかせて1人の男が飛び込んできた。
    「だ、誰ですかっ!?」
     いきなりの不審者の登場に、豆田先生は素早くノリオを庇う位置に駆け寄った。
    「私は納豆仮面! 福島の子供達の納豆嫌いを治すべく日々活動している」
     男はシャシャッと無駄にポーズをつけながら名乗った。なるほど色味は地味だが、衣装とマントは戦隊ヒーロー風である。ただし頭部は藁苞(わらづと)に『豆』マーク。
    「その子の納豆嫌いも、私が治してしんぜよう!」
    「(納豆メーカーのゆるキャラかしら?)」
     首を捻りながらも、ノリオの頑なさに挫けそうになっていた先生は、
    「えっと、じゃ、ちょっとだけお話してやってくださいます?」
    「任せろ!」
     先生はおそるおそるノリオの前から退いた。
     ノリオはといえば、キラキラお目々で納豆仮面を見上げている。まだまだ変身ヒーローや戦隊ものには弱いお年頃。
    「ではまず、納豆の実力を見せてやる!」
     言い放った納豆仮面は腕をノリオの方に向けて伸ばした……すると。
     ぶわああっ。
    「うわああッ!?」
     納豆仮面の手から細くてねばねばした糸が無数に伸び、ノリオに絡みついて縛り上げた。
    「きゃあぁやめてください、何をするんですか!?」
     先生は慌てて手を伸ばしたが、ねばねば~は大事な生徒を宙に持ち上げてしまった。
     納豆仮面はうはははと高笑いし、
    「どうだ参ったか、これが納豆の実力だーッ!」
     
    ●武蔵坂学園
     炎導・淼(ー・d04945)と春祭・典(高校生エクスブレイン・dn0058)は、学園の調理実習室で納豆ご飯をわしわしと食べていた。納豆依頼の相談をしているうちに、無性に食べたくなってしまったのだ。
    「というわけで、福島の納豆仮面を撤退させて欲しいんですよ」
    「撤退でいいのか?」
    「灼滅ってのももちろん有りなんですが、今回の場合、ノリオくんに納豆料理を食べさせることができれば引き下がるでしょうから、そっちの方向で工夫するのが穏便かと思います」
    「なるほど。ノリオの納豆嫌いも直せたらラッキーだしな」
    「ええ、納豆は腐ってるんじゃなくて発酵だっていうのを小学校3年生にもわかるように説明してあげるのも、効果的だと思います」
     介入するのは、納豆仮面がノリオにねばねば糸を発射しようとするタイミングが良いだろう。目の前で攻撃を阻止すれば、豆田先生の信頼も得やすくなる。怪人は窓から入ってくるので、灼滅者たちは廊下に潜んでタイミングを待とう。
     そして持参の納豆料理を庭に並べ、納豆仮面の気を引く。調理の必要があれば、調理室を借してもらえばいい。
     納豆仮面がノリオへの攻撃をひとまず保留したら、ノリオに対して料理のプレゼンを行う。彼が納豆料理をどれか1口でも食べてくれれば、怪人は納得して撤退するだろう。
     もし食べてくれなければ、戦闘して灼滅か撤退に追い込む必要がある。
    「先輩、ご飯のおかわりありますよ」
    「うん、もらおう……納豆もまだあるか?」


    参加者
    透純・瀝(エメラルドライド・d02203)
    炎導・淼(ー・d04945)
    文月・咲哉(ある雨の日の殺人鬼・d05076)
    ワルゼー・マシュヴァンテ(教導のツァオベリン・d11167)
    柊・司(灰青の月・d12782)
    ハリー・クリントン(ニンジャヒーロー・d18314)
    ケイネス・ウィンチェスター(狂愛のトルッファトーレ・d19154)
    鵤城・沙依香(鶺鴒・d25998)

    ■リプレイ

    ●納豆嫌いの少年
     納豆講義を受ける不機嫌丸出しの少年の顔を、灼滅者たちは潜んだ廊下からこっそりと覗いていた。ノリオは坊主頭の元気良さそうな少年である。
    「納豆が苦手というのはまあ解せるが、まずは誤解を解いてもらわぬことには、苦手意識をどうすることもできぬよな」
     鵤城・沙依香(鶺鴒・d25998)が忍者の末裔らしく、保護色の布に身を隠しながら仲間達に囁いた。
    「そうよなあ、無理強いしたら余計嫌いになってまうじゃろうに……」
     ケイネス・ウィンチェスター(狂愛のトルッファトーレ・d19154)は、もうじき現れるだろう怪人のやり口に顔をしかめる。
     柊・司(灰青の月・d12782)が心配そうに、
    「実は僕も、納豆苦手なんですよね……これを機に克服できるかなぁ」
     ケイネスは笑って、
    「実は俺もちょいと苦手じゃ。一緒にがんばって克服しちゃろう」
    「嫌いなもんがあるのはしゃーねえよ」
     透純・瀝(エメラルドライド・d02203)が2人を励ますように。
    「だけど、大事なのはそっからだぜ。そのために俺ら、色々考えてきたわけだしよ」
    「そうでござるが」
     頭上から声が降ってくる。ハリー・クリントン(ニンジャヒーロー・d18314)は器用に天井と壁の小さな出っ張りに手足を引っかけて隠れている。
    「拙者、やはり納豆にはホカホカご飯が一番でござると、再認識したでござるよ」
     そりゃそうだ、と納豆好きたちが深く頷いた瞬間、

    「腐敗ではない、発酵だ!」

     男の声が調理室にびりびりと響いた。無駄にイイ声である。
    「(出た!)」
     茶色のマントに藁苞頭。見紛うはずはない。福島納豆仮面の登場だ。
     灼滅者はSCに手を……ではなく今回は、それぞれテーマカラーの衣装を整え、持参の食材や下拵えしてきた料理を確認した。

    「ではまず、納豆の実力を見せてやる!」
     納豆仮面がノリオに向けて腕を伸ばし……。

    「(今だ!)」
     灼滅者は一斉に調理室に飛び込んだ。

    ●戦隊ヒーロー登場!
    「……うわっぷ」
     まっしぐらに怪人とノリオに割って入った炎導・淼(ー・d04945)は、思いっきりねばねば糸を浴びてしまった。一般人用なのでダメージは少ないが、ねばね~ばはする。
     同時にワルゼー・マシュヴァンテ(教導のツァオベリン・d11167)が、納豆仮面の真ん前に立ちはだかって。
    「待てーい、御前のやり方では子供にトラウマを植え付けるだけ、納豆の良さなどわかるものか。学んで食べて理解する、それがベストなやり方よ!」
     その間に司が、呆然とするノリオと先生を怪人から隠しながら、隅っこの席に避難させた。
    「な……なんなんだお前たち!」
     突然の介入に虚を突かれた納豆仮面であったが、すぐに変身ヒーロー(風)の自我を取り戻し、
    「私の納豆普及活動を邪魔するとは、さては悪者だな!?」
    「はっ、ご当地怪人が悪者よばわりとは片腹痛い」
     ワルゼーは紫の衣装をひらめかせて見得を切り、
    「我はキッチンパープル!」
     続けて沙依香が、
    「同じくキッチンブルー!」
     女子達の色味が渋いのはさておき、灼滅者たちは次々と名乗りを上げていく。
    「キッチンシルバー、ケイネス・ウィンチェスター!」
     瀝は緑のエプロンとマフラーをなびかせ、
    「エメラルドは夏の輝き、キッチングリーン参上!」
    「同じく、き、キッチンオレンジ……です」
     司は恥ずかしそうにもじもじ……と、そこに、天井から飛び降りながら、ハリーが、
    「拙者はキッチンイエロー!」
     スタイリッシュモードで決めたが、微妙にゼエハアしている。さすがに天井待機はキツかったか。
     文月・咲哉(ある雨の日の殺人鬼・d05076)は真顔で、
    「料理は科学だ、キッチンブラック!」
     と名乗りを上げると、
    「まずは昨日仕込んだ、活きのいい手作り納豆を進呈だ」
     怪人に納豆を入れた器を渡す。知的クールポジションの設定のはずなのだが、目の輝きは隠しきれない。設定を大いに楽しんでいるに違いない。
     納豆仮面はいきなりプレゼントをもらって戸惑う。
    「手作り納豆とは、お前たち一体……?」
    「さ、最後はレッド、納豆を極める男、炎導だ!」
     クリエイトファイアでねばね~ばを焼き切っていた淼が最後の名乗りを上げた。しかしまだ少々こびりついているのを見て、沙依香がそっと清めの風を吹かせる。
    「だから何者だって!」
     納豆仮面はイライラと叫んだ。延々8人分の名乗りを聞かされたわけだから。
     灼滅者たちは、せーの、とタイミングを合わせると、

    「「「我ら、お料理戦隊キッチンエイト!」」」シャキーン☆

     決まったぜ。

    ●お料理ターイム!
     ノリオに納豆嫌いを克服してもらうために来た、というキッチンエイト(以下K8)のスタンスを理解してもら……ったかどうかはアレだが、納豆仮面は、これから様々な納豆料理が出ると聞いて、とりあえず大人しくなった。おかげで灼滅者たちは調理に専念できる。調理室なので、光景としてはお料理バトル風である。
     ノリオと豆田先生も大人しく隅っこの席で待機してくれているが、ノリオはおそらくK8に魅せられて、先生は多分このシュールな状況に気圧されて、だろう。
    「あの、とりあえず納豆の天ぷらです。どうぞ。冷めちゃってますけど」
     そんな3人に司が持参の料理を配る。
     納豆仮面は遠慮の「え」の字も無い様子で早速わしわしと喰らい、豆田先生もおずおずと箸をつけて、天ぷらお上手ですね、と言ってくれた。が、肝心のノリオは胡散臭そうに見ているだけ。
     しかしそんな反応は想定内、司はノリオの隣に座ると、
    「ノリオくんは、納豆嫌いなんですって? 実は僕もなんですよ」
     優しく語りかける。
    「納豆のどこが嫌いですか?……腐ってる。成る程。でもね。腐ってるのと、発酵は違うんです。発酵はイーストや乳酸菌が糖分などを分解し、有機物、炭酸ガス等を生じる作用です。腐敗は主に有機物、特にタンパク質が細菌によって分解され、有害な物質と悪臭を生じる変化です。要するに、発酵はいい者で、腐ってるは悪者です。どちらもパワーは持っているけど、善悪がある。ヒーローと悪の怪人の差と一緒ですね」
     ちょっと難しかったらしく、ノリオはきょとんとしている。でも、ヒーローと悪人のくだりはツボらしく、一生懸命考えてもいる様子。そこにタイミング良く、
    「ノリオ、発酵を体験してみないか?」
     咲哉がゆでた大豆を手に、ノリオを誘いにきた。ノリオは素直に立ち上がる。納豆作りに興味があるというよりは、ヒーロー(風)に誘われているという要素が彼を引きつけているようだ。
     大豆に納豆菌を混ぜ、保温する作業をしながら、咲哉は、
    「ノリオは、ヨーグルトは好きか?」
     ノリオはこっくりと頷いた。
    「牛乳に種ヨーグルトを混ぜて保温すると、乳酸菌が増えてヨーグルトになる。ほら、納豆も同じだろう?」
     ホントだ、と、ノリオは大好きなヨーグルトと、大嫌いな納豆の作り方が同じであることに驚く。
    「君の苦手意識は、イメージだけが先行していないか? 食わず嫌いはもったいないな」
     そこに、○分クッキングの音楽と共に、
    「ノリオ殿、納豆講義は一休みして、ハンバーグを作ろうでござる!」
     ハリーがやってきて、ボウルに入った美味しそうなハンバーグの種を見せた。実はこの種にも納豆が入っているのだが、敢えてそれは言わないでおく。
     ハリーとノリオは丸めて伸ばしたハンバーグをフライパンに載せる。
    「焼き上がったらハンバーガーにするから、楽しみにしてるでござるよ……むふふ」
     体験学習の間に、他メンバーの調理も着々と進んでいた。
     瀝はご機嫌でオーブンを覗いている。淼はコンロを3つ使って手際よく作業を進める。ワルゼーは大きな鍋で何かを煮込んでいる間に、咲哉に昨日作った新鮮納豆を分けてもらう。沙依香はしきりと細かい作業をしていたようだが、揚げ鍋に油を温め始めた。ケイネスは楽しそうにキャベツを刻んでいる。
     果たしてどんな納豆料理が出てくるのだろう?

    ●納豆食べてヒーローになろう!
     調理室にずらりと納豆料理が並んだ。怪人は「どうぞ」と言われる前にガツガツと食べ始めたが、ノリオはまだ引き気味である。
    「発酵の話はもう聞いたか?」
     沙依香が揚げたての納豆揚げ餃子を勧めながら訊く。挽き肉にタレと辛子で味付けした納豆と青ネギを入れて餃子の皮で包み、揚げたものだ。パリっと揚がっていて美味しそう。
     ノリオが頷くと
    「あらゆる食品の加工にはきちんとした理由がある。さりとて苦手なものもあろう。そういう時は避けるのではなく、美味しく食べる方法を探すとよい」
    「そうだとも」
     それをワルゼーが受けて、
    「ノリオ、カレーライスは好きかね? 我にも納豆嫌いの友人がいたが、カレーと混ぜることにより見事克服したぞ。スパイスの香りで納豆の匂いが中和される上、粘りもカレーのアツアツで緩和されるそうな。どうだ、素敵な工夫であろう?」
     差し出された皿には、咲哉の新鮮納豆が添えられた大盛りカレー。スパイシーな香りが食欲をそそる。
    「実は俺も納豆がイマイチ苦手でな」
     ケイネスが苦笑混じりに、
    「発酵についてもう少し詳しく話させてもらうとな、人間含む生物は、酸素を吸ってエネルギーを作り、生きとるよな。じゃけど、生物には酸素吸わんでも生きてるものがある。それを嫌気呼吸という。その結果できるのが発酵なんじゃ」
     難しいが、憧れのヒーロー(風)にノリオは必死についていこうとしているよう。
    「なんかスゴイじゃろ? だから納豆は腐っているわけじゃなかよ」
     おもむろにテーブルに置かれたのは、納豆のお好み焼きだ。火を通すことで粘りも抑えられるし、ソースで匂いも和らぐ。
    「普通のお好み焼きと変わらんよ?」
     論より証拠とばかりに、ケイネスはぱくりと食べて見せる。
    「そうとも、発酵は偉いんだ!」
     そう言って瀝が出したのは納豆ピザ。オリーブオイルで軽く炒めた納豆をチーズとベーコンと共に、生地に載せて焼き上げた。チリソースも効いている。粘りはチーズに紛れるし、ソースとバジルで納豆臭もカバーできる。
    「ノリオ、ヒーローたちの司令官はトシ食ってっけど誰より強いだろ? 進化で熟成、それが発酵、つまりパワーアップアイテムだ! それを手にして弟子は師を越えて、真のヒーローになんのサ!」
     びみょーな例えだが、勢いと熱意は伝わっているようで、ノリオの鼻息が荒い。
    「さあ、俺のは和洋中揃った納豆定食だ!」
     淼は3品をテーブルに並べた。和は、ネギとワカメの味噌汁に納豆を入れた伝統の納豆汁。洋は納豆チーズ焼き。炒めたベーコンを円形に整え、ひきわり納豆を載せて真ん中に卵を落とし、ミックスチーズをかけて蓋をして蒸し焼きにする。卵が半熟になったら千切ったレタスの上に盛りつけて完成。黄身とチーズと納豆をよっく混ぜて食べると、絶品のコラボになる。トーストに載せてもよい。中華は、チャーシューとネギ入りの納豆チャーハン。納豆を炒める前にサッと水洗いしておくのがコツだ。見事にパラパラに仕上がっている。
    「みなさんお若いのに、お料理上手ね。どれも美味しいですし、体にも良さそうです」
     豆田先生は関心しきりで次々と味見しているし、K8納豆嫌い代表の司も、
    「あ、これなら食べられる。これも美味しい。ノリオくん、イケますよ?」
     と、一生懸命仲間の料理を食べて見せているのだが、ノリオはまだ箸が出ない。
     その時。
     げふう。
     すっかり影の薄かった納豆仮面が、納豆臭のげっぷを盛大に鳴り響かせて立ち上がると、
    「ふん、その悪ガキには、やはり力業で教え込まないと、納豆への理解は及ばんようだな?」
     手元にもやもやと納豆糸をチャージし始めた。
    「いかん!」
    「させるか!」
     灼滅者たちは納豆仮面に攻撃を阻止するべく飛びかかり、またノリオと先生の盾になる。
    「そうやって無理強いしとったら、余計嫌われるのわからんのか、お前さんは!」
     ケイネスはねばねばにもひるまず怪人の腕を押さえつけ、淼は、
    「おい、ノリオ、腐ってるとか屁理屈こねてねぇで、男なら納豆が嫌いだってハッキリ言っちまえ!!」
     後ろから羽交い締めにし、
    「そうだ、嫌いだという自覚から……不利な状況から諦めず挑戦し、克服しようとする勇気を持て」
     咲哉は脚に必死でしがみつきながら、あくまでクールぶって。
    「その勇気こそ、悪に挑むヒーローに通ずる。俺たちキッチンエイトは癖のある食材に料理という技で挑み、工夫を重ねて美味しく昇華させた。ノリオよ、君も納豆という強敵に挑んで、俺たちの仲間にならないか?」
    「そうだぞ、ノリオ! 偽物ヒーローにゃ仕置きが必要だ」
     そこへ、ちゃっかり怪人抑えには加わらず瀝が前に出、シャシャっとポーズを決め、ビシーッとノリオを指さして。
    「そして今、必殺技を決められるのは、ノリオだけだ! お前こそ新生キッチンナイン!」
    「お……俺が……」
     ノリオが腰を浮かせてきょときょととテーブルに並んだ料理を見回す。納豆イヤンな気持ちと、ヒーローに認めてもらいたい気持ちの間で葛藤しているのだろう……しかしとうとう意を決したように、揚げ餃子を掴んでダバっと醤油につけると、口に放り込んだ。
     餃子を選んだのは、もっとも納豆が表面に現れていないからではないかと思われる。
    「ど、どうだ、私の餃子は?」
     豆田先生のカバーに入っていた沙依香が息せききって訊くと、ノリオは若干汗ばんだ顔でごくんと口の中のものを飲み込んで。
    「ちょ、ちょっとだけ納豆を感じたけど、これなら大丈夫!」
    「「やったあ!」
     灼滅者たちは敵を放り出して、飛び上がる。そこにシュタッとハリーがどこからともなく降りてきて、
    「ノリオくん、偉いでござる! さあ、ハンバーガーも出来たでござるよ」
     先ほど一緒に作ったハンバーガーを差し出す。
    「あ、ありがとう!」
     ノリオはバクッとかぶりついた。ノリオ的には納豆でないものを食べたかったのだろうが、ハリーは呵々大笑すると、
    「実はそれのパティにも納豆が入っているでござるよ!」
    「えっ?」
    「やられたな! でも2品も食べられたということは、我のカレーもいけるはずじゃ。試してみい!」
     ワルゼーが笑いながらノリオの肩を抱き、カレーの皿を引き寄せる。
    「俺のも食ってみてくれよ」
    「俺のが先じゃ!」
     灼滅者たちはわいわいとノリオを囲む。先生も嬉しそうで、このまま納豆パーティに突入しそうな勢いだ……と、ガタリと窓の方で音がして振り向くと、納豆仮面がこそこそと退出しようとしている。
    「きょ……今日のところは勘弁してやるが、また納豆の悪口言ったら、すぐに来るからな! 私には、ちゃーんと聞こえるんだからな!!」
     超情けない捨て台詞を残して、怪人は消えた。
    「やったなノリオ、悪者を追っ払ったぜ!」
     瀝がバシっとノリオの背中を叩く。
    「これでお前もヒーローだ!」

    作者:小鳥遊ちどり 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2014年10月6日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 1/キャラが大事にされていた 4
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