野良犬の意地

    作者:霧柄頼道

     学校帰り、少年は近くの公園へと小走りに向かっていた。
     最近、少年にはひそかな楽しみがある。それは公園にいる野良犬達に餌をやることだった。
     捨てられたり逃げ出したり、行き場のない野良犬達の面倒を見ることは友達のいない少年にとっての生き甲斐であり、こっそり給食の残りをくすねては公園へ通う毎日。
     今日も隠れている野良犬達の顔を見ようと、少年が公園の植え込み側から目にしたものは。
    「な、なんだあれ……!」
     普段少年とふれあっている野良犬達と、見覚えのない別の野良犬達が激しく争い合っている光景だったのである。
     争うといっても知らない野良犬達がほとんど一方的に公園の野良犬達を襲う形で、爪で引き裂き、地面に叩きつけ、一匹ずつ追い詰めては容赦なく息の根を止めているのだ。
    「や、やめろよ……!」
     世話をしてきた野良犬達が死んでしまう。そんな焦りを覚えた少年は恐怖を押し殺して走り込む。
     しかし、足下にどさりと血まみれになった野良犬が倒れてきて息を呑む。
     顔を上げると、ひときわ体格の大きな片目の犬が少年を睨み据え、周囲の犬達を蹴散らしながら飛びかかってくる。
     数分後、その公園に残っているのは何匹もの野良犬達のむくろと、少年の死体だけだった。
     
    「近頃、野良猫や野良犬が眷属化する事件が起きている。理由は不明だが、ダークネスが関わる以上はぜひともお前達灼滅者に解決してもらいたい!」
     神崎・ヤマト(中学生エクスブレイン・dn0002)が告げて、集まった灼滅者達へ説明を始める。
    「事件が起きるのはとある小学校近くの公園だ。ここには無害な野良犬達が群れを作って細々と暮らしていて、そこへ眷属達がやって来て皆殺しにしちまう。おそらく縄張りを広げるために攻め込んで来たんだろうが、その野良犬達を世話していた少年までもが巻き込まれて命を落とす。さらに放置しておけばこの眷属達による被害は増える一方だろう。なんともしても食い止めなきゃならねぇな」
     少年がやってくる前に先んじて公園へ向かい、一般人や野良犬の避難誘導をして眷属達を待ち受け、撃破するのが基本的な流れとなるだろう。
    「それでは、私は野良犬達を安全な場所まで避難させます。勝手にどこかへ行っちゃわないようにしっかり遊んで……じゃなくて、見ててあげないと……」
     月曇・菊千代(中学生神薙使い・dn0192)の提案に、ヤマトも頷く。
    「一般人はともかく犬はちりぢりになられると危険が及ぶ可能性があるからな。敵の総数は八体。その中にはボス格の巨大な片目の犬がいて、こいつは他の奴と比べても攻撃力や防御力が高い。元々の戦闘力の高さに眷属化することで飛躍的に強化された感じだ。戦術もこいつを中心としたものになっているから気をつけろ」
     眷属化する前も多くの修羅場をくぐってきたのかチームワークが良く、連携もするという。野良犬だからと決して侮っていい相手ではない。
    「無事に眷属を倒せたら、少年と一緒に野良犬とふれあって来るのもいいぜ。少年もきっと喜ぶだろう。彼らのささやかな幸せをお前達が守ってくれると信じてるぜ!」


    参加者
    領史・洵哉(和気致祥・d02690)
    月雲・彩歌(幸運のめがみさま・d02980)
    雛本・裕介(早熟の雛・d12706)
    八守・美星(メルティブルー・d17372)
    瀬河・辰巳(宵闇の幻想・d17801)
    御納方・靱(茅野ノ雨・d23297)
    日輪・戦火(汝は人狼なりや・d27525)

    ■リプレイ


     沈む西日に照らされ、ブランコやジャングルジムの影が長く伸びる公園へ灼滅者達は訪れていた。
    「……依頼内容。最優先事項は一般人、及び公園内の犬の確保。以降、出現する眷族の殲滅へシフト。……確認」
     ヒルデガルド・ケッセルリング(Orcinus Orca・d03531)が状況を整理し、怖じることなく公園へと足を踏み入れていく。
    「野良の眷属化とはきな臭いものよな、故に看過出来ぬ」
     人の被害に繋がるとなれば尚の事、と雛本・裕介(早熟の雛・d12706)は頷きつつ後に続く。
    「野良猫を慣らしているうちにいつの間にか飼っていた身としては、笑えない案件ですね……」
     うちの猫にも同じことがおきないといいのだけど、と心配しつつ月雲・彩歌(幸運のめがみさま・d02980)は公園へ王者の風を吹き抜けさせた。
    「何で急にこんな事件ばかり。背後で何が動いているんだ」
     嘆くように漏らしながらも、御納方・靱(茅野ノ雨・d23297)はプラチナチケットを利用して人々へ呼びかける。
    「公園設備に破損個所が見つかったとのことで、緊急に修繕が入ります。お引き取り下さい」
     王者の風との併用で、呼びかけられた一般人は大人しく歩き出す。
    「私も犬は好きだし、人に被害が出るなら尚更放っておけないわ」
     一方、エイティーンで変身した八守・美星(メルティブルー・d17372)は公園の中心に向かいつつ、DSKノーズで敵の侵攻してくる方向を感知して、そこから逆方向へ彼らを導く。
    「それなら僕は、敵の侵入に備えて警戒しますね」
     領史・洵哉(和気致祥・d02690)は眷属達の奇襲を防ぐため、美星が察知した方向へ立って見張りを始める。
    「の、野良犬……か。お、狼として……負けてられん……な」
     相手が敵であるならば勝ちたいし、弱い存在ならば守り抜きたいと、人狼としてのプライドが刺激されている日輪・戦火(汝は人狼なりや・d27525)もニホンオオカミへ戻り、積極的に野良犬達を探し始めた。
    「う……可愛い。もふりたい」
     ヒルデガルドや戦火達のおかげで茂みの奥に見つかった野良犬達に、瀬河・辰巳(宵闇の幻想・d17801)は抱きつきたくなる衝動を抑えながら餌で釣り出し、避難させにかかった。犬達は人に慣れているのか逃げ出すような事はせず、ニホンオオカミ姿の瑠乃鴉や霊犬のフロッケにも珍しい友達がやって来たぐらいの印象なのか、怖がらず一緒になってはしゃいでいる。
    「わわ、み、みんなあんまり好き勝手に動かないで」
     月曇・菊千代(中学生神薙使い・dn0192)も懸命に野良犬の集団を退避させようとしているのだが、遊び相手と認識されているのか近寄ろうとすればおちょくるように逃げられる始末である。
    「苦労しているようじゃな、月曇よ。これを預けるぞい。うまく活用してくれ」
     すると裕介が犬用のおやつと遊具を菊千代へ手渡す。菊千代はありがたく受け取り、それからはなんとかひとまとめにして誘導させていった。
    「今はここから離れてくださいね。すぐに、元の公園で遊べるようにいたしますから」
    「ハティ、スコル。この子達をお願いね」
     彩歌が集団について行けず、孤立しかけていた野良犬を菊千代達へ合流させ、美星の影業から生み出される狼達も、隙あらばてんでばらばらに散ろうとする野良犬達の先導に一役買っていた。
    「……これで、全員」
     ヒルデガルドは残っている個体がいないか公園を再度捜索した後、そわそわして今にも走り出しそうな犬に対して犬用ビスケットを与えて落ち着かせる。
    「他の一般人も皆離れて行ったようじゃの」
     霊犬の八房を連れた伏姫がやって来て、ヒルデガルドから犬達を引き継いで出口へと向かう。にあや悠も身体の弱い子供や老人を無事に公園外へ連れ出し、これで残っているのは灼滅者だけとなった。
    「……そろそろかな」
    「ええ、来ます!」
     靱が呟いた途端、視線の先に不審な影を認めた洵哉が緊迫した声で叫ぶ。
    「い、いよいよ……だな。準備は……できている」
     一般人が入り込まないよう、人型に戻った戦火が殺界形成を展開する。
    「眷属か……同じ犬なのに、倒さなければいけないなんて」
     動物好きなだけに辰巳も思うところはあるが、罪のない人々や動物に災厄をもたらす以上、容赦はしない。
     サウンドシャッターで公園の音を遮断すると同時、目前に片目を失った巨躯の犬が飛び出して来て、その後に続くように七体もの眷属が現れ、瞬く間に灼滅者達を取り囲んだ。


    「覇権を争って集団を率い、縄張りを拡大するなんてのは、お話の中だけにしておいてくださいな」
     彩歌は慌てず騒がず、包囲の薄い箇所を狙って斬りかかる。死角からの斬撃が眷属の一体を襲い、敵の輪が一瞬乱れた。
    「獣が群れて狩るは道理、じゃが主らを狩るは儂らよ」
     縦横に跳ね回る眷属を恐れず、その爪や牙をかわし、時には十文字槍でいなしつつ、逃げ遅れた敵へ瞬時に狙いを定めて刀を鞘ごと叩きつけ、爆発させてのける。
    「野良になったあげく眷属にされるなんてな……早く解放してやるよ」
     辰巳の張り巡らせた除霊結界が眷属達の足を止め、フロッケが突入して敵をかき乱し統率を鈍らせた。その間に洵哉が盾を生み出し、守りを固める。
    「連携なんて、させない……!」
     エイティーンを解除した美星が利き腕を巨刀へ変え、捕捉した眷属を真っ向から斬り倒す。
     一糸乱れぬ灼滅者達の動きに、奇襲がうまくいかないと見た片目の犬は距離を取って吠え声を上げる。と、眷属達の動きが即座に変化し、二匹ずつペアを組んだ防御寄りの陣形へと移行した。
    「……」
     指揮能力の高い片目の犬へ、ヒルデガルドは迷う事なく影喰らいを差し向ける。
     放たれた影に全身を覆い込まれて吠え声が配下達へ届かなくなり、敵の陣形は中途半端なままで終わる。おかげで余裕のできた靱がワイドガードを行使し、味方の防御を補強していく。
    「早い、な……。けど、まとめてなら……!」
     動き回る敵に惑わされず、戦火が強烈な回し蹴りを浴びせて吹き飛ばす。
     だが何体かは器用に受け身を取り、素早く反撃してくる。
    「ぬう……やはりそう、甘くはないのう」
     突撃する数体を押し返す勢いだった裕介だが、すべての攻撃はさばききれず紺の着流しにいくつかの裂け目が入る。のみならず、他の仲間にも眷属達の凶爪が届こうとした矢先。
    「ここは……抜かせません!」
     立ちはだかった洵哉がそれらを受け止める。ダメージはあるが、倒れるわけにはいかなかった。
     動きの止まった眷属達の背後を取り、彩歌が神霊剣で斬りかかる。狙い違わないその一撃は、無防備だった眷属の脳天から叩き割って仕留めていた。
    「くっ、犬は群れなす動物ではありますが、この群れは強いですね」
     一匹が倒れても怯む気配を見せない眷属達へ洵哉、裕介や辰巳が応戦する。こちらの攻撃が避けられる事もあるが、その隙を埋めるようにすかさずフロッケが追撃していく。
    「お願いね、ハティ」
     美星が解き放った影の狼、ハティがその角でもって眷属の胴体を斬り裂く。たまらず飛び退いたその眷属を、待ち構えていたヒルデガルドが無駄のない動きでとどめを刺した。
    「い、一撃が……重い」
     片目の犬にすり抜けざまに爪で引き裂かれ、妖冷弾で追い払ったはいいものの、戦火は膝を突く。
    「回復の手が足りないか……?」
     ただちに靱が祭霊光で傷を癒すも、見ればすでに仲間達の被害は大きくなりつつある。
     と、そこに公園の入り口から駆けて来る人影があった。菊千代である。犬達の安全確保を仲間に任せ、戦場へ戻ってきたのだ。
    「すみません、遅れました!」
     戦況を見るなり清めの風を使い、多少なりとも仲間の調子を楽にする。
     敵の数も当初の半分ほどに減り、戦いは佳境へと移りつつあった。


     夕暮れの中、公園を駆け巡る眷属達。その一角へ彩歌と裕介が斬り込み、敵をそれぞれ一体ずつ、地へ伏させる。
     中衛にいた眷属が遠吠えを発して灼滅者達を麻痺させるも、靱と菊千代が清めの風で体勢を持ち直させる。
    「行って、スコル!」
     美星が呼びかけると、角のない影の狼が地中から眷属を襲い、頭から飲み込んでいく。
    「フロッケ、今だ!」
     辰巳が影に包まれたその上からさらに縛霊撃で拘束し、飛びかかったフロッケが斬魔刀を突き込んで息の根を止めた。
     最後に残った配下の眷属を戦火の鬼神変が叩きつぶしたのを見届け、ヒルデガルドが片目の犬へ視線を飛ばす。
    「残敵、一」
     先ほどとは違い、今度は灼滅者達がボス格を囲い込む形となっていた。
     牽制のつもりで斬影刃を見舞うも、敵は全身の毛を逆立てる程度でこれといった痛手は見られない。それだけでなくすぐさまこちらへ飛びかかり、洵哉へとその巨体でのしかかっていった。
    「く……っ。リーダーが強いからこそのこの群れの強さでしょうか」
     洵哉は潰されまいと踏ん張って耐えるが、その首を食いちぎろうと片目の犬が大口を開ける。牙が伸び、そこから垂れる唾液が獲物の肉を求めてやまないようだった。
     けれどもその刹那、上空から全体重をかけて飛び込んだ裕介の拳が何十発も撃ち込まれ、そのまま敵の体躯を地面へめり込ませる。
    「どうした、押しのけられるなら押しのけて見せよ」
     にやりと笑う裕介の脇へ立ち、彩歌が燃えさかる炎弾を的確に叩き込む。
    「さすがに、硬いですね……!」
     ぎちぎちと鋼のような毛皮が弾丸を押し返し、火傷を負わせはしたが致命傷を与えるには至らない。片目の犬は目をむきながらバネ仕掛けのように身を跳ねさせると、彩歌と裕介を吹っ飛ばし、再び自由を手に入れた。
     片目の犬が天を振り仰ぎ、咆哮する。みるみる筋肉が盛り上がって傷をふさぎ、活力に満ちていくのが見て取れる。相手にとってもここからが本番のようだった。
     灼滅者達は死力を尽くして奮戦し、次第に片目の犬を追い込んでいく。戦火の妖冷弾が四肢を凍らせ、ヒルデガルドがフェイントを交えた斬撃で相手の呼吸を乱し、美星の影業から繰り出される狼達が次々と食らいつく。
    「まだ、持ちこたえて見せます……っ」
    「俺達の底力はこんなもんじゃない!」
     激烈な猛突進に対しては辰巳と洵哉がその身を挺して阻み、回り込んだフロッケが一撃を足していった。
     靱が祭霊光とワイドガードを使い分けて補助し、菊千代は仲間のバッドステータス解除に専念する。
     そうしてついに、ぐらりと片目の犬が傾いだ。血走った眼球、荒い息、止まらぬ出血。 体力の限界が来ているのだ。好機が巡って来たと、彩歌と裕介が肉薄する。
    「ガアアアァァッ!」
    「逃さぬよ」
     片目の犬が吠え、猛烈な勢いで跳躍しようとした。瞬間、放たれた裕介の鬼神変がその背を打ち据え、地へと墜落させる。
    「これで!」
     彩歌の裂帛の気合いを込めた渾身の神霊剣が、もがく片目の犬を硬質の毛皮もろとも一刀の下に叩き斬っていた。
    「ガァアア……アァ」
     全身から鮮血をほとばしらせた片目の犬はしばらく手足をばたつかせていたが、己の死期を悟ったのかほどなくして抵抗をやめ、がくりとうなだれると力なく横倒しになり、ゆっくりと消えていった。


    「いくら眷属化してしまっていたとはいえ、動物を攻撃するのは気分が良くないです。もう起きないといいのですが……」
     武器を収め、彩歌達灼滅者は息をつく。後味が決していい訳ではないが、巧みなコンビネーションに翻弄されながらも誰も倒されずに勝利できたのだ。
    「周囲に隠れている敵もいないようね」
     美星がDSKノーズで付近の調査をしていると、保護していた野良犬達を毛だらけになった伏姫達が連れて戻って来ていた。ずっと遊んでいたためか野良犬達は緊張する様子もなく、こちらを見ると元気よく吠えて走ってくる。
    「犬の負傷、損害なし。任務完了。撤収の準備に……」
     怪我をした犬がいない事を確認したヒルデガルドが帰路につきかけた時、一匹の犬が鼻をくんくんさせて足下へまとわりついてくる。
    「……」
     仕方がないので残っていたビスケットを全部食べきるまで無言で付き合った。
    「あの、皆さん、よければこれを」
     菊千代が裕介から預かっていたおやつや玩具を犬と遊びたそうな面々へ受け渡す。その間も走り回る犬に代わる代わる体当たりを仕掛けられていた。
    「どれ、お主ら、これでも食べるか?」
     裕介がおやつを差し出し、集まって来た犬達の頭や毛並みを撫でる。大きく肉厚の手ではあるがその手つきはとても優しいもので、目元の緩んだ表情は穏やかだった。
    「わんこがいっぱいで幸せ」
     ビーフジャーキーをあげた途端に野良犬達に飛びかかられ、ほとんど視界を犬に埋め尽くされながら辰巳は感極まって呟く。目の前の犬を抱きしめると、柔らかな毛皮が服越しに身体をくすぐり、なんとも幸せな気分になる。フロッケもさっきの続きみたいに野良犬達と公園を駆け回り、戦いの疲れをまったく見せない。
    「やっぱり、こうして触れ合っているほうがいいですね」
     彩歌も子犬を抱きかかえたり、ボールを投げてキャッチさせたりと、存分に楽しんでいるようだ。すっかり野良犬に癒されたのか、眷属を倒した時に覗かせた憂いはもう見られない。
    「あれ、あんた達、一体……?」
    「あら、もしかしてこの子達の飼い主?」
     その時姿を見せた少年に、ものすごい勢いで犬をもふりまくっていた美星が何食わぬ顔で尋ねる。
    「いや、ええと、まぁ、そんなもんなのかな……?」
    「とても可愛い子達ね。遊ばせてもらっているけど、いいかしら」
    「う、うん。あんまりひどいことしなきゃ、いい、と、思う……」
     これだけ大人数の注目を浴びるのは初めてなのか、戦火並みにどもりながら少年は頷く。
     許しが出たと、ニホンオオカミ姿の戦火や瑠乃鴉が野良犬達との戯れに戻って行く。ごろごろと毛玉のように犬達と絡み合いながら、時には野生そのもののように機敏に動き回り、他種との交流を満喫しているようだった。
    「この子達、名前とかあるの?」
     美星の問いかけに、少年はかぶりを振った。
    「ううん。別に、飼ってるってわけでもないから……」
    「出来たらこの場所では無く、ちゃんと面倒を見てあげられる場所が出来ると良いですね」
     少し離れ、野良犬とふれあうにあや悠達を微笑ましそうに見守っていた洵哉が言うと、少年もさすがにずっと今のままではまずいと思ったのか、考え込んでいるふう。
     靱も同じように遠巻きに眺めていたが、ふと夕陽の下で駆ける野良犬達と倒した眷属達の姿が重なる。
     彼らだって、眷属化さえしなければ、あるいはこの中にまぎれて遊ぶ未来もあったのではないか。
    「野良犬になったのだって、もとは人間の無責任のせいだし、全てを救うなんて無理なことだと思うけど……」
     それでも逡巡せずにはいられない、と視線を落とした先、数匹の野良犬が舌を出して見上げていた。尻尾がちぎれそうなくらい振り回されているのを見るに、どうやら遊んでくれ、ということらしい。
    「やれやれ……」
     困ったように笑いながらも、靱はかがみ込み、犬達を嬉しそうに撫でてやるのだった。

    作者:霧柄頼道 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2014年10月12日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
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