オフィス街に佇むビジネスホテルの一室に、ひらひらとしたフリル衣装のアイドル淫魔が足を踏み入れていた。
「わあー! すっごいおしゃれ~!」
豪華な内装に見とれ、窓から見える夜景にため息を漏らし、はしゃぐ淫魔少女。
「気に入ってもらって何よりです」
その様子をにこやかに眺めながら、高級な背広に身を包んだ男が備え付けの電話をダイヤルしている。
「今、ルームサービスに食事を持って来るよう頼んだので、もう少し待っていただけると嬉しいですね」
「そんな、お食事まで出してくれるなんて……! いい人過ぎです~!」
男の紳士的な対応に淫魔少女は頬を赤らめていたが、ふと表情を真面目なものにする。
「あの、甘えついでにつけ込むみたいですごく悪い気もしますけど……ぜひ、ラブリンスター様に協力してくれませんか!」
「というと……?」
先の戦争で多くの仲間を失い、そのために新たな仲間が必要なのだと、淫魔少女は説明する。
「しかし私は元、ボスコウ様の配下……。敵であった私などが助力しようものなら、あなた達にも迷惑が及ぶのでは……」
「そんなことありません! ラブリンスター様はお胸も度量も大きなお方です! 元々どこの勢力の方だったとしても、分け隔てなく接してくれます! ……あの、もちろん私も、ですが……♪」
吸血鬼の男へじっと熱い視線を送る。
男はしばし沈思していたが、ふっと口元を緩める。
「……私のような者をお誘いいただき、とても光栄に思っています。真剣に考えさせていただくのでどうか、ラブリンスター様にはこうお伝え下さいませんか」
「な、なんでしょう! なんでも言ってください!」
安心しきった淫魔少女が身を乗り出す。男は穏やかに微笑んで少女へ腕を伸ばすと。
「……てめぇなんぞの下につくなんざさらさらゴメンだよバァァァァカ!」
「うぐっ……」
豹変した吸血鬼の手に首を掴み上げられ、テーブルの上へ投げつけられる。
「せっかく今夜はいい獲物を捕まえられたと思ったら、くっだらねぇ! 決めたぜ、てめぇは八つ裂きの刑だァッ!」
「や、やめて……!」
淫魔少女はたまらず部屋のドアから逃げだそうとした。
目の前でドアが開かれる。もしかしてルームサービスの人が開けてくれたのかと一瞬胸をなで下ろしかけたが、そこにいたのはホテルマンではなかった。
「おいてめぇら、構わねぇから殺ッちまえ!」
待ち受けていたのは数人の物々しい男達。吸血鬼の配下なのは明白だった。
「いや、来ないで……!」
「今夜は生かして返さねェよォォ~ん!」
吸血鬼の男が奇声を発すると、配下達が一斉に飛びかかり、淫魔少女の悲鳴を最後に部屋のドアは再び閉じられた。
「あ、みんな! 今日は集まってくれてありがとう!」
きらびやかな魔法少女姿の野々宮・迷宵(中学生エクスブレイン・dn0203)が、やって来た灼滅者達に両手を振って笑顔を見せる。
「聞いたことがある人もいるかもしれないけど、ラブリンスター配下の淫魔達が、他のダークネスに殺されてしまう事件が起きちゃうの!」
サイキックアブソーバー強奪作戦で減ってしまった戦力を回復させるために、各地の残党ダークネスを勧誘して仲間に引き込もうとしているが、うまくいかずに殺されてしまう、これはそんな事件なのだという。
「淫魔の人達には戦争の時の恩もあるし、予知しちゃった以上放っておくのもどうかなって思って、みんなに説明しているの。それでなくてもダークネスを倒せるチャンスは見逃せないしね!」
灼滅者達が頷くと、迷宵はくるりと回転してポーズを決める。
「淫魔の子が勧誘しようとしている相手は元ボスコウ配下の吸血鬼! 一見誠意ある態度で相手を騙し、襲う時になって本性を現す女の子の敵だねっ」
多数の強化一般人を従えて行動しており、今回はルームサービスへ電話する振りをして配下を呼び出し、淫魔少女の退路をふさいだのである。
「淫魔の子が吸血鬼を説得している最中に攻撃を仕掛けると、武蔵坂学園に勧誘を邪魔されていると勘違いさせちゃうかも知れないから、突入のタイミングには気をつけてね」
それでなくても真正面からでは目の前を吸血鬼、後からやって来た吸血鬼の配下に挟まれる形になるので、まずい状況になってしまう。
「でも、逆に集まってくる配下を先回りしてやっつけちゃえば相当楽になるはずだよ!」
淫魔少女と吸血鬼がいるのはホテル三階奥の部屋。配下達はホテルのあちこちで吸血鬼の指示を待っており、各階からエレベーターを利用してやってくる。そこで灼滅者達が三階エレベーター前で待ち構えて配下を倒せれば、挟撃される心配もなくなるのだ。
「もしくは配下達が全員部屋に集まってから一網打尽にしちゃう手もあるけど、それだと淫魔の子が巻き込まれちゃうかもしれないから、あんまりおすすめはできないかな。後、彼女は戦闘が始まると一目散に逃げ出すから戦力には数えられないよ」
個別撃破の作戦を取るなら、一般人対策も重要になるだろう。物音や気配に気がついた客が顔を出す場合もある。ホテル内の廊下は広いとは言えないし、もしも吸血鬼までが出て来てしまったら大混乱は避けられない。
「逃げ場のないホテルだから、下手に外へ逃がすより部屋でじっとしててもらうのが一番かも。強化一般人の数は六人で、全員がディフェンダーだよ! 自身にエンチャントや相手に怒りを付与するサイキックを使うから、いわゆる肉壁って奴? 吸血鬼はキャスターで、使うサイキックも攻守そろったものみたい! 元々の能力も高いから、油断しないようにね!」
踊るように軽くステップを踏んでから、迷宵は灼滅者達へ向けて胸の前で手を握る。
「淫魔の子も一応ダークネスだから、助けないっていう選択肢もあると思う。でも私は同じアイドルとして、あの子を助けてあげて欲しいな!」
迷宵がやっているのはただのアイドルのコスプレではないか、というツッコみを呑み込み、灼滅者達は頷きを返すのだった。
参加者 | |
---|---|
和瀬・山吹(エピックノート・d00017) |
向井・アロア(お天気パンケーキ・d00565) |
星野・えりな(スターライトエンジェル・d02158) |
ユエファ・レィ(雷鳴翠雨・d02758) |
音鳴・昴(ダウンビート・d03592) |
八神・菜月(徒花・d16592) |
北条・葉月(独鮫将を屠りし者・d19495) |
船勝宮・亜綾(天然おとぼけミサイル娘・d19718) |
●待ち伏せを待ち伏せ
「ラブリンスター自体わたしたちのこと完全に信頼してる気しないからホントはどーでもいいんだけど、まあ借りくらいは返しとかないとね」
ホテル三階へと向かうエレベーターの中で、八神・菜月(徒花・d16592)が眠たそうに口を開くと、向井・アロア(お天気パンケーキ・d00565)も相づちを打つ。
「男と簡単にホテル入るってさすが淫魔だよねー。まーでも、さすがにかわいそうだからとっとと逃がして助けてあげよ」
「淫魔の方は、助けてもらった事あるっつっても、味方って訳でもねーしなぁ……。別にここでさっくり成仏(?)とかしてもらってもいーんじゃねーのと思うけど」
まぁ、助けたいって奴が多数なら、文句言われねー程度に動いとくかね、とけだるげに呟くのは音鳴・昴(ダウンビート・d03592)だ。
「ラブリンスターさんには大変なご縁とご恩と借りがあります。私が学園祭の時にラブリンスターさんにお願いしたから……。ラブリンスターさんたちを大変な危機にさせてしまいましたし、だから今も淫魔の子が1人、危機にあるわけで……。だから……私は絶対に彼女を助けたいです」
星野・えりな(スターライトエンジェル・d02158)は責任を感じているのか、真剣な眼差しだ。
うん、と和瀬・山吹(エピックノート・d00017)も頷きを返す。
「……淫魔と言っても女の子に一方的に暴力を振るうっていうのはどうかと思うな」
その視線の先でエレベーターのドアが開く。三階に着いたのだ。
「この前の戦争で受けた恩は返す。今度は俺達が身体張る番だ」
北条・葉月(独鮫将を屠りし者・d19495)が廊下へ踏み出す。そのためにもまず、この階に宿泊している客が廊下へ出てこないようにしなければならない。
「ダークネスを助けたい……とは、思うしない……けれど三竜包囲陣の時には力を貸していただいたゆえ。淫魔さんが結果的に助かるのなら、それはそれで……」
一般人への対処は仲間に任せ、ユエファ・レィ(雷鳴翠雨・d02758)は吸血鬼のいる部屋や三階の間取り、非常階段の位置などを把握するために走り出す。
「それじゃぁ、始めましょうかぁ。急がないと、配下さん達が来ちゃうかもですぅ」
急ぐという割にはのんびりした口調の船勝宮・亜綾(天然おとぼけミサイル娘・d19718)を始めとし、灼滅者達はペアの仲間と客のいる部屋を回っていく。空き部屋はあらかじめロビーで聞いていたため、その行動には無駄がない。
プラチナチケットでホテル従業員を装ったえりなと山吹がドアを叩き、開かれた隙間から亜綾が王者の風を吹き込ませ、照明の点検をするから出ないようにとほんわか強めに言い聞かせる。
「すいませーん、ホテルの者ですけどー」
別の班でも、アロアが同じようにプラチナチケットで客を呼び出し、葉月が王者の風を使う。
「申し訳ありませんが、危険ですのでしばらく廊下へは出ないようお願い致します」
「スプリンクラーの点検するんで」
すべての部屋を訪ねた事を確認し、彼らは再びエレベーター前へ集結する。
「そろそろ来るかな」
ユエファから三階の情報を共有した菜月達がエレベーターを見ると、ちょうど三階に到着したという表示がされていた。時間通りなら、この中にいるのが配下達という事になる。
「んじゃ、手はず通りとっとと片付けるか」
昴達四人の班はエレベーター側の死角へ身を潜め、山吹がサウンドシャッターで周囲の音を遮断する。
「取り敢えず、ヴァンパイアの方にはこの間売ってもらった喧嘩のお礼……しっかりする、ね」
エレベーターのドアが開かれ、配下達が驚いた顔をするのと同時、対峙したユエファ達は戦闘態勢に入った。
●VS肉壁
「めんどいし、てきとーに省いて行くよ」
もたもたしていては淫魔が倒されてしまうだろうし、異変を感じ取った吸血鬼が部屋の外へ出て来ては大惨事なのだ。
そんな面倒極まりない事態を避けるため、あくびをかみ殺した菜月が隠れ場所から螺穿槍で突っ込んでいく。
「なっつがああ言ってるし、巻いていくからねー!」
アロアがスターゲイザーでその後に続き、ナノナノのむむたんがしゃぼん玉で援護する。
「Are you ready?」
スレイヤーカードを解放した葉月が、挟み撃ちの形になって戸惑う配下達へ肉薄し、孤立した一体めがけてフォースブレイクを叩き込む。
「三下共は大人しくすっこんでろ。ここから先は、一歩たりとも行かせねぇよ」
「ま、そーいうことで」
歌声を響かせる昴の横から霊犬のましろが飛び出していき、動きの止まった配下の一体へとどめを刺す。
「下っ端は下っ端らしく、隠れていればいいのにね?」
逃げ場を失った配下達へ、山吹が容赦なくフリージングデスで凍り付かせる。
相手の反撃はビハインドのお父さんが押さえ込み、えりなが殺人注射器を抱えて突進し弱った敵を確実に仕留めた。
「私は命中率を上げるのでぇ、その間烈光さん、がんばってくださいねぇ」
亜綾が予言者の瞳で敵の行動を予測する中、霊犬の烈光さんが懸命に攻めかかる。
「淫魔さんのところには行かせる、ない、ね……」
ユエファが紅蓮斬で配下を斬り倒し、残る敵は半数ほどになっていた。
だが相手も互いに防御し合い、そうやすやすとは倒れてくれない。
それでも菜月とアロアが息のあったコンビネーションで一体を撃破し、サーヴァント達の総攻撃でまた一体を討ち取る。
「これでラス一、あーめんどくせ」
セリフはたるそうだが鋭い動きで昴が最後の配下を蹴り倒すと、息つく間もなく灼滅者達は奥の部屋へとって返す。
ここでも二つの班に別れる事になっていた。亜綾、山吹、えりな、ユエファが先行して突入し、残りのメンバーは交換しておいた連絡先に合図があるまで待機する計画である。
「そこまでですぅ!」
時間はちょうど二分を経過しており、ドアを思い切り開けると目の前で淫魔が攻撃を食らって叩きつけられるところだった。
「おい、てめぇら遅かったじゃねーか、こいつを逃がさねぇように殺ッちま……あ?」
吸血鬼と四人の目が合い、吸血鬼がぽかんと口を開ける。
「……何だ、てめぇら?」
「うぅ……」
淫魔がうめきながら顔を上げると、そこに山吹の手が差し出された。
「大丈夫かい? ……動けるなら、逃げて?」
「突然ですが助けに来ましたぁ、後は任せて下さいねぇ」
吸血鬼が呆然としている隙にどかどかと部屋へ入り込み、山吹とえりなが淫魔を守りに、亜綾とユエファがそれぞれ予定通り部屋の奥へ陣取る。
「何者だ、まさか灼滅者べほっ?」
「今は逃げて! ラブリンスターさんの為にも♪」
メディックにポジションを変更したえりなが淫魔へ心のこもった優しげな歌声を響かせ、何かしゃべりかけた吸血鬼を烈光さんとお父さんがぶっ飛ばして間合いを離す。
その瞬間を見計らってユエファが携帯を握り、菜月達へ合図を出す。
「おまたせー、もう大丈夫だよ。もう、女の子なんだから簡単にホテルの部屋一緒に入ったりしないの」
部屋へ踏み込んだアロア達が淫魔へ声をかけ、うろたえる吸血鬼をたちまちの内に包囲して見せた。
淫魔も突然の事態に吸血鬼以上の驚きを見せていたが、フリル衣装で歌い踊るえりなを始め灼滅者達に害意がないのが分かると、ぺこりと頭を下げる。
「あ、ありがとうございます! 助けていただいて……」
「ココは俺らが引き受けるから、さっさと逃げろ!」
「はい、このご恩は忘れません!」
開かれた道を縫うようにして、淫魔がこれから戦場となるだろう室内をドアへ駆けていく。
「くそ、逃がすかよォ!」
「それは、こっちのセリフ、ね」
追いかけようと踏み出す吸血鬼の顎をユエファの抗雷撃がかち上げ、再び床の上へ沈ませる。
そして淫魔は戦線を離脱、代わりに残ったのは闘争の構えを取る灼滅者達。
「ぐ……! てめぇら、俺の手下どもはどうしたぁっ?」
「知らね、寝過ごしてんじゃねーの?」
「……ぶ、ぶっ殺してやるぁ!」
わざとらしくとぼける昴に、吸血鬼が怒髪天を突く。
だがその鬼気迫る表情を見ても菜月はどこまでも冷めた態度。
「借りは返したし、後はこいつ倒して終わりか」
そして予言者の瞳を使用した矢先、吸血鬼がわめきながら襲いかかって来た。
●キレちまったぜ
「見えてた。つまんないね」
逆上したあまり単調そのものなその攻撃はすでに予想できており、無駄に動きたくない菜月は軽く身をひねっただけで吸血鬼の紅蓮斬を躱すと、その体勢から妖冷弾を浴びせかける。
「ぎゃっ!」
たまらず後ずさる吸血鬼。その間にアロアがワイドガードを張り巡らし、亜綾のフリージングデスが敵の足下を凍てつかせた。
「くそ、小細工を……!」
「小細工が嫌なら、きついのを受けてみるかい?」
はっと顔を上げた吸血鬼の脳天へ、山吹の神霊剣が振り下ろされる。盛大に顔面を床へ打ち付け、吸血鬼は言葉にならない叫びを上げた。
「いくら淫魔相手でも、男の風上にも置けねぇ。去勢してやるから、せいぜい覚悟するんだな!」
葉月がギターをかき鳴らして強烈な音波を送り込み、敵をよろめかせる。
その後ろでえりなが配下との戦いで回復しきっていない味方のダメージを、暖かな歌声で癒していく。
さらにユエファの制約の弾丸が吸血鬼をその場へ縛り付け、間髪入れず昴が歌い上げるディーヴァズメロディが相手の膝を突かせた。
その上でサーヴァント達が四方からしゃぼん玉に霊撃、斬魔刀で攻め立て、戦況は灼滅者達の優位に傾くかと思われた。
しかし、そこはさすがの吸血鬼。即座に立ち上がるや否や自分を中心に銃弾の嵐を放ったのである。
「死ね死ね死ねやァァァ!」
銃撃が集中したのは前衛だ。アロアやユエファ達が仲間をかばうも、さばききれなかった一撃が身体のあちこちに突き刺さる。
どうだとばかりに勝ち誇る吸血鬼の懐へ葉月が姿勢を低くして肉薄し、スターゲイザーで無防備な脛を払う。
「ぐえっ」
「ちょいと浮かれすぎて、足下疎かになってんな」
「皆さん、すぐに回復します!」
「しゃーねぇ、俺もそっちに回ってやるよ」
えりなと昴、二人のサウンドソルジャーによる治癒の合唱が響き渡り、仲間達の痛手を和らげる。
「烈光さん、まだまだ倒れてもらったら困りますよぉ?」
除霊結界で吸血鬼の足止めをしつつ、烈光さんには大事な役目があるのだからと亜綾が微笑みかける。
「痛たた……。さっきはよくもやってくれたね」
むむたんのふわふわハートで体力を取り戻したアロアが、縛霊撃で吸血鬼を掴み上げてぶん投げる。
宙を舞う敵を山吹の影縛りが捉え、そのまま痛烈に叩きつけた。
バウンドする敵へユエファが接近、紅の斬撃で胴体を打ち抜いて見せる。
「灼滅者ごときが生意気なんだよッ!」
バレットストームが前衛を襲う。けれども一度目の攻撃で見切った数人はなんとか回避に成功した。
「もっと予測を超えた行動できないの?」
予言者の瞳を重ねて使っていた菜月が無数の弾丸をかいくぐって近づき、螺穿槍を深々と突き立てる。
数段格が上の吸血鬼だが、あらかじめ配下達を倒し、最善の連携を取り、相手の冷静さを奪った上で、ようやく五分以上に渡り合う事ができていた。
●歌と咆哮
「てめぇら……コケにしやがって……」
吸血鬼が禍々しい赤い霧を立ちこめさせる。すると相手の傷がみるみる癒えていき、加えて力までが増していくよう。これだけダメージを与えてもなお余力があり、ヴァンパイアという種の底知れなさを感じさせた。
敵の攻撃に対し、えりな、昴、むむたん、烈光さんの四名はひたすら回復に徹している。
誰かが倒れればその途端一気に拮抗が崩れる、そんな危うさが相手にはあった。
「いい加減倒れてくれると嬉しいんだけど」
菜月が狙い定めた妖冷弾を撃ち込む。手足を氷で覆われながらも、吸血鬼はなおも怯まず攻勢をかけてのけた。
狙われたのは山吹だ。エンジェリックボイスで自らを回復させていた隙を見て、吸血鬼が斬りかかったのである。
「死ねぇや!」
今しも敵の凶刃が届く、というところで、割って入った影があった。ましろである。
真正面からの痛撃を寸前で受け流すも、ましろの疲労は隠しきれない。
「ありがとう、助かったよ」
「気にすんな。……ましろ、少し下がってろ」
昴がぶっきらぼうに言って、よりいっそう癒しの歌を高らかに。
こちらもきついが、相手もまた消耗はあるはず。
「もう一押しだぜ」
そう、全体の戦況を見渡して判断していた。
「どうした、ずいぶん辛そうじゃねぇか!」
「ぬかせェ!」
葉月が挑発しながらオーラキャノンを放ち、吸血鬼の体力を削る。相手の長身がぐらりと傾ぐが、油断して攻撃の手を休めれば待つのは敗北だ。
「そろそろ終わりにするよろし!」
刹那、ユエファの射出した制約の弾丸が吸血鬼の腹部へ着弾する。
けれども吸血鬼は怒号し、無理矢理体勢を立て直すとユエファへ紅蓮斬を食らわせた。
体力がほとんどもっていかれるも、えりなの心を震わせる調べがその身体をかろうじて支える。
「もう少しです、頑張ってください!」
「りょーかい!」
お父さんの支援を受けつつアロアが吸血鬼を掴み上げ、頭からこれでもかと叩きつけた。
「げぼぉっ」
吸血鬼が白目を剥く。弱っているのは明らかで、灼滅者達も力を振り絞る。
「さっきのお返しだよ」
穏やかに告げた山吹だが、その剣筋はどこまでも容赦がなく、隙だらけの吸血鬼を斬り裂いて吹き飛ばす。
その時、吸血鬼が意識を取り戻し、怒りに双眸をかっと見開いた。
「てめぇら残らずぶち殺して――!」
「行きますよぉ、烈光さん」
相手のセリフも気にせず言い放った亜綾が烈光さんをむんずと掴む。
そーれと言わんばかりに見事な投球モーションで烈光さんを吸血鬼へ投げつけ、その白いもふもふで視界を覆った。
「な、何も見えな……!」
「必殺ぅ、烈光さんミサイル、ダブルインパクトっ」
何か諦めたような表情の烈光さんを引きはがそうともがく吸血鬼をよそに、亜綾がバベルブレイカーのジェット噴射を全開にする。そのまま全力で突貫、バベルブレイカーの切っ先を吸血鬼へどかんとぶち込む。
「ハートブレイク、エンド、ですぅ」
一呼吸置いて、ためらいなくトリガーが引かれる。
直後、巨大な爆発が起き、ホテルの一室を閃光が包んだ。
「あー、終わった終わった」
心底だるそうに菜月が武装を解除する。他の仲間も同じようにして、休んだり寝転がったり、思い思いに戦いの余韻に浸っていた。
「無事に勝てて良かったです……」
「元ボスコウの配下とはいえ、やっぱ腐っても吸血鬼か」
「とても、強かた、ね」
えりなや葉月達が真面目な顔で仲間の無事を喜ぶ中、爆発に巻き込まれて天井に張り付いていた烈光さんが落ちて来て、満面の笑顔の亜綾に抱き留められた。
「お疲れ様ですぅ、烈光さん」
作者:霧柄頼道 |
重傷:なし 死亡:なし 闇堕ち:なし |
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種類:
公開:2014年10月27日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
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得票:格好よかった 2/感動した 0/素敵だった 1/キャラが大事にされていた 1
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