暴走少年力士

    ●放課後の昇降口にて
    「そうだ、赤ペンで血みたくしよっと」
     某小学校の放課後の昇降口。6年生の靴箱の前で、5人の悪ガキがクラスメイトの上履きにいたずらしている。いや、いたずらというよりは、幼稚なイジメと言うべきか。
    「カビパンも入れちゃえ」
    「うはは、それいいな」
     悪ガキ共は調子に乗って、靴箱に給食の残りのカビパンを突っ込んだ……その時。
    「なにやってるの?」
     昇降口に、変声期前の少年の、しかし落ち着いてハキハキとした声が響きわたった。
     ぎくりとして悪ガキ共が振り向くと、5mほど向こうの廊下から、堂々たる体格の少年がこちらをじっと見つめていた。
     大柄な少年は、5年生の押出・ハリマ。この学区では知らぬ者のない少年力士だ。5年生にも関わらず、県の小学生横綱なのである。
     しかも性格温厚にして誠実。友人にはもちろん、先生方の信頼も篤い。
     そんなハリマであるから、悪ガキ共の仕業を、
    「やめなよ、油性ペンは洗っても落ちないよ?」
     キッパリ注意した。
     悪ガキ共は顔を見合わせた。6年の悪ガキ共にとっては、清く正しく強いハリマは何かと腹立たしい存在だ。ハリマはすでに約170cm70kg、身体能力もハンパない。6年生といえど一対一では敵うはずはない。
     しかし今、ハリマは1人。こちらは5人。生意気な5年生をやっつける絶好のチャンス……!
    「う、うるせえな、5年のくせに!」
    「てめえ、生意気なんだよ!」
     悪ガキ5人は、一斉にハリマに詰め寄った。

     ――悪ガキ共が襲いかかってくる。
     身構えたハリマの奥底で、とても熱い何かが弾けた。
     弾けたモノは一瞬で彼の血管を通って全身に漲り、ふくふくと柔らかでふくよかな成長期の筋肉を、鋼のように硬く強靱に、そして凶暴に変化させた。

     5発の張り手が目にも止まらぬ速さで繰り出された。
     ガッシャーン、ドカーン、バリーン!
     すさまじい破壊音が響きわたり、そして一瞬後に。
     バタン、バタン、バタン……。
     並んだ靴箱が将棋倒しになっていく。
     悪ガキは5人共、ガラスや壁に頭を突っ込んだり、靴箱に押しつぶされたりして、動かない。
    「……どすこーい」
     その惨状の中心で、数秒前とは別人のように全身に筋肉を盛り上げた、まわし姿のハリマが、おもむろに四股を踏んだ。
     
    ●武蔵坂学園
    「アンブレイカブルに堕ちかけている、少年力士を救ってほしいのです」
     春祭・典(高校生エクスブレイン・dn0058)は、集った灼滅者たちに、単刀直入に切り出した。
    「場所は某小学校の昇降口、放課後です」
     生徒はおおむね帰宅してしまった後なので、幸いにして人気は少ない。
    「突然の闇堕ちなので、介入のタイミングが大事になります。6年生たちがハリマくんに敵意を持って詰め寄っていくのが闇堕ちのスイッチになっているので、そこまでは待たなければなりません。しかし同時にハリマくんに6年生たちをぶっとばさせないことが必要になります」
     予知通りに悪ガキ5人全員に大ケガを負わせてしまえば、闇堕ちが完成してしまうだろう。
     うーん、と灼滅者のひとりが考えながら、
    「襲いかかっていく悪ガキ共を、ハリマの直前で引き戻すとか、張り手くらう前にかっさらうとか?」
    「ええ、そんな感じでしょうね。もしくは皆さんが割り込んで、代わりにはたかれるとか」
     他にも手段がありそうだが、いずれにせよ介入時の役割分担等、作戦が必要だろう。靴箱の陰に隠れてタイミングを計り、忍び寄ろう。闇堕ちのスイッチが入る瞬間までハリマはただの小学生なので、ESPを使っても感づかれる心配は少ない。
     ハリマから6年生を離せたら、昇降口の前が校庭なので、ハリマをそちらにおびき出して、説得と戦闘を開始するとよいだろう。
    「アンブレイカブルだから、広い所で僕たちと勝負しろ、とか言うとついてくるかな?」
    「そう思います。学校を壊すことは彼としても本意じゃないでしょうし」
     頷いた典は、難しい顔で、
    「それにしても、闇落ちの仕方が奇妙ですよね……」
    「そうよね」
    「だよな」
     灼滅者たちも首を傾げる。
     ハリマ自身が黒い気持ちに囚われての闇堕ちではないのだ。むしろ正義感の発露がきっかけになってしまっている。
    「理由のない唐突な闇堕ちには、何か裏がありそうですが、元々ハリマくんは清廉潔白で温厚な少年です。堕ちかけて彼の本質が変わってしまうわけでもなさそうですし、説得は難しくないと思います……しかし」
     典は端正な眉を曇らせて。
    「もし、救出が叶わなかったならば……灼滅もやむを得ませんが」


    参加者
    巫・縁(アムネシアマインド・d00371)
    相良・太一(再戦の誓い・d01936)
    閃光院・クリスティーナ(閃光淑女メイデンフラッシュ・d07122)
    高倉・奏(二律背反・d10164)
    桜庭・遥(名誉図書委員・d17900)
    灰慈・バール(魂の在り方を問う彷徨いし者・d26901)
    饗庭・樹斉(沈黙の黄雪晃・d28385)
    鴨川・拓也(修練拳士・d30391)

    ■リプレイ

    ●昇降口で
    『そうだ、赤ペンで血みたくしよっと』
    『カビパンも入れちゃえ』
    『うはは、それいいな』
     悪ガキ共のそんな声に桜庭・遥(名誉図書委員・d17900)は、むずむずした様子で、
    「他人の靴にイタズラするなんてひどいです。でもここは我慢ですよね」
     仲間にたち囁いた。
     灼滅者たちは、6年生たちがいる靴箱から3列ほど離れた所に隠れている。
     そうそう、ここは我慢だぜ、と、巫・縁(アムネシアマインド・d00371)が、遥を宥めて、
    「まずは目の前の脅威を冷静に片づけなくてはな。それにしても、闇堕ちの根本的な原因が気になって仕方ないんだが。本人の意思に関わらず、半ば強制ってのがなぁ」
     ですよね、と旅人の外套を纏った高倉・奏(二律背反・d10164)が、
    「この変わった闇堕ち……また何か、ダークネスが良からぬことを考えてるんでしょうか」
     饗庭・樹斉(沈黙の黄雪晃・d28385)もこっくりと頷いて、
    「ねー、変な闇落ちだよねー……悪くないのに堕ちるって理不尽だよ。正しい事した人は報われなくちゃ! 絶対に助けないと駄目だよね!」
     閃光院・クリスティーナ(閃光淑女メイデンフラッシュ・d07122)も、仲間と同様に格闘少年少女たちの謎の闇堕ちに疑問を持ち、そして押出ハリマを救わなければと思っているが、
    「(一連の妙な闇堕ちの黒幕が、ケツァールマスクかもしれないという噂は残念ですわ……)」
     もちろん所詮ダークネスと割り切ってはいるが、ケツァールの興業に参加したことのある彼女としては、そうであって欲しくないと願う。
     その時。
    『なにやってるの?』
     凜々しい少年の声が響いた。
     そっと声の方を覗くと、小学生離れした大柄なジャージ姿の少年が立っている。
     一目でわかった。今回のターゲット、小学生横綱・押出ハリマだ。
    「うわー、おっきいなー」
     樹斉が感嘆して。
    「僕も5年生になったら、あのくらいなれるかなー?」
     一方、相良・太一(再戦の誓い・d01936)は、
    「む……ほら、いくぞッ。糞ガ……じゃなくて6年生の引き離しは打ち合わせ通りなっ」
     悔しさを隠しきれない様子で、ハリマに見とれる樹斉を促した。高校生の彼だが、子供っぽい私服を着ただけで、見咎められることもなく小学生メンバーと共に易々と潜入できたのが、何だか切ない。
    「(靴箱も、蛇口の高さも大して違和感ないって……べ、別に悔しくなんかないんだからねっ)」
     灼滅者たちはハリマから死角になる靴箱の逆側から、そーっと忍び寄っていく。
    『う、うるせえな、5年のくせに!』
    『てめえ、生意気なんだよ!』
     6年生たちが声を荒げるのを聞きながら、目配せを交わし、打ち合わせ通りの配置につき、靴箱の陰から6年生とハリマの様子を覗くと。
     詰め寄っていく上級生たちより頭一つ高いハリマが、一瞬のうちに更に一回り大きく膨れあがり、ジャージが弾け飛ぶように消え廻し姿になるのを、灼滅者たちは見た。
     闇堕ちの瞬間に息を呑みつつも、
    「行けっ!」
     8人は一斉にコンクリートの土間を蹴った。

    ●小学生横綱
    「下がってくださいっ!」
     鴨川・拓也(修練拳士・d30391)は6年生2人の腕をひっつかんで引き戻し、クリスティーナは最もハリマに接近していた者の襟首をひっつかむと、乱暴に後ろに投げ飛ばした。
    「えいやあっ! 悪さしてたんですから、このくらい文句は言えませんわよねっ?」
    「糞ガ……お前ら、どいてろっ!」
     太一は腕を掴むとぐるんと振り回して体を入れ替えて遠ざけ、遥は服を引っ張りながら、
    「お願いします、離れててください!」
     ラブフェロモンを発動した。
     遠ざけられた6年生の代わりに、素早く割り込んだ灰慈・バール(魂の在り方を問う彷徨いし者・d26901)、樹斉、奏、縁が張り手の餌食になった。とはいえさすがは灼滅者、人間用の攻撃では、せいぜい後ろによろめいたり尻餅をつく程度である。
    「君がハリマか」
     バールがサッと体勢を立て直しニヤッと笑った。
    「確かに力で対応するべき場面だったかもしれないが、本当に強い男は一睨みで相手を退かせるもんだぜ」
     ハリマは突然割り込んできた見知らぬ者たちに首を傾げたが、戦闘態勢は解かない。隙無く、ぐっと腰を落とし、拳を土間につき身構えて、
    「お兄さんたち、学校の関係者? 関係者以外は立ち入り禁止って、看板立ってたでしょう? もし不審者だったら、僕が容赦しないよ」
     目がギラギラと不穏に輝く。分厚く盛り上がった肩の筋肉の上の、顔つきも変わってきている。鼻息も荒く舌なめずりする表情は、あどけない小学生には似合わない。闘争本能を抑えられなくなってきているのだろう。
    「はやるなよ、横綱」
     太一が身軽に前に出て、
    「ここは俺たちには狭すぎる」
    「そうさ、お誂え向きの場所がすぐそこにあるじゃねぇか」
     縁が顎で校庭をくいっと指した。

     一方、危ういところを助けられた6年生たちは、遙がラブフェロモンで引きつけ、避難するよう言い聞かせている。拓也が付き添い、王者の風を使って、
    「最上級生らしく、身綺麗にしておきなさい!」
     などと、ついでに説教している声も聞こえてきた。

     樹斉が手を広げて、
    「こんなところで勝負したら、物壊しちゃうしさ」
     ててっと駆け戻ってきた遙も、
    「そうですよ、今のあなたの力では、ここだと大きな被害が出てしまいます」
     言われてハリマは筋肉モリモリの自分の体を眺め回し、
    「そうか……ボク、強くなったんだ。これなら中学生や高校生の先輩にも勝てるかな」
     ニイッと凶暴な笑みを浮かべ。
    「お兄さんたち、勝負してくれるの?」
    「ええ、校庭で、でしたら」
     奏が笑顔で答える。
    「わかった、じゃ校庭に行こう!」
     戻ってきた拓也がパアン、と掌を拳で叩いて。
    「押忍! 一手ご指南願います!」

    ●夕焼けの戦闘
     人気のない夕焼けの校庭で、灼滅者たちは、更にじわじわと体を大きくしていくように見えるハリマと対峙した。
    「ちゃんとご挨拶してませんでしたね」
     遙がぺこりと頭を下げ、
    「はじめまして、わたしたちはあなたを止めにきた『正義の味方』です。まずは落ち着いて話をきいて……きゃっ!?」
    「挨拶なんていらないよ、勝負しよう!」
     台詞半ばでハリマがつかみかかってきた。しかし遙の前に、奏が素早く体を入れて庇う。
    「させません!」
     ドォン!
     重たい音を立てて、奏は校庭に投げ落とされた。
     スッと現れた奏のビハインド神父様がカバーに入り、もうやられたのか、というように奏の頭をこづいた。そこに拓也が、
    「高倉先輩ッ、今回復します! 乾坤九星八卦良し!」
     素早くSCを解放するとシールドリングをとばして、
    「ハリマさん、力に呑まれてはいけません!」
     拓也の言うとおり、ハリマは突然強くなった自分に酔っているようで、
    「わあ、僕って、すごい力持ちなんだな!」
     暴力への忌避感はみじんもなく、むしろはしゃいでいる。まずはハリマに説得を聞く気持ちにさせなければならない……。
    「強いなハリマ、将来は横綱か? 来い! 俺はバールだ!」
     バールが挑発するように叫んで杭を撃ち込み、庇われた遙は回復中の奏を飛び越えるようにして、杖を叩きつけて魔力を流し込む。続いて、連続攻撃によろめいたハリマに、子狐がむしゃぶりついた。樹斉だ。
     獣型の彼は人語を話せないので、接触テレパスを試みるが、
    「(ハリマさんっ、力士なら自分の力を律し……わあっ!)」
     思い半ばで、投げで振り払われてしまう。
     縁が樹斉を助け起こしながら、戦神降臨を発動し、
    「おいハリマ、相撲ってのは、神聖なものじゃなかったのか!?」
     一喝した。
    「そうですわ、相撲は神事、心技体を重視する格闘技。優れた力士であるあなたに、衝動のまま戦うことは似合いませんわ!」
     クリスティーナも叫んで炎のハイキックを見舞う。そこに太一が槍を構えて突っ込みわき腹を掠ったが、柄をがしっとハリマに掴まれ押し戻された。
    「何だよ、さっきのこと怒ってるの? ボク悪いことしてないよ、6年生が悪いことしてるの注意したら、かかってきたんだよ?」
     力への陶酔だけでなく、エゴイスティックな正義感にもとりつかれてしまっているのだろうか。
    「悪いことに怒るのは正しいよ?」
     説得のために一時的に人間型に戻った樹斉が。
    「でも、大けがさせるのも、悪いことでしょ?」
     言われてハリマは目をしばたいた。
    「押出少年」
     回復成った奏が立ち上がって。
    「君は心優しい少年なのでしょう。だからさっきみたいな悪さが許せない。しかし衝動に身を任せてはいけません。思い出してください、君は何のために強くなろうとしているのか。少なくとも悪ガキをなぶるためではないでしょう?」
     ハッ、とハリマが息を呑み、考え込む。
    「そうだ……土俵の外では、命の危険が無い限り全力を出してはいけないって、コーチに何度も言われてたっけ」
     師の言葉を思い出すうちに、剣呑な目の光が幾分落ち着いたように見えた。全身を覆う不格好なほど盛り上がっている筋肉も、微妙に萎んだかもしれない。
    「……ボク、どうしたんだろう?」
     ハリマは困惑して灼滅者たちを見回した。やっと自分が異常な状態にあり、異形になりかけていると自覚したらしく、小学生らしい不安が覗く。
     遙がいたましそうに、
    「気づいてしまうと怖いですよね、その力」
    「でも、あなたなら大丈夫ですよ。その力を制御することができるはず!」
     拓也が力強く頷いて、
    「自分たちとの戦いで、その糸口を掴んでください」
    「戦って……いいの?」
    「ああ、でも暴力衝動に屈するんじゃねえぜ」
     縁が青い瞳で微笑んで。
    「お前が、自分の中の衝動と戦うんだ。俺たちはその手伝いをする」
    「えっと……取組だと思えばいいのかな?」
    「それは良い心構え」
     奏はスッと身を沈めて。
    「君の答えが見つかるまで、お姉さんたちが全力でお相手して差し上げます。先手、参りますよ!」
     奏が『聖戦への誘い』に炎を載せて蹴り込んだのを皮切りに、灼滅者たちは一斉にハリマに飛びかかっていく。
    「背がでかけりゃいいってもんじゃねーぞーこらー!」
     太一が八つ当たり気味に叫びながら低く懐に飛び込んでいき、がしっと廻しをつかんで引き込むと、下手投げを喰らわせた。土をつけたハリマに、すかさず縁が『斬機神刀アスカロン』を振るい、クリスティーナが星を散らして両足を優雅に揃えたドロップキックを見舞う。
    「力士に足技ばかり、無粋でごめんなさい?」
    「い……痛いよ」
     ハリマがよろりと起きあがる。その目にはまた剣呑な光が宿っている。集中攻撃を受けて、また闘争本能に支配されようとしているのか……?
    「(だめっ!)」
     そこに樹斉が飛びついた。獣型に戻っているので口は利けないが、小さな拳を打ち込みながらテレパスで必死にメッセージを伝えようとする。
    「(小兵でも意地はあるんだよ! 力士がどうあるべきか思い出して!)」
     しかし、
    「痛いって言ってるだろ!」
     ハリマの叫びと共に、樹斉は激しい突き押しにふっとばされてしまった。
    「ハリマさん、わたしたちを信じてください!」
     遙が利き腕の刃で斬り込みながら必死で叫び、
    「戻ってこい、ハリマ! 君の力、優しさ、闇に埋もれるのはもったいないぞ!」
     バールが鋭い刃で太腿に斬りつけると。
     びくりとハリマは動きを止めた。すうっと瞳に人間らしい光が戻ってくる。
    「もう少しだけ、辛抱してくださいませね!」
     クリスティーナがエアシューズに炎を纏わせると、後ろ向きから勢い良く体を回転させ顔面に蹴りを入れ、
    「心を強く持って! 君のその大きな体は、誰かを傷つける為にあるのでは無いのだから!」
     奏が縛霊手で抑え込み、
    「絶対に殺させやしないし死なせやしねぇさ!」
     すかさず縁がオーラを宿した拳を叩き込んだ。
    「……痛いよ、苦しいよ……」
     血まみれのハリマは天を仰いで苦しげに喘ぐと、大きく息を吸い込んだ。
     叫ぼうとしている……シャウトか!?
     その時、
    「ハリマッ、よかったら武蔵坂にくるか? 君より強い力士がいるかもしれんぞ!?」
     バールがタイミングよく遮った。
     人間型に戻って拓也に回復を受けていた樹斉が受けて、
    「それがいいよ、力と向き合っている人がいっぱいいるし、きっとたくさん学べるよ!」
    「お前はもう幕下の器じゃない。武蔵坂という幕内で、横綱をめざせ!」
     太一も威勢良くあおる。
    「強い人がいっぱいいる学校なの……?」
     打ちひしがれていたハリマの目に、希望の光が宿る。
     クリスティーナが頷いて。
    「そうですのよ。あなたより強い人も大勢いますし、修練の場もたーくさんありますわ」
    「そんな学校があるんだ……ボク、行きたいな」
    「ああ、大歓迎だぜ」
     バールが拳にオーラを纏わせながら。
    「だから、もうちょっとだけ我慢してくれ!」
     素早く狐に戻った樹斉が縛霊手で抑え込んだところに、バールと奏が左右から飛びかかり、ダブルで拳の連打を炸裂させ、勝負どころと見て、メディックの拓也も夕暮れの空に赤い逆十字を出現させた。
    「己の闇を恐れよ、されど恐れるな、その力!」
     どすん、とハリマの大きな体が校庭によろめきたおれる。しかしその体は戦闘開始から見ればずいぶん縮んでいる。
    「すぐにキメてやるからな!」
     ラストバトルと見て、クラッシャー陣が殺到していく。太一の雷を宿した拳が顎にめり込み、クリスティーナの膝蹴りが星を散らして決まる。力一杯叩きつけられた遙と縁のロッドが、眩しいほどの光を放って……。
     目が眩むような光が消えた後。
     夕暮れの校庭に倒れていたのは、大柄な、けれどあどけなく安らかな表情をした少年だった。
    「押忍! ありがとうございました! よき修練となりました!」
     拓也が横たわるハリマに、深々と頭を下げた。

    ●新たな仲間
     少し後。
     ハリマは無事に目を覚ました。灼滅者たちは一斉に安堵の息を吐き、縁はメガネをかけ直した。8人はよってたかって話しかけ回復を施しつつ、助け起こす。
    「お帰り、強い意志を持つ男よ」
     バールに言われ、ハリマは照れて笑う。
     太一は精一杯胸を張り、
    「お前はこれから後輩なんだからな、先輩たる俺を上から見下ろすのはやめたまえ」
     無理。
     拓也はハリマの肩を抱くと、沈む寸前の夕日を指さして。
    「ハリマ先輩、夕日の校庭で殴り合った以上、自分たちはもはやマブダチですからね!」

    作者:小鳥遊ちどり 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2014年11月1日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 6/感動した 0/素敵だった 1/キャラが大事にされていた 5
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