白樺林の肉塊

    ●晩秋の白樺林にて
     紅葉が散り始めた山の中腹で、カサコソと落ち葉の音を立てながら、大きな肉の塊が転がっている。腐肉の塊としか呼びようがないおぞましいそれは、転がりながら少しずつ少しずつ大きくなっている。
     そしてそれを、負けず劣らずおぞましいモノ……腐臭を漂わせたアンデッドが3体、よろよろと追いかけている。
     アンデッドが山に持ち込んだのは、肉塊の芯となった霊石だった。石は戦場跡であるこの山中を舐めるように転がり、残存していたダークネスの残骸を集めて肉塊となったのだ。
     そして、とうとう肉塊は白樺林の中でぴたりとその動きを止めた。
     白い木肌と、黄色い落ち葉。秋の青空の下で、肉塊はくぱあと大きな口のように割れ、内外が裏返るようにじわじわと形を変えていく……。

     山に夕焼けが照り映える頃、白樺林の中には一人の男が立っていた。
     男は、骸骨のようにやせ細った体に、白の着流しを纏っている。あまりにやせているため、年の頃はわからない。老人にも見えるし、若者にも見える。長い髪は乾ききった灰色、落ちくぼんだ眼窩の奥の瞳は不吉に赤い。
     しかし男は隻眼であった。左目があるはずの場所には『智』の文字が浮かぶ玉が填め込まれている。
     肉塊から生まれたばかりの男は、じっと傍らに控えていたアンデッドを見やり、
    「……参ろうか」
     カサカサした声で言い、色の悪い唇でニィと笑って歩き始めた。
     
    ●武蔵坂学園
    「スキュラがやっかいな仕掛けを遺していったことは、皆さんご存じですよね」
     難しい顔で、春祭・典(高校生エクスブレイン・dn0058)が切り出した。
     スキュラのやっかいな遺産……それは、八犬士が集結しなかった場合に備えて『予備の犬士』を創りだす仕掛け。彼女の放った数十個の『犬士の霊玉』は、人間やダークネスの残骸を少しづつ集め、新たなるスキュラのダークネスを産み出すものなのだ。
    「その霊玉をアンデッドが所持して、あちこちの戦場跡に現れてることも、もうご存じですよね?」
     集った灼滅者たちは頷いた。すでに仲間達が何人も似たような事件に出動している。
     しかし、何故アンデッドが霊玉を所持しているのかは、まだ不明である。
    「僕が予知したのは、山中の白樺林で生まれるスキュラダークネスです」
     典は地図を出して、関東地方の某山を示した。
    「この山の中腹に、白樺の天然美林があります」
     このダークネスは誕生後しばらくは力も弱いままだが、時間が経つにつれ『予備の犬士』に相応しい能力を得ることになる。
    「肉塊から生まれた直後のダークネスを待ち構え、短期決戦で灼滅することが大切です。もし戦いが長引いてしまったら、闇堕ちでもしない限り勝利することはできなくなります」
     灼滅者のひとりが手を挙げた。
    「短期決戦て、具体的には?」
    「15分を目途にしてください」
     15分。短くはないが、決して安全とは言いきれない時間だ。素早く、確実に、灼滅できる作戦を立てなければ。
    「スキュラダークネスは生まれてすぐアンデッドを連れて、観光道路のこのあたりに出てきます」
     典は地図で白樺林の中を通る道路を示した。道路脇に広い駐車場がある。
    「幸い夕刻なので、もう観光客などはいません。駐車場のトイレに潜んで、ターゲットの出現を待ち伏せてください」
    「あのさ」
     灼滅者のひとりが考えこみながら。
    「肉塊から生まれるのに、時間かかるみたいじゃん? その間に捕捉して灼滅しちゃうのは無理なの?」
     典は首を振って。
    「生まれる場所は広い林の中、ピンポイントでは分かってませんので、見つけられなかったら、みすみす逃がしてしまうことになります」
    「なるほど……」
     生まれた直後を狙うしかないのか、と灼滅者たちは納得した。
    「このダークネスは、スキュラによって『八犬士の空位を埋めるべく創られた存在』です。仮に力で八犬士に及ばなかったとしても、野に放てばどれ程の被害を生み出すか……それに、スキュラダークネスを利用しようとしている者がいるのかも……」
     典はぶるりと身震いして。
    「紅葉のピークは過ぎたとはいえ、雪が降るまでにはまだ間があり、山にはまだハイカーが大勢やってきます。どうか大事件が起きる前に皆さんの力で、闇に返してやってください!」


    参加者
    ギィ・ラフィット(カラブラン・d01039)
    雨谷・渓(霄隠・d01117)
    風真・和弥(無能団長・d03497)
    アレクサンダー・ガーシュウィン(カツヲライダータタキ・d07392)
    白鳥・悠月(月夜に咲く華・d17246)
    リアナ・ディミニ(アリアスレイヤー・d18549)
    丸目・蔵人(兵法天下一・d19625)
    鳳翔・音々(小悪魔天使・d21655)

    ■リプレイ

    ●深秋の山で
    「幾ら手持無沙汰とはいえ便所の中で物を喰うのは、ありもしない心の傷を抉られているような……」
     アレクサンダー・ガーシュウィン(カツヲライダータタキ・d07392)は、微妙に不本意そうに、持参の菓子を仲間たちに配る。
     彼らが潜んでいるのは、白樺林内の駐車場のトイレの中。
    「腹ごしらえは大事だから、ありがたくいただくっすよ」
     ギィ・ラフィット(カラブラン・d01039)は礼を言うと、ぱくりとドーナツに齧り付き、
    「うーん、せっかくお菓子もあるのに、お勤めで来たんじゃなければ、白樺林を堪能出来たんでやしょうに」
     ですよね、とリアナ・ディミニ(アリアスレイヤー・d18549)もクッキーの金色の包装紙を剥きながらぼやく。
    「こんな状況でなければ紅葉を楽しめたのでしょうが、スキュラの置き土産、一体いつ尽きるのでしょうね……」
     風真・和弥(無能団長・d03497)が頷いて、
    「やれやれだよな。しかし、スキュラダークネスって不気味な存在だよな。本当に命や自我があるのか、動く死体に近い存在なのか……すると八犬士ってのは一体何だったんだ……?」
     今の時点ではっきりと言えるのは。と雨谷・渓(霄隠・d01117)が。
    「犬士の後釜、予備だとしても放ってはおけないということです。此方の力が及ばなくなる前に脅威の芽を摘み取らねば」
     確かにみすみすに時間を与え、本来の力を取り戻させてしまったら、灼滅は大変困難になるだろう。
     可愛らしくリスのようにドーナツを囓る鳳翔・音々(小悪魔天使・d21655)が、
    「スキュラダークネスだけじゃないですよ、あちらこちらで事件の嵐。一体何の前触れなのやら」
     渓が首を傾げ、
    「大体、何故アンデッドが霊玉を?」
     ギィがドーナツを飲み込んで。
    「変っすよねえ。いかにも裏で糸を引いてるヤツがいそうっす……セイメイとかカンナビスとか。さっさとに灼滅するにこしたことは無いでやしょ。さ、ぼちぼち意識を戦闘に切り替えやしょうか」
     うむ、と食べ終えたクッキーの包み紙を丁寧に畳みながら白鳥・悠月(月夜に咲く華・d17246)が、
    「時間に限りがあるし、引き締めていかないとな。全員無事に帰れるように死力を尽くすぞ」
     灼滅者たちは素早く栄養補給を済ませると、あとは無言で窓や出入り口から外の様子を窺う。
     会話が途絶えれば、山中は深閑とするばかり。この時間には通る車もないので、聞こえてくるのは秋風に白樺がざわめく音のみだ。
     静かな山の夕暮れ……しかしすぐに。
     ぞわり、と灼滅者たちの背中に悪寒が走った。気を乱す何者かの接近を、鋭敏な感覚が捕らえたのだ。
    「こっちだ」
     丸目・蔵人(兵法天下一・d19625)に小声で呼ばれ、気配の方向の窓……白樺林の散策コースに続く斜面の、簡素で急な丸太階段が見える窓に、8名は気配を忍ばせて集った。
    「(……来た)」
     よたり、よたりと降りてくる腐りかけた脚が、白樺の間から見えて来た。まず姿を現したのは2体のアンデッド。灰色の腐った皮膚を垂れ下がらせ、ゆっくりと階段を降りてくる。
     そしてその後に白い着物姿が現れた。長い髪が垂れ顔は見えないが、スキュラダークネスだろう。足取りがぎこちないのは、生まれたばかりでまだ自分の体を使いこなせていないからか。
     なるほど、生まれた直後がチャンスというのはこういうことか、と灼滅者たちは納得する。ダークネスが自らの身体と能力を使いこなせるようになる前に、というわけだ。
     無言のまま、灼滅者たちは突入のタイミングを計る。SCを確認し、またタイマーや時計を用意してきた物たちはそれらをセットする。
     スキュラダークネスの後ろにも、アンデッドが1体見えてきた。後ろの守りか――これで、敵の全体像が見えた。
     8人の視線が絡み合い――。
    「(――行くぞ!)」
     灼滅者たちは、隠れ場所を飛びだした。

    ●タイムバトル・スタート
     アレクサンダーは愛車スキップジャックに騎乗すると階段を強引に駆け上って、まっしぐらにスキュラダークネスを目指した。そのすぐ後ろを、
    「起動(イグニッション)!」
     解除コードを叫びながら和弥が追いかける。灼滅の順番はアンデッドからだが、まずディフェンダーがダークネスの注意を引きつけておこうという作戦だ。
    「わしはアレクサンダー。貴様の名は?」
     アレクサンダーはシールドを振り上げ、2体のアンデッドの隙間から白い着物を殴りつけようと……。
     ぐじゃ。
    「ぬ……」
     思いっきり叩きつけたシールドからは、肉の潰れる嫌な感触。割り込んだアンデッドの腕を潰したのだ。
    「くそう!」
     すぐ後ろからは、和弥が毒づく声がした。彼のシールドも盾役に阻止され、ボスには届かなかった。
     クラッシャー陣も奇襲を狙って駆け上ってくるが、滑りやすく狭い階段、なかなか会心の当たりというわけにはいかない。
     しかしそんな混戦模様の中で、渓のドグマスパイクが威力を発揮し、先頭のアンデッドは胴体を撃ち抜かれ、残り数段の階段を、ギシャアアア、と水っぽい悲鳴を上げながら転がり落ちた。
    「よし!」
     そこに、蔵人が聖剣に白銀の焔を載せ、トドメを刺そうと斬りかかった……が。
     ぶわあああぁ。
     接近を待っていたかのように、アンデッドは黄色い毒ガスのような息を吐いた。残り2体も追随するように臭い息を吐き散らす。
    「落ち着け! 焦るな、まだ時間はある!」
     悠月がランタンを掲げ、悪臭に目をしばたきながら癒やしの風を吹かせた。清らかな風にガスが吹き散らされていく。
    「こりゃ広いところで囲まないと……アンデッド、邪魔っすね」
     ギィが悔しげに呟きながら、駐車場の真ん中まで仲間を促し、黒い逆十字をオレンジ色の空に輝かせる。アンデッドは、胴に穴を空けられたヤツも含め、ずるりずるりと追いすがってくる。
     肝心の隻眼のダークネスはというと、相変わらずアンデッドのガードの真ん中で、当惑した表情で灼滅者たちを見つめている。行動に出る様子は無い。まだ様々なデータが脳内で整理されておらず、戦闘の渦中にあることを理解できないのかもしれない。
    「(今のうちに、盾を除く!)」
     灼滅者たちは気合いを入れ直し、アンデッドへと飛びかかっていく。

    ●3分頃
    「3分経ったっす!」
     音々の螺旋槍が2体目のアンデッドを塵にしたところで、ギィが叫んだ。
     じわりと焦りの気持ちが湧く。大分損傷しているとはいえ、まだアンデッドが1体残っている。アンデッドは主の盾に徹しているし、ダークネス自体は回復は行ないはじめたが、まだ攻撃はしてこないので、こちらのダメージも少ないのは幸いだが、それでも焦れる気持ちは抑えられない。
    「とにかくこいつを……行きます!」
     リアナが飛び出し、アンデッドの胸のど真ん中にぶっすりと『斬穿』を捻り込んだ。槍は胸を貫通し、柄まで刺さる。しかしアンデッドは汚い汁を垂らしながら大口を開け、槍を握っているリアナの腕に噛みついた。
    「うっ……!」
     慌てて槍を引き退いたが、華奢な腕からがっぷりと肉が持っていかれている。
    「すぐに回復してやるぞ!」
     すかさず悠月がシールドリングを飛ばすと、失われた肉がみるみる盛り上がった。
     その間に攻撃陣は胸を穿たれたアンデッドに殺到していた。ギィは炎を刃に載せて斬りこみ、蔵人は光と化した聖剣を魂を破壊せんと突き刺し、音々と渓は氷弾を撃ち込んだ。
     一方、和弥とアレクサンダーは、キャリバーに機銃掃射をさせながら、攻撃陣の集中攻撃を受けている3体目のアンデッドを回り込み。
    「今度こそ!」
     シールドバッシュの挟み撃ちは、やっと隻眼のダークネスに届いた……しかし。
    「……嗚呼。そうか、理解した」
     ダークネスは小揺るぎもせずに、かさかさと乾いた落ち葉を踏みつけるような声で、初めて言葉を発した。そして消滅しようとしている最後のアンデッドを見やり。
    「無様な……」
     骸骨のような青白い顔が、固唾を呑む灼滅者に向けられた。夕日に照らされ不気味に光る『智の玉』も。
    「その方らは、灼滅者と言うようだな」
    「生まれたばかりなのに、なんで知ってるのです?」
     音々が思わず問うと、ダークネスは白茶けひび割れた唇でわずかに嗤い、
    「我の血肉となった、大勢の滅びた者共が教えてくれた。その方らは我らが倒すべき敵であることをな」
     淡々と、しかし宣戦布告のように堂々と告げたダークネスの手に、大鎌が現れた。黒光りする大きな刃は、血塗られたようにぬめぬめと光り……。
    「……そして、我には戦う力があるということもな!」
    「うあっ!?」
     鎌の一閃が、前衛を鋭く薙いだ。

    ●7分頃
     少し前、音々のタイマーが5分を知らせた。盾役を滅ぼした後は、ダークネスにも攻撃が届くようにはなっている。
    「……よし!」
     蔵人が短く歓声をあげた。彼は先ほどから執拗に智の玉を狙い続けており、やっとそこに攻撃が至ったのだった。左の眼窩が炎に包まれ、パキリと熱にガラスが割れるような音がした。
     しかしダークネスは無造作に掌で炎をたたき消した。そしてその掌を光らせながら黒い穴と化した眼窩に当てると……。
    「……うッ」
     玉が復活していた。
    「そ……そういうものなのか、その玉は?」
     蔵人は驚愕し、ダークネスはニタリと嗤い。
    「所詮この玉は我を生みだすための道具にすぎん。今となっては単なる体の一部よ」
     体の一部であるから、回復もできるのか。
    「残念だったな、小童!」
     大鎌が夕空にザッと掲げられた。
    「!」
     蔵人は跳び退ったが、虚空から無数の刃が現れ、後衛を襲った。
    「させねえ!」
     和弥が飛び込み音々を守ったが、蔵人と悠月は鋭い刃に切り裂かれ、和弥の背中の『風の団』のエンブレムも血に染まった。
    「よくも!」
     怒りの叫びと共にギィが踏み込んで『剥守割砕』を振り下ろし、リアナの影の刃が白い着物を血に染める。音々はぺこりと頭を下げると、
    「和弥さん、ありがとうっ、そしてごめんなさいですっ」
     倒れた和弥を飛び越え、槍を全力で捻り込み、渓は拳にオーラを宿して敵の懐に入り、連打を見舞う……が。
     連打の幾つかは確かに決まった。しかし同時に大鎌が、脇から渓の胴体をまっぷたつにしそうな勢いで。
    「!?」
     渓は腹と口から血を流しながら倒れた。
    「渓殿!」
     自分も傷ついている悠月が駆け寄ろうとするが、渓は苦しげにそれを止め、
    「ゆ、悠月さんは後衛と和弥さんを……自分は集気法で」
     とはいえ、自力のヒールだけでは治せそうもない深手、アレクサンダーがスキップジャックにカバーさせながら手助けする。
    「大丈夫か?」
    「ええ、何とか……体力を半分近く持っていかれたような気がしますけどね」
     ここから先、ダメージが蓄積した状態で鎌をまともに喰らえば、一撃で戦闘不能ということもあり得るだろう。しかも敵の力は増していくのだ。
     渓は2人分の回復で何とか立ち上がり、その時、ギィが、
    「9分っす!」
     と悲鳴のような声で告げた。

    ●11分頃
     先ほど、渓の携帯が10分経過を知らせた。
     肉を切らせ骨を断つ……灼滅者たちのダメージを恐れぬ戦いぶりで、さしものスキュラダークネスもかなりの傷手を受けていた。しかし血のにじむ唇が、嗤い。
    「……肉たちが、戦い方を教えてくれるのだ。そろそろ回復役を潰せとな!」
     ぶうん!
     大きく振られた鎌から発せられた禍々しい波動が後衛に至る……そこに。
    「間に合え!」
     悠月の前に、アレクサンダーとジャックポットが回り込んだ。主従はガシャンと大きな音を立て倒れたが、大事なメディックは守られた。
    「すまぬ!」
     悠月は素早く蔵人と音々に癒しの風を吹かせる。
     その間に前衛陣は、素早く敵に接近した。
    「姑息な!」
     和弥が背中をとると怒りの声を上げて黒き刃を見舞い、その声と刃に振り向きかけた隙を狙って、
    「所詮まがい物の八犬士っすよ」
     ギィが炎を載せた斬艦刀で斬りつける。リアナは敵の目を眩ますように動き回りながら歌声を響かせ、渓は力を込めて杭を撃ち込む。回復なった蔵人と音々も、ロッドを叩きつけて魔力を流し込んで。
     集中攻撃を受けたダークネスはいったん膝をついたが、鎌を支えによろりと立ち上がり、灼滅者たちを睨めつけた。着物は破れて血塗れだが、その隻眼から力は失われていない。
    「12分……しぶといっすね」
     ギィが時計を読み上げた。
     ダークネスは灼滅者たちから目を離さず左手を光らせた。そしてその掌を流血している腹の傷に当てる。
    「回復……ッ」
     リアナが唇を噛む
    「(あと3分で倒せるのでしょうか? 無理ならば、いっそ……)」
     敵も弱っているが、仲間たちも皆ボロボロだ。みすみす仲間を失うくらいなら、いっそ自分が。
     リアナがそう決心しかけた瞬間。
    「ダメですよ、リアナさんっ!」
     音々が肩で息をしつつも、ボーイソプラノを張り上げた。
    「まだ、その時じゃないですっ」
    「そうだ。回復せざるを得ないというのは、弱っている証拠だろう」
     悠月も言い、
    「みすみす回復させてる場合か!」
     蔵人が叫んで両手にオーラを収束させながら殴りかかり、それを皮切りに灼滅者たちはラストバトルに、最後の力を振り絞る。音々は寄生体の刃で傷口を狙い、渓は恐れ気もなく接近して拳を振るう。ギィは斬艦刀を力一杯振り抜き、メディックの悠月も勝負処と見て、ロッドが埋め込まれた『銀翼弓』で魔力を叩き込み、リアナも気持ちを立て直して槍を穿つ。
    「お……のれ……」
     回復を邪魔されたダークネスだったが、それでもまだ大鎌を振り回す力を残していた。群がるクラッシャーを振り払うように黒々とした波動が発され……。
    「止める!」
    「させるかぁっ!」
     ディフェンダーがギリギリの体力を賭けて、クラッシャーの盾となった。薙ぎ倒された2人と1台のうち、1台が消滅した。
    「スキップジャック!」
    「待て!」
     愛車を消された怒りで突っかかっていこうとするアレクサンダーを、和弥が止めた。
    「回復しないと、お前まで消えるだろ!」
     アレクサンダーは悔しそうに頷き、互いに回復を施しながら叫ぶ。
    「骸を束ねて出来た外道め! 主無き今、どこへ向かう気だ!! 灰は灰に、塵は塵に、骸は骸に返るがいい!」
    「ええ、在るべき場所に送り返してあげましょう!」
     その声に後押しされて、クラッシャー陣がもういちど敵に肉薄していく。渓の杭がよろめく脚を砕き、とうとうアスファルトの上に倒れ込んだダークネスに、リアナの影が伸び、血まみれの着物と共に色の悪い皮膚をずたずたに切り裂いて、
    「紛い物の八犬士ふぜい、叩き伏せるっすよ!」
     ギィの炎が、目を眩ませるほど目映く、その乾ききった体を燃え上がらせて――。

     生まれたてのダークネスは『智の玉』と共に、夕暮れの白樺林に、塵となって還っていったのだった.

    作者:小鳥遊ちどり 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2014年11月8日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 7/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 2
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