伊豆は断然わさびソフト!

    ●伊豆半島・某滝にて
     中伊豆、有名観光地である某滝のドライブインでの出来事である。
    「お待たせ~、抹茶ソフトだよ」
     秋たけなわとはいえ、天気の良い日にはまだまだソフトクリームが恋しい。ドライブ中らしいカップルが、緑色のソフトをいちゃいちゃと舐め始めた……と、思ったら。
    「ぶっはっ! 何これっ」
    「辛~いっ!」
     彼氏はのけぞり、彼女はげほげほとひとしきり咳き込んだ後、
    「ひっどーい、これわさび味じゃない! 私が苦手なの知ってて食べさせたの!?」
    「ち、違うよ、ちゃんと抹茶って……そっか、売り子が間違ったんだ! 待ってて、文句言って取り替えてもらってくる」
     彼氏は男のメンツをかけて憤然と立ち上がった……と、その目の前に。
    「あっははははは!」
     高笑いを響かせながら、エプロンにアイスクリームコーンのような三角帽子の女の子が立ちはだかった。
    「あっ、君はソフトクリームの売り子さん! ひどいじゃないか、抹茶とわさびを間違えるなんて!」
    「ふっ、よく見破ったわね。でもあんたが悪いのよ、伊豆で抹茶ソフトなんて頼むから」
    「お茶は静岡名産でしょ?」
    「静岡全域がお茶じゃないわよ、伊豆はお茶よりわさび! 断然わさびわさびわさびなのっ!!」
    「そんなに連呼しなくても、伊豆がわさびなのはわかったから、1つ抹茶にしてくれよ。苦手な人もいるんだからさ」
    「ふっ、もう遅いわよ。このドライブインの抹茶ソフトは、私の力で全てわさびに変えてしまったわ!」
    「ええっ!?」
     広いドライブインなので、ソフト売店が3軒もあるのだが、それを全てわさびに変えてしまったとは!
     言われてみれば、そこかしこから観光客の、なにこれ辛い! ツーンときた! 等という悲鳴が上がっている。
     売り子はアハハハ、と、やらしく高笑いして。
    「次は修善寺で、抹茶をぜーんぶわさびに変えてやるわよ! そしていずれは伊豆全域の抹茶ソフトをわさびに!!」
     
    ●わさびソフト試食中
    「あ、美味しい」
     春祭・典(高校生エクスブレイン・dn0058)の反応に、水瀬・瑞樹(マリクの娘・d02532)はどや顔で。
    「でっしょー!」
     わさびソフトは瑞樹が伊豆から持参したものだ。どうやって溶けずに運んだのかは、ツッコんではいけない。
    「へえ、辛みっていうより香りが効いてる。ピリっとアクセントになるんだ。こちらは……あ、いいですね。バニラにおろしわさびが添えてある」
     わさびソフトには、わさびがクリームに練り込んであるタイプと、バニラソフトにおろしたてのわさびを添えるタイプがある。
     今回の依頼に関わってくるのは、練り込んである緑色のタイプである。
     ふたりはソフトクリーム舐めつつ伊豆の地図を広げた。
    「わさびソフト怪人に堕ちかけているのは、伊豆山・葵(いずやま・あおい)さんという地元の女子高生です」
    『いず・わさび』に非ず。
    「彼女は滝のドライブインで売り子のバイトをしてるんですが、伊豆なのに抹茶ソフトが一番人気なことに、常々不満を抱いてたんです」
    「その不満が嵩じて、闇堕ちしちゃったんだね」
     子供や辛いものが苦手な人は食べられないので、致し方ないことではあろうが。
    「彼女に接触するのは、カップルに高笑いを浴びせ、修善寺方面に向かいだした頃が良いでしょう。ドライブイン付近は、なにせ行楽シーズン、人が多すぎて戦いに向きません」
    「そうだろうね……彼女、修善寺に何で向かおうとするのかな? バス?」
    「もちろん徒歩ですよ」
    「ええっ……ああ、ご当地怪人だもんねぇ」
    「戦場としては、国道を百mほど修善寺方面に下った山側に脇道が……ここですね。ちょっとだけ旧道が残ってるんですよ」
     典は地図上の一点を指さした。捕まえた葵を、その脇道に何らかの方法で引きずり込もう。
    「旧道は、今は車は通れなくて、ハイキングコースの一部になってます。人気が皆無じゃないんですが、駐車場よりは断然マシです」
     人払いのESPをかけておけば充分だろう。
    「わかった。その旧道で説得&戦闘だね……説得はどういう方向がいいかなあ。まずはわさびツーンがどうしても苦手な人が、世間には存在することを、わかってもらわなきゃ」
    「ですよねえ。その上で売り上げを伸ばしたり、伊豆のわさびをPRする方法を提案してあげるとか」
    「今は食べられない子供たちも、大人になったらきっと食べれるようになる、とか励ましてみようかな」
    「それも良さそうですね。他にも色々とっかかりはありそうですから、頑張って説得してみてください」
    「うん、頑張って考えるよ」
    「無事に解決できたら……」
     典は急に羨ましそうな顔になって。
    「例の滝の観光とかしてきたらどうです? 近くには温泉もありますしね」


    参加者
    森本・煉夜(斜光の運び手・d02292)
    水瀬・瑞樹(マリクの娘・d02532)
    城橋・予記(お茶と神社愛好小学生・d05478)
    小早川・美海(理想郷を探す放浪者・d15441)
    廻谷・遠野(架空英雄・d18700)
    望山・葵(わさび餅を広めたい・d22143)
    白藤・幽香(リトルサイエンティスト・d29498)

    ■リプレイ

    ●餌は抹茶ソフト
    「さあ、修善寺へGo!」
     伊豆わさびソフト怪人へと変貌を遂げようとしている女子高生・伊豆山葵は張り切ってアルバイト先の某滝ドライブインを飛びだした。行楽シーズンで混雑している国道を、走行中の車をビビらせながら、人間離れしたスピードで駆け下りていく。
     が、すぐに、
    「んっ!?」
     キキーっと急ブレーキをかけた。何故なら。
    「あいつら、抹茶ソフト食べてる……?」
     反対側の歩道に、緑色のソフトクリームを食べる4人組を見つけたから。
     しかも、
    「この抹茶ソフトは秀逸だな。もう一つ二つ食べられそうだ」
    「お店の人も、うちこそ抹茶ソフトの最高峰って言ってたし」
    「ゴマのプリッツと一緒だと尚更美味しいよ。日本人でよかったね」
     抹茶ソフトを口々に褒め称えているではないか。
    「なんだって……」
     伊豆山は驚愕に顔を引きつらせる。
    「この辺りに、まだ抹茶ソフトの店があったというの!?」
     言うまでもないが、抹茶ソフト4人組は灼滅者だ。水瀬・瑞樹(マリクの娘・d02532)城橋・予記(お茶と神社愛好小学生・d05478)小早川・美海(理想郷を探す放浪者・d15441)エリスフィール・クロイツェル(蒼刃遣い・d17852)は、抹茶ソフトで伊豆山を釣り上げようとしている。ちなみに抹茶ソフトには予記の嬉野茶が使われている。
    「待ちなさい、あんたたち!」
     ターゲットは見事に食い付いた。走ってくる車をアクション映画さながらに躱して、目を吊り上げてやってきて、
    「その抹茶アイス、どこで手に入れたのよ?」
     キンキンした声でまくしたてた。
    「旧道のお店だよ」
     瑞樹が答えると、
    「なんですって、いつの間に……ッ!」
     伊豆山はまた国道を駆け下りようとしたが、ハッと振り返り、
    「伊豆は断然わさびソフトよ!」
     そう言ってビカーッ☆ と目を怪しい緑色に光らせた。
     走り去る伊豆山の背中を見送りつつ、
    「……やっぱり、わさびソフトに変えられてるの」
     全く動じない様子で美海が言った。早速舐めてみたらしい。度胸あるー。
    「でも、これはこれで良い感じなの」
    「そうだな、これはこれで」
     エリスフィールも平然と食べているが、味見するなりムキーっと怒り出したのは予記。
    「ナニコレ見た目そのまま、味だけ変えるなんて許さない! 抹茶への期待を裏切るなんてっ」
     ぷんぷんと伊豆山が走り去った方を指さして、
    「ボクらも追いかけよう!」

     一方、
    「どこだったっけ、旧道の入り口って」
     伊豆山は少し下ったところでキョロキョロしていた。地元民とはいえ、普段使っていない道、慌ててるのもあり見つけられない。
     そこへ、違う4人組が声をかけてきた。
    「もしかして、君も抹茶ソフト食べにきたの?」
    「ついてくる? 案内するわよ。静岡と言ったらやっぱり抹茶じゃない、楽しみね」
    「旧道の奥に抹茶ソフトの美味しい屋台があるんだぜ」
    「抹茶味しかないらしいんだがな、君も興味あるなら行くか?」
    「そんな有名な店なの!? いつの間に……」
     伊豆山はショックを受けたが、愛想良く手招きする4人組に釣られ、紅葉で見つけ難くなっていた旧道に入っていく。
     ところで伊豆山を旧道に引きずりこんだ4人は、もちろん灼滅者。森本・煉夜(斜光の運び手・d02292)廻谷・遠野(架空英雄・d18700)望山・葵(わさび餅を広めたい・d22143)白藤・幽香(リトルサイエンティスト・d29498)は、さりげない様子で旧道を山の方に入って行く。
     数十mほど道に入り、色づいた木々に囲まれてから、伊豆山はやっと情況が妙であることに気づいた。
    「ねえ、この先ってもう山でしょ? ソフトの屋台なんて本当に……むっ!?」
     台詞を言い終わる前に、背後の気配に振り返る。すると、抹茶ソフトを食べていた4人が退路を塞いでいた。
    「あんた達ぐるだったの? 一体私に何の用よ!?」
    「ここに抹茶ソフトは無いわよ。あなたに用があるの」
     いつもの冷めた口調に戻って、幽香が言い放った。
    「なんですって、嵌めたのね!?」
     勢揃いした灼滅者を、歯噛みして睨みつけた伊豆山は、
    「忙しいのに、邪魔するんじゃないわよ!」
     両手を揃えて前に突き出した。
    「退きなさーいッ!」
     突き出された掌からぶっしゃーと噴き出したのはわさび汁!

    ●わさびバトル
     前衛はいきなりわさび汁まみれになってしまった。
    「何これツーンとする!」
     山葵初体験の予記は、悲鳴を必死に堪える。ナノナノの有嬉はそれなりのダメージは受けているが、ツーンに耐性があるらしくキッと伊豆山を睨み返す。
    「有嬉すごいな……」
     予記はナノナノを尊敬の涙目で見上げた。
    「わさび汁……どこから出てくるんだ」
     煉夜もツーンときたらしく鼻の付け根を押さえているが、
    「随分と……このわさびは鮮烈だな、やはり新鮮だからか」
     味わってるし。
    「ちょ、ちょっと待ってなんだぜ!」
     前衛がツーンと立ちすくんでいるところに、後ろから葵が飛びだしてきた。皿にのせた緑色の物体を掲げている。
    「俺も葵っていうんだ、知り合った記念にこれあげるんだぜ!」
    「な、なんなのこれ……」
     虚を突かれたのか、伊豆山は腕を下ろすと皿を覗き込む。
    「わさび餅なんだぜ!」
    「わさび餅? へえ、そんなのあるんだ?」
    「謀って連れ行き申し訳ない」
     伊豆山の勢いが削がれたとみて、エリスが鼻の付け根を抑えつつも、
    「だが失礼ついでに、私達の話を聞いて頂けぬだろうか?」
    「話? なんであんたたちの話なんか」
    「話聞かないなら、山葵みたいに擦り下ろすわよ?」
     幽香が剣呑に呟くと、
    「なんだってぇ!?」
     伊豆山が息巻き、
    「う、嘘ついたのはごめんね。でも、放っておくわけにはいかなかったから」
     慌てて遠野がフォローする。
    「放っておくわけにって、何がよ?」
     うさんくさげながらも多少は態度が軟化した伊豆山に、まあ、わさび餅でも食べながら、と灼滅者たちは語り出した――。
    「――な、なんであんたたち、私の伊豆全土わさびソフト化の壮大な計画を知ってるのよ! げほげほ」
     壮大な計画はどうかはアレとして、伊豆山は灼滅者が自分の能力と企みを知っていたことに、わさび餅をのどに詰まらせそうになるくらい驚いた。
    「まあそれは今は置いておくのよ……祝福の風、吹き癒やすの」
     美海がぼそりと切り返し、さりげなく十字架を天に掲げ前衛にセイクリッドウインドを吹かせた。
    「とにかくその計画は思いとどまって欲しいんだ。ほら、山葵はどうしても好き嫌いがあるじゃない」
     静岡に縁のある瑞樹が一生懸命語りかける。
    「でも、あの爽やかな風味はわかる人にはわかる、通な味だと思う。抹茶は苦いから、甘いものと合わせるでしょう。山葵も他食材とひき立てあってこそ、美味しさが出ると思うんだ。山葵漬けとかさ」
    「そうだよ、甘さがあるから山葵の辛さが引き立つってのもあると思うんだ」
     抹茶ソフトも守りたい予記も熱心に、
    「伊豆なら甘さも辛さも味わえてお得! って謳い文句で抹茶ソフトと共存を目指そうよ!」
    「好き嫌いを、裏返して考えれば」
     煉夜が真面目な顔で。
    「誰でも好きって事は逆に言えば個性がないって事だ。山葵の良さがあるからこそ、苦手な人も居るんだろう。山葵とて、苦手な人に嫌々食べられるより、良さが分かる人にたくさん食べてもらって、喜ばれる方が幸せなのではないか?」
    「正直私は山葵のツーンとしたのは苦手だけど」
     今度は幽香は用心深く、
    「あくまで好みの問題だしね。同じ県の名産で優劣も何もないわ。静岡名産同士、蹴落とそうとするとかえって印象悪いし共存を考えた方がいいわ。抹茶に負けない大人の味、ってのはどう?」
    「わ……わかってるわよ、そんなこと」
     灼滅者たちの説得を一応黙って聞いていた伊豆山が、キリ、と歯ぎしりをした。
    「どうしてもダメな人がいることくらい。この私だって、子供の頃はイマイチだった……でもっ」
     がばっと灼滅者たちの方に顔を上げて。
    「わさびソフトって幟が立ってる屋台で、抹茶ソフトばっかり売っててごらんなさいよ。しかも『わさびソフト美味しいですよ』って勧めても『え~なにそれゲテもの?』とか笑われて! マジ美味しいのにっ」
     ぎぎぎ、と色が変わるくらい力を籠めた握り拳。
    「この積もり積もった鬱憤を、どこに持ってけばいいかわからないのよッ!」
     抹茶ソフトに八つ当たりか?
    「それならそれで……丁度いいかもしれないの」
     美海が手に『荒鎮の十字剣』を出現させた。
    「そうだね、私たちが伊豆山さんの鬱憤を受け止めてあげるよ」
     瑞樹も殺す覚悟の現れである解体ナイフを手に光らせ。
    「……あんたたち、私の相手をしてくれるっていうの?」
     ぎらり、と伊豆山の目が不穏な緑色に……ダークネスの本性を思わせる色に光った。
     しかし灼滅者たちは信じている。鬱憤を上手く祓い、前向きなエネルギーに変換してやれば、彼女は必ず戻ってくると。
    「ああ、遠慮無く来い。しかし自分だけは見失うな。こちらも行くぞ!」
     煉夜が低い姿勢で回り込み、足下に斬りつけたのを皮切りに、灼滅者たちは一斉に攻撃を開始した。予記は素早くワイドガードを展開し、幽香が槍で突っ込んでいく。
    「好きなことの魅力が伝わらないのは悲しいよね! でも、だからこそ正しく魅力を伝えようよ!」
     遠野は真摯に語りかけながら、螺旋槍を畳みかけ、瑞樹はナイフに載せた炎を叩きつける。
    「……デッドブラスター、しゅーと、なの」
     美海は人差し指を突きつけ、エリスフィールも槍を突き出した……が。
    「うっ」
     その槍の柄を、がしっと伊豆山が握りしめると、力任せに押し戻し。
    「やられっぱなしは性に合わないのよ!」
     両手に巨大鮫皮おろしと生わさびが出現して。
    「抹茶め、わさびソフトの恨み、受けてみろーッ!」
     伊豆山の手がマッハのスピードで前後する! やっぱり八つ当たりだ!
    「うわあっ」
     エリスフィールがみるみる緑色のペーストに埋もれていく……そこに。
    「葵姉ちゃん、落ち着いて!」
     高速山葵おろしを止めるように、葵(餅)の槍が突き出された。
    「抹茶ソフトをわさびソフトに変えてもわさびソフトの人気はあがらないんだぜ、重要なのは食べたい人や興味を持った人に食べてもらう事だぜ!」
     ハッ、と伊豆山の手が止まった。我を失いかけていた自分に気づいたらしい。
     その間に有嬉に回復を受けたエリスフィールは山葵から脱出し、
    「ふう、危うく山葵を嫌いになってしまうところだった」
     苦笑して。
    「嫌いな物がある事自体は悪ではない。それを正当化する事が悪なのだ。だが強制されても悪化するだけだ。それは貴女も本意ではあるまい?」
     遠野も一生懸命に語りかける。
    「そうだよ、無理に押し付けたって、誰も好きになんてなってくれないよ? 今眼の前でいくら食べさせたって、嫌われたんじゃ意味がない。大切なのは愛だよ、愛!」
     言われて伊豆山はもじもじとうつむき、手の中の山葵と鮫皮おろしがすうっと消えた。
     灼滅者たちは確信する。彼女は解りかけている……あとはダークネスの呪縛を祓うだけ!
    「もう少しだけ辛抱して! 山葵はお鮨やお刺身には欠かせないんだし、山海に恵まれた伊豆なんだから、無理強いなんかせず、うまく付き合っていこうよ! つけすぎはアレだけどさっ」
     瑞樹の異形化した拳が素早く伊豆山を殴り倒し、そこに予記の影が伸びてエプロンをズタズタに切り裂いた。遠野はオーラを宿した拳で連打を放ち、
    「……必殺・もふもふビーム、なの」
     美海は人差し指からなんかもふもふしたビームを放った。幽香が急所にメスを立て、煉夜が死角を取ろうと背後に回りこんだ瞬間。
     びしゅるっ。
    「むっ!?」
     丸い葉のついた緑色の蔓のようなものが伊豆山の背中から伸び、絡みついた。茎山葵だ。
     遠野は咄嗟に叫ぶ。
    「ダメ、伊豆山ちゃん! 焦らないで口コミで広げて、じっくりリピーター獲得していこうよ! まっすぐな気持ちはきっと届くから!!」
     またハッと伊豆山が顔を上げ、茎はほどけてくたくたと地面に落ちた。
     慌てて葵と霊犬のジョンが回復と救出に駆け寄ってきたが、煉夜はそれを止めて。
    「大丈夫。さほどの威力はなかった。苦し紛れの反撃だったのだろう……さあ、ケリをつけてやろう!」
     煉夜は立ち上がり様に素早く刃を見舞い、予記の影が食らい付いた。遠野はロッドに魔力と精一杯の思いを載せて叩き込み、瑞樹の分銅鎖型の影が絡みつく。美海は断罪輪をぐっと突きつけ、幽香は炎のキックを放つ。
    「く……」
     集中攻撃にがくりと膝をついた伊豆山は、掌を灼滅者たちに向けて突き出しかけたが、歯を食いしばってそれを引っ込め、体の下に押し込むようにしてうずくまった。
    「よく堪えたな。機関起動、推力最大……行くぞ、ラジェンドラ!」
     エリスフィールが厳しい顔で大槍型のバベルブレイカーを出現させ、
    「ダークネスなどに彼女は渡しはしない。早々に消え失せよ!」
     渾身のパワーを込めて撃ち込むと。
     ぶわっ。
    「な、なんだ!?」
     伊豆山を包み隠すように、緑色のツンとした臭いのガスが沸き上がって……。
     そのガスが秋風に吹き散らされると、地面に横たわっていたのは、エプロンに三角巾姿の活発そうな女の子であった。
     エリスフィールがホッとしたように微笑んで。
    「お帰り。無事のご帰還、お祝い申し上げる。これで貴女も灼滅者だ」

    ●秋の伊豆を楽しもう!
     少し後、灼滅者たちはご機嫌でわさびソフトを舐めながら、滝の遊歩道を歩いていた。もちろん案内は伊豆山である。更にもちろんソフトクリームはお詫びということで、伊豆山のおごりである。
    「ふむ、甘さとピリッとした風味の絡み合いがなんとも」
     煉夜は気に入った様子だが、幽香はわさびが苦手なので抹茶である。もちろん伊豆山はもう抹茶ソフトを否定したりしない。
    「温泉、楽しみっ」
     予記はこの後の温泉にわくわくである。
    「山葵料理も出るかな?」
    「紅葉も綺麗だねー……それに、これ、ピリっておいしいね」
     遠野もわさびソフトが気に入った様子。
    「……紅葉と滝、見事なの」
     美海も楽しみにしていた観光に嬉しそう。
    「ねえ、葵姉ちゃん」
    「なあに葵くん」
     同じ名前がちとややこしい。
    「うちの学園に来ないかだぜ。マイナーご当地名物でも広めるチャンスがあるんだぜ!」
    「えっ?」
    「そうだな」
     エリスフィールも頷いて。
    「東京の方が一般に認知させ易いかもしれぬぞ。まずは山葵好きからわさびソフトを広めるのだ」
    「東京で?」
    「それにだぜ」
     葵は嬉しそうに伊豆山を見上げて。
    「俺、山葵菓子ヒーロー同士、姉ちゃんと仲良くなりたいんだぜ!」

    作者:小鳥遊ちどり 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2014年11月15日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 6
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