洞窟に仏有りて

    ●某寺・奥の院にて
    「ほう、ここが次の修行場ですか」
    「うむ。明日、バスツアーで30人ほどがやってくるのでな、効率が良い」
     ははは、と有能サラリーマン風の男が笑った。
    「鎮星坊さんは、常に効率を重視なさいますなあ。下見もなさる周到ぶり、結構結構」
     サラリーマン風と会話しているのは、大柄な僧侶。ふたりは、とある寺の構内にある、洞窟の中にいる。自然の洞窟に手を加えたもので、奥の院と呼ばれている。
     磨崖仏が薄暗いライトに照らされ、ふたりを見下ろしている。
    「それで人事部長とやら」
     じろりと鎮星坊はリーマン風を見やり、
    「何人貸してくれるのだ?」
    「3人でどうでしょう。要はあなたの修行に、邪魔が入らないようにすればよろしいのでしょう?」
     僧侶は忌々しげに頷き、
    「うむ。何しろここのところ、灼滅者とかいう輩に邪魔されてばかりでな」
     リーマン風は愛想良く微笑み、
    「ええ、灼滅者には我々も手こずらされてますから、よくわかりますよ……では、明日の修行に3名社員を派遣しますので、その見返りに鎮星坊さんも、我が社をお手伝い頂くということで、よろしいですね?」
    「合い分かった」
     鎮星坊は不敵に笑い。
    「見返り分の仕事はさせてもらおう」
     
    ●武蔵坂学園
    「大変ヤバい事態になりそうなんです」
     春祭・典(高校生エクスブレイン・dn0058)は、集った灼滅者たちを前に、いきなりそう切り出した。
     ブラック就活事件に新しい動きがある。人事部長と呼ばれる強力な六六六人衆が、各地の六六六人衆をヘッドハンティングして、配下に加えようとしているらしいのだ。
    「五六六番・鎮星坊も契約社員のような条件で、人事部長にスカウトされました」
     鎮星坊は、肉を墓に供えることを修行と称する超生臭坊主で、寺や墓場で数々の殺戮を行ってきた。
     このたびは修行の手伝いに社員を何名か派遣してもらうことの見返りに、六六六人衆のブラック企業と契約することにしたらしい。
    「幸い……と言っていいのかどうかは少々考えものですが」
     典は机の上に寺のパンフレットを開いた。
    「ふたりが洞窟の中にいるところに急襲をかけることができます。ただし、洞窟の入り口は人がやっとすれ違える程度の細さですので、一斉に、というわけにはいきません」
     奥の院の図を見ると、入り口から細い通路を10mほど入ったところが、磨崖仏のある奥の院である。奥の院自体は、教室ほどの広さに掘り広げられている。
    「人事部長は、皆さんが現れると、『我が社と契約したのですから、灼滅者ごとき蹴散らしてくださいね』と、鎮星坊に任せ去ってしまいますが、これは追わないでください」
     えっ、と灼滅者から不満の声が漏れるが、典は首を振って。
    「六六六人衆2体を相手にするのは得策ではありません。それに人事部長は鎮星坊なんて目じゃないくらい高位のようなのです。むしろ去ってくれてラッキーかと」
     やむを得ないか……と、灼滅者たちは悔しがりながらも納得する。
     灼滅者のひとりが気づいたように手を挙げて、
    「人事部長が去ったら、鎮星坊を洞窟の外に引きずり出して戦った方がいいかな?」
    「いえ、洞窟内がいいような気がします。ほら、鎮星坊はすぐに逃げるでしょう?」
     これまでの事件では、鎮星坊は人肉を得られないと見極めると、さっさと撤退している。
    「今回は人事部長に任された手前、撤退しないとは思うのですが、それでも逃げにくい洞窟内で追い詰めた方がいいと思うのです」
     幸い外への通路は狭い1本だけだ。
    「ただし、人事部長の命令は『蹴散らせ』ですから、おそらく皆さんが撤退ということになっても、追ってきたりはしないと思いますので無理せずに……ですが、六六六人衆同士が手を組む機会を潰すと共に、今回は鎮星坊灼滅の大チャンスです。無理はせずに、けれど工夫をこらして頑張ってください!」


    参加者
    アプリコット・ルター(未覚醒のガーネットスター・d00579)
    丹生・蓮二(エングロウスエッジ・d03879)
    立花・銀二(黒沈む白・d08733)
    紅羽・流希(挑戦者・d10975)
    阿久沢・木菟(灰色八門・d12081)
    屍々戸谷・桔梗(血に餓えた遺産・d15911)
    禍薙・鋼矢(剛壁・d17266)
    影龍・死愚魔(ツギハギマインド・d25262)

    ■リプレイ


     件の洞窟入り口が臨めるお堂の陰で、5名の灼滅者たちが動物に変身した。立花・銀二(黒沈む白・d08733)禍薙・鋼矢(剛壁・d17266)影龍・死愚魔(ツギハギマインド・d25262)紅羽・流希(挑戦者・d10975)は猫に、屍々戸谷・桔梗(血に餓えた遺産・d15911)は犬に。
     後発の仲間たちに頷いてみせると、動物たちは洞窟の入り口から中を覗き込む。
     そんな動物仲間たちを見やりながら、後発隊は、
    「皆さんかわいくて、撫でたいです……けど、ここは我慢ですね」
     きゅっと胸の前で拳を握ってもふもふ衝動を抑えているのはアプリコット・ルター(未覚醒のガーネットスター・d00579)。
    「なんか色々腑に落ちない状況だけどさ」
     丹生・蓮二(エングロウスエッジ・d03879)は無防備な六六六人衆の行動を訝しみつつも、
    「折角の六六六人衆灼滅の機会だ、全力でいくよ」
     
     一方動物たち……先発隊は素早く、且つ用心深く、洞窟の入り口の狭いトンネルを進んでいた。

    『我が社をお手伝い頂くということで、よろしいですね?』
    『合い分かった。見返り分の仕事はさせてもらおう』

     六六六人衆たちの会話が意味する残虐きわまりない行為を思い、鋼矢猫は、
    「(全く嫌な習性の坊さんだぜ。こんな血なまぐさい坊主、ぶっとばしてもバチは当たんねぇよな?)」
     流希猫は、
    「(全くもって破戒僧ここに極まれりって感じですねえ……)」
     桔梗犬も、
    「(やれやれ、私も人殺しには違いねぇけどよ、こんな奴らと一緒にされんのはゴメンだぜ。坊主のくせに仏の顔も三度までってこと知らねぇのかねえ……)」
     半ばあきれ気味に思う。
     教室ほどの広さの奥の院の、薄ぼんやりしたライトの下に、2人の六六六人衆の姿が見えてきたところで動物たちは立ち止まり。
    「(行くぞ)」
     暗がりに光る目を見交わして。
    「(急襲!)」
     ディフェンダーは奥の院に飛び出すと同時に変身を解いた。
    「はじめまして鎮星坊君。どうやら早速お仕事の時間みたいですよ!」
    「おい坊さんよ、そんなに肉を供えたきゃスーパーで買ったバラ肉にでもしとけっての。今日は安売りだったぜ?」
     鋼矢と銀二は挑発的に叫ぶ。同時に銀二の影が洞窟の暗がりに同化するように黒々と伸びてターゲットを飲み込み、鋼矢は、
    「しゃーねぇ、今日は坊さんを焼き肉にしてやるっきゃねぇな!」
     シールドに載せた炎を叩きつける。
     動物姿のまま暗がりに紛れるように回り込んだ桔梗は、素早く変身を解くと杖から竜巻を巻き起こし、死愚魔は素早く黒衣の背中に回り込み、
    「意味のわからない修行してるらしいね……馬鹿げた修行もここまでだよ」
     刃を……。


     ガキリ。
     死愚魔の刃は、背後に深く振りかぶった日本刀に遮られた。正に電光石火の抜刀。
    「何者!?」
     野太い声が誰何する。
     しかしそこに、
    「たあっ!」
     満を持して、ディフェンダーの後ろに潜んでいた流希が殴りかかる。
    「灼滅者か!」
     鎮星坊は横っ飛びし、雷を宿した拳は毛一筋ほどの差で躱された。しかし鎮星坊は洞窟の更に奥に退くことになった。
    「また嗅ぎつけおって!」
     破壊僧は怒鳴った。
    「性懲りもなく邪魔する気だな?」
    「すみません」
     通路から、蓮二と共に、後発のアプリコットがビハインドのシェリオお兄様を連れて現れ、ぺこりと頭を下げ、
    「今回も邪魔、させてください」
     続いて壁歩きと忍者スキルを使って現れた阿久沢・木菟(灰色八門・d12081)が、
    「拙者らでは、貴様1人止めるのがやっとでござるからな、ブラック会社と組んで護衛つけられちゃ適わんのでござる。よって、ここが正念場、勝った方が望み通りの結果を得るという、簡単な図式でござるよ」
     ふふふ……と可笑しそうな含み笑いがどこからともなく聞こえてきた。笑い声の主は、磨崖仏の肩のあたりにロッククライミングのようにしがみついた、スーツ姿の男だった。
    「何が可笑しい、人事部長」
     契約社員が苛立った声で咎めると、高位の六六六人衆は、
    「いや失礼。しかし、ちょうどいいではないですか。ここで灼滅者共に打撃を与えておくことは、我が社のプロジェクトにも、貴殿の修行にも大いなる収益となります」
    「ふむ……それはそうだな」
     鎮星坊は小さく頷いた。
    「では、初仕事ということで、この灼滅者共を蹴散らしてください。これしきの仕事、軽くこなして下さらなければ困ります」
    「相分かった。この場は任せてもらおう」
     破戒僧は苛立ちと怒りを引っ込めると、改めて凶暴に光る日本刀をニュートラルな中段に構えた。
    「では、私はお先に失礼しますよ」
     通路を塞ぐように立っていた桔梗がすっと避ける。
    「ああ、失礼してくれ。観客がヤリ合いの場にいるのはウザいからな。どっか見えねえところでこの殺し合いの値踏みでもしてりゃいいさ」
     ふふ、とまた陰湿な含み笑いを残して、人事部長は風のように去った。
    「さて、仕切り直しといこうか。つん様もお仕事だよ。アプリコットの言うこと、よく聞いてな」
     蓮二が霊犬・つん様とギターを出現させ、
    「あの時の借り、返すでござるぜ……臨兵闘者 皆陣列前行ッ!!」
     木菟もSCを解放し、幾つかのライトが点灯され、荒い岩肌が照らし出された。
    「行くぜ!」
     気合いを込める灼滅者たちに向けて、鎮星坊は吠えて掌を合わせた。
    「来い、半端者共! お主らの肉をまずは前菜として供えてくれるわ!!」


    「……うっ!?」
     殺到する前衛を、濃い殺気が護摩のように沸いて包み込んだ。その禍々しさに前衛の勢いが削がれるが、蓮二がその殺気を乱すように激しくギターをかきならした。すかさず桔梗が歌を合わせ、音波を増幅する。
    「お兄様、お願いします……!」
     アプリコットはビハインドに攻撃を命じながらナイフを掲げ、夜霧で殺気を押し戻し、死愚魔はその夜霧に紛れて敵に近づくと、漆黒の衣を切り裂いた。
     中・後衛の畳みかける攻撃。そしてもちろん、邪悪な殺気から逃れるやいなや、前衛も敵へととびかかっていく。銀二の影が絡みつき、木菟はトラウマを宿した愛刀『電磁BATTOくん肆號』で斬りつける。
    「焼き加減はウェルダン以上に限るぜ!」
     鋼矢の炎を纏った跳び蹴りが見事に決まり、わずかではあるが鎮星坊がよろめいたところに、流希が死角を狙って飛び込んでいく……が。
    「そうはいかんぞ!」
     敵はスッと腰を落とし、低い姿勢で接近していた流希に刃がひらめく。
    「危ないのですよ!」
     銀二はとっさに傍らのナノナノをひっつかみ、流希と刃の間にぶん投げた。
    「ぬっ!?」
    「ナノナノ~っ」
     ぶっすりと刃に突き通されたナノナノの悲しい悲鳴が洞窟に響きわたったが、流希は救われた。
    「すまん!」
     流希は険しい声で叫び、ぽとりと落ちたナノナノを飛び越え、しっかりと敵に刃を届かせた。
     しかし、敵の立て直しは早く、続けて斬りこんだ木菟の刀は刀で受け止められ、鋼矢のスターゲイザーも柄で遮られる。
     攻撃がまるで届かないわけではない。しかし腐っても本気の六六六人衆である。集団で囲んでも、尚速く、強い。
    「ふん、そんなものか?」
     振り払われ地面に倒れ込んだ鋼矢を見下ろし、鎮星坊が嗤う……その時。
     びしゅるっ!
     何故か上方のあらぬ方向から鋭く影が伸びてきて、敵を縛り上げた。銀二がいつの間にか人事部長よろしく磨崖仏の肩まで上がり、そこから影を放ったのだった。
    「ぎ、銀二さん、なんというトコロに……」
     仏像によじ登るという行為に驚く仲間たちへ、銀二は、
    「神様も仏様も等しくこの僕より尊ぶことはありませんね」
     ひょうひょうと答え、ポンと軽く飛び降りた。
     ぎょっとはしたが、この隙を逃す灼滅者たちではない。死愚魔の影法師が敵の大きな体を喰らいこみ、蓮二が星を纏って跳び蹴りを決める。桔梗の矢が彗星のように尾を引き、アプリコットもチャンスと見て、赤い逆十時を暗い岩天井に輝かせ、木菟は今度こそとばかりに渾身の力で刀を振り下ろす。
    「……ぐ」 
     さしもの六六六人衆も低くうめき、じり、と一歩下がった。
     しかし緑色の瞳がぎろりと邪悪に光り。
    「お主らの戦い方は、知っている……何しろ4度目だからな!」
     ぶん! と刀が空間を一閃した。月の如き青く鋭い光が発せられ、その衝撃波が襲いかかったのは、後衛!


     灼滅者たちとの接触を幾度も経ている鎮星坊は、執拗に後衛を狙ってきた。
    「させねえよッ! 生臭坊主が就職した所で何の役にも立たないだろ。地獄にお引き取り下さいッ、だぜっ!」
     何度目かの月光衝を放とうとしている敵の手元に、蓮二が素早く潜り込んで斬りつけ、それを阻止した。
    「邪魔するな!」
     しかし遮られたことにより、角度を変えて振り下ろされた刀は、
    「アッ!」
     蓮二の足をザックリと裂いた。
    「回復します!」
     アプリコットが指輪を掲げ、ディフェンダーは倒れた蓮二を庇うように立ちはだかり、攻撃する。鋼矢は武器に宿らせた炎で黒衣を焦がし、銀二は攻撃陣が当たりやすくなるよう、影で縛り上げようとしたが、それは刀で振り払われて。しかしその動作で空いた脇に、木菟と死愚魔が飛び込んで刃を突き立てた。続けて流希が雷を宿した拳で、いかつい顎をのけぞるほど殴り上げる。よろめいた敵目がけ、桔梗は杖を振り上げ雷を呼び出した……が。
    「そうそう当たらぬぞ!」
     鎮星坊は切り裂かれ焼け焦げた黒衣の裾を翻して稲妻を避けた。
     ジャキリ。
     敵は長い刀を握り直し、血の滲む唇でニイっと嗤った。幾つも傷を負っている筈なのに、態度から不遜さは失われず、隙もない。
    「所詮半端者、まだまだよのう」
    「いやいや、そうでもないぜ」
     回復成った蓮二が、負けじと笑いながら立ち上がって。
    「おっさんこそ、足元ふらついてるよ。歳じゃない!?」
     スッと真顔になると、槍から氷弾を撃ち込んだ。鎮星坊は避けようとしたが、氷弾は利き腕の右肩をかすめ、刀を取り落としそうになる。
     蓮二の軽口に力を得た鋼矢はしっかり頷くと。
    「よっしゃ、がんばってこーぜ!」
     シールドを展開して防御を固めなおした。
     ――こういう敵に焦りは禁物だ。
     不幸中の幸いというべきか、敵は隙あらば後衛を狙うため、前衛のダメージは比較的少ないのだ。
     灼滅者たちは気合いを入れ直し、強敵へとしぶとく攻撃を繰り出していく。


    「がっ!」
     流希の炎を纏った跳び蹴りが決まり、鎮星坊は最奥の岩壁に手ひどく叩きつけられた。 
     戦闘が始まって10分ほども経つと、ダメージとバッドステータスが蓄積してきたのか、徐々に攻撃がし易くなってきた。
     もちろんまんべんなく攻撃されている灼滅者たちのダメージも少なくない。しかし、それは敵も同じであって……。
    「ちっ……」
     頭を切ったのか、鎮星坊は血まみれの凄まじい顔でぎろりと灼滅者たちを睨み付けると、胸の前で掌を合わせた。
    「(鏖殺領域か?)」
     またあの禍々しい護摩が……と灼滅者たちは身構えたが、洞窟に低く流れ出したのは。
    「……お経?」
     黒衣の僧は読経し始めた。何事、と見れば、頭の傷がふさがっていくではないか。
    「シャウトか!」
    「させないよ」
     シュッ!
     クールな呟きと共に死愚魔の鋼糸が伸びて、
    「ぐあっ!」
     読経する敵を切り裂いた。
    「回復なんかさせない。不愉快だから、さっさと消えて欲しいんだよね」
    「ナイスですよ!」
     銀二が嬉しそうに叫ぶと、すかさず影で縛り上げ、蓮二が氷弾を撃ち込む。鋼矢のキックは躱されたが、避けた先には流希の刃が待っていて。
     よろり、と鎮星坊は大きくふらつき、慌てて刀を杖にして体勢を立て直し、
    「むむ……やむを得ん。人事部長には何とか言い訳するとして」
     血まみれの顔でギリリと悔しそうに歯ぎしりし。
    「一旦立て直しじゃ!」
    「あっ!」
     鎮星坊は前衛の間をすり抜けると、後衛に月光衝を放ちながら出口へと脱兎とばかり駆けだした。どこにこんな力が残っていたのかと思うくらい、素早い行動だ。
    「ヤバい!」
     後衛は、度重なる列攻撃でかなり痛めつけられている。鋼矢は必死で横っ飛びし、アプリコットの壁になった。大切なメディックは守られた。しかし逃走を止められるか……?
    「ぜってえ逃がさないぜ!」
     トンネルの前では、桔梗が仁王立ちで弓を構えていた。月の刃を受けつつも、向かってくる大男に向けて、桔梗は力を振り絞って矢を放った。矢は流星群のようにきらめき、そして桔梗は崩れ落ちた。
    「ぐ……」
     鎮星坊の足が鈍る。そこに流希が後ろからタックルし、マフラーで首を締め上げた。マフラーは即座に断ち切られたが、仲間が体を張って作った間を、決して逃しはしない。
    「ヘイ、悪趣味クソ坊主、俺がてめーの生肉備えてやるよ!」
     蓮二が鋭い刃で黒衣と肉を切り裂き、死愚魔と銀二の影が、二重のトラウマを含んで黒々と。
    「つん様、桔梗さんをお願いします!」
     回復をサーヴァントに任せ、負傷だらけの仲間の姿に涙を堪えつつ、アプリコットもシェリオと共にここが勝負どころと攻撃に出る。ナイフを翳して毒の竜巻を巻き起こすと、鋼矢は、
    「よっしゃ、伏炎も回復は頼んだぜ!」
     霊犬に援護を命じ、
    「肉を柔らかく叩いてやんぜ!」
     ガッと岩壁を蹴って星を散らした跳び蹴りを後頭部に放った。
     鎮星坊は地面に倒れ伏す。
    「わ……わ、わしの修行はこんなところで終わるわけに」
     それでも呻き、刀にすがって立ち上がろうとする。
     流希と木菟が、腰の刀に手をかけながら進み出た。木菟の鞘は帯電し、びりびりと火花を散らしている。
     ふたりは、生に執着し無様にもがく僧形のモノを見下ろし、
    「老婦人の無念、ここで断ち切って晴らす!」
    「腐っても坊主、自分の供養は冥土で勝手にやれ。いずれ行く俺の分の供養もな。まぁ、三帰五戒を破った貴様や俺を許す仏がそこに居れば、だがな」
     2本の刀が光のように抜かれ、
    「七の門・剣の派生……迅ッ!!」
    「南無阿弥陀仏!」
     ぐわああああぁぁぁぁ……!
     断末魔の叫びは、殷々と洞窟に響き渡り……。
     そして肉体は、黒い塵となって消えた。

    「終わったか……」
     回復を受けていた桔梗が、辛そうに立ち上がり、
    「ま、あんな生臭坊主だけどな」
     磨崖仏に手を合わせ、
    「……悪いな、閻魔さんによろしく言っといてくれや」
     流希も並んで手を合わせて。
    「そう、あの破戒僧も、彼に殺された人たちも哀れな存在です……」
     仲間たちも、慈悲深い眼差しの磨崖仏を見上げ、静かに瞑目した。

    作者:小鳥遊ちどり 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2014年12月2日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 16/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 0
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