カキモノコモノ 年世積月

    作者:西東西


     ある老舗文房具店にて。

     ――あたらしい年は、こだわりの『カキモノコモノ』とともに。

     そんなキャッチコピーで、『万年筆と手帳の展示会』が開かれる。
     日本や世界から集められた万年筆やインク、手帳が販売され、愛好家はもちろん、文具に馴染みのない層にも興味をもってもらおうというイベントだ。
     万年筆はすべて試し書きできるコーナーが設けられており、自分の手にあった品を思うぞんぶん探すことができる。
     また、店頭には各メーカーのインク瓶がところせましと並び、色あいやカラー名を眺めてまわるだけでも楽しい。
     すでに愛用の万年筆があるなら、インク職人に相談してオリジナルのインクを作るのもおすすめだ。
     調子の悪い万年筆を持っているなら、メンテナンスを依頼してみるのも良いだろう。

     お気に入りの万年筆が手に入ったなら、筆記具にあった手帳が欲しくなるもの。
     毎年のロングセラーから新作まで、商品はすべて見本が置かれている。
     数えきれない数の手帳から、自分だけの手帳を見つけだせたなら。
     帰るころにはきっと、来年のスケジュールをたてるのが楽しみになっているはずだ。


    「――というわけで、『万年筆と手帳の展示会』に行ってみないか」
     一夜崎・一夜(大学生エクスブレイン・dn0023)が学生たちに声をかけ、イベントのチラシを掲げ見せる。
    「万年筆かあ……。使ったことないなあ」
    「それに、万年筆って高価だろ?」
     興味はあるんだけど、と告げる学生たちに、一夜は「そうでもないぞ」と笑う。
    「最近は、こどもや初心者向けにデザインされた万年筆が多くでている。手ごろなものなら、千円ほどで手にはいるはずだ」
     当の一夜は手持ちの万年筆の調子が悪く、メンテナンスを依頼する予定だという。
    「手帳も、いっぱい?」
     静かに話を聞いていた七湖都・さかな(終の境界・dn0116)が声をかければ、
    「もちろん。毎年の定番から、携帯電話のアプリと連動するようなものまで幅ひろく取り扱っている。七湖都も、来年使う手帳でも探してみたらどうだ?」
     一夜に言われ、頷いたさかなが「これ」と学生鞄から取りだしたのは、ボロボロに劣化し、ところどころ赤黒い染みのついた手帳だ。
    「……今年の、手帳。つかいにくかった」
    「ブレイズゲートでひろった手帳を使うのは、やめなさい」
     間をおかず一夜がツッコミを入れ。
     さかなは「いっぱい、ひろえるのに」と零しながら血痕のついた手帳を鞄の中へしまい、老舗文房具店のチラシを手にとった。


    ■リプレイ


     昼の陽ざしで、寒さが和らぐころ。
     老舗文房具店の主催する『万年筆と手帳の展示会』は、多くの一般人客や武蔵坂学園の学生たちで賑わっていた。
     万年筆の展示コーナーに佇むのは、初衣(d15127)と朱彦(d11706)。
     初衣にとっては、万年筆は大人の持ち物という印象だ。
     目に留めた濃朱の万年筆を手に取り、
    「朱彦さ、んとお、なじ、いろで、す。すご、くほっ、と、しま、す」
    「おおきに」
     静かに笑み、朱彦は雪の結晶を飾った淡水色の万年筆を、初衣へ。
    「初衣さんと同じ、ふんわりした色やね。優しさと女性らしさのある、良い色やと思います」
    「わ、たしが、もって、も、いい、のか、な……」
    「もちろん。それに俺は、貴女の書く字が可愛らしゅうて好きですよ」
     告げる言葉に、初衣は顔を上げ。
    「わ、たし、字、が、へたな、の、です、け、れど。いっぱ、い、かき、たいで、す。……おてが、み、とか」
     消え入るような言葉に、朱彦が微笑んで。
    「……手紙、お待ちしてます」
     そっと、囁いた。
     たまには書き物の道具を探すのも悪くないと、あげは(d31539)も万年筆を眺めて回る。
     見れば、展示ケースに輝く深い青の光。
    「ユレマ産ラブラドライト、を、象嵌した万年筆!?」
     象った蝶も愛らしく、あげははひと目で心奪われて。
    「こ! コレ買うわ! いくらかしら!?」
     貯めたこづかいを手に、この品を買い求めたいと、店員を呼んだ。

     万年筆の試し書きコーナーでは、訪れた者たちの多彩な筆跡が踊る。
     みをき(d00125)は愛用の万年筆を調整にだした後、壱(d00909)のために万年筆の見立てを行っていた。
    「壱先輩は、万年筆でなにを綴りたいですか?」
    「なに、かあ」
     悩みながら手近の一本を手にとれば、しっくりと馴染む重みがある。
    「持つだけで、頭良さそうな感じする」
     率直な感想に微笑み、みをきは試し書き用紙に万年筆を走らせた。
    「慣れるまで難しいですが、必要なのは」
     手元を覗きこむ壱に気づき。
     そっと、綴った文字を見せる。
     ――ずっと いっしょに。
    「傍に置き、大切にすること、です」
     万年筆の話だよね?と笑みを向け、
    「俺、書きたいのあったよ。レターセットも売ってないかな」
     目にした文字は、いつかの赤い小花散る便箋と同じ。
    「あの手紙のって、何の花だったの?」
    「まだ、内緒です」
     折り畳んだ紙を鞄にしまい、みをきは小さく、微笑んだ。
     万年筆に興味はあっても、実際に扱うとなると手が出にくいもの。
     ペン先を壊してしまいそうだと、ベリザリオ(d16065)とともに訪れた織久(d08504)は気が進まない。
    「慣れたら色んな書き方ができますし、便利ですわよ」
     兄の勧めでようやく試し書きのペンを手にするも、
    「織久、手に力が入り過ぎてますわよ」
     織久はペン先を潰さぬよう努めて冷静に、背後に立つ兄を見やった。
    「兄さん。万年筆の練習なら買って帰ってからでもできます。ここで、二人羽織の真似事をしてまで練習する必要はありません」
    「わたくしの体格だと、横に並んでいたら他の方の邪魔になりますもの。後ろからの方がアドバイスしやすいですし」
     ほら力を抜いて、と手を添えて続ければ、
    「とりあえず離れてください。耳元で喋るのも禁止です」
     つれない弟の様子に、兄は唇を尖らせた。

     数百色のインク瓶に囲まれ、目を輝かせるのは香奈江(d31281)とらら(d11316)。
     揃ってインク職人の元へ向かい、香奈江が伝えたのは『夜空のような色』。
     できあがったのは、書くごとに表情を変えるインクだ。
     同じ夜空が二つとないように、晴天のようにも曇天のようにも、多彩な色を見せる。
     続くららのリクエストは、『綺麗なピンク色』。
     できあがったのは、透明感のある珊瑚色だ。
     白い紙に乗せれば鮮やかに浮かび、色紙に乗せれば、紙色に馴染み様々な桃色に変化する。
     ――既製品とは違う、自分だけの色。
    「お気に入りのガラスペンで、日記をつけてみようかな。かにゃにも、お手紙書くからね!」
    「私も、色んな使い方に挑戦したいです!」
     インク瓶を手に、二人、笑い交わした。
    「見事なもんだな」
     梛(d18259)は、香奈江とららのインク瓶を横目に、万年筆を贈った相手の好みの色を探っていた。
     インク職人を前に、浮かんだ言葉を紡ぐ。
    「赤よりは紫のが使いやすいだろうな。折角だから、黒に近くて、濃淡で紫を出せるような」
     紫が好きとは、聞いたことがない。
     けれど身につけているものは紫も多く、目の色もそうだ。
     伝えながら悩む様子に、「贈られる方は幸せですね」と職人が笑い。
    「ああ、俺、悩んでんのかね」
     珍し、と言い添えて。
     たまにはこういうのもいいかと、けらり、笑った。

     万年筆の修理や調整にも、多くの客が訪れた。
     円(d02468)はクセのついたペン先を調整してもらうべく、深緑の万年筆を持参。
    「親から貰って長く使ってるんだけど、中々壊れないモンだね。新しいのを買っても良いんだが、どうしても手放せないから」
     ――思い出は綴り、言葉は出さねば伝わらないもの。
     どこか悲しげにペンを預け、展示を見に向かう円の背を見送り、次に修理を依頼したのは純也(d16862)だ。
    「他人が。……父が使っていた品だが、再調整は可能だろうか」
     問えば、主軸をクリーニングすれば問題ないと言う。
     ペン先を水に浸し、コンバーター内を洗浄。
     再びインクを補充すれば、見る間に万年筆が蘇った。
     手渡されたペンを、一瞬折ろうかとも思うも、
    「今後は、俺が持つ」
     そう告げると、職人は嬉しそうに頷いた。
    (「親譲りの万年筆、か」)
     円と純也を見送り、一夜(dn0023)も手持ちの万年筆の調整を依頼する。
     折り合いの悪い父から引き継いだ年代物だが、手放す気にもなれず、使い続けている。
     その足で展示を見に行けば、見知ったクラスメイトの姿を見つけた。
    「月見里。来ていたのか」
    「お互い、こういう時でもないとゆっくり話もできないのでね」
     実に新鮮だと告げる无凱(d03837)の言葉に、一夜も笑う。
    「一夜崎君、おススメの万年筆ってあります?」
     聞けば、羽ペンや硝子ペンを日常使いにしているという。
    「それなら、ペンの重さや線の太さに、既に好みがあるんじゃないか?」
     数本選んで試し書きを勧めていると、千巻(d00396)もお勧めを教えてほしいと声を掛けた。
    「一夜くんは、どんなの使ってるの?」
     問えば、「日本製の骨董品」と簡素な返事。
    「朝山なら、女性向けの細身の万年筆かな」
     軽く、明るい色のペン軸のものを数本選び、手渡す。
    「わ。わー。うわあ。すごい。万年筆が、あの、わあこの、わあわあ。ここはゆめのくにですか」
     突然の声に无凱と千巻、一夜が振り向けば、無表情のまま歓声をあげる昭子(d17176)の姿。
     目を輝かせながら、あっちへフラフラ。こっちへフラフラ。
    「……鈴木も、一本目か?」
     不安げに一夜が問えば、
    「いえ。自分で選んだ物はまだ持っていないので。普段遣いできて、手に馴染むものがよいのです、が」
    「一緒に、試し書きしてみたらどうかなっ」
     千巻が声をかければ、昭子は喜んで3人の隣に並んだ。
     ――いろはにほへと。
     ――あめ つち ほし そら。
     ――とりなくこゑす ゆめさませ。
    「達筆ですねえ」
     感心したように无凱が覗きこみ、
    「は。いえ、えらんでいます。えらんでいますよ」
     はっと我に返り、ペン軸とにらめっこ。
    「……どっちにしようかなぁ」
     千巻はといえば、せっかくだからと結局二色のインクを手に取って。
     帰ったら何を書こうと想い巡らせながら、レジへ向かった。

     多くの客が新品を見る一方、文具(d25406)は中古品であるという、アンティークの万年筆に魅入っていた。
     目に留めたのは、メーカーも製造年も不明の一本。
     他の文具とは違い、どこか『曰くつき』めいた魅力がある。
     ――文房具を愛する者として、この品を素通りはできない。
    「これ、くださいっ」
     さんざ迷った末に、買い求め。
     どこか禍々しい万年筆を手に、店を去った。


     手帳売り場では、訪れた客が目移りしながらも商品選びを楽しんでいた。
    「携帯が進化して、スマホに色んな機能がくっついたけど。やっぱり紙媒体のメモ帳の便利さには、敵わないところがあるわよねぇ」
     黒革のシックな品があればと棚を見て回る三樹(d30985)だったが、品数が多く、眺めるだけでも楽しい。
     周囲を見やれば、手帳選びに悩む学生は他にも多くいるようだ。
    「いやはや、ちょうど来年用の手帳が欲しかった所ですよ」
     呟きながら目についた手帳を開くのは、流希(d10975)。
    「最近は本屋でも、使い勝手の良い物がなかなか無くて、困っていたのですよねぇ……」
     ここでひとつ良い物を見つけたいものだと、数ある棚を巡り歩いていく。
     サーニャ(d14915)はさかな(dn0116)と連れだって、趣味のフィールドノートを探していた。
     紙質も、装丁も。
     気に入ったものが見つかるまで、妥協はしないつもりだ。
    「革装丁の手帳は紙触りが好みでござるが、表紙が風景写真のも捨てがたい……」
     迷うサーニャとは反対に、さかなは棚の前で微動だにしない。
    「やあ、今日はお誘いありがとう。さかなちゃんは、どんなものを買うの?」
     さかなの姿を見つけた山吹(d00017)が声をかけるも、
    「……手帳、いっぱい」
     あまりの品数の多さに、さかなは無表情のまま放心していた。
     「山吹、は?」と問い返せば、
    「なるべく飾りっ気のないシンプルなものがいいなぁ。可愛いキャラクターものも素敵ではあるんだけど……」
     流石に大学生男子がそれを持つのはどうかと思ってと、答える。
    「さかな殿! 和瀬先輩! 迷ったら自分が好きなものを選ぶ。これで万事解決でござる!」
    「そういう霧島さんは、どっちにするの?」
     サーニャの手にした二冊の手帳を見て、山吹が笑い。
     やがて山吹が選んだのは、細身でシンプルな、革カバーの手帳だ。
    「これで、安心して来年も迎えられそうだ」
     ほっと、息をついた。

     豊富な品揃えは、選び手からすれば心強くもある。
    「此からを綴るのは、成る可く綺麗な物が好い。そう想えるのもまた、有り難い事でさァね」
     手帳棚を前に赫絲(d02147)が笑えば、
    「あ、これとか如何です?」
     狭霧(d00576)が差しだしたのは、麦藁菊を描いた夕焼色の旧暦手帳。
    「此奴ァ好い」
     手渡された表紙をゆるりと撫で。
     代わりに手渡したのは、銀星煌めく和表紙の手帳だ。
     狭霧は「使うのが勿体無い!」と、感動の声をあげ、
    「記憶は記し憶える事。どんな記憶も、全て自分の経験値になる」
     センパイの経験値稼ぎに、微力ながら力添えできればと申しでて。
    「其れなら。今日此の日も、経験として記して好いですかね、十七夜」
    「ならば、一緒にレベルアップって事で」
     ――『記録に残せる何か』が在る事。
     それが誇らしく、二人、手帳を手に笑いあった。
     別の棚の前には、兄に踏まれた万年筆の修理を待つシェリー(d00636)の姿。
     少しは自分で予定を管理しないとと思い、ユエ(d00585)と一緒に見てはいるのだが、どれもピンとこない。
    「シェリはこれがよさそう」
     さしだされた手帳には、薔薇のチョコレートの写真が。
    「……うん」
     一目ぼれしたシェリーは、迷うことなくレジへ。
     戻りがけに目に留まったのは、蒼薔薇の手帳だ。
     中には、白いレースと蝶がひらりふわりと舞っている。
    「これ。ユエ……みたいですね」
     戻り、ユエにさしだせば、これに決めると続いてレジへ。
     他の手帳でなくて良かったのかと問えば、
    「素敵だなって思った、から」
     と、迷いなく微笑む。
    「これをきっかけに、自分でスケジュール管理してみたい、です」
     ――一緒に過ごす時間も、たくさん、記していけますように。
     折角二人で来たのだからと、同じく互いの手帳を選ぶのはシェリー(d02452)とエリス(d21838)。
    (「エリスは、機能的な手帳が良いんだっけ」)
    (「シェルさんには、品のある物が良いでしょう」)
     それぞれ棚を見て回るも、同じ手帳でも多彩な表紙が並んでいる。
     シェリーは、こっそりエリスの顔を覗き見て。
     「こんなのは如何?」と、ゴシックで華やかな、大輪のベゴニア咲く黒革手帳を手渡した。
    「機能的で、良いデザインですわね」
     対するエリスが選んだのは、全体に薔薇を散りばめた手帳。
     柄は品良く控えめに配され、可愛らしい印象のデザインだ。
    「お洒落で可愛いな。ありがとう、エリス」
     礼を告げれば、エリスも小さく微笑んで。
    「これで、来年も良い年を迎えることができるかしら」
    「色んな予定で、埋めていきたいなぁ」
     そろって、レジへ向かった。
     来年は大学生だし、と手帳選びに悩むのは千波耶(d07563)。
     鈴(d06617)は千波耶の問いに答えながら、ワンポイントの星輝く現役手帳を見せる。
    「手帳は一日一日大きく書けるやつがいいな。そしたらこの日は灼滅活動!とか、バイト!とか色々入るじゃん?」
    「楽しい予定のある日って、花とかたくさん付けちゃうしね。今日とか、5色くらい使って印付けてるし」
    「そうそう、色分けするのも楽し――って、5色かよ! やりすぎだよ!」
     使い方はどうあれ、手帳を見ればどんな年だったか解るもの。
     迷った末に、鈴はヴィンテージストライプのブルーの手帳を選んだ。
    「手帳決まったら、マスキングテープとかスタンプも見ない?」
    「いいねー。色んなお楽しみ、カラフルにしてやりましょーか!」
     ――来年の手帳も、楽しい予定で鮮やかに彩られますように。

     手帳を買い求めたサーニャと山吹を見送った後も、さかなは品を選びきれずに、店に佇んでいた。
     見れば、店内を巡るキィン(d04461)と有無(d03721)の姿。
    「……キィンと有無も、手帳、さがし?」
    「いや。オレはついで」
    「木嶋に貰った万年筆を、整備に渡して来たところだ」
     手帳は決まったのかと問われれば、さかなはふるふると首を振る。
    「拾った手帳で良いんじゃねえの? 見た目の問題は……カバーでもするとか」
     武器や小物も拾い物を使うキィンにしてみれば、特に抵抗のない話だ。
    「オレは書いたり読み返したりって事をしないが、コイツが何かと手帳と睨めっこしているだろ。そんなに面白いもんかと思っていたが……。かっくいーぞ、なかなか」
     キィンの言葉に、さかなが、件の血濡れ手帳を開き見せ。
     そこには、誰のものとも知れない手書きの文字が綴られていた。
    「死者の記録か」
     有無の言葉に、頷く。
     一夜はそれを、得体がしれないからと嫌がったけれど。
     さかなには、これほど多くの想いを抱き、死んでいった者が羨ましい。
    「手帳は持ち主を映すもの。思うまま綴れば良いのだ」
    「……からっぽ、でも?」
    「白紙も個性だろ?」
     告げる有無とキィンに、さかなは瞬きをして。
     おもむろに、日付も罫線もない、全ページ白紙の手帳を手に取った。
     ――からっぽの自分と、真っ白の手帳。おそろい。
    「ん。これに、する」
     帰ったら、今日会った皆の名前を書くと告げ。
     さかなはようやく、手帳を手にレジへ向かった。
    「いいのあったかー」
     万年筆をメンテ職人に預けに行っていた供助(d03292)が声をかけるや、藤乃(d03430)、煉火(d08468)、希沙(d03465)の三人が勢いよく振り返る。
    「手帳の種類が、こんなにあるとは吃驚です」
    「展示会とは、どうしてこう誘惑に満ちているのか!」
    「判る! テンション上がります!」
     藤乃や希紗は、今回が手帳デビュー。
     藤乃は流水紋や、椿、小紋雪輪の表紙に惹かれ、なかなか絞りきれない。
    「ね、希沙ちゃんはどれが良いかしら?」
    「きさはそれ! 椿の!」
     迷いのない選択が頼もしく、藤乃は「椿にしよう、かしら」と決意を固め。
     「百舟はどんなの?」と供助が問えば、
    「ボクは機能重視だな―。どシンプルな手帳を、1年かけて飾っていくのが楽しくてな!」
     納得する一同を前に、煉火は早々に白カバーの手帳を買い求めた。
    「どですか供さん、これ。できる男って感じですよ」
     希沙が本革手帳を手に供助に勧め見せるも、
    「今年は、よく使うメモ帳メーカーが手帳出すらしいから」
     と、迷いなく目当ての品を探しだす。
    「スタイリッシュですねー。色は……赤?」
    「鮮やかな青も、お似合いですよね」
    「アースカラーは?」
    「んー、じゃあアースカラーで」
     供助がレジに向かえば、残るは希沙の手帳だ。
    「おそろで買いなよ……おそろで買いなよ……」
     囁く煉火に笑い返し。
     悩んだ末、藤乃と柄違いの、小花咲く手帳に決めた。
    「真新しい手帳に予定を入れていくだけで、来年が待ち遠しいだろ」
    「自分の夢を、皆との想い出を書くのがとても楽しみだよ!」
    「彩り溢れる想い出で、白を埋めてけたらええな」
     ――一緒に買いに来た皆が、楽しい予定ばかりでありますように。
     藤乃は胸中でそう呟き。
     少しずつ白紙が埋まる想像に、ふわり、心を浮き立たせた。
     
     学生たちは、それぞれが選びとった品を胸に抱き、帰途につく。
     いずれ迎える、あたらしい年。
     鮮やかな日々の記憶や、想い出を。
     生きた証を。
     どうかたくさん、綴っていけますように――。
     
     

    作者:西東西 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2014年12月8日
    難度:簡単
    参加:34人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 6/キャラが大事にされていた 4
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