獄魔覇獄前哨戦～闇に凝れ

■リプレイ

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　作戦開始後。
「占い、か。朝のニュース番組で見たりするけど、人生を委ねるほどの関心は無いなあ……」
　告げる東屋・紫王（風見の獣・d12878）とともに、灼滅者たちは市内を駆けていた。
　途中、他班の灼滅者とすれ違えば逐一スレイヤーカードを提示し、カンナビス勢力の『成り代わり』ではないことを確認。
　時おり見かけたクロキバ勢力の犬猫眷属たちは、そのまま姿を見送った。
　連絡用の携帯電話へ次々と会敵の報が舞いこむなか、目当てである六六六人衆の姿は一向に見えてこない。
「なかなか、見つかりませんね」
「落ち着いていきましょう。焦りは禁物ですよ」
　椎木・なつみ（ディフェンスに定評のある・d00285）と鴻上・巧（混沌の虹と灰色の闇・d02823）の言葉に頷き、８人は『スーパーＧＰＳ』で現在地を確認しながら別の場所へと向かった。
　やがてたどりついたのは、横須賀市の東側。
　周囲を警戒していると、笛の音色に合わせ「チンチンドンドン」と賑やかな音が聞こえてくる。
「なんだ、あれ？」
　レイチェル・ベルベット（火煙シスター・d25278）の視線の先には、太鼓や鉦（かね）、旗を手に練り歩くスーツ姿の男女が複数名。
　掲げる旗には、『斬新コーポレーション』という文字とロゴが見えた。
　太鼓を手に口上を述べるのは、黒スーツに赤いセルフレーム眼鏡をかけた女だ。
「横須賀市内を逃走中のラグナロクを探しています！　お見かけの際は『斬新コーポレーション』までお知らせくださ～い！　あ、ご本人の申し出も大歓迎なので、ラグナロクさんは気軽に声を掛けてね☆」
　ノリノリなのは女だけで、後に続く旗持ちやビラ配りのスーツ男子たちは、げんなりした様子だ。
「リーダー。もうイイトシなんですから……」
「こんな回りくどいやり方はやめて、手あたりしだい拷問していきましょ――」
　男たちが言い終える前に、女のピンヒール回し蹴りがさく裂。
「我が社の社風は！？」
「ざ、『斬新なアイデアを尊ぶ』、です」
「その通り！　斬新なアイデアなくして出世なし！　そもそも我らが斬新社長の『マーケティング予測』は絶対なのですから、無能なアナタがた派遣社員は黙って働いていれば良いのです！」
　そう叱責して再び太鼓を鳴らそうとした時には、周囲からすっかりひとの気配が消えていた。
　残っているのは眼鏡の女――六六六人衆と派遣社員たちの前に立ちはだかる、８人の灼滅者だけ。
　女はすぐに、彼らのはなつ殺気が一般人たちを遠ざけたことに気づき、
「……出ましたね、灼滅者」
　まるで害虫が現れたかのように、忌々しげに吐き捨てる。
「それはこっちのセリフだぜ！」
「――交戦開始（エンゲージ）」
　確かめるように髪留めに触れ、威勢よく告げた槌屋・康也（荒野の獣は内に在り・d02877）と、スレイヤーカードを掲げた病葉・眠兎（紙月夢奏・d03104）の言葉を契機に、武器を手にした灼滅者たちは、一斉に攻撃をしかけた。

●
　眼鏡の女率いる部隊は、六六六人衆１体と、強化一般人である派遣社員が４体。
　それぞれチンドン屋の小道具を放り投げると、積極的に斬りかかってきた。
「貴方たちの企み、ここで『破壊する』よ！」
　神秘的な淡い青のオーラをまとった巽・空（白き龍・d00219）は、派遣社員の攻撃をかわし、雷とともにアッパーカットを叩きこむ。
　放物線を描き吹っ飛んだ男のもとへは、すぐに別の派遣社員が駆け寄った。
　ナイフを手にした男が周囲に霧を発生させたのを確認し、
「あの派遣社員が、癒し手のようです！」
　静闇・炉亞（君咲キ刻ム蝶・d13842）は仲間たち全員に聞こえるよう声をあげ、瑠璃色の蝶を刻んだ漆黒の剣で、向けられた攻撃を相殺。
「了解。狙っていくよ」
　すぐにガトリングガンの銃口を定めた紫王に続き、スカートをひるがえしたレイチェルもガトリングガンを構えた。
「ふははは！　頭数こそ戦のジャスティス！　卑怯とは言わせねえ！」
　そろって引鉄を引けば、雨あられのごとく銃弾が降りそそぐ。
　気づいた別の男が一部の攻撃をかばいに走ったが、もう遅い。
　集中攻撃を受けた癒し手は全身に被弾し、その場に倒れ、こと切れた。
「くそっ！」
　かばった男が自己回復する様子を見るに、他に専属の回復手はいないようだ。
「あとは、残りの派遣社員に攻撃を集中、ですね……！」
　なつみはオーラを集束させ、壁役と思われる男へ百の拳を炸裂させる。
　銃弾の傷を癒しきれなかった男には、もはや攻撃を踏み耐えるだけの体力は残っていない。
　追撃を受け地面に叩きつけられると、そのまま、動かなくなった。
「下っ端を倒したくらいで、いい気にならないことです灼滅者！」
　絶対不敗の暗示を己にかけた六六六人衆の大刀がうなり、前衛に立っていた灼滅者たちを四方に弾き飛ばす。
「すぐに、回復します……！」
　断罪輪を掲げた眠兎は、すぐに巨大な法陣を展開。
　傷を癒すと同時に、仲間たちの身に天魔を宿らせていく。
　女の攻撃に鼓舞されたのだろう。
　残る２人の派遣社員が奮い立ち、眠兎めがけ次々と影業をはなった。
「させるかっ！！」
　地を踏みしめた康也が、飛びあがるように眠兎の前に身を投げだし。
　影の刃に全身を斬り裂かれ、地面に倒れた。
「康也さん！」
　炉亞は康也を援護すべく、派遣社員へ向け剣を投げつける。
　貫かれた契約社員が地面に倒れ伏すも、続けて死角から迫った女の刃が、炉亞に狙いを定めた。
　その刹那、飛びだしたのは巧だ。
　うなる凶刃にその身を引き裂かれるも、血に染まった手でスーツを掴み、告げる。
「――燃えろ」
　傷口から炎をほとばしらせ、固めた拳で、女の身を穿った。
「チッ！」
　舌打ちした女は巧を突き飛ばし、覇気とともに延焼した炎をはらいにかかる。
「鴻上さん、大丈夫か！」
　血に染まった巧のもとへ駆け寄り、レイチェルはすぐにヒーリングライトを施した。
　あたたかい光に傷がふさがっていくのを確認し、巧は力強く、頷き返す。
　残る敵は、六六六人衆と派遣社員が各１体。
　空は繰りだされる攻撃を軽快なステップでかわし、残る派遣社員の間合いへ迫った。
「キミの仕事は、ここまでだよっ！」
　超硬度の拳で脇腹を撃ち抜けば、すでに傷を負っていた派遣社員は血を吐きながら吹き飛び、そのままぴくりとも動かない。
「全員、死にましたか」
　これだから契約社員は無能だと言わんばかりに、女がつぶやき。
「使い捨ての歯車とはいえ、部下の浪費はわたくしの出世に関わります」
　女は返り血に濡れた指で眼鏡を押しあげ、灼滅者たちを睨めつける。
「まあ、灼滅者の首が８つもあれば、あのいけすかない人事部長も納得するでしょう。……そういうわけですから、灼滅者。大人しく刀の錆になりなさい！」
　言い捨て、女が灼滅者たちの間合いへ跳躍。
　落下の勢いに乗せ、地面を断ち割るかのごとき勢いで大刀を振りおろした。
　怒涛の一撃にふたたび幾人かの灼滅者が弾き飛ばされるも、すぐに体勢をたて直した紫王の影業が、その冷静な瞳とは反対に女を荒々しく八つ裂きにする。
「今だよ、巧」
　名を呼び、立ち退いた紫王の影には、ガトリングガンを構えた巧の姿。
「ここで、終わらせます」
　言い終えるより早く、銃身が唸り。
　女は爆炎の魔力をこめた弾丸に穿たれ、見る間に炎に包まれていく。
　炉亞は右眼を見開いて『相手の死』を見つめると、
「あと、少しです……！」
　仲間たちを鼓舞すべく、得物を叩きつける。
　流しこまれた魔力は女の体内をかけめぐり、やがて内から弾け、右腕を吹き飛ばした。
　女は怒りの形相を血に染め、残る左腕で巨刀を持ちあげると、
「なりそこない風情が、アタシの出世街道を台無しにするんじゃないわよおぉぉお！！」
　康也めがけ、刀を一閃。
　強い衝撃に投げさされたかと思うと、目の前に超弩級の一撃が振りおろされていた。
　衝撃にひび割れたアスファルトに沈むのは、寸前に康也を突き飛ばした、なつみだ。
　当のなつみは地面に叩きつけられ、全身を襲う痛みに声をあげることもできない。
　康也は与えられた機会を無駄にすまいと、満身創痍の女を見据え、吠えた。
「てめぇはぜってー、ここでぶっ飛ばす！！」
　呼応するように、手にした聖剣がまばゆいの光をはなち。
　繰りだした白光の刃に斬り裂かれ、六六六人衆は炎にのまれ、灰となって消えていった。

●
　戦闘後。
　灼滅者たちは人目のつきにくい場所へ移動し、束の間の休息をとっていた。
　六六六人衆相手の立ち回りでは、壁役の者たちを中心に殺傷ダメージが重なってしまった。
　このまま連戦となればより戦闘不能の危険が高くなるため、一同はそれぞれが用意していた回復サイキックを使用し、互いに心霊手術を施すことに決める。
「ナムナム、いあいあ、えいめーん！」
「あの……。その掛け声は、必要なんでしょうか？」
　心霊手術を施すレイチェルの声にツッコミを入れながら、なつみは康也に手渡された缶おでんを手に、ほっと息をつく。
　一方、眠兎と炉亞は休息もそこそこに、携帯電話を手に他班の動向を探っていた。
「東地域の探索を行っていた班が……、ラグナロクさんを発見したそうです……！」
　届いた朗報に眠兎が喜びの声をあげ、仲間たちの間にも笑顔がひろがる。
　しかし、喜んでばかりもいられない。
　この状況が知れ渡れば、他のダークネス勢力もラグナログ奪取に動きだすはずだ。
　『スーパーＧＰＳ』を使用していた巧が、地図と情報を照らし合わせながら、ラグナロクと各班、そして自分たちの班の現在地を確かめる。
「……同じ東地域とはいえ、護衛に行くにはすこし距離がありますね」
　ひとまず移動し、敵戦力の数を減らしていこうと一同が立ちあがった時だ。
　対六六六人衆班として同地域を奔走するレイヴン（d24267）から連絡が入ったのだが、
『赤い看板が掛かった廃ビル付近で、人事部長と遭遇した。戦闘を開――』
　そこで、破壊音とともに通話が途切れた。
「人事部長！？」
「まさか、ラグナロクを狙って……！」
　空と炉亞の言葉に、巧が再び地図に視線を走らせる。
「だめです。ここからでは、間にあいません」
　紫王は状況を見直した後。
　騒然とする仲間たちへ向け、静かに、口を開いた。
「ラグナロクは、学園の仲間たちが必ず守り通すよ。そして人事部長の元へも、援護にたどり着けそうな班がいくつかある」
　穏やかな言葉を受け、仲間たちが頷き、冷静さを取りもどす。
「俺たちは、俺たちの仕事をしよう」
　己にも言い聞かせるような紫王の言葉に、康也は拳を固め、続けた。
「全員キッチリ守りきる、邪魔する奴はぶっ飛ばす！　そういうことだな！」
　――東地域の六六六人衆をすこしでも減らし、ラグナロク追走を食い止める。
　それが今の自分たちにできることだと、８人は急ぎ、付近の索敵にかかった。

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　ダークネス側にも独自の情報網があるのだろう。
　ラグナロク発見の報があった方角へ向かい移動を開始すると、六六六人衆の部隊はすぐに見つかった。
　構成は先ほどの部隊と同じ、ダークネス１に、強化一般人４。
　捜索を行う必要がなくなったためか先ほど戦った女のように『斬新な』行動はしておらず、まっすぐにラグナロクのいる方角めがけ駆けていく。
　よほどその存在を重視しているのか、一般人には目もくれずにいるところは不幸中の幸いだったといえよう。
　すぐに空と眠兎が『殺界形成』を展開。
　空はそのまま、六六六人衆部隊の行く先をふさぐべく軽快に躍りでた。
「この忙しい時に、灼滅者か！」
　うめく六六六人衆をよそに、
「今度はさっきよりも、もっと活躍しちゃうよ～！　みんなの出番がなくなっちゃうくらいにねっ♪」
　眼前の派遣社員に雷拳を見舞うと、ガッツポーズに笑顔で宣戦布告！
　続く炉亞は、激しい怒りをもってダークネスたちと対峙する。
「ラグナロクは、普通の人間じゃないですか。それを、景品みたいに、ゲームみたいに扱って……！　助けだすのです、皆で、絶対に！！」
　研ぎ澄まされた瑠璃色のオーラを練りあげ、攻撃を仕掛けようとした別の派遣社員を弾き飛ばした。
「もちろん、私も力の限り戦うぜ！」
　ガトリングガンを構えたレイチェルが不敵な笑みを浮かべ、宣誓とともに引鉄を引いた。
　弾幕から逃れるように動いた派遣社員の眼前に立つのは、紫王だ。
「ここから先には、行かせないよ」
　告げると同時にはなった炎の奔流は、ほかの派遣社員たちをものみこみ、容赦なく焼きつくす。
「なにをしている無能ども！　足止めもできないのか！」
　オールバックにスーツ姿の男六六六人衆が、いらだちをぶつけるように日本刀を一閃！
　月の如き衝撃派がはなたれるも、
（「――私が保つ限りは、回復を途切れさせません」）
「癒し手にも、矜持があるのですよ……！」
　傷ついた灼滅者たちの身体をすぐに眠兎の浄化の風が包みこみ、その背中を優しく支える。
「連携、お願いします！」
「任せてください！」
　WOKシールドで契約社員にタックルをかましたなつみに応え、巧が重い蹴りを炸裂させ、１体を撃破。
「てめぇも、ぶっ飛ばしてやるよ！」
　続く康也の影業が狼の如き姿で地を駆るや、飲みこまれた派遣社員はトラウマにのまれ、絶命していった。
　先ほどはやや手間取った契約社員たちも、次々に４体全員を撃破。
　歩調。呼吸。間合い。掛け声。
　それらすべてが先の戦闘よりも無駄なく機能し、８人の連携はより確かで、より強固なものになっていた。
　六六六人衆とてできうる限りの手数は打ったが、水を得た魚のごとき活躍を見せる少年少女たちを前にしては、もはや勝機はなかった。
　ガトリングガンを携えたレイチェルが至近距離から銃口をつきつけ、笑う。
「人生、諦めが肝心だぜ？」
「社長！　申し訳ありませんでしたァアア！！」
　男の叫びは、途中から絶叫に変わり。
　やがて穴だらけになった六六六人衆の身体は、地面に倒れ、灰となって霧散した。

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　携帯電話の向こうからは、今なお、戦況を伝える声が聞こえくる。
　人事部長は別班の仲間たちの追撃を受け、最終的に灼滅に成功。
　同地域の仲間たちの奮闘の甲斐あって、ラグナロクは六六六人衆の総攻撃を逃れ、無事、脱出できたらしい。
「これで、ひとまずは安心……でしょうか」
　だれひとり仲間が倒れずに済んだことと、ラグナロクの脱出。
　その２つの事実を前に、眠兎が安堵の吐息をこぼす。
　灼滅者たちは念のため周囲を確認したが、もはや近辺に、六六六人衆の姿はないようだ。
「あとは、今この瞬間も頑張っている、皆さんを信じましょう」
　空の言葉に、一同はそろって頷き。
　学園へ戻るべく、最寄りの駅へ向けて歩きだした。

　――ともに戦う仲間が互いを強く信頼しあえば、今よりももっと、強くなれる。
　そのことを実感した今、８人の胸を、これまでにない充足感が満たしていた。
　
　

作者：西東西	重傷：なし 死亡：なし 闇堕ち：なし
種類： 公開：2014年12月12日 難度：普通 参加：8人 結果：成功！
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