魔人生徒会~編みもの教室 ハンドニットの宝物

    作者:西東西


     ある日のこと。
     教室の片隅に据えられたモニターに、魔人生徒会からのメッセージ映像が映しだされた。
    『夏が終わり、秋が来て……。最近はすっかり、冷えこんできましたねぇ』
     語りだしたのは、すらりと細い長身に、だらしなく服を着崩した魔人生徒会メンバーだ。
     シルエットからボサボサ頭であることはわかるものの、顔を映そうとするたびにカメラが激しくブレたり、ゆるかわで渋ダンディなナノナノが横切ったりと邪魔が入り、それが『誰か』までははっきりとわからない。
     正体は誰なんだとやきもきする生徒たちをよそに、映像の中の魔人生徒会メンバーは、続ける。
    『ところで、クリスマスのプレゼントはもう決めましたか?
     まだの方がいらっしゃれば、手編みの品などいかがでしょう。
     セーターのような大きなもの以外にも、指編みのマフラーやシュシュ、帽子等ならだれでも簡単に作れますよ?
     作り方さえ覚えれば、パッチワークなんかも楽しいものです。
     と、いうわけで――』


    「魔人生徒会から、『編みもの教室』を開催するとの告知があった」
     イベントの周知を依頼されたという一夜崎・一夜(大学生エクスブレイン・dn0023)が、教室に集まった学生たちへ説明をはじめる。
    「『皆で一緒に編みものをしよう!』という趣旨なので、難しいことはひとつもない。初心者から上級者まで、編みものに興味のある者ならだれでも歓迎だ」
     編み物をするなら、『編み手』として参加すればいい。
     もし手慣れた者がいるなら、『教える側』にまわって皆の作品作りを励ますこともできる。
    「かくいう私も一年近く編み棒を触っていなかったので、すっかり手の動かし方を忘れてしまった。だれか詳しい者がいてくれれば、心強いよ」
    「……わたしも。あみもの。やって、みたい」
     それまで静かに話を聞いていた七湖都・さかな(終の境界・dn0116)が、ぽつり、つぶやいて。
    「もちろん、七湖都も歓迎するよ」
     告げた一夜が、イベント案内のプリントを配布する。
    「編み棒などの道具は学園の家庭科室から借りれば良いし、単色の毛糸であれば、いくつか用意できる。材料にこだわる者は、当日、好きな毛糸や道具を持参すると良いだろう」

     間近に迫ったクリスマスに向けて。
     あなたも、手編みのプレゼント作りはいかがですか?


    ■リプレイ


     クリスマス前の、ある日の午後。
     空き教室のひとつに、『魔人生徒会 編みもの教室』の貼り紙が掲示され。
     部屋の隅に、ストーブひとつ。
     学生たちは自由に机を寄せあうと、思い思いに、手仕事をはじめた。
    「ユウリが一緒に来てくれて、助かった」
     告げる貫(d01100)の隣には、先生役の結理(d00949)。
    「僕たちからのクリスマスプレゼント、頑張って作ろうね!」
     二人が編むのは、貫のナノナノ『らいもん』の為の冬用衣装。
     貫が帽子、結理がケープ担当だ。
    「耳あて付きニット帽なんてのもあるのか。いつものと違った形でいいかもな」
     編み図が決まれば、作業開始!
    「急がなくて大丈夫だから、一個ずつ編んでこう?」
     結理は手元を見せながら、ゆっくりと毛糸を手繰っていく。
     過去に編み物をやっていたというエリアル(d11655)も、
    「久しぶりだけど、多分いけると思う」
     と、さっそく作業に取りかかる。
     編むのは、千代(d05646)のイメージキャラである『イカちゃん』指人形だ。
    「千代さんは何を作るの?」
    「私はねー『大撲殺ちゃん』かなー」
     キモカワが表現できるか心配と告げる様子に、エリアルは「がんばれ」とエールを送る。
    「颯音さんは、差しあげたい方がいらっしゃるのですか?」
     編み物を贈る予定はないけれど、練習を兼ねて参加したという燈子(d00181)が問いかけたのは、颯音(d02106)。
    「あげたい人は、特にいないかな」
     そう答え、颯音は一色編みのマフラーを編み進める。
    「恋話とかしちゃう?」
     「俺さびしー感じだけどね!」と笑いかければ、
    「……聞きたいのですか?」
    「ごめん顔怖いデス……」
     目の笑っていない燈子に謝罪し、颯音は指先に意識を戻した。
     家事全般を苦手とする英(d21202)は、今まで音羽(d21214)と参加したイベントでことごとく音羽に甘えてきた。
     ――しかし、このイベントは違う!
    「さっくん、今日はよろしくお願いしますなの♪」
     告げる音羽に英(d21202)は重々しく頷き、内心ガッツポーズ。
    (「俺の得意な手芸! 音羽は少し苦手らしい。だがちょっぴり隙のあるところがかわいいさすが俺の天使」)
     紅い毛糸玉を手に、編み初めのコツと、手の動かし方を指南する。
    「わぁ! さっくん凄いの……!」
     魔法の様に編み進めていく英を見やり、音羽も改めて気合を入れ直す。
    「よーっし、私も頑張るのー!」
    「いやはや、編み物とか久しぶりだな」
     教室の賑わいを見やりながら、作業を始めたのは彰嗣(d01840)。
     白と水色のマーブルの毛糸を使い、慣れた手つきで花のモチーフを作っていく。
    「帰結。わっか作ったら、そこに針通して引っ掻けて」
    「……こう?」
     一方、帰結(d01530)は初めて手にする編み棒の動かし方に慣れず、ぎこちない手つきだ。
    「上手にできるかわかんないけど……頑張る」
     明るいオレンジの毛糸に、ひと編み、ひと編み、想いをこめていく。
    「編み物? やったことあるわけねぇだろ」
     豪語する葉(d02409)の向かいには、
    「頑張りゃ何とかなるだろ」
     同じく初編み物の十織(d05764)の姿。
     作るのは、『身長186.9cmのデカい男がナノナノごとすっぽり入れる2mの靴下』だ。
     サンタサン(十織)からプレゼント(ナノナノの九紡)を貰わんがため、葉が挑む。
     寄せ集めの毛糸が入った大袋をどんと脇に置き、九紡をその隣へ。
    「さあ、始めるか。……で、編むってのはどうやるんだ?」
     毛糸の先をつまみ問う十織を前に、葉の胸に今更ながら一握の不安が去来する。
    (「……コイツは駄目だ」)
     九紡を見やる。
    (「……やっぱかわいい」)
     が、ナノナノは羽根しかないので編み物はできない。
    「クッソ、俺は諦めねぇぞ!!」
     葉は自らを鼓舞するように叫び、大仕事に取りかかる。
     律花(d07319)は何色で編もうと悩む灯倭(d06983)を見かね、
    「彼氏さんに作るのよね? それなら、灯倭ちゃんの目の色のオレンジ系とかもいいかも」
     と、隣からアドバイス。
     じゃあそうしようかなと灯倭が頷き、
    「律花ちゃんも、恋人さんに作るんだよね?」
    「相方にね。好きな色の青で、マフラーにしようかしら」
    「クールで素敵なお似合いのカップルさんって聞いてるよ!」
    「お、お似合いは灯倭ちゃんトコもだから、ね?」
     「背が高くて優しい人なんでしょ?」と続ければ、照れ笑いする灯倭が微笑ましい。
     その傍で四つの机を寄せあうのは、【編み物研究部】から参加した4人組。
    「ふふふ、この時を待っていました」
     不敵な笑みを浮かべるのは、好弥(d01879)。
     どれほどの腕前かと思いきや、
    「――でも編み物はほとんどしてないので、教えて下さい」
     と、素直に3人に申し出る。
    「みんなは何を作るのー?」
     本番を前に、今日は練習をするのだと勇むオリキア(d12809)へ、
    「フェレットぐるみにしてみようかな? 難易度高そうだけど、多分大丈夫きっと~」
     可愛いフォルムを再現したいと、織兎(d02057)も意気込む。
     都璃(d02290)もマフラーを作ると告げ、
    「贈る相手は、まぁ、その、こ、いや、か、彼氏……に」
     去年より良い物を、という想いで、毎年マフラーを贈っているらしい。
     3人に教わりながら編めればと、好弥も自分用のマフラーを編むことに決めた。
    「1年の成果を見せるときだぞ~」
    「切磋琢磨しながら、いい物を作れるように頑張りましょう!」
     一方、教室の片隅には個人参加の面々が集まり、頭を寄せあっていた。
    「人生初めての編み物なんやけど、先生がいはったら失敗せんと編みあがるでしょか」
    「……ん、わたしも。おしえて、ほしい」
     不安げに申告する希沙(d03465)の隣で、全く同じ境遇のさかな(dn0116)が頷く。
    「だが残念なことに。ここに居るほぼ全員が、初心者だ」
     告げる一夜(dn0023)は、にべもない。
     集まった者のうち、教える側で参加すると告げたのはわずか数名。
     その数名も連れが居るので、聞くのは最終手段にしようというのが一夜の言だ。
     冬になると編み物をやりたくなると言う瞳(d13296)や、去年が初チャレンジという千巻(d00396)も、
    「編むの好きなんだけど、まだ小物くらいしか作った事ないのよねー」
    「ちょこちょこ続けてたし、何作ったか分かる程度にはなってきた! はずっ」
     と、ひとに教えるには少々心もとない。
    「何冊か、初心者用の本を持参しました。これを見ながら、少しずつ編んでみませんか?」
     奈那(d21889)が告げれば、九音(d27698)が一冊本を見せて欲しいと申し出る。
    「家庭科は得意な方だし、本や皆の作る様子を見ながら頑張れば、ひどい失敗はしないかな、と」
     聞けば、瞳と希沙がニット帽。
     奈那と九音がマフラー。
     一夜と啓太郎(d25104)が編みぐるみ。
     千巻が靴下で、さかなが雪の結晶モチーフと、作る物が一部被っている。
    「編み物は今まで全くやったことがないので、教えて頂ければ嬉しいです」
    「カエルを作るため、編みぐるみは一時期大量に作ったものだ。指南役は任せてもらおう」
     告げる啓太郎へ、一夜はどこか得意げに笑みを深めた。
     ――編み物に限らず、何かを作るのは馴染まない。
    「けど201の皆の様子見てると、そこまで構えなくてもイイかなーって。というわけで、お願いします!」
    「こちらこそ、宜しく」
     エルメンガルト(d01742)の声に、供助(d03292)も軽く頭をさげる。
     問えば、マフラーを作るという。
    「オレが巻くワケじゃないから、短くてもいーのかな」
    「指リリアン編みでいくか? 網目大きくなるから、毛糸は太いやつの方が良い」
    「編み方はそれで。色は、ピンクにしよう。女の子用だよ」
    「女子になんだ……へぇ」
     供助は意外そうに告げ、色々持ってきたからと、机上に毛糸を並べていった。


     時計の針が、きっかりL字を描くころ。
    「みんな~、どんな感じ~?」
     織兎が声をかければ、
    「柄として憂鬱という字を編みこみますよ、もちろん嘘ですよー」
     長方形なら作りやすそうと編み始めた好弥が、毛糸と格闘しながらも、答える。
    「わっ! 織兎のあみぐるみ、かわいいーっ!」
     織兎の手元を見やり、歓声をあげたのはオリキア。
     すぐにどや顔で編み途中のマフラーを掲げ見せ、
    「ボクはラベンダー色のマフラー! 今日はこのまま、仕上げまでいっちゃいたいなぁ」
     隣では、都璃が黙々と編み続けている。
     集中するあまり、周囲の声が届いていないようだ。
    「え、あ、何だ!?」
     視線に気づき顔をあげた都璃だったが、すぐに「あー」と頭を抱える。
     慌てて手元から目を離したせいで、数えていた編み目の数が頭から飛んだらしい。
    「そろそろ休憩する~?」
     織兎が提案すれば、
     「じゃじゃーん!」と、オリキアが声をあげ。
    「ホットココアとクッキーを持ってきたんだよっ! みんなで一緒に食べようー♪」
     と、それぞれの机に配っていく。
    「糖分補給してー、がんばろうねーっ!」
     4人は手を止め、しばしの間、甘味と閑談を楽しんだ。
     同じころ、エリアルが千代の手元を見やれば、すでに包帯姿の人形ができあがっていて。
    「僕よりも上手じゃないか。さすが」
    「上手い、かなぁ? 昨日練習したかいが――」
    「えっ?」
     聞きかえす声に、千代は「何でもない!」と満面の笑顔。
    「ふんわり柔らかく……」
     編んだ目を詰め過ぎぬよう気をつけながら、音羽は懸命に編み進めていた。
     途中でわからなくなれば英に聞き、最後まで諦めず、完成を目指す。
    「灯倭ちゃんの彼氏さんも背が高いから、長めに編まないとよね? いっそ、二人で使えるくらい長くしてみれば?」
     悪戯っぽく律花が告げれば、身長差がすごいから長ーく作らないとと、灯倭も笑う。
     前に編んだマフラーは失敗しちゃったからと零し、
    「今度は大好きな人にあげるから、絶対素敵なマフラーにするんだ」
    「ステキなマフラーになるわよ」
     断言する律花の言葉に、目を細め。
    「律花ちゃんのも、ね」
    「ええ、私も。負けてられないわ」
     そう、二人で笑い交わし。
     互いに完成をめざすべく、手元へと意識を戻した。
     山吹色のマフラーの端に描いたのは、鳥柄のワンポイント。
     目を数えながら丁寧に仕上げた燈子は、隣を見てふふと微笑む。
    「颯音さんの編み姿は、なんだか可愛らしいです」
    「『可愛い』は、とーこちゃんの様な可愛らしい女の子ならあうと思うけれども!」
     告げる颯音の手の中では、着々とマフラーが紡がれていて。
     グレーの太い毛糸を手に、供助はエルメンガルトへ、ゆっくり編み方の工程をみせていた。
    「ちょっと待って、こんがらがった!」
     序盤なら解いてやり直した方が早いと、供助がすぐに指示を出す。
     解いた毛糸を手に嘆息し、エルメンガルトは編み棒に持ち替えた供助を見やった。
    「キョンタは、なに編もうと思って参加したの?」
    「俺? スヌード作り」
     元気な奴用だから、解けないのがいいと思って、と答えれば、
    「モノ作りがニガテだって思うのは、なにを作るか思いつかないからでさ。いつも作ってるもの、どこから出てくるんだろうなって不思議に思ってた」
     ――考えたことも、なかった。
     供助は思わず手を止め、天井を仰いで。
    「……欲しいものが、自分で作れたらうきうきする、とか」
     始まりはそんな単純な感情だったと、初めて手作りした時の記憶へ、想いを馳せる。
     黙々と編み進めれば、想い出すのは去年のクリスマスのこと。
     ――プレゼントは、まだこない。
    「靴下ができたら、九紡と一緒に中に入れよサンタサン」
     そう葉が話しかけるも、当の十織はそれどころではない。
    「何かおもいっきり絡まったんだが。ああ」
     切ればいいのかと自己解決した十織が、ブチィッと毛糸を引きちぎり。
    「毛糸ちぎってんじゃねーよアホ!!」
     怒鳴られてもどこ吹く風。
     椅子から立ちあがった葉を前に、
    「慣れん作業は肩が凝るなぁ。ヨウ、ちっと叩いてくれ」
    「お次は肩叩きか! 10くらいサバ読んでるだろ、おっさん」
    「ほぼ同い年におっさん言うな」
     十織は「おかしいな、全く靴下の形にならんぞ」と、九紡を見やり不思議そうに首を傾げる。
    「あ、ニット帽って、アップリケつけたりとかできます?」
     希沙が問えば、瞳と奈那がすぐに答える。
    「毛糸が溶けちゃうから、アイロン付けのはNGね」
    「私は、市販の毛糸の花コサージュを縫い付ける予定です」
    「さかなちゃんみたいに、自分で編むのもいいよねぇ」
     千巻の声に見やれば、さかなはいくつもの雪の結晶モチーフを編み続けている。
    「わあ! いっぱい作ってんなあ」
    「色とか、形かえたら。きれい」
     何か作ってみようかなと呟く希沙に、私はてっぺんにポンポンを飾るつもりと、瞳が笑う。
    「この帽子の形、私の霊犬『庵胡』の名前の由来になった『あんころ餅』をモチーフにしてるのよ」
     喜んでもらえるとイイんだけどと零せば、
    「わたしのも……、喜んで貰えたら、嬉しいなぁ」
    「きっと、おおよろこび。だよ」
     瞳と希沙へ向け、さかなが頷く。
    「皆さん、大切な想いをこめて編んでいるんですね」
     奈那も手を止め、自分は親友のために編んでいるのだと微笑む。
    「いつも明るくて優しい大切なあの人に。感謝をこめて……」
    「わたしも、なかなか一緒に過ごすことのできない大切な人に。ささやかな贈り物をと思って」
    「僕も、恋人への贈り物ですね」
     九音の言葉に、啓太郎も続く。
     本当はマンタを作りたかったが、初心者には難しい造形だ。
    「来年の干支なら縁起も良く、可愛いですし、羊を編むことに決めました」
    「アタシのは自分用だよぉ。こうやってコツコツといい子ポイント稼いで、今年こそはサンタさんに来てもらうのだっ」
     飾った後は自分で使えばあったかいし、一石二鳥!と、千巻はぐっと手を握りしめた。
    「折り返しはこうやって」
     貫は結理の説明を真剣に聞き、編み進める。
     最初に比べれば、手つきは慣れたもの。
     どうしてこの教室に参加したのかと結理が問えば、
    「あいつが今被ってるニット帽、市販品に耳出す穴開けただけだからな。サイズが合ってないし、ほつれてきてるし」
    「だったら、また買っても良かったんじゃないの?」
    「丁度良いイベントだったから、せっかくだし?」
     結理はふっと表情をほころばせ、
    「きっと喜んでもらえるよ。だって、心が一杯こもってるもの」
     貫を励まし、ケープの仕上げに入った。


     夕方。
     教室の窓に夕陽が差しこむころには、あちこちから作り終えた者たちの喜びの声があがっていた。
     颯音は完成したマフラーを、ふわり、燈子の首に巻いてみせ。
    「……これで更に可愛くなってくれたら、とっても嬉しいな」
     燈子は花咲くマフラーに顔を埋め、
    「一緒に編み物できて楽しかった、です」
     温もりに包まれながら、そっと、微笑んだ。
    「さっくん、できたよっ♪」
     予定よりも長くなったものの、音羽は完成したマフラーを英へ。
    「これもさっくんが教えてくれたおかげなの♪ さっくん、ありがとうっ♪」
     感謝の言葉を告げる音羽へ、英はこっそり編み進めていたリス耳付きの帽子をさしだす。
    「これは、俺から音羽へ」
     サプライズに喜ぶ顔を前に、優しく笑った。
     一方、完成した『イカちゃん』を前に、エリアルは想像していたのと違うと不満顔。
    「これでも良ければ千代さんにあげる」
    「やったー! ありがとう! 大撲殺ちゃんも、貰ってくれるかなぁ?」
     部屋に置いたり、カバンに付けても可愛いかも、と千代がさしだせば、
    「有り難う、大切にするよ」
     可愛さの方が勝ってるねと、エリアルは嬉しそうに受け取った。
     帰結は焦る気持ちを抑えながら、彰嗣の教え通りに、編み物にだけ集中する。
     そして、
    「できた……!!」
     ようやくあがった明るい声に、
    「ん、頑張ったな、綺麗にできてる。上出来じゃん」
     よく最後まで諦めなかったなと、彰嗣がたっぷり、労って。
     帰結は手仕事を終えた充足感に包まれながら、意を決し、告げた。
    「それ、アキ君に。寒い冬も、アキ君があったかくいられるように……」
     その言葉に、彰嗣は嬉しそうに目を細め、
    「これは、帰結に」
     花のモチーフをあしらったヘアゴムを、そっと、灰色の髪に飾った。
     初心者勢はといえば、完成までもう少しといったところ。
    「えーと、目は糸の色を変えればいいのかな?」
    「色変えより、ボタンを縫い付ける方が簡単で個性もでるぞ」
     一夜が啓太郎へボタン付けを教えていると、視界の端に、もの思いにふける千巻の姿が。
     ――来年は、どうなるんだろ。
    「朝山。朝山!」
     呼ぶ声に我に返れば、手元の網目がちぐはぐになっている。
    「あ、いかん! 集中集中っ、と」
     糸を解く千巻を見やり、希沙と瞳が持参した紅茶と飴を、一同にさしだす。
    「息抜きに、紅茶はいかがです?」
    「もし良かったら、私の飴もどうぞ♪」
    「ありがとうございます。落ち着きますね」
     口に含んだ温もりと甘さに、奈那の疲労も和らいでいく。
     九音は皆よりも一足早くできあがったマフラーを、丁寧にラッピング。
     マフラーは、二人で巻けるよう長めに編んだ。
    (「いつか、一緒に使ってくれるかな……」)
     淡い期待を抱きながら、包みをしまいこみ。
     ほのかに広がる紅茶の香りを、胸いっぱいに吸いこんだ。
     
     

    作者:西東西 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2014年12月21日
    難度:簡単
    参加:26人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 9/キャラが大事にされていた 3
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