●
ある日のこと。
教室の片隅に据えられたモニターに、魔人生徒会からのメッセージ映像が映しだされた。
『夏が終わり、秋が来て……。最近はすっかり、冷えこんできましたねぇ』
語りだしたのは、すらりと細い長身に、だらしなく服を着崩した魔人生徒会メンバーだ。
シルエットからボサボサ頭であることはわかるものの、顔を映そうとするたびにカメラが激しくブレたり、ゆるかわで渋ダンディなナノナノが横切ったりと邪魔が入り、それが『誰か』までははっきりとわからない。
正体は誰なんだとやきもきする生徒たちをよそに、映像の中の魔人生徒会メンバーは、続ける。
『ところで、クリスマスのプレゼントはもう決めましたか?
まだの方がいらっしゃれば、手編みの品などいかがでしょう。
セーターのような大きなもの以外にも、指編みのマフラーやシュシュ、帽子等ならだれでも簡単に作れますよ?
作り方さえ覚えれば、パッチワークなんかも楽しいものです。
と、いうわけで――』
●
「魔人生徒会から、『編みもの教室』を開催するとの告知があった」
イベントの周知を依頼されたという一夜崎・一夜(大学生エクスブレイン・dn0023)が、教室に集まった学生たちへ説明をはじめる。
「『皆で一緒に編みものをしよう!』という趣旨なので、難しいことはひとつもない。初心者から上級者まで、編みものに興味のある者ならだれでも歓迎だ」
編み物をするなら、『編み手』として参加すればいい。
もし手慣れた者がいるなら、『教える側』にまわって皆の作品作りを励ますこともできる。
「かくいう私も一年近く編み棒を触っていなかったので、すっかり手の動かし方を忘れてしまった。だれか詳しい者がいてくれれば、心強いよ」
「……わたしも。あみもの。やって、みたい」
それまで静かに話を聞いていた七湖都・さかな(終の境界・dn0116)が、ぽつり、つぶやいて。
「もちろん、七湖都も歓迎するよ」
告げた一夜が、イベント案内のプリントを配布する。
「編み棒などの道具は学園の家庭科室から借りれば良いし、単色の毛糸であれば、いくつか用意できる。材料にこだわる者は、当日、好きな毛糸や道具を持参すると良いだろう」
間近に迫ったクリスマスに向けて。
あなたも、手編みのプレゼント作りはいかがですか?
●
クリスマス前の、ある日の午後。
空き教室のひとつに、『魔人生徒会 編みもの教室』の貼り紙が掲示され。
部屋の隅に、ストーブひとつ。
学生たちは自由に机を寄せあうと、思い思いに、手仕事をはじめた。
「ユウリが一緒に来てくれて、助かった」
告げる貫(d01100)の隣には、先生役の結理(d00949)。
「僕たちからのクリスマスプレゼント、頑張って作ろうね!」
二人が編むのは、貫のナノナノ『らいもん』の為の冬用衣装。
貫が帽子、結理がケープ担当だ。
「耳あて付きニット帽なんてのもあるのか。いつものと違った形でいいかもな」
編み図が決まれば、作業開始!
「急がなくて大丈夫だから、一個ずつ編んでこう?」
結理は手元を見せながら、ゆっくりと毛糸を手繰っていく。
過去に編み物をやっていたというエリアル(d11655)も、
「久しぶりだけど、多分いけると思う」
と、さっそく作業に取りかかる。
編むのは、千代(d05646)のイメージキャラである『イカちゃん』指人形だ。
「千代さんは何を作るの?」
「私はねー『大撲殺ちゃん』かなー」
キモカワが表現できるか心配と告げる様子に、エリアルは「がんばれ」とエールを送る。
「颯音さんは、差しあげたい方がいらっしゃるのですか?」
編み物を贈る予定はないけれど、練習を兼ねて参加したという燈子(d00181)が問いかけたのは、颯音(d02106)。
「あげたい人は、特にいないかな」
そう答え、颯音は一色編みのマフラーを編み進める。
「恋話とかしちゃう?」
「俺さびしー感じだけどね!」と笑いかければ、
「……聞きたいのですか?」
「ごめん顔怖いデス……」
目の笑っていない燈子に謝罪し、颯音は指先に意識を戻した。
家事全般を苦手とする英(d21202)は、今まで音羽(d21214)と参加したイベントでことごとく音羽に甘えてきた。
――しかし、このイベントは違う!
「さっくん、今日はよろしくお願いしますなの♪」
告げる音羽に英(d21202)は重々しく頷き、内心ガッツポーズ。
(「俺の得意な手芸! 音羽は少し苦手らしい。だがちょっぴり隙のあるところがかわいいさすが俺の天使」)
紅い毛糸玉を手に、編み初めのコツと、手の動かし方を指南する。
「わぁ! さっくん凄いの……!」
魔法の様に編み進めていく英を見やり、音羽も改めて気合を入れ直す。
「よーっし、私も頑張るのー!」
「いやはや、編み物とか久しぶりだな」
教室の賑わいを見やりながら、作業を始めたのは彰嗣(d01840)。
白と水色のマーブルの毛糸を使い、慣れた手つきで花のモチーフを作っていく。
「帰結。わっか作ったら、そこに針通して引っ掻けて」
「……こう?」
一方、帰結(d01530)は初めて手にする編み棒の動かし方に慣れず、ぎこちない手つきだ。
「上手にできるかわかんないけど……頑張る」
明るいオレンジの毛糸に、ひと編み、ひと編み、想いをこめていく。
「編み物? やったことあるわけねぇだろ」
豪語する葉(d02409)の向かいには、
「頑張りゃ何とかなるだろ」
同じく初編み物の十織(d05764)の姿。
作るのは、『身長186.9cmのデカい男がナノナノごとすっぽり入れる2mの靴下』だ。
サンタサン(十織)からプレゼント(ナノナノの九紡)を貰わんがため、葉が挑む。
寄せ集めの毛糸が入った大袋をどんと脇に置き、九紡をその隣へ。
「さあ、始めるか。……で、編むってのはどうやるんだ?」
毛糸の先をつまみ問う十織を前に、葉の胸に今更ながら一握の不安が去来する。
(「……コイツは駄目だ」)
九紡を見やる。
(「……やっぱかわいい」)
が、ナノナノは羽根しかないので編み物はできない。
「クッソ、俺は諦めねぇぞ!!」
葉は自らを鼓舞するように叫び、大仕事に取りかかる。
律花(d07319)は何色で編もうと悩む灯倭(d06983)を見かね、
「彼氏さんに作るのよね? それなら、灯倭ちゃんの目の色のオレンジ系とかもいいかも」
と、隣からアドバイス。
じゃあそうしようかなと灯倭が頷き、
「律花ちゃんも、恋人さんに作るんだよね?」
「相方にね。好きな色の青で、マフラーにしようかしら」
「クールで素敵なお似合いのカップルさんって聞いてるよ!」
「お、お似合いは灯倭ちゃんトコもだから、ね?」
「背が高くて優しい人なんでしょ?」と続ければ、照れ笑いする灯倭が微笑ましい。
その傍で四つの机を寄せあうのは、【編み物研究部】から参加した4人組。
「ふふふ、この時を待っていました」
不敵な笑みを浮かべるのは、好弥(d01879)。
どれほどの腕前かと思いきや、
「――でも編み物はほとんどしてないので、教えて下さい」
と、素直に3人に申し出る。
「みんなは何を作るのー?」
本番を前に、今日は練習をするのだと勇むオリキア(d12809)へ、
「フェレットぐるみにしてみようかな? 難易度高そうだけど、多分大丈夫きっと~」
可愛いフォルムを再現したいと、織兎(d02057)も意気込む。
都璃(d02290)もマフラーを作ると告げ、
「贈る相手は、まぁ、その、こ、いや、か、彼氏……に」
去年より良い物を、という想いで、毎年マフラーを贈っているらしい。
3人に教わりながら編めればと、好弥も自分用のマフラーを編むことに決めた。
「1年の成果を見せるときだぞ~」
「切磋琢磨しながら、いい物を作れるように頑張りましょう!」
一方、教室の片隅には個人参加の面々が集まり、頭を寄せあっていた。
「人生初めての編み物なんやけど、先生がいはったら失敗せんと編みあがるでしょか」
「……ん、わたしも。おしえて、ほしい」
不安げに申告する希沙(d03465)の隣で、全く同じ境遇のさかな(dn0116)が頷く。
「だが残念なことに。ここに居るほぼ全員が、初心者だ」
告げる一夜(dn0023)は、にべもない。
集まった者のうち、教える側で参加すると告げたのはわずか数名。
その数名も連れが居るので、聞くのは最終手段にしようというのが一夜の言だ。
冬になると編み物をやりたくなると言う瞳(d13296)や、去年が初チャレンジという千巻(d00396)も、
「編むの好きなんだけど、まだ小物くらいしか作った事ないのよねー」
「ちょこちょこ続けてたし、何作ったか分かる程度にはなってきた! はずっ」
と、ひとに教えるには少々心もとない。
「何冊か、初心者用の本を持参しました。これを見ながら、少しずつ編んでみませんか?」
奈那(d21889)が告げれば、九音(d27698)が一冊本を見せて欲しいと申し出る。
「家庭科は得意な方だし、本や皆の作る様子を見ながら頑張れば、ひどい失敗はしないかな、と」
聞けば、瞳と希沙がニット帽。
奈那と九音がマフラー。
一夜と啓太郎(d25104)が編みぐるみ。
千巻が靴下で、さかなが雪の結晶モチーフと、作る物が一部被っている。
「編み物は今まで全くやったことがないので、教えて頂ければ嬉しいです」
「カエルを作るため、編みぐるみは一時期大量に作ったものだ。指南役は任せてもらおう」
告げる啓太郎へ、一夜はどこか得意げに笑みを深めた。
――編み物に限らず、何かを作るのは馴染まない。
「けど201の皆の様子見てると、そこまで構えなくてもイイかなーって。というわけで、お願いします!」
「こちらこそ、宜しく」
エルメンガルト(d01742)の声に、供助(d03292)も軽く頭をさげる。
問えば、マフラーを作るという。
「オレが巻くワケじゃないから、短くてもいーのかな」
「指リリアン編みでいくか? 網目大きくなるから、毛糸は太いやつの方が良い」
「編み方はそれで。色は、ピンクにしよう。女の子用だよ」
「女子になんだ……へぇ」
供助は意外そうに告げ、色々持ってきたからと、机上に毛糸を並べていった。
●
時計の針が、きっかりL字を描くころ。
「みんな~、どんな感じ~?」
織兎が声をかければ、
「柄として憂鬱という字を編みこみますよ、もちろん嘘ですよー」
長方形なら作りやすそうと編み始めた好弥が、毛糸と格闘しながらも、答える。
「わっ! 織兎のあみぐるみ、かわいいーっ!」
織兎の手元を見やり、歓声をあげたのはオリキア。
すぐにどや顔で編み途中のマフラーを掲げ見せ、
「ボクはラベンダー色のマフラー! 今日はこのまま、仕上げまでいっちゃいたいなぁ」
隣では、都璃が黙々と編み続けている。
集中するあまり、周囲の声が届いていないようだ。
「え、あ、何だ!?」
視線に気づき顔をあげた都璃だったが、すぐに「あー」と頭を抱える。
慌てて手元から目を離したせいで、数えていた編み目の数が頭から飛んだらしい。
「そろそろ休憩する~?」
織兎が提案すれば、
「じゃじゃーん!」と、オリキアが声をあげ。
「ホットココアとクッキーを持ってきたんだよっ! みんなで一緒に食べようー♪」
と、それぞれの机に配っていく。
「糖分補給してー、がんばろうねーっ!」
4人は手を止め、しばしの間、甘味と閑談を楽しんだ。
同じころ、エリアルが千代の手元を見やれば、すでに包帯姿の人形ができあがっていて。
「僕よりも上手じゃないか。さすが」
「上手い、かなぁ? 昨日練習したかいが――」
「えっ?」
聞きかえす声に、千代は「何でもない!」と満面の笑顔。
「ふんわり柔らかく……」
編んだ目を詰め過ぎぬよう気をつけながら、音羽は懸命に編み進めていた。
途中でわからなくなれば英に聞き、最後まで諦めず、完成を目指す。
「灯倭ちゃんの彼氏さんも背が高いから、長めに編まないとよね? いっそ、二人で使えるくらい長くしてみれば?」
悪戯っぽく律花が告げれば、身長差がすごいから長ーく作らないとと、灯倭も笑う。
前に編んだマフラーは失敗しちゃったからと零し、
「今度は大好きな人にあげるから、絶対素敵なマフラーにするんだ」
「ステキなマフラーになるわよ」
断言する律花の言葉に、目を細め。
「律花ちゃんのも、ね」
「ええ、私も。負けてられないわ」
そう、二人で笑い交わし。
互いに完成をめざすべく、手元へと意識を戻した。
山吹色のマフラーの端に描いたのは、鳥柄のワンポイント。
目を数えながら丁寧に仕上げた燈子は、隣を見てふふと微笑む。
「颯音さんの編み姿は、なんだか可愛らしいです」
「『可愛い』は、とーこちゃんの様な可愛らしい女の子ならあうと思うけれども!」
告げる颯音の手の中では、着々とマフラーが紡がれていて。
グレーの太い毛糸を手に、供助はエルメンガルトへ、ゆっくり編み方の工程をみせていた。
「ちょっと待って、こんがらがった!」
序盤なら解いてやり直した方が早いと、供助がすぐに指示を出す。
解いた毛糸を手に嘆息し、エルメンガルトは編み棒に持ち替えた供助を見やった。
「キョンタは、なに編もうと思って参加したの?」
「俺? スヌード作り」
元気な奴用だから、解けないのがいいと思って、と答えれば、
「モノ作りがニガテだって思うのは、なにを作るか思いつかないからでさ。いつも作ってるもの、どこから出てくるんだろうなって不思議に思ってた」
――考えたことも、なかった。
供助は思わず手を止め、天井を仰いで。
「……欲しいものが、自分で作れたらうきうきする、とか」
始まりはそんな単純な感情だったと、初めて手作りした時の記憶へ、想いを馳せる。
黙々と編み進めれば、想い出すのは去年のクリスマスのこと。
――プレゼントは、まだこない。
「靴下ができたら、九紡と一緒に中に入れよサンタサン」
そう葉が話しかけるも、当の十織はそれどころではない。
「何かおもいっきり絡まったんだが。ああ」
切ればいいのかと自己解決した十織が、ブチィッと毛糸を引きちぎり。
「毛糸ちぎってんじゃねーよアホ!!」
怒鳴られてもどこ吹く風。
椅子から立ちあがった葉を前に、
「慣れん作業は肩が凝るなぁ。ヨウ、ちっと叩いてくれ」
「お次は肩叩きか! 10くらいサバ読んでるだろ、おっさん」
「ほぼ同い年におっさん言うな」
十織は「おかしいな、全く靴下の形にならんぞ」と、九紡を見やり不思議そうに首を傾げる。
「あ、ニット帽って、アップリケつけたりとかできます?」
希沙が問えば、瞳と奈那がすぐに答える。
「毛糸が溶けちゃうから、アイロン付けのはNGね」
「私は、市販の毛糸の花コサージュを縫い付ける予定です」
「さかなちゃんみたいに、自分で編むのもいいよねぇ」
千巻の声に見やれば、さかなはいくつもの雪の結晶モチーフを編み続けている。
「わあ! いっぱい作ってんなあ」
「色とか、形かえたら。きれい」
何か作ってみようかなと呟く希沙に、私はてっぺんにポンポンを飾るつもりと、瞳が笑う。
「この帽子の形、私の霊犬『庵胡』の名前の由来になった『あんころ餅』をモチーフにしてるのよ」
喜んでもらえるとイイんだけどと零せば、
「わたしのも……、喜んで貰えたら、嬉しいなぁ」
「きっと、おおよろこび。だよ」
瞳と希沙へ向け、さかなが頷く。
「皆さん、大切な想いをこめて編んでいるんですね」
奈那も手を止め、自分は親友のために編んでいるのだと微笑む。
「いつも明るくて優しい大切なあの人に。感謝をこめて……」
「わたしも、なかなか一緒に過ごすことのできない大切な人に。ささやかな贈り物をと思って」
「僕も、恋人への贈り物ですね」
九音の言葉に、啓太郎も続く。
本当はマンタを作りたかったが、初心者には難しい造形だ。
「来年の干支なら縁起も良く、可愛いですし、羊を編むことに決めました」
「アタシのは自分用だよぉ。こうやってコツコツといい子ポイント稼いで、今年こそはサンタさんに来てもらうのだっ」
飾った後は自分で使えばあったかいし、一石二鳥!と、千巻はぐっと手を握りしめた。
「折り返しはこうやって」
貫は結理の説明を真剣に聞き、編み進める。
最初に比べれば、手つきは慣れたもの。
どうしてこの教室に参加したのかと結理が問えば、
「あいつが今被ってるニット帽、市販品に耳出す穴開けただけだからな。サイズが合ってないし、ほつれてきてるし」
「だったら、また買っても良かったんじゃないの?」
「丁度良いイベントだったから、せっかくだし?」
結理はふっと表情をほころばせ、
「きっと喜んでもらえるよ。だって、心が一杯こもってるもの」
貫を励まし、ケープの仕上げに入った。
●
夕方。
教室の窓に夕陽が差しこむころには、あちこちから作り終えた者たちの喜びの声があがっていた。
颯音は完成したマフラーを、ふわり、燈子の首に巻いてみせ。
「……これで更に可愛くなってくれたら、とっても嬉しいな」
燈子は花咲くマフラーに顔を埋め、
「一緒に編み物できて楽しかった、です」
温もりに包まれながら、そっと、微笑んだ。
「さっくん、できたよっ♪」
予定よりも長くなったものの、音羽は完成したマフラーを英へ。
「これもさっくんが教えてくれたおかげなの♪ さっくん、ありがとうっ♪」
感謝の言葉を告げる音羽へ、英はこっそり編み進めていたリス耳付きの帽子をさしだす。
「これは、俺から音羽へ」
サプライズに喜ぶ顔を前に、優しく笑った。
一方、完成した『イカちゃん』を前に、エリアルは想像していたのと違うと不満顔。
「これでも良ければ千代さんにあげる」
「やったー! ありがとう! 大撲殺ちゃんも、貰ってくれるかなぁ?」
部屋に置いたり、カバンに付けても可愛いかも、と千代がさしだせば、
「有り難う、大切にするよ」
可愛さの方が勝ってるねと、エリアルは嬉しそうに受け取った。
帰結は焦る気持ちを抑えながら、彰嗣の教え通りに、編み物にだけ集中する。
そして、
「できた……!!」
ようやくあがった明るい声に、
「ん、頑張ったな、綺麗にできてる。上出来じゃん」
よく最後まで諦めなかったなと、彰嗣がたっぷり、労って。
帰結は手仕事を終えた充足感に包まれながら、意を決し、告げた。
「それ、アキ君に。寒い冬も、アキ君があったかくいられるように……」
その言葉に、彰嗣は嬉しそうに目を細め、
「これは、帰結に」
花のモチーフをあしらったヘアゴムを、そっと、灰色の髪に飾った。
初心者勢はといえば、完成までもう少しといったところ。
「えーと、目は糸の色を変えればいいのかな?」
「色変えより、ボタンを縫い付ける方が簡単で個性もでるぞ」
一夜が啓太郎へボタン付けを教えていると、視界の端に、もの思いにふける千巻の姿が。
――来年は、どうなるんだろ。
「朝山。朝山!」
呼ぶ声に我に返れば、手元の網目がちぐはぐになっている。
「あ、いかん! 集中集中っ、と」
糸を解く千巻を見やり、希沙と瞳が持参した紅茶と飴を、一同にさしだす。
「息抜きに、紅茶はいかがです?」
「もし良かったら、私の飴もどうぞ♪」
「ありがとうございます。落ち着きますね」
口に含んだ温もりと甘さに、奈那の疲労も和らいでいく。
九音は皆よりも一足早くできあがったマフラーを、丁寧にラッピング。
マフラーは、二人で巻けるよう長めに編んだ。
(「いつか、一緒に使ってくれるかな……」)
淡い期待を抱きながら、包みをしまいこみ。
ほのかに広がる紅茶の香りを、胸いっぱいに吸いこんだ。
作者:西東西 |
重傷:なし 死亡:なし 闇堕ち:なし |
|
種類:
公開:2014年12月21日
難度:簡単
参加:26人
結果:成功!
|
||
得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 9/キャラが大事にされていた 3
|
||
あなたが購入した「複数ピンナップ(複数バトルピンナップ)」を、このシナリオの挿絵にして貰うよう、担当マスターに申請できます。
|
||
シナリオの通常参加者は、掲載されている「自分の顔アイコン」を変更できます。
|