silence ordeal ~煉獄~

    作者:西東西


     歳末の夜。
     年越しの準備に追われる、小さな寺の敷地内にて。
    「……ふふ、ふふふふ……。灼滅者に勝てなかった。首のひとつも、おとせなかった。私いま、何位かしら? 六一四? 六二〇? それとももう番外かしらあはははははははははは!」
     壊れたように泣き嗤う少女の前に現れたのは、新たに現れたもうひとりの少女。
    「大丈夫、私にはあなたが見えます。灼滅されてなお、残留思念が囚われているのですね」
    「……るさい、うるさい! なにが面白いの! なにが楽しいの!? くだらない話ばっかり、もう、うんざりなのよ!」
    「私は『慈愛のコルネリウス』。傷つき、嘆く者を見捨てたりはしません」
    「あんたも、どうせ私を嘲笑ってるんでしょ! お前は生きてる価値がないって、そうなんでしょ!? もうたくさんよ! しね、しね、しねしねしねしねしね、みんな、しんでしまえばいい!!!」
    「……プレスター・ジョン。この孤独な少女を、あなたの国にかくまってあげてください」
     

    「見える、見える……」
     水晶玉に手をかざしていた遥神・鳴歌(中学生エクスブレイン・dn0221)が、集まった灼滅者たちに気づき、顔をあげる。
    「この間の戦いでは、助けてくれてありがとう! これからは特技の占いで、みなさんに助けて貰った恩返しをしていくわね。どうぞよろしく!」
     さっそくだけど、と鳴歌が説明をはじめたのは、先輩エクスブレインである一夜崎・一夜(大学生エクスブレイン・dn0023)から聞いたダークネスについてだ。
    「一年ほど前に灼滅した、『村椿・火緒(むらつばき・ひお)』っていう名前の六六六人衆のことを聞いて占ってみたんだけど……。その『火緒』って子の残留思念に、四大シャドウのコルネリウスが力を与えて、どこかへ送ろうとしているみたいなの」
     残留思念に力はないはずだが、大淫魔スキュラのように、残留思念を集めて八犬士のスペアを作ろうとしていた例もある。
     高位のダークネスなら、残留思念に力を与えることは不可能ではないのだろう。
    「力を与えられた六六六人衆は、すぐに事件を起こすことはないみたい。でも、このまま放置することはできないわ。コルネリウスが残留思念に呼びかけたところに乱入して、彼女の作戦の妨害を行って欲しいの」
     
     コルネリウスは強力なシャドウであるため、現実世界に現れることはない。
     事件現場にいるコルネリウスは実体をもたない幻のようなものなので、戦闘を仕掛けることは不可能だ。
     また、コルネリウスは灼滅者に対して強い不信感を持っており、交渉なども行えない。
    「残留思念である『火緒』って子は、灼滅前後の記憶がおぼろげで……なんだか、記憶も混乱しているみたい。声を掛ければ、だれかれ構わず攻撃をしかけてくるわ」
     火緒の武器やサイキックは、以前と同じ。
     『殺人鬼』『リングスラッシャー』『解体ナイフ』に似たサイキック。
     そして『静寂』や『序列』に対する執着が強いようだと、鳴歌は言う。
    「どうしてこの六六六人衆が『静寂』や『序列』に執着するのか、占って調べてみたんだけど……。どうもこのダークネスの性質は、元人格の女の子に強く影響を受けていたみたいなの」
     占いでは詳しいことはわからなかったが、鳴歌がアウトプットしたコルネリウスとの会話が、なにかしら手がかりになるかもしれない。
     すでにダークネスとして生を終えているため、説得は不可能。
     戦闘は回避できないとしても、語りかければなにかしら反応はあるかもしれない。
    「そうそう! 現場となるお寺だけど、初詣の準備のために、夜を徹して設営作業が行われているの。作業をしている人は数人なんだけど、人払いをしてから戦闘に入った方が良いと思うわ」
     そう付け加え、鳴歌は説明を締めくくった。
     
    「一夜崎さんに聞いたんだけど、ほかにもたくさんのダークネスが、コルネリウスからの呼びかけを受けているんですってね?」
     『慈愛』の名の通り、その行動は一面的には良い事であるように見える。
     でも、そんなことをしてコルネリウスは何をしたいのかしら、と鳴歌は小首をかしげ。
    「コルネリウスの狙いも気になるけど、今回の相手は『村椿・火緒』よ! 四大シャドウの力を得た残留思念はダークネスに匹敵する戦闘力を持つみたいだから、気をつけて行ってきてね!」
     そう告げ、鳴歌は灼滅者たちを励ますように、ぐっと拳を固めた。


    参加者
    長久手・蛇目(憧憬エクストラス・d00465)
    月詠・千尋(ソウルダイバー・d04249)
    埜口・シン(夕燼・d07230)
    梯・紗希(武蔵境の虎頭犬・d08837)
    レナード・ノア(都忘れ・d21577)
    蜷川・霊子(いつも全力投球よ・d27055)
    只乃・葉子(ダンボール系アイドル・d29402)
    荒吹・千鳥(風と共に在りぬ・d29636)

    ■リプレイ


     吐く息の白さに、染み入るような冷気。
     煌々と照らされたライトの下に、降りはじめた雪が浮かびあがっている。
    (「……まるで水底のような、冷たい夜」)
     事件発生時刻よりも前に現場を訪れた埜口・シン(夕燼・d07230)を含む8人の灼滅者たちは、敷地内の作業員たちに気取られぬよう、ひそかに頷きあっていた。
     もう、夜闇も深い。
     ――頃合いだ。
     ESP『パニックテレパス』を展開すると同時に、シンが叫ぶ。
    「逃げて――!」
     誰のものとも知れぬ、少女の声。
     作業員たちはそろって作業の手を止めると、不安にかられながら、我先にと逃げはじめた。
    「そっちは行き止まりだ、このまま、まっすぐ走れ!」
    「足元にも気をつけて!」
     混乱のあまり見当違いの方向へ向かう者がいればレナード・ノア(都忘れ・d21577)が途中まで手を引き、転びそうになった者へは只乃・葉子(ダンボール系アイドル・d29402)が焦らぬよう誘導する。
     仲間たちが手分けをして敷地内をめぐり、すべての一般人避難が完了したことを確認したところで、
    「第一段階は完了っすね」
     長久手・蛇目(憧憬エクストラス・d00465)がESP『殺界形成』を、レナードが『サウンドシャッター』を展開し、一般人が寄りつかぬようにと対策する。
     戦場の用意が整ったなら、あとは物陰に身を隠し、コルネリウスの出現を待つのみだ。
    「それにしても、またしてもコルネリウス……か。数多の復活劇の狙い、そろそろ尻尾を掴みたいねぇ」
    「ほんま、はた迷惑な『慈愛』っぷりやしなぁ」
    「まあ、死人が血迷って現世に現れたってんなら、送り帰してやるのが筋ってもんでしょ」
     暗闇に目を凝らし呟く月詠・千尋(ソウルダイバー・d04249)と荒吹・千鳥(風と共に在りぬ・d29636)に続き、蜷川・霊子(いつも全力投球よ・d27055)が言いはなつ。
     一方、葉子はダンボール頭をかしげつつ、エクスブレインから聞いた残留思念とコルネリウスの会話を想い出していた。
    「仲間内での成績、あるいは序列。そういった、周囲からの言葉を気にするような……そんな女の子だったのでしょうか?」
    「どっちにしても、俺は静寂より、賑やかなほうが好きっすねー」
     残留思念には特に興味がないといった様子の蛇目の横で、レナードはぽつりと零した。
    「序列もなにもねぇのにな。もう、死んでんだから」
    「静かに」
     ふいに向けられた梯・紗希(武蔵境の虎頭犬・d08837)の声に、仲間たちが身構える。
    「あそこ。コルネリウスが現れたみたいよ」
     示した先には。
     燐光をはなちながら夜闇に浮かぶ、シャドウの幻影が見えた。


    『私は「慈愛のコルネリウス」。傷つき、嘆く者を見捨てたりはしません』
     灼滅者たちに残留思念の姿は見えなかったが、少女には見えているのだろう。
     虚空へ向け、手をかざした瞬間、
    「サリュ、コルネリウス。また会えて嬉しいよ」
     真っ先に駆けこんだ千尋が声をかけるも、コルネリウスは背を向けたまま応えない。
    『……わかりました。では、あなたに力を与えましょう』
     迫る灼滅者たちをよそに淡い燐光を集束させたかと思うと、眼前に村椿火緒の輪郭が浮かびあがり、しだいに実体を得て顕現していく。
    「ねぇ、死者の魂を辱めてでも復活させる理由は何? それがキミの『慈愛』なのか?」
     残留思念に力を与えたためだろう。
     薄らいでいく少女の幻影へ千尋はもういちど言葉を投げかけたが、コルネリウスは最後まで灼滅者たちを見ることなく、中空へ溶けて消えた。
    「私の序列のために。首8つ、もらうわよ灼滅者……!」
     蘇った六六六人衆・村椿火緒はどす黒い殺気を無尽蔵に放出し、灼滅者めがけ解体ナイフを閃かせる。
    「コルネリウスさんの企みも気になるっすけど、ここは残留思念を灼滅するのみっす!」
    「それじゃぁみんな、いっくよー!」
     スレイヤーカードの封印を解放した蛇目はWOKシールドで斬撃を受け流し、同じくカードからマイクを顕現させた葉子とともに、仲間たち全体にシールドを展開。
     憎しみを燃やし、間断なく攻撃を繰りだす火緒の間合いへ、シンはためらうことなく飛びこんで。
     閃く剣先を唸るチェーンソー剣で受け止めれば、斬り結んだ先で火花が散った。
    「ひとを殺したんだね、火緒」
     落ち着いた声音。
     けれどその内には、強い憤りを宿して。
    「そう。もっと殺して、私は上へいくの……!」
     攻撃の隙をついて駆動式の刃を振るえば、火緒の肩が斬り裂かれ、血しぶきが飛ぶ。
     ――なんて哀れで惨めな、残滓。
    「コルなんとかも、酷なことを」
     肩をすくめたレナードが、スレイヤーカードの封印を解放。
     けれど、すこし羨ましいと胸中で呟き、極彩色の剣を手に、横合いから斬りかかる。
     火緒は斬り裂かれた腕に構わず、血濡れのナイフを構え、嗤った。
    「あっはははははははははは!」
     哄笑とともに毒の風が巻き起こり、竜巻となって灼滅者たちを切り刻む。
     しかし、シン、蛇目、葉子が仲間たちの前に身を投げ、攻撃をかばい受け。
     紗希は顕現させた炎の翼で仲間たちを癒すと同時に、啖呵をきるがごとく、仲間たちを鼓舞した。
    「皆の背中は、私が預かるわ!」
    「ほんなら、うちも全力でいかしてもらおか」
     頼もしい言葉に眼を細め、千鳥は御神木から作られた琵琶をつま弾く。
    「戯れ言を……!」
     音波を相殺すべく火緒が殺気をはなとうとした瞬間、目を灼くほどの光が視界を奪った。
     回避しようとした時には、もう遅い。
    「お望み通り、あなたに静かな死を持ってきてあげたわ!」
     破邪の白光をはなつクルセイドソードを手に、霊子が一閃。
     脇腹を貫かれ、膝を折った火緒が怒りに任せ火輪を飛ばすも、真銀の魔槍を手にした千尋はその攻撃をはねのけ、駆けた。
    「孤独を語るなら、孤独に死ねばいい」
     穂先は少女の身体を貫き、傷口を抉り。
     だが、火緒は槍の柄を握りしめ、離さなかった。
     銀の柄を伝う血が、手指を染めるのも構わず、告げる。
    「うるさい」
     真紅に染まったナイフが、千尋を、斬り裂いた。


     火緒は傷を負いながら、怯むことなく灼滅者と戦いつづけた。
     攻撃に注力していた火緒は防御や回避をせず、ある程度の疲労を負わせることには成功していた。
     しかし、コルネリウスに与えられた力は大きく、体力も相応に増大している。
     火緒自身、想像以上の力に笑いがこぼれるほどだ。
    「これだけの力があれば、私だって上位にいける! 八波木々にも、敷島にも、三日月にだって負けやしないわ!」
     シンは眼前を裂く刃をかわし、頭の芯が冷たく冴えていくのを感じていた。
    「くだらない。序列なんかのために、誰かを殺して、ころされたの……!」
    「くだらない? くだらないですって?」
     シンが炎を纏った蹴りをはなてば、火緒はナイフで斬り返した後、延焼する炎をものともせずに嗤う。
    「力があればうるさいやつらを黙らせることができる。教室で笑いものにしたあいつらも、殺す価値もないと言い捨てたあいつらも。もう誰にも、なにも言われなくて済むの」
    「理由はともかく、今この場で一番騒々しいのは、アンタなんじゃないっすかねー」
     追撃をかけようとする火緒の一撃をかばい受け、蛇目が挑発すべく声をあげて。
     死角となる蛇目の影から、レナードが飛びだした。
     唇を引き結び、拳を固め、
    (「死人なんざに殺されんのは、な……!」)
     懐に飛びこむなり、怒涛の連撃を叩きこむ。
     追加の一撃を受け、殴り飛ばされた火緒はなすすべもなく地面を転がっていった。
     次の瞬間、
    「!」
     殺気を感じ飛びのけば、もといた場所に槍を突きさす千尋が立っている。
    「哀れだね。死してなお、序列に囚われる必要もないだろうに」
     反撃すべくナイフを構えようとするも、
    「させないよ」
     暗器『見えざる神の刃』を手繰った千尋がその身を鋼糸で絡めとり、動きを封じた。
     歩みでた霊子は闘気を雷に変換し、告げる。
    「いい? 『死ぬ』ってのは、『終わり』ってことよ。永遠におさらばなのよ。だからみんな死を大切にするわ。それを裏切ってまた生き返っちゃうのは――」
     ひと呼吸、言葉を溜めて。
     地面を踏みしめると同時に、腹を穿った拳を、天に向かって突きあげる。
    「ルール違反、なのよ……!!」
     殴り飛ばされた火緒を見送り、葉子はマイクを手にウィンク。
    「ハコの歌声でノックアウトしちゃうよ! 貴方のハートにー? ふわふわ~キュン♪」
    「うるさい、うるさい、うるさい、うるさい……!!」
     場違いなほど軽快な歌声に、火緒は地に倒れ伏しながら耳をふさいだ。
     しかしサイキックである歌声は、火緒の意思を介さず働きかける。
     その隙に、交通標識を構えたのは千鳥だ。
    「どうせ、役にたつこと知っとるわけでもないやろし」
     『通行止め』の赤色標識に変わったのを確認し、にこやかに微笑んで。
    「とっとと眠り?」
     振りかぶった標識に打たれ、火緒はふたたび、殴り飛ばされた。

     捨て身で攻撃を仕掛ける火緒の一撃は重く、今なお油断することはできない。
     しかし、
    「私たちが押してるわ! もう少しよ!」
     紗希のこまめな回復と鼓舞。
     防御と回復に重点を置いた、蛇目や葉子の立ち回り。
     そして攻撃を壁役の4人に分散させたことで、灼滅者たちは長期の戦闘に耐え、想定以上に少ない痛手で火緒を追い詰めていた。
     その上、時間が経過すればするほど仲間たちは攻撃力の底上げを狙い、火緒へ架した枷を重ねていく。
     もはや回復は紗希ひとりで事足りると判断した蛇目は、影業をはしらせ、火緒を絡めとった。
    「序列とか、他人が決めた順位に左右されるのって虚しくないっすか?」
    「誰になんと言われようと、火緒さんは火緒さんだよ! 周りの言葉に惑わされちゃだめ!」
    「知った風な口を……!」
     火緒は蛇目の影を相殺し、葉子の振りかざした『Labyrinth -typeH-』を解体ナイフで受け流す。
     なおも仲間たちへ斬りかかろうとする少女めがけ、
    「黙りや」
     一声、千鳥は容赦なく重力を宿した飛び蹴りを見舞った。
     続く霊子が炎をまとった蹴りをはなち、火緒の身をしたたかに打つ。
    「コルネリウスが余計なことせんかったら、二度も灼滅される羽目にならんで済んだのになぁ?」
    「灼滅者だからとかそういうのは関係なく。きっちり、あの世へ送り返したいのよ」
     千鳥と霊子の言葉を耳に、火緒は延焼する火に身体を焼かれながら、悔しさに涙を流していた。
     一撃、一撃が重なるごとに、思うように身体が動かなくなっていく。
     敗北が迫る。
     序列が遠のく。
     ――己の価値が、喪われていく。
    「さぁ解放の時だ。序列争いの螺旋からも、憎悪の連鎖からも」
     告げる千尋の手には、銀槍【終の穿影】が煌めいて。
    「悲しき殺人鬼よ、引導を渡してあげるよッ!」
     穂先が己の身を貫く。
     身体の痛みと同時に沸きあがる感情を、火緒はよく、知っていた。
     ――カミサマなんていない。
     ――トクベツにならなきゃ、なにも変えられない。
     いつか『内側』から眺めていた少女の、魂の嘆き。
    「これ以上の力なんて、君にはきっと、うるさいだけだから」
     声に顔をあげれば、チェーンソー剣を構えたシンが立つ。
     火緒は炎に燃える手でナイフを握りしめ、倒れこみそうになりながら地を蹴った。
     軽く身をよじれば、力なく振りかざした剣先は空を薙ぎ。
     それでもナイフを離そうとしない少女に、シンは唇を噛みしめる。
    「静かな場所が欲しいのなら。永遠に、眠っておいで――」
     唸るチェーンソーで、一閃。
     背を斬り裂かれ。
     ナイフを取り落とし。
     燃えあがる炎にまかれ、崩れ落ちるように倒れた火緒のそばに立ったのは、レナードだ。
     もはや身を起こすだけの気力はなく。
     けれどまだ息のある少女を見おろし、灰の瞳をまたたく。
     手にした槍を振りあげて、ふと、火緒が手を動かしたのに気付いた。
     炎に包まれた少女の周りに、雪は降らない。
     燃える指先で掴もうとしたのは、霞色に滲む、粉雪。
     レナードのオーラだ。
    「なあ」
     ため息をつくように、声を零して。
     乾いた唇が燃えていくのを、見やって。
     少女の瞳が己を認識したことを確認して、握り締めた柄に、力をこめる。
    「先に着いたら、感想、教えてくれよ」
     告げると同時に、少女の薄い胸に槍を突きたてる。
     火緒は槍を押さえ血を吐きながら、顔をゆがめ、嗤った。
    「死んでも、いや」
     次の瞬間、火は一瞬で骸を焼きつくし、燐光をはなって跡形もなく消えた。


     静寂の戻った夜の寺に、灼滅者たちはしばし佇んでいた。
     敵とはいえ、一期一会。
     霊子は少女を想いかえそうとしたが、火緒の面影はすでにおぼろげで。
    「復活させられなければこんな目にはあわなかったんだし。なんだか、哀れな子よね」
    「コルネリウスさんも、単なる慈善事業ってわけじゃないでしょうし……。なにを企んでるのかは、本当に気になるっすね」
     蛇目も首をひねるが、唸ったところで真相が見えてくるわけでもない。
     シンもまた周囲を調査していたが、事件の情報となりそうなものは、なにひとつ見つからなかった。
    「これまでの動きから目的を推理して、エクスブレインに調査を依頼するしかないのかな」
    「こんな『無益なこと』を、いつまで続けるつもりだ、コルネリウス……」
     幻影から返答を得られなかった千尋にしても、シャドウの思惑は一切わからないままだ。
     しかし、その千尋の言葉を耳にして、葉子がふと、呟いた。
    「思ったんですけど。いくら慈愛のシャドウでも、本当に『無益なこと』なら、やらないんじゃないでしょうか」
    「……言われてみれば。『無益』だと思っているのは灼滅者である私たちだし、シャドウにとっては、そうではないのかもしれないわね」
     同意する紗希に、千鳥が続ける。
    「ほんなら残留思念の復活は、コルネリウスにとっては『有益』ってことなんやろか?」
     そこから先の推理が続かず、灼滅者たちは考えるのをやめた。
     作業員たちがいつ戻ってくるともわからないのだ。
     いつまでも、この場に留まるわけにはいかない。
    「仏様にお参りして、早々に退散しよう」
     それくらいの暇はあるだろうという千尋の提案に賛成し、一同はそろって本殿へ向かい、歩きだす。
     レナードはふと足を止め、火緒の倒れた場所を振りかえった。
     ――静寂を好み、闇堕ちて、ひとを殺めた少女。
     その身の上は己と通じるところがあり、気づけば、自分と重ね見ていた。
     一度死に、二度目の死をむかえた少女は、もう、どこにも居ない。
     天国や地獄が、本当にあるのかはわからない。
     火緒や己が、どちらへいくことになるのかも。
    (「ただ。逝った先に、望む静寂があるように」)
     胸中で短く祈り、手招く仲間たちのもとへ、走る。

     いつしか、雪はやみ。
     仰いだ夜空には、静かに、月が浮かんでいた。
     
     

    作者:西東西 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2015年1月13日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 9/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 0
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