斬新コーポレーション合併阻止~新人事部長・黒杉民男

    作者:西東西


     ある駅の構内を、3人の六六六人衆が足早に歩いていく。
     ひとりは、斬新コーポレーション社長、斬新・京一郎(ざんしん・きょういちろう)。
     ひとりは、斬新コーポレーション新人事部長、黒杉・民男(くろすぎ・たみお)。
     ひとりは、斬新コーポレーションスーパー主婦パート、銭洗・弁天子(ぜにあらい・べんてんこ)。
     周囲にほかの社員や派遣社員の姿はなく、行動しているのはたった3人だけのようだ。
    「生き残りの正社員・派遣社員には自主自立斬新な企業活動を命じております。勿論、企業準備中の給料は100%カットですはい」
    「報告ご苦労、急ぎ、高野山に向かおう。時間が押しているからね」
    「しかし、指定時間に到着せねば交渉決裂とは、何様なのでしょうな」
     憤慨したように告げる新人事部長とは対照的に、京一郎は想定内といった様子で、答える。
    「陰陽師様様だろ? こちらは軒を借りる立場だ、そのくらいお安いご用さ」
    「そりゃいいわさ。どーんと母屋を乗っ取ってやりな」
     スーパー主婦パート・弁天子がはやしたて、3人はケーブルカーに乗り換えるべく駅を出る。
     目指すは、セイメイとの交渉場所。
     高野山へ向かって――。
     

    「あけましておめでとう。皆、今年もどうぞよしなに。……と言ったそばからの依頼で申しわけないが、ひとつ、君たちに頼みたい」
     一夜崎・一夜(大学生エクスブレイン・dn0023)は手短に挨拶を澄ませると、すぐに、事件の説明に移る。
    「今回、押出・ハリマ(気は優しくて力持ち・d31336)の調査をもとに情報収集をおこなった結果、『武神大戦獄魔覇獄』で獄魔大将をしていた斬新コーポレーションの社長、斬新・京一郎の次の動きを掴むことに成功した」
     調べによると、京一郎は『獄魔覇獄』で失った戦力を早急に取りもどすべく、強力なダークネス組織との合併を画策しているという。
    「厄介なことに、合併先はノーライフキング『白の王・セイメイ』の勢力だ」
     セイメイといえばこれまで数々の陰謀を企て、そのたびに学園と対峙しながら、取り逃がしてきたダークネスだ。
     強力なノーライフキングであるうえに、その活動目的にはいまだ謎も多い。
    「斬新コーポレーションとセイメイの勢力が結託すれば、どんな最悪の事態を引き起こすことになるかわからない。ゆえにこの合併は、万難を排してでも阻止する必要がある」
     京一郎たち斬新コーポレーション側は、この合併を成功させるために、たった3人だけで交渉の席に向かっている。
     また、セイメイ側はこの交渉に乗り気ではないらしく、『交渉開始時間までに京一郎が現れなかった場合は、交渉は行わない』ようだ。
     つまりたとえ3人を灼滅できなくとも、交渉開始までの時間を稼ぐことができれば、合併交渉を破談にすることができるのだ。
    「今回の作戦で3人を灼滅できるのなら、それに越したことはないだろう。……しかし無理をして敗北し、合併を許してしまっては元も子もない。実際にどうするかは、現地に赴く者たちに任せる。しかしくれぐれも、状況を見て判断を行うよう、願いたい」
     
     戦場となるのは、南海高野線・極楽橋駅。
     極楽橋は、南海高野線の終点駅だ。
     高野山へ向かうにはこの駅からケーブルカーに乗り継ぐ必要があり、ここには駅以外の建物は特にない。
    「君たちには、斬新コーポレーション一行がたどり着くよりも前に、この駅に向かってもらう。現地で待ち伏せたうえで、ケーブルカーに乗り換えようとする3人を襲撃して欲しい」
     襲撃後は3人を引き離し、3つのチームが個別に敵と対峙する。
     1対8での戦いとはいえ、京一郎はもちろん、その部下たちも『武神大戦獄魔覇獄』に赴くだけの実力者だ。
     たった3人でセイメイとの交渉の場に赴こうとしているところからも、その戦闘能力の高さがうかがえる。
    「君たちに相手をしてもらうことになるのは、新人事部長、黒杉・民男(くろすぎたみお)。『獄魔覇獄』ではシン・ライリー軍との戦いの場で、前線指揮官を任されていた男だ」
     斬新コーポレーション人事部の敏腕副部長として辣腕をふるってきたところ、目の上のたんこぶであった前任の人事部長が失脚したことで、念願の部長職に就くことができたらしい。
     戦闘となれば武器である辞令書や数珠を用い、『殺人鬼』や『断罪輪』に似たサイキックと、シャウトを扱う。
    「扱う技のなかでは『追撃』をもつサイキックの威力が特に高く、油断をしていると想定以上の傷を負いかねない。弱った敵から確実に仕留めていくなど、戦況に応じた判断を行う狡猾さも持ちあわせている」
     出来うるかぎりの対策を講じ、万全の体勢で戦闘に臨んでほしいと告げ、一夜はひととおりの説明を終えた。
     
    「繰りかえしになるが、今回の作戦は敵3人を3チームで分担し、各個撃破することが目標だ。私の説明を受けたこのチームは、『新人事部長、黒杉・民男』を確実に足止めすることを目的として動くことになる」
     合併交渉を失敗させるためには10ターンの足止めが必要であり、六六六人衆の灼滅を狙う場合は、その10ターン以内で行う必要がある。
     もしも3人のうち1人でも足止めに失敗すれば、作戦は失敗。
     斬新コーポレーションとセイメイの合併交渉が成立してしまうだろう。
    「最悪の事態を未然に回避するためにも。どうか、皆の力を貸してほしい」
     いつになく険しい表情で、エクスブレインは深く、頭をさげた。


    参加者
    巴里・飴(砂糖漬けの禁断少女・d00471)
    田所・一平(赤鬼・d00748)
    玄鳥・一浄(風戯ゑ・d00882)
    鹿島・狭霧(漆黒の鋭刃・d01181)
    不渡平・あると(相当カッカしやすい女・d16338)
    リアナ・ディミニ(アリアスレイヤー・d18549)
    神宮寺・柚貴(黒影の調理師・d28225)

    ■リプレイ


     南海高野線・極楽橋駅にて。
     斬新コーポレーションとセイメイ勢力の交渉を破談にすべく、現地に向かった灼滅者は計24人。
     そのうち、新人事部長、黒杉・民男(くろすぎ・たみお)を相手とする8人の灼滅者たちは、ケーブルカー方面を塞ぐように待ち伏せていた。
    「前に何回か来たことはあったけど、通過してばっかりだったから、実際に降りるのは始めてだ」
     周囲を見渡し、豊満な胸をぷるんと弾ませながらつぶやいたのは、不渡平・あると(相当カッカしやすい女・d16338)。
     その隣で、玄鳥・一浄(風戯ゑ・d00882)が時刻を確認。
    「定刻通り。おいでなすったねぇ」
     切れ長の眼を細めホームに滑りこんできた電車を見やれば、降車した一般人にまぎれた異質な三人組の姿は、すぐに見分けがついた。
     斬新京一郎、銭洗弁天子の足止めをすべく動きだした他チームの灼滅者にあわせ、
    「絶対に、あいつらの思惑は潰したる……!」
     神宮寺・柚貴(黒影の調理師・d28225)が、ESP『殺界形成』を展開。
     殺気を察した一般人たちが、蜘蛛の子を散らすように駅舎から逃げだしていく。
     騎乗していたライドキャリバー『デウカリオン』を急加速させ、タイヤを泣かせながらスーツ姿の新人事部長――黒杉民男の眼前に滑りこんだのは、巴里・飴(砂糖漬けの禁断少女・d00471)だ。
    「なんだねチミぃ! 我々をひき殺すつもりかね!」
     ごく太の黒縁眼鏡を押しあげ、唾を飛ばしながら抗議する黒杉をよそに、
    「ここから先へは、行かせません」
     飴は毅然と言いはなち、再度キャリバーのエンジンをふかした。
     デウカリオンの機銃掃射にあわせすれ違いざまに固めた拳を振りかざすも、黒杉は一足飛びに距離を置き、攻撃を回避。
     京一郎や弁天子の方を見やれば、同じように少年少女たちに取り囲まれている。
     合流しようと動けば、すかさずあるとが行く手を阻み、ウロボロスブレイドを振りかざした。
    「悪いな人事部長。あんたの相手は、こっちだぜ!」
     そこに居たって、己を取り囲む少年少女たちの正体に気づき、黒杉はニタリと不敵な笑みを浮かべる。
    「こーれはこれは、灼滅者諸君。『獄魔覇獄前哨戦』でのチミたちの働きは、ジツーに見事だったと聞いているよ」
     黒杉はこれまで、人事部の敏腕副部長として辣腕をふるってきた男だ。
     前任の人事部長を灼滅したという灼滅者たちのことは、彼なりに評価していたらしい。
    「しかーし! 今はチミたちに構っている暇はないのだよ」
     懐から異様な長さの数珠を取りだしたかと思うと、
    「灼滅者諸君の一層のご活躍を、たっぷりお祈り申しあげまショー!」
     じゃらじゃらと数珠を鳴らして『お祈り』を唱えれば、前衛に立っていた灼滅者たちの身体が次々と爆ぜていく。
     エリアル・リッグデルム(ニル・d11655)は、傷をおして夜霧を展開。
     即座に仲間たちの傷を癒し、言いはなつ。
    「そんなに重要な取引なら、時間には余裕を持つべきだったね」
    「悪企みは、止めさして貰わんとねぇ」
     一浄も魔力を宿した霧を招き、後衛の仲間たちを奮いたたせた。
     一方、田所・一平(赤鬼・d00748)は想像以上にクセの強いおっさんが現れたもんだと思いつつ、
    「六六六人衆がサラリーマンって、すげぇ違和感……。いや、もとから序列気にしまくってる連中だし、競争社会との相性はいいのか……?」
     縛霊手の指先に霊力を集め、飴を『トラウマ』から解きはなつ。
     リアナ・ディミニ(アリアスレイヤー・d18549)は双子のごとく動く影業【ジェミニッシュコード】を走らせ、
    「斬新の思惑がどうであれ、これ以上の厄介事はごめんです!」
     叫び、影の触手で黒杉を捕縛。
     鹿島・狭霧(漆黒の鋭刃・d01181)は死角となっていたリアナの背から飛びだし、両手に構えたナイフ『Ghigliottina』と『Derekhk.』を閃かせ、マイペースに告げた。
    「それじゃ、10分1本勝負。いってみましょうかね」


     着古したスーツを身にまとった黒杉の風体は、いかにも『冴えないおっさん』といった印象だった。
     だが見た目とは裏腹に、手にした数珠や、懐から無限に顕現させる辞令書から繰りだされる攻撃は、明確な殺意をもって灼滅者たちを襲う。
    「威勢よく飛びだしてきたわりには、防戦一方とは。チミたち、殺る気あるのかね?」
    「うるせえ! テメエらの好きにはさせねえからな!」
     あるとは声高に叫ぶと、光輪をはなって仲間の守りを固め。
    (「『就活事件』で犠牲になった人たちのことを考えると決着をつけたいけど、確実な作戦を取るべきだよね……今回は」)
     ふたたび夜霧を招いて仲間たちの傷を癒すと、エリアルは胸中で呟き、その姿を虚ろに隠した。
     灼滅を狙いたいのはやまやまだが、万が一、斬新コーポレーションとセイメイが手を組むようなことになれば、どうなるかわからない。
     そのため、8人は攻撃よりも防御や回避に重点をおき、『確実に黒杉を足止めする』作戦を選んだのだ。
     カミソリのように皮膚を裂く辞令書を紙一重でかわし、
    「侘し中間管理職からの、昇進チャンスでっか?」
     煌めき零す槍に捻りを加え、薄く笑みながら一浄が黒杉を穿つ。
     入れかわるように飛びだしたのは、狭霧だ。
    「アンタが新任の人事部長? ふん、いかにもってツラしてるわね。そのうち、胃薬が手放せなくなるクチじゃなくて?」
     挑発に乗せ、狭霧は手にしたナイフで黒杉の身を斬り裂いていく。
    「24時間365日働き続ける我々の、しかも人事部を担う人材だよ?」
     大げさに肩をすくめて残念そうなジェスチャーをする黒杉を、柚貴は隙ありと見て影業――巨大な手で絡めとる。
    「飴ちゃん! リアナちゃん!」
     柚貴が呼びかけるより早く動き出していたのは、『デウカリオン』に騎乗した飴だ。
     黒杉のはなった攻撃を、走りこんできた飴とキャリバーがかばい受け、
    「ジェミニ! 圧し潰せ……!」
     足並みをそろえ仕掛けたリアナの影が六六六人衆を呑みこむも、黒杉は数珠を手に、攻撃を相殺。
    「ホーラ、ね? こんな仕事が、胃薬を飲んでいて務まると思うかね?」
     灼滅者たちと会話をしながらも、標的をあるとに絞りこみ、間断なく攻撃をしかけていく。
    「ひとつ聞くけどよ……! 斬新ってあの社長が死んだらさ、次期社長は誰になんのかね」
     辞令書による怒涛の斬撃をかばい受け。
     一平は拳に雷を宿すと、拳を繰りだすとともに、黒杉に問いかける。
    「次期社長になりたいとか、そーいう野望はねーのかよ? 今なら、俺たちが協力してやらないこともないぜ?」
     敵の気をひくための出まかせとはいえ、その気があるのなら、別の場所で戦う社長を一緒に襲撃しても良いと告げているのだ。
     黒杉が野心家であればあるいは、と思ったのだが――。
     六六六人衆は答えずに黒縁眼鏡の位置を直すと、じゃらりと数珠を鳴らし、声をあげた。
    「ほおーう。チミたち底辺学生の加勢ごときで、斬新社長を灼滅できる、とでも?」
    「あるいは、先に此方と和平交渉、ちゅう訳に行きまへんやろか。なんせ、物騒な事業拡大は堪忍――」
     一浄が言い終える前に、黒杉が『祈り』を唱え。
     壁役として立っていた者たちの身体が、次々と爆ぜた。
    「頑張って!」
     すぐにリアナが鼓舞とともに癒し、一浄も霧を展開。
     それでも枷を解けなかった者へは、一平が縛霊手を掲げ、『トラウマ』をうちはらう。
    「流石正社員、手強いね」
     エリアルはうめくように告げ、すでに疲労のかさみつつある、あるとの身をダイダロスベルトで覆った。
    「ンンー、先ほどから不思議に思っていたんだがね。チミたちはまるで、我々がこれから何をしに、どこへ行くのか知っているかのようだ。……知っているのかね?」
     黒杉は探るように灼滅者たちを見やったが、8人は口をつぐみ、答えない。
    「無能な社員のだれかが、情報漏えいでもしたんでしょ! それなら、アンタたちの責任問題ものよね!」
     はぐらかすように狭霧が斬りかかるも、黒杉は考えるそぶりをしながら身をよじり、眼前で切っ先を回避する。
    「もしそうなら、早急に情報の出所を調べ、責任者を処分しまショー」
     その物言いに、あるとは怒りを胸に、駆けた。
    「人を使い潰すことしか考えない奴なんて、大ッ嫌いだ!」
     鞭剣を繰りだし黒杉を捕縛するも、六六六人衆は懐から辞令書を取りだし、嗤った。
    「イイかね? 使えない歯車など、ただのガラクタに過ぎないのだよ」
     紙束が飛来したと思った時には、もう遅い。
     あるとは斬撃に次ぐ追撃を受け、全身を斬り裂かれ、膝をついた。


    「不渡平さん!」
     追い撃ちを狙うべく数珠を手にした黒杉の前へ、飴はすぐさまキャリバーに命じ突撃を仕掛けた。
     ふたたび飛来した辞令書を飴がかばい受け、黒杉の間合いに飛びこんだ狭霧が両の手のナイフを次々と繰りだし、牽制。
    「残念、斬新コーポレーションは本日付で倒産する予定なのよね。もちろん、会社更生法も民事再生法も適用されないわよ!」
     その隙に、傷を負ったあるとの元へ、一浄とリアナが走る。
    「さ、まだ倒れられへんやろ?」
    「無理せず、交代を……!」
     防護符と帯でその身を癒すと同時に、陣形を崩さぬように立ち回る。
    「くっそー! 人命ってのは、そんな安いモンじゃねえんだよバーカ!」
    「安心しぃ、あるとちゃん。俺がいる限り、ここは絶対に通さへん」
     威勢よく叫ぶあるとだったが、駆けつけた柚貴に立ち位置を任せ、後方へ。
    「状況を読む判断力。連携行動。ともにはなまるをあげまショー。我が社の無能な派遣社員たちにも、見習わせたいものだね」
    「へっ。よっぽど無能揃いなんだな!」
     再びはなたれた黒杉の『祈り』に撃たれながらも、一平は縛霊手で殴り掛かり、網状の霊力を放射。
     デウカリオンから飛び降りた飴が、炎を纏った激しい蹴りを撃ちはなつ。
     延焼する炎をものともせず攻撃を仕掛ける黒杉へ、
    「燃えたついでに、こっちも喰らいや!」
     柚貴が妖の槍を振りはらい、氷を撃ちこんだ。
     黒杉は状況を読みながら、常に疲労の濃い者を狙って攻撃を仕掛けた。
     しかし、灼滅者たちが壁役と回復の手を厚くしていた甲斐あって、灼滅者側の疲労がうまく分散。
     1名の交代を出しはしたものの、ここまでなんとか、持ちこたえている。
    (「しかし……。こちらが足止めに徹する限り、痛手を負わせることはできません」)
     リアナはエリアルに帯をはなち、守りを固めながら、唇を噛みしめる。
     灼滅者たちが防御と回復に手を割いていた分、黒杉の機動力に衰えはない。
     ともすれば攻撃を受け、押し切られないとも限らない。
    「僕たちの相手は、楽しいかい?」
     ダイダロスベルトを射出し、黒杉を貫きながらエリアルが告げた言葉は、戦闘開始から8分が経過したことを告げる合図だ。
    「先ほどの疑問点をふくめ、チミたちはジツーに興味深い。しかし、いつまでもこうして遊んでいるわけにはいかないのでね」
     腕時計を見やり、黒杉が告げるのへ、
    「まあまあ、おっさん。もちっと遊んでけや……!」
     黒鋼で精製された鉄下駄『不動黒燐』で地を蹴り、巻き起こった炎ごと蹴りを叩きつけ。
    「契約を取りたいなら、頑張って僕らを振り切るんだね」
     「もっとも、そう易々と行かせやしないけど」と、エリアルも鈍色の刃もつ『北辰極天刀』を手に、斬りかかる。
     ――あと2分。あと2分耐えきれば、合併交渉を阻止できる。
     その想いが、少年少女たちの背中を押した。
     仲間たちの支援に徹していた一浄が、槍を手にして。
    「今が気に入っとりますもんで、壊されとうあらへんのよなぁ」
     死角からの斬撃で急所を穿てば、連携を狙った狭霧が横合いから斬りかかった。
    「全力で、いくわよ……!」
     2つのナイフを閃かせ、渾身の一撃を繰りだして。
     一浄は黒杉が数珠を構えたのを確認し、警告を発した。
    「『お祈り』、きますよって!」
     声を受けた一平がエリアルをかばうも、仲間の攻撃を受け続けていたデウカリオンは耐えきれず、消滅。
     戦闘開始直後は攻撃を織り交ぜ、回復手であることを悟られないようにしていたリアナだったが、
    「私の力は、癒しのために。そのためのメディックです……!」
     『紅鋼』を掲げ、「祝福の言葉」を風に換え、仲間たちの攻勢を後押しする。
    「畜生めー!」
     傷の痛みや疲労をおして、あるとが鞭剣を手繰り、黒杉の身を縛りあげた。
     ともに戦いつづけたライドキャリバーの姿が消えても、飴の成すべきことは、変わらない。
     降るあめを避けるように、軽やかに地を駆けて。
     飴はスーツ姿の六六六人衆を前に、伸びやかに跳ねた。
    「私たちを甘く見ると、足元をすくわれるってこと。証明しますよ」
     はじめて声をかけた時と同じく、凛と告げ。
     燃えあがる炎をまとい、蹴りをはなった。
     柚貴は体勢を崩した黒杉の間合いに飛びこみ、手にした槍を振りかぶる。
    「お前を通せば、また望まん戦いがおきて、知りあいの皆も、俺の大切な人も巻きこまれる……! そんなこと、させてたまるかァッ!」
     力強く吠え、眼前の身に、穂先をねじ込んで。
     黒杉は返り血に染まった腕時計を見やると、
    「ンンー。誠に遺憾ながら、タイムリミットのようです」
     投げ損ねた辞令書を、懐にしまいこんだ。


     高野山行きが間に合わないとなれば、六六六人衆の変わり身は早かった。
     灼滅者たちの攻撃を相殺し、一足飛びで距離を置き。
     ずれた眼鏡の位置を整え、告げる。
    「まーだまだ斬新さに欠けるとはいえ、新入社員は灼滅者諸君から取るのも良いかもしれないね。なんなら、特別に見習い派遣社員の推薦書を用意してあげよう。なーに、人事部長のコネがあれば問題ナイナイ」
     それは己との戦いを耐え抜いた灼滅者たちへの、黒杉なりの賛辞だったのだが。
    「へっ、一昨日きやがれってんだバーカ! 働くだけが人間じゃねーんだ! 幸せもクソもねーよ!!」
     拳を振りあげ、胸を弾ませたあるとが叫ぶ。
     「それでは、ご縁があれば、またお会いしまショー」と言い捨て、黒杉はあっという間に姿を消した。
    「やれやれ、ようやく行ったか」
     ひとまずの目的は達成できたと、一平が去っていく六六六人衆を見送り。
    「これで、斬新コーポレーションとセイメイの合併会社は御破算ね」
     ちょっと見てみたかった気もするけど、と冗談めかして呟く狭霧の言葉に、
    「……一応の責任は、果たせたかな」
     エリアルも、ほっと安堵の息を吐く。
    「しかし、セイメイ側の条件。まるで、交渉時間に間に合わないような事態になると予測していたかのような……」
     勘繰り過ぎでしょうかと、不安げにリアナが呟いて。
    「ほかのチームは、どうなっているでしょうか」
    「別の戦場が、心配やね」
     飴と一浄の言葉に、仲間たちも頷く。
    「……すぐに見に行くで!」
     柚貴は胸騒ぎを覚えながら、残る仲間たちの元へと向かった。
     
     

    作者:西東西 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2015年1月16日
    難度:やや難
    参加:8人
    結果:成功!
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