カンナビス灼滅作戦~病院跡地へ侵攻せよ

    ●病院跡地にて
    「今までノ、武神大戦の目論見が全てご破算ニナルとはね」
     かつて殲術病院であった廃墟の元院長室で、革張りのソファの残骸に腰を掛けたカンナビスが、ギギギと音をならして部屋の中を見渡した。
     院長室には、特に選りすぐりのアンデッド達が並ぶ。
    「シカシ、ハルファスはさすがに用心深い。この状況で、既に次の手を打っていたトハナ」
     カンナビスは、残存の病院灼滅者のアンデッドを廃墟に配置し、敵の襲撃に備えるようにと、元院長室に集まった配下に指示を出す。

     武神大戦の失敗により撤退を余儀なくされたカンナビスの元に、同盟者であるハルファスより連絡が来たのは、その2日後の事であった。
     武神大戦で様々動き回った事から、拠点が露見した可能性があり、拠点の大規模移転を行ったというのだ。
     また、武神大戦を戦ったカンナビスには、他勢力の監視や追撃があるかもしれないので、拠点の一つに入り、もし追撃があるようならば、それを撃破して欲しいという依頼も受領している。
     これからもハルファス勢力を隠れ蓑に研究を続けるためには、この程度の依頼は当然引き受けるべきだろう。 カンナビスはそう考え、この拠点に入ったのだった。

    「だが、ソレももう終わりダ」
     ハルファスから、武蔵坂学園による拠点襲撃の情報が送られてきた。 この情報は、カンナビスのバベルの鎖の察知とも合致しており、間違いのないものだろう。
     現在のカンナビス配下の戦力では多少手を焼くかもしれないが、迎撃は難しくない上、ハルファスからの援軍もある。
    「武神大戦の借りヲ返す、良い機会でもアル。ハルファスの援軍が来る前ニ、灼滅者を片付けてシマエ」
     カンナビスの命令に、アンデッド達は恭しく礼をしたのだった。
     
    ●武蔵坂学園
     春祭・典(高校生エクスブレイン・dn0058)が意気込んで教卓にバンッと両手を突いた。
    「獄魔大将のひとりだった、智の犬士・カンナビスの足取りがつかめました!」
     ホテルス・アムレティア(斬神騎士・d20988)水貝・雁之助(おにぎり大将・d24507)ユーリー・マニャーキン(天籟のミーシャ・d21055)の調査によると、武神大戦獄魔覇獄で敗退したカンナビスは、配下のアンデッドと共に、廃墟となった殲術病院の一つに立てこもっているようだ。
     また、この廃病院の周囲では、ソロモンの悪魔・ハルファスの配下たちが監視するような行動を取っている。
    「但し、殲術病院には秘密の脱出路があるので、正面から真っ正直に攻め込むだけでは、逃走される可能性が高いです。そこで、殲術病院の正面入口、裏口、秘密の脱出路の全てから一気に侵攻する作戦を行なうことにしました」
     典は現時点で分かっている範囲ではあるが、病院の見取り図を広げた。
    「殲術病院の廃墟には【正面入口】【裏口】【秘密の通路】の3つの入口があります。秘密の通路は、下水道から繋がっており、カンナビスがいる院長室に直接つながっています」
     下水道~秘密通路から急襲すれば簡単なようだが、全員がそこから襲撃した場合、カンナビスは正面入口や裏口から撤退してしまうだろう。
    「確実にカンナビスを灼滅するためには、秘密の通路から襲撃をかけると同時に、正面入口と裏口を制圧する必要があるのです」
     典は次にそれぞれの入り口の敵戦力について説明した。
    「正面入口には多くの病院灼滅者アンデッドが配置され防衛戦を築いており、正面から攻撃して突破するには2チーム以上が必要になります。
     裏口には、試作型アンデッドであまり性能のよろしくない不良品達が配置されています。とはいえ、通常の灼滅者アンデッドに比べれば強いので油断はできません。但し、連携などは全くとれていないので、うまく立ち回れば、1チームでの制圧も可能です。
     秘密の通路には、門番を任されている強力なアンデッドがいます。獄魔覇獄で戦った『試作型アンデッド薬殺人形72号』を超える戦闘力があるようですが、強化が不安定なため、長時間の戦闘を行うと自壊してしまうようです。持久戦で自壊を待てば勝利は容易いですが、それなりに時間はかかってしまいます」
     今回の作戦は5チームで役割分担をして攻略することになる。3つの入り口にどれだけの戦力を配置するかも含め、作戦を立てて欲しい。
    「例えば、正面に戦力を集中して速攻で突破し、秘密の通路から侵入した部隊が持久戦で門番を引きつけている間に、院長室に攻め寄せる……とか」
     他にも有効な作戦が色々考えられるだろう。
    「なんにしろ……」
     典は難しい表情になり。
    「病院灼滅者の死体を利用して戦力を増強するカンナビスは、放置しておくのは危険過ぎますし、許すわけにはいきません。どうかこの好機を逃すことのないよう、よろしくお願いします!」


    参加者
    朝比奈・夏蓮(アサヒニャーレ・d02410)
    神宮時・蒼(大地に咲く旋律・d03337)
    冴凪・勇騎(僕等の中・d05694)
    安土・香艶(メルカバ・d06302)
    雪椿・鵺白(テレイドスコープ・d10204)
    ホテルス・アムレティア(斬神騎士・d20988)
    氷室・侑紀(ファシキュリン・d23485)
    ドラグノヴァ・ヴィントレス(クリスタライズノヴァ・d25430)

    ■リプレイ


     瓦礫の陰に隠れた灼滅者たちは、廃墟の裏口をじっと見つめていた。多くの灼滅者を抱えていた頃には、通用門や資材搬入、救急等にも利用されていたかもしれない実用一辺倒の両開きの鉄扉である。
     すっかり錆び付いたその扉は、時々厭な音を立てて開き、そこからは汚れた包帯に覆われた巨躯……試作型アンデッドが現れては、周辺を少しばかりうろつき回り、そしてまた病院内へと消えていく。
     灼滅者たちはここを護る試作型アンデッドが、少なくとも3体いることを見切っていた。良くみれば包帯に乱暴な字でナンバーが書いてあったのだ。そのナンバーは、49、59、66。
     これらのアンデッド、予知によれば不良品らしい。見た目的には武神大戦獄魔覇獄の72号より少し小ぶりに見えるが、それほど遜色はない。だが見回りの様子を観察する限り、確かに頭脳の面では性能が劣るようだ。見回りに出ても無目的で機械的、周囲に注意を払うこともない。おかげで灼滅者たちもターゲットを間近で観察することができたわけだが。
    「ここ、私の出身病院と何となく似てるわ」
     ドラグノヴァ・ヴィントレス(クリスタライズノヴァ・d25430)が辺りを見回しながら囁いた。殲術病院は共通して籠城を主な戦略としていたから、構造も似ているのかもしれない。
    「カンナビスのことは、人造灼滅者のみんながすごーく怒ってたよ」
     朝比奈・夏蓮(アサヒニャーレ・d02410)が囁き返す。
    「ちゃんと決着つけるって約束してきたもん、正義の鉄槌喰らわせちゃうんだから!」
    「……病院の方々のためにも、悲劇は、此処で、終わらせる、です……絶対に成功させましょう」
     神宮時・蒼(大地に咲く旋律・d03337)もたどたどしくもキッパリと決意表明を述べ、雪椿・鵺白(テレイドスコープ・d10204)は気合いをこめて頷く。
    「今日ここに来れない病院出身の方々のためにも、私たちがしっかり頑張らなくちゃ駄目よね」
     ホテルス・アムレティア(斬神騎士・d20988)は、姿を現したターゲット66号を痛ましげに見やった。おぞましい姿ではあるが、彼らもまたカンナビスの残酷な実験の被害者である。
    「死者の尊厳を踏みにじるような外道、討ち逃せば騎士の名折れというもの。カンナビスの首を取る好機、決して逃すわけにはいきませんね!」
    「カンナビスってヤツぁ……」
     冴凪・勇騎(僕等の中・d05694)が忌々しげに、
    「意地汚く生き残りやがって……ここらで強制退場させてもらおうぜ」
     彼は、やはりこの作戦の秘密通路班に参加していて、ことカンナビスとなると無茶をしがちな妹のことが心配でたまらない。
     無言で仲間の会話を聞いてはいたが安土・香艶(メルカバ・d06302)は耳の後ろに手を当てて首をゴキバキ鳴らして気合いを入れ、氷室・侑紀(ファシキュリン・d23485)もクールな表情ではあったが、内心ではカンナビスには冷ややかながらも強い憎悪と殺意を燃えたぎらせていた。
    「(できればこの手で灼滅したい……)」
     カンナビスのやり口ほど、灼滅者たちを憤らせるものはない。皆気合いと覚悟は充分……と、ヘッドセットで他班と連絡を取り合っていたホテルスが。
    「他班も準備OKだそうです。20秒後に突入します」
     皆は頷き、カードに触れ、腰を浮かせる。
     折良く、外をうろついていたアンデッド66号が裏口へと戻ろうとしている。まずはあれから……。
    「今です!」
     ホテルスのかけ声で、灼滅者たちは一斉に瓦礫の陰から飛び出した。


     接近しつつ、ドラグノヴァと侑紀が氷の炎を、夏蓮が槍から氷弾をたたき込み、アンデッドの背中を氷漬けにする。そこに蒼と勇騎が鬼の腕で殴りつけ、
    「ちわー、葬儀屋代行でっす!」
     香艶が槍を捻り刺して、巨躯を裏口内に押し込んだ。敵と共に病院内へとなだれ込んだ前衛に、鵺白が素早く盾を展開して防御を高める。
     グワアアァ、とアンデッドが怒りの声を上げた。その手に交通標識が現れる。標識の色は、赤。狙うは肉薄している香艶……!
    「奈城!」
     鵺城が素早くビハインドを呼び、香艶の盾に入らせる。
     ドガッ!
     標識に殴り倒されたビハインドの姿が不安定に揺らぐ。ホテルスがすかさずダイダロスベルトを伸ばし回復したが、かなりのダメージだ。不良品とはいえど膂力は侮れない。
     しかも、早速戦闘音を聞きつけたか、戦場となった裏口のロビーに奥からのそのそと試作品アンデッドが現れた。その数……。
    「3体!?」
     つまり合計4体。出入りしていた3体の他に、もう1体いたのだ。ナンバーは69。
    「(この威力の4体を相手にするのか……!)」
     戦慄が走る。しかし。
    「とりあえずこいつからだ!」
     気を取り直すと、傷つき血を流し始めている66号へと殺到する。
     数分の後には、
    「……これでまずは1匹!」
     勇騎が錫杖を力一杯叩きつけると、66号はグガアァァと苦しげな呻きを上げて倒れた。
    「おっと……ウッ!?」
     巨体が倒れるのに巻き込まれそうになり勇騎は飛び退いたが、そこに49号がいて手を伸ばし捕まえられてしまった。
    「離せ!」
     勇騎は逃れようと暴れたが、そこに59号が注射器を……。
    「うあっ!?」
     抑え込まれた背中に深々と針が刺さり、2体のアンデッドはグフゥと嬉しそうな声を上げた。まるで小動物を虐待して遊んでいるかのよう。勇騎の顔色がみるみる悪くなっていく。
    「あっ、ドレインじゃないの?」
     夏蓮が気づき、
    「そうか!」
     仲間に攻撃を当ててしまいそうで躊躇していた灼滅者たちは、ためらいを振り捨てる。香艶が回し蹴りで怯ませたところに、蒼がロッドで49号の腕を殴りつけて抑えつける力を緩める。蛇を纏った侑紀は赤く輝く標識で59号を勇騎から引き剥がし、スナイパーの夏蓮とドラグノヴァはそれぞれフリージングデスと虚空ギロチンで退がらせて。
     その隙に、這うようにしてアンデッドから遠ざかる勇騎に、ホテルスが駆け寄り、奈城がカバーに入る。
    「大丈夫ですか、今回復を」
     ホテルスがダイダロスベルトを伸ばした……その時。
     グオォォ!
     攻撃を受けていた2体のアンデッドが、お気に入りのおもちゃを取り上げられかんしゃくを起こした子供のように、我先にと拳を振り上げた。
    「……奈城ッ!」
     2発の強烈な拳を受け、ビハインドは消滅した。ここまでも何度か盾となっていた奈城に、2体分の巨人撃は耐えられたものではない。
    「くっ……」
     それでも鵺白は唇を噛んで魔力を宿した霧を仲間達に送る。ビハインドを早々に消滅させられてしまった悔しさは表には出さない。
     けれど、これでディフェンダーは彼女だけとなってしまった――。
     66号を倒した感触からすると、不良品アンデッドはさほどの体力は持っていない。予知通り連携も取れていないようで、回復やカバーも行わなかった。でも、攻撃力は……。
    「(それでも護ってみせるわ。カンナビスを倒すために……犠牲となった病院灼滅者たちのために!)」
     まずは、もう1体。
     鵺白は最前列に立ち続ける。


     2体目の59号を倒した頃には、ここまでぼんやりと戦闘を眺めているだけだった69号も、攻撃を仕掛けてくるようになった。仲間が倒されたことに怒って、というよりは、単に見ているうちに自分も戦いたくなった……という風に見えた。
    「カンナビスめ」
     踏み込んだドラグノヴァが、
    「これほど造灼滅者の怒りを煽るやり口を無自覚に実行したあたり、より気にくわん」
     微妙に筋違いなクレームを呟きながら縛霊手で次のターゲット49号を殴り抑えつけ、夏蓮が掌に集中させたオーラを狙い違わずぶち込んだ。
    「よし」
     続いて侑紀が毒弾を撃ち込もうと構えた時。
     49号の交通標識が青に変わった。
    「後衛……っ」
     その青い光が向けられた方向を見て、鵺白は跳んだ。メディックを守らなければ……!
    「鵺白殿、いけませんっ」
     守られたホテルスが叫ぶ。ディフェンダーが1人となって以来、鵺白はすでに相当なダメージを受けている。
    「!!」
     鵺白は青い光線に弾かれ、リノリウムの床に落ちた。動かない。
    「鵺白を退がらせるんだ!」
     侑紀が毒弾を撃ち込み、
    「くっそお、お前ら全員まとめて首おいてけ!」
     香艶が怒りの叫びと共に、しゅるりと数本のメタリックに変化したベルトを伸ばした。ベルトはグサグサと包帯まみれの体に突き刺さっていく。蒼が赤の標識で少しでも49号を遠ざけようとぶん殴り、
    「カミ降ろし、鳴神。鳴り響きて敵を討て」
     勇騎の呼び出した雷が轟く。
    「鵺白せんぱいっ」
     その間に鵺白は後方に下げられた。夏蓮が泣きそうな声で呼び続け、ホテルスが回復を施したが、目を覚まさない。
     鵺白は戦線に復帰するのは難しいだろう……つまり。
     ――ディフェンダーがいなくなった。
     しかしすかさず、
    「怯んでる場合じゃないわよ」
     凍り付いてしまった灼滅者たちに気合いを入れ直すように、ドラグノヴァが力強く氷の炎を放った。
    「そうだな、やるしかねえよな!」
     香艶も続いて槍から氷弾を撃ちこんで、
    「赤標識はもう見切ったぜ!」
     勇騎が動きの鈍った49号の標識を躱し、脇から鬼の拳を叩きこんだ……次の瞬間。
     ウガアアッ!
    「うっ!」
     割り込むように69号が押し出てきて、勇騎を猛烈な勢いで殴り倒した。
    「ああ……」
     ホテルスが悲痛な声を上げる。序盤から何度か大きなダメージを受けている勇騎は、床に伏したまま動けない……と。
     ガアアッ。
     ウギギギッ。
     アンデッド同士が倒れた勇騎を前にしてもみ合い始めた。まるで……。
    「獲物を、取り合ってる、みたい……?」
     蒼はハッと気づく……チャンスだ。
     ビシュルッ!
     蒼の背中からダイダロスベルトが射出され、凄まじい勢いで突き刺さった。
     ギィアアァァ……!
     悔しそうな悲鳴と共に49号は倒れた。倒れた途端ぐずぐずと体が崩れ出す。その様子を69号は興味深そうに眺めていたが、獲物の存在を思い出したか、また彼の方に向き直り交通標識を出現させた。
    「勇騎ッ」
     庇えないのは承知で残る前衛が踏み込んでいくが、それより早く。
    「させないよーっ!」
     狙いすました夏蓮の氷弾が標識を持つ右腕を凍り付かせる。固まった一瞬の隙に、香艶が勇騎をアンデッドの足下から引きずり出し、蒼が鬼の拳を腹に叩き込む。
     グボオオオッ。
     聞き苦しい悲鳴を上げた69号に向けて侑紀が呟き、
    「……もう黙れよ。屍は喋らないものだ。言いたいことはあの世で言ってろ」
     影ですっぽりと包み込み、その影に紛れて接近したドラグノヴァが、急所を狙って刃を立てた。
     ぐったりとした勇騎は、ホテルスが後方に下がらせた。
    「すまねえな……」
     朦朧としつつも意識はあるし、ケガそのものはそれほどではなく、不幸中の幸いだ。
     ウガアアアッ。
     怒りの声と共に、69号が標識を振り回して影を振り払った。そしてその標識が青く輝く。
    「うあぁっ!」
     青い光線がクラッシャーの2人に浴びせかけられた。
    「回復します!」
     ホテルスはすばやく標識から黄色の光を送ろうとしたが、
    「いい……お前も攻撃しろ」
     香艶が息を荒げながらも、凄みのある笑みを浮かべて立ち上がった。彼も限界が近いはずなのに。
    「残るはこいつ1体だ。一気にやっちまおうぜ」
    「それがよさそうだ」
     頷いた侑紀が、赤い標識で頭部を吹っ飛ばそうかという勢いで殴りつけ、よろめいたところに夏蓮が注射で毒を大量に流し込む。ドラグノヴァの大鎌から発された刃は傷口をズタズタに広げ、
    「そうですね、早く解放してやりましょう」
     ホテルスも最後方からダイダロスベルトを鋭く射出した。
     グギャァアアアッ!
    「おっと」
     苦し紛れに振り回された標識を香艶は槍で受け流し、69号を引きつけると、
    「頼んだぜ!」
     渾身の力で蒼に向けて蹴り飛ばした。
    「……頑張り、ますっ!」
     ふっとんできたアンデッドに、蒼は力と魂を精一杯込めてロッドを叩きつける。
     魔力の火花が目を眩ませるほどに弾けて……。
     光が失せると、そこにはアンデッドの残骸が残るのみ。


     すぐにでもカンナビスのいる院長室目指して侵攻したいところであったが、こちらのダメージも大きいので、まずは回復と裏口封鎖に務めることにした。
     動けるものは備品やがれきを、裏口前にどんどん積み上げていく。
    「ごめんなさいね、わたし、せっかく怪力無双装備してきたのに、肝心な時に動けないなんて」
     目覚めた鵺白が、夏蓮に介抱されながら謝る。
    「大丈夫っ、動けるメンバーだけでも充分作れるよ!」
     鵺白が意識を取り戻してくれたことが嬉しくて、夏蓮が笑顔で答えた時。
    「カンナビスは灼滅されましたか!」
     他班と連絡中のホテルスが声を上げた。
    「おお、灼滅か!」
    「やったな!」
     封鎖作業をしていたメンバーも駆け寄ってくる。
     しかしホテルスの表情が急に曇り。
    「闇堕ち……はい。わかりました。伝えます……では一旦失礼します」
     通信機を外すと、傷ついた仲間の方に向き直り。
    「勇騎殿……妹殿が、カンナビス戦で堕ち、去られたそうです」
    「な……っ、翼が……?」
     ベンチに横たわっていた勇騎は思わず身を起こしかけたが、
    「動かないで」
     ドラグノヴァに押しとどめられる。
    「その体では追えないわ」
     ギリ、と勇騎は歯噛みして……けれどまたベンチと沈み込んだ。
    「あいつ……やっぱり無茶しやがって」
     仲間たちは傷ましげに兄を見つめる。
    「とりあえず……」
     侑紀が冷静に口を開く。
    「俺たちはもう退却してもいいのではないか? カンナビスは灼滅されたのだし」
    「そうだな。けが人は背負ってってやる」
     香艶も頷いた……その時。
    「ほう、カンナビスがやられたのか」
     硬質な声が響いた。見れば数体のダークネスが瓦礫の上から彼らを見下ろしていた。
    「……ソロモンの悪魔?」
     灼滅者たちは負傷者を守るように固まった。
     しかしダークネスは、
    「去ね」
     バカにするかのように顎をしゃくった。
    「撤退するつもりだったのだろう? とっとと去ね」
     そう言って作りかけのバリケードを軽々と破壊して、病院へと踏み込んでいく。
     悔しいが、この状態では言われた通りさっさと撤退するしかない。準備をしながらホテルスは他班に素早く連絡を入れる。
    「ソロモンの悪魔の一隊が、たった今病院へ侵入しました……」
     現れたソロモンの悪魔は、監視していたハルファス軍なのだろうか。カンナビスの遺産の回収か、あるいは、カンナビスが確実に死んだ事を確認しに来たのか……それとも?
     カンナビスは滅んだ……それでも謎は残っている。後ろ髪を引かれる思いで、灼滅者たちは病院廃墟を後にしたのだった。

    作者:小鳥遊ちどり 重傷:雪椿・鵺白(テレイドスコープ・d10204) 
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2015年1月16日
    難度:やや難
    参加:8人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 10/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 0
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