新春激闘、上州かるた!

    ●生徒会室にて
     冬休みも終わりに近いある日、群馬の某女子校・生徒会室で会議が行われていた。この学校では3学期になってすぐ『クラス対抗・百人一首大会』が開催されるので、その打ち合わせだ。
    「じゃ賞品は例年通り、1位のクラスがいちご大福、2位がジュースということでいいね」
    「早速注文します」
     会議はサクサクと進んでいる……と、その時。
     ガラ……ガラガラ……。
     ノックもなく、辛気くさいカンジで生徒会室の戸が開けられた。姿を現したのは、制服姿の小柄な女生徒。前髪が顔を隠している。
    「どなた?」
     生徒会長が尋ねると、女生徒はくらーい声で、
    「……なんで百人一首なんですか?」
     長い前髪の隙間で目が陰険に光っている。
    「群馬県民なら『上州かるた』でしょう!?」

     解説しよう!
     上州かるたとは、群馬の事物や歴史を読み込んだ郷土かるたである。
     群馬の全小学生は冬休み返上でこのかるたの練習に励み、至高の県大会を目指すのだ。
     郷土愛を育むバイブルという面も持ち、群馬出身者は大人になっても全札を完璧に暗記しており、県外において群馬愛を確認しあう符丁ともなっている。

    「えっと……」
     会長は目を点にしつつも、
    「うん、確かに群馬県民なら上州かるただけど、ほら一応高校生だし?」
    「だよね、古文の勉強としても、教養としても百人一首の方が」
    「我が校の伝統行事だしね」
     他の生徒会役員たちも口々に百人一首大会の正当性を述べる……が、怪しい女生徒は、
    「あなた方には郷土愛というものはないんですか!?」
    「え、そんなことないよ」
    「それとコレとは話が別でしょ」
    「それなら!」
     バンッ、と女生徒は会議中のテーブルに、使い込まれた上州かるたを叩きつけた。
    「私と勝負をしてください。あなた方が勝ったら、百人一首大会開催を認めます。でも私が勝ったら『上州かるた大会』に変更してください!」
     無茶な……と役員たちは思ったが、ここは勝負を受けないと収まらなそうだ。それに、彼女たちも腕に覚えがないわけではない。
     会長がニヤリと笑う。
    「わかった。でも後悔しないでね。あたし6年の時、上州かるた大会の、市の団体代表だよ?」
    「それを言うなら私は」
     書記が手を挙げ、
    「県大会個人の部3位です」
     おおお~すげ~と生徒会室がざわめく。かるた猛者は、群馬では大変尊敬されるのだ。
    「じゃ書記にいってもらおう!」
    「はい、いかせてもらいます!」
    「誰が一対一と言いました?」
     盛り上がる生徒会役員たちに、女生徒は陰気に言い放ち、
    「全員でかかってらっしゃい……ああ、ひとりは読み手をしてもらわなきゃなりませんが」
     バサアッと重っ苦しく垂れていた前髪を掻き上げた。現れたのは、意外にも華やかな美貌。しかし瞳が毒々しい金色に輝いている。
    「それでも私が勝ちますけどね!」
     
    ●武蔵坂学園
     黒木・摩那(昏黒の悪夢・d04566)と春祭・典(高校生エクスブレイン・dn0058)は教室の片隅で。
    「というわけで、上州かるた怪人に堕ちかけの女子高生を、救出して頂きたいんです。群馬中の百人一首大会に乱入しだしたりしたら困りますからね」
    「校内で暴れているだけの今のうちに、覚醒させてあげたいわ」
    「彼女は軽田・命(かるた・みこと)さん、この女子校の1年です。上州かるたが好きすぎて、けれど小学生の時みたいに思う存分やれないことに鬱屈して、堕ちかけてるみたいですね」
     さすがの群馬県民でも高校生ともなると、かるた一色の冬休みというわけにはいかないらしい。
    「摩那先輩たちは、生徒会役員の肩代わりをして、命さんとかるた勝負をしながら戦い、説得してください。その際、戦闘だけでなく、かるたも勝つことが望ましいです」
     命は超真面目な性格なので、負けることにより自らの精神修養が足りないことに気づくだろう。
    「でも彼女、めっちゃかるた強いのよね?」
    「強いですよ。ですから」
     そっと『上州かるた』が差し出された。
    「当日まで練習あるのみ……と言いたいところですが、少々卑怯な手を使ってもいいでしょう」
     くそ真面目な命は、神聖なかるた勝負に反則をする者が存在するとは思っていない。姑息な技を使っても気づかれない可能性が高いので、色々考えてみよう。
    「介入は、彼女が『全員でかかってらっしゃい』とか言い放ったあたりが格好いいかしら?」
    「よさそうですね……それから読み手は、生徒会役員にやってもらわないとなんですが」
     流れ弾などの可能性があるので、注意が必要だ。
    「ところで」
     摩那はおそるおそる尋ねた。
    「女子校に潜入でしょ、男子はどうすれば?」
    「基本女装でお願いします。潜む場所は生徒会室隣のトイレがいいと思いますし」
     典は平然と言い放ち、紺ブレザーとプリーツスカートの制服を、ドサッと机の上に積み重ねたのだった。


    参加者
    黒木・摩那(昏黒の悪夢・d04566)
    巴津・飴莉愛(白鳩ちびーら・d06568)
    猪坂・仁恵(贖罪の羊・d10512)
    宮守・優子(猫を被る猫・d14114)
    ルナエル・ローズウッド(葬送の白百合・d17649)
    アガーテ・ゼット(光合成・d26080)
    海野・桔梗(鷹使いの死神・d26908)
    饗庭・樹斉(沈黙の黄雪晃・d28385)

    ■リプレイ

    ●某女子校トイレにて
    「こんなかるたがあるんだねー」
     饗庭・樹斉(沈黙の黄雪晃・d28385)は『上州かるた』をめくりながら呟いた。もちろん今日を目指して熱心に練習はしてきたが、最後まで復習怠りない。
     ちなみに樹斉は本日の黒一点なのだが、ぽっちゃり小柄なせいか、なかなか可愛らしく女装できている。今日は女装キープのため、戦闘中も人間型でいる予定。
    「せっかく面白いのに、無理に押しつけたら反発買うの当たり前だよねー」
    「うん、なんか面倒くさそうな子だよねぇ」
     海野・桔梗(鷹使いの死神・d26908)が、トイレの入り口から生徒会室の方を伺う。面倒くさそうな子……軽田命はまだ現れていない。
    「もっとらくに楽しく生きりゃいいのに」
     巴津・飴莉愛(白鳩ちびーら・d06568)が涼しげな表情で頷き、
    「群馬の力で軽田殿を救ってあげようぞ」
     飴莉愛は群馬に早入りしてガイアチャージしたので、絶好調である。
     ちなみに彼女はエイティーンを使っているが、小柄なままだしスレンダーだし、実年齢の時との差はさほどない。ただ、横顔の線がシャープに大人っぽくなっているようだ。
    「それにしても」
     ルナエル・ローズウッド(葬送の白百合・d17649)が樹斉の手元のかるたをのぞき込んで。
    「トランプ怪人じゃなくてよかったわ。神経衰弱だったら勝負が成立しなかったわよね」
     神経衰弱しながらバトル……そりゃかるた以上にカオス。
     と、その時、ガラ……ガラガラ、と陰気な戸の音が人気のない廊下に響いた。そっと覗くと、生徒会室に入っていこうとしている小柄な女生徒の背中が見えた。
    「(来たな……)」
     灼滅者たちはトイレの入り口にスタンバイし、ぼそぼそと聞こえてくる会話に耳をすます。

    『――全員でかかってらっしゃい……それでも私が勝ちますけどね!?』

    「(今だ!)」

    ●いざ勝負!
    「ちょっと待ったぁ!」
     先頭切って生徒会室に飛び込んだのは黒木・摩那(昏黒の悪夢・d04566)。続いて猪坂・仁恵(贖罪の羊・d10512)がスカートを翻して。
    「かるた大会なんてお子様くさいこと、お天道様が許しても我々百人一首同好会が許さねーです! その勝負我々が預かりましたよ!!」
     樹斉も勢いよく前に出たはいいが、
    「まずは、ぼ……私達が相手だよ!」
     大事なとこで噛んじゃった。
     桔梗と宮守・優子(猫を被る猫・d14114)が、挑発するように金色の瞳のロングヘアの女生徒……命に歩みより、顔を近づけ、
    「そっちの土俵で勝負してやるっつってんだ。本職が受けない、なんてことないよな?」
    「もし自分らが負けたら、上州かるた同好会になってやるっすよ」
     唐突な挑戦に唖然としていた命だが、2人をギロっとにらみ返し、
    「ほう、いい度胸ですね。わかりました、まずはあなた達にかるたの実力をしーっかり教えてあげようじゃありませんか! まとめてかかってらっしゃい!!」
     が、そこに。
    「あ……あの、同好会の人たち」
     生徒会長が遠慮がちに口を挟んだ。
    「あなたたち百人一首は上手なんでしょうけど、上州かるたはまた違うよ?」
    「任せてください」
     仁恵が自信満々な表情で。
    「かるたなんて子供の遊びで負けるわけねーです。何しろ我々は百人一首の県大会で2位の実力! しかもまとめてかかってらっしゃいとか、舐めたこといってるですからね!」
     超ハッタリ。
     しかし純朴な田舎の女子高生たちはハッタリを信じてくれたのか、
    「それなら……」
    「そんなに上手なら……」
    「お任せしてみる?」
     いや信じてくれたというか、こんなめんどくさい子とのわけのわからない勝負、引き受けてくれる者がいるなら譲りたいに決まってる。
    「そうと決まれば」
     飴莉愛が生徒会役員たちに頭を下げて、
    「どなたか読み手をやってくれぬか?」
     役員たちは困った顔を見合わせていたが、会長が諦めたように手を挙げた。責任感からであろう。
    「ありがとう。では、その他の方は廊下で待っていてくれぬか。9人でかるたをするとなると、この部屋はいっぱいになる」
     仁恵も飴莉愛の雰囲気に合わせたのか重々しく頷き、
    「この戦いは厳しいものになるでしょうから」
     生徒会役員たちは、残る会長を心配そうに見やりながら廊下へと退出した。
     ガラガラピシャンと戸を閉めたのはアガーテ・ゼット(光合成・d26080)。
    「とうとう勝負の時が来たわね」
     アガーテは両手を広げて妙なポーズを取り、
    「鶴のように舞い、雷のように刺す、私の技術を見せてあげるわ!」

    ●かるたでカオス
     飴莉愛がうまく丸め込んで、かるた勝負を円陣に持ち込んだ。テレパスを使える仁恵と樹斉は対面に座った。テレパスで会長の思考を読み始める前に感知し、接触テレパスでいち早く隣近所の仲間に知らせるのが基本の作戦である。
     円陣の中に絵札が整然と並べられ、いよいよ緊張の面もちの会長が、上州かるたの儀式、冒頭の空読みを行う。空読みされる札は決まっている。
    「羽ばたくコンドル群馬県~……」
     読み上げながら会長は、手札をめくり、次の句に目をやる。その瞬間、仁恵と樹斉は次が『い』であることを感知し、背中から手を伸ばして仲間たちに触れた。札に見入っている命はその動作に気づかない。
     摩那は自分の目の前に『い』の札があることを見切っていた。文字の妖精さんで予習してきているから、それがどんな絵であるかもしっかり覚えている。
    「い……」
     会長が札を読み始めた瞬間、
    「はいっ!」
     摩那はビシィと『いいお湯でるよ水上温泉』の札を弾いていた。ついでに身を乗り出していた命の頭を、炎を纏った蹴りでどつく。
    「い……いったいわね!」
    「あらごめんなさい。つい勢いで」
    「次は絶対私が取るわよッ」
     命は頭をさすりさすり摩那をにらみつける。
    「さ、次お願いよ」
     いきなりバイオレンスなかるたとりに凍ってしまった会長を、ルナエルが不穏な笑みで励ます。もちろん会長の周囲はディフェンダーでがっちり固めている。
    「え、ええ……えっと」
     札がめくられる。テレパス係のふたりはまた集中して次札を読みとった。
    「と……」
    「はいよーっ!」
     今度は桔梗が取った。そしてついでに命の顎をトラウマを宿した拳で殴りつけた。
    「もうっ、なんなのよ、百人一首同好会ごときにッ」
     命はキイィっと金切り声を上げた。殴られたことより、連続で札を取られたことに怒ってるっぽい。涙ぐんでいる。
     摩那が首を傾げて。
    「あなた、郷土愛から上州かるたが大好きだってのはわかるんだけど、どうして百人一首をそんなに嫌うの? 同じ札取りのゲームでしょうに。実は古文が苦手とか?」
     桔梗も、今取った札『豚汁できるぞ名産品』を見せびらかしながら、
    「楽しいから高校生になっても続けたいって気持ちはわかるぜ。けどな、居場所がないからって学校で強制するのはどうよ」
    「あ、あんたたちになんか、私の気持ちはわかんないわよっ」
     命は中二台詞を吐くと、ふるふる震えながらブレザーの内ポケットから黒いカード……黒いカルタの札を出した。
    「青春をかけた上州かるたなのに、あんなに練習したのに、どうして小学校までなのよ! 6年間の血のにじむような努力をどうしてくれるのよーッ!!」
     命が投げ上げたブラックかるたは、薄汚れた天井に不吉な五芒星を描き、そこからじわりと圧力が降ってくる。
    「会長を!」
     ディフェンダーたちは一斉に会長を庇う。
    「きゃーっ、なんなの、今の何!?」
     怯える会長のケアをディフェンダーたちに任せ、飴莉愛は命に詰め寄る。
    「貴殿、今己が何をしようとしたか解っておるか? 群馬の民を傷つけようとしたのだぞ!」
    「じょ……上州かるたを理解しようとしない群馬県民なんて」
    「黙れ、裁きの光を喰らえ! 飛ばせよ鳩よ、豆鉄砲!!」
     ガラピシャーン、と天からの光が命に命中した。
    「い、痛いじゃないの!」
     若干焦げた命が飴莉愛につかみかかろうとした時、
    「さ、勝負再開っすよ」
     優子がキャリバーのガクを会長の盾のように配置しながら声をかけた。ルナエルも霊犬のブラウを番犬よろしく会長に寄り添わせた。
     宥められて読み手を続ける会長であるが、顔色が悪い。樹斉は
    「(気の毒……)」
     と思いつつも、狐耳をぴこぴこさせまた会長の思考を読む……『て』!
     彼の前に『て』の札。予習の成果でそれが『電車に注意少女病』という群馬出身の文豪・田山花袋の名作についての句だということも知っている。
    「て……」
    「はあいっ!」
     読み始めと同時に樹斉は右手を伸ばした。しかしそこに命の白い手が割り込んできて……。
     樹斉はとっさに左手で目的の札を叩き飛ばした。そして右手で早く刃を握り、命の手首を狙って切りつけた。
    「はあうっ!」
     鮮血が迸る。
    「ごめーん、カルタの角で切っちゃったみたいだね」
     樹斉は邪気ないふりで微笑み、飛ばした札を拾うと、
    「このかるた、愛がこもってるよねー。でも強引に押しつけるのは愛じゃないよ。強引なのは、逆効果だよ?」
    「う……うっさいわねっ、早く次行きなさいよ!」
     命は図星を突かれたか、赤い顔で絵札にキッと向き直った。
     生徒会長は読み札をめくり、
    「こ……」
    「うわぉはぁーいっ!」
     今度はアガーテが『こ』の札を抑えつけた……と同時に、背中からダイダロスベルトがシュルっと。
    「うがっ!?」
     ベルトに跳ね飛ばされた命は書棚にぶつかり、ドサドサと落ちてきた書類に埋まった。
    「あ、貴女……何をしたのッ!?」
    「見たか!」
     アガーテはまたよくわからないポーズをシャキーンと決めて『粉の雪ふる赤城山』の札を掲げた。
    「これが私の必殺技、人呼んで『魔手の鶴姫』!」
     ネーミングもよくわからないが、鶴や雷など群馬ワードをリスペクトな文脈で利用して深層意識に訴えようという試みらしい。彼女はかるただけでなく群馬関連の本を様々(ラノベとか)勉強してきたので、ノリノリなのだ。
    「ねえ命さん、他を排除してまで押しつけられたものを、皆が喜ぶかしら? 群馬の皆に愛されて楽しまれてこその上州かるたでしょう?」
    「そ……そんなこと、私だって解ってるわよ!」
     命は書類の山から起きあがって。
    「けど、小学生までは皆あんなに熱心にかるたに取り組むのに、どうして高校生になったからといって、百人一首などという大昔の京都の公家の作ったものを……」
     振り切るように顔を上げた。
    「ええい、早く次を読んで! 絶対に負けないわ!!」
     命は変わらず頑なである。けれど灼滅者たちは、その瞳が勝負が始まった頃ほどギラついていないのに気づいていた。説得が効いてきている。
     次の札は、
    「く……」
    「「はいっ」」
     命と優子が同時に反応したが、近かった分優子が早かった。手が札の上で重なっている。優子は悔しそうな命の顔をニイっと猫っぽく笑って見上げ。
    「『区別のつかない茄子の蒲焼』楽しいじゃないっすか、上州かるた。でも押しつけるのは正しいんすかね? やっぱこうやってみんなで楽しくが一番じゃないですかね?」
     命は気まずそうに手を引き、次の札。
    「ち……」
     飴莉愛が取れそう。しかし命も早い、と見た仁恵は、咄嗟に脚を出してひっかけた。キララーンと星屑が散る。
    「はあうっ!?」
    「あっ、ごめんなさいよ-、にえ足で取ろうとしたですよ」
     もちろんその隙に飴莉愛は『チョイナチョイナと湯をもみ唄う』をゲット。
     次の札は『た』。仁恵の傍にある。しかし前札のスターゲイザーで初動が遅れてしまい、間に合わない……かと思われた瞬間。
     ゴオッ。
     絵札が舞い上がる勢いで、ルナエルの箒の低空飛行が通過した。しかも『dragonet』をぶんぶん振り回しながら。
    「な、何っ!?」
    「あら、箒で探してるだけよー……ぎゃっ」
     壁に激突。
    「と、とったですよー!」
     混乱の中、仁恵は何とか『たれ香ばしき焼きまんじゅう』の札を手にした。ついでにレイザースラストで命をひっぱたいておくことも忘れない。
    「きゃあぅっ!」
    「にえの腕は伸びるんですよ!」

     その後も、摩那の身を呈したダイブや優子のカンペなどの物理的な作戦と、テレパスのフル活用、そしてもちろん熱心な予習のおかげで、灼滅者たちはかるた勝負に勝つことができた。
    「ま……負けた」
     かるたついでにちまちま殴られ続け、ぼろぼろの命はへたり込んだ。
    「私はまだまだ未熟だっていうの……!?」
    「未熟でいいではないか」
     飴莉愛が勝負中とはうってかわった優しい声で。
    「共に強く、大きくなろうぞ。別のかるたに旅立つ者を、笑って見送り、そして帰郷を温かく迎えてやれるほどに」
    「……共に?」
    「自分に自信を持つことは悪いことではないわ。でも驕りになってしまってはいけない」
     ルナエルが黒くない笑みを浮かべ、
    「私たちの学園で共に強くなりましょう。それにかるたにも興味が出てきたわ。よかったら改めて教えてくれない?」
    「学園……?」
     灼滅者たちは武蔵坂学園について説明した。 
    「そんな学校が……」
     自分の力を生かせる、しかも上州かるたを全国に広めるチャンスも得られるかもしれないという話に、命は惹かれたようだった。
    「命さん、仲間になるためには、あなたの中の黒い心を祓わせてもらわなきゃならないの」
     アガーテが交通標識を構え、優子が足下に影を引き寄せる。
     これから起こることを直感し、命はごくりと唾を飲んだ……が、頷いた。
    「少しだけ、堪えてくださいっす!」
     猫型の影が斬りかかったのを皮切りに、灼滅者たちは一斉に最後の攻撃に出た。
    「郷土愛は押しつけるものではないわよ。友好的な広め方を一緒に考えましょう!」
     ルナエルは杖で魔力をたたき込み、樹斉は子守歌を響かせる。
    「あなたの腕なら、百人一首でも活躍できるはずよ。一緒に勉強して新たな一歩を踏み出しましょう!」
     摩那は槍を力一杯捻り込み、アガーテは赤標識で殴りつけた。
    「窮鳥懐に入りて、猟師を持ち上げる……っ」
     飴莉愛は、よろめいた命をつかまえて投げ飛ばし、桔梗は、
    「人生、楽しまなきゃ損だぜ!」
     シールドでひっぱたいて引きつける。
    「い……いたいじゃないの……っ」
     苦し紛れに繰り出された命のキックを桔梗が軽々とかわすと、その後ろから仁恵がひょいと現れ、
    「君の群馬愛は受け取りましたよ! でもその愛はまだ一方通行、もっとかるたの声をお聞きなさい!!」
     精一杯の魔力と真心を込めた杖を叩きつける!
     生徒会室が目映い閃光に満たされ……。
     視界が戻ると、そこには小柄な女生徒が安らかな顔で横たわっていた。

     命はすぐに目覚め、灼滅者たちは安堵の息を吐く。
     優子は命を抱き起こしながら、ニッと笑いかけ、
    「上州かるたに縁の場所を見て回るとか、名物食べたりするって楽しそうだと思うんすが、案内してくれますかね?」
     命はちょっと驚いた顔をしたが……すぐに笑顔になり嬉しそうに頷いたのだった。

    作者:小鳥遊ちどり 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2015年1月21日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 1/感動した 0/素敵だった 1/キャラが大事にされていた 7
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