給食室の骨切りおばさん

    作者:西東西


     長崎県のある中学校にて。
     放課後、クラブ活動を終えた3人の女子生徒たちが下校するべく廊下を歩いていると、廊下を照らしていた蛍光灯が何度か明滅したのち、そのまま、消えてしまった。
    「あれー? 電気、消されちゃったかなぁ?」
    「ちょっと! まだここに生徒がいるのにヒドくない!?」
    「つったって、もうとっくに下校時刻過ぎてんだろ。おまえらがノロノロ着替えてんのが悪い」
     窓の外を見やれば、町はすでに夜闇に包まれている。
     文句を言いながら薄暗い廊下を歩く2人をよそに、1人の少女が足を止めた。
     扉の上には、『給食室』の掲示。
    「ねぇねぇ知ってる? うちの学校って、昔、給食のおばちゃんが過労で突然死したことがあるんだって。それで食べ残しとか、好き嫌いとかしてる学生がいると、死んだおばちゃんが怒って殺しにくるんだってー」
     先行く2人の背に声をかければ、2人は呆れた顔で振りかえった。
    「ちょっと! こんな時に怪談とかやめてよね!」
    「つーか、このテの怪談は作り話に決まってんだろ」
    「そうだよ~。もし本当だったら、今ごろあたしたち死んでるよ」
     話題を振った少女がほわほわと告げ。
    「今日給食で出たお餅。太るからって、あたしたち食べなかったもん――」
     「ね」と、2人に同意を求める前に。
    『お残しする子、みぃーつけた』
     胴体から切りはなされた少女の首が、ごろんと廊下に転がった。
     

    「このところ、毎日冷えこみますね……。作りたてのきなこ餅です。よろしければ、あたたかいうちにどうぞ」
     教室に集まった灼滅者たちにひとくちサイズの餅をふるまい終えると、西園寺・アベル(高校生エクスブレイン・dn0191)が事件の概要を語りはじめる。
    「天生目・ナツメ(大和撫子のなり損ない・d23288)さんと、千布里・采(夜藍空・d00110)さんから、九州の学校で多数の都市伝説が実体化し、事件を起こしているという報告がありました」
     場所が九州に特定されていることから、『HKT六六六』および『うずめ様』の関与が疑われているが、現時点での確証はない。
    「今回、千歳・ヨギリ(宵待草・d14223)さんの推理をもとにさらに情報を集めたところ、1つの都市伝説の出現を察知しました。ダークネス関与の真偽はともかく、このままでは学生たちが被害にあってしまいます。急ぎ、解決に向かってください」
     
     都市伝説が出現するのは、ある中学校だ。
     放課後、給食室の前を通りすぎた女子生徒3人が、怪談をもとにした都市伝説『給食室の骨切りおばさん』に殺害される。
    「都市伝説の出現条件のひとつが、『給食を食べ残した生徒』というものなのですが……。運悪く、この3人の少女が条件に該当していたようです」
     条件外の者が居合わせた場合は、都市伝説は出現しなくなってしまう。
     よって今回は、『一番最初に狙われる少女へ攻撃が仕掛けられるタイミング』以降に、介入を行う必要がある。
     3人は一本道の廊下におり、給食室の前で襲撃を受ける。
     この時、給食室の扉は開いたままになっており、扉の目の前には『蝶子(ちょうこ)』という名の少女が立っている。
     初撃を防ぎぎれなければ、蝶子が最初の犠牲者となる危険はきわめて高い。
     また、残る少女『猪乃(いの)』と『美鹿(みか)』は給食室からすこし先へ歩いた地点にいるものの、都市伝説の出現と襲撃にパニックを起こすため、こちらも適切な対応を行わなければ第二、第三の犠牲となりかねない。
    「廊下をまっすぐに行けば昇降口にたどりつき、学校を出ることができます。今回の都市伝説は学外に出られないため、昇降口まで避難させれば、3人は逃げきることができるはずです」
     なお、都市伝説が扱うのは「出刃包丁(解体ナイフ)」と「中華包丁(無敵斬艦刀)」に似たサイキックとなる。
     出刃包丁による単体攻撃と、中華包丁による列攻撃がもっとも殺傷力が高いため、戦闘時は注意してほしいと告げ、アベルは説明を終えた。
     
     最後に、もう1点気になることがあると前置きし。
    「この中学校には何者かの気配を感じるのですが、襲ってくるということはなさそうです。とはいえ、事件解決後は安全のため、すみやかに帰還するようにしてください」
     アベルはそう告げ、「少女たちをお願いします」と頭を下げた。


    参加者
    水瀬・瑠音(蒼炎奔放・d00982)
    芳賀・傑人(明けない夜の夢・d01130)
    千歳・ヨギリ(宵待草・d14223)
    王・龍(瑠架さんに踏まれたい・d14969)
    ハノン・ミラー(ダメな研究所のダメな生物兵器・d17118)
    ペーニャ・パールヴァティー(星海氷華・d22587)
    莫原・想々(幽遠おにごっこ・d23600)
    九形・皆無(僧侶系高校生・d25213)

    ■リプレイ


     長崎県のある中学校にて。
     すべての授業が終わり、一般人学生たちがクラブ活動に励むなか。
     事件発生前に校内へ潜入した灼滅者たちは、戦闘場所となる給食室周辺の位置関係を確認すべく、校舎の外からあたりの様子をうかがっていた。
     給食室のある廊下は、一階の一本道。
     廊下の先にはさきほど灼滅者たちも通ってきた昇降口があり、学外へ繋がっている。
    「食べ残し、好き嫌い……思い当たる節がありありだぜぇ……」
    「私も、残したらよくおばあちゃんにゲンコツ食らわされてましたね」
     今回の件はどうにも他人事には思えないと、水瀬・瑠音(蒼炎奔放・d00982)と王・龍(瑠架さんに踏まれたい・d14969)が、しみじみと呟く。
    「それにしても、『太るから食べない』、か……。成長期に食事を制限するのは、不健康のもとだ」
    「炭水化物ダイエットの、影響で……、お餅食べるの好きじゃない、人が……多いみたい、ね……」
     「ヨギは……お餅、好きなんだけど……」と、千歳・ヨギリ(宵待草・d14223)が芳賀・傑人(明けない夜の夢・d01130)の言葉に応える。
     今回エクスブレインに調査を依頼したのも、そういった話題を耳にしたのがきっかけだ。
    「ダイエットしてるわけじゃなくて、本当に少食で……。そういう、私みたいな子には心苦しい都市伝説ですね……」
     申し訳ないとは思ってるんですと消え入りそうな声で告げる莫原・想々(幽遠おにごっこ・d23600)も、今回の都市伝説には少なからず思うところがあるようだ。
    「ところで。頑張ったのに成果が得られないと言う意味の、『骨切り損の首切りOK』と言うことわざがありますが――」
     ふいに語りだしたペーニャ・パールヴァティー(星海氷華・d22587)の言葉に、一瞬、沈黙が流れ。
     ヨギリがぽつりと、口をひらく。
    「……『骨折り損の、くたびれ……儲け』?」
    「――そんな事にならないよう、しっかりタイミングを合わせていきましょう」
     ツッコミを待っていたらしいペーニャが、満足げに台詞を締めくくった。
    「九州限定で『学校の怪談』が都市伝説化しているようですが、何者かの仕業なのでしょうか?」
    「なんで『学校の怪談』なんだろう。季節的には、もう少し先のような」
     九形・皆無(僧侶系高校生・d25213)の呟きにハノン・ミラー(ダメな研究所のダメな生物兵器・d17118)も同調し、首をひねる。
     疑問は尽きないものの、いくら考えたところで、これから灼滅者たちの成すべきことに変わりはない。
    「なるべくなら会いたくねぇ都市伝説だけど、やるしかねぇな……!」
    「そうだな。経緯はどうあれ、見過ごすわけにはいかない」
     瑠音、傑人の言葉に皆で頷きあい、灼滅者たちはそれぞれの潜伏場所へと向かった。


     下校を知らせる音楽が鳴り終わり、校舎が夜闇に沈むころ。
     クラブ活動を終えた少女三人が、明かりの落ちた廊下に現れた。
    「あれー? 電気、消されちゃったかなぁ?」
    「ちょっと! まだここに生徒がいるのにヒドくない!?」
    「つったって、もうとっくに下校時刻過ぎてんだろ。おまえらがノロノロ着替えてんのが悪い」
     少女たちの声や足音は甲高く、廊下中に響きわたる。
    「……Game Start.」
     給食室のとなりの部屋に身を隠していた傑人が、囁くようにスレイヤーカードの封印を解放。
     一方、給食室前の窓の外で待機していたハノンは、ふいによぎった業の『匂い』に気づき、思わず顔をあげた。
     それは、少女・蝶子が給食室前に至ったタイミングでもあり――。
    『お残しする子、みぃーつけた』
    「――ハノンさん!」
     あらぬ方向を見やったハノンに気づき、想々が声とともにESP『サウンドシャッター』を展開。
     『旅人の外套』で身を隠していた瑠音は真っ先に廊下に飛びだすと、己の身長ほどもあるガトリングガンを構え、叫んだ。
    「ほむらーん、前頼む!!」
     給食室から現れた都市伝説めがけ、魔力をこめた弾丸を雨のごとく降りそそぎ。
     瑠音の声に応え、物陰から飛びだした霊犬『ほむらーん』が、斬魔刀を一閃。
     その隙に、駆けつけた皆無が蝶子の手を引き、ESP『魂鎮めの風』を発動。
    「すこしの間、夢を視ていてくださいね」
     手のひらから生みだした花弁が蝶子のそばを舞い、瞬時に眠りへと誘う。
     崩れ落ちるように脱力した身体を抱え、迅速に後方へ退避する。
     ――燃え盛るヒト型の怪異と、武器を手にした少年少女たち。
    「あれなに? ねえ、あれなんなのよぉお!?」
    「待てよ! お前たち蝶子をどうするつもりだ!!」
     悲鳴と詰問の声は、残る一般人、美鹿と猪乃の二人のもの。
     龍はすぐに少女たちの手を引き、
    「お残しはあまりよくはないですが、そのせいで犠牲になるのは、ちょっと忍びないですからね」
     皆無と同じく爽やかな風を招き吹かせ、二人を眠らせることに成功。
     ESP『怪力無双』を使用し待ち構えていた傑人が猪乃と美鹿を抱えあげ、
    「足止めを、頼む」
     蝶子を乗せたライドキャリバー『オベロン』とともに、昇降口へ向け、走った。
    『お残しする子、おいてけぇぇえええええ!!!』
     気づいた都市伝説が、出刃包丁を構え追いすがろうとするも、
    「とにかく、手短に倒すか!」
     窓から飛びこんだハノンが白と黒の混ざりあう剣に炎を宿し、横合いから振りかぶった。
     叩きつけた炎はさらに強く燃えあがり、都市伝説の身を焼き尽くす。
     ――業の『匂い』は、一瞬で消えてしまった。
     今は、目の前の都市伝説を灼滅するのが先決だ。
    「傑人お兄さん……、三人を……よろしく、ね」
     続いて窓から飛びこんだヨギリが包帯を射出し、炎に身悶える都市伝説を、まっすぐに貫いた。
    『キエェエエエエエッ!!』
     奇声とともに振るわれた出刃包丁は、間合いに飛びこんだ皆無が『怨霊縛鎖縛霊手』で受け止め、相殺。
     三人の一般人を連れた傑人とライドキャリバーは、みるみるうちに遠ざかっていく。
     避難完了と判断し、龍はESP『殺界形成』を展開。
     ペーニャは黄金の三叉戟を突きつけ、言いはなった。
    「骨切りがお好きなら、どうです。ここに『骨のある』学生たちが8人も居ますよ。もっとも、全員、そう簡単に切られるつもりはありませんけどね」


     ペーニャの槍は都市伝説の腕を的確に狙い、穿った。
     しかし腕はすぐに復元し、都市伝説はふたたび包丁を手に切りかかってくる。
     攻撃が通った分の痛手は確かに受けているようだが、部位破壊を仕掛けたところで元に戻ってしまうため、武器を握れなくなる等といった効果は狙えそうにない。
    『お残しする子は、お仕置きだよおおおぉぉ!!』
     腕全体を使い振りおろされた中華包丁が唸り、灼滅者たちを一刀両断。
     霊犬『ほむらーん』が主へ向けられた攻撃をかばい受け、
    「嫌いなモン食わなくたって、死なねぇぜ!」
     瑠音は巨腕を掲げると、堅く握りしめた拳と、青から赤へと変じつつある炎を叩きつける。
     殴り飛ばされた先で都市伝説を待ち受けていたのは、ヨギリだ。
    「お残しは……いけないこと、だけど……」
     『雪の鐘』――スノードロップの花を模した槍の柄を握り締め、
    「人を殺すのは……もっと悪い、ことよ……!」
     言葉に乗せ、捻りを加えた渾身の一撃を撃ちはなつ。
     想々はかつてまみえた者たちの名を冠した聖剣を手に、『祝福の言葉』を、ささやく。
    「吹け、春風」
     優しく吹きすぎた風は仲間たちの傷をたちどころに癒し、浄化して。
    「丹精こめて作った側としては、腸が煮えくり返るのでしょうが――」
     仲間たちに続くべく契約の指輪を高く掲げた龍は、その体勢のまま、首をひねった。
    「――ん? 給食のお餅ってコレ絶対業者に頼むタイプですしぐぬぬぬ……!?」
     唸り声とともに手指を振りおろせば、指輪からはなたれた魔法弾はまっすぐに都市伝説の肩を撃ちぬいた。
    「献立、考える身にもなれってことかも」
     ハノンがそっけなく合いの手を入れるも、龍の答えを待たずに廊下の床を蹴る。
     向けられた包丁が脇腹をかすめ、痛みが走る。
     しかし身を退くことなくさらに踏みこむと、純銀製の注射器を都市伝説の首筋に突き刺した。
    『ヒイイイイィィィイイイ!!』
     耳をつんざくほどの悲鳴とともに、都市伝説の包丁がふたたびハノンめがけ振りおろされるも、
    「援護、する」
     一般人避難からもどった傑人が合流し、跳躍。
     中空に炎轍を描きながら、都市伝説を廊下の奥へ吹き飛ばすほどの痛烈な飛び蹴りを見舞う。
    「芳賀さん、三人は」
     半身を起こし、反撃に転じようとする都市伝説を警戒しながら皆無が問えば、
    「学外の、夜風が当たらない場所に寝かせてきた。三人とも、怪我ひとつない」
     『オベロン』にキャリバー突撃を命じながら、傑人は抑揚のある声で、はっきりと告げた。
     ――都市伝説は、学外に出ることができない。
     ――外にいる少女たちには、もう、手をだせまい。
     一般人の意識を残したまま事を進めていれば、混乱した少女たちの扱いに手間取り、こうも上手くはいかなかっただろう。
     すべては、迅速、確実に三人を救うべく対応を重ねた、灼滅者たちの作戦の勝利だ。
    「では、急いでこちらを片づけて、三人を起こしに行かないといけませんね」
     なおも灼滅者たちへ刃を向ける都市伝説めがけ、皆無が拳を振りあげて。
     「三人が風邪をひいては、いけませんから」と言い添え、異形巨大化した腕で、都市伝説を廊下に殴りつける。
     最悪の事態を回避することができたなら、あとは最善の結果を持ち帰るべく、手を尽くすまで。
     ペーニャは大地に眠る有形無形の『畏れ』をまとい、
    「ここまで頑張ったからには、きちんと成果を持ち帰りたいですしね」
     先に告げた己の言葉に絡め、鬼気迫る斬撃をはなつ。
     灼滅者たちの連携につぐ連携を受け、都市伝説の身には、すでにいくつもの枷がかけられている。
     身を焦がしくすぶり続ける炎に、身体深くに潜りこんだ毒。
     痺れは繰りだされる攻撃を鈍く、避けやすいものへと変えていく。
    『キエェエエエエエエエッ!!』
     ぶんと振りおろされた中華包丁に、先ほどまでのキレはない。
     霊犬『ほむらーん』とライドキャリバー『オベロン』が、即座に、仲間たちの傷をかばい受けに走った。
     ヨギリは己に降ろしたカミの力をもって逆巻く風の刃を生みだし、敵を斬り裂くと同時に、呼びかける。
    「瑠音お姉さん……傑人お兄さん……!」
     呼び声に応えるよりも早く、瑠音はエアシューズで力強く廊下を蹴っていた。
    「いくぜぇ! 傑人!」
    「ああ、準備はできている」
     瑠音が真紅の炎をまとった蹴りをはなつと同時に、鮮血のごときオーラ宿した傑人の縛霊手が都市伝説をとらえ、引き裂いた。
     癒し手にまわっていた想々も、もはや仲間たちへの回復は不要と見切りをつけ。
    「こんな噂自体、食事を作ってくれる方たちに失礼です……!」
     足元から伸びた影を走らせ、ぼろぼろに成り果てた都市伝説を、喰らい尽くす。
    「そうですとも。本物の給食のおばちゃんに謝るなら、今のうちですよ? ――んん? 謝るべきなのは、噂をしていた人たちの方でしょうか?」
     自問自答しつつも、龍のダイダロスベルトが標的を逃すことはない。
     死角からの斬撃が幾重にも迫り、都市伝説はたまらず床に伏せた。
    「さっさと帰りたいから、終わりにしよう」
     ハノンの言葉もやる気こそ感じられないものの、叩きつけた炎は、確実に都市伝説の身を蝕んでいく。
     金の槍を振るえば、熱のくすぶる身を、冷気のつららが容赦なく撃ち抜いて。
    「私たち、なかなかの『骨太』だったでしょう?」
     ペーニャの問いに、都市伝説が答えることはない。
     手刀に風の刃をまとわせ、皆無が踏みこむ。
    「これで、『死舞い』としましょう――」
     裂帛の気合とともに手首をしならせ、一閃。
    『アアアァアアアアア!!!』
     怨嗟をはらんだ雄たけびをあげると、『ヒトの形をしたヒトでないもの』は、一瞬にして霧散し、跡形もなく消えさった。


     戦闘後。
     灼滅者たちは、学外に寝かせていた少女たちの元へ急いで駆けつけた。
    「……えと、大丈夫ですか?」
     想々が声をかければ、少女たちは冷えきった身体を抱きながらも、目を覚まし。
     記憶に残る恐ろしい情景と、自分たちを取り囲む少年少女たちを見やり、しきりに首を傾げた。
     あくまでも、詳細は語らず。
     あれは『学校の怪談』であり、心霊現象にあったのだとでっちあげて。
     危険な状態は去り、もう同じ目にあうことはないだろうと教えれば、少女たちはようやく安堵の表情を見せた。
     そして、(場の空気を凍らせる)『氷の魔女』――ペーニャ・パールヴァティーは告げる。
    「命拾いしましたね。
     しかし、給食のお残しはいけませんよ。
     調理をしている方たちに失礼というものです」
     なにやら韻を踏むように告げたその言葉を理解したのは、傑人だ。
    「……台詞の頭文字で、『猪』『鹿』『蝶』、か」
     「上手いな」と、淡々と告げられて。
    「どうやら、私も修行が足りないようです……」
     謎の猛省をはじめたペーニャへ、「ひとの名前であそぶんじゃねーよ」と猪乃からのツッコミが入ったところで、灼滅者たちは三人の少女の帰途を、笑ながら見送った。

    「そういえば……。戦闘前、ハノンさんはなにを見ていたんですか?」
     想々が思い出したように聞けば、都市伝説の出現位置とはまったく別の場所から、一瞬、業の匂いがしたのだという。
    「観察されているようで、気分が良くないのだけれど」
    「しかし、戦闘前か。全然気づかなかったぜ……」
     瑠音が警戒するように周囲を見渡すも、今現在、ESP『DSKノーズ』からはなんの気配も感じられないという。
    「『HKT』と『うずめ様』は、協力関係なんでしたっけ?」
    「『うずめ様』か……。それとも『ハルファス』か……?」
     想々と龍がダークネスの名を挙げ思惑を巡らせるも、真相は誰にもわからない。
    「……わかった! ローションスライダーですね!!」
     間をおいて叫んだ龍の言葉は、さすがの『氷の魔女』も華麗にスルーした。
    「どこかの組織が都市伝説を人為的に生みだす実験でもしていて、何者かが、その経過を観察している……ってことはないだろうか?」
     皆無も続けて推論を告げたが、それとて、推測の域をでない話だ。
    「思いついた、こと……。なんでも、エクスブレインに……調べてもらうのが良いと、思う……」
     灼滅者の気づきをもとに情報を集めれば、何かわかることもあるかもしれないとヨギリが告げ。
     8人は寒さにけぶる吐息を、夜空にほわりと、にじませながら。
     学園に戻るべく、ならんで歩きはじめた。

     ――九州に横たわる闇は、いまだ、深い。
     
     

    作者:西東西 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2015年2月3日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 6/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 0
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