下仁田の、ネギとネコ

    ●群馬県内、とある大学生の部屋
     狭い下宿の部屋で、男子大学生5名が湯気の立つ土鍋を囲んで、幸せそうにはふはふしていた。
    「あったまるう~やっぱ冬は鍋だな~」
    「安売り品ばっかにしちゃ、旨くね?」
    「うんうん。でも下仁田ネギ入れらんなかったのは残念だ」
    「せっかく群馬に住んでるんだから、下仁田ネギたらふく食べたい気はするよな」
    「太くて甘くてとろっとして、鍋には抜群だよな」
    「言うな! 予算オーバーだったんだから仕方ないだろ」
    「まあなあ、下仁田ネギってなにげに高いからな、貧乏学生には……」
     ……と、突然。
     シャラララーン☆
     ウインドチャイムのような音がして。
     バアンッ!
    「お兄さんたち、下仁田ネギ、あたしが食べさせてあげる」
     ウインドチャイム関係なく、玄関をぶち破るようにして現れたのは、ひとりの女の子。高校生くらいだろうか。ツインテールにアイドルっぽい衣装、そして手にはネギ……下仁田ネギを魔法の杖のように握りしめている。
    「え……? そりゃありがたいけど」
    「ってか、キミ、誰?」
     可愛い女の子が現れたのは嬉しいが、でも、誰?
    「あたしは下仁田ネギアイドル、尾根木・美味(おねぎ・みみ)よ! 群馬中に下仁田ネギを配って回ってるの」
     下仁田ネギアイドル……ああそうかご当地アイドルか何かなんだな。と大学生たちは勝手に納得し。
    「くれるというなら、ありがたくもらうよ」
    「任せて。やっぱり群馬で鍋するなら下仁田ネギじゃないと!」
     美味はネギロッドを振り上げた。
     シャララーン☆
     ドドドドドッ。
    「うわああっ!?」
     どこからともなく大量の下仁田ネギが現れ、鍋を埋め尽くした。しかも泥付き。
    「ネギ多すぎっしょ!」
    「鍋台無しだしっ。こんなにいらねっ」
     慌ててネギをどけだす大学生たち。それを見て美味は、キラーンと不気味に瞳を光らせて。
    「……なんですって。今、下仁田ネギをいらないとか、言った?」
    「だってこんなに……えっ!?」
     可愛らしかった美味の顔が般若のように変貌していた。全身から怒りのオーラがゆらゆらと立ち上っている。
    「許さないわ!」
     ネギロッドが振り上げられた。大学生危機一髪――その時。
    『みゃああっ』
     唐突に一匹の猫が出現し、美味の腕にむしゃぶりついて止めた。シャム猫の成猫程度の大きさで、背中に羽、尻尾の先にはリング。どうやら空中浮遊しているらしい。
     猫は激しく美味に爪を立てる。
    『みゃあ、みゃああ~!』
     
    ●武蔵坂学園
    「下仁田ネギ、適量だったらありがたいばかりですけどね~」
     春祭・典(高校生エクスブレイン・dn0058)の呟きに、集った灼滅者たちは鍋をつつきながらウンウンと頷く。何事も過剰なのがご当地怪人の性だから、仕方ないのだろうが。
     ところで、彼らがつついているのは、下仁田ネギたっぷりのねぎま鍋である。うまうま。
    「今回の闇堕ち一般人、尾根木美味さんには、猫サーヴァントがくっついてます。どうやらこの猫に、彼女の人間としての意識が全ていってしまっているようなんですね」
     なるほど、猫サーヴァント=人間美味の意識であるゆえに、予知の中で一般人への攻撃を必死で止めていたのか。
    「この猫、今は一生懸命悪事を止めようとしていますが、そのうち諦めて消えてしまう可能性があります。そうなると、美味さんは完全にダークネスとなってしまうでしょう」
     そうなる前に闇堕ちしかけている美味を救出しなければならない。
     次に典は美味を誘き寄せる方法を説明した。 
    「本来冬期はやってないんですが、下仁田町のキャンプ場のログハウスを無理言って開けてもらいました。ここで普通の白ネギを使って鍋をしてください。なにせ下仁田は美味さんのお膝元、下仁田ネギ使いなさいよっ、てなもんで、すぐに現れるはずです」
     本来冬期閉鎖のキャンプ場なので人気もなくて好都合。
    「それから、これが肝心なんですが、いつもの闇堕ち一般人と違って、美味さんには説得が効きません」
     人間としての意識が猫に封じられているからだ。
    「猫が存在しているうちに、美味さんを倒す……そうすれば彼女も猫も救えます」
     ぜひ美味も猫も救いたい。灼滅者たちは力強く頷いた。
    「首尾良く救出できたら」
     典は鍋のお代わりをよそいながら。
    「下仁田ネギと、やはり名物のこんにゃくを買ってくるといいと思うんです。お土産にして、学校で鍋パーティーとかいいんじゃないでしょうか?」


    参加者
    三上・チモシー(津軽錦・d03809)
    フィリア・スローター(ゴシックアンドスローター・d10952)
    無銘・夜ト(紫眼黒獅子・d14675)
    吉野・六義(桜火怒涛・d17609)
    七代・エニエ(吾輩は猫である・d17974)
    久条・統弥(三回回ってワン・d20758)
    黒嬢・白雛(白閃鳳凰ハクオウ・d26809)
    押出・ハリマ(気は優しくて力持ち・d31336)

    ■リプレイ

    ●アンコウ鍋とネギ娘
     冬季閉鎖の深閑としたキャンプ場で、そのログハウスだけは明々と灯火が点り、賑やかな若者たちの声が響いていた。しかも大きなテーブルの上にはアンコウ鍋がふたつも。仕切り鍋の方には、醤油と味噌の出汁、土鍋の方は鍋奉行渾身のどぶ汁が、温かな湯気を立てている。
     ちなみにどぶ汁とは、鮟肝をペースト状になるまで炒って溶かし、そこに身と野菜だけを入れ、具の水分だけで煮る茨城の郷土鍋だ。味付けは味噌。
     今夜の鍋奉行、無銘・夜ト(紫眼黒獅子・d14675)がどぶ汁の思い出をタブレットで切々と語る。
    『茨城の港町で地元のおばちゃんが、腹を空かせてる俺を見かねて家に招き、作ってくれた鍋だ。とても美味しかった』
     が、誰も読んでくれない。皆鍋に釘付けだ。
    「寒い日には鍋だよねー。大根煮えてきたよー♪」
     久条・統弥(三回回ってワン・d20758)が大根に菜箸を刺して煮え具合を確かめ、吉野・六義(桜火怒涛・d17609)が、
    「お、じゃそろそろネギ入れていいか?」
     大量の白ネギを鷲掴みにして訊く。奉行はおおらかに頷き、下仁田ネギじゃない普通の白ネギがどばどば2つの鍋に投入された。
    「お豆腐も入れますわね」
     黒嬢・白雛(白閃鳳凰ハクオウ・d26809)も豆腐を丁寧に鍋に滑り込ませた。
    「……アンコウか。生で見るのは初めて。どんな味だろう」
     フィリア・スローター(ゴシックアンドスローター・d10952)が無表情ながら興味津々で鍋を覗き込み、押出・ハリマ(気は優しくて力持ち・d31336)が、
    「美味しそうですねー。でも、折角地元に来たんだから下仁田ネギも入れたかったっすよねー!」
     と、わざとらしく大きな声で。そろそろターゲットが出現してもいい頃合いだ。
     三上・チモシー(津軽錦・d03809)も調子を合わせて。
    「でも産直センターでは、訳あり品すら完売してたよ」
     さすがブランドネギ……と、皆が思った瞬間。
     シャラララーン☆
     噂通りの予告音が鳴り響き、次の瞬間、バアァンッ! とログハウスが揺れるほどの勢いでドアが開けられて。
    「下仁田ネギならあたしに言ってよ!」
     ツインテールに下仁田ネギロッドを持った女の子が、ネギの香りの空っ風と共に突入してきた。
    「(出たーッ!)」
     尾根木美味の登場だ。
    「さあ、遠慮なく受け取ってー!」
     シャラララーン☆
     灼滅者たちが何をする暇もなく、ドサドサと大量の泥付き下仁田ネギが降ってくる。
     せっかくの豪華鍋を台無しにされてはたまらんと、ハリマが横綱の反射神経と意地で素早く蓋をし、2つの鍋を死守した。
     テーブルを埋めた泥付きネギを見回し、
    「体乗っ取られた上に奇行に走らされるとか、本当災難だよね……」
     チモシーが気の毒そうに呟いたが、とりあえず接触作戦は成功だ。だが、更に猫サーヴァントが出現する状況にまで持っていかなければ……というわけで、フィリアがボソリとディスる。
    「……下仁田ネギって何だ? 聞いたことない」
    「何だって!?」
     美味は口を三角にして言い返そうとした。が、その機先を制して七代・エニエ(吾輩は猫である・d17974)が。
    「ネギは大っ嫌いだ。あの口に残る苦み!」
     吐き捨てた。
    「下仁田ネギを、地元では殿様ネギとか呼んでるそうだ。そんな難儀な名前のネギ、きっと舌がひん曲がるに違いない」
     そして大福モチのようなほっぺたを本当に不味そうにひん曲げた。
    「な……な、な、なんですってぇええ!」
     挑発成功。なんせエニエは本物のネギ嫌い、あながち演技でもないわけで。
    「下仁田ネギの悪口は、許さないよ!」
     美味はネギロッドを構えると、エニエに殴りかかった……その時。
    『みゃあああああっ!』

    ●待ってました猫
    「(出たあーっ♪)」
     灼滅者たちの反応が、美味の出現時と微妙に違う。ハートやお花や肉球マークが飛び交ってるカンジだ。
    『にゃにゃにゃあぁぁっ』
     美味に抗議するように浮遊してるのは、シャム猫くらいの大きさの、翼を持つファンシーな猫だ。しっぽの先には金色のリング。
    「あっ、猫め、また邪魔をしようってのっ?」
     美味は猫を振り払おうとしたが、そのロッドを、夜トがクルセイドソードでガキッと受けて。
    「……大量に投下するのは良いが、何故泥付きなんだ?」
    「は?」
     唐突な質問に、美味が一瞬凍った隙に、仲間たちは猫を囲む。
    「……こっちだ」
     フィリアが道中摘んだ枯れ猫じゃらしをふりふりしながら、
    「……私たちの話をよく聞け。にゃあ」
    『にゃ?』
     猫じゃらしに惹かれたかどうかはアレだが、猫は戸惑ったように鳴き止んだ。
    「人間のお前は、そこにいるんだろう?」
     エニエが猫の目をのぞき込んで語りかけ、白雛も真摯に。
    「詳しく説明する時間はありませんが……貴女の体を取り戻しにきましたわ!」
    「黒い魂に体が乗っ取られて、弾き出されて猫になった……ってカンジじゃないすか?」
     ハリマと共に、霊犬の円もじっとお座りして猫を見つめている。
    「だから、あの体を」
     統弥は夜トと睨み合っている美味を指し、
    「一回倒さないといけないんだ。ボクたちには敵意も殺意もないんだけど」
     チモシーも一生懸命に。
    「攻撃受けるの見てるのは辛いだろうけど、何とか我慢してくれないかな?」
     猫の大きな瞳が揺らぎ、六義が畳みかける。
    「人を傷つけるやり方じゃ駄目だと解って、そんな姿になってまで、もう一人の自分を止めようとしてるんだよな? お前のご当地愛はホンモノだぜ! 俺たちが必ず助ける!!」

     その間、美味と夜トは。
    「泥付きのままでは食せんではないか! それでご当地怪人を名乗って恥ずかしくないのか!? ご当地怪人としてなっていない!!」
    「ど、泥付きの方が長持ちするもん!」
    「俺の知る怪人は皆、上手に調理し、愛情こめて料理を振る舞っていた」
     口下手な夜トであるが、こと食べ物ネタになると熱くもの申さずにはいられない。
    「泥付きのまま降らせて、世に下仁田ネギを広めることができると思うのか!?」
    「えっと……りょ、料理に合わせて、洗って切ればいいだけじゃん!」
     必死の言い訳っぷりに、夜トはふと気づく。
    「まさかと思うがお前……料理ができないのではないか?」
    「そっ」
     美味の顔が真っ赤になった。
    「そっそそんなことあるわけねえべ!」
     図星? 上州弁になってるしー。
    「ネギアイドルに向かって、失礼だいねー!」
     美味は動揺をごまかすかのように、夜トに強引に掴みかかった。

     ドカァン、と夜トが床にたたきつけられた音に、猫を必死に説得していた仲間たちは振り返った。
    「夜ト!」
     仲間をいきなり投げられ、一気に気持ちが逸る……が、敢えてそこを堪えて。
     チモシーが冷静に夜トを助け起こして闇の契約を施し、他のメンバーも互いに防御力を高めあうサイキックをかけあって。
     エニエが猫に静かに語りかける。
    「これから美味の憑き物を祓う。解ってくれたなら、後ろに下がっていてくりゃれ」
     猫は瞳を潤ませながらも、ゆっくりと下がり始めた。
    「わかってくれたか!」
     エニエは両腕を広げ、猫を抱っこしようとしたが、それはするんとすり抜けられた。まだそこまでの信頼関係は築けてないらしい。
     後ろ髪を引かれる様子の猫を見て、フィリアが思わず、
    「……猫のサーヴァントか、いいかも」
     呟くと、控えていたキャリバーのバイク王が抗議のクラクションをブイブイ。
    「……冗談」
     ようよう準備が整い、灼滅者たちは武器を構えて、回復なった夜トも含め、いよいよ美味本体を囲んだ。

    ●ネギバトル
    「……この手の救出は数多くこなしてきた。任せておけ」
     踏み込んだフィリアが槍を捻り込み、統弥は赤く輝く交通標識を叩きつける。ネギロッドをかいくぐって、夜トが突き立てた聖剣は目映い光を放ち、その光は彼自身をも包み込む。
    「白閃鳳凰ハクオウ……此処に再炎! さぁ、断罪の時間ですの!!」
     白い炎と装甲を纏った白雛は、仲間たちに次々とラビリンスアーマーを延ばし、防御力を高めてゆく。六義は、
    「俺もそうだっだけど、好きなものに拘りすぎて周りが見えなくなったんだろうな……」
     痛ましい想いを抱えつつも、ロッドを上段から力一杯振り下ろし……。
     ガツン!
     桜の木刀とネギロッドが火花を散らしてぶつかった。
    「非道いじゃないの! 大勢で女の子に寄ってたかって!!」
     女の子、とか言ってるが、ダークネスの怪力は六義を軽々と押し返し、その勢いのまま、影で捕まえようと接近してきていたエニエを殴りふっとばした。
    「円、エニエさんを!」
     ハリマが円にカバーの指示を出しながら、美味の眼前に飛び込み、聖剣を振り回して遠ざける。
     エニエには、チモシーが慌てて駆け寄り回復を施す。
    「大丈夫だか!?」
    「うむ、なんとか……しかし」
     エニエは手を借りて起きあがったが、
    「ね、ネギの匂いが……」
     またよろりと倒れてしまった。ネギによるダメージの方が大きいらしい。
    「……やはり少々お仕置きが必要なようだ」
     フィリアがお返しとばかりにロッドで詰めより、
    「そんな風に使ったら、せっかくのネギが台無しになっちゃうよ?」
     統弥が炎の蹴りを入れる。夜トの茨の影が伸びて美味を縛り上げたところに、六義がぐいと踏み込んで、リボンを結んだ襟首を捕らえ、
    「ソメイヨシノダイナミック!」 
     豪快に投げ落とす。
    「ぐああっ!」
     床に穴が空きそうなほど叩きつけられた美味が、女子高生とは思えない太く嗄れた悲鳴を上げた。
    「う、ぐぐぐ……」
     上げた顔も醜くひきつり、目は濁って凶悪な光を浮かべている。漂うネギの匂いも腐臭を伴ってきたようだ。内在するダークネスが、表に現れてきたのだろうか……。
     白雛がスッとログハウスの出入り口を背にする位置に回り込んだ。いよいよダークネスが本性を現したならば、逃げ道を塞いでおかなければ。
    「ちょっと、そこの猫!」
     いきなり美味に指され、後方で固まっていた猫がびくりと飛び上がった。
    「あんた、あたしなんでしょ? 回復くらいしてくれたらどうなのよ!」
     猫は大きな目を見開いて、震える尾を立てた。填められているリングが、ボウと淡く光り出す……。
    「いけない!」
     統弥が叫んだ。猫サーヴァントの能力はまだ解析されていないが、猫が回復を施そうとしているのは分かる。
    「君も、君の身体も絶対に殺したりしないから、だから君も精一杯抗ってくれ!」
     魅入られたように見開かれていた猫が、パチパチと瞬きをした。そしてスッとしっぽを下ろした。
    「な……何さ!」
     ダークネス美味が、怒り狂って飛び起きた。
    「あたしが殺られてもいいっていうんかい!?」
     自棄っぱちで振り回されたロッドからは、斜め切りのネギにしか見えない刃が巻き起こった。ネギ刃の竜巻は、前衛を襲う……! しかし、
    「今度こそ……護るっす!」
     がっちり四股を踏んだハリマと円、バイク王が、果敢にクラッシャーたちの壁となった。
    「……すまない」
     フィリアが冷静且つ素早く礼を述べ、ハリマの頭を越えて跳躍すると槍を上方から落とし込むように突き刺し、夜トは剣に炎を載せて薙ぎ払う。統弥は毒弾を撃ち込んで、
    「ヒーローの心意気を見せて差し上げますの!」
     ご当地パワーを白炎の翼に換えた白雛は、
    「ストライク、ヴォルケーノォ!」
     後方から高い跳び蹴りを放った。前のめりによろけたところに、六義が呼び出した雷が命中する。
     その間に、ディフェンダーはチモシーのイエローサインで回復を受け、戦線に復帰した。
    「ま……負けてたまるか、下仁田ネギを世界に……」
     やはり最終目標は世界征服か。集中攻撃でボロボロよろよろなのに、美味は天井に向けてネギロッドを振り上げる。
    「目にもの見してやる、上州名物の雷を……」
     すわ轟雷か、と灼滅者たちは身構えたが、そこに。
     シュルッ。
     エニエの影が伸び、絡みつく。
    「新種の猫……天敵のネギ……これは我が輩への天の声に他ならぬ。克己のために、ネギの『真の味』を知る美味に、ここで消えてもらう訳にはいかぬのだ!」
     独自の決意はさておき、このタイミングを逃す灼滅者たちではない。
     ハリマは円に猫の保護を命じておき、自らは拳に雷を宿して殴りかかり、
    「闇に抗う意志を無駄にはさせませんの……!」
     白雛のダイダロスベルトが金属的な光を帯びて突き刺さる。統弥はトラウマを宿した拳をアイドル衣装を纏った腹にたたき込み、夜トはサイキックソードで斬りつける。ここが勝負どころと見て、チモシーも踏み込んでくると赤い標識で殴りつけた。
    「ぐむむ……」
     その標識を美味は必死に払いのけ、致命傷になることは避けたが、しかしそれはすでに無駄な抵抗だった。
     フィリアが叩きつけたロッドが魔力の目映い光を放ち、その光に桜吹雪を重ねるように、六義が跳んで。
    「これで決まりだ……ソメイヨシノキーック!」
     ……バタリ、と美味は無言のまま倒れ込んで動かなくなったが、姿はそのままだ。
    「(……まだか?)」
     まだKOできていないのかと、包囲を再び狭めようとした時。
    『みゃあああん』
     猫が後方からやってきた。猫はふわふわと浮いて、倒れた美味の真上に到達すると。
    『にゃあ』
     灼滅者たちの方を振り向いて、嬉しそうに一声鳴き――スウッ……と、美味に吸い込まれるようにして消えた。
     それと同時に、醜く歪んでいた美味の顔が元の愛らしさに戻る。
     どうやら無事に事を運ぶことが出来たらしい。灼滅者たちは、ほうっと肩の力を抜いた……が、そこでエニエが。
    「あっ、猫の記録とって、存分にもふるはずだったのに、消えてしまうとは!」
     悔しそうに叫んだ。

    ●改めて鍋
     美味はじきに目を覚まし、統弥が傷の手当をし、エニエがクリーニングを施してやっている。その間、夜トの指示の元、ハリマと白雛は、せっせとアンコウ鍋を復活させようとしていた。ちなみに下仁田ネギは消滅していない。ラッキー♪
     チモシーがまだボーッとしている様子の美味の前に、ひょこっと顔を出して。
    「よかったら自分たちと一緒にこない?」
    「え?」
    「あのね……」
     皆でよってたかって学園や世界の在り方について説明する。
    「知己の名産品が好きな仲間もたくさんいるよ」
    「正攻法でアピールしていけば、皆きっと良さをわかってくれる!」
     六義も熱く拳を握るが、
    「……ええと」
     美味はまだピンと来ていない様子で首を傾げる。
     ハリマがしらたきを鍋に投入しながら笑って、
    「色々ありすぎて、いきなりは理解できないっすよねー」
     白雛も笑顔で。
    「まずは皆様でお鍋を食べながら、ゆっくりお話したらどうでございましょう?」
    「うむ」
     鍋奉行が重々しく頷いた。
    「……鍋は皆で食べるから、美味い」

    作者:小鳥遊ちどり 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2015年2月12日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 1/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 6
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