樹氷小僧と猫

    ●樹氷の山で
    「「うわ~!」」
     ロープウェイから降りたOL2人組が、猛吹雪に悲鳴をあげた。
    「下のゲレンデはいい天気だったのに!」
    「これじゃあ、樹氷も見えないね」
     彼女らがいるのは、樹氷で名高い山形県某山スキー場でも、もっとも上に位置するロープウェイの山頂駅だ。
    「とっとと降りるしかないかあ」
    「そうだね、残念だけど」
    『樹氷周遊コース』をゆっくり滑り降りるつもりだったのだが、この視界が10mもない情況では、それどころではない。2人は無念そうに『下山コース』へとスキーを向けた……その時。
    「お姉さんたち、樹氷見ねえで降りちゃうの?」
     突然あどけない声がかけられた。
     振り向くと、雪ん子姿にレトロなスキーの小学校低学年くらいの少年が。
    「もったいねえよ、せっかくここまで上がってきたのに」
    「君、地元の子?」
    「んだよ。ちょっと行けば、すんげえヤツがあるんだよ。オレ案内してあげる」
     OL達は顔を見合わせた。
     ちょっとくらいなら、大丈夫だろうか? それに、紅いほっぺたが可愛くて、なかなかの美少年だし……。
    「じゃあ、少しだけ案内してくれる?」
    「うん、樹氷ならオレに任せて! こっちこっち!!」

     ……数十分後。
     ちょっとだけのはずだったのに、OL達はまだ必死に少年の後を追いかけていた。何故か、彼の案内でこの山の全ての樹氷を見なければならないという思いに、強く囚われてしまっていた。
    「次はこっちだべ!」
     少年がOL達を誘っているのは、コースの外。もちろん整地されていないし、吹雪もどんどん酷くなっている。そもそも彼女らのスキーはバックカントリー用ではない。大変危険な情況なのに、OL達は疑問にも思わない。
     そこに。
    『みゃああっ』
     唐突に一匹の猫が出現し、少年とOLたちの間を遮った。シャム猫の成猫程度の大きさで、背中に羽、尻尾の先にはリング。空中浮遊している。
    『みゃあ、みゃああ~!』
    「あっ、また案内の邪魔しやがって!」
     少年は怒り、猫をスキーで蹴飛ばそうとするが、猫はひらりひらりと避けながらみゃあみゃあ鳴き続ける。
    「はっ!」
     突然少年の呪縛から解かれたように、OL達は我に返った。
    「あ、あたし達何やってんの?」
    「ってか、ここ、どこ!?」
     
    ●武蔵坂学園
    「……というわけで、OLさん達は危機一髪、遭難せずに済んだわけなんですが」
     春祭・典(高校生エクスブレイン・dn0058)の語りに、ほーっ、と集った灼滅者たちは安堵の息を吐いた。
    「今回の闇堕ち一般人、樹氷小僧……王蔵・氷樹(おうくら・ひょうき)くんには、猫サーヴァントがくっついてます。どうやらこの猫に、彼の人間としての意識が全ていってしまっているようなんですね」
     なるほど、猫サーヴァント=人間氷樹の意識であるゆえに、予知の中でOL達を必死に助けようとしていたのか。
    「この猫、今は一生懸命悪事を止めようとしていますが、そのうち諦めて消えてしまう可能性があります。そうなると、氷樹くんは完全にダークネスとなってしまうでしょう」
     そうなる前に闇堕ちしかけている氷樹を救出しなければならない。
    「いつもの闇堕ち一般人と違うのは、氷樹くんには説得が効かないことです」
     人間としての意識が猫に封じられているからだ。
    「しかし猫の方は、皆さんが氷樹くんを救出にきたのだと理解すれば、戦闘に参加せずにこちらを応援してくれるでしょう」
     反対に、彼を殺しに来たと誤解した場合は、ダークネス側にたって戦闘に参加してしまうだろう。
    「猫が存在しているうちに、氷樹くんを倒す……そうすれば彼も猫も救える。そういうことです」
     力強く頷く灼滅者たちに、典はターゲットとの接触方法について説明した。
    「OLさん達と同じように、ロープウェイで山頂まで行ってください。そこで『樹氷周遊コース』ではなく、まっすぐ『下山コース』へと向かってください」
     すると氷樹が現れ『案内するから樹氷を見ていけ』と声をかけてくるので、ついていけばいい。
    「じきに人気の少ない、危険そうなところまで連れていかれます。すると猫も出てくるでしょうから、そこで戦闘開始です」
    「あの……」
     灼滅者のひとりが困った顔で手を挙げた。
    「私、ウィンタースポーツしたことないんだけど、どうしましょう」
    「そういう方もいらっしゃると思いまして」
     典がスッと差し出したのは、件の某山スキー場のリフト券とレッスンチケットの束。
    「スキーやスノボに自信のない方は、早入りしてレッスンを受け、みっちり練習してください。灼滅者である皆さんなら、1回ちゃんと教わればすぐ滑れるようになりますから……いやいや、大丈夫ですって!」


    参加者
    陽瀬・瑛多(高校生ファイアブラッド・d00760)
    赤星・麗樹(六花蝶・d02649)
    三國・健(真のヒーローの道目指す探求者・d04736)
    霧ヶ峰・海璃(絶切刃・d15615)
    シエラ・ヴラディ(迦陵頻伽・d17370)
    空本・朔羅(うぃず師匠・d17395)
    久凪・更紗(高校生神薙使い・d32069)
    八束・咲織(宵闇に香る八つの華・d32699)

    ■リプレイ

    ●樹氷の山で
    「ひゃっほー! 山だ雪だ樹氷だー!」
     ロープウェイ山頂駅から出るなり、陽瀬・瑛多(高校生ファイアブラッド・d00760)は喜びの声をあげた。
    「雪のシーズンも終わりだからね、最後にひと滑りできて嬉しいなー」
     霧ヶ峰・海璃(絶切刃・d15615)もスノーボードのビンディングを嵌め直しながら、依頼はさておいて張り切っている。
    「僕ももうちゃんと滑れるよ!」
     三國・健(真のヒーローの道目指す探求者・d04736)は元々ウィンタースポーツに興味津々だったので、早入りしてきっちりレッスンをうけた。持ち前の運動神経もあり、もうバッチリである。その一方、
    「わ、わたしも、な……なんとか……滑れる……ように……なったけど……」
     一緒にレッスンを受けたのに、まだ腰が据わっていないのはシエラ・ヴラディ(迦陵頻伽・d17370)。駅の出口ですでによろよろ……べしゃ!
    「……冷たい……」
     早速瑛多に助け起こされている。
     装備も技術も色々であるが、とりあえず灼滅者たちは全員『下山コース』と描かれた指示板の前にたどり着いた。
     空本・朔羅(うぃず師匠・d17395)が仲間たちの顔を見回してからひとつ頷き、大きな声で。
    「はらへりっす! 帰るっす!」
     他の者も調子を合わせて、即下山を猛烈アピール。
    「そうだね、下りよっか!」
    「下りよう下りよう!」
     すると。
    「ねえねえ、樹氷見ねえで下りちゃうの?」
     背後からあどけない、且つちょっと訛った少年の声がかけられた。
    「(出たっ!)」
     灼滅者たちは身構えそうになるのを抑えつつ、なにげなくを装って声の方を振り向く。そこには、雪ん子姿にレトロなスキーの少年――王蔵氷樹が。
     朔羅がとぼけて聞き返す。
    「樹氷? 食べたらおいしっすか?」
    「別においしくはねえよ。でもキレイだよ-。オレ案内してやる!」
     シエラはおっとりと小首を傾げ、
    「樹氷……私は見てみたい……な?」
     仲間たちはまた調子を合わせる。
    「そうだね、ちょっとだけ見て行こうか」
    「キレイですものね。見せたくなる気持ちは分かります」
    「ま、猫山で鍛えたスノボの腕の見せ所ですしね」
    「やったあ-」
     氷樹は雪の上でスキーを履いたままぽーんと器用に跳ねた。無邪気に喜ぶ様子は普通の少年であるが、
    「こっちだ、ついてきてけろ!」
     灼滅者たちは気を引き締めて樹氷の森へと踏み込んでいく。
     スキーを走らせる赤星・麗樹(六花蝶・d02649)は小さな背中を見つめながら、
    「(猫のサーヴァントに宿った心……か。どういう仕組みになっているのかしら。まだ分からないことだらけだけど、今は目の前の彼を助ける為にできることをしなければ)」
     八束・咲織(宵闇に香る八つの華・d32699)と、久凪・更紗(高校生神薙使い・d32069)は、スノーシューで雪を蹴立てて、氷樹と仲間たちを追いかけながら、それぞれの思いを巡らせる。
    「(身体を奪われてしまっていても、それでもサーヴァントとして意識を保っている……この少年の芯はとてもいい人のようでございます)」
    「(彼の家族のためにも、何としても助けたい……)」
     家族を失っている更紗ならではの思いだ。
     木々の間を進んでいくと、さすがにご当地怪人(なりかけだが)推薦コース、眼前には次々と怪獣めいた見事な樹氷が現れる。雪がちらついているが、時折差す冬の弱い日差しに、スノーモンスターたちはファンタジックに輝く。
    「素晴らしい……平和な時にゆっくり見たいものです」
     更紗は思わず呟いた。
    「すげえべ?」
     氷樹が、まるで自分がモンスターたちを作り上げたかのようなどや顔で灼滅者たちを振り向き、
    「次はオレのいっちゃんのお気に入りを見せてやるべ。こっちさ来て~!」
     手招いたのは……コースの外。コース内とは違い、、圧雪されていない雪がこんもりと積もっており、体がすっぽり埋まってしまいそうである。猫サーヴァントを出現させるには危険地帯まで入り込まなければならないのだが、何しろ最も雪が多い時期だ。灼滅者とはいえど、思わず躊躇してしまった、その時。
    『みゃあああっ!』
     
    ●猫登場
     コースの境目あたりに、ぽんっと猫が出現した。シャム猫くらいの大きさで、背中の羽で空中浮遊し、尻尾の先にはリング。
     間違いない。噂の猫サーヴァント! 灼滅者たちはそのラブリーさに一瞬見惚れる。
    『にゃにゃ、にゃにゃにゃあっ』
    「あっ、また出やがった!」
     しかし氷樹は、灼滅者との間に通せんぼするかのように入り込んだ猫を見ると、りんごほっぺをぷうっと膨らませた。
    「このお邪魔猫め、今日という今日は許さないぞーっ!」
     ストックを雪に深く差すと、それを支えにしてスキーで回し蹴り!
    「させ……ませんっ」
     ガッ!
     体を入れて、そのキックを受けたのは、シエラだった。ばふっと雪の上に倒れ込みながらも、
    「もふもふ……いじめちゃ……だめ」
     シエラは霊犬のてぃんだと共に、じいっと氷樹を睨み付ける。
     身を挺したカバーの間に、仲間たちは猫を囲む。健がマフラーを靡かせ、力強く拳を握り、
    「氷樹! 僕らの声が聞こえるか?」
     朔羅と海璃も勢い良く語りかけた。
    「私達、氷樹を助けに来たっす!」
    「キミ、今困ってるでしょ? 体から追い出されて。僕たちは困ってる人を助ける正義の味方だよ!」
     瑛多は傷ましそうに猫の目を覗きこむ。
    「怖かっただろう、大変だったね?」
     猫は、大きな目をますます見開いて灼滅者たちを見やる。サーヴァントの中に自我が閉じ込められていると把握されているのに驚いたのだろうか。
     咲織が丁寧に説明を始めた。
    「寒い中、よく耐えられましたね。私達は君の敵ではございません。君を助けに参りました」
     続いて健が小学生にわかりやすいようにと、工夫した表現を使う。
    「氷樹の身体は冬将軍の妖怪、アイスモンスターに憑りつかれてるんだ」
     麗樹は優しい笑みを浮かべて、
    「これから、悪いモンスターから君の体を取り戻すわ。ちょっと怖い事をする様に見えるかもしれない。でも決して君をいじめに来た訳ではないの」
     氷樹本体とにらみ合っているシエラも、ちらりと猫の方を振り向いて。
    「自分の体が……勝手に……誰かを…傷付けようと……するの……イヤ……だったよね。一旦……気絶さななくちゃ……だけど、氷樹の体……取り戻すから……待ってて……ほしいな」
     シエラのマークが一瞬離れたその隙に、
    「なんだようっ! オレと樹氷見るんじゃなかったのかよ!!」
     氷樹本体が怒り出した。
    「今日は、全部見るまでは、絶対帰さないぞー!」
     シエラを躱すと、スキーに炎を纏わせて突っ込んでくる。
    「猫を!」
     麗樹が叫び、灼滅者たちは猫を囲む。
    「くっ……!」
     蹴りを受け止め、炎に包まれながら倒れたのは更紗。
    「仕方ない……っ」
     猫への説得はまだ途中だが、こうなっては猫を守るためにもやり返さないわけにはいかない。灼滅者たちはスレイヤーカードを解除し、武器を手にする。
     瑛多は槍を捻り込み、健はお返しとばかりに、
    「凍った闇の心浄化せよ! 播磨の火風、龍炎舞!」
     縛霊手に載せた炎を叩き込む。咲織は、
    「申し訳ございませんが、ちょっとだけ立ち止まっていただけますか!」
     紅く輝く交通標識を振り回し、朔羅はシールドで、海璃は槍を振り回して殴り飛ばした。麗樹が最後方で指輪を翳し、石化の呪いをかけようとした時……。
    「みゃーーーっ!」
     猫が高く鳴いて灼滅者の壁をふわふわと飛んで越えると、雪の中にふっとんだ小さな体を庇うように寄り添った。大きな瞳がうるうるしている。
     小学校低学年を、高学年生や中高生が集団でやっつけている図だし、何しろ自分の体なのだから、庇いたくなるのは無理はない。しかし……。
     咲織が慎重に前に出た。
    「君の身体から悪い物を取り除くために、一度気絶させないといけないのです。決して悪いようにしませ……ウッ」
     猫は近づいてきた咲織に向かって前足を伸ばすと、肉球でびしっと殴りつけた。肉球パンチ、侮れない威力だ。
     健がよろけた咲織をカバーする位置に素早くスキーで滑り込み、呼びかける。
    「氷樹、いつまでもその魔法猫の姿でいるの嫌だろう? 元の身体に戻す為にはココで戦って、悪いヤツを追い出さないといけないんだ! 正義のヒーローの名に懸けて絶対に助けるぞ!」
     朔羅も続けて、
    「氷樹の大好きな、この山で誰かが死ぬとかイヤっすよね? 私もイヤっす! だから体を取り戻す手伝いをさせてほしいっす!」
    「んみゃ……」
     猫は逡巡しているようで、空中でうなだれぷるぷるしている……が、そんな猫の背後で、
    「何をごちゃごちゃ言ってんだよ!」
     雪から脱出した氷樹本体がわめきだし、
    「猫! お前、オレなんだから、一緒に戦えよ!!」
     バフッと雪を蹴ると、キラキラと結晶を散らしながら高く跳んだ。狙っているのは、前で熱く拳を握っている健……。
    「てぃんだちゃん……お願い!」
     麗樹に、更紗と共に回復を受けていたシエラが、霊犬を呼んだ。てぃんだは氷樹にまけないくらい高く跳ぶと、健に覆い被さり、蹴りを代わって受けた。
    「ありがとうっ!」
     健はするりとてぃんだの下から這い出ると、拳にオーラを宿し、
    「悪しき闇よその身から離れよ! 播磨の閃風、百裂魔壊拳!」
     連打を放った。続いて瑛多が、
    「ダークネスってひどいことするよね!」
     雪上に踏ん張って杭を撃ち込み、
    「綺麗なお姉さんを騙して雪山連れまわすなんて。男の風上にも置けないよ。俺の炎で溶かしてやろうか!」
     件のOLたちが綺麗だったかどうかは予知で触れていなかったようだが、彼の脳内ではそういうことになっているらしく、エッジでひっかけたかすり傷からクリエイトファイアの炎をめらめらさせている。
    「悪意を持ちし者に粛清の救済を!」
     間髪入れず咲織の紅い逆十字が氷樹に襲いかかると、
    「いくっすよ、師匠! てぃんだちゃんを頼みますっ」
     朔羅はナノナノに雪に埋もれもがいているてぃんだの救出を命じ、自らは怒りのビームを撃ち込んだ。海璃はゲレンデを利用して勢いよく滑り込んでくると、コブでジャンプし、
    「悪い奴を叩き出してあげるからさ、後ろで応援していてよーーっ!」
     炎を纏ったスノボのドロップキックで、氷樹をがっつり蹴り倒した。
    「うわあっ……何すんだよ! せっかく案内してやるって言ってんのにぃぃぃ……!」
     氷樹本体は雪まみれで、しかもところどころ焦げ付かせて斜面をごろごろ転げ落ちて停まった。
    「おい、猫! 何やってんだ、回復くらいしろよっ」
     まだぷるぷるしていた猫は、氷樹に怒鳴られてぴくりと顔を起こしたが。
    「……にゃっ」
     ぶんぶんと首を横に振り、必死で翼を羽ばたかせ、灼滅者たちの方にやってきた。
    「わかってくれたのですね」
     回復なった更紗が笑みを浮かべ、猫を迎え入れる。
    「幼いのに、悪事を止めようと頑張るとは、良い子ですね。絶対助けます」

    ●猫、還る
    「猫サーヴァントが繋ぎ止める真の心受けて、播磨の旋風ドラゴンタケル、一致団結の力で新たなヒーロー仲間を救い出す!」
     健が仕切り直しとばかりに威勢良く叫び、灼滅者たちは一気に攻勢に出る。起き上がろうとした氷樹を、
    「ん……雪……綺麗……ね。綺麗な雪……血で赤く……染めさせる……わけには……いかない」
     シエラの縛霊手が素早く抑えつけ、更紗が急所を狙って刃を振るう。瑛多は樹氷のてっぺんに身軽く上ると、
    「ご当地怪人になっちゃうぐらい、君は故郷と樹氷が好きなんだよね。だから、その樹氷をダシに誰かを傷つけたくないんだろ? だからもう少だけ辛抱して。俺らも頑張るから君もがんばろ!」
     不安げな猫を励まし『road』で流星のようなキックを放った。健はロッドで魔力を叩き込み、咲織はライドキャリバーに援護させながら、
    「寒いでしょうから、温めて差し上げます!」
     エアシューズに炎を纏って蹴り込んだ。朔羅は明るい笑顔を絶やさず、
    「大好きなものを守るためにも頑張るっす、闇に負けちゃダメっすよ!」
     猫に声をかけながら氷樹に掴みかかり、
    「とおーっ!」
     豪快に投げ落とす。海璃は軽快なスノボのターンで突っ込んでくると、その勢いのまま槍を捻り込み、メディックの麗樹も勝負処とみて、魔法の矢を撃ち込んだ。
     しかしさすがになりかけとはいえダークネス、これだけの集中攻撃を受けても、氷樹はまだよろよろと起き上がり、
    「じゅ……樹氷ビームっ!」
     両手を前に突き出して、キラキラッとしたビームを発射した……が、すでに狙いを定める力は残っていないようで、灼滅者たちの間を抜けると、ドーンとスノーモンスターの一体にぶちあたった。どさどさと大量の雪が落ちてくる。
     それを見て、クラッシャーの2人は同時にどばばっと雪煙を立てて氷樹に詰め寄り、
    「覚悟―っ!」
    「播磨の神風、聖龍旋風脚!」
     渾身のバベルインパクトとご当地キックが炸裂!
    「うう……」
     氷樹は白目を剥いて、ばったりと雪上に仰向けに倒れた。
     KO成ったかと、おそるおそる近づいていくと、
    「みゃうん」
     ふわふわと猫サーヴァントもやってきて。
    「にゃあん」
     雪に埋もれて動かない氷樹の上でぺこりと頭を下げ――本体に吸い込まれるようにして、消えていった。
     
    ●樹氷の森で
     氷樹はすぐに目を覚まし、灼滅者たちは安堵の息を吐いた。
     しかし、氷樹は海璃が手当をしているうちに、しくしくと泣き出してしまった。さっきまでダークネス(と猫)だったとはいえ小学生、怖かったのと安堵感で泣きたくなってしまったのだろう。
    「お帰りなさい。本当によく頑張ってくれたわね」
     麗樹は優しく背を撫でながら。
    「君には悪い奴をやっつける力があるんだけど、一緒に私たちの学園に来ないかしら?」
     氷樹は涙に濡れた目を上げて。
    「ガクエン……学校?」
     更紗も微笑んで。
    「色んな人たちが、悪事を止めるために頑張っている場所です」
     よってたかって武蔵坂学園について説明すると、氷樹が興味を示したので、シエラはてぃんだをもふもふっと氷樹の膝に載せてやり、
    「ん……てぃんだちゃんとお友達になって……ほしい……な」
    「もちろん僕らとも友達ってことで、よろしく頼むな!」
     健も笑って、
    「まずはここの名物とか、スキーや樹氷について教えてくれないか?」
    「私も良かったら仲良くして頂きたいです……が、その前に」
     咲織が冷静にロングヘアをさばきながら、
    「何か温かいものでも食べませんか?」
     言われてみれば、すっかり体が冷え切っているし腹ぺこだ。
    「えっと……あのね」
     氷樹が慌てて鼻を啜って。
    「ロープウェイの駅に、レストランがあるよ。眺めもいいんだ」
    「じゃ、そこ行ってみよー!」
    「……立てる?」
     灼滅者たちは嬉しい気分で、新しい仲間を雪の上に助け起こしたのだった。
     

    作者:小鳥遊ちどり 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2015年2月19日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
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