タタリガミの学園~堕ちたカナリヤ

    作者:西東西


     鹿児島県の、ある中学校にて。
     空が茜色に染まる時刻。
     窓からさしこむ光が、音楽室の壁を赤く染めている。
     夕陽に照らされきらきらと輝くグランドピアノの前には、パンクスタイルの少年が佇む。
     胸元に『HKT』と書かれたTシャツをさりげなく着こなしているところを見ると、HKT六六六所属の六六六人衆なのだろう。
    「ねー、まだぁ? あんまりトロトロしてっと、オレ、暇すぎてオマエぬっころすかも」
     物騒な言葉の矛先には、ブレザーを身にまとった、線の細い少年が立っている。
    「……いま、やってる」
     答える少年の動きは、どこか緩慢として。
     六六六人衆の眼を避けるように、窓の外を見やった。
    「んで? 『給食室のオバチャン』の次は、なんよ?」
     問えば、ブレザー姿の少年は、手にした楽譜を腕に抱き、呟く。
    「……音楽室で、自殺した、ヴァイオリン弾きの女の子」
    「オマエ、自殺とか病死ネタ好きな?」
     呆れたようにぼやき、六六六人衆はポーン、ポーンと、適当に鍵盤を叩いた。
     

    「遅くなってすまない。すぐに、はじめよう」
     資料を手にした一夜崎・一夜(大学生エクスブレイン・dn0023)が教室へ駆けこみ、集まった灼滅者たちを前に、事件の説明を開始する。
     数名の灼滅者の協力により、九州の学校で発生していた『七不思議の都市伝説』について、重大な情報が得られた。
    「調査を行ったところ、このたび初めて確認された灼滅者組織の灼滅者が、九州のダークネス組織に拉致されていることがわかった。闇堕ちさせられた上で、その能力を利用されているようだ」
     今この時も、闇堕ちさせられた灼滅者たちはダークネスに強要され、都市伝説を生みだし続けているという。
    「当然のことながら、この事件を看過することはできない。よって、彼らが都市伝説を生みだすべく学校へ出向いてきたところを襲撃するという、救出作戦の決行が決まった」
     九州の都市伝説については莫原・想々(幽遠おにごっこ・d23600)から心当たりを聞いており、すでに目星はついている。
     一夜は続けて、事件の詳細説明に移った。
     
     事件が発生するのは、夕方。
     鹿児島県にある中学校の、一階・音楽室にて。
     教室の出入り口は、廊下側、ベランダ側に各2つ。
     ベランダ側には窓がならび、出てすぐのところが中庭に繋がっている。
     教室前方には黒板とピアノ。後方には楽器がならぶ。
     机や椅子は運び出されたらしい。
     中央はがらんと広く空いており、戦闘を行うのに障害となりそうなものはない。

     音楽室内には、護衛として同行しているHKTの六六六人衆と、闇堕ちした灼滅者『タタリガミ』の、計2名の敵が居合わせる。
     六六六人衆の名は、五童・リツ(ごどう・りつ)。
     高校生ほどの外見で、『殺人鬼』『エアシューズ』『シャウト』に似たサイキックを扱う、気だるげな少年だ。
     タタリガミは、通称『堕ちたカナリヤ』と呼ばれている。
     中学生ほどの外見で、己の歌声を武器に、『魔導書』『リングスラッシャー』に似たサイキックを扱う、線の細い内向的な少年だ。
     なおカナリヤ少年の姿は、「いじめを苦に自殺したコーラス部の少年が、音楽室で歌い、道連れを求める」という、学校の怪談を元にした姿をとっているようだ。
    「タタリガミは通常、『都市伝説』の能力を強化したようなサイキックを扱うため、簡単に倒せる相手ではない。しかし敵ではないこと、救出に来た灼滅者であることをうまく伝え、説得することができれば、攻撃を鈍らせることが可能だ」
     説得に失敗すれば、六六六人衆、タタリガミ2体を相手取ることになる。
     六六六人衆はタタリガミに命令し、連携を行ってくる。
     また、タタリガミは六六六人衆に逆らおうとしないため、六六六人衆を逃がすためには助力を惜しまない。
     
    「最悪の場合、六六六人衆、タタリガミともに逃走する可能性がある。逃走を許せば、後々の作戦になんらかの影響を与えないとも限らない」
     それを防ぐためにも、『六六六人衆の灼滅』か『タタリガミの救出』の、いずれかを目指してほしいと、一夜は告げる。
    「『タタリガミ』となっている少年は、信頼を得たうえで撃破すれば、救出できるはずだ」
     この作戦が成功し、彼らとまみえることができれば、新たな情報もいくらか得られるかもしれないと告げ。
    「作戦の成功と、皆の無事の帰還を願っている」
     一夜はふかく、頭をさげた。


    参加者
    エルメンガルト・ガル(草冠の・d01742)
    ユエファ・レィ(雷鳴翠雨・d02758)
    結城・桐人(静かなる律動・d03367)
    近衛・朱海(朱天蒼翼・d04234)
    メルキューレ・ライルファーレン(春追いの死神人形・d05367)
    莫原・想々(幽遠おにごっこ・d23600)
    雨時雨・煌理(南京ダイヤリスト・d25041)
    犬塚・小町(壊レタ玩具ノ守護者・d25296)

    ■リプレイ


     世界が、茜色に染まるころ。
     8人の灼滅者たちはダークネスたちに気取られぬよう音楽室前の廊下に潜伏し、前と後ろの二つの扉に別れ、息をひそめていた。
    (「学校と怪談って、なんでこんなによく似合うんだろーね」)
     胸中でひとりごち、エルメンガルト・ガル(草冠の・d01742)は朱色に染まった廊下に眼を向ける。
     音楽室からは、二つの声が聞こえくる。
    「あんまりトロトロしてっと、オレ、暇すぎてオマエぬっころすかも」
    「……いま、やってる」
     張りのない、弱々しい声。
    (「拉致して利用するなんて、そんな卑劣な真似……絶対許すしないです、よ」)
     決意を固め、ユエファ・レィ(雷鳴翠雨・d02758)が顕現させた斧『銀雷』を握り締める。
     全く同じ想いでいた近衛・朱海(朱天蒼翼・d04234)も藍の瞳に強い憤怒と敵意を燃やし、
    (「今後彼らとどんな関係になるにせよ、放ってはおけない」)
     赤の瞳で扉の先を見据え、結城・桐人(静かなる律動・d03367)も辛抱強く、その時を待つ。
    「んで? 『給食室のオバチャン』の次は、なんよ?」
    「……音楽室で、自殺した、ヴァイオリン弾きの女の子」
     会話の内容から察するに、先の任務で莫原・想々(幽遠おにごっこ・d23600)が灼滅した都市伝説は、この『タタリガミ』が生みだしたもののようだ。
    (「『七不思議使い』……。彼、だったんですね」)
     できれば傷つけたくない。
     ――けれど貴方の自由を、これ以上奪わせたくはないから。
     前方の扉前で待機していたメルキューレ・ライルファーレン(春追いの死神人形・d05367)は、同じく後方の扉前で待機する犬塚・小町(壊レタ玩具ノ守護者・d25296)と突入タイミングを合わせるべく、頷き交わした。
     そして――。


    「オマエ、自殺とか病死ネタ好きな?」
     六六六人衆が鍵盤を叩いた瞬間、灼滅者たちは二つの扉を開けはなった。
    「そこまでです……!」
     メルキューレはESP『サウンドシャッター』を。
     桐人はESP『殺界形成』を展開し、般人が近づかないよう対策。
    「迷える羊は、救済しなければ」
     雨時雨・煌理(南京ダイヤリスト・d25041)の鉤爪を戒めていた錠前が次々と開錠され、拳が発光すると同時に、除霊結界を構築する。
     己を取り囲むように現れた灼滅者たちを見て、六六六人衆は喜色を浮かべ、叫んだ。
    「オオオオオ! 灼滅者? 灼滅者キターー!?」
     トンと床を蹴るなり、暴風のごとき回し蹴りが灼滅者たちを一気に薙ぎ払う。
     すぐに朱海の霊犬『無銘』が癒しに走り、足止めを狙うべく、メルキューレの影蛇が六六六人衆――五童・リツの身体を縛りあげる。
    「カナリヤ! 歌え!」
     六六六人衆とタタリガミは、灼滅者たちによって分断されている。
     状況を飲みこめぬまま楽譜を抱いていたタタリガミ――『堕ちたカナリヤ』は、六六六人衆の声を受け、とっさにボーイソプラノを響かせた。
     さえずりは音の波紋となり、周囲にいた灼滅者たちの身を次々と引き裂いていく。
    「私たち、貴方の敵じゃないです、よ。話を聞いてほし……ね!」
     仲間への攻撃をかばい受け、ユエファがカナリヤへ呼びかける。
     援護すべく、六六六人衆めがけ帯を射出したのは小町だ。
    「ボクたちは武蔵坂の灼滅者。望まぬ闇堕ちをさせられている仲間がいるって聞いて、キミたちを助けに来たんだ!」
     しかし、声に応えたのはリツだ。
    「来ると思ってたぜ、武蔵坂!!」
     キャスケット帽を抑えながら繰りだされた反撃を回避すれば、
    「ドーモ、他所の灼滅者です!」
     横合いから迫ったエルメンガルトが、リツめがけ怒涛の拳を叩きこむ。
     殴り飛ばされた六六六人衆は、壁に叩きつけられてなお愉しげに嗤った。
     バク転の要領で体勢をたて直すと、勢いに乗せ、炎をまとった蹴りをはなつ。
     しかし――、
    「同時期に同種の都市伝説が不自然に発生していたことを疑問に感じ調査したところ、事態が発覚した」
     淡々と告げる煌理の繰りだした蹴りがリツの脚と交差し、その一撃を相殺。
    「――よって君の現状を把握し、救出作戦が決行され、大規模な遠征軍が派遣されている」
     そのまま押しきろうとするも、六六六人衆は巧みに身をよじり、反対に煌理を蹴り飛ばした。
     すぐに煌理のビハインド『祠神威・鉤爪』が霊撃をはなち、牽制。
     逆巻く風の刃で六六六人衆を再び壁際へ追い詰めながら、桐人も説得の言葉を重ねる。
    「拉致されて、闇堕ちさせられて、利用されて。……どこまでも自分を踏みにじられるのは、辛かっただろうし、怖かっただろうと、思う」
    「でも、そいつのいいなりでは貴方はどんどん堕ちていってしまう……! そんなことは私が、私たちがさせない!」
     叫ぶ朱海の身に、口笛を吹いたリツの蹴りが炸裂する。
     蹴り飛ばされた朱海の身体が、並べられていた楽器類をなぎ倒し、教室内にけたたましい音が鳴り響いた。
     包囲を狭める灼滅者たちを見やり、リツは肩をすくめて笑う。
    「勘違いすんなよ。オレとカナリヤは、こう見えて『オトモダチ』なんよ? なー、カナリヤ」
     呼びかけるも、返事はない。
     見れば、想々が必死に少年へ向け、声をかけている。
    「少し前に、長崎県の中学校で給食室に現れる都市伝説を灼滅しました。これらの事件を契機に、出所を調べたんです……!」
     想々の告げた都市伝説は、先日カナリヤが出現させたものに間違いない。
     監視をしていたのは六六六人衆だったので、その都市伝説がどうなったのか、カナリヤは聞かされていなかった。
     しかし、己の現実と、灼滅者たちの話が繋がったのだ。
     ――自分たちのことを、この境遇を。知っているひとがいる。
     ――自分たちはまだ、世界から見放されてはいない。
    「……ほかの皆も、無事……なの?」
    「おいこらカナリヤ! なに灼滅者と仲良く話してんだ歌え! 今すぐそいつらをぬっころせ!!」
     それまで反抗ひとつしなかった少年が、灼滅者と対話をはじめたことにいら立ちを見せ、六六六人衆が叫ぶ。
     想々めがけ繰りだされた鋭い蹴りは、間合いに飛びこんだビハインド『祠神威・鉤爪』がかばい受け、霊犬『無銘』がすぐに癒した。
    「六六六人衆も他のダークネスに殺させたりするんだねー。ねえねえそれって、お前の序列上がるの?」
     バスターライフルを構えたエルメンガルトが、すかさず至近距離から魔法光線を発砲。
     直撃を受け体勢を崩したリツの身体に、間髪入れず想々の鞭剣が絡みつく。
    「こんな奴に囚われている必要は、ありません! 鳥の翼は飛ぶためにあって、貴方の声は、自由に歌うためにあるんです……!」
    「『こんな奴』じゃねえ! オレの名前は、五童リツ、だ!!」
     戒めを振りきり、六六六人衆の回し蹴りがふたたび灼滅者たちを薙ぐも、
    「おまえの名前なんて聞いてない」
    「貴方を都合いいよに利用してるこの方は、私たちで片付けるします……よ!」
     聖盾を構えた煌理と、斧を構えたユエファが、身をていして攻撃を食い止める。
     カナリヤはすでに戦意を喪失し、六六六人衆と灼滅者たちを交互に見やりながら、葛藤しているようだった。
    「……俺たちは、お前を殺したりしないし、死ぬような目には絶対に遭わせない。守って、みせる」
    「意志を強く持って! 貴方を助けられるのは、貴方自身。私も、貴方とともに貴方の闇と戦うわ!」
     桐人と朱海の招いた風が仲間たちの間を吹きすぎ、瞬く間に傷を癒していく。
     闇堕ちから戻るには、一度倒れてもらわねばならないと小町が前置きし、
    「大丈夫。必ず戻れる。だからボクたちを。自分自身を、信じて……!」
     呼びかけとともに、手にした日本刀を一閃。
     りんと、弾むように鈴の音が響き、六六六人衆の脇腹を深く斬り裂いた。
    「あーっ! 宍戸PにもらったTシャツが! ――にゃろう!!」
     デザインした者のセンスを疑うTシャツだが、リツなりに気に入っていたらしい。
     怒りの叫びをあげ傷と枷をうちはらい、床を蹴る。
    「貴方は必ず、私たちが守ります。貴方の仲間たちも救いだします。そのために戦います」
     言葉を投げかけながら、メルキューレは詠唱圧縮した魔法の矢を顕現させ。
    「――だから貴方も、戦ってください!」
     向かいくる六六六人衆を牽制すべく、撃ちはなった。


     六六六人衆を攻撃し続ける姿。
     呼びかける数々の言葉。
     それらが積み重なり、灼滅者たちは『堕ちたカナリヤ』の心を強く揺さぶることに成功していた。
     しかしそれでも、心を開くにはまだ足りない。
     脅され続けてきた恐怖が、底知れぬ闇が少年の胸に巣食っている。
     六六六人衆の動きは当初に比べれば鈍ってはいるものの、今なお健在。
    「カナリヤ! 援護!」
     リツの声にびくりと身体を震わせ、少年が歌おうとした、その時。
    「あんたは黙っとれや!!」
     豹変したように叫び、六六六人衆めがけ制約の弾丸を撃ったのは、想々だ。
     その声に、仲間も、カナリヤも眼を丸く見開く。
    「驚かせてごめんなさい。でも、どうか私たちを信じて名前を教えて。貴方の歌で伝えたい言葉と、本当の姿を教えてください。必ず、助けるから……!」
    「悪魔の誘惑からは、救わないとな」
     同意するように煌理が群青色の鉤爪を掲げ、周囲に結界を展開。
     身動きのとれなくなったリツめがけ、ユエファが超硬度の拳を叩きこむ。
    「今してる事が本当に自分がやりたい事なのか、よく考えるして……。自分を取り戻してほし……よ!」
     殴り飛ばした先に佇むのは、メルキューレだ。
     放ったつららがリツの身を貫くのを見据えたまま、呼びかける。
    「貴方を救うためには、貴方も頑張らなければなりません……!」
     闇に沈んだまま、自分の体をいいように使わせてはいけない。
     ――必要なのは、人に戻りたいという意志。
     しかし、六六六人衆とて黙って救出させる気はない。
     タタリガミを奪還すべく地を蹴り、
    「させるかよ!」
     高速で灼滅者の死角に回りこむも、はなった蹴りはビハインド『祠神威・鉤爪』がかばい受け、消滅。
    「邪魔……すんな!」
     立て続けに繰りだされた炎の蹴りを、今度は朱海がその身に受け、食い止める。
     延焼した炎が身を焦がすも、胸に抱く決意は、さらに熱く猛っている。
     ――この七不思議を、ただの恐怖や惨劇にはさせない。
     ――七不思議使いと学園の、新たな希望にしてみせる!
     霊犬『無銘』の癒しを受けながら、朱海は叫んだ。
    「私たちと一緒に戦って、自分の闇と! 負けるんじゃないわよ!!」
     六六六人衆の目的が、タタリガミを連れての撤退に切り替わったのだ。
     判断が遅れれば、奪還されかねない。
     なんとしてでも、カナリヤを行かせるわけにはいかない。
     灼滅者たちは決意を固め、少年へ向け攻撃をはなった。
    「好きなように歌える世界を守ってみせよう。だから、信じて欲しい」
     桐人の撃ったオーラキャノンを前に、カナリヤは逃げなかった。
     さらに小町のはなった無数の腕が蠢き、カナリヤの身に這いより、絡みつく。
    「キミの名前は何? 『都市伝説』として語られる名前じゃなく、人間としての、本当の名前」
     影に呑まれながら、少年は灼滅者たちを見た。
    「おれの、名前は――」
    「オマエの名前は、『堕ちたカナリヤ』ってんだろ!!」
     灼滅者たちの攻撃を振りきり、飛びだした六六六人衆の前に、ユエファはとっさに身を投げた。
     リツがユエファを蹴り倒した隙に、エルメンガルトが呼びかける。
    「他の『七不思議使い』のヒトも、今ごろオレたちの仲間が助けてるハズだよ! だから、ちょっとだけ、我慢してね!」
     まばゆい光輪があっという間にカナリヤの眼前に迫り、その身を斬り裂く。
     すでに戦意を喪失していた少年の身は、あっけないほど軽く、吹っ飛んだ。
     気絶したカナリヤの身体がもとの『七不思議使い』の身体に戻ったことを確認すると、六六六人衆は早々に見切りをつけた。
     即座に灼滅者たちから間合いを取り、逃走すべくベランダへ走る。
    「逃がしはしない……よ!」
    「……これ以上、彼らを踏み躙らせない」
     ユエファと桐人が足並みをそろえて追撃にかかるも、リツは魔法弾と雷を受けてなお走った。
     メルキューレも白百合を模した大鎌を手にギロチンを仕掛けるも、こちらは回避されてしまう。
     霊犬『無銘』が追いすがり、斬魔刀を一閃。
     追いすがったエルメンガルトも怒りをこめて、拳を固めた。
    「オレさあ、やりたくもない他人にヒトゴロシさせる奴が、大っ嫌いなんだよな!」
     怒涛の連撃でリツは何発かの拳を受けるも、すぐに反撃し、エルメンガルトを地面に叩き伏せる。
     煌理、想々が立て続けに重い蹴りをはなつも、六六六人衆はなおも踏み耐えた。
     灼滅者たちは出発前、六六六人衆に追撃を仕掛けるのは、二つの条件を満たす時にすると決めていた。
     すなわち、
     ――『五童に焦りが見られる』こと。
     ――『灼滅者側に戦闘不能者がいない』こと。
     しかし、リツはある程度の傷を負ってはいるものの、その表情に陰りはみえない。
     また、灼滅者側に戦闘不能者はいないものの、ビハインド一体が消滅している。
     カナリヤを説得する間、壁役として立っていた者たちに負担がかかったこともあり、このまま戦闘を続ければ、逆にこちらが追い詰められる可能性も考えられる。
    「今度会ったら、その時は絶対に灼滅してやるわ……!」
     朱海はおさまらぬ憤怒を胸の内に沈め、茜色の庭を去っていく六六六人衆を見送る。
    「ひとまずは。任務完了、かな」
     長いマフラーを巻き直し、小町は海色のイヤリングを揺らし、穏やかに微笑んだ。


     戦闘後。
     気絶した少年に癒しを施せば、ほどなく意識を取り戻した。
    「良く、頑張ったな。……お疲れ」
     桐人が不器用ながらも労いの言葉をかけ、煌理があらためて武蔵坂学園と、学園が行っている救出作戦について説明を行う。
    「あなたの仲間は、いまごろ、私たちの仲間が救出してる。だから、安心して」
     朱海が安心させるように言葉を重ね、メルキューレが改めて問いかける。
    「カナリヤさん。あなたの『本当の名前』を、教えてくれませんか?」
    「私は、莫原、想々。変な名前やろ?」
    「オレはエルメンガルトです、ヨロシク!」
     次々とはじまる灼滅者たちの自己紹介に圧倒されながらも、少年はようやく心からの笑みを浮かべ、告げる。
    「おれは、天音・五十鈴(あまね・いすず)。『七不思議使い』だ。皆がいなかったら、おれはもう、諦めてた。……助けてくれて。本当にありがとう」
     皆の言葉が、絶望のただ中にあった自分をどれだけ励ましたかと、五十鈴は重ねて礼を述べて。
    「きっと、心配してる仲間の方がいらっしゃるする思う……ね」
    「さ、一緒に帰ろ?」
     ユエファと小町が微笑み、少年の手を引いた。

     学生たちは五十鈴とならび、夜闇に沈みつつある町を歩く。
     仰いだ先には、藍空に煌々と照る月が浮かんでいた。
     
     

    作者:西東西 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2015年2月20日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 6/感動した 0/素敵だった 1/キャラが大事にされていた 0
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