菜の花畑のマイナーシェルトリオ

    ●房総半島、とある菜の花畑で
     咲き誇る菜の花が美しい房総半島某所。乙女チックな風景に似合わない3人の漁業系の男たちがたたずんでいる。
    「房総の春といえば菜の花、アーンド、貝の季節デース」
     口火を切った怪しい外人風の男の頭は、灰色筋模様の丸っこい二枚貝である。
    「うむ、我々の季節がやってくる」
     頷いた2人目の頭は饅頭型の黒い巻き貝。
    「しかし我々は、ハマグリやアサリなどと比べると、まだまだ世間に知られておらぬ」
    「つーか、オレなんかバカ貝っつーんだぜ、ひどくね?」
     脈絡なく個人的な恨みを述べた3人目は白っぽい二枚貝だが、貝の合わせ目からオレンジ色の舌をでろんとバカっぽくはみ出させている。
     先のふたりは個人的怨恨をスルーし、
    「本格的な旬に向けて活動開始せねばならんな」
    「イエース、まずは菜の花を見に来た観光客に、ミーたちがデリ-シャスなことをアピールしマショー」
    「それは良い考えだ。この菜の花畑から始めて、房総中の花畑に宣伝活動を広げてゆくのだな」
    「ミーたちトリオが協力すれば、きっとアサリやハマグリを越えることもできるネー!」
    「もちろんだとも、同士よ!」
    「つーか、オレなんでバカ貝っつーんだろうな、ひどくね?」
     何か噛み合ってない感もあるが、とりあえず3人はがっしりと手を握り合った。
     
    ●武蔵坂学園
    「花恋さんが聞きつけた情報を元に、バカ貝怪人をマークしてましたらね、どうやら房総で他のマイナー貝2体とトリオを組んじゃったみたいなんですよ」
     沢渡・花恋(舞猫跋扈・d24182)は春祭・典(高校生エクスブレイン・dn0058)の話にポカーンと口を開けたが、ハッと我に返り、
    「えっと、バカ貝は青柳とか小柱にするヤツだからそれなりに知ってるけど、他2体のマイナー貝ってのは?」
    「ホンビノス貝ってヤツとナガラミってヤツです」
     どちらも千葉では良く食べられている貝だが、他県民にはあまり馴染みがない。
     ホンビノスは外来種が内房に定着した二枚貝である。見た目が似ているので大アサリなどとも呼ばれ、酒蒸しや焼き物などにすると旨いらしい。
     ナガラミは、正式名称ダンベイキサゴという巻き貝で、日本各地に分布しているが、どこでも食されているわけではない。殻ごと茹でてぷるんと身を引っ張り出してショウガ醤油で食べると美味いようだが。
    「そのマイナー貝3体が組んで、この季節観光客が集まる菜の花畑で、PR活動を繰り広げようとしています」
     花恋はイヤーな顔をして。
    「ご当地怪人のPR活動っていうと、やっぱ無理矢理食べさせたりとか、そういうのかにゃ~?」
    「ご明察」
     菜の花見物の観光客に強引にマイナー貝の試食を勧め、断られたら腕尽くでも……という、ご当地怪人のいつものアレである。
    「ですので花恋さんたちは、件の菜の花畑を観光客のふりをして訪れてください。花とたわむれていると、そのうちマイナー貝たちが試食を勧めてきます」
    「それを断れば、怒って向こうから攻撃してくると」
     戦場は広い菜の花畑だが、オンシーズンの観光地なので、人払いはしておこう。
    「ところで、このマイナー貝トリオ、1体ずつはそれほど強くないのですが、何しろ志を同じくする仲間なので、意外と統率の取れた戦いをしてきます」
    「え、イマイチ噛み合ってないみたいだけど?」
    「ソレはまあアレですが、油断はしないでくださいね」
    「わかったにゃ」
    「油断しなければ難しい相手ではありません。事件を片付けたら、皆さんで房総の春を楽しんでこられたらいいんじゃないですか? 菜の花の花摘みもできるみたいですよ」
    「うん、そうする! 春の味覚も楽しんでくるにゃ~!」


    参加者
    森野・逢紗(万華鏡・d00135)
    遠間・雪(ルールブレイカー・d02078)
    紫藤・武(瞬撃断迅・d04340)
    空本・朔羅(うぃず師匠・d17395)
    崇田・悠里(旧日本海軍系ご当地ヒーロー・d18094)
    ハリー・クリントン(ニンジャヒーロー・d18314)
    白石・作楽(櫻帰葬・d21566)
    沢渡・花恋(舞猫跋扈・d24182)

    ■リプレイ

    ●菜の花畑に
     心地よい日差しに照らされ、眩しいほどに明るい黄色の花畑。房総には一足早く春が訪れている。
    「良い天気でござるなー」
     ハリー・クリントン(ニンジャヒーロー・d18314)が花粉で霞む空に向けてぐーっと腕を伸ばした。
    「ポカポカでござる」
    「うむ」
     白石・作楽(櫻帰葬・d21566)が同意して、
    「もう春が近いんだな……心が和む」
    「ええ、コトが終わったらのんびり見て回りたいものねぇ」
     森野・逢紗(万華鏡・d00135)も一面の花畑を見渡した。
    「そっすね! 菜の花綺麗っすね!」
     空本・朔羅(うぃず師匠・d17395)は力いっぱい頷いて、
    「おひたし食べたいっす!」
     そっちか。
    「そういや、千葉には、菜の花をテーマにした体操があるらしいぜ」
     まったり呟いたのは紫藤・武(瞬撃断迅・d04340)。
     和んじゃって、何しに房総くんだりまで来たかわからなくなりそうだが沢渡・花恋(舞猫跋扈・d24182)が、
    「はーホント、依頼じゃなきゃサイコーなのににゃー」
     ため息を吐きつつ、現実を思い出させた。
    「大体あたし、最近妙ちくりんな奴にばっかり出会ってるし……」
     変な能力でもついちゃったかにゃ、とぶーたれる花恋を、まあまあ、と朔羅が宥め、
    「そういえば予知で怪人が主張してたっすけど、春になると貝、ってのはなんでっすか?」
    「貝には春が旬のものが多いです」
     早入りして貝料理を堪能し、ガイアチャージした崇田・悠里(旧日本海軍系ご当地ヒーロー・d18094)が答えた。
    「旬でござるし、ダークネス3体が手を組むとか、割と脅威……」
    「あ、あそこ見てにゃ」
     遠間・雪(ルールブレイカー・d02078)が仲間の注意を促した。
     雪の視線を追うと、ちょっと離れたところにいるバスツアーらしきお年寄り達に、3人の屈強な漁業系で貝頭の男たちが、貝の試食を勧めまくっている。
    「聞いたことない貝だわねえ」
    「生姜醤油が合うのだ」
    「アサリかい?」
    「オーノー、アサリ違いマース!」
    「その舌はバカ貝だんべ」
    「バカ貝言うな!」
     幸い無碍に試食を断る人はいないようで、暴力沙汰には至っていないようだ。しかしヒヤヒヤしながら見守っていると、貝トリオの方が灼滅者たちに気づいた。
    「おい、あそこに腹ぺこの若者たちがいるぞ」
     物欲しそうに見えたのかも。
     お年寄りから離れ、3人は灼滅者たちの方にやってきた。駅弁売りのように首から立ち売り箱を下げている。
    「ヘイ、ヤングメン、ホンビノス、食べてみてチョー?」
    「ナガラミも旨いぞ」
    「何でオレ、バカ貝って言うんだろうな?」
     貝怪人たちは愛想良く試食を勧めてきたが、間髪入れず、
    「いらないわ。私、貝は好きじゃないの」
     逢紗が冷たく断った。本当は嫌いじゃないのだが。
    「ましてそんな聞いたこともないような貝は御免ね」
    「そうだよな。ホンノビス? ナラガミ? 何それ、聞いたことないからいらないんだけど」
     武はわざと間違えたりして、ビシバシ煽る。
    「大体、知らない人から食べ物もらっちゃいけんって習ったっすよ!」
     続けて朔羅がキッパリ答えつつも、お腹がぐ~。ついでにナノナノの師匠もぐ~……。
    「師匠、あとでお団子あげるから我慢っすよ!(小声)」
     悠里もつんとすまして、
    「今は余りお腹が空いてないし」
     ナガラミの手が怒りでぷるぷるしはじめ、生姜醤油が菜の花畑に飛び散った。
    「お、お前ら、いかにも腹ぺこの顔をしてたではないか!」

     ところで仲間たちが試食を断っている間に、ハリーと作楽は人払い系のESPをかけつつ、そっとお年寄りグループに接近していた。
    「あの3人、変質者なのでござる」
    「すまない、ここから離れてくれないか」
     声かけとESPで、お年寄り達は不得要領な表情をしながらも戦場から遠ざかっていき、2人は急いで仲間の元に戻った。
     ハリーは試食してみようとマイ七輪まで持ってきていたのだが、戻ってみればビシバシ断り中で、とても食べる雰囲気ではない。
     雪がスススと寄ってきて囁いた。
    「ハリーくん、お醤油も用意してたのニャー?」
    「醤油も千葉名産でござるから、貝を食べつつ、醤油の味のみをほめて煽るつもりだったでござる」
     せっかく醤油工場でガイアチャージと買い出しをしてきたのに。
    「アタシも食べてみたかったニャ。マイナーとはいえ、美味しいのかどうか」
     花恋も残念そうに。
    「あたしもー。この体質だから貝は控えるように言われてるからいいんだけどにゃ~」
     猫だから。
    「うーん、この展開では無理だにゃ」

     残念そうな3人が見守る中、武は怪人たちを挑発的に見回し、
    「ハマグリなら食べてやってもいいけどな……ハマグリないの、ハマグリ」
    「は、ハマグリだとうっ」
     バカ貝が名前問題以外の台詞を初めて口にした。3人の中ではダントツにメジャーなバカ貝であるが、ひな祭りの人気者・ハマグリにはコンプレックスがあるのだろうか。
    「無いのか」
     ハッ、と武は鼻で笑った。
    「話にならないな。アサリの味噌汁で面洗って出直してきな」
    「「「アサリだとううぅぅぅっ!」」」
     いきり立つ貝怪人トリオの顔に青筋が立った(貝だけど)。
    「ベリー生意気なヤングメン!」
    「痛い目に遭わせないとわからないようだな!」
    「バカにするな!」
     そこに、食べたかった気持ちを振り切った雪が、菜の花色に光る交通標識を構えてずずいと前に出て。
    「世界平和のため、ここで滅んでもらうにゃ! 貝は後で醤油でいただくにゃ!」

    ●貝バトル
    「一期は夢を、ただ狂え」
    「カレン、ステージ、オン!」
     作楽と花恋の解除コードが花畑に響く。灼滅者たちは怪人たちの配置を観察しながら、自分たちも打ち合わせたポジションに着いていく……が、
    「まずはたっぷり貝毒をくらえ!」
    「うわあっ!」
     いち早く準備完了したナガラミが、無数の黒い小さな巻き貝をビシビシバシバシと前衛にぶつけてきた。貝毒たっぷりというのは本当らしく、何人かはお腹が痛くなってきた。
    「今治してあげるにゃ、これで大丈夫にゃ!」
     雪が素早く交通標識を振り上げて、黄色の光線を振りまくと、霊犬を出現させ、
    「バクゥ、しっかりディフェンス頼むにゃ!」
     緑色の光を纏ったアイリッシュ・セッターは一声鳴いて主に寄り添う。
     しかし回復を受けた前衛が、攻撃に踏み込んでいくより先に、
    「青柳爆弾!」
    「ぎょえっ」
     バカ貝がオレンジ色の物体を大量に手甲から発射した。それらはお腹を押さえつつも前進しつつあった前衛に、ペタペターっと張り付いた。とっさに主を庇った作楽のビハインド・琥界には2つも。しかも、
     ドカン!
     張り付いたまま小爆発!
    「わあっ」
    「忙しいにゃー!」
     雪はせっせと交通標識を振り回し、
    「師匠も頼みます!」
     朔羅はナノナノにも回復の手伝いを頼む。
    「タチ悪ィな」
     武は苦しむ前衛の陰から、
    「俺の殺人技巧味わってみな!」
     うにょうにょと蠢かせていた影を、素早く放った……が。
    「ディーフェンス!」
     ホンビノスが大きな焼き網で、影を絡め取り押し戻した。なるほど、チームワークはあなどれない。
     が、灼滅者もやられっぱなしでいるはずもない。
    「ニャッハア!」
     菜の花を蹴散らしてエアシューズで突っ込んできた花恋が、脇からホンビノスを蹴倒した。
    「今よ」
     逢紗がすかさず聖鐘鬼壇を伸ばして、ホンビノスを殴り押さえつけ、まだ青柳のきれっぱしをくっつけてはいるが、前衛が一斉に飛びかかる。ハリーは足を狙って斬りつけ、作楽の鬼の拳が炸裂する。悠里は利き腕の蒼い刃をひらめかせ……。
    「ほ、ホンビノス! バカにされっぱなしじゃんか!!」
     仲間がこてんぱんにやられているのを見て、バカ貝が悠里につかみかかろうとした……が、
    「仲間に手出しはさせないっす!」
     割り込んで、代わりに投げられたのは朔羅。
    「あまり無理しないでね……朔羅」
     逢紗がすばやく祭霊光を送る。
    「あざっす! 大丈夫っすよ、逢紗」
     朔羅は素早く立ち上がり、バカ貝と睨み合う。
     一方、ホンビノスを包囲する灼滅者たちの方には、ナガラミが自らの体を手裏剣のように回転させながら、
    「同士から離れろ!」
    「わあっ!」
     死角から斬りつけようと接近していた武に体当たり。何しろ貝であるから、堅い。武はぽーんと吹っ飛ばされた。
    「忙しいにゃー、でもご当地怪人ごときに倒させはしないにゃー!」
     雪と逢紗のナノナノがあわてて武の救助に走り、
    「フーッ、シャーッ、あんたこそ離れなさいよ! 潮臭いにゃ!」
     ナガラミは花恋が回し蹴りで下がらせた。
    「さ、サンキュー……」
     ホンビノスは息も絶え絶えで起き上がり、焼き網を振りかざして自らを回復した。
     改めて対峙した貝怪人に、逢紗が問いかける。
    「ところで……3人のうち、一番美味しいのってどれかしら?」
     少しでも連携にヒビを入れようという質問に、3怪人は、
    「そ、それはオレ」
    「ミーデス!」
    「わしだ!」
     こぞって自己主張しはじめた。そのかしましい様子を見て、悠里もツッコミを入れる。
    「大体、マイナーって言いながら、バカ貝が入ってるのは変です。青柳や小柱をはじめ、割とメジャーで色々な料理に使われる優秀な貝でしょう?」
    「確かに……」
     ナガラミとホンビノスがじとっとした目でバカ貝を見た。
    「そ……そうかもしれないけどよ」
     バカ貝は慌てて、
    「本名バカ貝っつーと、大人は吹き出すし、子供は遠慮なしにバカ笑いするし……」
     オレンジ色の舌をだらんとさせてうつむいた。
    「だからオレ、名前で笑われないように、ハマグリやアサリよりもメジャーな貝になりたくて、それでお前たちと……」
    「お主なりの苦労があるのだな!」
    「ユーはやっぱり同士デスッ!」
    「わかってくれたか!」
    「3人で日本を制覇しよう!」
    「「「全てはグローバルジャスティス様のために!」」」
     怪人はガシっと肩を組み合った。残念ながら、連携にヒビを入れることはできなかったようだ。
     暑苦しい怪人の友情に、作楽は呟かずにおれない。
    「毎度思うけど、ご当地怪人のやる気の方向性は如何にかならないのか……」
     呆れてしまうが、結局やることは同じである。
    「さあ、いくわよ」
     逢紗が仕切り直しとばかりに死境流楼を構え、
    「しっかりと狙って……躊躇無くたたきこむわよ」
     回復したとはいえ、弱りきっているホンビノスを狙ってしゅるりと糸を伸ばした。
    「オーノーッ!」
     糸に絡みつかれ、苦し紛れに振り回した焼き網シールドが、踏み込んできていた作楽に迫る。
    「数多の姫の恋心、その輝きは玻璃の荊……吾が仇を搦み封ぜよッ」
     とっさに縛霊手を前に出すと、
    「受けられないか……ッ」
     焼き網を受け流そうとしたが、まともにぶつかり押し倒されてしまった。が、倒れた作楽の陰から、
    「ニンジャケンポー、神霊剣!」
     ハリーが非物質化した聖剣を振り上げて高々と跳び、力一杯突き刺した。
    「AIEEEE!!」
     ホンビノスの魂が弾け飛び、
     どっかあああん。
     肉体も爆散した。
    「ほ、ホンビノスうううっ!」
    「よくもせっかく見つけた仲間を!」
     ハリーに詰め寄ろうとするバカ貝は、
    「あなたの相手は私っす!」
     朔羅がマメにシールドでひっぱたいて引きつけ続ける。
    「ぬううっ、もう一度貝毒をくらえ!」
     ナガラミの毒手裏剣が前衛に蒔かれたが、
    「見切ったでござる!」
     ハリーがくるっと空中回転して弾道に入り、サーヴァントたちと共に壁になる。
    「はいよっ、回復だにゃー!」
     雪がすかさずディフェンダーに向けて交通標識を掲げ、その間に護られた攻撃陣がナガラミに仕掛けていく。
    「烏の絶えた三千世界へようこそ!」
     作楽が足を突きだして黒い桜を伸ばすと、すかさず武の影も追いかける。逢紗が鳴姫に炎をまとって滑り込み、よろけたところに花恋がどーんと馬乗りになって押し倒し、オーラを宿した爪で乱れひっかき。
    「うりゃあ!」
    「んにゃあっ」
     すぐに死にものぐるいで振り払われてしまったが。しかしナガラミもヨレヨレで起き上がることはできない。
    「もらった!」
     悠里が高々と跳躍し、星を散らして思いっきり腹に飛び降りた。
    「ぎょえええっ……む、無念っ……」
     どっかああああん。
     ナガラミも爆散して果てた。
    「さあ、お前だけになったでござる」
    「うむむむ……」
     冷や汗まみれのバカ貝を灼滅者たちは包囲する。必死に抑え続けていた朔羅が、ホッとしたように一歩下がると、雪がすぐに包帯と化したダイダロスベルトを伸ばし、しっかりと回復を施す。
    「覚悟しろでござる。ニンポー醤油ビーム!」
    「ぶはっ、しょっぺえ! 目に染みる!!」
     ハリーが茶色いビームを迸らせたのを皮切りに、灼滅者たちは最後の敵に殺到する。
    「貝料理、美味しかった」
     悠里が低く囁いて利き腕の刃で斬りつけ、武の鋼糸が絡みついて切り裂く。
    「師匠は、敵を美味しそうって顔で見ない」
     逢紗は友人のナノナノにツッコミを入れながら、縛霊手で抑えつける。
    「く、くっそううう!」
     バカ貝はやられつつも手甲を突き出し、後衛にむかって青柳爆弾を振りまいたが、
    「守るっす!」
     朔羅が最後の力を振り絞ってメディックの盾になり、
    「ありがとうにゃ!」
     勝負処とみた雪も、回復はサーヴァントたちに任せ、赤く輝く標識でガッツーンと貝頭を殴りつけた。
    「ナイスにゃ!」
     花恋が猫の素早さで後頭部に跳び蹴りを入れ、前のめりに倒れたところに、
    「……これで仕舞いだ!」
     作楽が愛刀で一刀両断。
    「……ば、バカ貝ゆうなぁ……」
     どっかあああん。
     最後まで名前へのコンプレックスを露わにしながら、マイナー貝トリオ最後の1体も滅んだのだった。
     武が貝たちの残骸を気の毒そうに見下ろして。
    「……すまんね、どれも実は嫌いじゃないんだが、3人がダークネスだったのがいけないんだよ」
     
    ●春の房総ですから
     手当をすませ、菜の花を存分に楽しんでから、灼滅者たちは貝料理の店に移動した。事前にも来ていた悠里の案内である。
     頼んだのは貝刺身盛り合わせに、貝焼きセット。焼けるのを待ちながら、刺身をつつきはじめたところである。
    「これは青柳だよな……んで、これがホンビノスか」
     旬が初夏であるナガラミは残念ながらまだ入荷していなかったが、バカ貝は刺身の方に、ホンビノスは焼き物の方に入っている。武は先ほどまで戦っていた貝たちを見て、しみじみしている。
     逢沙も箸を片手に、
    「結構美味しいのね、彼らに悪いことしたかしら?」
     ハリーが覆面の下でもぐもぐしながら、いやいや、というように首を振った。雪は焼き上がりが待ちきれないようで、片手に醤油をスタンバイして。
    「デリシャスなんだから、もっと穏便に広報活動してればよかったのににゃ~」

    作者:小鳥遊ちどり 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2015年3月6日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 2/キャラが大事にされていた 5
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