島唄で、笑うな

    ●国際通りの民謡酒場
    「はい、みんなで踊りましょうねえ!」
     唄い手のかけ声に、まずは常連らしい地元民が立ち上がり、達者なカチャーシーを踊り始めた。それを見て、観光客たちもおずおずと立ち上がり、見よう見まねで踊り出す。
     陽気なリズムと、南国的な旋律の島唄。美味なる泡盛と、沖縄料理。ここは那覇市国際通りにある民謡酒場。ウチナーンチュも、観光客も、一緒に踊れば笑顔がはじける。

    「……人間の笑顔って、気持ち悪い」
     盛り上がる店の様子を、最後方の席で座ったまま真顔で観察している2人組がいた。
    「ふうーん。気持ち悪いんだ。あたしはどっちかっていうと、ムカつくカンジかな?」
     そう言ったのは、20代後半くらいに見える美女。
    「だから、お膳立てくらいはしてあげる」
     美女は傍らの三線を手に取ると、リゾートっぽいひらひら露出度の高いワンピースの裾を揺らして立ち上がった。唄い手と三線奏者がいるステージへと向かっていく。
     腕に覚えのある客が、演奏に飛び入りするのはこの店ではよくあること。奏者たちは笑顔で女性をステージに上げた。
     女性はおもむろに三線を弾き始めた。すると、踊っていた客たちも、ステージ上の奏者も、厨房の店員たちも次々に倒れていくではないか。
     あっという間に、店内の一般人は全て動かなくなった。
     美女の連れの方がゆらりと立ち上がり、傍らに倒れている中年男性の頭を乱暴に蹴ったが目覚めない。どうやら深い眠りに落ちているようだ。
     美女は三線を弾く手を止め、連れに向かって、
    「はい、お膳立てしたわよ。思う存分殺れば?」
    「期待通りの見事な腕だね、エリスリナ」
     連れは美女に賞賛の、しかし冷徹な視線を送る。
    「それでこそ、KSD六六六だよ……」
     
    ●武蔵坂学園
    「ラフテーを煮ておりましたら、沖縄の事件を予知してしまいまして」
     西園寺・アベル(高校生エクスブレイン・dn0191)は、集った灼滅者たちの前に、沖縄風の豚の角煮の大皿を置いた。とろっとろに煮えている。
    「HKT六六六のゴッドセブンNo.5・スマイルイーターが沖縄の国際通りで勢力を拡大しようとしていることは、皆さんご存じでしょう」
     スマイルイーターは現地のダークネスを支配下におき、KSD六六六を結成しようとしているようだ。それと同時に配下ダークネスを使い、楽しそうな笑顔の一般人を虐殺しようとしている。
    「とはいえ、いざ戦闘となると、スマイルイーターは自らは戦わず、配下に戦わせようとします。しかも卑怯なことに」
     アベルは微妙に目元に怒りを浮かべて、
    「自分が攻撃されそうになると『沖縄の各地に爆弾を仕掛けており、自分が灼滅されたら大きな被害が出る』と、脅してくるのです」
     現時点では、沖縄のどこに爆弾が仕掛けられているか不明なので、スマイルイーターの灼滅は諦め、事件の阻止と配下のダークネスの灼滅に徹するしかない。
    「今回は、民謡酒場に配下にした淫魔を引き連れて出没します」
     新入社員研修のようなつもりだろうか。
    「淫魔の武器は三線で、強力な催眠効果を持っています」
     但し、この催眠効果は一般人向けで、灼滅者には効きにくい。
    「皆さんはこの酒場に客として潜入してください」
     島唄ライブがメインの店なので、未成年だけでも入店できる。
    「そして淫魔が三線を弾き始めたら、一般人に紛れて眠ってしまったふりをしてください」
    「えっ」
     灼滅者のひとりが驚きの声を上げた。
    「淫魔が三線を弾き始める前の方がいいんじゃないの?」
     アベルは首を振り、
    「いえ、一般人が皆眠ってしまったタイミングの方が、スマイルイーターも淫魔も油断していますので、ふいをつくのは効果的です」
     しかも2人の距離が、ステージと最後方の座席とかなり離れている。
    「幸い、店内の一般人数はさほど多くありません」
     フロアに客と店員含め10名、ステージに奏者が2名、厨房に店員3名の計15名である。
    「淫魔とスマイルイーターを何名かが牽制している間に、怪力無双などのESPを使って、一般人を店から運び出したらいかがでしょうか」
     出入り口は、フロア側に表通りに面した正面玄関、厨房に裏通りに面した勝手口の2箇所である。
    「なるほどね」
     灼滅者のひとりが頷いて、
    「スマイルイーターは、どうせ脅し文句だけ言って、とっとと帰ってしまうのでしょうしね」
     忌々しそうに吐き捨てた。
    「そうです」
     アベルは静かに頷いて。
    「卑劣なスマイルイーターを許せないという皆さんのお気持ちもよくわかりますが、現時点では、KSD六六六の戦力を減らすことと、一般人への被害を防ぐことを第一に考えていただきたいのです」
     そして箸と取り皿を手に取って。
    「首尾良く事件を解決なさったら、ぜひ本場の沖縄料理を召し上がってきてください」
     ラフテーを皆に分けたのだった。


    参加者
    今井・紅葉(蜜色金糸雀・d01605)
    風華・彼方(小学生エクソシスト・d02968)
    四月一日・いろは(剣豪将軍・d03805)
    狼幻・隼人(紅超特急・d11438)
    木元・明莉(楽天日和・d14267)
    神楽・識(ヤクザ系鉄パイプマイスター・d17958)
    アルディマ・アルシャーヴィン(リェーズヴィエ・d22426)

    ■リプレイ

    ●国際通り、民謡酒場
    「わあ、美味しそうね……あ、でもゴーヤは苦手なの」
     今井・紅葉(蜜色金糸雀・d01605)はテーブルに並んだ沖縄料理の数々に目を輝かせている。彼女と、風華・彼方(小学生エクソシスト・d02968)、四月一日・いろは(剣豪将軍・d03805)ら中学生がエイティーンを使っているので、8名は高校生か大学生の春休み旅行のグループに見えているだろう。
    「ま、泡盛はあかんけど、沖縄らしいモンでも飲んで、時間まではパーッと騒ごや」
     狼幻・隼人(紅超特急・d11438)がマンゴージュースのグラスを上げ、乾杯した。
    「さて、またしても面倒事ね」
     シークワーサージュースをストローでゆっくりとかきまぜ、神楽・識(ヤクザ系鉄パイプマイスター・d17958)が最後部の席の男女2人連れに気だるげに視線を投げ、仲間たちにだけ聞こえる小声で。
    「HKTだかKSDだかOKDだか知らないけど、虐殺はしっかり阻止させてもらうわ」
     アルディマ・アルシャーヴィン(リェーズヴィエ・d22426)が頷いて。
    「ダークネスという連中はこちらの神経を逆撫でるような者が多いが、今回のヤツは特に、だな」
     その席にいるのは、糸目のイケメンと、鮮やかな花柄のリゾートワンピースの美女……一見絵のような美形カップルだが、灼滅者たちの目には、彼らが黒い影で店の楽しい空気から隔てられているように映る。
     ガイスト・インビジビリティ(亡霊・d02915)が低い声で。
    「脅し文句、使用自体、臆病者発想。が、仕方無し。必要任務、虐殺阻止」
     爆弾を仕掛けるという卑怯な作戦に、灼滅者たちは皆、非常な憤りを覚えている。
     識が首を傾げ、
    「笑顔に嫌な思い出でもあるのかしらね?」
    「笑顔がムカつくってかね。ま、好みはそれぞれだから別段否定はしないけど」
     木元・明莉(楽天日和・d14267)が、ダークネスの感覚が理解できるはずもない、と、肩をすくめ、
    「俺はこのテの笑顔が好きだからね。それを壊すような事をするのならなんであれ排除する」
     店は地元客や観光客ですでに半ばほど埋まっており、もうじき始まる島唄ライブに向けてテンション上昇中。もちろん皆楽しそうな笑顔……件のカップルを除き。
     飲み物と料理を楽しんでいると、客たちの間から拍手が沸いた。ステージに三線奏者と歌手が現れたのだった。
     彼方も拍手を送りながらステージの方に向き直って、
    「せっかくだもの、ヤツらが動き出すまではステージを本気で楽しむね」
     仲間たちも流れ出した島唄に耳を傾ける。1曲目は沖縄県民でなくとも聞いたことのある有名な歌であった。好演を讃える拍手と短いMCを挟んだ2曲目は、リズミカルな楽しい曲。
    「ちょっと行ってくる」
     明莉が小さな和太鼓を取り出すと、ステージへ向かった。歌手は笑顔で彼を演奏に迎え入れ、明莉は客席にぺこりと頭を下げるとリズムに乗って太鼓を叩き出す。
     明莉は奏者の避難担当なので、事が起きる前にステージに上っておこうという狙いなのだが、つい本気で楽しんでしまいそう。客たちから自然に手拍子が起こり、歌手が間奏中に、『踊ろう』と客席を促す。
     灼滅者たちも、周りの一般人たちに倣って立ち上がり、その時が近づいてきた緊張感を押し隠しながら、見よう見まねで踊ったり、手拍子したり。
     とはいえもちろん、ますます剣呑な気配を放つ件のカップルへは油断なく注意を払っている……と、美女が三線を手に立ち上がった。笑顔の人々の間を無関心な様子ですり抜ける彼女は、怜悧な美貌でスタイルも良い。しかしその表情は冷たく、堅い。また、海の色の髪と、エリスリナ=デイゴ色の瞳という不思議な容姿なのに、人々が疑問を感じていない様子なのは、バベルの鎖の仕業か。
     灼滅者たちは踊りつつもさりげなく、自分の役割に相応しい位置へと移動しはじめる。
     ステージに上がった淫魔が、バチを手にし、三線を弾き始めた。途端に、脳を痺れさせるような音が店中に響き渡り……少なくとも灼滅者たちにはそう感じられた。しかし冷静に分析する暇もなく、周囲の一般人たちがバタバタと倒れはじめた。灼滅者たちもなるべく不自然でないように、床へ横たわる。演奏家たちも眠ってしまったので、曲が途切れ、流れているのは淫魔がつま弾く不可思議で不快な音だけだ。
     隅の席から男が立ち上がる気配がして、三線の音が途切れた。
    「はい、お膳立てしたわよ。思う存分殺れば?」
     女性の華やかな、しかし突き放すような声音に、冷徹な男の声が応える。
    「期待通りの見事な腕だね、エリスリナ。それでこそ、KSD……」
     灼滅者たちは、男の台詞を遮るかのように、一斉に飛び起きた。

    ●笑み喰らいどデイゴの花
     ガイストとアルディマは起きあがった瞬間に床を蹴り、その勢いのままステージに飛び乗ると、シールドで両側から挟み込むように殴りつけた。同時にステージ下では紅葉が指輪を翳し、混乱をもたらす弾丸を撃ち込む。
     一撃見舞ったところでガイストは、ビハインドのピリオドに、避難補助を命じる。
    「油断大敵。私、妨害遂行。ピリオド、今、一任。宜しく」

     彼方は寝転がったまま弓を構えると、悪辣な六六六人衆を目がけいち早く魔弾を番えていた。目標はその弾丸を身を翻してかわしたが、そこには気合いの入った表情のいろはが待っていた。
    「本当に六六六人衆のやり方は、嫌らしくて厄介極まりないよ……!」
     腹部に刀の柄を深々とめり込ませたスマイルイーターの足下には、隼人の霊犬・あらかた丸が走り込む。

    「颪、しっかり働きなさい。スピードと正確さが大切よ」
     識は厨房に駆け込むと、愛車に入り口のカバーを命じると、自らは入り口付近で倒れていたエプロン姿の女性を担軽々と片手で抱き上げた。ESP怪力無双のおかげだ。通りすがりにコンロの火を消し、勝手口を開け、すぐ外、薄暗い裏通りに女性をそっと寝かせる。店外、つまり淫魔の影響外に出れば、直に目を覚ますであろう。
    「厨房にはあと2人いるはずね」
     識は素早く店内に戻る。

     ステージ上にいた明莉は怪力無双を発動すると、三線奏者と歌手を両肩に担ぎ上げ、仲間たちの淫魔への攻撃を避けながら、厨房の勝手口を目指した。颪のカバーを受けながら厨房に駆け込むと、識が大きな流しの足下から、コック服の大柄な男性を運びだそうとしているところだった。
    「勝手口はあちらよ」
     開け放たれている奥のドアを示され、そちらに向かう。

     ステージ下にいた隼人はステージ直近に倒れていた一般人を急いで淫魔から遠ざけた。そこにガイストの命をうけたピリオドがやってきたので、
    「おっ、いいとこにきてくれた。戦闘に巻き込まれんようにな」
     その一般人を背負わせると、自分も怪力無双で2人を担ぎ上げ、ビハインドを引き連れ、店の玄関口を目指す。

    「アンタたち――灼滅者?」
     エリスリナが朱色の目を細めて、自分を囲む3人に向けて三線を構えた。
    「貴様の相手は私がしてやる。まあ態々相手を眠らせなけらば殺せぬ輩だ。何が出来るとも思えんがな」
     アルディマが挑発台詞と同時に放った影は三線に絡め取られたが、
    「脚部、切断」
     ガイストの刃が足下にひらめき、
    「笑顔がムカツクなんて、何言ってるの、淫魔のババア」
     紅葉は愛らしい唇から毒を吐くと指輪を翳し、石化の呪いを仕掛ける。
    「幸せな笑顔をそんな風に見るお前こそが気持ち悪い」

     いろはの一撃を受けたスマイルイーターは、大きく横に飛び退いた。それを追って、無邪気な笑顔を浮かべた彼方の矢が、流れ星のように尾を引いて突き刺さる。いろはもすかさず追いかけて、テーブルを飛び越え抜刀したが、敵はまた横っ飛びに逃げ……そこには深い眠りに落ちた一般人の男性が。
     六六六人衆は、その男性の後ろ襟を片手で持ち上げると、盾のように自らの前に掲げた。

    「ああっ!?」
     ステージと厨房の避難を無事に終えて、フロアに戻った識と明莉が見たのは、乱れた客席の真ん中で一般人を盾にするダークネスの姿。
     六六六人衆のいるフロアで、10人もの一般人を迅速に避難させるには、1人と1体では無理があったか!? と、2人は一瞬呆然としたが、
    「……くっそう!」
     憤懣やるかたない様子で歯噛みしつつも2往復目の運び出しに入ろうとしている隼人の姿に気づき、手近のまだ倒れたままの一般人に駆け寄った。

    「私には手を出さない方がいい」
     冷たい声が言い放つ。
    「沖縄の各所に爆弾を仕掛けてある。私が滅びると爆発する仕掛けだ」
     冷酷な糸目が、悔しそうに武器を構え、あるいは急いで一般人を運び出す若者たちを見回す。
    「ハッタリじゃないの? そう言っとけば攻撃されないもんね。本当なら、どこに仕掛けたか言ってみなよ」
     彼方が笑顔を何とか保ったまま煽ってみるが、
    「嘘だと思うなら、攻撃すればいい」
     あくまで冷静な反応が返ってきただけ。
    「あらまあ、素敵に卑怯だわね、スマイルイーター様ったら」
     ステージの上で、3人とにらみ合いつつもエリスリナが言う。軽口のような台詞だが、この主従の口調では痛烈な皮肉にしか聞こえない。
    「エリスリナ、ここは任せた。このくらいの人数の灼滅者、1人で何とかしてくれねばな」
     ちっ、とエリスリナは美貌に似合わぬ下品な舌打ちをしたが、
    「わかったわよ。何とかするわ」
     その答えを聞くと、スマイルイーターはするすると店の玄関の方へと下がり始めた。もちろん盾の男性は離さずに。
     もちろん灼滅者たちも詰め寄るが、攻撃することはできない。あらかた丸がグルル……と低く唸っている。彼方が歯ぎしりしながら、それでも笑顔で、
    「ウズメさんは元気? 君のボスもさ、いつかつぶしに行くからよろしく言っといて!」
     アルディマも忌々しげに、
    「安全策を取らねば何も出来ぬ愚図め、貴様はいずれ始末をつけてやる!」
     無言のまま、スマイルイーターは店の入り口で盾の男性を投げだし、外の人混みへと紛れてゆく。男性は苦々しい表情のいろはが受け止めた。いろはは、せめて無念の思いを込めて叫ぶ。
    「首を洗って待ってな、スマイルイーター。時遡十二氏征夷東春家序列肆位四月一日伊呂波がキミの目論見を必ず阻止してみせるから!」
     その男性が一般人の最後のひとりだった。紆余曲折はあれども何とか一般人の被害を出さずに済み、灼滅者たちは気を取り直して淫魔との戦いに挑む。
    「仕切り直しや。本気でいくで」
     一般人を盾にされた悔しさを滲ませ、隼人が縛霊手の拳を握った。
     いよいよ全員揃って淫魔を囲む。手始めにガイストがシールドを振り上げ、
    「浄化障壁、展開」
     前衛の防御を強化した。
     すると、淫魔も三線とバチを持った手を大きく広げ、
    「じゃああたしも本気でいかせてもらうわ!」
     ガッと踏み込んで激しく踊り出した。
    「うわっ!」
     ステップ毎に前衛に強烈な拳が、脚技が繰り出される……が。
     ガツッ!
     ガイストが明莉を狙った蹴りを体を張って受け止めて。
    「笑顔自体、私自身、人生中、未実行。が、他者笑顔、幸福、証。理不尽奪取、無益。」
     ガイストは跪いてしまったが、その陰から明莉が
    「助かったよ、ガイスト先輩!」
     と、飛び出して、
    「アンタには好きな笑顔はないの……っ!?」
     鋼鉄の拳を美貌が歪むほどに喰らわせた。続けて攻撃を逃れたアルディマが影を伸ばして縛り上げ、後方から紅葉と彼方が癒しの光と矢を、前衛に向かって撃ち込む。
     回復を得て、識が『焔』で更に抑え込み、いろはが刀の柄をねじり込む。
     淫魔はアルディマと識の捕縛を振り払ったが、そこにまた隼人の縛霊手が。
    「笑いが嫌なら、売れない芸人でも目指せばええやろが!」
     それもまた淫魔は力付くで振り切って、
    「アタシにだって好きな笑顔が、無いこともないわよ」
     ギラギラと憎しみのこもった朱色の瞳。
    「媚びて命乞いする人間の、涙や鼻水でどろどろのみじめったらしい笑顔なら好きよ!」
    「ぐっ……!」
     三線がガツンと堅い音を立てて隼人を殴りつけた。
    「僕が回復するよ!」
     彼方が素早く矢をつがえ、紅葉は今度は毒弾を放って。
    「つくづく醜い心を持っているのね……ああ、顔も醜いものね、ババァだものね!」
    「……この小娘!」
     淫魔は紅葉を睨みすえながら三線の弦ににバチを打ち下ろそうとした。が、
    「させない!」
     明莉が素早く懐に飛び込み、雷を宿した拳で顎を突き上げた。続いていろはが足下に滑り込んで刃を突き立て。
    「キミは気づいていないのか? 六六六人衆に良い様に利用されてるだけだってね」
    「そんなの」
     よろめいた淫魔は三線を杖のように使って態勢を立て直すと、ぺっ、と折れた歯を吐き出して。
    「アタシだって組織を利用してやろうと思ってんだから、お互い様よ。ここを乗り切れば、……」
     朱色の瞳がうろうろと泳ぐ。不利を悟って逃げ出そうとしているようだと、アルディマが気づき、
    「なるほど……さすがダークネス同士だな!」
     すかさず縛霊手を掲げて結界を張り、いろはは出入り口を塞ぐ位置に動く。淫魔は決して逃さない。
    「激情障壁、殴打」
     ガイストはシールドで殴って引きつけ、識は魔導書を開き魔力の光線を迸らせる。隼人は店の梁に飛びついて勢いをつけ、星を散らして跳び蹴りを見舞う。
    「く……」
     ステージの隅に追いつめられたエリスリナは、
    「どきなさいよ!」
     破れかぶれで突破を狙って、三線を振り回していろはに突進する。
    「颪!」
     識の命令一下、いろはの前に颪がギュルンとターンして入り込んだ。
     ガッシャン!
     大きな音を立てて颪は倒れたが、
    「逃がすもんか!」
     明莉が淫魔の背中に斬艦刀を振り下ろし、倒れたキャリバーを飛び越えたいろはの『月下残滓』の光がひらめいて――。
     ギャアァァァァァ……。
     美貌に似合わぬおぞましい悲鳴を上げて、淫魔エリスリナは滅んだのだった。

    「ふう……」
     明莉が床に座り込んで店を見回した。
    「なるべく荒らしたくなかったんだけど、無理だったな」
     店内は惨憺たる有様である。
    「少し片づけていこうか」
    「そやな」
     隼人も苦笑して、
    「せっかくの沖縄やし、卒業旅行代わりと思ってたんやけど、これじゃあな」
     アルディマも割れた食器の破片を拾い始め、
    「片付けたら食事にいこうか。沖縄料理は他の店でも食べられるだろう」
    「その前に、紅葉はみなさんの無事を確認してくるの」
     紅葉は一般人の安否確認に向かい、他のメンバーは疲れた体にむち打って店内を片づける。
     こぼれたドリンクをふき取りながら、彼方がふと顔を上げる。
    「スマイルイーター……今度会った時には、爆弾の場所、漏らしてくれるといいんだけどなぁ……」

    作者:小鳥遊ちどり 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2015年4月1日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 4/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 0
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