セーラー服よ、永遠に

    ●イメクラ店の裏口で
    「お疲れ様で~す……」
     萌々香は、イメクラ『秘密のセーラー学園☆』の、薄汚れたドアからすすきのの裏通りに出ると、重たい溜息を吐いた。溜息の原因は、退店前に店長に聞かされた提案だ。
    『キミもそろそろセーラー服はキツいトシだし、どうだろう、このあたりで女教師をメインにしてみるのは』
     確かに四捨五入すれば30になる萌々香にセーラー服はキツい。指名が減っているのも事実。しかし元カレの借金を背負って仕方なく始めた仕事とはいえ、女子高生の演技を3年間一生懸命磨いて、一時はナンバーワンになったこともあるのに。
     それに、この店の売り物はあくまでセーラー服プレイだから、女教師の指名は少ない。減ってしまった常連客の分をフォローできるか?
    「……あ、もしかして」
     萌々香は気づいた。
    「これって、遠回しな肩たたき?」
     店長は退職を促しているのだろうか……?
     その時。
    「大丈夫、貴女ならまだまだセーラー服でいけますよ」
     艶やかな女性の声が、突然。
     驚いて顔を上げると、そこには裏路地の暗がりを照らすような美女が立っていて。
    「私の配下になりませんか? あなたの魅力を最大限に引き出してあげましょう」
     慈母のような微笑み。
    「まずはお店のナンバーワンに、そして私と一緒に、すすきのの夜を支配するのです」
     何故この女性は私の悩みを知っているのか……そしてすすきのの夜を支配するって?
     頭の隅っこを幾つもの疑問が通り過ぎたが、謎の女性の圧倒的な魅力の前に、そんなことはどうでもよくなった。
     萌々香は女性の目を見つめ返し、深く頷いた。
     
    ●武蔵坂学園
    「……こうして、アリエル・シャボリーヌに下り、淫魔となった萌々香さんは、たちまちナンバーワンに返り咲きましたとさ」
     春祭・典(高校生エクスブレイン・dn0058)は苦々しげに事件の序章を締めくくった。

     軍艦島の戦いの後、HKT六六六がゴッドセブンを地方に派遣し、勢力を拡大しようとしているのは周知の通りである。
     ナンバー6、アリエル・シャボリーヌは、札幌の繁華街すすきので勢力を拡大しようとしている。すすきののえっちなお店に務めている女性を籠絡して淫魔とし、SKN六六六に加えようというのだ。

    「返り咲いた萌々香さんは、いばりくさって、店で横暴の限りを尽くしているようです」
     同僚をパシリに使ったり、新人を虐めたり、お客を横取りしたり。特に退職をほのめかした店長への当たりはひどいようだ。
     しかも調子に乗って、通勤時も衣装のセーラー服を着っぱなし。
    「ヒドイわね。それだけでもやっつけたくなっちゃうわ」
     黒鳥・湖太郎(黒鳥の魔法使い・dn0097)が顔をしかめた。
    「その上、萌々香さんは、あるパフォーマーに、セーラー服勝負を挑もうとしているらしいんです」
     彼女が狙っているのは、すすきのの某ショーパブの有名ニューハーフ・ダンサーだ。可愛らしい容姿とセクシーなダンスを武器に、セーラー服など制服姿でのショーを繰り広げている。
    「まあっ、ニューハーフが狙われてると聞いてはじっとしてられないわっ!」
     湖太郎はいきりたったが、典は慣れた様子でスルーし、
    「淫魔的な支配を広めようという欲求もあるのでしょうが、セーラー服つながりで、逆鱗に触れちゃったみたいなんですね」
     ニューハーフのくせに、私より人気があるなんて許せないッ。どっちがエロい女子高生になりきってるか、勝負しましょうよ! みたいな?
    「勝負ったって、ダークネスのやることですから、大惨事になるのは目に見えています。今のうちに阻止して欲しいのです」
     典はすすきののガイドマップを広げた。
    「ここが『秘密のセーラー学園☆』です。この夜、退店後の萌々香さんは偵察のために、裏通りを通って件のショーパブへと向かいます」
     白い指が細い道をなぞった。
    「このあたり……雑居ビルの裏口に挟まれていて、比較的人通りが少ないです。ここなら待ち伏せて、急襲できるでしょう」
     灼滅者たちは頷いた。しかし、典は困った顔で。
    「とはいえ、すすきのは、日本有数の歓楽街なので……」
    「わかった。アタシ人払いのお手伝いをするわ。工事中のふりとかどう?」
     湖太郎が考えながら言うと、
    「はい、そうしてもらえると助かります。ただ、大勢で隠れていると気づかれてしまう可能性がありますので、本隊とは少し距離をおくようにして下さい」
     典は頭を下げた。
    「萌々香さんが決定的な事件を起こす前に……シャボリーヌの勢力を削ぐためにも、どうぞよろしくお願いします」


    参加者
    艶川・寵子(慾・d00025)
    風間・薫(似て非なる愚沌・d01068)
    咲宮・律花(花焔の旋律・d07319)
    天瀬・麒麟(中学生サウンドソルジャー・d14035)
    秋山・清美(お茶汲み委員長・d15451)
    天原・京香(信じるものを守る少女・d24476)
    アガーテ・ゼット(光合成・d26080)
    イルミア・エリオウス(ふぁいあぶらっど・d29065)

    ■リプレイ

    ●夜更けのすすきの、裏通り
    「深夜にこう……皆がセーラー服とかやと、変なお店に来てもうた……そんな気分や」
     風間・薫(似て非なる愚沌・d01068)がボソリと呟くと、
    「ちょっと怪しい雰囲気でドキドキだけど……セーラー服って普段着だよね?」
     イルミア・エリオウス(ふぁいあぶらっど・d29065)が首を傾げた。
    「学校に行けばいっぱい着てる人いるのに、こんなので商売が成り立つって、よくわかんない」
    「そうよねえ」
     素朴な疑問に頷いたのは天原・京香(信じるものを守る少女・d24476)。
    「私も、すすきのが大人の世界? ってあたりから全く意味がわからないのよ。コスプレはともかく」
     彼女はツンデレオクテではあるが、密かにコスプレは好物なのである。今夜のセーラー服も、普段着ている制服ではなく、コスプレ用の丈の短い物を用意した。
    「なんにしろ、こういう場所も、今回のターゲットも……不潔です」
     厳しい表情でメガネを光らせたのは秋山・清美(お茶汲み委員長・d15451)。生真面目で潔癖な優等生の彼女としては、色町自体に少々の嫌悪感がある。
     アガーテ・ゼット(光合成・d26080)は後輩たちの意見に耳を傾けつつも、
    「(個人的には、歓楽街で働く女の人は、強くて尊敬できると思うわ……)」
     女の人生について思いを巡らせる。
    「一番わからないのはさ」
     イルミアはますます首を傾げて。
    「皆がセーラー服着てるってことだけど……いや、作戦のためだってのはわかってるけどね」
     灼滅者たちは今夜のターゲットを待ち伏せて、すすきのの裏通りに潜んでいた。作戦決行地に面した雑居ビルの裏口が半地下なので、そこに下りる階段にぎゅうぎゅう詰めで身を隠している。
     主にセーラー服で。
     夜半近くとはいえさすがすすきの、表通りからはまだ喧噪が響いてくるが、この裏通りはたまに帰宅を急ぐ人や酔っぱらいが通り過ぎるだけで、閑散としている。
     その人通りも先ほどから途絶えたところを見ると、サポート隊の緊急工事の偽装が効果を発揮しているのだろう。
    「ああら、特殊ぷれいみたいでとっても素敵じゃない。セーラー服には夢と浪漫が詰まっているのよ」
     セーラー服作戦に萌えたぎっているのは艶川・寵子(慾・d00025)。
    「特に卒業生のセーラー服なんてレアよねえ。みんなの艶姿はハートのHDDにしかと刻んでおくわ!」
     寵子本人も久しぶりに高校制服を引っ張り出し、ヘアもポニーテイルに結い上げ、ノリノリだ。
    「わたしもこの高等部の、禁欲的な黒セーラー服が大好物なの。同じ制服なのに、みんなそれぞれ魅力的になっちゃうところが本当に素敵!」
    「ん、まあね……」
     咲宮・律花(花焔の旋律・d07319)は自分のセーラー服姿を見下ろして苦笑した。
    「在学中すらまともに着たことなかったんだけどねえ」
     確かに彼女の高校制服は全然痛んでいない。
     薫は愛犬を抱き上げて、
    「うちには制服の魅力はようわからんけど、小春がかわいいからええかなって」
     小春は主の代役として(?)セーラー服着用である。うん、かわいいかわいい、と皆が誉めそやし、ちょっといい気分になった薫は、
    「ちょっと写メっとこかー。小春こっち向いて」
     スマホの画面には、上目遣いでしっぽを振る小春。
     ひそひそとはしゃぐ先輩たちをぼんやりと見やり、天瀬・麒麟(中学生サウンドソルジャー・d14035)が呟く。
    「制服でこんな街うろついてたら、補導とかされちゃいそう。おまわりさんにも気をつけなきゃ……」
     彼女は武蔵坂の中等部の制服である。メンバーには一応18歳以上もいるし、バベルの鎖もあるし、まあ大丈夫だろう……と。
     カツカツ、と早足の足音が近づいてくるのが聞こえた。
     何者かがやってくる。
     サポート隊の偽装工事現場をすり抜け、しかも『秘密のセーラー学園☆』のある方角から……ということは。
     灼滅者たちは口を閉じ、そっと階段から顔を出して足音の方を見つめた。
    「(……来た!)」
     薄暗い街灯の下でも、ターゲットだということがわかった。だって4月の北海道だというのに、白の半袖夏セーラーに、パンツ見えそうな超ミニスカート。
     素早く薫が殺界形成を、イルミアがサウンドシャッターをかけると、皆は頷き交わし、スレイヤーカードに触れ、次々と隠れ場所を飛び出した。
     一斉に近づく人影に向けて、懐中電灯やランタンを点灯する。
    「きゃ……なに!?」
     眩しさにターゲットの足が止まった。
     薫が、セーラー服犬を引き連れて一歩踏みだし。
    「萌々香はんやな……あんたの心の闇、弔いに来ました」

    ●偽装工事現場
     その頃サポート隊は。
    「すいません、工事中なんで回り道をお願いします」
      『緊急工事中』の看板に向かって突き進んできたオッサンを、ヘルメットを目深に被った富山・良太(復興型ご当地ヒーロー・d18057)が、立ちふさがって退けようとしていた。
    「ええ-、めんどくさいな、通らせてよう~」
     オッサンは酔っ払いらしく、強引に工事用バリケードをすり抜けようとする。
     それを見て、竹尾・登(ムートアントグンター・d13258)はそっと殺界形成を発動し、
    「水道工事中なので、ご協力お願いします」
     更に強めに指示を出すと、オッサンはぶつぶつ言いながらも、後退っていった。
     その時、偽装工事現場の内側で、黒鳥・湖太郎(黒鳥の魔法使い・dn0097)のスマホが1回だけ鳴った。本隊の律花からの、萌々香との接触を知らせるワン切りである。
    「じゃあオレたち本隊の手伝いに行くから、後は頼んだよ」
    「ああ、ここは任せろ」
     武蔵坂の高校制服を警備員風に着こなした石田・まる(高校生デモノイドヒューマン・d34151)が頷いた。
    「本体でもESPを使っているし、僕らも確認しながら行くけれど、ここが一番人通りが多いから、よろしく頼むね」
    「うむ、戦闘が終わるまでは、何人たりとも通しはしない」
     早速警戒を始めたまるを残し、3人は本隊のサポートに入るべく駆けだした。

    ●セーラー服バトル
     裏通りでは、セーラー服だらけのバトルが始まっていた。
     京香が暗い裏通りに子守歌を響かせる中、
    「人の趣味にとやかく言うつもりはありませんが『分』はわきまえた方がいいと思いますッ!」
     清美が『初心者用ローラーシューズ』に炎を纏って突っ込むと、
    「何ですって、この小娘、ソレどういう意味よ!」
     超ミニスカートを翻し、萌々香はダンスのステップで前衛を次々蹴り倒していく。
    「っと、そうはさせないよ! ゴー、マールート!」
     イルミアは剣に炎を纏わせて飛び出すと、律花をかばいつつ、キャリバーに援護射撃を命じる。
    「ありがとう、イルミア!」
     律花はイルミアの陰から飛び出すと、
    「本当に意味がわからないの?」
     四捨五入すると三十の淫魔に、悲しい視線を送りつつ、
    「大学生の私でさえ少し無理があるのに……」
     縛霊手で押さえつけた。
    「まあ、確かにちょっと苦しい、かなー?」
     アガーテに回復を受けながらイルミアも邪気のない様子で頷き、
    「ん、セーラー服はおばさんが着ても似合わないよね」
     麒麟が胸に突き刺さる台詞を吐きながらチェーンソーで斬りつけると、
    「誰がおばさんですってぇ!」
     萌々香は縛霊手とチェーンソーを振り払って起きあがった。綺麗なストレートロングの黒髪が逆立っている。
    「本当の女子高生より、演技力で、私の方がずっとセクシーで可愛く見せてるわよッ」
     麒麟に向けて恥じらいのかけらもなく、大きく脚を開いて跳び蹴りを放った。パンチラというより、モロパン、しかも白にいちご模様である。
    「パンチラがどうしたあぁ!」
     パンツを間近に見せられながら、果敢に体を張って受け止めたのは、薫。
    「小春の腹チラの方が、よっぽどぐっと来るわ!」
     見れば、小春が腹を見せて愛想を振りまいているではないか。きゅんきゅん。
    「本当ね、小春の方が似合ってるわよ、可愛いもの!」
     律花が囃し立て、アガーテも、私たちの方が年齢的にまだ許されるわよ、的にセーラー服を見せつけるようにポーズを作る……と、その時。
    「ひ、ひいっ、いったい何ですかッ!?」
     突然男性のひきつった声が。
     見れば、先ほど隠れていた雑居ビルの裏口に、サラリーマンとおぼしきスーツ姿の男性が。
    「しまった、まだ残っていたのね」
     残業か何かで居残っていたところに、殺界形成が効いてきて、無性にビルから立ち去りたくなってしまったのだろう。たまたま近くにいたゆえの不運だ。
     寵子は立ちすくむ男性に駆け寄り、素早く王者の風をかけた。
    「ごめんなさい、速やかに立ち去って下さらない?」
     男性はこくこくと頷くが、怯えて動けない。運んであげるしかないかしら、と思ったところに。
    「待って!」
    「その人はオレたちに任せて」
     タイミングよくサポート隊がやってきた。良太はビハインドの中君を引き連れ、登はダルマ仮面に騎乗している。それから……。
    「どっせーいっ……と。あら、つい男になっちゃったわ、オホホ」
     武蔵坂高等部のセーラー服姿の湖太郎は、軽々と男性を担ぎ上げ、良太と登は盾になって男性を守る。男性は巨大セーラーオネエに驚愕しているようだが、頓着している場合ではない。
    「よろしくお願いします!」
     クラブの仲間への清美の声に送られて、サポート隊は一般人を連れて走り去った。
     寵子が戦闘に戻ると、
    「どうりゃああああ!」
     一応可愛い女子高生風の見た目に似合わないダミ声を上げて、またパンツを見せながら、萌々香が竜巻のような回し蹴りを前衛に喰らわせていた。悪口で引きつけていたので、萌々香の方は、一般人を一顧だにしなかったようなのは幸いだった。
     前衛は蹴り倒されてしまったが、すぐにアガーテの交通標識の黄色い光と、清美のナノナノ・サムのハートが浴びせかけられ、ゆらりと麒麟が立ち上がって。
    「それが女子高生の演技なの? きりん、そんな女子高生になりたくないよ!」
     チェーンソーを振り回してセーラー服を切り裂き、
    「パンチラも下品すぎるわ、そういうのは見栄そうで見えないのがいいらしいわよ!」
     律花が眠りを誘う護符を投げつけると、京香も下品なパンチラにイラっとした様子で『金陽の咆哮』を連射した。
    「く……」
     猛攻を受け、萌々香はじりりと退がり、
    「そ、そうだわ、こんなガキ共の相手してる場合じゃないのよ……アリエル様とすすきのの夜に君臨するんだから……」
     灼滅者たちを一渡り睨めつけると、びしっと清美を指し、
    「すすきのは小学生がくるとこじゃないわよ!」
    「しょ、小学生と言いましたかっ!?」
     小学生よばわりは清美の怒りのツボなのだ。清美は縛霊手にめらめらと怒りの炎を纏わせ突き出したが、萌々香はそれをひょいと避けて、包囲を突破しようとした。
     しかし。
    「通さないわよ!」
     そこにはアガーテが赤い標識を構えて仁王立ちで待っていた。
     ガッチーン!
     アガーテのレッドストライクと、萌々香のキックは相打ちになったが、素早く薫が萌々香を背中から縛霊手で抑え込んで。
    「ガキ共から逃げ出すなんて、あんたのナンバーワンの誇りはそんなもんかい!」
    「う……うるさいわねッ」
     もがく萌々香に薫は畳みかける。
    「言っておくけどあんたに声かけた女……アリエルか? 大勢の女の人に声かけてるからな」
    「し、知ってるわよっ、SKN六六六ってグループを作るんでしょ?」
     萌々香は力付くで縛霊手を振り払い、
    「ええいこうなったら、あんた達を始末して、SKNのセンターに上り詰めてみせるわ!」
     憎々しげに言い放ったが、逆上して隙だらけのターゲットを灼滅者たちが見逃すはずがない。蹴られたアガーテには、サムがハートを一生懸命飛ばしている。
    「ほいっと、燃やしちゃうよー♪」
     イルミアが縛霊手に炎を宿らせて殴りかかり、麒麟は、
    「もうすっかり淫魔なんだし……似合わないセーラー服にこだわるのやめたら? 自分では似合ってるつもりなの?」
     尽きぬ毒舌とともに槍から氷の弾丸を見舞う。萌々香の闇堕ち事情にはちょっとは同情しているが、やっぱり淫魔は大嫌いだ。
    「自分の限界を認めるのも大事なことよ?」
     律花の影が絡みつくと、
    「当ててイクわよ?」
     寵子が槍を捻りこみ、京香が、
    「コスプレはともかく、人に迷惑をかけるのを許しておくわけにいかないわ!」
     ガトリングガンから大量の爆炎弾を撃ち込んだ。
     萌々香は影をふりほどいたが、
    「ま……負けるもんですか、ナンバーワンの意地を見せてやろうじゃないの」
     繰り出されたパンチラキックは弱々しく、薫はたやすくひょいと避けると、目を細めて萌々香を見下ろし。
    「安易に入り込むダークネスの闇……ほんま油断できひんなあ。これはあんたのツケや!」
     ビルの壁面を勢いをつけて駆け上がり、流星のような跳び蹴りを放った。
    「ぐあっ……!」
     蹴りによろめくターゲットに、灼滅者たちは一気に攻勢をかけていく。
    「驕り高ぶった人に先はありません!」
     清美は炎をまとった蹴りで畳みかけ、イルミアの影の刃がセーラー服を切り裂く。律花の掌から炎が迸ると、寵子の鬼の拳が殴りつけ、京香が狙い定めて『Reine malicieuse』から魔法光線を撃ち込んだ。丈の短いセーラー服の上着から、背中がチラチラ見えている。
     勝負処と見て、メディックのアガーテも死角を狙って切り込んだ。萌々香の生き方にも、アリエルの在り方にも文句を言うつもりはないが、一般人を脅かすのは許せない。
    「う……うぐぐ……」
     アスファルトの上に倒れ、ミニスカートの裾を乱して悶える萌々香を、麒麟が冷めた目で見下ろした。
    「きりんは明日も学校あるし、制服汚されると困るけど、おばさんはニセモノだからいいよね?」
     チェーンソー剣のスイッチを入れ。
    「おばさん淫魔なんて、死んじゃえ!」
     高速回転する刃が、容赦なくターゲットを切り刻み――。
     ぎゃああああぁぁぁ……。
     セーラー服は血にまみれ、そしてすすきのの夜に消えていった。
     麒麟は、消えていく敵を見つめて。
    「……ん、大好きなセーラー服のまま死ねてよかったね」
     薫も彼女の頭越しに、淫魔の痕跡を見下ろし。
    「自分の運命を呪いたければ呪えばいい。けどあんたが選んだ道や。悔先に立たず……やで」
     別れの言葉をそっと呟いた。 

    ●良い子はお家に帰りましょう
    「……ふう、疲れたわ」
     薫が道路にしゃがみこんで、一旦息を吐いたが、
    「あ、でもせっかくの札幌やし、蟹食べたい蟹!」
     パッと笑顔になって提案すると、
    「薫さん」
     清美がこめかみに青筋の立った笑顔で。
    「早く帰りましょう。ここは学生がいて良い場所ではありませんので」
    「え……いやまあ、そうやけど……」
     薫は後輩の迫力にたじたじになり、それを見ていた麒麟は猥雑な裏道を見回して。
    「こういう場所があるから、淫魔になる人がいっぱい出ちゃうのかな……」
     いっそ全部なくしちゃった方がいいのかも、と思いながら呟いた。
    「あ、帰る前に、偽装工事の撤収をしなければいけないわね」
     律花がセーラー服の上にコートを羽織りながら皆を気づかせた。もうサポート隊が始めている頃だろうが。
    「あら律花、もうコート着ちゃうの」
     寵子が慌ててスマホを取り出した。
    「だってこのままじゃ、何か勘違いされちゃいそうでしょう?」
    「せっかくだから、セーラー服で記念写真撮りましょうよ」
    「いいわね!」
     コスプレ好きの京香がつい食いつき、
    「え、早く帰らないと……」
     生真面目な清美は焦るが、すぐ終わるわよ、と言いくるめられる。
    「小春も入ろうな~。後で写メも引き延ばしたるし」
     皆が集まり、薫が小春を抱き上げると、
    「本当に小春の方が可愛いわ……」
     律花がアップでセーラー犬をニコニコして写メった。
    「さあ、撮るわよ~」
     寵子が自撮り棒をめいっぱい伸ばし、皆がセーラー襟やリボンを整え、顔を寄せる。
    「みんな、笑顔でね。素敵な思い出になるわよ!」
     パシャリ☆

    作者:小鳥遊ちどり 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2015年4月27日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 4
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