笑う爆弾:エアポート、コインロッカー、そして爆弾

    ●那覇空港にて
    「一口に空港と言っても広いのう」
     雛本・裕介(早熟の雛・d12706)は、年齢に似合わぬ貫禄のある動作で、那覇空港3階の混雑するチェックインロビーを見回した。
     先日スマイルイーターと国際通りで接触した彼は、爆弾の行方がどうしても気になり、再び沖縄を訪れた。
    「観光客が必ず使うことになる空港に仕掛けられているのではないか?」
     その疑念から、1階の到着ロビーから爆弾探しを始め、3階まで上ってきたところだ……と、その時。
    「ねえ、変な人いたよね」
     コインロッカー室から出てきた若い女性たちの会話が、裕介の琴線に触れた。
    「え? 気づかなかった」
    「奥に変な男いたじゃん!」
    「いたぁ? ま、いいじゃん、そんなの気にしないで、お土産選びとご飯、行こうよ」
    「ん~、ま、いっか。飛行機の時間まで、残り少ない沖縄滞在をめいっぱい楽しむか!」
     女性たちは笑いさざめきながら去り、裕介はそっとコインロッカー室に足を踏み入れた。『室』とは言っても、薄い壁でロビーと隔てられただけの細長い小部屋である。中には大小50個ほどのロッカーの扉がずらりと並んでおり、その最奥に……。
    「(確かに誰かおる……)」
     ロッカーと壁の隙間に挟まるように、男が1人、膝を抱えて座り込んでいる。その男の周囲だけ、影が落ちているかのように暗い。
     気分が悪いのか、とでも声をかけてみるかと裕介は用心深く男に近づいた……が、すぐにギクリと足を止めた。
     男はやせ細り、垢じみたみすぼらしい服を着ていた。血走った目がギラギラと光り、ぶつぶつと何事かを呟いている。
     裕介の足を止めさせたのは、その異様な風体だけではなく、よれよれのTシャツの袖に『KSD』のロゴを認めたからだし、何より男の呟きが。
    「……どいつもこいつも楽しそうに笑っちゃって気持ち悪い気持ち悪いってスマイルイーター様も言ってるだから全員爆破で粉々バラバラズタズタ俺は爆弾守る守る守るスマイルイーター様の命令ロッカーの爆弾を守る何日でも何週間でも何年こんな俺に仕事をくれてありがとうありが……」
     裕介は後ずさりして小部屋を出た。スマイルイーターの爆弾がロッカーのどれかに入っており、そしてあの男……おそらくダークネス……がその護衛をしているらしいとは察せられたが、1人で解決するのは無理だと判断したのだ。
    「こうなっては、一刻も早く学園に帰って……」
     裕介は東京へとんぼ返りするチケットを確保すべく、駆けだした。
     
    ●武蔵坂学園
     裕介が帰京するのと時を同じくして、武蔵坂学園には続々とスマイルイーターの爆弾の情報が入っていた。
    「ついに全ての爆弾の場所が特定されました。これでやっと撤去作業が行えます」
     春祭・典(高校生エクスブレイン・dn0058)は集った灼滅者たちに、
    「皆さんには、裕介さんが見つけてきてくれた、那覇空港の爆弾を撤去して頂きます」
     空港の爆弾は、3階チェックインロビー隅のコインロッカー室にある。
    「どのロッカーに入っているかまでは判っていません。鍵は爆弾の護衛の男が持っていると思われますので、まずこの男を倒して鍵を奪わなければなりません」
     男は六六六人衆だ。
    「彼は筺尾護。元々は笑顔が似合う若者だったようですが、HKT六六六にスカウトされた後、スマイルイーターによって徹底的に甚振られ心を折られて、笑顔を永久に失ってしまいました。この場の護衛は彼のみですが、それなりに戦闘力はあるようですし、なによりスマイルイーターへの忠誠心が強いです」
     では具体的な作戦内容を、と典はタブレットで那覇空港の見取り図を開いた。
    「件のコインロッカー室はここです。室内に一般人がいなくなったタイミングを見計らって突入する……のは良いのですが、ロッカー室のすぐ外のロビーには、当然ながら一般人が大勢います」
     典は難しい顔で、
    「今回の作戦は、各所一斉に開始します。5月8日の午後15時頃、この時間がスマイルイーターに襲撃を事前察知されないタイミングなんです」
     スマイルイーターに事前察知されると、爆弾を作動されてしまう恐れがある。
    「その可能性を考えると、一般人の多い場所ですが、事前に避難などの行動を取ることはできません」
     つまり、一般人の避難は、護との接触と同時、もしくは直前にしか始められないということだ。工夫と分担が必要であろう。
    「ただ不幸中の幸い、と言いますか、護はスマイルイーターの命令がなければ爆弾を作動させることはありませんので、戦闘中は爆弾のことを心配しなくて済みます」
     少なくとも戦闘中に一般人を吹き飛ばされたりすることは無さそうである。
     尚、爆弾を確保したら周囲に人のいない場所(海など)まで運んで、爆破させること。一般人向けの爆弾なので、至近で処理しても灼滅者にダメージは無い。
     早速話し合いを始めた灼滅者たちに向かって、典は頭を下げた。
    「難しい作業になりますが、策略の根幹である爆弾を撤去できれば、KSDの壊滅作戦を行えます。沖縄の人々の笑顔を守るため、どうかよろしくお願いします!」


    参加者
    久篠・織兎(糸の輪世継ぎ・d02057)
    犬塚・沙雪(黒炎の道化師・d02462)
    音鳴・昴(ダウンビート・d03592)
    天月・一葉(血染めの白薔薇・d06508)
    リリアナ・エイジスタ(オーロラカーテン・d07305)
    廿楽・燈(花謡の旋律・d08173)
    雛本・裕介(早熟の雛・d12706)
    東堂・八千華(チアフルバニー・d17397)

    ■リプレイ

    ●3階ロビー
    「……ったく、灼滅者だからって何でも出来るって訳じゃねーんだけど」
     音鳴・昴(ダウンビート・d03592)がだるそうに呟いた。
     6人の灼滅者たちは、件のコインロッカー室を見守ることのできる片隅のベンチに座っている。オンシーズンに入った那覇空港には、人々の楽しげな笑顔が溢れていた。
    「こんな人の多いとこで爆弾処理とか、何やらせんだよ……めんどくせー」
     確かに大変だけどっ、とリリアナ・エイジスタ(オーロラカーテン・d07305)が両の拳を握り、
    「ようやくスマイルイーターに反撃開始なんだから、がんばろっ」
     スマホをいじっていた犬塚・沙雪(黒炎の道化師・d02462)が顔を上げ、
    「うん、ヤツの思惑など潰してやるさ」
     決意を込めて宣言した。
     東堂・八千華(チアフルバニー・d17397)がインカムに耳を澄ます。
    「他班も準備が整ったみたいだよ」
     作戦決行時刻の15時が近づいている。折しもロッカー室から、夫婦らしい男女が身軽になって出てきた。腕を組み楽しそうに笑顔を交わす様子からすると、奥の暗がりに巣くう陰鬱な男の存在には気づかなかったようだ。
     灼滅者たちは無言で頷き交わし、ロッカー室に近づいていく。中に一般人はいない。ただ、室の奥から圧倒されそうな禍々しい気配が。
     廿楽・燈(花謡の旋律・d08173)がロビー壁面の大きな時計を見上げた。
    「15時ジャスト……行動開始の時間だよ」
     タイミングも良さそうだ。天月・一葉(血染めの白薔薇・d06508)が、避難誘導班に素早く作戦開始を知らせる。
     濃厚な黒い気配をかきわけるようして、灼滅者たちはロッカー室へと足を踏み入れた。
     燈が殺界形成を発動すると、昴は素早く入り口に『KEEP OUT』の黄色いテープを張った。続いて沙雪がサウンドシャッターをかけ仮面を装着した。
    「……ハコオさん?」
    「Hi、君の役割終えに来たよ。爆弾の鍵ちょうだい」
     八千華とリリアナが室の奥に声をかけると、うっそりと顔を上げる男の気配がした。

    ●警備員詰め所
     一方作戦開始の連絡をうけた久篠・織兎(糸の輪世継ぎ・d02057)は、
    「よ~し、超行くぞ~!」
     3階の警備員詰め所に飛び込んで。
    「大変です、爆弾らしきものが、この階のコインロッカーで見つかったらしいです!」
     おっとりした彼的には精一杯の緊迫感を漲らせて叫ぶと、詰め所にいた2人の警備員は顔をひきつらせ、立ち上がった。
    「何っ? ……ところでお前は?」
    「今日から配属された新人ですっ。急いで客を階下に避難させましょう!」
    「いや、その前に警備部長に連絡だ。空港警察にも」
     警備員の1人が直通らしい固定電話に手を伸ばしたのを、
    「あっ、それは俺……自分にさせてくださいッ」
     織兎は慌ててその手を押し止めた。
    「電話連絡は新米の自分でもできます。先輩たちは避難誘導を」
    「分かった、ここは頼む。連絡が取れたら、上からの指示を伝えろ!」
    「了解っ」
     警備員たちは厳しい顔で走り去った。敬礼しつつ彼らを見送った織兎は、電話に視線を戻して、はぁ~っと息を吐く。
    「(ヤバかったあ~、そりゃ空港ともなると、まずは上司や警察に連絡するよね~)」
     何しろ重要施設であるから、下手に『爆弾発見』の情報が回ったら、場内や警察だけでなく、市や県、果ては国をも揺るがす事態になったかもしれない。
     ふと壁面のモニターに目をやると、件のロッカー室で、仲間たちが陰気そうな青年を包囲しているのが映し出されていた。

    ●ロビー
     織兎の仕掛けで警備員たちが『危険物が発見された』と、昇降客たちに避難を呼びかけはじめた時、雛本・裕介(早熟の雛・d12706)はロビーで待機していた。
     ざわめきが起こり、多くの乗降客たちが下りエスカレーターへと粛々と移動しはじめた。各持ち場にいた警備員たちも、そこかしこで誘導を始めている。
     非常時にも冷静に行動できるのは、日本人の美点じゃな……と裕介が辺りを見回すと、避難指示が耳に入っていない様子で、はしゃぎまくっている若い男性の一団があった。
    「裏返せば、危機意識に乏しいということか」
     裕介は足早に彼らに近づくと、パニックテレパスを発動した。

    ●ロッカー室
     ロッカー室では戦闘が始まっていた。
     素早く盾を展開して一葉が前衛の守りを固め、
    「貫く!」
     沙雪が槍を捻り込む。
    「(突入班だけで倒せる?)」
     げっそりとこけた頬、骨と皮ばかりの手足、垢じみた身なり……六六六人衆とはいえ筺尾護の見かけは弱々しい。しかし、
     ギイィンッ。
     槍の穂先は分厚いサバイバルナイフの刃に受け止められ、
    「渡さない爆弾渡さない爆弾わた……」
     きしむような声が呟き、槍を押し戻す。歴戦の戦士の雰囲気を漂わせた沙雪は、そこまで甘くはないか、と悔しそうに穂を引き、
    「(油断せず、倒す気概でいこう!)」
     沙雪の心の声が聞こえたかのように、燈が彼の陰から飛び出して鬼の拳を、リリアナが、
    「……やっぱ簡単にはいなないよねっ」
     炎を見舞う。昴が子守歌を響かせ、八千華が更に前衛の防御を高めるべく、標識を黄色に輝かせた……その時。
     インカムに織兎の声が。
    『昴くん~、避難の手伝いお願い~!』
     その声に一瞬気を取られた瞬間。
     ズアァッ!
     護のナイフから放たれた毒の竜巻が、前衛を襲った。
    「行ってください昴さん、人命が最優先です!!」
     かろうじて八千華の愛猫・九に庇われた一葉が、シールドを振りかざしながら叫んだ。
    「くっ……すぐ戻る。ましろ、皆を守れ!」
     霊犬に後を託し、それでも後ろ髪を引かれつつ、昴は『KEEP OUT』のテープを跳び越えた。

    ●ロビー
     避難は何とか進んではいたが、大荷物の人々が一斉に移動しているので、そこかしこで人の流れの滞留が起きてしまっていた。パニックテレパスによる小さな混乱も起きている。特にエスカレーター付近がひどい。
     警備員に立ち混じり、織兎が、
    「落ち着いて~、避難してください~」
     声をからして誘導しており、裕介はESPの効き過ぎてしまった人々を宥めたり支えたり、何とか避難の流れに乗せようとしている。
     昴はプラチナチケットを発動すると、織兎と同じく新入りのふりをして『職員用の階段も使ってもらったらどうか』と進言した。予め避難経路は確認してある。その提案は採用され、昴も誘導に加わった。ルートが2経路になったことで、避難は多少なりともスムーズに進むようになった。

    ●ロッカー室
     その頃、ロッカー室では思わぬ椿事が起こっていた。
    「……ひっ!?」
     護と睨みあっていた灼滅者たちは、悲鳴のような声に振り向いた。小太りの中年男性がロッカー室の入り口に立ちすくんでいる。
    「来ないで、ここは危ないんだよっ」
     リリアナと八千華が慌てて男性を遠ざけようとするが、
    「ろ、ロッカーに大事なものが……危険物処理とやらが始まる前に出させてくれ」
     男性は黄色いテープを破る勢いで強引に入ってこようとする。殺界形成の圧力に負けずにやってきたのだから、相当大事な、あるいは高価な物か。
     当然ながら、今一般人をロッカー室に入れることなどできはしない。リリアナは咄嗟に魂鎮めの風を発動し、男性を眠らせた。八千華が九にカバーを命じると、怪力無双をで男性を運びだそうとしたが、そこにロビーから裕介が駆けつけてきた。
    「儂が運ぼう」
     男性を軽々と背負い、エスカレーター方面へと駆け出した。
     八千華とリリアナはその後ろ姿に、お願い! と声をかけると、ターゲットへと注意を戻した……その途端。
    「今の奴も爆弾を奪いに来たのかッ!?」
     病的に顔をひきつらせた護が、ナイフを振り上げて2人に飛びかかってきた。
    「渡さないスマイルイーター様の爆弾絶対渡さな……」
     ザクリ。
     八千華の肩から血が飛沫く。
    「何すんのさっ!」
     リリアナが脇から炎をまとったエアシューズで護を蹴りつけ、八千華から引きはがす。
    「犬夜さん、八千華さんを!」
     一葉が愛犬に回復を命じながら、足を狙って斬りつけ、
    「皆が揃うまであと少しのはず、頑張ろう!」
     沙雪が非物質化した『スカーレットソード』を、滅びかけの魂に突き刺す。燈も足を狙って刃をひらめかせた……が。
     護はジャンプでそれをかわすと、入り口付近のロッカーをガッと蹴って勢いをつけ、ナイフの切っ先に体重を乗せ、燈に突き刺そうとする。燈は自分が傷つくことには頓着せず、負けじと『鳴剱』を振りかざして真っ向から受け止めようと……。
    「燈ちゃんっ!」
    「一葉おねーちゃん!?」
     2本の刃の間に身を入れたのは一葉。六六六人衆の刃を受けつつ、義妹に背中を向けたまま囁く。
    「無茶しないでください……」
     沙雪が入り口を背にして掌から炎を迸らせ、リリアナも鬼の拳を振るって護を退がらせる。回復成った八千華は、ガトリングガンの連射で、室の奥へと釘付けにする。
     義妹に代わって血を流す一葉には、霊犬たちがカバーに入り、回復を施している……が。
     ズワアアアァッ。
     護の全身からわき出た黒い霧が前衛を包み込む。
    「くっ……」
     悪気に滲みる視界の中、濁った瞳は相変わらずギラギラと光っており、
    「守る爆弾守る帰れお前ら帰れ帰らないと殺す殺すころ……」
     切れ目のない呟きも続いている。
     敵をロッカー室に釘付けにし、体力を削ることは出来ている。しかし見すぼらしくともそこは六六六人衆、こちらのダメージも小さくない。霊犬たちも必死に頑張ってはいるが、カバーと回復で精一杯だ。
    「(このまま5人の状態が長引くと……)」
     灼滅者たちの胸に、不安が過ぎった時。
     ザシュッ!
     護のナイフを操る右腕に、鋼と化した帯が突き刺さった。裕介の『FUNDOSHI・極』だ。
    「スマイルイーターを追いつめる一手、無駄にはできぬ!」
     気合いの一撃によって作られた一瞬の隙に、もう1本のダイダロスベルトが左腕に突き刺さる。こちらの帯の主は昴だ。そして、
    「みんな~、大丈夫か~、回復いくぞ~!」
     織兎が交通標識を黄色に輝かせた。
     避難誘導班が帰ってきた!
    「避難が済んだんだね!?」
     八千華が喜びを露わに訊ねたが、織兎は若干顔をしかめ、
    「うん、一応済んだけど、警備の人とかが、やっぱおかしいな~って気づくの時間の問題だから、急いで始末しよ~」
    「ああ、全員が揃って数も有利だ。俺たちが強い!」
     沙雪が言い放ち、灼滅者たちは気合いを入れ直して敵を包囲する。しかし護も隙のない構えで両手のナイフを構え、
    「殺す全員殺す守る爆弾守る殺して守る爆弾絶対まも……」
     呪いの言葉を吐き続けている。すると、
    「わかりました」
     一葉が突然向き直ると、手近にあるロッカーに手をかけ、
    「ロッカーを片っ端から壊して、爆弾を探した方が早そうですね」
     これ見よがしに乱暴に揺すぶった。
    「そっそそそんなことさせない爆弾守る俺守る絶対渡さない!」
     挑発に乗った護は、血走った目をカッと開け、襲いかかった。一葉は右手の刃は何とかかわしたが、そこには左手の刃が待っていて。
    「い……一葉おねえちゃんッ!」
     燈が、大切な義姉に襲いかかっている敵の背中に、無我夢中で殴りかかった。一瞬呆然としていた仲間たちも、一葉の策略に気づき一斉にとびかかる。沙雪は『紅蜂』で突っ込んでいき、裕介は魔力を宿したロッドで殴りつけ、傷ついた仲間から引き離す。
    「爆弾を守りたかったら、正々堂々とボクたちを倒すがいい!」
     リリアナが派手に炎を蹴り込んだ。
    「君の戦い方、華麗じゃないし楽しくないよっ!」
     続けて八千華が爆炎弾を撃ち込んで炎を畳みかけ、一葉は回復を受けつつ、サイキックソードを杖にし立ち上がろうとしたが、
    「回復するまで下がってろ!」
     昴がそれを押しとどめ、歌声を響かせた。ぶっきらぼうな物言いだが、ここまでかなりのダメージを受けている彼女を心配しての言葉だ。
    「そうだよ、もうちょっと待って~」
     織兎も必死に癒しの光輪を送りながら、
    「まーまれーど、一葉ちゃんの分まで頑張れ! 受けた分は回復してやるから動け~!」
     最前衛にいる愛機に檄を飛ばす。
     全員揃っての集中攻撃には、さしもの六六六人衆もよろめいて後退った。室の最奥に追いつめられた護は、
    「守らなきゃ俺爆弾こいつら殺して守る俺まも……」
     息を切らせながらナイフを振り上げた。そこから黒い霧が滲み出て、彼自身を包み込み始める。
    「ぬ、回復か……させぬ!」
     いち早く気づいた裕介の鋼の帯が、振り上げたナイフを持つ手を弾いた。
     ガキンッ。
     呟きが途切れ、護は右手のナイフを取り落とした。
    「一気にいっちゃおうよ!」
     義姉の深手でキレ気味の燈が、鬼の拳を握って飛びかかったのを皮切りに、灼滅者たちは最後の猛攻に出た。八千華は漆黒の弾丸を撃ち込み、昴は鋼の帯を放出する。一葉は残り少ない体力を振り絞り、KSDロゴのTシャツを刃で裂いた。リリアナが鋼の糸に炎を宿らせて絡みつけると、織兎もここが勝負どころと見て、回復をサーヴァントたちに任せ、竜巻のような回し蹴りを見舞った。
     ガシャン!
     蹴り飛ばされた護は、再奥のロッカーに背中を強く打ち付けた。
     すかさず沙雪が槍に激しい炎を纏わせて。
    「炎一閃!」
     燃えさかる一撃を受け、護は開いた口からどろりと黒ずんだ血を吐き。
    「……ばく……まも……スマイルイ……」
     忌まわしい洗脳の解けぬまま、溶け崩れてゆく。
    「我が槍に貫けぬものなし」
     沙雪が弔いの言葉のように低く呟くと、ぽとり、と敵の残骸からロッカーキーが落ちて……その番号は666。

    ●海
     ロッカーから爆弾を回収すると、灼滅者たちはESPをフル活用し人気のない海辺まで運んできた。
    「スイッチ押した途端に爆発しない~?」
     織兎が心配そうに尋くと、昴がぶっきらぼうに。
    「やってみなきゃわからん」
     爆弾のスイッチを入れた瞬間に、一葉が怪力無双で沖へと投げるという作戦である。なるべく環境は壊したくない。
     一方、八千華は眉を顰め、壊れたスマホをいじっている。
    「何かしらデータが残ってればいいんだけど……」
     スマホは護のものだ。戦闘中に壊れてしまったが、一応持ち帰ってみる。
    「さ、準備できたよ」
     沙雪がサウンドシャッターを、燈が殺界形成をかけなおし、爆弾処理の準備はOKだ。
    「い、いきます」
     緊張の表情の一葉は、片手に乗る大きさの爆弾のスイッチを入れ、
    「ええーーいっ!」
     同時にぶん、と沖に向かって投げた……と。
     どっかあああん!
     爆弾は空中で爆発した。爆風が灼滅者たちをよろめかせる。小さな爆弾だが、かなりの威力だ。
    「空港で爆発しなくてよかった……」
     リリアナが砂浜にへたりこんだ。
    「うむ」
     キラキラと夕陽に光りつつ海に落ちる爆弾の破片を眺めながら、裕介が。
    「全ての班が、無事成功していれば良いのじゃが……」

    作者:小鳥遊ちどり 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2015年5月8日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 6/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 0
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