容赦なく照りつける陽ざしに、鮮やかな空色。
夏も間近の5月31日に、武蔵坂学園の『運動会2015』が開催される。
『運動会』とは9つの組連合にわかれ、各種競技によって得点を競いあう一大イベントだ。
開催される競技は、多種多様。
一般人の学校でも定番のものから武蔵坂学園特有のものまで、幅広く行われる。
クラスメイトや、同じ組連合の者たちと力をあわせ、たちはだかる好敵手としのぎを削る。
ただひとつの『優勝』を目指して展開される熱き戦いが、今年もまた、繰りひろげられようとしていた――。
「――というわけで。私が説明するのは『無差別対抗パフォーマンスリレー』。通常のリレーとはルールの違う、特殊競技についてだ」
運動会2015の資料を片手に、黒板の前に立った一夜崎・一夜(大学生エクスブレイン・dn0023)がルールを板書していく。
●1チーム『4人1組』で行う。
●コースはトラック2周の800メートル。
走者1人でトラック半周(200メートル)を担当。
●走者は『所属チームの特徴を表現したパフォーマンス』を行いながら、担当区間を走りきる。
(例)バスケットボール部やサッカー部なら、ドリブルをしながら。
文芸部なら頭の上に数冊の本を乗せながら等。
●参加チーム数に応じて、複数回のレースが行われる。
パフォーマンスの難度によって有利不利が出ないよう、対戦チームやコースについては調整が行われる。
(例)陸上部が出場するコース上には障害物を配置する、スタートを遅らせるなど。
●各レースの勝敗は『アンカーのゴール順位』によって決まるが、
MVPは『パフォーマンスの内容が最も素晴らしかった参加者1名』に贈られる。
●ESPやサイキックの使用、サーヴァントの同行、他参加者への妨害行動は一切禁止。
そのほか、競技の場にそぐわない行動にはペナルティを課す。
ルールを聞き終え、七湖都・さかな(終の境界・dn0116)が首をかしげる。
「……『無差別対抗』って、なに?」
「要するに、『4人1組であれば、だれとでも競技に参加できる』ということだ」
運動会の総合優勝をめざして、同じ連合員やクラスメイトと参加するも良し。
競技を楽しむことを重視して、クラブや、気のあう友達と一緒に参加するも良し。
この機会に知りあいを増やすべく、「一緒にこんなパフォーマンスをしませんか!」と広く同志を募ってみるのも手だろう。
「だが、注意してほしい事がある」
リレー中に行うパフォーマンスは、『チームの特徴を表現する』よう定められている。
特にMVPはパフォーマンスの内容が重視されるため、チームの特徴を生かしたアピールの追求は必至。
内容も、観衆が見て楽しめるよう工夫されていることが望ましい。
――レースでの勝利を目標に、スピードを極めるか。
――パフォーマンスでのMVPを狙い、アピールを重視するか。
出場チームごとに戦略を巡らせて楽しめるのが、このリレーの醍醐味だ。
「興味があるなら、親しい者たちと誘いあって参加してみてはどうだ? レースには参加できなくなるが、トラック内でチームのアシスタントや応援を行うことも可能だ。私と一緒に、競技運営の手伝いをしてくれる者も歓迎するよ」
運動会は皆とつくりあげ、楽しむものだからと告げ、一夜は学生たちにエントリーシートを配って回った。
2015年度のパフォーマンスリレーへの参加は計11チーム。
調整の結果、全4レースの開催が決まった。
●第1レース
スターターピストルを掲げ、一夜が告げる。
「【スタジオ・プラスチック】【特探戦隊タンキューズ】【武蔵坂学園宇宙部】、位置について」
パァンと銃声が鳴りわたり、真っ先に飛びだしたのは宇宙部の明彦だ。
宇宙ロケットを担ぎ表現するテーマは、『地球から月への着陸』。
「重荷を背負うのは実家の手伝いで慣れてるんだ。このまま走りきる……!」
ロケットさながらの勢いでライバルを引き離しにかかる。
「今年のテーマは『大脱走』だ!」
二番手を行くのは、スタプラの蝶胡蘭。
頭から鉄格子の檻(1.5m四方)を被り、足の生えた檻のごとくトラックを駆け抜ける。
最後に続くのは、戦隊物スーツをまとった結衣菜だ。
「一つ、未知を演奏する蝶の歌い手! 華麗なる先鋒のタンキュウイエロー!」
ビシッとポーズを決め、歌いながら疾走開始!
互いの距離を保ったまま真っ先にバトンゾーンへ踏みこんだ明彦は、切り離した二次ロケットを、亜綾へ。
「サーヴァントは出場できないけど、人形ならいいですよね」
手早く『烈光さん人形』を着陸船にくくりつけ、出走。
打ち上げに続き表現するのは、『大気圏外への離脱』だ。
間をおかず、結衣菜のバトンが戦隊服をまとった真琴へ渡り、
「二つ、風が運ぶ知性を信じて。タンキュウグリーンその1、です」
ほんわり笑顔で決めポーズ。
戦隊アイテムっぽく飾りつけたうちわをあおぎ、紙吹雪を散らしながら走りだす。
一方、蝶胡蘭は檻とバトンを手にしたまま、呆然と叫んだ。
「オリオリ……オリオリはどこだ!?」
今の己の姿について連呼しているのではない。
第2走者である部長の姿が、どこにも見当たらないのだ。
部員たちが代走者の手配を急ぐも、痛恨のタイムロス。
一番乗りでバトンゾーンに入った亜綾は、切り離したロケットとパイロット代わりの霊犬人形をぽんと撫で、
「後はよろしく頼みましたぁ」
さしだした着陸船に、ヴィントミューレが推進ユニットをドッキング。
衛星軌道上での合体を表現してみせ、
(「少しでも宇宙に対する夢を皆に伝えられたなら、勝ち負けはどうでもいいのよ」)
胸中で呟き、目的地である月を目指し、走る、走る。
「繋ぎます、絆の力……!」
「三つ、悪を挫き、弱きを守る。大自然の風タンキュウグリーンその2、見参!」
真琴の声とバトンを受け、力強くポーズを決めたのは七波。
緑と銀の煌めくテープを振りまき、ジャンプキックやパンチを繰りだしながら、宇宙部との間を詰めていく。
スタプラ・蓮の元へも、やや間をおいてバトンが届いた。
ピンと立った三角耳のカチューシャに尻尾を揺らし、
「しっぽ、楽しい」
獲物を追う警察犬らしく、伸びやかに駆けだしていく。
最後のバトンゾーンへは、探究部と宇宙部の、2チームが同時に飛びこんだ。
「四つ、叡智を愛し、護る。リーダー、タンキュウピンク見参!!」
ピンクの戦隊服に身を包んだ結衣奈が、後光をはなちながら決めポーズ!
「レッドがリーダーじゃないのか」と観衆からヤジが飛ぶも、
「ピンクも赤系だもん!」
反論しつつ、出走。
次々と怪人風のビニール風船を撃ち抜いていく。
「ミューレちゃん!」
希紗の呼び声に頷き、ヴィントミューレは着陸船を託す。
「みんなの想いと一緒に、月へ行くよ!」
声にし、着陸船を手にした希紗が走りだす。
続く蓮の視界にも、ようやく逃げだした囚人・美咲が見え始めた。
そのままの勢いで、お尻に向かってどーんとアタック!
がぶり噛みつくようにバトンを渡せば、囚人は手枷、足枷に苦心しつつも猛ダッシュ!
一方、すでに走り終えたタンキューズイエローとグリーンの2人は、ゴール手前で待機していた。
最後の風船を撃ち終えたピンクと合流し、並び立つ。
「絆が紡ぐ力がやがて叡智となり、闇を祓う!」
声に合わせ、バズーカを構えた4人が決めポーズ。
「「「「タンキュウバスターブレイカー!!!」」」」
声とともに特大花火が打ちあげられ、運動場の上空に華が咲く。
喝采を受けゴールした探究部に続き、花火を見あげた希紗も笑顔でラストスパート。
(「いつかみんなと、本物に乗るんだ!」)
手にした着陸船をトンと月面――ゴール地点に据えれば、出迎えた明彦、亜綾、ヴィントミューレが、祝砲代わりにペットボトルロケットを空へ飛ばした。
「一応特撮部として、演技には力を入れませんとねっ!」
残る美咲はからかう観衆へ向け派手に転んでみせたり、輝くオデコを見せつけたりと、最後まで場を盛りあげながら走った。
しかし、待っていたのは。
「このまま連行するぞ!」
「……わおーん」
哀れ、囚人は鉄格子の中。
檻と警察犬に連れられ、ゴール向こうへと消えていった。
――1位探究部。2位宇宙部。3位スタプラ。
●第2レース
「【青空カフェ】【星巡り】【月訪狐屋】、位置について」
銃声に続き飛びだしたのは、三者三様の衣装に身を包んだ走者たち。
先頭を往くのは、星座の仮装集団たる【星巡り】。
カウボーイに扮した牡牛座のキィンは、強欲を隠さず猛然と駆ける。
シフォンはメヌエットにあわせ、美しく、上品に、軽やかなステップで観衆を魅了する。
【青空カフェ】の作戦は、勝ち負けよりも楽しむこと!
「青空カフェ名物、焼きたてパンだよ~! 是非食べてみてね♪」
笑顔で声を掛けるシフォンと並び、【月訪狐屋】の清美も制服姿&倉庫の奥にあった古い壺を手にお店をアピール。
しかししだいに引き離され、慌てた拍子に、小石に足を取られた。
――ガシャン!
転び、手からこぼれた壺が真っ二つ。
清美は急ぎ接着剤でくっつけると、
「当店ではこのように、修理のサービスもしております!」
見た目元通りになった壺を掲げ、レースを再開。
一方、駆ける牡牛の視界には赤いハンカチが見え始めていた。
手にするのは、牡羊座の有無。
「“牛”の仕事は、ここまで」
突進するように星型の棒付き飴を手渡せば、
「神の命ずるままに走ろう」
礼代わりにハンカチを渡し、白金色の毛皮ローブを翻す。
今こそ、逃げ足の発揮時。
神に遣わされた羊は、迫るライバルを振り返り、駆ける!
二番手を走るカフェのバトンも、吉左衛門へ。
扇子を巧みに操り、優雅かつ華麗な日本舞踊を披露すれば、観衆から盛大な拍手が沸いた。
「青空かふぇでは、美味い料理が盛りだくさんでござるよ! 是非とも、よろしくでござる!」
手作りの広告を配布しながらも、吉左衛門は優美な所作でトラックを駆けぬける。
「すいません、遅くなりました!」
託された壺を手に、制服姿に狐の耳・尻尾を装備した菜々乃が、いざスタート!
「もう一回割ってしまうと修復が難しくなるので、気をつけないとですね……!」
呟き、ある種の期待の眼差しを向ける観客たちを牽制するも、菜々乃は勢いを落さない。
あくまでも挑戦するその姿勢に、やがて観衆も声援を送り始めて。
(「――存外、走れるものだ」)
後続2人に距離を詰められつつも、先頭を維持した有無がバトンゾーンへ。
「そら天秤座! さかな君へ、きちり希望の星を託せよ!」
身を翻し流星のごとく飴を手渡せば、
「一位も演出も、欲張っていくぜ!」
天秤を揺らした女神・シグマが、肩掛けマント風の衣装をなびかせ、飛びだしていく。
攻めの姿勢で追いあげた狐屋のバトンは、夕月へ。
もふもふ具合が素敵な尻尾をふりふり、骨董品を手にひた走る。
「あ、これも売ってますよ!」
くるりとその場で一回転し、羽織っていたパーカーもアピール!
そして、三番手で経過を見守っていた士は、
「腹拵えっと」
シフォンお手製の蒸しパンを頬張り、ドンと地面を踏みしめた。
手を叩き足を踏み鳴らし、身体の奥底からみなぎるオーラをその身に、吉左衛門からのバトンを受け取る。
座右の銘である『全力全開』。
その言葉に恥じぬ圧倒的な走りに、追い抜かれた夕月も思わず歓声をあげ、その背を見送る。
沸きあがる歓声に、シグマも気づいた。
天秤を揺らしながら、加速。
けれど見せ場も、忘れはしない。
ふいに大きく踏みこんだかと思えば、強く地を蹴り、舞いあがる。
くるり、身をひるがえすと同時に、仕掛けマントをロングドレスへと装い変えた。
花ひらいた白の大輪をたっぷり見せつけ、女神は救いあげた星を、魚の尾へと送りだす。
「さかな、後は任せた!」
「……ん!」
紅の瞳が迫る士を一瞥するや、さかなはトンと地を蹴り、跳ねるように駆けだした。
雪白を思わせる和風のドレスに、なびく羽衣。
星を手に風をきる姿は、まさに水を得た魚のよう。
「頼むぜ! リリア!」
「たっぷり楽しませてあげるわ……」
肌も露わな衣装でベリーダンスを披露するのは、バトンを受け取った青空カフェのリリアだ。
独特の腰使いで男女問わず魅了し、
「青空カフェ特製、恋より甘いスイーツよ。さあ、召し上がれ……」
笑顔と上目遣いで、次々と観衆を虜にしていく。
可愛らしい後輩たちの姿を、万全の体調で! 誰よりも近くで! 目に焼き付けていた狐屋のアンカー・遥香は、
「園観ちゃん!」
「っと、もう順番!」
夕月から壺を受け取るやいなや、獲物を追う狐になりきり前傾姿勢で走りだす。
可愛らしい後輩が繋いだバトン。
ここで後れをとるわけにはいかないと、尻尾を風になびかせ猛然とリリアの背を追いぬいていく。
息を切らし走りながら、さかなは二年前の運動会を想い出していた。
一夜に連れられ、学園へ来たばかりの頃。
からっぽの日々。
(「――今は、ちがう」)
ゴール下に立つ三人へ、手を伸べて。
さかなは羽衣をたなびかせ、境界線を駆け抜けた。
続く遥香はゴール手前で壺を遠くへ投げあげると、走る勢いのままに前方へ身を投げる。
バク転に続き、後方抱えこみ2回宙返り2回ひねりを華麗に決め、そのままゴール!
落ちてきた壺をキャッチし、
「こーん!」
狐の鳴きまねをして、健闘をたたえる観衆と後輩たちに笑顔で応える。
青空カフェのリリアは、最後まで悠然とダンスを舞い続けて。
「満足して貰えたかしら?」
観衆に見守られゴールしたリリアを出迎えたのは、観衆や走者たちの、割れんばかりの大喝采だった。
――1位星巡り。2位狐屋。3位カフェ。
●第3レース
「【ジェネレーション・ブレイズ】【ひんにゅーぶ!】【努力同好会】、位置について」
三度めの銃声が鳴り響き、新たに走者たちが走りだす。
真っ先に飛びだしたのは、ひんにゅーぶ。
本レースではこの部にのみ、コース内に多数の障害物が設置されている。
なぜなら。
「うおおおおっ! 努力だあああああっ! 根性で走りきるんだあああああっ! やってできないことはなぁーい!」
努力ハチマキを頭に巻いて、高らかに吠えたのは努力同好会のアリッサ。
鉄下駄と水いっぱいのバケツを手に、できうる限りの速度で進撃を続ける。
バケツの水を零すと努力感が台無しなので、できるだけ零さぬよう走るというのがアリッサルールだ。
そして。
「3人をまとめて背負って、200mを完走する!」
宣言したゆのかは、同じチームのパニーニャ、ゆず、ユーリの3人を背負い、右へ左へと揺れながらも、なんとか歩を進めていた。
小・中・高・大のすべての学年がそろっての出場。
過去から未来へ、大人からこどもへ託す、という形の再現としたいのだ。
とはいえ、ひんにゅーぶの独走状態。
バトン代わりのまな板をハイタッチで受け渡し、『ストライクゾーンは割と広いぜ!』と書かれたタスキを掛けた樹里が走りだす。
「おっぱいが女性の魅力のすべてってワケじゃねえ! そうだろみんな!」
「「「おおーっ!!」」」
一部の同志たちとのコールアンドレスポンスを交わしながら、クラブの特徴を歌いあげ、ノリノリで駆ける。
ようやく交代地点に到達した努力同好会のアリッサは、続く七号へバトンタッチ。
「少しでも身体を軽くするために、3日前から断食断水をしています。他の方とは本気度が違います。私は勝つ努力です……!」
嘘か本当かはわからないが、少なくとも七号は超真顔でそう告げて。
「スリップストリームを利用し、目指すは1位です! 根性です!」
ポニーテールを揺らし、走りはじめる。
一方、ようやくバトンゾーンにたどり着いたゆのかの背から降り、パニーニャも高らかに宣言する。
「今度はアタシの番! 右肩にユーリ、左肩にユズを載せて、200mを駆けきるわ」
またの過酷な宣言に、さすがの観衆もどよめいた。
――一体何が、彼女たちをこうまで駆り立てるのか。
そうこうする内にも、ひんにゅーぶのバトンは第3走者である稜へ。
『男の子かと思った? 残念、女子でした!』と書かれたタスキを掛け、ラウンドガールのようにまな板を掲げる。
「おっぱいはすべて尊い! 男子も女子も! 大きいのも小さいのも!」
「「「おおーっ!!」」」
「巨乳さんは隣人さんです。仲良くします!」
「「「ぅおおーっ!!」」」
両手を挙げる稜の胸もまた貧しさが強調され、同志たちの声にも心なしか力が入る。
「み……水……。誰か、お願いします……」
ばたり倒れた七号を置いて、努力同好会も第三走者が出走!
ジャージの下から覗くのは、極太のスプリング。
一歩踏み出すたびに、ギプスがキリキリと鳴る。
「なんの、これしき……!」
歯を食いしばり進めば、稜との距離もしだいに縮んでいく。
「後は任せるわよ、ふたりともっ!」
続くじぇねぶれも、身軽になるごとにスピードを上げている。
リボンをユーリの髪に結び付け、パニーニャはゆずにバトンを託した。
「女将さんもパニにゃんも、無茶するんよねぇ」
「後でシップ貼ってあげな」と、ユーリを担ぎ、その大変さを噛みしめながらも、ゆずが走りだして。
ライバルたちがどれほど迫ろうと、ひんにゅーぶのアンカー・樹咲楽は、決して取り乱さなかった。
「どうも~! 薄胸女子の味方ひんにゅーぶが、今年も参りました~!」
『ひんにゅーぶちょー』と書かれた白タスキを掛け笑顔で手を振れば、すっかり意気投合した同志たちが「うぉぉおおおお!!」と吠え猛る。
「俺は繋いだぞ。あとは任せた!」
後続の華流にバトンを渡し、努力同好会もいよいよラストスパート。
昭和の努力を体現すべく、華流は腰に括りつけたタイヤーを引きつつ、地を踏みしめる。
が、思っていた以上に、うまく走れない。
「かくなる上は、これを外すしか無い……!」
ジャージの袖をめくると、そこには修行のために装着していたリストウェイトが!
僅かとはいえ身軽になった華流は、気力を振り絞り、走った。
しかし惜しくも逆転はならず、樹咲楽、華流が続けてゴールイン。
駆けきったゆずは遠く聞こえる歓声を聞きながら、背を降りたユーリにメガネを預けて。
「さ、後は頼んだで。思いっきり走ってきぃ!」
背中を押され、走りだす。
ゆのかから預かった鈴が、リンと鳴り。
結んだリボンが、走るごとに跳ねる。
度の合わない眼鏡は、すこし走りにくいけれど。
昔から、今へ。
今から、未来へ。
勝敗ではなく、想いを繋ぐために。
――後は、私が皆の思いをのせて、走るだけ!
声援に背中を押され、ユーリは最後まで懸命に、ゴールを目指した。
――1位努力。2位ひんにゅーぶ。3位じぇねぶれ。
●第4レース
最終レースは、一騎打ち。
「【システマ教導隊】【夢幻回廊】、位置について」
四度目の銃声が鳴り、ゲルマンシャークが描かれた樽をかついだワルゼーが先頭へ躍りでる。
もうひとりの走者は、夢幻回廊のオリキア。
体操服の背中に『夢』と書いたのぼりを縛りつけ、
「えーと、紫廉を大玉のなかに詰めこんでー……。そいやーーーー!!!」
さらっとチームメイトを大玉に組みこんだが、周囲の誰も止めはしない。
続けて可憐な声音でどすこい! どすこい! と張り手乱舞を連発し、転がる大玉を追いかけ、走る。
一体何が始まるのかと息をのむ観衆をよそに、第2走者の元へ駆けこんだワルゼーが、運んだ樽の中へ自ら身を隠した。
「姫月殿、あとは頼んだぞ!」
アシスト役で待機していた明日香がニタリと笑い、
「派手に散ってくださいね。教祖様」
閉じた樽を、ゲルマンシャークの仮装(頭のみ)をした姫月へ引き渡す。
「全力回転! げるまんぷろぺらだっしゅ!!」
要は、人力で樽を全力回転させ走るらしい。
中に人が入っていることもあり、トラックに添うよう転がすのはなかなか難しい。
しかしそれは、夢幻側も同じ。
「アイスにバトンタッチ交代ー♪」
「はい……任せて下さいね?」
『幻』と書かれた砲台に大玉を据え、バトンに火を点け砲台の中へ。
「あっづぅぅぅい! ちょっ熱っ熱い!」
「九葉さん……。重いので、中で転がっててくれません?」
非難の声をよそにゴールへ向かって転がし始めるも、こちらの砲台も自在に走らせるのは難しい代物。
先行く教導隊の姫月は、バトン代わりの樽を麻羅へ。
「天津殿、後は任せたのじゃ!」
「うむ! 玉乗りの要領で樽に乗って転がすのじゃ!」
しかし上手く乗れたところで、直進しかできない。
トラックの曲がり角は手押しでしのぎ、先を急ぐ。
そのころ、バトンゾーンへたどり着いたアイスバーンは、人(d12336)へ向け砲台をセットしていた。
「あとは九葉さん……お任せしました」
たまやーと撃ちだされた紫廉が『回』の字の爆風とともに飛びだし、その勢いのまま猛ダッシュ。
ここまで転がされ続けていたためまっすぐ歩けないが、とにかく走った。
文字通り尻に火が付いているため、死に物狂いだ。
アンカー位置でクラウチング待機するのは、ジン。
上半身は裸。筋肉美をはなつ背中には、『廊』の一字が描かれている。
「オラァ、受け取れジン!!」
叩きつけたバトンから火が移り、
――すぱぱぱぱぱぱぱん! ぱん!
高らかに鳴る爆竹にまみれ、ジンは光を放ちながら全力疾走!
「僕、いまめっちゃ輝いてる!!!(物理的に)」
教導隊のクーガーも遅れを取るまいと樽を引き継ぎ、走る。
今まさに、ジンがゴールテープを切ろうとした瞬間、
「そおおおおいッ!!」
クーガーが樽を地面へと叩きつけ、火種を添え高々と上空へ蹴りあげた。
――すぱぱぱぱぱぱぱん! ぱぱぱぱん!
「ひゃっはーーっ!! 爆発は芸術だぜ!」
青空に。
爆竹にまみれ輝くアフロ頭のワルゼーが見えた――ような気がした。
――同着。
●
すべてのレースが終了し、一夜が集まった学生たちの前に立つ。
「無差別対抗パフォーマンスリレー、MVPは――」
審査員から受け取った封筒を開き、選ばれた名前を読みあげる。
「温泉学部1年、銀ゆのか!」
直球のパフォーマンスで絆を繋ぎ、駆けぬけた、【ジェネレーション・ブレイズ】の少女たち。
――過去から未来へ。
――大人からこどもへ。
「きっと、これからも。私たちみんな、がんばれる、よね……?」
ユーリの問いに答えるかわりに。
ゆのか、パニーニャ、ゆずの3人は、幼い少女を真ん中に、強く、互いを抱きしめあった。
作者:西東西 |
重傷:なし 死亡:なし 闇堕ち:なし |
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種類:
公開:2015年5月31日
難度:簡単
参加:41人
結果:成功!
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