運動会2015~燃えあがれ、コスプレ競走!

    「さあ、今年も運動会の季節がやってきたわッ!」
     黒鳥・湖太郎(黒鳥の魔法使い・dn0097)が、嬉しそうに、軽々と重そうなメイクボックスを振り上げた。
    「なんで運動会で化粧品?」
     春祭・典(高校生エクスブレイン・dn0058)は、首を傾げて巨大オネエを見上げて。
    「あ、そっか、湖太郎さん、またコスプレ競走のスタッフやるんですね?」
    「あったり前じゃないの。今年も張り切ってみんなを化けさせちゃうわよ~!」

     武蔵坂学園の運動会は5月31日。
     学年を縦割りした組連合で競われる。
     今年も武蔵坂学園ならではの、体を張ったハードな種目が盛りだくさんだ。
    『コスプレ競走』はそんな武蔵坂学園の運動会的には、比較的穏当な種目と言えよう。コスプレして、パフォーマンスをしながらトラックを1周。スピードではなく、コスプレとパフォーマンスの内容に点数がつけられ、MVPが選ばれる。
     衣装や演技の内容は自由。お客さんや他の出場者に迷惑をかけない範囲で、自分も観客も楽しませることを主目的とする。

    「でもまあ、早々と盛り上がる気持ちは分かりますよ。コスプレ競走、見てるだけでも楽しいですもんね」
    「でっしょー。去年も皆それぞれ趣向をこらしてて、すっごい面白かったわあ」
    「スピードや体力が関係ないから、小学生から大学生まで、公平にMVPのチャンスがありますしね」
    「それにグループでも個人でも参加できるから、創意工夫次第で何でもできるもの」
     湖太郎は、典の二の腕をぎゅぎゅ~っと掴まえて、顔をぐいっと近づけ。
    「典ちゃんも、今年もスタッフやってくれるわよね!?」
    「イタイイタイ、やりますよ、やりますって!」
     典は腕をふりほどき。
    「ハア、もう馬鹿力なんだから……ま、とにかく、今年も大勢参加して欲しいですね」
    「ええ、賑やかなレースになるといいわね。ワクワクしちゃうわ!」


    ■リプレイ

    ●第1レース
     ピーッ、ピッ♪
     ホイッスルが高らかに鳴り響き、コスプレ競走のスタートに相応しく勇ましいマーチで行進しはじめたのは【八幡町キャンパス1年6組】の5名だ。くるみ割り人形のような、赤と藍の衣装と帽子できっちり足並みを揃え、練習の成果か、鮮やかなターンや斜行、スピンも交えながら、トラックを回っていく……と、半ばほどで立ち止まり、ドラムメジャーの紫鳥がくるくるとメジャーバトンを回し、
    「(さあ、時間配分はきっちりいってくださいよー!)」
     ピッ、ピッ♪
     ソロアピールタイムが始まった。まずは戦のドラムソロ。32分音符の激しい連打が校庭に響く。何故か男子もミニスカートを着るハメになったのが腑に落ちないが、
    「(ま、それはどうでもいいや。激しいリズムを耳に刻め!)」
     力一杯スネアドラムを叩く。次のソロは、その連打を切り裂くような、アルコの輝かしいトランペット。軽やかな手つきで、スカした表情でカッコよく吹いているが、スカートの裾が若干気になっている様子。お次のフルートソロは明。
    「(やるからには優勝するアル。張り切って吹くアルよ!)」
     吹きながら軽やかな舞も披露する。最後のリュカは、バンドマンの本領発揮とばかりにギターのボディを叩き、勇ましく歌う。ツインテールにメイクばっちりで、女装については吹っ切っている様子だが、ここまで悟るには葛藤はあったに違いない。
     ソロが終わり、行進再開かと思いきや、もうひと仕掛け。5人が後ろのリュカから次々とジャケットを裏返していき、衣装の赤と藍を反転させた。先頭の紫鳥までタイミングバッチリ。
     おおっ、と観客席が沸き、
    「ステキ、早変わりも大成功ねー!」
     メイクを手伝った湖太郎の黄色い歓声も聞こえる。
    「(決まった、アル!)」
     どや!

    ●第2レース
     2つめの号砲が鳴り、
    「じゃあ、いっくよー!」
     マイクを握って真っ先に飛びだしていったのは、カーリー。ミニスカメイドっぽいふりふりのアイドル衣装で元気よく歌いながら、
    「フレー、フレー!」
     各応援席の前で、敵味方関係なく全ての組連合を応援して回る。小学生離れした歌唱力に、客席からは感嘆の声が上がっているが、小学生離れした豊満な胸にも注目が集まっている様子。
     その後ろを楽しそうに踊っておいかけていくのは露出度の高いバニースーツは波琉那。
    「自分が楽しいと思えるダンスをみんなに伝えたいんだよ!」
     日頃ダークネスとの戦いで殺伐としがちな学園であるから、運動会くらい、何も考えずに楽しんで欲しい。エナメルのハイヒールで踊りにくいだろうが、むしろステップのテンポは上がっていく。盛り上がったところで、応援席に向けて投げキッスの大判ぶるまい☆
     一方、豪華でレトロなドレスで冷や汗を流し、
    「ちくせう、カフェの皆が観てるんだ。やってやろうじゃないか」
     悲壮な呟きを漏らすのは勇弥。テーマは『18世紀のトルヴィエ総督夫人』。
    「うんうん、皆期待してるよっ(笑)」
     震え声で励ましたのは、侍女役のさくらえ。湖太郎と2人がかりで勇弥をやりたい邦題できて嬉しい。
     まずはさくらえの口上。
    「ブラジル珈琲の歴史は、ポルトガル人パリェッタ少佐とギニアのドルヴィエ総督夫人との恋から……」
     コーヒーにまつわる悲恋物語だ。居直った勇弥も、裏声とくねくねした大げさなポーズで、
    「ああ、愛しのパリェッタ様。コーヒーノキの苗と、種1千個を忍ばせました。我が想いとともに届けましょう」
    「奥様、晩餐会はこちらでございます」
     さくらえが笑いを堪え掲げたのはカフェの看板。勇弥は涙目で最後の台詞。
    「悲恋も含めた歴史があっての珈琲です。どうぞ、カフェ・フィニクスで、その一杯を」
     その後ろを雅な風情で回ってくるのは、参三。菖蒲色の蹴鞠装束姿で、ぽーん、ぽーん、と鞠を蹴上げながら進んで行く。鞠はリフティングの要領で、一定の高さが見事に保たれている。
    「私の芸術的で気品高き蹴鞠術に、観衆は目を奪われているな!」
     ゴール前ではひときわ高く鞠を蹴り上げてみせ、
    「ふっ、私はまさに、現代に蘇った蹴聖というところだな。見よ、この気品!」
     最後尾から、慌てておいかけていくピエロ……着替え中のピエロは睦月。レース前にくつろぎ過ぎて準備が間に合わなかったらしい。
    「あっ、ここ首じゃないよ」
     腕のところから顔を出してしまい、慌てて転んでしまったが、トラック半ばには無事に衣装を着けて、一輪車にまたがる。しかしそこはピエロ、
     ズデッ。
     また見事に転んでしまい、一輪車上で披露するはずだったお手玉もばらまいてしまった。笑いを取りながら結局一輪車をゴールまで手で押していき、お手玉はゴールしてから思い出したように披露し、また観客席から笑いが起きた。

    ●第3レース
     観客と相方に優雅に挨拶をし、メルヘンチックなプリンセスと王子様が走り出した。式と菜々のラブラブカップルだ……しかし男女は逆。純白に薔薇刺繍のドレスにガラスのハイヒール、パットもしっかり入れた式は、すっかりお姫様になりきっている。
     トラックを半ば過ぎた頃、
    「……あっ」
     式姫が足を挫いたように、なよなよと転んだ。すかさず、
    「姫、お怪我はありませんか!?」
     菜々王子が抱き上げた。こちらの男装もキリッと良くにあっている。
     お姫様抱っこのまま駆けだした菜々に、式がミュージカルのように愛を囁く。
    「あぁ、ゴールが近い。もうすぐ終わってしまうのですね、この一瞬の幸福をどうかあなた様に刻みつけさせてくださいませ……」
     ゴール直前にはキスで見せつけちゃったり。
     その後ろを賑やかにやってきたのは【千川キャンパス2年3組】のメンバーだ。こちらも男女それぞれ逆で、童話の仮装をしている。
    「るんたった、るんたった♪ ……きゃっ!?」
     赤い頭巾に白のふりふりワンピのあかずきんコスでスキップしていつ藍凛のスカートが、いきなりバッとめくられた。めくったのは、
    「ふへへへ、食べちゃうぞー! がおー! あ、雪下くん、うさぎパンツだ」
     赤ずきんの狼姿の小唄。もふもふ狼耳と手袋、尻尾が可愛らしいが、すぐに次の獲物に目をつける。
    「そこのアリス! 人のこと笑ってる場合じゃないよ?」
    「うさぎ追いかけてるつもりで逃げてやるぜっ!」
     不思議の国のアリス衣装の菖蒲は脱兎とばかり逃げだそうとしたが、フレアスカートをガバッとめくられてしまって……しかし現れたのは短パン。
    「へへっ、防御バッチリだぜ!」
    「えー、つまんないよ。じゃあヒノエ女王様はっ!?」
     冷静にたたずんでいる雪の女王ヒノエの青いドレスをめくると……なんとかぼちゃパンツ。
     女王のパンツに一同驚いたところに、真っ赤な薔薇が狼の目の前にシュっと投げられて。
    「学校行事でスカートめくりなんて、そんな破廉恥はダメです!」
     赤いマントを翻して美優王子が凜々しく立ちはだかった。登場が若干遅れたのは、途中で転んでいたからのようだ。膝も汚れてるし。
    「王子様タスケテっ」
     藍凛が自分でもぎょっとしちゃったほどの高い悲鳴を上げて、王子の背後に逃げ込むが、そもそもパンチラを提案したのは彼なので自業自得?
    「ふふふ、王子様ステキです」
     ヒノエは女王様然とした笑みを浮かべると、ふわっと箒で浮き上がった。
     頭上から雪の女王が振らせはじめたのは……雪。
    「わあ、雪だ、雪―!」
     観客ばかりでなく、たった今までスカートをめくりめくられていた仲間たちも、大いに盛り上がったのだった。

    ●第4レース
     【井の頭キャンパス2-梅】の8名のちびっ子たちが、ずらっとスタートラインに並んだ。だが、黒一点で純白の王子様ルックの赤を除き、女の子たちは茶色の地味な小人風の外套に身を包んでいる。スタートの合図にも走り出したのは赤だけ……と思いきや、女の子たちもタイミングを計りながら順番に走り出した。8人は、トラックにぐるっとキレイに等間隔に並んだところで足を止めた。
     パフォーマンスの準備ができたのを確認し、先頭の、トラックの7/8地点にいる赤が、真っ赤なリンゴを懐から出し、一口囓った。すると……。
    「……うっ」
     赤王子は苦しみつつバタリと倒れてしまった。
     それを見た女の子たちは、一斉にコートを脱いだ。地味なコートの下から現れたのは、色とりどりのお姫様ドレス。『白雪王子と7人の姫』だ!
     前の方にいる姫から王子に駆け寄っていく。まずは赤ドレスの結慰が駆け寄って、
    「ねぇ、起きて。冗談……なんだよね?」
     ぐ~らぐら揺すぶる。次にやってきたのは、オレンジドレスのミケ。
    「オレンジ可愛い、嬉しいぞ!」
     ドレスが嬉しくて王子の回りをくるくる回ってダンスをしている。楽しさが伝わって、王子が起きてくれるといいな。
    「たいへんだ! おーじさまがたおれてる!」
     黄色のドレスを翻してやってきたのは紅葉。
    「んーと、どんぐりたべる? ぎゅーにゅーのむ?」
     そこに緑のドレスのひよも、
    「みんな、コスプレすがた、かわいいです!」
     わくわくを隠しきれない様子で走ってきた。続いてヴァーリがやってきたが、何だか微妙に居心地悪そうなのは、水色のゴスロリ風味ドレスが恥ずかしいから。
    「(兄者め……いくらお姫様要素があるとはいえ、流石にこんな可愛いドレスは私に似合わんだろうに……)」
    「わるい、まじょ、まほう!?」
     青いドレスで飛び込んできたのは砂羽。
    「目、さまして!」
     ゆさゆさ、ぎゅう~。仮死状態のふりも大変だ。
    「まだ起きないの? もう駄目なの?」
     叫びながらやってきた、最後のリコリスは大人っぽい紫のドレス。
    「白雪姫も花で埋められてたよね!」
     リコリスはローブに仕掛けていた花びらを王子様の上に、バアッと撒いた。
    「王子様が起きるようにみんなでお祈りしよう」
     虹色の姫たちは花降る中跪いて祈りを捧げた。
    「おーじさま、目をさまして!」
    「起きてですーっ!」
     ヒールサイキックの光が王子を取り巻き、きらきらと……。
    「ん……」
     やった、赤王子が目を覚ました!
    「わーい、やったー! 白雪王子が目をさましたぞー!」
    「わるい、まほう、とけた!」
     むっくりと起き上がった王子様は、
    「貴女方のおかげで目覚めることができた。ありがとう」
     カッコヨク礼を述べたが、
    「やったー、うれしいからどうあげするよ!」
    「お祝いだー!」
    「え、胴上げ?」
     逃げようとした王子を、姫たちはむんずとつかまえて。
    「わっしょい、わっしょい」
    「うわー!」
     ゴールまで胴上げで運んでいったとさ。めでたしめでたし。

    ●最終レース
     最後の号砲が鳴った瞬間、緋色と白、2頭の人間形態のイフリートが駆けだした。ヒイロカミ姿の淼と、シロガネ姿の葵(d20215)だ。ヒイロカミは長く立派な角、首に勾玉もさもさロングショール、派手な柄の袴に腰巻、瓢箪。シロガネは白いドレスに白い靴、白い髪、花形の炎を纏っている。
     もちろん2人とも子供になることはできないので、成人になった姿という設定だが、
    「学園とイフリート、組織が違っても、一緒に楽しみたいという願いをコスプレで表せれば!」
    「悲しい出来事だった。けど忘れないように……少女のこれからが幸せな方へ行くように……」
     想いを載せて、時に四つ足になりながら2頭は駆ける。
     その後ろからドスドスと斧を振り回しながら迫力満点でやってきたのは、光影。牛の頭の被り物、マッチョな柄のピチピチTシャツ、野牛の毛皮風スボンに、牛の蹄型のカバーをかけた運動靴と凝っている。斧も、木製の柄にプラスチックで加工した自作品だ。
    「あの牛人間、何ていうんでしたっけ?」
     トラックの中で小道具運びをしていた典が手を止めて、光影を目で追うと、手伝ってくれているクーガーが、
    「えっと、アレだ、神話に出てくるヤツじゃね?」
    「ああそっか、何となく思い出しました……ところで次に走ってきたのは?」
    「え? ええと……ありゃなんだ?」
     クーガーはポケットに突っ込んでいたプログラムを慌ててめくった。
     その謎のコスプレは……。
    「かべどーん、かべどーん」
     塗り壁のような着ぐるみの両手にどんぶり……ダジャレか!
     中の人などいない! と言いたいところだろうが、朱香である。走りにくそうな上、視界も狭いらしくしょっちゅう転んでいるのだが、
    「そっ、走行用なので、こけても起き上がれますわよ~!」
     すぐに起き上がり、まためげずに走りだす。
     その後ろから、悠揚として……というか、怪しい風情でやってくるのは、2人のドクター。
    「いいねえいいねえ、医学部としては、白衣かナース服で攻めるべきだよねえ」
     医学部生なのだからいっつも白衣は着ているだろうに、ジェレミアはやたら楽しそう。ワイシャツにネクタイ、ネームプレートと胸ポケットのボールペンまでバッチリ決めているのに、どうもうさんくさい。
     葵(d05978)は友人のうさんくささに笑いを漏らし、
    「君はともかく、僕はそれっぽく見えてるだろう?」
    「いやいや、負けてないよ。見た目はともかくその台詞が」
     ジェレミアも笑い、
    「さ~て! 医学部の総回診のはじまりだよ~♪」
     そう言って、小学生が座っている観客席に迫る。葵も、
    「大丈夫大丈夫、これでも小児科志望だからね、怖くない怖くない」
     笑顔で子供達に近づいていった……その時。
     シュバッ!
     怪しい医者とどん引きの子供達の間を、黒衣の人影が宙返りで遮った。
    「私はくノ一ナース!」
     黒いナース服風の忍者服に、黒ナース帽を合わせた斬新な衣装で現れたのは、千尋。
    「たあっ!」
     千尋はアクロバティックなジャンプを見せると、数枚の木の板をトラックの中央に向けて投げ上げた……次の瞬間。
     ドタタタタタッ!
     全ての木の板に手裏剣ならぬ、注射器が刺さっているではないか!
     お見事! と観客も怪しい医者たちも、くノ一ナースの技に拍手を贈る。

    ●戦い終えて
    「はあ~、今年も面白かった。メイクもさせてもらえたし楽しかったわ~」
     コスプレ競走全てのレースが終わり、スタッフ席から声援を送っていた湖太郎は、笑い涙を拭きながら。
    「あとはMVPの発表を待つばかりだけど……ねえ、誰がとると思う!?」

    作者:小鳥遊ちどり 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2015年5月31日
    難度:簡単
    参加:34人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 1/キャラが大事にされていた 7
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