茶畑の中心で忠誠を叫ぶ

    ●茶畑の中心で忠誠を叫ぶ
     全国有数の茶処、静岡県掛川市。日当たりのよい斜面に広がる、すがすがしい茶畑の真ん中で。
    「こ、この城を、あたいにくれるずらか!?」
     驚きの声を上げたのは、絣の着物にたすき掛け、赤い前掛けを締めた茶摘娘の出で立ちの女性。
    「うむ、この城は今日からお前のものだ」
     答えたのは手には軍配、頭部が城の男……そう、おなじみ安土城怪人である。
     そして彼らの目の前には、新築ぴっかぴかの、三層で天守閣を持つ城。
     しかしこの城、妙にコンパクト。三層合わせても、居住面積200坪くらいなもんじゃなかろうか。
     それでも茶摘娘は大興奮で。
    「超嬉しいずら! てっぺんの旗のデザインも茶葉になってるしっ」
     天守閣の屋根の上には、ご当地旗がたなびき、
    「それに配下まで用意してくれたずらね!」
     城の前には、恭しい様子で控える5体のペナント怪人。3体は茶摘み姿、2体は作務衣の茶職人姿である。
     ちなみにペナント怪人たちの顔も、ちゃーんと茶葉と掛川ロゴに加工済だ。なんときめ細やかなサービス。
    「うおお、嬉しすぎて何だか力が沸いてきたずらよ~!」
    「茶の季節でもあるし、喜びはひとしおであろうな。掛川茶娘よ、この城を拠点に、せっせとご当地活動に励むがよいぞ」
    『掛川茶娘』は、瞳をキラキラさせて。
    「はいっ、あたい必ず、世界を席巻するお茶になってみせるずらよ!」
     
    ●武蔵坂学園
    「小牧長久手の戦いで勝利した安土城怪人が、東海地方と近畿地方の制圧に乗り出した……というのは、もう皆さんご存じですよね?」
     春祭・典(高校生エクスブレイン・dn0058)の問いかけに、集った灼滅者たちは頷いた。
     安土城怪人は、東海~近畿地方にミニ城を作りまくり、その土地のご当地怪人を城主とし傘下に加えているらしい。
     城という立派な拠点をもらったご当地怪人は、今まで以上にご当地活動を活発化させると予想されるので、その前に城主となった怪人を灼滅、もしくは城から追い出さなければならない。
    「皆さんに行って頂くのは、静岡県掛川市」
     典は掛川の地図を開いた。
    「このあたりの茶畑の真ん中に城があって『掛川茶娘』と配下のご当地怪人が5体います……やっかいなのは」
     典は地図から顔を上げ、
    「一国一城の主となった茶娘は、少々パワーアップしているようなのですね。ただ、天守閣の屋根の上の旗、これを引きずりおろすとパワーアップが解除されるようで」
     パワーアップした怪人一味に正面から戦いを挑むのももちろん有りだが、城に忍び込んで旗を引きずり落としてから戦うと有利になるだろう。
    「昼間は、城主の茶娘と、茶摘みペナント怪人3体は城の周囲で茶摘みを、職人ペナント2体は城の1階の工房で茶の加工をしています」
     日中に旗を奪う場合、どこから忍び込んでも怪人一味に見つからないわけにはいかないので、役割を分担し、陽動作戦を行うなどの工夫が必要だろう。
    「夜間は、怪人たちは城の2階で揃って寝てます」
     茶摘み合宿か! というツッコミはさておき、
    「夜間ならば外からの見張りの目がないので、忍者のように外壁を上って旗を奪うという作戦がとれると思うんですが、どうやら鳴子とかの仕掛けがあるようなんですね」
     怪人一味を起こさずに旗を奪うことは難しいだろうが、こちらも役割不分担して、怪人たちを抑えつつ、素早く効率よく旗を引きずりおろす工夫をして欲しい。
     ちなみに城の入り口の鍵は、夜間は閉まっている。物理でぶっ壊せるが、破壊音も出てしまう。
     また、1~2階の窓は小さいので外壁から人が忍び込むことはできない。3階の天守閣の窓は入れる。
    「茶娘は、城と配下をくれた安土城怪人にとっても感謝してるようで、合戦が始まれば、安土方のために一所懸命に働くことでしょう。もちろん説得もできません」
     典は顔をしかめて。
    「これ以上安土城怪人をのさばらせないためにも、しっかり攻略してきてくださいね!」


    参加者
    遠間・雪(ルールブレイカー・d02078)
    高倉・奏(二律背反・d10164)
    不動峰・明(大一大万大吉・d11607)
    嶋田・絹代(どうでもいい謎・d14475)
    銀城・七星(銀月輝継・d23348)
    常儀・文具(バトル鉛筆・d25406)
    ルーナ・カランテ(ペルディテンポ・d26061)
    御伽・百々(人造百鬼夜行・d33264)

    ■リプレイ

    ●夜襲
     がしゃんどかばきべきいぃいっ!
     ド派手な音を立てて、ミニ城の玄関扉が突破された。物理でも充分壊せるところを、よってたかってサイキックを使いまくったので、太い閂も木っ端みじん。
    「突入―っ!」
     6人の灼滅者は破壊の勢いのまま、ミニ城の内部へとなだれ込む……と同時に。
    「今の音は何だ!?」
    「おきろー!」
    「くせものずら、であえであえ!」
     城中の灯りが一斉に点り、階上ではバタバタと駆け回る気配。扉の破壊音は2階で就寝していた茶娘一味をたたき起こしてしまったようだが、それでいいのだ。今夜は、なるべく派手に立ち回るのが陽動班の使命だから。
     茶の香ただよう工房で、灯りに目を慣らしながら、常儀・文具(バトル鉛筆・d25406)はシールドを展開して防御を、不動峰・明(大一大万大吉・d11607)は瞳の集中力を高めた。先にサウンドシャッターで戦闘音が市街地まで響かないよう準備しておいた御伽・百々(人造百鬼夜行・d33264)は、ダメ押しに百物語をぶつぶつと語り始めた。
    「第一話、織田信長が茶坊主を切り捨てた刀のはなし……」
     これで人払いは万全だろう……と、そこに。
    「何者ずら!」
     ドドドドッと急な階段を駆け下りてきたのは。
    「いちに……ろくにん、いますね」
     文具は降りて来た人影の数を確認すると、素早く携帯で外で待機している旗取班に連絡。
    「何者だ! あたいの城に何の用ずら!」
     ペナント怪人に囲まれた茶摘み姿の女性……掛川茶娘が、灼滅者たちを睨み付けた。
    「夜分遅くにお邪魔しますどーもあなた方の永遠のライバル灼滅者です!」
     高倉・奏(二律背反・d10164)が大げさに礼をし、
    「ドーモ、掛川茶娘=サン。遠間・雪です。正面から城攻めをしにきました♪」
     遠間・雪(ルールブレイカー・d02078)も慇懃な笑顔で答える。ルーナ・カランテ(ペルディテンポ・d26061)も、挑発的な口調で。
    「こんばんはー、少し長めの睡眠をお届けに参りましたー! ハンコは結構ですので血判勝手に押させてくださーい!!」
    「な、なんだとーっ!」
     茶娘はキリキリと眉毛を吊り上げて。
    「灼滅者ごときがあたいの城に夜襲とは、生意気ずら! 者共、城を守るずらよ!!」
     茶鋏をシュピーンと振り上げた。すると手下のペナント怪人たちも、
    「ぺなーっ!」
     一斉に鬨の声を上げると鋏を取り出した。
    「そうこなくちゃ」
     灼滅者たちも武器を構え、サーヴァントたちを出現させた。陽動作戦であるからこそ、この6人と3匹と1体で灼滅するくらいの勢いでいかねば!
    「さあモップ、いくのです!」
     きゃうーん。
     ルーナが哀しげに鳴く白いもさもさ……霊犬のモップを敵陣の真っ只中に投げ込んで、いよいよ戦いの火蓋が切られた。

    ●城攻略
    「あ、きた」
     旗取班の銀城・七星(銀月輝継・d23348)は、手の中で携帯が1度だけ振動したのを感じた。画面を確認すると、文具からだ。
     七星は携帯をポケットにしまい込みながら、
    「よし、上手く6体とも引きつけられたみたいっすよ」
     肩にいるぼっさぼさの赤い長毛で、目つきの悪い猫に話しかけた。にゃお、と頷いた猫は、猫変身中の嶋田・絹代(どうでもいい謎・d14475)だ。
    「というわけで、オレらも作戦開始だけど……どう攻めましょ。鳴子、邪魔っすね」
     1人と1匹はミニ城を見上げた。
     思っていたより、城壁の鳴子の仕掛けが密なのだ。城内部から漏れてくる灯りでも、壁や屋根に黒い紐がまんべんなく張られているのが見える。多分茶娘のヤツが、城をもらったのが嬉しくて、むやみやたらと仕掛けまくったのだろう。
    「とりあえず、1階の屋根に上がってみますか。石垣の分高いけど、何とかなるっしょ。先輩、掴まっててください」
     絹代猫を首に掴まらせると、七星は後ろに下がり、
    「たあっ!」
     助走をつけてタンターンッと軽やかにダブルジャンプ!
     ガッ。
     両手が1階の屋根を捕らえた。先に絹代猫がするりと屋根の上に上り、
    「……ふう、何とか」
     七星も、滑り止めつき手袋のおかげもあって、無事自らの体を1階の屋根の上に引き上げることができた。鳴子の紐をひっかけないように、慎重に足場を探す。
    「さ、2階に跳びますよ」
     絹代猫がまた七星の肩に上った。

    ●陽動戦
     城内では戦いが始まっていた。
    「大体、レディの城をこんな夜中に襲うとか、失礼すぎ! 寝不足は美容に悪いずらよ!!」
    「夜分に申し訳ありません!」
     文具は一応謝りながら巨大な三角定規型の斧を振り回し、
    「なんで夜に来たかってえー?」
     奏は茶娘の神経を逆撫でするように『わたしのかみさま』を、城主を囲み護るペナント怪人たちに威勢良くぶっ放す。
    「嫌がらせ以外の何があるってんですか!」
     ルーナは炎を纏った蹴りを放ちながら、
    「まあ確かに、どこか垢抜けないけども、目標のために日々努力していて、素直で素朴な良さがあり、部下に慕われてもいる……そんな女性の寝込みを襲う私達……中々結構外から見ると……やばいですね」
    「褒めてるのか、遠回しにバカにしてるのか、どっちずら!?」
     茶娘は灼滅者たちの挑発やツッコミに律儀に答えつつ、せっせと盾になっている手下たちの回復に務めている。
     メディックの百々も、負けじと黄色く輝く交通標識を前衛に向けて掲げ、
    「我も茶は好きな方だが……広めるために迷惑をかけるのは問題だな」
    「へっ、最近、緑茶は死亡率を低下させるという研究発表があったずら! あんた達なんかに好いてもらわなくても、消費量が増えてるもーん!」
     茶娘がどや顔で自慢している隙に、
    「そおれっ♪」
     雪が『スワンチカ』を振り回して突っ込んで2体のペナント怪人を引きつける。更にその陰から、
    「掛川といえば……」
     明が聖剣を構えて踏み込み、
    「戦国今川家が滅亡した場所。貴様らにもここで滅亡してもらおうか!」
     日本史&城マニアらしい啖呵で斬り込んだが、刃は他のペナント怪人の茶鋏に、ガッキと受け止められてしまった。敵もチームワークはとれているようだ。
    「滅亡するのはあんたたちずら! 反撃、ジャパニーズティー・ゲイルッ!!」
    「「「ぺなー!」」」
     ペナント怪人たちは一斉に鋏を構え、そしてそこから。
    「!?」
     猛烈な勢いで芳香を伴った緑色の竜巻が巻き起こり、灼滅者たちに襲いかかった。

    ●旗奪取
     その頃旗取組は。
    「じゃ、嶋田先輩、よろしくお願いしますよ……そおーれっ!」
     2階の屋根の上で、七星は絹代猫を、3階の屋根めがけてぶん投げた!
    「にゃ~~っ!」
     ミニ城なだけに、2階の屋根ともなるとかなり狭くて足場が悪く、しかも相変わらず鳴子の紐がびっしりなので、ジャンプが難しい。3階の屋根はもっと狭くて急勾配であろうと予測されるため、絹代猫を投げ上げる作戦にしたのだ。
     くるっ……とんっ。
     絹代は無事に3階の屋根に着地した。例によって天守閣の屋根の上にも鳴子の紐が張り巡らされているが、ここまできたらそう簡単に止められはしないだろうから、気にしなくてもよいだろう。子細構わず、絹代は急勾配の瓦屋根を上る。
     ガラガラガラガラ……!
     城内で派手に鳴子が鳴ったが、絹代は茶葉マークの鬼瓦まで一気に駆け上がり、夜空に翻る旗に跳びついた。
     ガブッ、バリバリバリッ……!
    「みゃ?」
     牙と爪で旗を竿から引きちぎったが、勢いあまって旗に絡まってしまい、屋根を転げ落ちていく……。
    「にゃあぁ~~!?」
    「おおっと危ない」
     七星が2階の屋根から身を乗り出して、旗ごと絹代を受け止めた。
    「グッジョブっす! さ、戦闘に加わりましょ」
    「にゃ~」
     七星は旗の間から赤毛の猫が顔を出すのを確認すると、
    「それっ!」
     またダブルジャンプを使い、猫と旗を抱えたまま、ぴょんぴょ~んと軽やかに城を跳ね下りた。
     
    ●全員集合!
     ペナント怪人といえど、5体揃っての『ジャパニーズティー・ゲイル』は痛い。パワーアップしている現状では特に。前も後ろもまんべんなく毒竜巻を受けてしまった灼滅者たちは、思わず1歩退がってしまったが、
    「頭でっかちな攻撃はわかりやすいにゃ~、頭が悪いようだね♪」
     愛犬・バクゥに庇われた雪が飛び出し、ブルージャスティスの光線をペナント怪人たちにふりまいた。
     その隙に百々は、霊界からのメッセージが浮かび上がるという『禁帯出の白紙本の言霊』で前衛に回復を施す。
    「糊、百々さんを回復して!」
     文具は愛犬にメディックの回復を命じながら、自らは雪に迫るペナント怪人の1体に、シールドで体当たりした。体当たりされたペナント怪人の腹には『常儀』としっかり押印。
    「弱ってるやつから確実に狙っていきましょーっ!」
     モップに回復をうけたルーナが、文具に殴られてよろめいたペナント怪人を縛霊手『焔』で抑え込み、
    「よし、抑えておけ!」
     明が光と化した聖剣を突き刺す。そこに奏が、
    「炎でお茶っ葉燻してやんぜヒャッハー!」
     ガトリングガンから爆炎弾を撃ち込もうとしたが……。
    「カテキンビームッ!」
    「わあっ!?」
     ドカーン!
     茶娘が放ったビームで、奏は背後の壁にぶちあたるほどふっとばされてしまった。
    「安土城怪人様から預かった大事な配下に、何するずら!」
     茶娘は牽制するように、灼滅者たちを怒りの眼差しで睨めつけた。
    「大丈夫かっ? 回復するぞー!」
     百々が慌てて癒やしの光を送ると、奏は、
    「いてて……ありがと」
     埃まみれで身を起こし、ビハインドの神父様が、調子に乗りすぎるんじゃない、というように奏を小突いた。
    「(城と旗によるパワーアップはあなどれない……)」
     改めてそれを感じ、灼滅者たちは用心深く反撃のタイミングを探る……と。
     ガラガラガラガラ……!
     2階で、派手に木の板同士がぶつかり合う音がした。鳴子の音だ!
    「何ずらっ!」
    「また侵入者かっ?」
     茶娘一味は慌てて天井を見回した。
    「誰か上から外を見てくるずら!」
     茶娘に命じられ、後衛のペナント怪人が2階への階段を駆け上ろうとした、その時。
    「はうっ……?」
     突然茶娘がふらついて壁で体を支えた。
    「な……なんだ? 突然力が抜けたずら……?」
     配下のペナント怪人たちも、膝をついたりよろめいたりと、様子がおかしい。
    「まさか……」
     茶娘がハッと灼滅者たちの方を見て。
    「まさか、あんたたち、旗を……?」
    「その通りだ!」
     七星が片手に真っ赤に輝く交通標識を掲げながら、壊れた玄関から飛び込んできた。もう片手には猫の爪で引き裂かれた茶葉マークの旗を、これみよがしに振り回して。
    「あああっ、何てことしてくれるずら、安土城怪人様から賜った大事な旗を!」
     茶娘は七星に掴みかかろうとしたが、
    「にゃあ~~っ!」
     窓から侵入していたらしい赤毛の猫が飛びついて、バリバリッと茶娘の顔をひっかいた。
    「ぎゃああ、何ずらこの猫~っ!」
     もちろん猫はすぐに引き剥がされたが、ひらりと床に着地すると同時に変身を解いて、人絹代に戻った。
     2人が戻ったということは……。
     旗を引きずり下ろした!
     全員揃った!
     灼滅者たちの闘志は俄然アップする。
    「よーし、いっきますよ~!」
     文具が二等辺三角形にフォルムチェンジした斧をぶんぶん元気に振り回して斬り込んだのを皮切りに、灼滅者たちは一気に攻勢に出る。まずは雪が、
    「古来より城攻めは策を講じるもんだにゃ! 騙された方が悪いのだよ!」
     最も弱っていたペナント怪人に、渾身のアッパーカットでトドメを刺した。

     パワーダウンしたペナント怪人は、次々と灼滅者たちに倒されていった。茶娘の回復も追いつかない。何しろ茶娘自身もパワーダウンしているわけで。
     残った最後の作務衣姿の怪人は、茶娘を必死に庇いながら。
    「茶娘様、隠し通路からお逃げください。安土城怪人様を頼ればきっと……」
    「そ、そうずらか、すまん……」
     ためらいつつも踵を返した茶娘に、
    「待てい!」
     明が鋭い声を放った。
    「城主が城と配下を捨てるのか!?」
     ハタと茶娘の足が止まった。
    「む……そうずら、あたいはこの城の主……」
     茶娘は悲壮な面持ちで灼滅者たちの方を向き直った。
    「城を枕に討ち死にずら!」
    「茶娘様いけませぬ―!」
     まずは灼滅者たちは、悲痛な声を上げたペナント怪人に情け容赦なく襲いかかる。ルーナが回し蹴りを見舞い、雪は雷を宿した拳で殴り倒す。絹代は、
    「世界一(不味い)のお茶にしてやるっす。真っ赤で血なまぐさいドロドロなヤツですけどね!」
     情熱的なステップでがしがし踏みつけ、突き立てられた明の聖剣の輝きが、魂を破壊して。
    「お……お逃げくださ……」
     茶娘を気遣う言葉を遺し、最後のペナント怪人も動かなくなった。
    「ぐむむむ……負けないずら……ぐわっ」
     茶娘に何を言う暇もあたえず、文具がシールドで体当たりし、灼滅者たちは最後の攻撃に入った。サーヴァントたちも守りから転じ、攻撃に加わる。
     奏は、苦し紛れに突き出された茶娘の鋏を軽々と躱して、
    「弱ってるみたいだねえ。ごめんねこれもお仕事だから……」
     茶摘衣装を蛇剣で縛り上げ、明は輝く聖剣の斬撃で斬り伏せた。絹代がどろりと『メランコリア』を伸ばすと、反対側から七星も、
    「ユウラ、ヤミ! オレの敵だ、喰い殺せ!」
     漆黒の鳥と猫が獰猛に喰らいつく。メディックの百々も、ここが勝負処とみて縛霊手を掲げて結界を張り、雪はマヒをもたらす赤い光線を浴びせかけた。
     倒れもがく茶娘に、
    「たあーっ!」
     ルーナが階段を使って勢いを増した、流星のような跳び蹴りを放って。
    「あ……安土城怪人さ……ま……」
     掛川茶娘は、茶の香を残して滅んだのだった。

    ●城探索
    「落ち着ける風景ですけど、世界征服に使われかけたと思うと、ちょっと残念っす」
     夜明け近い茶畑を、茶工房の小さな窓から覗きながら、絹代が呟いた。
    「あ、このお茶美味しいです」
     茶娘一味の遺したお茶を味見しているのはルーナ。
    「ホントだにゃ~♪ 絹代ちゃんと七星くんもどうにゃ?」
     雪も味見しながら、お土産に少々拝借していこうとか思っている。
     その時、石垣を一回り観察してきた文具が、残念そうに首をふり戻ってきた。
    「特別なものはなさそうです」
     定礎や、グレイズモンキー、今後の合戦の手がかりでもあれば、と思っていたのだが。
    「旗は持って帰ってみよう。何か分かるかもしれない」
     七星が茶葉旗を丁寧に畳みながら慰めるように答えた。
     ちなみに茶娘が逃げようとした隠し通路というのは、便所の窓のことだったようだ。
    「上には何かありましたかねえ?」
     文具が天井を見上げた。
    「どうだろうなあ?」
     仲間たちも、明と百々が探索に行った天守の方を見上げる。
     明はどっちかってーと趣味的な興味で観察しているだろうし、百々に至っては、
    「下克上とかいうのだろう? この城もらっていいのかっ?」
     などと鼻息を荒くしていたし……?

    作者:小鳥遊ちどり 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2015年6月5日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 5/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 3
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