失われた結末

    作者:霧柄頼道

    「修弥先輩っ」
     修弥が振り向くと、後輩の詠奈が小走りに図書室へ入ってくるところだった。
    「小説、読みましたよ!」
     と、胸に抱えていた原稿の束を突き出してくる。
    「……ど、どうだった?」
     おそるおそる尋ねると、詠奈は表情をほころばせて頷いた。
    「とても面白かったです! やっぱり先輩の書く物語はすごいですよ!」
    「そうかな……?」
    「そうですって! この原稿、今度の新人賞に応募するんですよね? 先輩ならきっと取れますよ」
     褒めちぎられ、思わず修弥の顔が赤くなる。
    「で、でも……読んだら分かると思うけど、それ、途中なんだよね。ラストをどうしようか、悩んでて」
    「そうですね。ハッピーエンドかバッドエンドか、もう決めてるんですか?」
     正直、どちらにするかはまだ決めていなかった。
     とはいえ新人賞の締め切りも近い。大学受験への備えも必要だ。
     何よりずっと自分の小説に付き合ってくれている詠奈のためにも、早く物語を完成させたかった。
     だから今は曖昧に答えを濁し、礼を言って別れる。
     その夜、結末について悩みながら眠りについた修弥の側に、宇宙服姿の少年が静かに佇む。
    「君の絆を僕にちょうだいね」

     翌日も、修弥は図書室で小説のネタを手に入れるべく読書に励んでいた。
    「修弥先輩!」
     いつものように詠奈が話しかけて来る。
     けれどなぜか、彼女の存在がうっとうしく感じられた。
    「……ごめん、悪いけど今忙しいから、一人にしてくれないかな」
    「あ……そうですよね。お邪魔して、済みません」
     すまなそうに頭を下げ、詠奈が離れて行く。その後ろ姿を眺めながら、修弥は自分に対して違和感を覚えていた。
     一体どうしてしまったのだろう。常日頃なら、おしゃべりを交わす程度の余裕はあるのに。
    「……早く、原稿を書き上げないと」
     とにかく今はネタを。修弥は現実逃避をするかのように、物語の結末を探すように本の世界へ没頭していく。
     
    「強力なシャドウ、絆のベヘリタスが動き出した」
     事件の発生を知らせるため、神崎・ヤマト(中学生エクスブレイン・dn0002)が灼滅者達へ向き直る。
    「ベヘリタスと関係が深いらしい謎の人物が、一般人達から絆を奪って卵を産み付けてやがる。産み付けられた卵は宿主ともっとも強い絆を持つ相手との絆を吸収して成長し、そして孵化するんだ。放っておけばそこら中ベヘリタスであふれ、大変な事になっちまう」
     灼滅しようにもベヘリタスはかなりの強敵だ。灼滅者達も強くなっているとはいえ、真正面から戦って勝てる相手ではない。
     しかも、産み付けられた卵は目で確認する事はできても触れる事はできないのだ。
    「だが、対策はあるぜ。ベヘリタスは宿主となった一般人と絆を結んだ相手へは攻撃力と防御力が低下するんだ。つまり宿主と絆を作り、その上で孵化した直後のベヘリタスを倒す。勝ち目があるとすればこの方法だな」
     絆の種類に制限はない。喜びや悲しみ、友情や憎悪といった感情や思いを宿主に抱かせられれば、それは確かな絆となる。
     結んだ絆が強ければ強いほど、ベヘリタスとの戦闘時に効果を発揮するだろう。
    「宿主の名前は修弥。大学受験を控えた高校三年の男子生徒だ。趣味は自作小説を書く事で、それを通じて後輩女子の詠奈とは仲良くなったようだぜ」
     だが絆が奪われた現在、詠奈に小説を読んでもらうという目的は消え、物語はいまだ完成していない。
    「本人も急に書けなくなった事に焦りを覚えているのか、ここ数日は毎日ネタを探して街をさまよってる。接触のチャンスはそこだぜ」
     猶予は二日間。
     一日目は放課後、学校の図書室に一人残って読書をし、小説の終わらせ方を考えているようだ。
     二日目も学校の帰りにファミレスで軽食を取りながら、持ち込んで来た書きかけの原稿と睨み合っている。
    「ベヘリタスの卵が孵化するのは二日目の、修弥がファミレスから家路についている途中だ。道路のど真ん中で孵化されでもしたらたまったもんじゃねぇから、近くの公園へ修弥を連れていくといい」
     その場所なら障害物も少なく広いため、戦場に適している。人払いも忘れずにしておきたい。
    「生まれてくるベヘリタスは表紙に不気味な仮面を張り付けた巨大な書物の姿をしてやがる。サイキックはシャドウハンターと魔導書のものを使用するから気をつけろ」
     ベヘリタスとの戦闘時間は十分。それ以上を過ぎるとソウルボードを通して撤退してしまうため、素早い撃破が必要となってくる。
    「奪われた絆はベヘリタスさえ倒せば戻る。だが修弥も詠奈を邪険にしていた事を覚えているし、その後の関係がぎこちなくなっちまうかもしれねぇ。無事に倒せたら、お前達もフォローしてやって欲しい。絆の結び方によってはそれも難しいだろうが、頼んだぜ!」


    参加者
    ベルタ・ユーゴー(アベノ・d00617)
    龍海・柊夜(牙ヲ折ル者・d01176)
    葛木・一(適応概念・d01791)
    空飛・空牙(影蝕の咎空・d05202)
    パニーニャ・バルテッサ(せめて心に花の輪を・d11070)
    ベリザリオ・カストロー(罪を犯した断罪者・d16065)
    廣羽・杏理(フィリアカルヴァリエ・d16834)
    シャノン・リュミエール(石英のアルラウネ・d28186)

    ■リプレイ

    ●起
    「……修弥先輩、図書室にいるのかな。でも、邪魔するのも悪いし、このまま帰ろう……」
     ため息をついて校門へ向かった詠奈に、快活な声がかかった。
    「おっ、あんた確か……詠奈って言ったっけ」
     詠奈が顔を上げると、そこには空飛・空牙(影蝕の咎空・d05202)と葛木・一(適応概念・d01791)が立っている。
    「え、あなた達は……」
    「この学校のOBの空牙だ。こっちは弟の一な」
    「よろしく!」
     一も元気よく挨拶し、詠奈もつられて会釈した。
    「修弥から聞いてるぜ、あんたの事」
    「修弥先輩の事、知ってるんですか?」
    「オレ達、良く一緒に遊んでるんだ! ……でもなんか、悩みある感じ?」
     陰りのある詠奈の表情に、一が首を傾げる。
     あー、と空牙がぽんと手を叩く。
    「そういや最近、小説のオチが決まらなくてどうとか言ってたな。あんまり気にしないでやってくれ。あいつ、今はスランプで苛立ってるだけだから、しばらくしたらまた読んでやってな」
    「そ、そうですよね……」
    「じゃあ今日はオレと遊ぼうぜ、気分転換にさ!」
     一の無邪気な誘いに気分がほぐれたのか、詠奈も少し顔をほころばせて頷いた。

    「あっ、先輩もネタ探しですか?」
     静まりかえった図書室で修弥が本を読んでいると、横合いから声がかけられた。
     見れば、三つ編み眼鏡に何冊もの本を抱えたベルタ・ユーゴー(アベノ・d00617)が興味津々といった風情で修弥の手元を覗き込んできている。
    「えっ……うん、書いてる小説のだけど」
    「そうなんですか……実は私も物書きのはしくれでして! 先輩はどんなの書いてるんですか?」
     ファンタジーだけど、と修弥が居心地悪そうに目線を外すと、その先には新たに図書室へ入って来た空牙と、パニーニャ・バルテッサ(せめて心に花の輪を・d11070)がいる。
    「どっか上の空だな少年。悩み事か?」
     ぽかんとする修弥に、空牙が自分はOBだと紹介。
    「というか奇遇だな、俺らも文芸同好会入ってんだ」
    「私はボーイズラブとか好物なんですよねー。さっそくですけど修弥先輩と空牙先輩の絡みで一本書いちゃってもいいですか?」
     やめい、と空牙がベルタにツッコみを入れている横で、ファンタジー小説を読み進めていたパニーニャが話しかけた。
    「それ、後で借りたいんだけど……良かったら後で見せてくれない?」
    「あ、はい、いいよ……人気作だし」
     頷く修弥に、パニーニャが微笑みかける。
    「こゆ本は楽しいのよね……未完の物はなおさら、続きが気になるし」
    「うん……俺も早く自分の小説、仕上げないと」
    「良かったら相談に乗ってあげてもいいわよ。見ず知らずの私でよければ……だケド」
     おどけるパニーニャに修弥は薄く笑い、空牙も口を挟む。
    「何なら俺も相談乗るぜ? 読んでくれる人いた方がはかどるだろ。そういう子いねぇの?」
    「いる、んですけど……今はちょっと忙しくて」
     目を伏せる修弥の肩を、空牙がけらけら笑いながら気安く叩く。
    「ま、元気出せよ少年。読んでくれる人がいるなら大丈夫さ」
    「男同士の友情キター! できればもっとこう寄り添う感じで!」
    「アンタはもっと自重しなさい」
     ベルタがパニーニャにたしなめられ、四人の会話は弾んでいった。
     時間が経過し、修弥は三人に礼を言ってその場を後にする。
    「ベヘリタス幼体……何体か狩ったが、本体は弱ったりしねぇのか? ……まぁ、どうでもいいか。シャドウはただ、狩るだけだ」
     立ち去る修弥の頭上に浮かぶ黒紫の卵を見据え、空牙が呟く。
    「このボクが関わったからには物語はハッピーエンドしか認めへん!」
     絆も小説もハッピーエンドで終わらせてみせる、とベルタも決意を表明したのだった。

    ●承
     翌日。
     放課後、ファミレスへ直行した修弥は飲み物を片手に、原稿と孤独な戦いを続けていた。
     するとそこへ、空牙と一が連れ立って歩み寄ってくる。
    「これまた奇遇だな少年。今日は同好会の仲間も来る予定になってるんだ」
    「あ、どうも……」
    「弟の一だぜ、よろしく!」
     続いてベルタも入店し、自然な調子で修弥達と同席した。
    「ボクもなんか煮詰まっちゃって来る事になったんですけど、先輩もいるなんてすごい偶然ですね。もうすぐ他のみんなも……あ、こっちこっち!」
     振り返って手を振り、入ってくる仲間達を誘導する。
    「こんにちは修弥さん。あなたの事は聞いてますよ」
    「とりあえずパフェでも頼むかな……と、今日はよろしくです」
     龍海・柊夜(牙ヲ折ル者・d01176)と廣羽・杏理(フィリアカルヴァリエ・d16834)が並んで座り、ベリザリオ・カストロー(罪を犯した断罪者・d16065)とパニーニャも空いた席へ腰掛ける。
    「ごきげんよう。今日は先輩作家としての意見、聞かせていただけると嬉しいですわ」
    「昨日の話の続きも気になるし……ね?」
    「私たちも今度、小説を投稿する為にアイデアを出し合っていたんです。一人で考えるだけだと煮詰まりますし、よろしければ修弥さんもご一緒しませんか?」
     シャノン・リュミエール(石英のアルラウネ・d28186)が誘うと、修弥は迷う素振りを見せた後、ややあって頷いた。
    「いいよ……俺なんかでよければ」
     それぞれの自己紹介も終え、口火を切ったのは柊夜だった。
    「修弥さんは何か、好きな本はありますか?」
    「えっと……」
     本の事になると饒舌になるのか、修弥はいくつかまとめてタイトルを挙げた。
    「なるほど……それは私も読んだ事があります。起承転結がしっかりしていて、最後には驚くようなどんでん返しもある、王道の良さがよく分かる内容でしたね」
     私もこんな本を読んだ事がありますよ、と柊夜も自分のお勧めの小説を挙げていき、感想を話し合う事で場を盛り上げていく。
    「兄ちゃんの書いてる小説もオレ、読んでみたいな。ちょっとだけいい?」
    「まだ途中だけど、それでもよければ……」
     やりぃ、と喜ぶ一に原稿を渡すと、パフェを食べていた杏理が声を掛けた。
    「僕が好きなのはサスペンスや群像劇。筆が進まなくてインプットに徹してるとこです」
     と、持参してきた文庫本をさらさらと見せる。
    「出だしを決めれば結末が難産、逆も然りでさ。……特に結末に悩むんだ、読後感にも大きく関わってくるからなあ」
    「ああ……それはたしかに」
    「あとたまに語彙でぶつかる」
     あるある、と頷く修弥に、私も相談に乗って欲しいのですが、とベリザリオが口を開く。
    「好きな小説に憧れて始めましたの。書きたいシーンを文章に仕立てるのに四苦八苦ですわ」
    「それ、プロットとか書いたノートですよね。ちょっと見せてもらえますか」
     ベリザリオから受け取り、修弥は真剣な目でプロットを読み込んでいる。
    「良く書けていると思います。場面の配置も的確で、終わり方も綺麗ですし」
    「終わりまでの大きな流れを決めていても、書き進めるうちに何故か違う終わりになってしまうこともありますよね」
     経験談ですが、と柊夜が付け足す。
    「はい。初心者の人が陥りがちで、最初の内は途中でこれを足したい、削りたいとか迷ってしまうんですよね。でもとりあえずプロット通りに書いていければ計画通りに進められる実力と自信もつくと思います。……なんて、上から目線で済みませんが」
    「いえいえ、とても勉強になりますわ。そのアドバイス、胸に刻んでおきましょう」
     そんな大層な、と苦笑する修弥を見ながらベルタがネタ帳を開き、忙しなく何か書き込んでいる。
    「うーん先輩方、美形ばっかりで妄想がはかどるはかどる! もうたまらんー!」
    「だから真面目な話してる時に、ちょっとは自重しなさいって」
     パニーニャがチョップを入れ、笑いが広がっていった。

    ●転
    「……そして仲間達はついに、凶悪極まる殺人鬼を撃退するに至りました。かなりの強敵でしたが、誰も欠ける事なく任務を成功させられたのです」
     シャノンはこれまでに受けた依頼を物語風に語り、修弥に聞かせていた。
     修弥は冒険譚の一つ一つに耳を傾け、浮かんだアイデアをノートに書き留めている。
    「とても面白い話だね。実際にその場にいたみたいな臨場感すら感じるよ」
    「うまく話せるか心配だったのですが、それならば嬉しいです」
    「騎士やロボットとの激闘とか、大蜘蛛退治の話とか、聞いているだけでインスピレーションが刺激されるよ」
    「実は俺も暖めてる話があってさ。絆を奪う魔物の話なんだけど」
     空牙の身振り手振りを交えた話しぶりに修弥は時間を忘れて聞き入っているようだ。
    「すっごい面白かったぞ! こんなの書けるとか兄ちゃんすげーっ」
     その間、熱心に修弥の小説を読みふけっていた一が声を上げる。
    「そ、そう……?」
    「絶対これ賞取れるって!」
    「でも、さっきも言ったようにまだ途中なんだよね……。なんか、ラストが思いつかなくて……」
     んー、と一は腕組みをして考える仕草をする。
    「兄ちゃんはさ、書くのが難しいって言うより終わらせるのが寂しかったんじゃないのかな? 悩んでる事解決したら良い続きが書けると思うぜ」
    「悩んでる事……」
     するとパフェを食べ終わった杏理が時計を確認し、提案するように口を開く。
    「もっと話したいけどこれ以上居座るのは店に悪いから、そろそろ外に出ようよ」
    「あ……本当だ。もうこんな時間」
    「では、折角なので駅まで一緒に帰りましょう」
    「中途半端に終わらせるのも何だし、駅につくまで盛り上がっていかない?」
    「歩きながらの方が頭も働くそうですわ」
     シャノンやパニーニャ達の誘いに、修弥は素直に立ち上がる。
    「それでは、出ましょうか」
     柊夜に先導され、一行は帰り道につく。
     歩きながらも話題は尽きず、ふと足を止めたベルタが道の横を指差す。
    「先輩、そこの公園もネタを考えるのにいい場所ですよ」
    「でも、あまり寄り道するのは……」
    「いえ、先ほどから修弥さんの顔色が優れないので、少し休憩されていってはどうでしょう?」
     そうだろうか、と修弥は迷っている様子だ。
    「ずっと悩み続けで、無理をするのも良くありませんよ」
     柊夜の勧めもあり、修弥はとりあえず公園へ行く事に決めたようだ。

    ●結
     異変があったのは、修弥が公園のベンチへ腰掛けようとした瞬間。
     ぱき、と前触れなく頭上の卵にヒビが入る。
     修弥が目を上げると同時、急激に膨張したベヘリタスの卵が破裂し、中からどす黒く巨大な書物が姿を現していた。
    「現れましたね!」
    「兄ちゃんの絆は取り戻してやるからな!」
     シャノンと一がすかさず殺界形成を展開。
    「修弥さんは下がっていてください!」
     動揺する修弥をかばうようにベリザリオが立ち、スレイヤーカードを解放させる。
    「始めましょうか……すぐに終わらせてもらいますよ」
     先んじて肉薄した柊夜が、ゆらめくベヘリタスめがけて破邪の斬撃を見舞う。
    「その小説、誰に読んで欲しかったのか思い出すんや!」
     離れて行く修弥を見届け、ベルタが叫ぶ。レイザースラストを放ち、敵を縫い付けるように串刺しにしていく。
    「人の大事なものを勝手に持って行かないでほしいよね。まして餌にされちゃ堪らないよ……野に放つのもとんでもない」
     もがく敵に狙いを定め、飛び込んだ杏理が鬼神変で痛烈に殴りつける。
    「時間だシャドウ……消え失せろ」
     表情を消し、総身から殺気をみなぎらせた空牙が切迫、回り込みながら斬り裂いてのける。
    「人の絆を弄ぶなんて……この卵の大元を片付けられる日はいつでしょう」
     小さく息を吐いたベリザリオが、シールドを張り巡らして仲間達の守備を固めていく。
    「彼らを繋いでいた物語も絆も……盗ませないわよっ!」
     パニーニャの差し向けた帯がベヘリタスを真っ向から貫く。
    「効いていますね……」
     柊夜達の一斉攻撃により、強敵ベヘリタスを着実に追い込んでいる。
     結んだ絆が、奪おうとする魔物相手に抵抗している。そんな風にすら感じられた。
     だが、ベヘリタスのページが開いたかと思うと無数の呪いが発せられ、前衛達を次々と襲う。
    「きつい……けど、耐えられないほどじゃない!」
     鉄、と一が霊犬の名を叫び、二人は集気法と浄霊眼を続けて使用し傷を受けた仲間を癒す。
    「援護します!」
     シャノンも懸命にイエローサインを行使し、猛攻にさらされる戦線を支えた。
     ベヘリタスから闇色の弾丸が射出される。それは杏理目指して飛来していくが、寸前で振るわれた神薙刃が攻撃の軌道を逸らす。
     直後、吹き抜ける冷たい風をまとうように接近し、至近距離からグラインドファイアを浴びせかけた。
     燃え上がるベヘリタスの身体。灼滅者達から距離を取ろうとするが、空牙はそれを許さない。
    「そんじゃ、狩らせてもらうぜ? ……お前のその存在を」
     冷たく告げて、かざした銃口から銃弾を発射。ベヘリタスを穴だらけにしていく。
    「闇に墜ちた哀れな魂を今――目覚めさせたる!」
     決めセリフを言い放ったベルタが、ふらつく敵を掴み上げてこれでもかと叩きつけた。
     ベヘリタスは耐えきれずにぱらぱらと白紙のページを風に舞わせ、夜気へ溶けるように消滅していった。

    「小説と同じくらい、大事だったはずなのに……俺は……」
     座り込む修弥に、変装を解いたベルタが威勢良く声をかける。
    「今日のこの体験、とっても貴重な体験やったと思えへん?」
     言って、書きかけの原稿を手渡す。
    「ボクらよりももっと物語の結末を読みたがってる可愛い後輩いるやろ。男やったらビシっと謝ったりや!」
    「邪険にした事は兄ちゃんのせいじゃ無いぜ。けどもやもやしたままじゃ駄目だろ? 読んでくれる奴がいないときっとつまんないよ。感想があるから話が広がるんだと思うな」
     一も横へ座る。
    「そうかな……」
    「読者泣かせるのは話だけにしとけよ? なんてね」
     にししと笑い、詠奈と交換したアドレスを教えた。
    「過ぎたこと悩んでも仕方ねぇよ。今度頭下げてまた読んでもらえ。ケセラセラ、ってな」
    「気まずいかもしれませんがなるべく早く謝ることをお勧めしますよ。できるなら今すぐにでも。心から謝ればわかってくれますよ。それくらいの付き合いはあったのでしょう?」
     空牙と柊夜の言葉を受け、修弥はアドレスと原稿を見つめて考え込んでいる様子だ。
    「考えたんだけどね、物語の結末って、読んだ人にどんな顔をしてほしいかじゃないかな。読んでほしい人の顔を想像してみてよ。……あるでしょ、誰々に捧ぐ、って書いてある物語。そんな風にさ」
     杏理が静かに言って、ベリザリオも力強く頷く。
    「小説も現実も山あり谷ありですわ。ハッピーエンドを目指すならまず行動ですの」
    「次回は恋愛物にも挑戦してみませんか?」
     シャノンがちゃめっけ混じりに言うと、修弥は照れたように立ち上がる。
    「考えてみる。とりあえず、詠奈に連絡してみるよ……ごめん、って」
    「頑張って! 応援してるからね」
     パニーニャに励まされ、修弥は覚悟を決めたように、携帯電話を取りだした。

    作者:霧柄頼道 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2015年6月7日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 1/キャラが大事にされていた 8
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