武者アンデッド北へ~既死廻生

    作者:西東西


     ひとしれぬ闇の懐にて。
     場を支配する禍々しい気のなかにあって、涼やかに佇むひとりの男が在った。
     男の名は、『白の王』セイメイ。
     かつて『羅刹佰鬼陣』で武蔵坂学園の灼滅者たちとまみえた際、『縁の簒奪者』であり、『業の蒐集者』とも名乗ったダークネスだ。
     セイメイは眼前に平伏し、下知を待つ数多の武者アンデッドたちを見渡し、切れ長の眼を細め、告げる。
    「北征入道への合力が、そなたらの望みでございますか」
     武者鎧のアンデッドたちよりも、儚げに見えるその姿。
     しかし主の言葉を受け、アンデッドたちはさらに深く平伏するばかり。
    「よろしいでしょう。各地に封じていた武者たちを呼び起こし、北征入道の元に馳せ参じさせましょう」
     佇んでいるだけにも関わらず感じる、凄まじい威圧感。
     アンデッドたちは頭蓋を地に押しつけ、ただただ、その場にひれ伏し続ける。
    「蒼の王コルベインの北征洞窟が現世に出現する事は、私の計画の助けにはなれど、邪魔にはならないのですから」

     はるか、北の地へ向け。
     おびただしい数の闇が、動きだそうとしていた――。
     

    「このところ各種ダークネスの不穏な動きが眼につくが……。今度は『白の王』セイメイが、札幌で事件を起こしているノーライフキングの元へ、援軍を派遣しようとしていることがわかった」
     事前に読み返していた「白の王セイメイ」「札幌地下鉄ダンジョン事件」などの関連資料を手に、一夜崎・一夜(大学生エクスブレイン・dn0023)が説明を開始する。

     今回セイメイが北海道に送りこむ援軍は、鎌倉時代の武者のような姿のアンデッドたち。
     予測により、ダークネスに準じる力を持つほどの強力な個体の出現も確認されている。
    「アンデッドたちは『源平合戦の古戦場』など、因縁のある地域に封印されている。封印が解かれ現場に出現するまでには、いくらか猶予があるようだ」
     ただし。
     出現してから10分程度で、アンデッドたちは地に飲まれるように消え、北海道のダンジョンへと転移してしまう。
     そうなっては、灼滅者たちが敵に追いすがる手立てはない。
    「よって、アンデッドが出現する場所で待機。敵を確認しだい交戦し、地に消えるまでに、できうる限り戦力を削いで欲しい」
     
     時刻は、深夜。
     天候は、曇天。
     場所は、かつて合戦場だったという地方の海岸。
     強力な武者アンデッド『左内紋十郎(さない・もんじゅうろう)』1体と、配下の武者アンデッドが10体。
     合計11体が出現し、戦闘となる。
    「左内紋十郎は、出現するアンデッドのなかでもっとも強力な個体だ。体力が高く、巨大な剣を手に荒々しい攻撃を仕掛けてくる」
     ほかの配下にくらべひとまわり大きな図体をしているため、見た目で判別することが可能だ。
     やや俊敏さに欠けるものの、そのぶん、一撃の殺傷力は他のアンデッドを大きくしのぐ。
     主への忠義心があつく、機知にも富むため、灼滅は困難を極めるだろう。
     一方、配下アンデッドも、それぞれが灼滅者より強い戦闘力を有している。
     紋十郎を守る者、場をかく乱する者、支援にまわる者、回復する者など、個々に思考し、連携をとって行動してくる。
     ある程度の判断力もあるため、一辺倒の戦い方では、逆に切り崩されるおそれもある。

    「敵は出現後10分たてば逃走する。また灼滅者が敗走することとなった場合も、追撃を仕掛けてくることはない」
     そのため、戦闘は最長10分。
     よほどのことがなければ全滅することはないと思われるが、できうる限りの策をたて、対峙することが望ましい。
     なお深夜のため、戦場となる海岸の周囲にひと気はない。障害物もない。
     雲ってはいるものの、視界も充分に確保できる。
     ――強大な敵群を前に、いかにして戦うか。
     現場での作戦と判断力、覚悟が、すべての要となるだろう。
     
    「白の王セイメイが援軍を送るとなれば、札幌の事件にもなんらかの動きがでる可能性が高い」
     しかし、このままダークネスたちの思惑通りにさせるわけにはいかない。
    「今回の戦いは、敵戦力を削ぐことのできる重要な機会だ。この機にセイメイ配下を可能な限り灼滅し、次なる動きに備えるのが得策だろう」
     私たちエクスブレインも、引き続き予測に努めると告げ。
    「武運を」
     一夜は唇を引き結び、深々と、頭をさげた。


    参加者
    朝山・千巻(懺悔リコリス・d00396)
    住矢・慧樹(クロスファイア・d04132)
    志賀神・磯良(竜殿・d05091)
    鍛冶・禄太(ロクロック・d10198)
    静闇・炉亞(刻咲世壊・d13842)
    化野・十四行(徒人・d21790)
    永星・にあ(紫氷・d24441)
    辻凪・示天(彼方の深淵・d31404)

    ■リプレイ

    ●幕間
     ――圧倒的な脅威と対峙する時、いかに立ち回るべきか。
     出発直前まで議論を尽くした後、灼滅者たちは戦術以外の部分で、いくつか策を打つことに決めた。
     戦場となる海岸へ早めに向かい、
    「さあさあ阿曇、頑張るのです!」
     志賀神・磯良(竜殿・d05091)とともに、霊犬『阿曇(あづみ)』が穴掘り開始。
    「柴~、穴を隠すための柴はいらんかね~?」
     化野・十四行(徒人・d21790)が柴の束を背に声をかければ、
    「それ、落ちとったん!?」
     浜辺で拾ったという大き目の流木を手に、鍛冶・禄太(ロクロック・d10198)が驚きながらも作業に加わる。
    「ランタン、設置してきたぜ!」
    「俺の仕掛けも、設置完了だ」
     光源と仕掛け花火を準備するため離れていた住矢・慧樹(クロスファイア・d04132)と辻凪・示天(彼方の深淵・d31404)が戻り、設置場所と仕掛けについて情報共有。
    「内臓とかが見える敵は苦手なんですよね……」
     そうつぶやく永星・にあ(紫氷・d24441)は、浮かない顔。
     せめて出現する敵が、完全な骸骨体であることを願うばかり。
    「白の王セイメイ……。武者鎧の亡者を呼び集めて、一体何をするつもりなのでしょう」
     静闇・炉亞(刻咲世壊・d13842)の呟きに答えられる者は、だれも居ない。
    「難しい戦いだけど、やるっきゃない! よねっ」
     朝山・千巻(懺悔リコリス・d00396)の言葉に、8人が力強く頷く。
     考えうる限りの策は、用意した。
     ――あとは、力を尽くすのみ。

    ●序
     黄昏を見送り、空が宵闇に染まるころ。
     湿り気を帯びた空気に、雨の匂い。
     潮騒に聞きいりながら目を凝らせば、海岸に青白い鬼火がいくつも浮かび、甲冑を身にまとったアンデッドへと姿を変えていく。
     灼滅者たちは昼間のうちに設置していた灯りで戦場一帯の視界を確保すると、スレイヤーカードの封印を解放。
     ペイントボールを手にした千巻が真っ先に駆け抜け、腕を振りかぶる。
    「いっくよ~っ!」
     投げつけたボールが盾を手にしたアンデッドに命中!
     弾けた色は、赤。
     続けて見つけた剣兵には、緑のボールを投げつける。
    『……灼滅者』
    『灼滅者ダ』
     襲撃を察知したアンデッドたちが武器を構え、灼滅者たちへ向け、次々と攻撃を開始する。
    「死者の兵士ですか……。まるで、百鬼夜行のようで不気味です」
     にあは敵の身がすべて完全な骨の身であることに安堵しつつ、用意していた薬で己の肉体を強化。
     その横をすり抜け、『死を診る眼』を見開いた炉亞が、吠える。
    「死者を使役するなど言語道断! 僕たちで、送らせていただきます!!」
     左内の姿は、敵軍の奥。
     炉亞は交通標識を唸らせると、赤いペイントが付着した盾兵めがけ、殴りかかった。
     その背を見守りながら、磯良は妖怪絵巻『百鬼徒然袋』を手に、敵軍を一瞥。
    「祓い給え、清め給え」
     仲間たちが攻撃を終え退避する瞬間を狙い、武者アンデッドを一斉に爆破する。
     しかし、敵軍もすぐに隊列を整え、反撃開始。
    『殺セ』
    『討チ殺セ』
    『首ヲ獲リ、主君ヘの土産ト成ソウゾ』
     鬼火矢が流星のごとく降りそそぐなか、槍兵、盾突らが武器を手に、灼滅者たちをかく乱しにかかる。
     攻撃線上に飛びだした磯良の霊犬『阿曇』、示天のライドキャリバー『アンサラー』が、攻撃をその身に受け、はね飛ばされて。
     次の瞬間、黒き波動と氷のつららが、波状となって敵軍を薙ぎはらった。
    「弾幕張るようなもんだ」
     鮮やかな染めの着物に身を包み、長柄の鎌を手にした十四行がニヤリと嗤い。
    「大脳も喪失しているはずなのに、どうやって思考をしているのか『分解』して調べてみたいものだが――」
     「まぁ無理か」と示天がぼやき、刀兵の繰りだした衝撃派を回避。
     浜砂を踏みしめ、後方へと位置を移す。
     禄太は手にした蝋燭で周囲へ黒煙をたち昇らせながら、
    「ほれほれ! やれるもんなら、首獲ってみぃや!」
     向かいくるアンデッドたちへ、昼間に拾った流木や、挑戦的な言葉を投げつける。
     灼滅者たちが敵に押されるよう、戦場を移すなか。
     慧樹はライドキャリバー『ぶんぶん丸』に乗り敵軍の横あいへ回ると、見あげるほどに大きな体躯の武者へ向け、声を張りあげた。
    「左内紋十郎だな」
    『いかにも。北征入道が臣下のひとり。左内紋十郎である』
     虚ろに響く声音が空気を震わせ、眼孔を光らせたアンデッドがひたと見おろす。
    「俺は大将を預かる住矢慧樹。主の呼びかけに死してなお応えようとする、その姿。敵ながら感心させられた。正々堂々、一騎打ちを申しこみたい!」
     気づいた剣兵と弓兵が攻撃を仕掛けようとするも、左内は大剣を手に、それを制した。
    『半端者の身でありながら、気概だけは十分とみえる』
     ドッと砂に大剣を打ちおろし、続ける。
    『よかろう。その「馬」とともに、打ってくるがいい』
     敵と間近で対峙する場合、サーヴァントが個別の戦力であることは隠し通せるものではない。
     ――一騎打ちには、一騎打ちで応えよう。
     そう、考えていたが。
     慧樹は一瞬迷った後、ライドキャリバーとともに対峙することを選んだ。
     左内を前にして、理解した。
     ダークネス級の眷属を、ひとりで相手にするということが、どういうことか。
     光弱まり、夜闇が色濃く見えるほどの。
     大気凍りつき、ひやり肌を撫でるほどの。
     場を塗り替えるほどのおぞましい気配に呑まれかけながら、慧樹は己を鼓舞するように、叫んだ。
    「こいつは『ぶんぶん丸』ってんだ! 行くぜ左内!」
     ライドキャリバーが応えるように唸りをあげ。
     大剣を振りあげた武者アンデッドめがけ、全速力で突撃をしかけた。

    ●破
     慧樹と左内紋十郎が、一騎打ちをはじめたころ。
     海岸では10体のアンデッドと7人の灼滅者が入り乱れ、まるでかつての合戦のよう。
     そんななかにあって、アンデッドたちと灼滅者の動きの差を決定付けたのは、灼滅者によるペイントボールでの敵の色分けだった。
     最優先で撃破を狙いたい盾兵は、『赤』。
     次点で倒したい剣兵は、『緑』。
     その次に狙いたい弓兵は、『黄』。
     色ごとに撃破の優先順位を決めていたおかげで、敵味方が入り乱れる混戦の場であっても、灼滅者たちが攻撃相手を迷うことはない。
    「盾兵2体め、灼滅しました!」
     敵の急所を切断・摘出したにあが告げ、灼滅者たちは次なる狙いを剣兵へと定める。
     敵も味方も攻撃を撃ちあい、回復手が負けじと味方を癒すなか。
     少年少女たちはアンデッドたちに気づかれぬよう、少しずつ、戦線を引き下げていく。
    『半端者ドモメ……!』
    『何ヲシテイル、殺セ!』
     これから主の元へ向かおうというところで、ぽっと出の灼滅者に侮られてはたまらない。
     アンデッドたちは勇み、灼滅者たちをさらに追い詰めようとしたが、
    『グアッ!』
    『ヌオ!』
     悲鳴をあげた武者が次々と体勢を崩し、敵軍の隊列が乱れた。
     警戒し、退避しようとすれば、また別の位置に穴。
     夜の混戦とあって、敵も足元にまでは注意をはらっていなかったらしい。
     十四行が芝を被せた落とし穴にも、しっかり、敵が落ちている。
    『オノレ、舐メタマネヲ……!』
     ただの落とし穴であるため、ダメージを与えることはできない。
     しかしこれを機に敵の連携は崩れ、各々が身勝手に灼滅者たちを狙いはじめた。
     ――灼滅者たちは、この時を待っていたのだ。
     気合十分、覚悟も十分。
     回復も守りもすべてを仲間に託し、拳を固めた千巻が剣兵の間合いへ飛びこむ。
    「ここは『此岸(しがん)』の海。『彼岸』の海は、あっちだよ!」
     叫びとともに、怒涛の如き勢いで百の拳を叩きつけ。
     殴り飛ばした先には、ローラーダッシュで駆けつけた炉亞が待つ。
     燃えあがる脚で空を薙ぎ、
    「荼毘に付してさしあげましょう!」
     叩きつけた炎が延焼し、剣兵の身があっという間に火だるまと化す。
     なおも剣撃を繰りだそうとしたアンデッドの身を貫いたのは、五色の幣帛だ。
    「うまく出鼻を挫けたようだね」
     灰と化し、消滅する剣兵を見送り、磯良が切れ長の眼を細める。
     続く十四行は槍兵が繰りだした槍を同じく槍で跳ねあげ、呪文めいた言葉を紡いだ。
    「鬼儺、鬼儺」
     厄払いとばかりに槍を繰りだせば、狙いすました一撃が敵の急所を穿つ。
     気づいた弓兵が鬼火矢で剣兵の回復をすべく動くも、ライドキャリバー『アンサラー』が弾幕を張り、敵軍を牽制。
     敵軍がたたらを踏んだところに、重い、鉄の刃が降り注ぐ。
     ――ザン!
    「これで、剣の武者は終わりか」
     2体目の剣兵が示天のギロチンの露と消え、残るアンデッドは6体。
     黄色のペイントが付いた、弓兵へと攻撃を集中させる。
     その時、戦場に6度目の花火があがった。
     アンデッドたちはその音に驚くでなく、淡々と攻撃を繰りだし続けていたが、灼滅者たちにとってその花火は、時告げの音。
     混戦となれば時計を見る余裕がなくなる可能性があると考えた示天が、あらかじめ、1分ごとに花火があがるよう仕込みをしておいたのだ。
     目標としていた灼滅数は、5体。
     残り4分となれば、もう1体か2体は灼滅できそうだと、灼滅者たちが思いめぐらせた、その時。
    「住矢君!!」
     声をあげた禄太が、慧樹の元へと、駆けた。

    ●急
     左内紋十郎との一騎打ちを開始した慧樹は、ライドキャリバー『ぶんぶん丸』とともに、果敢に攻撃に打ってでた。
     この場に現れたアンデッドの中でも、最も強く、厄介な相手だ。
     左内をこの場に引きつけておくことができれば、それだけほかの灼滅者たちの負担が減り、動きやすくなる。
    (「倒れないことを、第一に――」)
     とはいえ左内の一撃はあまりにも重く、戦いが長引けば、回復と防御に回らざるをえなくなることは明らか。
     武者の眼がほかへ向かないようWOKシールドで殴りつけ、冷気のつららを撃ちはなち、少しでも傷がかさむようにと立ちまわり続ける。
     やがて顕現した鬼火に焼かれ、『ぶんぶん丸』が限界を迎えて。
     消滅していくサーヴァントを見送り、左内を睨めつける。
    『どうした住矢慧樹。己の無力を悟ったか』
     もとより灼滅者1人とサーヴァント1体など、相手にもならぬと考えていたのだろう。
     左内が再び身構えるよりも早く、慧樹はWOKシールドを手に、駆けた。
    「勝手に、勝った気になるなよ!!」
     渾身の力をこめて殴り掛かれば、骸骨武者の暗い眼窩が、慧樹を覗きこむ。
    『笑止』
     言い捨てると同時に、大地を割るがごとく振りおろされた超弩級の一撃が慧樹の身を砂浜に叩きつけ。
     血を吐きながら、慧樹はなおも武器を手に立ちあがろうとした。
     しかし手指は動きこそすれ、身体は声なき悲鳴をあげ、動かない。
     左内の剣が高く振りあげられるのを見やり、慧樹は奥歯を噛みしめ、そして――。
    「住矢君!!」
     駆けつけた禄太がすかさず帯を射出し、その身を癒したうえで、守りを固める。
     続いてアンデッドの間合いに飛びこんだ霊犬『阿曇』が、牽制するように斬魔刀で斬りかかり。
    「俺の目の黒い内は、誰ひとり、倒れさせへん!」
     禄太の宣言に続くように、戦場に滑りこんだ示天のライドキャリバー『アンサラー』が、慧樹をかばうよう左内へ突撃を仕掛ける。
     ほかの仲間たちは、今なお、残るアンデッドたちを相手に立ち回っている。
     慧樹はふたたび立ちあがり、槍の柄を固く、握り締める。

     ドンと花火があがり、8分目の経過を知らせる。
     慧樹の元へ向かった禄太とサーヴァントたちを見送り、残る灼滅者たちは全力で攻撃を仕掛けていた。
     慧樹が左内を繋ぎとめているからこそ、アンデッドたちの統率を乱したまま、迅速な灼滅ができているのだ。
     慧樹があの場を退くことができぬように、6人の灼滅者たちもまた、今立つ戦場を動くことはできない。
    「キミたちは、ここで私たちに倒されるんだ」
     装束をひるがえし磯良が凛と禁呪を唱えれば、向かいくるアンデッドが次々と爆破され。
     断罪輪を手にした千巻が、決意もろとも弓兵へと斬りかかる。
    「貴方たちにも絶対の信念があるんだろうけど、私も、此処から一歩も退かない!!」
     続くにあが横合いからマテリアルロッドで打ち据え、流しこんだ魔力で弓兵を内側から破壊していく。
    「6体目、灼滅完了です!」
     残り2分。
     ダイダロスベルトを射出した示天が、斬りかかってきた刀兵を縛りあげて。
    「ついでに、もう1体くらい灼滅しておきたいところだ」
    「もちろん、そのつもりです!」
     死角から迫った炉亞が、解体ナイフを一閃。
     甲冑ごとアンデッドを深く斬り裂く。
     十四行はこれまでに積み重ねた敵の傷を見やり、制限時間いっぱいまで敵を屠るべく、鎌を掲げた。
    「なに。1体と言わず、2体でも、3体でも」
     ドッと鈍い音をたて、アンデッドたちの身に鉄の刃が降り注ぐ。
     新たに灰と化した兵を一瞥し、灼滅者たちは次なる標的へと狙いを定め――。

     永遠とも思える、10分間。
     灼滅者たちは、最終的に計8体の灼滅に成功。
     残る左内紋十郎と2体の武者アンデッドたちはエクスブレインの予測の通り、地に呑まれるように消えていった。

    ●終幕
     戦闘後。
     灼滅者たちは互いの無事を確かめあい、浜に膝をついた。
     禄太は仲間たちを癒して回りながら、心から安堵の吐息を零す。
    (「良かった。だれも、深手負ってへん」)
     それぞれ満身創痍で、痛みや疲労は残っているものの。
     重傷者は、ひとりもいない。
     ――手際よく、確実に敵を仕留められたこと。
     それが灼滅者たちの被害を減らし、圧倒的な敵軍を相手にしての勝利を決定づけたのだ。
     しかし討ちもらした3体の敵は、北海道へ援軍として送りこまれているはずだ。
    「セイメイって、色々コネクションあるよねぇ」
    「『北征洞窟』は札幌のダンジョン、なら『北征入道』は、それを守る人?」
     予測の内容を振り返りながら、千巻と炉亞が思考を巡らせ、推理を試みる。
     未だわからないことは多いが、学園にもどり情報を集めれば、敵の新たな動きが見えてくるかもしれない。
    「……次は北か」
     大戦の予感を受け、磯良が複雑な面持ちで呟き。
     他戦場へ向かっていた大切な友が、無事であるようにと願う。
    「また、左内と戦うこともあるのかなあ」
     逃したアンデッドを思い返し、慧樹が砂浜に身を投げる。
    「そうなったら、また皆で戦場に穴を掘るか」
    「まぁ、その時はその時だ」
     十四行の言葉に、いま考えたところで仕方がないと、示天も告げて。
     仲間たちの会話をよそに、にあは空を仰ぐ。
    「あ、見てください。星が綺麗ですよー」
     マイペースな声につられて、少年少女たちがどれどれと、そろって視線を宙へ向けた。

     いつしか雲は晴れ、宵闇に満天の星が瞬く。
     世にはびこる闇はまだ色濃く、限りないように思えるけれど。
     ――ひとつの戦いを、無事に終えられたこと。
     ただその充足感に浸りながら、8人は流れる星を見送った。
     
     

    作者:西東西 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2015年6月26日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 7/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 2
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