デカ盛りパスタ蹂躙ライブステージ!

    ●高崎市内某ライブハウス
    「みんなっ、今日はあたしのためにこんなに大勢集まってくれてありがとうっ! 単独ライブが開けるなんて、夢みたいだよっ」
     ステージ上、ドラムセットの前で涙ぐみながらMCしているのは、ピンクのパンクヘアの女。
    「うおぉーー!」
    「ドラミィーー!」
     ステージの下で歓声を上げたのは、いかにもオタクっぽい暑苦しい客達。『こんなに大勢』とか言ってるけど、せいぜい20人くらいか。
    「最後の曲、精一杯叩いて歌うよ! ラブリンスター様のナンバーから『ドキドキ☆ハートLOVE』楽しんでね!」
     うおお-! っと一層暑苦しい雄叫びが沸き、
    『ドキドキ(ドキドキ) ドキドキ☆ハート
     ドキドキ(ドキドキ) ドキドキ☆ハート』
     始まった歌とドラムに合わせ、客たちは、かけ声はもちろん、ケミカルライトを手に一糸乱れぬオタ芸を見せる……と、その時。
     バアアァン!
     客席後方の古びた防音扉が乱暴に開け放たれて。
    「間に合ったー!」
     現れたのはマントを翻した特撮ヒーロー風衣装の、筋肉むきむきの大男。但し頭が山盛りのパスタで、胸には『並盛り200g』と書いてある。
     珍客の登場に、女の歌とドラム、それからオタ芸も止まった。
     それに構わず男はステージに突進する。ケミカルライトにハチマキ姿の客達を片っ端から薙ぎ倒し踏みつけながら……。
     
    ●武蔵坂学園
    「んまあ……ダークネスに殴られたら、一般人なんてひとたまりもないじゃないの!」
     黒鳥・湖太郎(黒鳥の魔法使い・dn0097)が眉を顰めると、
    「そうなんです。予知が実現してしまうと、多くの死者が出ます」
     春祭・典(高校生エクスブレイン・dn0058)も渋い顔で頷いた。

     最近、ラブリンスター配下の淫魔が頻繁にライブを行っているという情報が集まっている。
     今までは、バベルの鎖がある為、ライブを開いても客が集まる事は無かったのだが、仲間になった七不思議使い達に噂としてライブ情報を流してもらうなどして、一般人を集めるのに成功したらしい。
     といっても、売れない地下アイドルくらいの集客力ではあるが。

    「今まで何度か武蔵坂と関わってきた、手平金ドラミィという淫魔が、高崎市のライブハウスで単独ステージを開きます」
     地方でひっそりライブを開ける程度の集客力はついたということか。
     ちなみにドラミィはラブリンのバックバンドのメンバーで、メインドラマーになるのを目標にして日々精進してるらしい。
    「それを聞きつけた『高崎デカ盛りパスタ怪人』がやってきて、客を蹴散らしてドラミィへと突進していくんです」
     実は高崎市、パスタの街なのである。しかも量も味もパワフルなのがご当地流。とんかつ乗っけちゃったりとか。
    「何が目的かしら?」
    「それはまだわかりません」
     典は残念そうに首を振って、
    「とにかく、一般人が殺戮される事態を招かないため、怪人がライブハウスに入るのを阻止して欲しいのです」
     湖太郎が頷くと、典は高崎市の地図を広げた。
    「ドラミィがライブを行っているのはこのライブハウスです」
     高崎市の裏通りの一角だ。
    「うらぶれたライブハウスなので、玄関を入ると小さなカウンターがあるだけで、すぐそこがホールの入り口です。建物内に戦闘スペースはありません」
    「周辺で待ち伏せしといて、ライブハウス前の道で戦うしかないってことね」
    「そうなんです。公道での戦闘となると、夜で裏通りとはいえ街中ですから、人払いや警備が必要になると思うんですよね……」
    「そこでアタシの出番ってわけね。人払いと警備のお手伝いをすればいいんでしょう?」
    「はい、よろしくお願いします」
     典は頭を下げてから、ちらっと湖太郎を上目遣いで見やり、
    「実はですね湖太郎さん、もうひとつ、事件を未然に防ぐ方法が無きにしもあらずなんですよ」
    「あら、未然に防げるならそれが一番なんじゃないの?」
    「怪人が現れる前に、ライブを解散させればいいんです」
    「なるほど……でも、ドラミィちゃんはきっと怒るわよねぇ?」
    「激怒でしょうね。多分ドラミィと戦わなければならなくなるでしょう」
     ドラミィ自身は下っ端淫魔なのでそれほど強くないが、戦闘途中にパスタ怪人が現れてしまったら、一般人を避難させながら、ダークネス2体を相手にする羽目になってしまう。
    「うーん……それはキツいわねえ……ラブリンちゃんとの関係もあるし」
     湖太郎は考えこんでしまった。
    「そのあたりは皆さんの判断にお任せしますよ」
     典はぽんと手を叩き。
    「とにかく高崎の惨劇を防ぐこと。これが大事です! そして無事に事件を解決したら……デカ盛りパスタに挑戦してみたらいいんじゃないですかね?」


    参加者
    今井・紅葉(蜜色金糸雀・d01605)
    唯済・光(確率と懸念の獣・d01710)
    中島九十三式・銀都(シーヴァナタラージャ・d03248)
    エウロペア・プロシヨン(舞踏天球儀・d04163)
    月村・アヅマ(風刃・d13869)
    リアナ・ディミニ(不変のオラトリオ・d18549)
    奏森・雨(カデンツァ・d29037)
    軽田・命(ノーカルタノーライフ・d33085)

    ■リプレイ

    ●ペペロンチーノ
     道を封鎖するように、緊急工事の看板やバリケードテープを設置してきた月村・アヅマ(風刃・d13869)奏森・雨(カデンツァ・d29037)軽田・命(ノーカルタノーライフ・d33085)が戻ってくると、今井・紅葉(蜜色金糸雀・d01605)が手招きした。
    「ここが隠れ場所にいいと思うのよ」
     彼女が示したのは、件のライブハウスと、隣の経営状況不明な怪しい喫茶店との間の狭い隙間。喫茶店裏口への通路らしいが、この時間は閉店しているので真っ暗だ。紅葉が昼間のうちに見つけた待ち伏せ場所。
     そこには、エウロペア・プロシヨン(舞踏天球儀・d04163)と、唯済・光(確率と懸念の獣・d01710)リアナ・ディミニ(不変のオラトリオ・d18549)が待っていた。
     すぐに中島九十三式・銀都(シーヴァナタラージャ・d03248)も、なんかげっそりして戻ってきた。彼はライブの受付をラブフェロモンで言いくるめておく担当なのだが、残念ながらムサい兄ちゃんだったのだ。でも正義のためにはやるしかない。
     リアナが銀都に場所を詰めてやりながら、
    「先日、違う淫魔を手助けしたばかりなのに、まさかこうやって手を貸すことになるなんて……最近は無粋な輩が多すぎよ」
     そうよね、と光が頷き、
    「貸し借りや因縁があるわけじゃないけど、とりあえず敵対してる勢力じゃないから、淫魔は放置でいいと思うよ。人を襲ってるわけでもなさそうだし」
     ラブリン派も勢力拡大に努めているようだが、現時点では一般人に直接被害をもたらすパスタ怪人の方が問題である。
    「とにかく……迷惑なお客さんを、ライブハウスに入れるわけには、いかない」
     雨が小さな声で、けれどキッパリと言い、仲間たちはしっかり頷いた。
     工事看板が効いてきたか、通りに人影が殆ど無くなってきた。工事看板のあたりでは、サポートの黒鳥・湖太郎(黒鳥の魔法使い・dn0097)が、警備員姿(もちろんノーメイク男装)で頑張ってるはずである。元々賑わっている通りではないので、この時間になれば開いている店も少ない。
     今夜はドラミィのライブを邪魔しないよう、人払いにESP殺界形成は使わない方針だ。万一戦闘中に一般人が現れた場合には、魂鎮めの風やプラチナチケット、ラブフェロモンで個別対応しようという、細かな心遣い。
     通りが静かになると、壁越しにかすかにドラムの音が響いてくる……と。
     ドドドドドドド……。
     静かな裏通りを揺るがして、近づいてくる足音。
     路地から顔だけ出すと。
    「遅れてしまったー!!」
     そんなことを叫びながら、マントをたなびかせた、頭がパスタの男がやってくる。間違えようもない、高崎デカ盛りパスタ怪人だ。
     灼滅者たちは頷き交わすと、それぞれ用意の小道具を手にし、アヅマはサウンドシャッターを発動した。
     
    ●カルボナーラ
     真っ先に路地を飛び出したエウロペアは、店の前に木のリンゴ箱を置いて飛び乗った。闇色の変形ゴシックドレスをひらひらさせて踊り出す。
     仲間たちは観客っぽくリンゴ箱を取り囲んで声援を送る。2匹のウイングキャットも、ぱたぱた楽しそうに飛び回る。
    「止まるのじゃ、そこのパスタの人!」
    「……なんだ?」
     やってきたパスタ怪人は即席ステージ前で急ブレーキをかけ、エウロペアは狐耳としっぽをぴくつかせ、婉然と微笑みかけた。
    「わらわの初めての路上パフォーマンス、そなたのような殿方にこそ、見て欲しいと思っていたのじゃ! そう、まるごと……全部」
     ここですかさずすらりとした脚をアピール。
    「それとも……わらわじゃ、ダメ?」
    「うほっ♪」
     パスタ怪人はあからさまな誘惑に鼻の下を伸ばした(パスタだけど)が、ぶるりと頭を振って、
    「ああ、いや、悪いが今夜どうしても会わねばならぬ女性が……あーっ!?」
     パスタ怪人は、やっとリンゴ箱を取り囲む灼滅者たちに気づいて(脚しか目に入ってなかったらしい)、
    「や、焼きそばなんか食ってるー! しかも太田の焼きそばじゃないかー!!」
     紅葉と命を指した。県東部太田市の名物である。
    「だって今日は焼きそばの気分なのですー」
    「パスタもいいけど、焼きそばの方が美味しいの……高崎のパスタは量も多いらしいし」
     ねー、と2人は顔を見合わせてから、これみよがしにわしわし頬張る。
    「高崎でわざわざ焼きそば食べんでもよかろうが!」
     怪人が焼きそばを取り上げようとした時、
    「待てよ!」
     たらこパスタの皿を掲げ、シュビッと割り込んだのは銀都。
    「高崎パスタの特徴とか、美味しい食べ方とか教えてくれよ!」
    「おっ、お前はわかっとるようだな!」
     怪人は途端に機嫌を直し、
    「そもそも高崎でパスタが盛んになったのは……」
     歴史から語りだしたが、
    「はっ! こんなことしてる場合じゃないんだって!」
     すぐに我に返ってしまった。
    「そこをどけ、わしはドラミィちゃ~んにどうしても会うのだ~!!」
     灼滅者たちを押しのけ、ライブハウスに突撃しようとする。それを、
    「マナーの悪そうなお客様の利用は、お断りしております」
     玄関前で肉壁となり、押し戻したのは光。
     どーん。
    「うおっ」
     思わぬ妨害に怪人はよろけ、
    「お前ら、わしとドラミィちゃ~んの逢瀬を邪魔するつもりか!?」
     シャキーン、と光る得物……フォークとスプーンを出し、
    「人の恋路を邪魔する輩は、まとめてパスタの具にしてやるわ!」
     オマエ人かよ! 恋路かよ!? というツッコミを堪え、灼滅者たちも一斉にスレイヤーカードに手をかけた。

    ●ミートソース
    「祈り捧げろ、オラトリオ!」
     リアナの髪が伸びてポニーテールになり、右手に『斬穿』左手に『紅鋼』が現れた。銀都は、
    「平和は乱すが正義は守るものっ! 中島九十三式・銀都参上っ。悪いが、ライブに参加する前にボディーチェックをさせてもらうぜっ」
     威勢良く鋼と化した帯を伸ばした。アヅマはいつの間にか上っていた傍らの電柱から、流星のような跳び蹴りを見舞い、紅葉は、
    「ライブ参加は悪いことじゃないけど、マナーを守らなきゃただの迷惑だね」
     じいっと怪人を睨みつけて指輪を掲げ、
    「それとも……下心あるの?」
     制約の弾丸を打ち込んだ。
    「しっ、下心なぞないわ!」
     怪人は弾丸を避けようとしたが、腿をかすめ、
    「わしはただドラミィちゃ~んをかぶりつきで、ひとりじめで」
     かぶりつきでひとりじめ!? 利己的で自己中な迷惑ドルオタとしか言いようのない答えに、光が薄いながらもムカっときた表情で縛霊手を握りしめ。
    「迷惑なファンはお帰りください」
     ぶんなぐり抑えつけて。
    「おとといきやがれこのやろう」
    「全くです。この間もデモノイドの追っかけを潰したけれど、ダークネスはファンのマナーってものを知らないの?」
     リアナが『斬穿』を構えて踏み込んで。
    「体にたたき込むしかありませんね! 貫き穿て!」
    「う、うるさいわー!!」
     怪人は光の縛霊手を振り払うと、槍をフォークでガッと受け、もう片手のスプーンで斬りつけた。
    「ああっ!」
     リアナに深々と食い込んだスプーンのエッジは見かけよりよほど鋭いようだ。
    「離れ、なさい……っ」
     雨がすかさず鬼の腕で殴って怪人を引きはがし、命が指輪から弾丸を撃ち込んで退がらせる。血を流すリアナには、エウロペアが癒しの符を投げた。
    「やりやがったな!」
     銀都が炎を宿した蹴りを見舞い、紅葉は石化の呪いを放つ。雨は『Diva della notte』で魔力を叩き込み、命は影を伸ばして怪人を縛り上げた。
    「そのまま縛っといてください」
     アヅマが鬼の拳を握りしめて懐に飛び込もうとすると、
    「せっかくドラミィちゃんが高崎に来てくれたのだっ!」
     怪人が影を気合いで振り払った。
    「でえーいっ!」
     フォークの鋭い先端がアヅマに迫る。
    「……させない」
     そこに素早く身体を入れたのは光。
    「ありがとうございますッ!」
     フォークにぶっすり貫かれ弁慶立ち往生状態の光の脇をすり抜けて、アヅマは拳を突き出した。回復なったリアナは、
    「貪り散らせ、ルサールカ!」
     影を放って喰らい込ませる。光のフォークの穴には、エウロペアが符を膏薬よろしく貼ってやり、
    「そなた、そんなにライブを楽しみにしておったのに、なぜ遅刻を? 邪魔でも入ったのかえ?」
     牽制がてら怪人に問うた。怪人は武器を油断なく構えながら、
    「ふん『高崎パスタ王選手権』での作戦を考えておったら時間が経ってしまっただけだ!」
     イベントでも何か計画していたとは! コイツはますます倒さないわけにはいかない、と灼滅者たちは気合いを入れ直して怪人を囲む。
    「らぶりんたちの目的もわからないけど」
     紅葉が怒りの籠もった目で怪人を睨み付けスッと手を上げて。
    「とにかくこの怪人はたおさないとなの……!」
     ピシャーン!
     裁きの光がパスタ頭を直撃し、銀都は『逆朱雀』に炎を宿して斬り込んだ。アヅマも『風刃・級長戸辺』を思いっきり振り下ろし、立ち直った光は、じりじりと足技のチャンスを窺いつつ、
    「何もかぶりつきでひとりじめじゃなくても、みんなと一緒に、おとなしくライブを見ればいいじゃない」
    「そんなわけにはいかん!」
     怪人もカトラリー……じゃなくて武器を構えながら、
    「ドラミィちゃんの、あのジャケットからはみ出す豊満な胸や、ショートパンツからはみ出る、むっちむちのお尻と太股、そしてドラムを激しく叩くたびに飛び散る汗を間近で浴びたい……あれは断じてわしだけのもの……ブロークンデニムってなにげにセクシーよなあ……」
     語りながらむちむちぷりんを思い出したのか、怪人は一瞬でろんと緩んだ表情になり、
    「うわーっ、スケベパスタ!!」
    「下心ありありなの」
    「そういう、目的……」
    「ドラムと歌を聞いてやらんか!」
     スケベオヤジ発言に怒った女子たちが一斉に飛びかかった。
     光の跳び蹴りが星を散らし、エウロペアは眠りを誘う符をべしぃと叩きつけ、リアナは影をでろりと足に纏わせて、蹴り飛ばし切り裂く。雨は、
    「(淫魔は宿敵だけど……)」
     宿敵とはいえ、ラブリンスターは今のところ学園の味方でもあり、複雑な思いを抱いている。けれど今夜は。
    「(ラブリンスターへ借りを返すような意味でも、ライブを成功させてあげたい……!)」
     割り切れない思いを振り払い、槍を構えて突っ込んでいき、命はその後ろから影を伸ばす……と。
    「やかましい! ちゃんと歌もドラムも聞いとるわ!!」
     怪人はスプーンをぶんと大きく振り、そこから発せられた衝撃波が、
    「きゃあっ!」
     後衛へ。
    「危ねえっ!」
     銀都が咄嗟にメディックのカバーに入ったが、肉薄していたスナイパー2人は薙ぎ倒されてしまった。
    「銀都殿、かたじけない……エイジア、2人の盾に入るのじゃ!」
    「カデシュも!」
     エウロペアと光は愛猫に傷ついたスナイパーのカバーを命じた。
     スケベなドルオタでもやはりダークネス、侮れない攻撃力だ。しかし怪人の方も消耗しているのは確かである。『並盛り200g』の衣装はボロボロだし、頭のトンカツとデミグラスソースが乗ったパスタもほどけて垂れてきている。
     守られたエウロペアは、ライブハウス内から微かに聞こえてくるドラムの音に合わせて踊りだした。
    「さあ、もうひとがんばり! ここから先はKEEPOUTで、乱暴な奴はKICKOUTなのじゃ!」
     ドレスをひらりぱんつちらりさせながら攻撃陣を応援し、清めの風を吹かせた。
    「ええ、ドラミィちゃんのライブを成功させてあげるのよ!」
     紅葉が指輪から撃ち込んだ弾丸と、光の縛霊手が動きを鈍らせ、リアナは紅い霧状のオーラを纏って、鋭い斬撃を繰り出した。
    「並盛り200gとか……分かりにくい広告はご当地怪人の風上にも置けませんし!」
     いやでもマジでSサイズ150gだし。
     回復なった命が更に影で縛り上げ、雨はロッドで思いっきりぶんなぐる。猫たちも左右から猫パンチぽこぽこ。
    「く……くそおおおっ」
     苦し紛れに撃ち込まれたビームはひょろひょろで、銀都は真っ向から受けて立ち、
    「俺の正義が真紅に燃えるっ、ライブに行かせろと無駄に叫ぶっ! 食らいやがれ、必殺!一名様、VIP席にご案内だっ」
     暑苦しく吠えつつ、めらめらと金色に燃える斬艦刀を渾身の力で振り下ろした。
     それと同時に、ぐっと踏み込んだアヅマが呪装棍【天津甕星】で目映い魔力を叩き込む。
    「……ど、ドラミィちゃ……」
     怪人はそれでもライブハウスの方に手を伸ばしたが……。
     どっかああああん。
     銀都が爆風によろめきながらボソリと。
    「……ふっ、ただし黄泉路への特等席になるがな」

    ●アラビアータ
     戦い終えたエウロペア、光、命、銀都に紅葉、アヅマがそっとホールの扉を開くと、ステージではアンコール中。
    「おっ、なかなかじゃな」
     エウロペアは早速タップを踊り出し、銀都は楽しそうに手拍子する。光はアイドルにそれほど興味は無いが、観客たちが楽しそうだし、ライブが無事に終わりそうなのは嬉しい。命は感心しきりで、
    「ドラミィさん、応援したくなるステキな人ですね! でもやっぱりダークネスなんですよねぇ……」
     紅葉とアヅマはホールをそっと抜け出した。既知の2人は、楽屋に回ってドラミィに会うつもり。

     ライブを覗かなかったメンバーは、工事看板などの片付け中。
     リアナがふと作業の手を止めて。
    「もし淫魔も灼滅していたら、どうなったのでしょう?」
     もしや何者かが、武蔵坂とラブリンの関係を悪化させることを狙っている? パスタ怪人は単なる自己中な迷惑ドルオタだったようだが……疑問は残る。
     じきに、楽屋に回らなかった者たちも戻ってきて、
    「あの……」
     雨が珍しく自ら発言した。
    「デカ盛パスタ、ちょっと気になる。いつもはそんなに食べないんだけど……」
    「行きましょう行きましょう!」
     命が即座に食い付いた。
    「あれえ、命、焼きそば食べてなかったっけ?」
     銀都がニヤリとしてツッこむと、命はちょっと赤くなって。
    「焼きそばとパスタは別腹ですよ! ……えっ、炭水化物過剰? し、知りませんねっ」

    「かくかくしかじか……というわけでさ」
     首尾良くドラミィに会えたアヅマと紅葉は、今夜のいきさつを説明した。
    「へえ、そんなヘンなヤツが来てたんだぁ?」
     ドラミィはパスタ怪人を知らないらしい。
     アヅマはちょっと困った顔で。
    「でさ、一応、君のファンではあったみたいなんだけど……」
     数少ないファンを灼滅してしまってよかったのかどうか。
    「ああ、ファンはありがたいけど、あたしは大勢と楽しくやりたいからね、構わないよ」
     よかった、と紅葉は息を吐き、
    「ライブとても素敵だったの。でも、これから開く時は気をつけてね」
    「止めろとは言わないけど、一般人のファンや君本人のためにも注意して欲しい」
    「私たちにも気軽に相談してみてなの」
    「うん、ありがとう。ヘンなファンには気をつけることにするよ」
     嬉しそうな笑顔は淫魔であることを差し引いても、やはりなかなかチャーミング。
    「ね、ドラミィちゃん、おなかすかない?」
    「そうだな。デカ盛パスタでもどうだ?」
     ドラミィはいたずらっぽい視線で灼滅者たちを見つめ。
    「――おごりかい?」

    作者:小鳥遊ちどり 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2015年7月3日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 8
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