本わさび丼怪人、天城の地に起つ!

    ●伊豆・天城山中
    「こ、この城を私に下さるというのですか!」
     感激の声を上げたのは、頭が丼で作務衣を着た屈強な男性。
    「うむ、この城は今日からお前のものだ」
     答えたのは手には軍配、頭部が城の男……そう、おなじみ安土城怪人である。
     そして彼らの目の前には、新築ぴっかぴかの堅牢そうな3層の山城。
     いや、山城というよりは、砦と言った方が相応しいかもしれない。険しい岩場の上にちんまりと山に埋もれたカンジで鎮座している。仰ぎ見る岩場のてっぺんに、質実剛健な木造の門が見える。
     そんな山城でも丼男は大感激である。
    「旗と臣下まで用意していただけるとは……」
     城の屋根の上には、オリジナルご当地旗がたなびき、足下には、恭しい様子で控える5体のペナント怪人。ペナント怪人たちも、丼男と同じく作務衣を着込んでいる。サービス満点なのだ。
     そのペナント怪人のうちのひとりがぺなぺなの顔を上げ、
    「まだまだ、これだけではございません。数日後には、北征入道様のお力で、この城は迷宮化され難攻不落の名城となるのです」
    「な……なんと」
     丼男は、感動のあまりよろめいた。
    「私のような超地域限定丼に、過分なお計らいかたじけのうございます!」
    「うむ、伊豆は正に観光シーズン、せっせとご当地活動に励むがよいぞ」
     深々と平伏する丼男。
    「ははーっ、この天城本わさび丼怪人、必ずや全国を席巻する丼になり、安土城怪人様のご恩に報いてみせまする!」
     顔がわさびの乗った丼と天城柄に加工されたペナント怪人たちも、新たな主と共にひれ伏し、屋根の上でも同柄の旗が夏風に誇らしげにたなびいた。
     
    ●武蔵坂学園
     武蔵坂学園家庭科室。
     エリスフィール・クロイツェル(蒼刃遣い・d17852)と春祭・典(高校生エクスブレイン・dn0058)が、真剣な顔で鮫皮で生わさびをおろしている。それをおかかをたっぷりかけた丼ご飯の上に載せ、醤油を一回しして、軽くまぜまぜ。
     いただきます、と2人は手を合わせ、それっとばかりにかきこんだ。
    「ああっ本当だ、おろしたてだと辛くない! 良い香りだ!」
    「美味しいですね!」
     わしわし。
     
     数分後。
     伊豆風の本格わさび丼で小腹を満たした2人は、やっと今回の事件について相談しはじめた。
    「小牧長久手の戦いで勝利した安土城怪人が、東海地方と近畿地方の制圧に乗り出したのはご存じですよね?」
     安土城怪人は、東海~近畿地方にミニ城を作りまくり、その土地のご当地怪人を城主とし傘下に加えている。城という立派な拠点をもらったご当地怪人は、今まで以上にご当地活動を活発化させると予想されるので、その前に城主となった怪人を灼滅、もしくは城から追い出さなければならない。
    「エリスフィールさんが目をつけていた天城の本わさび丼怪人も、城をもらったようでして」
     典は中伊豆の登山地図を開いた。
    「天城山中の険しい岩場に建てた山城に、わさび丼怪人と配下のご当地怪人が5体います。やっかいなのは」
     典は地図から顔を上げ、
    「一国一城の主となった丼怪人は、少々パワーアップしているようなのですね。ただ屋根の上の旗、これを引きずりおろすとパワーアップが解除されるようです」
     パワーアップした怪人一味に正面から戦いを挑むのももちろん有りだが、城に忍び込んで旗を引きずり落としてから戦うと有利になるだろう。
    「旗奪取作戦と並行して急襲し、先手を取るのが良策だと思うのですが、今回はそもそも城へ近づくのが難しいです。城の表側は険しい岩場です。ジグザクの階段が刻んでありますが、狭いし急なので1人ずつしか上れません。しかも上ってくる敵に対する仕掛けがあるようで」
     鳴子や石落とし等だろうか。
    「裏手はどうなってるのだ?」
    「裏は未開発の山の斜面だったんですが……怪人一味に切り開かれて、わさび畑になっています」
    「わさび畑というと、沢みたいなものか。そっちも侵入しにくそうだな」
     一応畑の周囲に細い通路はあるが、怪人のものとはいえ、わさび畑をやたらと荒らしたくもないし。
    「昼間、ペナント怪人たちは畑で作業をし、ボスの丼怪人は城の厨房でわさび丼の研究開発をしています」
    「夜は?」
    「城の2階でみんなで寝てるようですが、ペナント怪人は3階の櫓で1人ずつ交代で見張っていて、主に畑の方を見ているようです」
    「ふむ……ならば夜間の岩場は比較的手薄か」
    「とはいえ、仕掛けもありますしねえ」
    「そうだなあ、昼夜、表裏、どっちがマシだろう? 出来たら旗も最初のうちに奪ってしまいたいしな」
     夜間は城の常夜灯で、表裏とも何とか行動できる程度の明るさはある。
     なんにしろ、ESPを上手く組み合わせたり、陽動作戦をとる等、工夫が必要だろう。
    「本わさび丼怪人は、城と配下をくれた安土城怪人にとっても感謝してるようで、合戦が始まれば、安土方のために一所懸命に働くことでしょう。もちろん説得もできません」
     典はおかわりのわさびをおろしながら、
    「このまま城を放置すると、城が迷宮化され難攻不落になってしまうという情報もありますしね、何とか早いうちに片付けてきてくださいね!」


    参加者
    花守・ましろ(ましゅまろぱんだ・d01240)
    雨松・娘子(逢魔が時の詩・d13768)
    シャルロッテ・カキザキ(幻夢界の執行者・d16038)
    風見・真人(狩人・d21550)
    アナスタシア・カデンツァヴナ(薄氷のナースチャ・d23666)
    ルフィア・エリアル(廻り廻る・d23671)
    カンナ・プティブラン(小学生サウンドソルジャー・d24729)
    茨木・一正(通りすがりの駄菓子売り・d33875)

    ■リプレイ

    ●夜更けのわさび畑
    「なるほど、わさび畑……」
     急斜面に切り開かれた段々畑を見回して、ルフィア・エリアル(廻り廻る・d23671)が呟いた。陽動班は城の裏手、わさび畑の脇の藪に潜んでいる。
     わさび畑は『わさび田』と呼ばれるように、山の湧水を引いて段々に石垣を組み、石や砂を入れて造り上げたものだ。 微妙な勾配で全体に水が廻るようにしてある。怪人たちが切り開いた畑にも、水の流れる音がさらさらと響き、青々とした丸い葉が美しく茂っている。
    「わさびってアレでしょ。辛くてつーんとするヤツ。東洋の人達って辛いの好きだよねえ」
     アナスタシア・カデンツァヴナ(薄氷のナースチャ・d23666)が、漂うわさび香に鼻をしかめた。ロシア人の彼女は、辛みに耐性がないのだ。
    「とりあえず今は、わさびより、城だよ、城」
     茨木・一正(通りすがりの駄菓子売り・d33875)は、畑の下方にちまっと常夜灯で浮かび上がっている山城を指した。
    「敵さんも太っ腹だよねえ。こんなのを幾つも用意したんだって? 厄介なことしてくれるよ」
     モンゴルの民族衣装・デール姿のカンナ・プティブラン(小学生サウンドソルジャー・d24729)が頷いて、
    「城だけでも厄介なのに、それに加えて迷宮化とは……ま、止めねばなるまいて」
     風見・真人(狩人・d21550)も呆れたように、
    「だよな、城作るってだけでも結構大変だろうに」
    「しかし、城が迷宮化したら凄く不便なんじゃないか?」
     ルフィアが首を傾げる。
    「攻めづらく、住みづらい。なかなかに新感覚だな。そして迷宮を抜けた者にはご褒美に本わさび丼が振る舞われる……なるほどな」
     そこまでしてわさび丼食べたくないし、と皆がツッコんだ時、真人の携帯が着信を知らせた。
    「おう……こっちはOK……わかった」
     言葉少なに真人は通話を切り、緊張の面持ちの仲間を見回して。
    「旗取班も配置についた……行くぜ」
     メンバーは頷くと、藪から畑の畔にそっと出て。
    「Light up!」
     一斉に持参の灯りを点けると、城の裏扉に向けて駆け下りた。すると、高いところ……3階の櫓から早速、
    『くせものだ、出会え、出会えー!』
     という見張りの声が聞こえてきたが、望むところ。裏手に怪人一味を引きつけておくことが目標なのだから。
     頑丈な蔵のような扉に取り付いた時には、城内の灯りは煌々と灯され、騒然とした気配も伝わってきた。
    「景気よくぶっ壊すぞ」
     ルフィアが鬼の拳を握りしめた。予知によると物理攻撃で壊せるらしいが、なにせ陽動、派手にやらかすにこしたことはない。仲間たちも頷いてカードに触れた……その時。
    「本わさび丼怪人様の田を荒らすのは、何奴じゃ!」
     城の扉が中からバーンと開け放たれた。飛びだしてきたのは、3体のペナント怪人。その後ろからはのっしのっしと頭が丼で作務衣を着た屈強そうな男が、更に2体の手下を従えてやってくるのも見えた。
    「ふっ、壊すまでもなかったのぅ」
     カンナが薄く笑うと白フクロウの面を被り、肩に羽を生やした。

    ●表門目指して
     その頃、旗取班は表門を目指して、岩場の急な階段を慎重に上っていた。
     先頭を行くのは雨松・娘子(逢魔が時の詩・d13768)。ペンライトで足下だけを小さく照らし、仕掛けにひっかからないよう用心深く歩を進めている。
    「怪人さんが強くなる旗も厄介だけども、お城が迷宮化しちゃうのはもっと大変だよね」
     花守・ましろ(ましゅまろぱんだ・d01240)が、前を行く娘子と、しんがりのシャルロッテ・カキザキ(幻夢界の執行者・d16038)に囁く。
    「難攻不落になる前に、ビシッと止めなくちゃね」
     シャルロッテは、うむ、と頷き、周囲に目を配る。仕掛けもだが、北征入道関連の兆しなどが無いか、ここから注意しておきたい……と。
    「黒い紐がある。踏むなよ」
     娘子が2,3段先に仕掛けを発見し、2人に注意を促した。
     思いの外、仕掛けは密に張り巡らされている。3人はますます感覚を研ぎ澄ましながら、足を進める。陽動班の努力を無駄にしたくない。

    ●わさびバトル
    「山葵結界―っ!」
     本わさび丼怪人の号令一下、城主を囲んだペナント怪人たちが一斉に鮫皮おろしを振り上げた。この鮫皮おろし、テニスラケットほどの大きなものだ。丼怪人のに至っては、座布団くらいの巨大さ。
     その大きな鮫皮おろしから緑色の光が迸って……。
    「うわあ!?」
    「か、辛いっ!」
    「つんつんするー!」
     全員わさび結界にやられてしまった。
    「くうーっ、まったく厄介じゃな!」
     カンナが涙をボロボロこぼしながら前衛に向けて交通標識を黄色に光らせ、アナスタシアも悶絶しながらカンナに癒やしの風を吹かせた。
    「銀、アナスタシアを!」
     何とか立ち直った真人は霊犬の銀にアナスタシアの回復を命じ、怪人一味と対峙する。
     なるほど城と旗をもらって調子に乗っている怪人の威力は侮れない。けれど何とか、旗取班が使命を果たすまで、敵をひきつけておかなければ……。
    「立派なお城だね。正直羨ましいぞ、怪人よ。しかしこんなに早くこれだけの城を用意出来たのはなんでだ?」
     引きつけと、少しでも情報を引き出したい狙いで、真人は仲間たちを背に庇いながら問いを投げる。
    「それはもちろん」
     最も前面で灼滅者たちと向き合っているペナント怪人が、どや顔(ペナントだけど)胸を張った。
    「ひとえに安土城怪人様のお力……うがっ」
     その怪人が台詞半分でのけぞった。どや顔の隙を逃さず、ルフィアが鬼の拳で殴りつけたのだった。すかさず一正も、
    「ナニャドヤラパニッシャー!」
     聖碑文を唱える『ヴィレッジ・オブ・ジーザス』で光線を乱射しながら、挑発的な台詞を吐く。
    「マイナー丼怪人にこんな立派な城を与えられるって事は、別に誰でもいいって事だよねぇ。君は随分運が良いねー」
    「何だとうっ!?」
     城の裏口を挟んで、灼滅者と怪人一味は睨み合った……その時。
     ガラガラッ!
     上階で、木の札同士がぶつかる音がした。
     ペナント怪人が声を上げる。
    「鳴子の音……表にも侵入者が!?」
     旗取班が仕掛けにかかってしまったのか!?
    「はっ、さては!」
     丼怪人が灼滅者たちを睨み付けた。
    「こしゃくな! 貴様ら二手に分かれて攻め込もうとしておるな!? 誰かひとり見て参れ。侵入者には石落としを使え」
    「はッ」
     後方にいたペナント怪人が表の方に駆けていく。
    「拙い!」
     アナスタシアがそれに追いすがろうとしたが、他のペナント怪人に遮られた。
    「ハハハ、表は難攻不落じゃ! 仕掛けを知らなかったのだろう? まずはお前らからゆっくりと料理して、わさび丼のサイドディッシュにしてくれるわ!」
     丼怪人は余裕の高笑いをかました。
     しかしその時、真人は愛犬の陰に隠れて、素早く携帯を使っていた。

    ●駆け上がれ!
     表の岩場にも鳴子の音は聞こえていた。
     いつどこで引っかけてしまったのか、岩段を駆け上る3人には分からなかった。仕掛けはかなり密なので、もしかしたら落石や風のせいで鳴ってしまったのかもしれない。
     とにかく後ろを見ている暇はない。こうなってはもう、踏み潰す勢いでスピード勝負しかない。
     その時、ましろの携帯が鳴って。
    「はいっ」
     上りながら出ると、真人からで。
    『バレた! 石落としに気をつけろ!』
     通話はそれだけだったが、正門間近に迫っていた3人には充分だった。
    「石がっ!」
     ましろが2人に知らせた瞬間、正門の脇、建屋が崖の上に張り出している部分の高床から、ごろりと大石が。
     3人はパッと脇の岩場に取り付いてやりすごす。ごろんごろんと落ちていく石を振り返りもせず、表門へ駆け上った。
     幸いだったのは、敵が思っていたよりも彼女等は門間近に迫っていて、しかも仕掛けの情報を持っていた上に、陽動組からの素早い連絡もあったこと。
     表の扉は、岩場と仕掛け頼みなのか、裏口ほど頑強ではなかった。息を揃えて扉をぶち破り、とうとう城内に突入した。そこには当然、石を落としてきたペナント怪人が待ち受けていたけれど、ましろが振り下ろされた鮫皮おろしを身体を張って防ぎ、娘子が、
    「逢魔が時、此方は魔が唄う刻、さぁ演舞の幕開けに!」
     カードを解放してライブ衣装に変身すると、力一杯ギターをかき鳴らし、音圧で敵を押し戻す。
    「シャルロッテちゃん、行って!」
     ペナント怪人ともみ合うましろに促され、シャルロッテは上階への階段を駆け上がった。

    ●わさびバトル2
     小さな城であるから、裏口で踏ん張っている陽動班も、表に旗取班が城に到達したこと、同時に表に回ったペナント怪人との戦闘が始まったことは、直接見えてはいないけれど、音と気配で察していた。
     表組は、戦いつつ旗取も平行して遂行しているはず。陽動班はそれを信じて必死にわさび丼怪人と4体のペナント怪人を引きつけ続ける。
     とはいえ、現状6対5で、数の上でも拮抗しているわけで……。
    「一斉わさビーム!」
    「うわっ!」
     怪人一味が突き出した掌から、一斉に刺激的な緑のビームが発射され、灼滅者たちに浴びせかけられた。
    「させないよ……っ」
    「一正、すまん!」
     庇われたルフィアが、炎をまとったエアシューズで、間近にいたペナント怪人に蹴りを入れ、ビームを逃れたアナスタシアも、
    「一体ずつ集中しなきゃ」
     すかさず同じぺなぺなの急所を切りつけようとする……が。
    「そうはさせぬ!」
     傍らにいた仲間が盾に入ってしまう。
     1体ずつ集中して倒していく計画なのだが、ペナント怪人は互いに庇いあい、回復し合ってなかなか上手くいかない。
     愛犬を庇う真人は、
    「銀、カンナに浄霊眼!」
     顔を押さえて悶絶するメディックの回復を命じる。
     カンナは回復を受けると、ツーンを堪えつつ、前衛に向けて交通標識を掲げた。しかし、
    「辛いんだよッ!」
     2人分のわさビームを受け怒りにかられた一正が、傷ついているにも関わらず丼怪人めがけて突っ込もうとしていた。
    「落ち着くのじゃ!」
     黄色い光はわずかに届かず、一正は、
    「小童、私とやる気か?」
    「ぐあっ」
     丼怪人にむんずと捕まえられてしまった。

    ●旗奪取
     櫓まで階段を一気に駆け上ったシャルロッテは、迷わず3階の屋根によじ登った。懸垂の要領で庇に両足を持ち上げると、ダブルジャンプを使って、夜空に誇らしげにはためく旗に飛びつく。
    「……これが……?」
     立派ではあるが一見ごく普通の旗に首を傾げつつも、危険を顧みず、不安定な屋根のてっぺんでガンナイフを引き抜き、グサリと裂いた。

    ●全員集合!
    「……はうっ?」
     そんな驚きの声と共に、胸元を締め上げていた丼怪人の手が突然緩んだのを一正は感じ、すかさず振り解いた。見れば、手下共もよろめいたり壁に手をついたりしている。急に力が抜けたとでもいうように。
     すると、
     ドガベキバシャーン!
     表の方ですさまじい音がしたかと思うと。
    「やった、1体倒したよ!」
    「急に弱った様でございます!」
     ましろと娘子が、喜び勇んで表側から駆けてきた。
     怪人たちの様子からすると、つまり……。
     ドカドンドーン! と激しく階段を飛び降りる音がして。
    「……取ったわよ」
     ダブルジャンプで威勢良く降りてきたシャルロッテが、ボロボロに引き裂いた旗をずいと差し出した。
    「「「やったあ!」」」
     旗を奪った!
    「お……おのれ……」
     丼怪人は怒りを漲らせてシャルロッテを睨みつけたが、もう先ほどまでのような迫力はない。
     一方の灼滅者たちは、旗を奪取し、メンバーも揃い、勇気凛々である。
    「今宵は大将山葵丼様! お城を拝領したはめでたいな! ならばこのにゃんこ、僭越ながらお唄を捧げましょう!」
     娘子が挨拶代わりとばかりに楽しげに、けれど激しくギターを弾き始め、
    「ボスはあたしがくい止める。今度こそ弱ってるヤツからやっちゃって!」
     アナスタシアが果敢に斬り込んでいき、灼滅者たちは一気に攻勢に出た。

    ●天城に沈む
     旗を取られた怪人一味は確実に倒されていき、しばし後には、残っているのは本わさび丼怪人だけとなった。
    「……俺が!」
     娘子に向かって振り下ろされた巨大鮫皮おろしを、真人が身体を入れて食い止める。鮫皮はざらりと身体を削ったが、戦闘開始時ほどの威力はもう無い。
    「城の守りも大したことなかったけど、つまりそれって、城主がそもそも大して強くないってことだよなあ?」
     挑発をかます余裕もある。
    「だよねえ」
     一正も杭をねじ込みながら、
    「君みたいに単純な奴を動かすのは簡単だろうし、所詮実験台だったんじゃないのー?」
    「さ……左様なことは……ぎゃっ」
     いきり立つ怪人を、真人の陰から飛びだした娘子が情熱的なステップで踏みつけ、ましろは指輪から弾丸を撃ち込んだ。アナスタシアは鋭い刃で作務衣を裂き、シャルロッテは鋼と化した『Gebleicht ReiteGriff』をざくざくと突き刺す。メディックのカンナもここが勝負処と急所を狙って切りつけると。
    「ぐ……いかん、ここで私が倒れるわけには……」
     丼怪人はよろめきつつも鮫皮おろしを高く掲げた。そこから降り注ぐのは、芳香を伴った柔らかな緑の光。
    「あっ、回復……させるか!」
     ルフィアが強く床を蹴り跳び上がった。
    「たあああーっ!」
     刃が深々と丼頭に。
     ぴしり。
     丼にヒビが入り、それは見る間に頭だけでなく、怪人の全身へと広がっていき……。
    「あ……安土城怪人様、申し訳ありませぬうぅぅ……!」

     どっかああああん。

     こうして、本わさび丼怪人は天城の地に沈んだのだった。
     
    ●戦い終えて
    「外には何もなかったよ」
     周囲を一周してきた一正が、首を振り振り城に戻ってきた。
    「中にも特に怪しいものはなかったのよ」
     皆と城内を調べたましろもちょっと残念そうに応じた。
    「まだ迷宮化が始まってない……間に合ったってことじゃないかしら」
     シャルロッテが冷静な意見を述べたが、彼女とて今回の事件の謎はとても気になっている。北征入道が関わっているとなると、余計に。
    「じゃあ、裏のわさびを頂いて帰ろうじゃないか」
     ルフィアが張り切って皆を誘った。カンナも熱心に頷いて。
    「うむ、世話する人もいなくなったことだしな……せっかくのわさび、誰か面倒みてくれる者を探せないかのぅ?」
     だってもったいない。
    「なあ、せっかくだから本場のわさび丼を食べないか?」
     娘子がお腹を押さえながら提案した。
    「賛成! わたしも食べてみたいの。本当に美味しいのかなあ?」
     ましろが、ぬいぐるみの『あずき』の手をぴょこ、と上げた。
    「わさび丼ってわさびだけで、刺身とか乗ってないんでしょう? いかにも辛そう」
     アナスタシアはまだ不審そう。
    「おろしたては辛くないそうだから……まあ食べてみりゃわかるだろ」
     真人が笑って答え、灼滅者たちは昇る朝日を眺めながら、天城山を下りたのであった。

    作者:小鳥遊ちどり 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2015年8月4日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 1/キャラが大事にされていた 5
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