雄琴温泉で寝返りタイ!?

    ●雄琴温泉・某高級旅館にて
     琵琶湖西岸にある雄琴温泉は、1200年の歴史を持つ、由緒ある温泉地である。
     その中でも高級な宿の最上階、貴賓室の窓から琵琶湖を見下ろしている浴衣姿の大男がいる。
    「これ以上、天海大僧正に味方する義理は無い……だって特に何をしてもらったってわけでもないし」
     ぶつぶつと言い訳がましく独り言を呟いているその男、頭が立派な鯛である。
    「どう見ても勢いは安土方にあるしな……しかしどこへ行ったら、安土城怪人殿に会えるのか」
     どうやらこの鯛男、安土城怪人に渡りを付けたいらしい。
     鯛男はしばらく考えこんでいたが、やがてくるりと窓に背を向けて。
    「ま、琵琶湖のあたりをうろうろしてたら、そのうち会えるだろ。まずは温泉で鋭気を養ってくるとするか。その後はマッサージでも呼んで」
     のんきにタオルを肩にかけ、部屋から出ようとした時。
     バアンッ!
     廊下側からドアが破られて、飛び込んできたのは。
    「タイダンダーン! この期に及んで離反とは、士道不覚悟なりッ!」
     飛び込んできたのは、青い和服姿の狼男であった。手には巨大な刀。
    「な、何奴っ!? てゆーか、ワシ、武士じゃないから士道とか言われてもっ」
     鯛男……タイダンダーンは素早く飛び退いたが、狼男は刀を構えて迫ってくる。
    「問答無用!」
     刀が夕陽にギラリと凶悪に光った。
     
    ●武蔵坂学園
    「へえー、タイダンダーンって天海大僧正派だったんですねー」
     ソフィ・ルヴェル(カラフルジャスティス・d17872)が感心したように言った。
    「ま、大僧正派と言っても、一応カタチだけ提携してたってくらいの関係みたいですけどね」
     苦笑して答えたのは春祭・典(高校生エクスブレイン・dn0058)。
     タイダンダーンは、普段愛媛を中心とした瀬戸内地方で活動している鯛のご当地怪人だが、小牧長久手の戦い以来の勢力図大幅塗り替えに伴い、派閥を乗り換えようと琵琶湖まで出かけてきたらしい。
    「小物ならではの世渡り術ってヤツでしょう」
    「ですね」
     ソフィは頷いて、
    「道後温泉でもいかにも小物っぽくて、情けなかったですもん」
     ところで。
    「今回タイダンダーンを襲うのは、天海の手下の『スサノオ壬生狼組』です」
     新選組のような衣装で、刀を装備した剣士のスサノオで、かなりの戦闘力を有している。
    「倒されたターゲットはスサノオの配下に作り替えられてしまう上に、壬生狼組剣士は、血に飢えた狼のようなヤツでして」
     ターゲットのダークネスを屠った後は、周囲の一般人も斬り殺してしまうのだ。
    「現場は温泉宿ですよね」
     ソフィは心配そうに。
    「お客さんいっぱい泊まってるんですか?」
    「はい。夏休みですから」
     宿は40室あり、当日はその8割ほどが埋まっている。
    「とはいえ、スサノオが一般人を手にかけるのは、ターゲットであるタイダンダーンを倒した後になります」
     目撃者を消せという指令なのか、組の隊規なのか。
    「つまり、タイダンダーンとの戦闘が終わるまでは、一般人の避難については、それほど深刻でないということです」
     この時点では、人払いESPなどで穏便に遠ざけておけば大丈夫だろう。
    「まず皆さんに考えて頂かなければならないのは、戦闘を仕掛けるタイミングです」
     タイミングの選択肢は2つある。

     A)スサノオがタイダンダーンの部屋に踏み込んできた直後。
     この場合、タイダンダーンはこれ幸いとばかりに逃げ出してしまうだろう。
     B)スサノオがタイダンダーンを倒した直後。
     この場合、タイダンダーンはスサノオの配下となり、戦闘に加わってしまう。
     
    「戦闘を有利に進めたいならば、踏み込んだ直後に戦闘を開始するのが良いですが、タイダンダーンを逃がすってことは、結果、安土城怪人の勢力が増強されてしまうことになるわけです」
    「うーん、考えどころですね」
    「しかも」
     典は手入れの行き届いた眉を顰めて。
    「スサノオ壬生狼組の襲撃から、5~10分後には、造反したダークネスを救出する為に、武者アンデッド『四死兼』が増援としてやってくるのです」
     武者アンデッド・四死兼の行動には、以下のパターンが予想される。

     a)タイダンダーンの保護が最優先である為、既に彼が逃走していた場合は現れない。
     b)タイダンダーンが戦闘中で、且つまだ生存していた場合は、共に戦場から撤退しようとする。
     c)タイダンダーンが既に殺されていた場合、その場にいるスサノオと灼滅者、より有利な方を優先して攻撃を仕掛けてくる。

    「うわあ……場合によるとダークネス2体を相手にしなければならないのですか?」
    「そうなんですよね……それが今事件の難しいところで」
     典はハア~、と長い溜息を吐いてから。
    「ですから今回は、ダークネスを1体でも倒して、一般人への被害を食い止めれば良しと思ってください」
    「うーん、そうなりますか……」
    「難しい選択になりますが」
     典はぺこりと頭を下げて。
    「どうか皆さんでよーく相談して、現場に臨んでください。とりあえず、タイダンダーンの隣の部屋を予約しておきましたんで……」


    参加者
    ギィ・ラフィット(カラブラン・d01039)
    榛原・一哉(箱庭少年・d01239)
    伐龍院・黎嚇(ドラゴンスレイヤー・d01695)
    ソフィ・ルヴェル(カラフルジャスティス・d17872)
    青葉・康徳(北多摩衛士ムラヤマイジャー・d18308)
    宇佐・紅葉(紅蓮浄焔・d24693)
    水無瀬・涼太(狂奔・d31160)
    櫻井・聖(白狼の聖騎士・d33003)

    ■リプレイ

    ●突入
    「殲具解放!」
    「チェンジ! カラフルキャンディ!」
     スレイヤーカードを解除した灼滅者たちが、一気に貴賓室に突入した。
     広々とした部屋の奥、浅葱色の着物姿の大きな狼。その足下、白い炎に包まれたもう1体。むくりと起き上がったそれの頭は――鯛。
     予知通り、ご当地怪人タイダンダーンはスサノオ壬生狼組に倒され、すぐさま手下として蘇らされた。
     白い炎に包まれた怪人の異様な姿に、一瞬怯みそうになった青葉・康徳(北多摩衛士ムラヤマイジャー・d18308)であったが、ちらりと腕の時計を見て。
    「(突入前にアラームが鳴った)」
     スサノオの出現から既に5分近くが経っている。武者アンデッドが現れるのは、スサノオ出現から5~10分の間であると予知されている。
    「(怯んでいる暇はないぞ!)」
     下腹に力をぐっと込めて、
    「たあーっ!」
     立ち上がりかけていたタイダンダーンに勢いよく蹴りをいれ、よろめかせた。
    「緑装! 北多摩衛士ムラヤマイジャー、只今参上!」
     続いて宇佐・紅葉(紅蓮浄焔・d24693)が、
    「あーあ、捌かれちゃったか鯛野郎……夏場だから悪くなるの早いし、さっさと処分しちまうか。なんか他にも一杯いるみたいだけど、順番に相手してやるよ!」
     言い放ち、サウンドシャッターを発動した。
    「灼滅者か」
     静かに、しかし隙無く構えていたスサノオが。
    「先ほどから異質な殺気が漂っているのは感じていたが」
     伐龍院・黎嚇(ドラゴンスレイヤー・d01695)が薄く笑う。早めに殺界形成をかけたので、今頃館内の一般人は徐々に退避していることだろう。
    「一度にこれだけの闇を葬れるチャンスを、我々が逃がすわけがないだろう」
    「ふん、ちょうど良いわ。生意気な日和見共を土産にすれば、天海様もさぞお喜びになろう」
     スサノオも嗤い返し、立ち上がった怪人を再び白い炎で包みこむと、すっと手下の背後に下がり、命じた。
    「こやつらを始末せい」
    「御意」
     タイダンダーンは無表情に答えた。そこにはもう俗悪な小物ながらも剽軽な田舎ご当地怪人の姿は無い。ただ血に飢えた狼の命だけに従う、戦う木偶。
    「正に死んだ魚のような目っすね」
     ギィ・ラフィット(カラブラン・d01039)が『剥守割砕』を構えてじりりと怪人に迫る。
    「木偶だからって油断しないっすよ。しっかり鯛焼きにしてやるっす!」
     愛刀を振り下ろしたのを皮切りに、
    「やっと見つけたと思ったら、スサノオに狙われていたとは」
     ソフィ・ルヴェル(カラフルジャスティス・d17872)は、厳しい表情で騎乗し、
    「今度は逃がしません。頑張ろう、ブラン! 彩り鮮やかは無限の正義! ソフィ参ります!」
     愛車に援護させながら、鋼の帯を放った。彼女は怪人とは再見なので、今回こそという気持ちは人一倍強い。
    「小物のくせに、高級旅館で温泉にマッサージ、優雅だな」
     榛原・一哉(箱庭少年・d01239)は槍を構えて怪人の周囲を用心深く回り、タイミングを計り、
    「小物らしいセコい頭の回らせ方だけど……適当すぎて計画ともいえないな……それっ!」
     狙いすまして捻り込んだ槍は、わき腹を深々と穿つ。
    「どちらにせよ、今日で退場してもらうけどね!」
     櫻井・聖(白狼の聖騎士・d33003)は銀の爪跡をざっくりと残し、
    「今丁度人間は夏休みで皆遊びに出かけたりしてるんだよね……ダークネスさんもこんな暑いんだから、お休みしてくれないのかな?」
     愚痴めいた呟きを漏らすが、もちろん答えはない。怪人は幾つもの傷をものともせず、出刃包丁を振り回して斬り込んできた。
    「……くっ!」
     前衛から血が飛沫く。かなりの切れ味だ。
    「せいぜい気張るがよいぞ」
     所詮天海派にとって、裏切者のなれの果てなど、捨て駒のひとつにすぎないのだろう。手下の働きぶりを冷たく一瞥すると、スサノオは巨大な刀を携え、部屋の出口へと向かう。
    「わしは残っている一般人共を始末してくる」
    「……行かせるか」
     光の剣で斬りかかりながら、出口直前で行く手を遮ったのは水無瀬・涼太(狂奔・d31160)。
    「む」
     巨剣で受けられ、ガキリと火花が散った。怪力で押し返され、肩がギリッときしんだが、表情には出さない。
    「しばらく、あんたの相手は俺らが努めるぜ」
     涼太の作った隙に、キャリバーが機銃掃射を始め、紅葉が素早く背後に回る。
     グサリ。
     スサノオの背中に刃を突き立てた紅葉が、狼を見上げてニヤリとし。
    「遅い遅い、どこ見てんだお前?」
    「ふん」
     スサノオは無造作にその刃と紅葉を振り払った。殆どダメージを感じていないようだ。
    「わしの相手をお主らのみで務めようというのか?」
     口元を嗤いに歪めると鋭い牙がギラリと光り……涼太と紅葉の背筋に怖気が走った。

    ●殺戮人形と狼
     数分後。
    「ああっ」
     また前衛に出刃包丁がひらめいた。
    「弱ってるはずなんだけどね……っ」
     仲間の血飛沫を通過させるように、一哉は影を放った。影に包まれた怪人に、聖が非物質化した聖剣を突き刺す。
     6人と1機は集中的にタイダンダーンにダメージを与えてきた。しかし殺戮マシーンと化した怪人はただひたすらに攻撃を仕掛けてくる。保身をまるで図らない攻撃は強力で、特にクラッシャー陣の消耗は激しい。
    「しぶといな……」
    「たぶん、完全に壊れるまで攻撃しつづけるんだろうね……うん」
     敵から素早く離れた聖が、きり、と唇を噛んだ。

     スサノオの抑えも苦戦していた。狼の刃を、涼太は愛機と共に幾度も受け、回復し、しのいできたが、それでも防ぎきれるものではない。
    「最近こんな七面倒くせェ相手ばっか……ダークネス同士の勢力関係なんざ興味ねェんだがな」
     肩で息をしている。彼自身、回復しきれないダメージがじわじわと蓄積している。2人と1機で手練れのダークネスの抑えはキツい。
     それでもせめて動きを鈍らせようと、紅葉は果敢に。
    「ビリビリして気持ちいいだろ? 死ぬまで味わってな!」
     狼は指輪からの弾丸を至近で受けたが、わずかに顔をしかめただけで無造作に刀を振り上げ、その重たい刃が。
    「うあっ!」
     肉薄していた紅葉の肩に、深々と。

    「あっ、紅葉君が!」
     前衛に聖剣を掲げて回復しようとしていた黎嚇にも、紅葉が深手を負ったのは見えた。
    「あれはヤバい。黎嚇さん、こっちは何とかします、紅葉の手当をしてやってくれっす!」
     ギィが自らも傷ついているにも関わらず叫ぶ。
     黎嚇は頷いて紅葉に駆け寄る。
     怪人の方では、
    「こちらは、私がこの力で守ります」
     ソフィが頬から血を流しながら、クラッシャー陣のために七色の帯を包帯へと変化させた。
    「自分は体力あるしまだ何とか。まずは康徳さんを……あっ!?」
     ギィが血相を変えた。
    「ケリをつけてやるーーッ!」
     出刃包丁にさいなまれ怒り狂った康徳が、脇腹から血を流しながら、日頃の穏やかさをかなぐり捨てて、やみくもに怪人に飛びかかろうとしていた。
    「いけませんっ、傷が深いのに!」
     慌てて投げかけたソフィの包帯は間に合わない。
    「爆蹴、狭山玉露キーーーック!」
     キックは怪人の胸元に決まった……と見えたが、怪人はその足をむんずと掴むと。
     ドオォォン!
     旅館の建物全体が揺らぐほどの勢いで、康徳は頭から投げ落とされてしまい――動かない。
    「康徳さんっ!」

    「助かったぜ」
     涼太と愛車に護られ、黎嚇の回復を受けた紅葉は、苦痛に顔をゆがめながらも起きあがった。
    「大丈夫か?」
    「うん、もちっとイケるだろ」
     紅葉が苦しげに笑って答えた……その時。
     ドオォォン!
     康徳が手ひどく床に投げ落とされた。
     スナイパー達がとっさに遠距離攻撃で怪人を牽制し、その間にソフィとギィが慌てて駆け寄り、ブランを盾にしてぐったりした康徳を後方に下げている。
    「行ってやれ! 俺はあとは自力で」
    「ああ!」
     黎嚇が急ぎ怪人の方に戻ろうとした、その動線に。
    「はは、回復役は大忙しよのう」
     スサノオが嘲笑いながら立ちふさがった。
    「黎嚇を守れ!」
     涼太は急遽キャリバーにメディックの護衛を命じると、自らは鋼鉄の拳を握って狼に殴りかかった。
     黎嚇はキャリバーの壁を回り込んで康徳の元へと向かう。
     涼太の拳は狼の顎を抉ったが、同時に鋭い爪が彼の背中を引き裂いた……すると、唐突に。
     ピピッ。
     場違いな音がした。

     場違いな音の正体は、康徳の時計の8分を知らせるアラームだった。
     回復により康徳は意識を取り戻したが、体力はギリギリだ。
    「とっととくたばれ!」
     一哉は渾身の魔力を杖で叩き込みながら。
    「早いとこ武者が出てきてくれた方がマシかもしれない」
     予想以上の苦戦に、思わず舌打ちし。
    「劣勢の演技しなくちゃとか考えてたけど、正直そんな余裕はなさそうだね」
     何にせよ、いつ武者アンデッドが現れてもおかしくない時間にはなっている。
    「でもきっと、こいつはあと一息で」
     まだ立っているとはいえ、怪人は崩壊寸前といった状態である。ギィの黒い炎に包まれてもまだ出刃包丁を振り回しているが、動きはぎこちない。
     その包丁をソフィは愛機とともにひらりと避けて。
    「必殺の蹴り、受けて頂きます!」
     座席から高く飛び上がり、ご当地キック!
     ウグゥゥ……。
     小さな呻き声を断末魔とし、ご当地怪人タイダンダーンはとうとう滅んだ。
    「よし、すぐに次に行こう!」
     一哉が声を上げ、灼滅者たちは間をおかずに狼を囲む。
     ――その時。
     窓辺から禍々しい殺気が、突然襲いかかってきた。
    「……遅参イタシタカ」
     地の底から響いてくるような声。ボロボロの鎧兜を着けた骸……武者アンデッド四死兼が、忽然と現れていた。

    ●出現
    「武者アンデッドさん!」
     聖は、おどろおどろしい姿に怯むことなく声をかけた。
    「残念だけど、鯛怪人さんは、あのスサノオに退治されちゃったんだよね」
    「オヌシラは灼滅者……我ガ配下ヲ滅シタ……」
     虚ろな眼窩が底光りしたような気がして、聖は息を呑んだが、
    「うん、ボクらにも色々思う処はあるだろうけど……先ずはあのスサノオを一緒に退治してからにしないかな?」
     口調はいつも通り訥々としているが、内心は必死である。今の状況で四死兼に共闘を断られてしまったら……。
     巨刀を構える狼と、それを囲む灼滅者たちを見比べた四死兼は。
    「天海ノ犬ト、配下ノ仇……目的ヲ失ッタ今、ドチラモ斬ルニ足ル義ハアル」
     四死兼は、朽ちかけた姿に似合わぬ青光する刀をすらりと抜いて。
    「ナラバ敗色強キ方ヲ助ケルガ、武士ノ在ルベキ姿」
     狼へとその刃を向けた。
    「ほう」
     狼はギラリと牙を剥いて笑い、
    「鯛野郎の救出目的ということは、お主も安土に荷担する者には違いあるまい。まとめて片づけてくれるわ!」
     いきなり四死兼に斬りかかった……が。
    「ぬ!?」
     いきなり狼の足がもつれ、刃は大きく空を切った。
     その隙に、四死兼の日本刀が一閃。返す刀でもう一閃。
     狼の腹と背からどっと血が吹き出した。
    「……すごい」
     武者の刀筋に灼滅者たちは息を呑んだが、紅葉は傷だらけの顔でニヤリとして。
    「やっと効いてきたみたいだねぇ」
     斬られながらもしぶとく積み重ねてきたバッドステータスが、ここにきて効力を発揮したのだ。
    「殺ラヌノカ」
     武者の声に灼滅者たちは我に返り、まずギィが、
    「斬艦刀同士、楽しく斬り合いたかったっすけどね!」
     狼に愛刀の一撃を見舞うと、ソフィがご当地ビームを撃ち込んだ。涼太はいたぶられた鬱憤を晴らそうとでもいうように鋭い聖剣の一撃を。紅葉も、
    「疲れてたってな、身軽さには自身あんだぜ!」
     炎が眩しい蹴りを見舞った。黎嚇は傷ついた仲間たちを必死に癒し続け、康徳も、
    「一閃、狭山冠茶ビーーーム!」
     気合いでご当地ビームを撃ち込んだ。
     狼が猛攻に膝をついたのを見て、すかさず一哉は鋼の帯を放ち、聖が光の剣で獣の魂を打ち砕くと……。
     グワァァァァア!
     スサノオ壬生狼は獣の叫びを上げつつ滅し……。

    ●屍武者
     次の瞬間。
     四死兼が灼滅者たちの方に刃と殺気を向けた。
    「オ主ラノ番ゾ」
     灼滅者たちは迷った。3体もの敵を葬れるまたとないチャンス。一応まだ全員戦える……但しギリギリの者が幾人もいる。加えて、たった今目の当たりにした四死兼の太刀筋の迫力。
    「……ま、ここは、バクチするとこじゃねえよな」
     年かさの涼太が、後輩たちを、そして自分を宥めるように言った。
     皆頷き、敵に武器を向けたままじりじりと退がりはじめる。
     怪人とスサノオを倒したことによって、目標は立派に達成しているのだがら……。
     しかし。
    「逃ガサヌ」
     ズアアァッ。
    「うあっ!?」
     前衛に向けて、四死兼の刀から月光が放たれた。
    「ヤバい……お前はギィを!」
     涼太は最後の体力をかき集め、最も傷の重い康徳に覆い被さり、命じられたキャリバーはギィの盾となった……と。
     ガツン!
     一層鋭い月の刃が胴体に突き刺さり……涼太の愛車は消えた。
    「くそ……」
     涼太は歯噛みし、がくりと頭を落とした。彼の背中にも新たな傷が2つ。
    「涼太先輩!」
     康徳はぐったりとした長身を懸命に支える。
    「灼滅者ハ配下ノ仇、逃サヌ」
     重々しく言い放った四死兼に、
    「やるしか無いんっすかね!?」
     ギィが悲痛な叫びと共に黒いオーラを宿した刃で斬りかかり、一哉が杖で、聖は十字架で力一杯殴りかかるが、敵は退かない。配下の仇を撃つ覚悟は堅いようだ。
    「(おそらく彼と我々、どちらかが倒れるまで退かないだろう……武士ゆえに)」
     黎嚇は涼太を介抱しながら、仇討ちの一念で攻撃を繰り出してくる四死兼と、疲労困憊の中、必死にそれを防ぎ、一撃でも届かせようとする同士たちを見た。
     考えている間にも、康徳が執拗に狙われ、それを庇ったブランメテオールが消滅してしまった。
     これでディフェンダーはソフィのみ。しかも、武者の攻撃は後衛までも届く。
    「(このままでは、重傷者が多数出てしまう)」
     黎嚇は決意した。仲間を無事に退かせ、3体目を倒すために。
    「紅葉君もキツいだろうが、どうか皆の回復を頼むよ」
    「え、なんだって?」
     黎嚇は、回復を手伝っていた紅葉に後を託して、
    「嘘だろ、やめろ、行くな!」
     仲間の悲痛な叫びを振り切り、赤い龍に変身していく――。
    「……今のうちにケガ人を安全なところへ」
     赤龍は凍りついた仲間たちにそれだけ言うと、
    「神の代わりに僕が罰を下す」
    『ASCALON-White Pride』を手に四死兼に飛びかかった。
     その圧倒的な闇。
     力。
     スピード。
    「黎嚇……っ」
     灼滅者たちは後ろ髪を引かれつつ、急ぎ朦朧としている涼太と、ケガの重い何人かを退避させた。
     一通りの応急処置を施し、比較的元気な者が戦場に戻ると……。
     鎧兜姿の骸骨がぐずぐずと溶け崩れようとしており――レッドドラゴンは消えていた。

    作者:小鳥遊ちどり 重傷:水無瀬・涼太(狂奔・d31160) 
    死亡:なし
    闇堕ち:伐龍院・黎嚇(ドラゴンスレイヤー・d01695) 
    種類:
    公開:2015年8月19日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 2/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 3
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