●佐渡島・某広場にて
お囃子に乗って剽軽に歩いていた巨大な獅子舞が、突然がくりと長い胴体の真ん中を折った。
「あっ、どうした!?」
慌てて駆け寄った世話役たちが胴体を覆っている布をめくると、中に入っていた若い男性のひとりが、気分悪そうに地面にへたりこんでいた。
「熱中症か? しっかりしろ!」
「水と氷嚢くれ!!」
佐渡の『大獅子舞』は、島内各地に伝承されている芸能だ。巨大な獅子頭に、弓形の竹骨で支える長い胴体。胴体には5~6人以上も入るので、なかなかの迫力だ。
その大きな獅子舞が地域を門付して歩く年中行事は、夏の初めに終わっているが、夏休み中も時々観光客向けに出動するので、その練習をしているところなのだが……。
「すいません、もう大丈夫っす。ご心配おかけしました」
倒れた胴体役の男性は、幸いにして、水分をとって身体を冷やしたらすぐに起きられるようになった。
「よかった、大したことなくて……スイカも食べなよ」
世話役の町内会長はほっと胸をなで下ろしたが、
「しっかし、この暑さは異常よなあ」
佐渡は先日来異様な熱波に襲われており、夕刻になっても気温は40℃あたりから下がらない。
「こんなんじゃ危なくて、なかなか出動できないなぁ」
うんうん、と屈強な男達が木陰でスイカを食べながら汗だくで頷く。
「そういえば会長、聞きました? 金銀山の廃坑の噂」
「廃坑?」
「なんかね、幾つもの廃坑で、熱帯っぽい謎の植物がジャングルみたいにわっさわさ蔓延ってるんですって」
「なんじゃそら?」
「この暑さのせいなんじゃないかって、もっぱらの噂ですよ」
「ううむ、異常気象だなあ」
会長は、夕暮れの、けれどもわっと暑苦しい空を見上げて。
「温暖化のせいかなあ……」
●武蔵坂学園
「温暖化のせいじゃないのです」
春祭・典(高校生エクスブレイン・dn0058)によると、佐渡島の異常な熱波と、それに伴う廃坑の熱帯植物の繁茂は、ダークネスの移動拠点となった軍艦島が近づいてきているから……つまり、同乗しているアフリカンパンサーのせいではないかというのだ。北陸周辺で発生していた熱波も、これが原因だったのだろうか。
「それらの廃坑は、『アガルタの口』化しつつあると考えられます」
アガルタの口は、軍艦島攻略戦でも出現した、アフリカンパワーに由来する謎の密林洞窟だ。
「放っておくと、佐渡ヶ島全体が、第二の軍艦島になってしまうかもしれません。速やかに廃坑を探索し、アガルタの口を作り出している敵を撃破、その後、軍艦島の襲来に備えて、島の海岸でキャンプを行っていただきます……つまり」
典はそっと佐渡島のガイドブックと地図を差し出して。
「これが今年の臨海学校となります」
黒鳥・湖太郎(黒鳥の魔法使い・dn0097)は資料を受け取りながらがっくりとうなだれた。
「やっぱり今年もタダじゃ済まないのね」
だって武蔵坂学園だもの。
「湖太郎さんたちは、この廃坑に行って下さい」
地図には、史跡となっている坑道より更に山に入ったあたりに印がつけられていた。
佐渡の金銀山には無数の廃坑が残っているので、各チームそれぞれ違う坑道を探索することになる。
「坑道はアフリカ植物でジャングルのようになってるんですが、そこを最奥まで進んでいくと、スイカ畑が広がっています」
「は? スイカ畑?」
目を点にした湖太郎に、典は真顔で頷いて。
「そのスイカ畑からは、スイカ型の眷属が多数生まれ続けています」
「スイカ型眷属?」
スイカはアフリカ原産ですから。と典はまた真顔で答え、
「数は多いですが、弱っちいですので、片っ端からビシバシやっちゃってください」
スイカ眷属を全滅させれば、その廃坑のアガルタの口化を阻止することができる。
アガルタの口が撃破され、多くの灼滅者が集まっている事を知れば、軍艦島のダークネス達も計画の失敗を悟り撤退していくだろう。
「臨海学校に邪魔が入って残念ですが、アガルタの口の制圧が済んだ後は、キャンプも出来るだけ楽しんでくださいね」
「ええ、それを心の支えにジャングル探検とスイカとの戦い頑張るわ」
「なにしろ暑いですから海水浴には絶好ですし、皆さんでカレー作ったりBBQしたりも楽しそうです。花火もできるでしょう」
「そうね、作戦をパパッと済ませて、キャンプ楽しみたいわぁ。キャンプは1泊でいいのかしら?」
「ええ、作戦が成功すれば、次の日には気温が下がり始めますので、それが確認できたら帰還してください」
無事に気温が下がったら、町を練り歩く大獅子舞にも出会えるかもしれない。
「せっかくの海キャンプですし、スイカ割りもいいんじゃないですか?」
「スイカ割り……え。そのスイカってもしかして」
「眷属化する前のアガルタスイカは、普通に食べられるようですよ?」
参加者 | |
---|---|
佐渡島・朱鷺(佐渡守護者かっこかり・d02075) |
梓奥武・風花(雪舞う日の惨劇・d02697) |
小鳥遊・優雨(優しい雨・d05156) |
姫川・小麦(夢の中のコンフェクショナリー・d23102) |
銀城・七星(銀月輝継・d23348) |
日与森・モカ(ツギハギさん・d29085) |
押出・ハリマ(気は優しくて力持ち・d31336) |
富士川・見桜(響き渡る声・d31550) |
●ジャングル探検
「まさか、熱波の原因がこんなのだったなんて……」
梓奥武・風花(雪舞う日の惨劇・d02697)は毒々しい蔓を慎重に避けながら、廃坑を覆うアフリカ植物を見上げ、滴る汗を拭った。
ESP隠された森の小道を装備した 姫川・小麦(夢の中のコンフェクショナリー・d23102)が先頭を行っているので藪漕ぎこそせずに済んでいるが、不気味さと気温が下がるわけではない。
「ふう、臨海学校っていつもこんな感じなのかなあ?」
富士川・見桜(響き渡る声・d31550)がヘッドライトを調節しながらこぼすと、スーパーGPSを装備して殿を務めている押出・ハリマ(気は優しくて力持ち・d31336)が、
「臨海学校までダークネス絡みって、夏休み堪能する暇も無いっすよね。きっちり退治してキャンプ楽しむっす……ところで」
ハリマは資料館でこの廃坑の古い見取り図を入手したのだが、
「奥になればなるほど、図とずれてきてるんすけど……」
図が古いせいか、それともアガルタの口化のせいだろうか。
「こっちもとっくに圏外だ」
苦笑した銀城・七星(銀月輝継・d23348)も、GPSと地図を仕込んできたスマートフォンをポケットにしまった。
とはいえ、脇道に逸れずにずんずん最奥を目指して進んで来られたのだから、様々な準備は無駄ではなかった。
「図によると、もうすぐ最深部なんっすけどねえ……」
ハリマが不安そうに赤い点が光る図を皆に見せた。
「ホントだ……なんかジャングル探検も慣れてちょっと楽しくなってきちゃったし、頑張ろう」
そう言った見桜は肩をすくめ。
「あんまり楽しいとか言っちゃいけないかな?」
「あっ」
その時、先頭を行く小麦が声を上げた。
「なんか、このさきがすごくひろそうなの」
ESPのおかげで見通しが良くなったジャングルの突き当たり、持参のライトの光が漆黒の空間に吸い込まれていく。
灼滅者たちは頷き交わし、慎重に近づいていく。
「でひゃひゃひゃ、いよいよっすかね!」
日与森・モカ(ツギハギさん・d29085)が小声で、だが楽しそうに、
「しっかし、空飛ぶスイカとか、んなもんホントにいるんすかね……ウッ」
小麦と並んで漆黒の空間に足を踏み入れ、腰に下げていた灯りで照らそうとした、その瞬間。
真っ暗だった空間に、ぎらりと無数の金色の光が点った。いや、光ではない。
目だ!
数十個もの瞳が、一斉にこっちを向いたのだ。そして。
「ま、マジでいたーーー!」
『ぎしゃーーーー!』
20数個のぱつんぱつんに育った大きなスイカが、一斉に迫ってきた!
●スイカ割り(バトル)
「この身、一振りの凶器足れ」
「雪は、全てを覆い隠す」
灼滅者たちは素早く武装し、スイカ眷属と対峙した。
佐渡島・朱鷺(佐渡守護者かっこかり・d02075)が凜々しく声を上げる。
「落ち着いて、1体ずつ倒していこう!」
彼女にとっては故郷の危機、伝統芸能を守ろうと気合いが乗っている。傍らで愛牛……ではなく愛車も高らかにエンジン音を響かせた。
灼滅者たちを値踏みするように囲むスイカ眷属は、ハロウィンかぼちゃのスイカ版とでもいったカンジ。黒緑ストライプの丸いボディに、金色の瞳、ぎざぎざに切れ込んだ真っ赤な口。
照明を明るくし、目も慣れてきたので戦場の様子も次第に見えてきた。坑道の奥の間とでもいった感じの空間は、かなり広い。元々広く掘られていたのか、それともアフリカンパワーが広げたのか……もちろん足下は一面のスイカ畑である。
何はともあれ、スイカ割り開始である。まずは小鳥遊・優雨(優しい雨・d05156)が、
「さあ、いきますよ!」
ガッと『Aranrhod』でスイカの蔓と葉に覆われた岩盤を蹴り、前列のスイカのうち1つを狙って強烈なキックを放った。
『ブワシャッ』
キックは見事にツボ(?)を捉えたようで、スイカ眷属は水っぽい叫びを残して砕け散った。スイカ汁が飛び散ったが、七星は気にせず踏み出して、
「さすが優雨先輩……よし、俺も!」
『七曜区間』を赤く光らせて唐竹割り! またもスイカは真っ二つ、さい先のよい出だしに、攻撃陣は我も我もとスイカに飛びかかっていく。小麦は髪を結ったリボンを鋼と化して放ち、風花は機敏にスイカの後ろ頭(?)に刃を走らせる。ハリマは雷を宿した拳を黒緑の堅い皮にめり込ませ、朱鷺は『鳥影』を廃坑の闇に負けない黒さで放つ。見桜は『リトル・ブルー・スター』を勢い良く振り下ろし、モカは愛犬・ケタケタさんに援護させながら、縛霊手に炎を載せて叩きつけて。
「焼きスイカにしてやるっす! って……旨いんすかね?」
もちろん全てを一発で粉々というわけにはいかないが、ひび割れて逃げだそうとするスイカは、時間差で到着したサポート隊のシャルロッテ・カキザキ(幻夢界の執行者・d16038)黒鳥・湖太郎(黒鳥の魔法使い・dn0097)が奥の間の入り口で片っ端から蹴り戻し、饗庭・樹斉(沈黙の黄雪晃・d28385)は狐姿で敏捷に駆け回り、癒やしの歌声を響かせている。
しかし、スイカたちもやられっぱなしではいない。『Cocytus』から氷弾を撃ちだそうとしていた優雨を、10個ほどが囲んだ。
「きゃあっ」
がしがし、ぼこぼこ、ぶっしゃー!
統率が取れているわけでもないし、1体1体の攻撃は大したことはないが、群がられるとそれなりに悲惨である。
前衛はスイカ汁が飛び散って巻き添えを喰ったが、朱鷺は赤く霞む視界に瞳を凝らし、
「こっちを向け!」
ご当地ビームをスイカの群に撃ち込んで包囲を崩し、
「円、回復頼むっす!」
ハリマも目をしばしばさせながら霊犬に後を任せると、自らは優雨を守るべく、スイカの群に突っ込んだ。小麦がと見桜が癒やしの風を吹かせ、前衛のスイカ汁を清めてやると、
「ありがとう!」
七星は『Nyx』をしゅるりと放ってスイカをシュバッと輪切りにし、風花は光と化した聖剣で力一杯串刺しにする。
実は風花、この後キャンプで大事な人と初デートの約束をしているのだが、そのことで気を散らしている暇もない。
「よいしょ……大丈夫っすか!?」
モカとケタケタさん、円が、連続攻撃で生じたスイカの隙間から、スイカ汁でべとべとになり目を回している優雨とハリマを引っ張り出し、癒やしの光で回復してやる。
「す、すみません……」
ダメージ自体は大したことはなく、優雨はぶるりと頭を振ると、
「お返しですーっ!」
槍を腰だめにしてまたスイカの群に飛び込んでいく。
「ユウラ、ヤミ!」
七星は影の鴉と猫を飛ばしてスイカをもぐもぐさせ、ハリマも立ち直って、
「どすこーい!」
鋼鉄の張り手でぶっとばして粉砕した。朱鷺はまとまって攻撃を仕掛けそうな群にビームを撃ち込んで分散させ、小麦はころりと足下に転がってきたヤツを魔力を込めたピコピコハンマーでぐしゃっと一撃。風花は炎のキックで蹴りとばし、モカは縛霊手で岩盤にびしゃりと叩きつけた。見桜は牙をがしがし言わせて飛んできたスイカによーく狙いを定めて、愛剣で真っ二つ!
「なんか今日はやれてる気がするな……早く終わらせてキャンプ楽しむよ!」
今までアウトドアに縁のなかった彼女は、キャンプをとても楽しみにしているのだ。
そんなこんなで、ぶっしゃーとやられたり、囓られたり殴られたりしつつも、スイカの数は順調に減っていった。残っているスイカも大方傷物である。
「よし、あとは一網打尽と行こう」
七星が黒々と殺気を放ったのを合図に、列攻撃も交えていく。優雨は情熱的なステップで、瀕死で岩盤に転がっているヤツをガシガシと踏みつぶし、ハリマは竜巻のような回し蹴りで、よろよろ飛んでるヤツを数個まとめて蹴り落とした。朱鷺は1個も逃がすまいと『朱神』を掲げて結界を張り、小麦は鬼の腕に握ったぴこぴこハンマーをぶんぶん振り回す。風花の刃は堅い皮をスパッと削ぎ、見桜はこそこそ逃げだそうとしているヤツを発見し、すかさず歌の音波で叩き落とす。
「でひゃひゃひゃ!」
モカが楽しそうに黒焦げにしたのがぽとりと落ちると、急にあたりは静かになり……。
「……終わったようですね」
朱鷺がホッと肩の力を抜いた。
もう、ギラギラ光る目も凶悪に赤い口も、暗い廃坑の中にひとつも見えない。
「わっ」
見桜が急に声を上げた。すわ、まだ残っていたかと仲間たちが構えると。
「すごい汚れちゃったねー」
情け無さそうに自分の装備を見下ろしている。自分たちだけではない。スイカ畑もぐっちゃぐちゃのべっとべとだ。
しかしそのぐちゃぐちゃべとべとの畑を、ハリマは熱心にかきわけて、
「わ、あったっすよー!」
無傷のスイカ……もちろん眷属化もしていない……を見つけて嬉しそうにもぎとった。
「もちろん、もらってくっすよね?」
キャンプ場では、学友たちがアガルタスイカを楽しみに待っているはずだ。
●まずはカレー!
スイカ掃討の任務を無事終えたメンバーたちがキャンプ場に到着すると、
「おかえりー!」
サポートメンバーたちが、【365-flickers-】の部員を中心に、夕飯のカレーの準備を始めていた。
「でひゃひゃひゃ! ひょもりは秘伝の唐辛子と七味持ってきたんすよ!」
モカは嬉しそうに部員の輪に入っていく。
「ひゃほーう、大好きなカレーをみんなで作れるとか、嬉しすぎるよな!?」
テンション高く仲間を出迎えたのは、燃日・萌火(まばゆい焔・d29934)。
真柴・遵(憧哭ディスコ・d24389)は、おつかれー、とモカとハイタッチを交わしつつ、萌火の肩をがしっと抱いて、
「カレーではしゃいで、お前は可愛いなあ……」
「お疲れ様。俺はもう腹ぺこぺこだよ」
斉藤・春(冬色れみにせんす・d19229)は大好きな刃物で野菜を嬉しそうに切っている。
「料理なんて普段全然しないんだけど」
久寝・唯世(くすんだ赤・d26619)は米袋を抱えて水場へと向かう。
「ご飯炊くくらいできるかも」
何故か洗剤も持っており、
「ぎゃあっ、ちょ、待った!」
萌火が慌てて取り上げた。
それを見て明日楽・逢魔(未帰還者・d29024)は、
「唯世ちゃんがチャレンジ精神に溢れているわね……萌火くん、ナイスディフェンス!」
声をかけながら食器やカトラリーの準備をする。
【365】のカレーは、かなり辛口になりそうだ。
結構な大人数なので、掃討メンバーも加わって、幾つもの鍋でカレーを作り始めた。
「風花さん、無事に済んで良かった」
柔らかな笑顔で風花を出迎えたのは、枝折・優夜(咎の魔猫・d04100)。
「あ、ありがとうございます」
風花は珍しく頬を紅潮させ、笑顔。初デートの緊張と高揚は隠しきれない。
「あのっ、い、一緒にカレーを作りませんか? カレーは自信あるんですよ。自炊、してますから……」
「やー、お互いお疲れ様よね」
それぞれ違う掃討チームに参加していた七星と蒼羽・シアン(ハニートラッパー・d23346)の仲良し姉弟も合流した。
七星は普段も寮で料理をしているので、積極的に料理に参加するが、シアンは。
「いつも七星が料理担当だから、あんまりやれないのよねー」
手を出しあぐねている。
「いいよ、姉さんはゆっくり……そうだ、一緒に皮むきしようか」
弟は、姉にピーラーを差し出した。
隅の方に熾した炭火では、小麦と月雲・彩歌(幸運のめがみさま・d02980)が、竹を回しながら、甘い匂いのするものを焼いている。
「そうそう、今みたいな感じでくるくるやっていきましょう」
2人はデザートにとバウムクーヘンを焼いているのだ。竹などの棒に生地の液を塗り重ねながら、火の上で回し焼いていく。
「時間かかりますからね、腹ごしらえに炙ったマシュマロもどうぞ」
「わあ、おいしそうなの!」
小麦は嬉しそうにとろりと焼けたマシュマロを受け取った。
「料理も化学実験も同じようなもの、レシピ通りに作れば、大概問題なく出来るものです」
「そんなもんよね、うふふふ……」
「ふふふふ……」
大鍋の前で、ルーの箱のレシピを読みながら不吉な笑いを漏らしているのは、優雨と湖太郎の、薬学部女子大生(?)コンビ。
「ぼ、僕らは野菜を切ろうか、ね?」
樹斉は、女子大生ズの会話に心配そうに聞き耳を立てていたシャルロッテを誘って、野菜を切り始めた。
「とにかくご飯はいっぱい炊いとくっすね」
ハリマも不安げだが、飯ごうにどんどん洗ったお米と水を入れていく。なにせ掃討作戦で腹ぺこだ。
その傍らでは、
「ぶふおぉっ、げほげほっ」
竈に火を起こそうとして見桜が煤だらけに……。
●スイカ割り(ノーマル)
【365】カレーにモカが辛~いイタズラを仕掛けたりなど、それぞれの鍋で紆余曲折はあったようだが、お腹いっぱい食べた後は、
「やっぱスイカ割りだよねー!」
昼間はパラソルの下から出なかった彩瑠・さくらえ(望月桜・d02131)が、星空の下、アガルタスイカを砂浜に据えた。
夕飯が終わり、キャンプファイアーの炎に照らされながら【カフェ:フィニクス】の仕切りでスイカ割り開始である。
波打ち際にはアガルタスイカが、ネットに入ってごろごろと冷やしてあるが、そこに忍び寄っていったのは朱鷺。
「新潟でスイカといえば、佐渡島ではありませんが、名産の『八色(やいろ)すいか』です」
持参のスイカをそっとアガルタスイカに紛れ込ませる。
「美味しさや糖度の違いにどなたか気付いてくれると嬉しいんですが……」
まずスイカ割に挑んだのは、桃野・実(水蓮鬼・d03786)の霊犬クロ助だ。
「もうちょっと右、右、そうそう……」
木刀をくわえ、目隠しをして指示の通りにちょこちょこと進んでいくが、もうちょっとというところでスイカにつまづきごろごろごろ……。そこに辛抱たまらんというように乱入したのは、神鳳・勇弥(闇夜の熾火・d02311)の加具土と、黎明寺・空凛(此花咲耶・d12208)の絆。
スイカを追いかけじゃれあう3頭を見て、勇弥は、
「おい加具土、お前スイカ割りの意味わかってないだろ?」
神代・織姫(煌星の魔女・d05159)が笑って、
「大丈夫でしょう。それにしても仲良しですね……あ、増えた」
更に他の参加者の霊犬やウィングキャットたちもどっとスイカ転がしに加わった。
「お友達一杯でよかったですね、絆」
空凜も壱越・双調(倭建命・d14063)の隣で嬉しそうに微笑む。
「社交的な子ですからね、嬉しいでしょう」
動物たちは遊ばせておくことにして、再開したスイカ割りでは、見桜とハリマが見事に割ることができた。勇弥が手早く切り分けて皆に配り歩く。
「ありがとう……眷属になる前のスイカと聞くとちょっと抵抗があるけど」
優夜は苦笑しながらスイカを受け取り、
「そ、そうですね……でも美味しそうです」
隣に座る風花は夜目にもまだ頬が赤い
「ESPビスケットでスイカを複製……と考えたんですけれど」
「無限にスイカ割りができるわね」
「しかしスイカはポケットに入らないので」
スイカを食べながら、リケ女会話(?)を交わす優雨と湖太郎、色々ツッコみたそうなシャルロッテの元に、
「おねえちゃんたち、どうぞ」
小麦が焼き上がったバウムクーヘンを切り分けて持ってきた。
「まあ素敵! キャンプでお菓子が焼けるなんて」
「ありがとう。小麦さんはスイカ食べました?」
「うん、さましてるあいだににたべたのよ。おいしかったの」
人の輪から少し離れたところで花火を始めようとしていたシアンと七星姉弟の元にもスイカは届いた。
2人はスイカを囓りながら、持参の花火を並べてみる。
「こういう場所って嬉しいわね。都会じゃ花火出来るところ自体少ないもの」
「そうだよね……あ、姉さん、線香花火がある」
「いいわね、しっとりと締めにやりましょうよ」
「どれも綺麗だけど、線香花火が一番安心するな……」
ふと夜空を見上げると、心なしか少しだけ海風が優しくなったような気がした。
●夏の終わりに
一夜明けると、海岸には晩夏の日本海側らしい涼しい風が吹き始めた。
キャンプを片付け、帰りのフェリーを待つ間に、何人かは地元民の朱鷺の案内で、件の大獅子舞を見にいくことにした。
見当をつけながら市街地を歩いていくとお囃子が聞こえてきて、小走りにそちらに向かうと、巨大な獅子舞が現れた。
「わ、おっきい!」
見桜はその大きさに驚いてつんのめりそうになり、
「ホント、おっきいね!」
ハリマと樹斉は手を叩いて喜ぶ。
「すげー迫力だな!」
七星とシアンも楽しそう。
朱鷺は、昨夜のうちは、
「せっかく我が佐渡島へいらっしゃったというのに、皆さんスイカスイカスイカ……もう少し島自体を楽しんでいただけないものか……」
と嘆いていたのだが、今日になってみたら、思いの他大勢獅子舞見物についてきてくれたのが嬉しい。
獅子舞が大喜びの灼滅者たちの方に近づいてきて……。
かぷ。
「きゃっ」
獅子に頭をかじかじされながら、朱鷺は感慨に浸る。
「故郷の文化を護れたことに誇りを持ち、舞う大獅子を目に焼き付けておきましょう!」
作者:小鳥遊ちどり |
重傷:なし 死亡:なし 闇堕ち:なし |
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種類:
公開:2015年8月26日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
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