お盆には先祖の霊が帰ってくる。
霊が迷わぬよう迎え火を焚き、お供え物をし、また墓参りをして送り出す、夏には欠かせない行事だ。
しかし、お盆休みに訪れる予定の墓地には、夜な夜な薄ら寒いうめき声が響いていた。
それはまるで、祀られる死に引き寄せられるかのようにどこからともなくやって来た死者達。
闇に紛れていながら、その数は数十にも上る。
もしも不運にも迷い込んでしまおうものなら、こちらから常世の側へ引きずり込まれてしまうだろう事は明らかだった。
うごめく屍達は獲物を探して練り歩き、今宵も墓地を騒がせる。
「お盆だからな。別に歓迎されていない死人どもまでもハッスルしちまってるんだろう」
神崎・ヤマト(中学生エクスブレイン・dn0002)が、集まって来た灼滅者達を見渡す。
「今回は墓地に大量発生したゾンビ達の退治を頼みたい。あんな奴らに居座られたんじゃ、ご先祖様の霊も安心して眠れねぇからな!」
そう言って、状況の詳しい説明を始めた。
「現れたゾンビの数は五十。とんでもない数だが一体一体は弱いから、油断しすぎたり囲まれて集中攻撃でも受けなければ苦戦する心配はないだろう。墓地は周囲を自然に囲まれていて広く、東西にエリアが分かれている。固まっていくよりもチームを分けていけばスムーズに終わらせられるぜ。夜の戦いになるから、明かりも忘れずにな」
ただ、東西二つのエリアには一体ずつ強めのゾンビが紛れている。
ご先祖様っぽい白装束のゾンビだから見分けは簡単につくぜ、とヤマトが補足した。
「お盆の夜……墓場……大量のゾンビ……怖いわ。はぐれて一人にならないように気をつけなきゃ」
早くも恐怖に打ち震えている姫神・巳桜(イロコイ・d00107)。夏の暑さも、墓場で待ち受けているというゾンビ達を思えば涼しさを通り越して冷たくなるというものだ。
「終わった後はあちこち汚れたりゴミが散乱してるだろうから、墓参りする客やご先祖様の霊が安眠するためにも掃除していってやってくれ!」
参加者 | |
---|---|
姫神・巳桜(イロコイ・d00107) |
コロナ・トライバル(トイリズム・d15128) |
夏目・凛音(ミミの優しい吸血お姉さん・d22051) |
宮野・連(炎の武術家・d27306) |
土也・王求(天動説・d30636) |
相神・千都(白纏う黒の刃・d32628) |
南野・まひる(猫と猫と猫と猫と猫と猫美少女・d33257) |
大和・斬(高校生人狼・d35366) |
●百屍夜行
お盆も終わろうとする夜。
けれどもまだまだ十分な蒸し暑さのよどむ墓地へ、灼滅者達は訪れていた。
「わーい、暗いところでゾンビと肝試しだー!! あつーい!! くさーい!!」
入り口を前にして漂う腐敗臭に、南野・まひる(猫と猫と猫と猫と猫と猫美少女・d33257)はテンションが上がっているようだが、ウイングキャットのねこ・ざ・ぐれゐとは暑いのが苦手なのか蛍光塗料を塗りたくった身体をぐったりさせている。
「最近は少しだけ涼しくなってきたが本当に少しだけ……また暑くなった時にゾンビだらけでは腐臭が更に強くなってしまう」
だからこそなればこそ、この場でこのゾンビ達を阻止しなければならんのう、とライトで前方を照らしながら土也・王求(天動説・d30636)が呟く。
その言葉に頷くのはコロナ・トライバル(トイリズム・d15128)だ。
「お盆ももう終わりだしね。魂どころか肉体ごと黄泉に返してあげようじゃないか」
「ふん、ゾンビはこの間の肝試しで経験済みなんだから。今回はもう平気よ……た、たぶん」
強がるように言ってのけた姫神・巳桜(イロコイ・d00107)の背後へそっとまひるが忍び寄り。
「ばー!!」
「きゃっ……!」
目の前へ躍り出るなり懐中電灯で顎の下から自分の顔を照らして見せると、案の定というか巳桜はその場で数センチ飛び上がってしまう。
「お盆だからと言って、蘇られては困るからな……」
一方で、せっかくの夏だからと黒地の浴衣を着て来た相神・千都(白纏う黒の刃・d32628)。さすがに戦闘だからと和傘まで持って来られなかったのが残念そうだ。
「これが俺にとっての初めての依頼となる。弱い相手らしいが、気を引き締めて油断のないようかかりたい」
「みんなで協力すれば、きっと大丈夫よ」
初陣ゆえの緊張した気配を醸し出す大和・斬(高校生人狼・d35366)に、夏目・凛音(ミミの優しい吸血お姉さん・d22051)が安心させるように微笑みかける。
「んじゃ、囲まれねぇようにしっかり討伐していこうかね、っと」
ビハインドの鈴太郎をともなった宮野・連(炎の武術家・d27306)を先頭に、灼滅者達は二つのチームに分かれて踏み込んでいく。
●墓地荒らしを撃破せよ
「うわぁ……さすがに25体もいると凄まじいわね」
並び立つ墓石のこちら側や向こう側にびっしりとはびこるゾンビ達に、巳桜がどん引きした様子で漏らす。
「うむ、こっちは配置についたぞ!」
王求は別チームのコロナからの連絡を受け取り、持参していた複数のライトをゾンビの方へ向けると、手前にいたゾンビの何体かがうめきながら歩いてくる。
「よーし、行ってこいねこ・ざ・ぐれゐと!」
光源の確保と防壁を兼ねて、まひるがねこ・ざ・ぐれゐとの首根っこを引っつかむや豪速球で群れの中に投げ込んでいく。
棒立ちのゾンビ達をなぎ倒す衝撃にねこ・ざ・ぐれゐともばてているわけにもいかず、迫ってくるゾンビ達へ必死に肉球パンチを繰り出しているようだ。
「私もどんどん行かせてもらうわ!」
ダブルジャンプを駆使して飛び上がる凛音。
眼下にゾンビ達を見下ろし、空を蹴るようにして飛び込んで行く。
戸惑う死者達の懐へ潜り込み、しなやかに身体を伸ばしながら雷を纏った一撃を突き込み、そのまま強烈な紅蓮斬へつなげていく。
「さあ、わたしの歌で浄化してあげるわ」
戦闘を開始した仲間達を見守りながら、巳桜がディーヴァズメロディを歌い上げる。
神秘的な響きは死者達を黄泉の国へ送り返すべく、墓地を厳かに包み込んでいった。
「妾も負けていられんのう」
混乱するゾンビ達へ狙い定めた王求がダイダロスベルトの帯を射出し、近づこうとする一体を凄まじい勢いで突き刺してぽいっちょと放り投げておく。
「チャーハンを作る猫……奇譚っていうか喜譚?」
まひるが語るのは中華鍋を持つ猫7匹セットの七不思議達。
どこからともなく現れた猫たちはチャーハンを作る手を止め、群れ寄って来るゾンビ達を行儀が悪いと言わんばかりに中華鍋でぼこすか殴る。殴りまくる。
攻撃が始まって一分が過ぎる頃には、ゾンビ達も侵入者を倒すべくじわじわと包囲を詰めようとしていた。
「あたー!」
そう簡単に捕まるまいと、凛音が肉食獣のようなキレのある動きで高々と跳躍して群れを翻弄し、隙あらば殴り飛ばし、なめらかに斬りつけ、敵を全く近寄らせない。
大きく身体を沈み込ませてゾンビの胴体を手の甲で穿ち抜きながら、影業で作った猫を散らせ敵を惑わせる。
「なんだかそこら中猫だらけじゃが……細かいことは気にせん!」
王求は地面を這い寄るゾンビを掴み上げ、空中で三回転させながら思い切りぶん投げた。
その調子で次から次へとゾンビをぶっこ抜いては投げ飛ばし、時にはご当地ビームで黒こげにしてのける。
「お盆はもう終わりよ、元の世界へ帰りなさい」
その時、白装束姿の威厳ある感じのゾンビと相対した巳桜が、ウロボロスブレイドを鞭のようにしならせ、絡みつかせて動きを封じる。
「30秒本気出すよ」
瞬間、まひるが動けないご先祖ゾンビをレイザースラストで貫く。
「ご先祖様がたごめんなさい、ってね」
反撃を避けるように墓石へ飛び乗り、小さく謝る仕草をしてみせる。
と、油断はしていなかったものの前後の道をゾンビにふさがれた王求。
「危ないわ、今のうちにこっちへ……」
「恩に着るぞ!」
前方のゾンビの攻撃を、凛音が影業で広げた黒い翼で防御しながらはじき飛ばし、退路を作る。
「回復するわね」
それなりにバッドステータスも溜まっていたため、巳桜が墓場ごと清めるように癒しの風を吹き抜けさせた。
「トドメだ必殺、ご当地キック!!」
弱ったご先祖ゾンビめがけて王求が猛烈なジャンプキックをぶち込み、盛大に爆発させて撃破。
「なんだか暗い……ちょっとリング光らせて」
戦いながら墓地の奥まで来たせいか闇も深まった場所で、まひるがねこ・ざ・ぐれゐとに光源の足しになるよう指示する。
言われたとおりリングを光らせるが、突如として暗闇の中に腕を振りかぶったゾンビの姿が浮かび上がった。
直後、駆けつけて来た凛音がゾンビの肩口から股下までばっさりと叩き斬り、窮地から救う。
「大丈夫かしら?」
大丈夫そうだ。犠牲になったのはまひるの盾にされたねこ・ざ・ぐれゐとだけで。
●派手にあの世へ送るべし
「おー、わんさといやがる。こりゃ獲物には困りそうにねぇな」
こちらは墓地の西側へやって来た灼滅者達である。
眼前の墓場にはあてもなく屍達が歩き回り、どこかお盆の夜にはふさわしい光景にも見えた。
「まったく……困ったものだな……。確実に仕留めていくだけだが……どれだけ時間がかかるやら」
「とりあえず、狼達の餌にしてあげようかな。レイザースラストと細切れにして食べやすくして、とボクってばやさしー……決して後片付けをしたくないからじゃないぞ?」
その数に千都はため息をつき、コロナはできるだけ綺麗に片付けられないものかと引きつった苦笑いをしている。
斬がゾンビ達を懐中電灯で照らす。何体かがこちらに眼球のない顔を振り向けているようだ。
「奴ら、こっちに気がついたようだ……みんな、準備はいいかな」
「いいぜ、一仕事始めようか」
頷いた連がビハインドと飛び出し、仲間もそれぞれゾンビの群れへ切り込んでいく。
「おわっ、こっち来た! ……これでも食らえー!」
大挙して押し寄せるゾンビに負けじと、コロナの差し向けたレイザースラストが次々と敵の肉体を突き抜けて押し戻す。
「ていうかホラーなのに恐怖より不快さの方が際立つんだけど。……蛆とか沸いてないよね? 大丈夫だよね?」
その際に弾ける腐肉や悪臭に顔をしかめ、気持ち二、三歩下がってしまう。
「これで残り二十四体……先は長いな」
封縛糸を搦めてゾンビを斬り裂き、倒した事を確認した千都が振り返る。その先ではまだまだゾンビが群がっており、かなりの地獄絵図と化していた。
「それなら片端から倒していくだけだぜ!」
四方から殺到する群れに対抗するため、連は鈴さんと共に前線に立ち、背中あわせの状態で互いにガンナイフから銃弾と霊撃を掃射。
接近されればガンナイフに炎を纏わせたレーヴァテインを浴びせ、討ち漏らしは鈴さんが余さずとどめを刺し、当たるを幸い暴れ回る。
斬は襲って来るゾンビをシールドバッシュでなぎ倒し、時には鏖殺領域で狙い撃ちながら自らの強化を図った。
「油断せずいけば……なんとかなる相手だな」
「うわー!? 服に匂い移ったらどうするんだよー!?」
なんかゲロ的なものを吐きかけられ、髪と尻尾を逆立ててコロナが飛び退く。
「こっちに来るなー!」
影の狼を存分に走らせ、なおも切迫してくるゾンビを食らいつかせた。けれども腐汁や腐った手足が降り注ぎ、もう涙目である。
その間にも千都や連がゾンビをぶちのめしていくが、周囲が暗いのもありどれか一匹に狙いをつけづらいようだ。
斬も次第に激しくなる戦闘に興奮が高まっているのか、掴みかかってくるゾンビを薙ぎ払うと、不意に光を向けた先に白装束のゾンビを発見する。
「あいつは……ご先祖様ゾンビ! ……あっ」
仲間に敵の存在を伝えるため叫んだ拍子にパーカーから耳が飛び出てしまい、慌ててフードを引っ張って隠す。
「出やがったな! 火葬してやるぜ!」
鈴さんに背後を任せ、連がご先祖ゾンビに飛びかかる。
これでもかと縦横に叩き斬った上で至近距離から炎を叩き込み、火だるま状態で吹き飛ばす。
「成仏しなよ!」
これ以上汚れないようしっかり距離を取ったコロナがレイザースラストを打ち込み、ご先祖ゾンビを地面へ串刺しに。
それでもよろめきながら立ち上がるご先祖ゾンビ。
だが、素早く踏み込んだ斬が鋭く気合いを込めて斬り裂き、勢いよく空中へ打ち上げた。
「とどめだ……」
地を蹴って跳ねた千都がご先祖ゾンビへ追いつき、狙い澄ました斬撃を首筋へ見舞う。
ご先祖ゾンビの首が飛び、それが地面へぼとりと落ちて消滅すると、墓地には静寂が戻った。
●お盆の終わりに
「うーん、汗もかいちゃったしお風呂に入りたいわ」
ちょうど西チームも戦闘が終わったとの連絡を受け、凛音が伸びをする。
「さてと、ゾンビ掃除が終わった後はお墓のお掃除ね」
巳桜が辺りを見回す。あちこちに細かな肉片が張り付き、片付けるのは一苦労しそうだ。
「なかなか骨が折れそうだけれど、このまま帰ったらご先祖様達も落ち着かないものね。協力すればきっとすぐよ、頑張りましょう」
「踏んじゃったお墓とかも綺麗にしようかなー。……主にねこ・ざ・ぐれゐとが」
灼滅者達は協力して散らばるゾンビの衣服や墓石についた汚れを落とし、ついでに墓参りに来る客達が残したゴミも片付けておく。
「ゾンビ達よ安らかに眠っておくれ」
王求と巳桜は立ち並ぶ墓を前に、死者達全てに冥福を祈ったのだった。
「掃除するわ。ちと騒いじまってすまねぇな」
墓に眠る祖霊達に軽く詫びつつ、連も鈴さんと作業に取りかかる。
「あ、後片付け必要なのかな? 夏に腐肉の処理とかしたくないんだけど……。か、影喰らいとかで消滅させたりできないかな? 無理? そっかー……」
露骨に嫌そうな顔をする影の狼達に、コロナも観念したように飛び散った血糊やら肉片やらをぬぐい始めた。
「残敵はいないようだ。俺達も手伝おう」
「丁寧に片付けていきたいな」
討ち漏らしがいないか見回ってきた千都と斬も、無造作に散乱する武器の残骸を回収にかかる。
「あれ、ちょっとちょっと、尻尾出ちゃってるけどいいの?」
「……あっ」
ニヤケ顔のコロナに指摘され、斬はこれまた急いで尻尾を隠すが、今度はまたもフードがずれて耳が飛び出てしまう。
「暑い夏の夜、だ……終われば涼を取るため、冷たいものでも飲みたいな」
「じゃ、他のメンバーも誘って近くに何か飲みに行くか。っと、その後は俺は鈴さんとこに寄るかねぇ……」
「……騒がせてすまなかった。ゆっくり眠ってくれ」
掃除も一段落し、斬が墓の前で手を合わせる。
ちなみに耳が出ないよう頭は下げなかった。
作者:霧柄頼道 |
重傷:なし 死亡:なし 闇堕ち:なし |
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種類:
公開:2015年8月21日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
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得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 5
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