見果てぬ貴方へ

    作者:西東西


     今にも消えそうな街頭が灯る小さな公園に、年齢も、性別もさまざまな人間が、輪になって佇んでいた。
     その中心には、一人の女性の姿がある。
    「なぜ嘘をついたの」
     黒髪をひとつくくりにした少女が、読みかけの文庫本を手に、問いかける。
    「どんなに取り繕ったって、アンタは冴えない主婦なんだよ」
     タイトスカートのスーツを着こなした女性が、さげすむように告げる。
    「うまく男のフリをしたと思っても、字面を見れば相手にはバレてますよ」
     ある俳優に良く似た顔立ちの優男が、鼻で笑う。
    「自分を偽るだなんて、愚かなことよ。貴女もそう思うでしょ?」
     小柄で身なりを整えた老女が、同意を求めるように言った。
    「わかってるわよ!」
     輪の中心でうずくまるようにして、恭子は叫ぶ。
    「でも怖かったのよ! 本当のことを伝えて、相手にされないかもって思ったら、怖かったのよ!」
    「だからって、嘘をつくの」
    「電子メールが怖いから手紙でってトコも、いちいち卑怯なのよ」
    「浅はかだよね。差出人の住所は一緒なんだ。ちょっと調べたらわかるって、思わないのかな」
    「気持ちに余裕がないのね。だから偽りの自分で紛らわすの」
    「もうしないわ、もう二度としないって誓うわ!」
     だが輪になった者たちは、恭子を見おろしたまま動こうとしない。
    「さみしい女」
    「かわいそうな女」
    「くだらない女」
    「どうしようもない女」
    「やめて……」
    「嘘つき」
    「偽善者」
    「詐欺師」
    「不誠実者」
    「……もうやめて……」
     泣き崩れる恭子をよそに、その糾弾は延々と繰りかえされる――。


    「未来予測によって、ダークネス・シャドウの行動を察知した。ひとつ、きみたちに灼滅願いたい」
     一夜崎・一夜(高校生エクスブレイン・dn0023)が集まった灼滅者の姿を確かめ、説明をはじめる。
    「シャドウの悪夢に捕らわれているのは、碓井恭子(うすい・きょうこ)という一般人の女性だ」
     年齢は三十代なかば。
     専業主婦として家事をこなすかたわら、長年、趣味で文通をしていたという。
    「想像力の豊かな女性だったらしい。己の素性を、毎回いろいろと設定し、文通相手に隠していたというのだ」
     ある時は、純文学を愛する女子高生。
     ある時は、海外留学を夢みるOL。
     ある時は、人気の男性俳優そっくりの研究員。
     ある時は、第二の人生を謳歌する老女。
    「やがて、ひとりの文通相手から直接会おうという話が持ちかけられた。当然、会えるわけがない。彼女は素性を偽っていたのだからな」
     「良くある話だ」と言い捨て、一夜は続ける。
    「結果、文通相手から縁を切られ、碓井恭子は素性を偽り続けてきた己を責めた。その隙を、シャドウにつけこまれた」
     恭子の悪夢には、それまで文通に使ってきた『設定した自分』――仮にこれを『設定人格』と名づける――の姿が現れる。
     そして彼女を取り囲み、口々に素性を偽った罪を責めたてるのだ。
     悪夢によって衰弱した恭子は病院の個室に入院している。
     まずは、ひとけのない時間帯に病室へ侵入し、『ソウルアクセス』を使用して彼女のソウルボードに入り込む必要がある。
    「碓井恭子を糾弾から救い出すことができれば、邪魔に思ったシャドウが姿を現すはずだ」
     なお、シャドウは灼熱者が複数で相手をして互角となる強さで、シャドウハンター同様の攻撃を行ってくるという。
     シャドウが現れれば『設定人格』4名も灼滅者に攻撃をはじめる。
     こちらは大した強さではないとはいえ、遠近両方の攻撃手段を持っているので油断は禁物だ。
    「シャドウが現れる前に『設定人格』を排除するのもひとつの手だ。だが、碓井恭子の目の前で『設定人格』を攻撃するのは、できる限り避けたい」
     仮にも、己の仮の姿とした者たちなのだ。
     己の目の前で、己が倒されていく。
     それこそ、悪夢をみるようなものだ。
     シャドウを灼滅できたとしても、彼女の回復が遅れる可能性がある。
    「……ともあれ、きみたちが第一に考えるべきは、シャドウの灼滅だ」
     シャドウの排除なくして、恭子の回復はありえない。
    「皆、『無事カエル』ように。朗報を待っている」
     一夜はあくまでも真顔で言い放ち、灼滅者たちの背を見送った。


    参加者
    千布里・采(夜藍空・d00110)
    凌神・明(Volsunga saga・d00247)
    久住・かなえ(レザーエッジ・d01072)
    東風・希(女は形から・d02315)
    結城・雅臣(機乗の狙撃手・d02438)
    志賀野・友衛(中学生神薙使い・d03990)
    雨宮・悠(夜の風・d07038)
    久遠寺・せらら(雨音の子守唄・d07112)

    ■リプレイ

    ●Login to SOUL
     灼滅者たちはひとけのない時間帯を狙い、碓井・恭子のいる病院に潜入していた。
     闇纏いを使用した千布里・采(夜藍空・d00110)や、旅人の外套をまとった者たちが先行し、タイミングを見計らって仲間を病室へ誘導。
     入り口から見えにくい位置に身を置いた一同を見渡し、ソウルアクセスを担当する采が声をかける。
    「ほな、行きましょか」
     頷いた面々に応えるように、采はそっと、眠り続ける恭子の手に触れた。

    ●悪夢の澱
     暗転した意識が戻った時、灼滅者たちは小さな公園の入り口に佇んでいた。
     敷地内にはぶらんこや鉄棒などの遊具がいくつか並んでいるのみで、残りは広場になっている簡素な造りだ。
     あたりは暗く、頭上には作り物のような星が瞬いている。
     周囲にはマンションらしきシルエットが見えるが、その輪郭は判然としない。
    「ここが恭子さんの精神世界か……」
     東風・希(女は形から・d02315)があたりを見渡しながら、「寂しそうなところだな」と感想をこぼす。
     恭子の心を映しとってか、公園に灯る街灯は今にも消えそうなほど弱々しい。
     ひとまず仲間の顔は判別できるため、最低限の視界は確保できそうだ。
    「あそこにいるのは……設定人格と……恭子さん、じゃないでしょうか……」
     久遠寺・せらら(雨音の子守唄・d07112)の言葉に、一同が彼女の示した方を見やる。
     公園の入り口から向かって右手の端。
     その街灯の下に、ぼんやりと人の姿が見える。
    「よし。ンじゃあ、さっそく乱入してやろうぜ」
     「こそこそ心理的に追い詰めるようなやり方は大ッ嫌いだ」と豪語する凌神・明(Volsunga saga・d00247)が拳を突きあわせ、意気込む。
     一同は二手に別れ、早々に行動を開始した。

     灼滅者たちの侵入を知らないまま、悪夢の糾弾は続いていた。
     女子高生、OL、優男、老女が順に責めたて、あざ笑う。
     恭子は反論する気力も尽き果て、輪の中で耳をふさぎ、うずくまって泣き続けていた。
     そこへ、雨宮・悠(夜の風・d07038)が忍び寄る。
     女子高生の背後を陣取り、すうっと息を吸い、叫んだ。
    「あんたなんて――」
    「いろんな自分を持ってるってことは、それだけ違った生き方を楽しめるってこと!」
     ちょうど口を開こうとしていた女子高生が驚き、振りかえる。
     悠はさらに息を吸い、声を張る。
    「誰かを傷つけたり、おとしめるような嘘じゃないなら、それを恥じる必要なんてどこにもないッ!」
     悠の声を間近で聞いた女子高生が、その声量に耳をふさぐ。
    「うるさい……!」
    「きみ、どうやってここへ」
     優男が悠に気づき、割って入ろうとするも、
    「そこまでだ!」
     続く志賀野・友衛(中学生神薙使い・d03990)の声が響き、優男を睨みつけるように恭子の前に立つ。
    「心の負い目を糾弾し続ける卑劣な行い、これ以上許すわけにはいかない!」
     乱入者の出現に、OLが細い眉をつりあげる。
    「別に、アンタに許して欲しいとか思ってないし。……てか、アンタたち誰よ」
     恭子も同じ思いだった。
     とつじょ現れた見知らぬ子どもたちの姿を、あっけにとられたように見あげている。
     結城・雅臣(機乗の狙撃手・d02438)は、周囲の状況に構わずズカズカと輪の中へ入った。
     恭子の前に膝をつき、低い声でゆっくりと語りかける。
    「嘘をついても、良いじゃないですか」
    「あ、あの。あなたたちは……?」
     雅臣は安心させるよう、優しく微笑んでみせる。
    「素敵な女性がつらい目にあっていると聞き、駆けつけた者です」
    「……ひとの会話をさえぎるなんて、礼儀知らずもいいところね」
     笑みを浮かべたまま。けれど声のトーンを抑え、老女が雅臣に迫る。
     すぐに久住・かなえ(レザーエッジ・d01072)が進み出て、老女の行く手をさえぎった。
    「あなたたちの言葉は『恭子さんの良心の呵責』とも聞こえるけれど……。さすがに、やりすぎね」
     今回の件は、恭子にも責められるべき点があることは否めない。
     身を偽る以上、リスクはあって然るべきだ。
     だが、他人を陥れることが目的の嘘でなかったのなら、その行為は必ずしも『悪』とは言いきれない。
    「恭子さんみたいなことは、平安時代の人だってやってるし。歴史の深い楽しみ方なんだよ」
     「たぶん、きっと」と続けるものの、悠の言葉は史実として有名な話だった。
     日本を代表するある男性歌人は、女性のふりをしてひらがなで日記を書いたことで知られている。
    「そうだとしても、きみたちには関係ない話だよ。これは、僕たちの問題なんだ」
     優男が悠に向かい、微笑む。
     優しげな印象とは裏腹に、その目は笑っていない。
     友衛の目配せを受け、雅臣がすぐさまスレイヤーカードの封印を解く。
    「しっかり掴まっていてください!」
     恭子は雅臣に言われるまま、出現したライドキャリバー『川岸重工製五二式改』にタンデムで乗り込んだ。
    「待ちなさい!」
     灼滅者たちの意図を察したOLがいち早く駆け寄るも、雅臣はその手が届く前にライドキャリバーを走らせる。
    「……無駄なことを」
     遠ざかる恭子の背を見つめ、老女は小さくつぶやいた。

     糾弾の輪を脱した雅臣は、待機していた別の仲間のもとへ向かった。
     できれば公園の外を目指したかったが、街灯のない公園外は全く視界が確保できない状態だ。
     一同は仕方なく、最初に立っていた入り口へ集まる。
     とはいえ、小さな公園だ。
     薄暗闇の向こうで、残った仲間が設定人格と言い合っている声が聞こえてくる。
     シャドウの目的を阻んだ以上、どこから敵が現れるかわからない。
     采は周囲を警戒しながらも、恭子に笑いかけた。
    「目ぇ真っ赤やけど、怪我とかなさそうやし、安心したわ」
     雅臣に簡単に説明を受けたものの、8人が自分を救うために立ち回っていることがありがたく、恭子は勢いよく頭をさげた。
    「あの、私のことで、ご迷惑をおかけして。本当にすいません」
     「そんなん、かまへん」と手を振り、采は続ける。
    「人格偽ったんに悪意があったワケやないゆぅんは、恭子さん見たらわかるわ」
     頷き、せららも言葉を重ねる。
    「自分以外の自分になりたいって……思ったこと、私だって……あります……」
     祖母の遺言に従い学園に入学したものの、周囲とうまくなじめるか、常に不安を抱いてきた。
     自分を変えれば、もっとうまく接することができるだろうか。そう、考えたこともある。
     同じような不安は、きっと誰もが抱いているのだ。
    「……どうか……自分を責め過ぎないでください……」
     その横で、希は明るく言い放つ。
    「間違ったと思うなら、やり直せばいいさ」
     自分を偽るということがどんな気持ちなのか、希にはわからない。
     だが、泣いて憔悴した恭子に大切な者の姿を重ね、こんな悪夢からは絶対に助けなければならない、と思う。
     「夢は夢だ」と、明も周囲を警戒しながら声をかける。
    「悔やんでばっかじゃ意味がねぇ。悪い夢はここで終わらせて、現実世界で反省を生かせばいい」
     恭子は灼滅者たちの言葉を受け、「ありがとう」とくりかえしながら、再び泣きじゃくった。
     希が街灯を見あげ、微笑む。
    「さっきより、明るくなったかな」
     ここを訪れた時は、お互いの顔を判別するのがやっとだった。
     だが今や公園を囲む街頭は、そのどれもが灼滅者たちの足元に色濃い影を落とすほど輝いている。
     その街灯越しに闇を見据え、采は息を呑んだ。
     砂場を照らす明かりの下。
     そこに、コンパスの針を思わせる一本の脚が刺さった。
     一呼吸置いて、もう一本。
     もう一呼吸後には、ハートのシンボルを全身に散らした、シャドウの全身が明らかになる。
    『邪魔者ドモメ……』
    「おいでなすったで!」
     警告とともに、采はスレイヤーカードの封印を解いた。
    「Riot Activate」
    「『守る力をあたしに』!」
     明と希の声が重なり、続くせららのカードと次々に封印が解かれる。
     雅臣は再びライドキャリバーを走らせ、恭子を乗せて後退。
     この時点で対設定人格班と合流できていれば共に戦う手はずだったが、彼らは未だ戻っていない。
     戦うにしても、まずは敵の数を減らしたい。
    「こっちは頼むぜ!」
     一瞬の逡巡の後、明はシャドウに背を向け、駆けた。
    「あちらのみなさんを、お願いします……!」
    「お前の相手はあたしらだぜ!」
    「優しい心喰うやからは、たっぷり仕置きせんとなぁ」
     恭子の元へ行かせまいと、せらら、采、希の3名がシャドウを前に武器を構えた。

    ●聖杯の女王
     かなえ、悠、友衛の3人は、攻撃をはじめた設定人格4人を前に戦闘を開始していた。
    「……ってことは、シャドウが現れたんだね!」
     悠の放った炎の奔流が、声とともにOLに叩きつけられる。
     続くかなえが、コートから取り出したナイフでその脚を一閃。
    「できれば合流したいところだけど……」
     なおも立ちはだかる設定人格を前に、眼鏡の位置を整える。
     反転すれば合流は容易い。
     だがそれは設定人格を引き連れ、シャドウの元に向かうということだ。
     また、保護した恭子がどの位置にいるのかがわからない。
     恭子の分身ともいえる設定人格を、彼女の目の前で倒すことは避けたかった。
    「恭子さんを戦闘に巻きこまないためにも、私たちで抑えましょう……!」
     友衛は後衛として2人をサポートしながら、さらにOLに向かって風の刃を放つ。
     優男が悠に攻撃を仕掛けようとしたところへ、
    「させるかァア!」
     煌めく矢が、流星のように幾重にも設定人格たちを貫いた。
     その一撃でOLが悲鳴をあげながら霧散する。
    「これで4対3だ!」
     駆けつけた明が前衛に加わり、戦況は一気に好転した。
     クラッシャー3人の圧倒的な攻撃が、設定人格の体力を迅速に削っていく。
     もはや仲間を回復する必要もなく、友衛の攻撃がさらに追い討ちをかけた。
     最後に老女を倒した4人は、すぐさまシャドウと対峙している仲間の元へ向かった。

    「結城先輩!」
     後衛位置でライドキャリバーとともに恭子を守っていた雅臣の元へ、友衛が走り寄る。
     その横をかなえ、悠、明が駆け抜け、シャドウと対峙する3人の戦線に加わった。
     集まった灼滅者たちの姿を認め、恭子が問いかける。
    「さっきの、あの怪物は……」
     街灯の下に現れたシャドウの姿を見たのだろう。
     不安そうに見つめる恭子に向かい、雅臣が声をかける。
    「あれこそ、貴女を苦しめた悪夢の源です」
     「さあ、危ないから下がっていてください」と声をかけ、友衛に目配せをする。
     友衛は胸中で恭子に詫びながら、魂鎮めの風を使った。
     ふいに爽やかな風が吹き抜け、糸の切れた人形のように倒れた恭子を抱きとめる。
     眠った恭子を戦闘から離れた位置に運び、雅臣は彼女を守るように陣取った。
     バスターライフルを構え、不敵に微笑む。
    「さて。これからが本番です」
     シャドウを眼前に捉えて戦う者たちは、度々かけられるエフェクトを払いながらも、攻勢を続けていた。
    「……みなさん、頑張りましょう……!」
     せららの清めの風に、蓄積されていた傷が癒されていく。
    「すまない。遅くなった」
     仲間たちに声をかけ、無敵斬艦刀を構えた友衛がクラッシャーに加わる。
     これまで足止めをしていた仲間たちをこれ以上傷つけさせまいと、武器を持つ手に力が入った。
     頷きあった灼滅者たちが、一斉に踏みこむ。
    「まずは一手!」
     シャドウの攻撃の後、悠が瞬速の居合斬りを放つ。
    「いくわよ」
    「シャドウ、覚悟!」
     死角に回りこんだかなえのガンナイフがシャドウを引き裂き、ほぼ同タイミングで友衛が振りかざしていた無敵斬艦刀を叩きつける。
    『オオオォォォ……!』
    「これで終わりだと思わないでください!」
     連撃に咆哮をあげるシャドウを狙い、雅臣のバスタービームがほとばしる。
     ライドキャリバー『川岸重工製五二式改』と采の霊犬も、機銃掃射と六文銭射撃で援護。
     咆哮をあげた隙をつき、明はシャドウを掴み、力の限り投げ飛ばした。
    「二人とも、頼んだぜ!」
     明の視線の先には、シャドウハンターの采と希の姿がある。
     佇む二人の周囲に深淵にひそむ想念が渦巻き、数百という弾丸に変じていく。
    「……悪いけど、アンタを逃がす気ないんやわ」
     采は胸中に抱く強い決意を胸に、拳を握りしめる。
    「理不尽な悪夢は、これで終わりだ!」
     希の声とともに同時に放たれた漆黒の弾丸が、シャドウの体に数え切れないほどの穴をうがつ。
     灼滅者たちの連携の前に、悪夢の元凶はなす術もなく倒れた。
     動かなくなったシャドウに近づこうとするせららを、采がさえぎる。
     彼はこれまでの報告書を確認し、シャドウが良く逃亡を図るダークネスであることを知っていた。
     完全に撃破したと確かめなければ安心できないと、影業で縛りあげようとした時だ。
     一瞬のうちに、シャドウの体がかき消えた。
     倒れてなお、逃亡したのだ。
    「……ッそ!」
     采はその場に膝をつき、やり場のない怒りを地面に叩きつけた。

    ●夢の黎明
     戦闘を終えた後、灼滅者たちは恭子を起こし、さまざまな話をしていた。
    「姿を隠して偽りの自分を演じる者もいれば、対面しながら偽りの自分を演じる者もいる……。私はそれを罪だとは思わないが、こうした判断は難しいものだな」
     考えこむ友衛に、
    「良いとか悪いとかわかんねーけどさ。少なくとも、ここまで気に病むことじゃないと思うぜ」
    「要は、もっと自分に自信を持てばいいだけの話だ」
     あっけらかんと言い放つ希と明。
     フォローするように、かなえが続ける。
    「真面目なんですね、恭子さんは」
    「そんなことないわ……」
     灼滅者たちのまっすぐな瞳を受け、恭子が恥ずかしそうにうつむいた。
    「どんな人格でも、根本にあるんは恭子さん自身や。それは、手紙もらった相手に、一番よぅ伝わってる思うで」
    「相手に会いたいと思わせるほど、なりきって演じられるというのも才能だと思うんですよ。PBWやTRPGをやれば、きっと楽しめると思いますよ」
     と雅臣が頷き、悠も提案する。
    「誰かになりきってチャットするのとかも、面白いよ♪」
    「あ、あの……」
     皆の影で様子を見守っていたせららが、意を決して声をあげる。
    「……恭子さんは……大丈夫です。もう、大丈夫だって、私……そう思います……」
     伝えたい想いはあふれるほどあるのに、うまく言葉にすることができない。
     そのもどかしさを感じてか、恭子は目を細めて微笑んだ。
     顔をあげ、集まった8人の顔をひとりひとり見つめる。
    「目が覚めたら、本当のみんなに会えるの、楽しみにしてるわ」
     「そしたらPBWとか、チャットとか。いろいろ教えてね」と、恭子が笑う。

     小さな公園に朝陽が昇る。
     灼滅者たちは作り物じみた空が、美しい朝焼けに変わるのを見た。
     そうして目覚めた恭子との約束を果たすべく、その場を後にした。

    作者:西東西 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2012年9月24日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 3/感動した 0/素敵だった 8/キャラが大事にされていた 0
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