迷宮化危機一髪! ~津市天むす城

    ●女将の憤り
    「……ウチだけやないわ。味噌カツだって三重発祥なのに愛知にもってかれとるやろ」
    「御意」
     割烹着姿の中年女性が、地下らしき暗い石造りの空間でぶつくさとコボしている。愚痴の相手は、背後に控えている5人のペナント頭の手下たちだ。
     その女性、色白丸顔で美人と言えないこともないが、頭には大きな海老天がのっかっており、黒髪……ではなく、海苔で頭の周りがぐるりと巻かれている。
    「愛知ゆーか、主に名古屋やんな。ったく、自分とこで作りました-、みたいな顔でしれっと商売しよって、いけずうずうしい……せやけど」
     女性は石の壁を愛おしそうに撫でて。
    「もうすぐこの城の迷宮化が始まるて、北征入道様からのお告げがあった……完成すれば、この城は難攻不落や」
     鋭い視線が、キッと手下たちの方を向いた。
    「この城の迷宮化は地下から始まるんやな?」
    「ハッ、そのように聞き及んでおりまする」
    「さよか。楽しみやなあ」
     女性はうっとりと広い地下空間を見回して。
    「迷宮が完成したら、ウチに怖いものはあらへん。きっと名古屋から覇権を取り戻してみせるで……今はとにかく、確実に迷宮化が発動するようにせなあかん。邪魔が入らんように、重々用心しいや!」
    「ハハーッ」
     
    ●武蔵坂学園
    「ヤバい、ヤバいですよ、雨松先輩!」
     春祭・典(高校生エクスブレイン・dn0058)は、やってきた雨松・娘子(逢魔が時の詩・d13768)に、焦った様子で駆け寄った。
    「どうした、春祭」
    「先輩が心配していた通り、迷宮化が今にも始まりそうな城が見つかりました!」

     小牧長久手の戦いで勝利した安土城怪人が、東海地方と近畿地方の制圧に乗り出している。その方法は、各地のご当地怪人にミニ城をサービス満点で大盤振る舞いし、従えていくというもので……というあたりはもう耳タコだろう。更にそれらの城を北征入道の力で迷宮化し、強化しようとしていることも聞いているだろう。
     今までは、城を与えられたすぐ後に攻め込めたので、迷宮化を阻止できていたのだが、今回は発見が少々遅れてしまったようだ。

    「今回予知されたのは、三重県の津市です」
     言わずと知れた、日本一短い市名の県庁所在地である。
    「城主はご当地怪人・津天むす女将。名物としてのインパクトを名古屋に奪われてしまったことを常々不満に思っていたようで、ストレスを溜めています」
     それはさておき。
    「手下は改造ペナント怪人5体。天守の屋根の上には、例によって安土城怪人から与えられたご当地旗が立ってます」
     旗のおかげで、女将と手下たちは少々パワーアップしてしまっている。しかし、この旗を引きずり下ろせば、その瞬間パワーアップが解除されるのだ。
     典は焦った表情で時計を見て、
    「今すぐ津に向かって頂いても、到着するのは迷宮化が始まる15分ほど前になってしまいます」
     なんせ遠いし。
    「15分……!」
     娘子は眉を顰めた。
    「たった15分の間に、天むす女将と5体の手下を倒さねばならんのか?」
     典は頷いて。
    「15分以内で倒すには、旗の奪取が不可欠になると思うのですが、怪人たちも迷宮化に向けて警備を厳重にしてまして」
     城は地上3階、地下1階。例によってプチ城だが、地上各階に各1名見張りをおき、女将は残り2体の手下と共に地下でその時を待っている。
    「効果的な陽動プラス、素早い旗奪取が必要になるな……」
     娘子は難しい顔で腕を組んだ。
    「はい、適切な人員配分と、ESPの巧みな活用が必要になるでしょう」
    「それは道中相談しながら行くとして……そうだ、天むす城はどんな場所に建っている?」
    「市街地の空き地を不法占拠して建てられています。当然平城ですし、周囲の建物や一般人に紛れて接近できるのはメリットですが、戦闘の際には、周囲への影響が少し気になります」
    「となると、戦場は地下がいいか」
     例えば、陽動班が1階を素早く突破して、地下の天むす怪人がいるところまで一気に押し入るとか。地下で騒げば、上階にいたペナント怪人たちも城主を守るために下りてくるだろう。上手く引きつけられれば、旗奪取のチャンスも作れるかもしれない。
    「うむ、作戦が大事だな。ところで、15分の間に怪人一味を倒せなかったら、どうなる?」
    「おそらく、作られ始めた迷宮に怪人たちは逃げ込んでしまい、倒すことはできなくなるでしょうね」
    「そうか……ところで、そもそも城の迷宮化というのは、どういう現象なんだろうな?」
     典は首を振って。
    「その過程は、残念ながら予知にも現れてきませんし、誰も見たことがありませんので、まだなんとも」
     娘子は遠くを見るような目で考えこみ、
    「もしもの時、迷宮の中まで追いかけていくのは、相当な危険が伴うのだろうな……」


    参加者
    城橋・予記(お茶と神社愛好中学生・d05478)
    淳・周(赤き暴風・d05550)
    雨松・娘子(逢魔が時の詩・d13768)
    北南・朋恵(ヴィオレスイート・d19917)
    高沢・麦(とちのきゆるヒーロー・d20857)
    天神・緋弥香(月の瞬き・d21718)
    レオン・ヴァーミリオン(鉛の亡霊・d24267)
    オルゴール・オペラ(魔女の群・d27053)

    ■リプレイ

    ●天むす城突入
     ボォ、ボオォォォ~~!
     オルゴール・オペラ(魔女の群・d27053)のホラ貝が高らかに鳴り響き、
    「よし、いけえええ!」
    「うおおおお!」
     灼滅者たちは津市某所にある天むす城の正門へと殺到した。
    「ぶち破るぞ!」
     石段を駆け上がり頑丈そうな鉄扉に向かって、武器や拳を振り上げた……その時。
     ばあぁあん!
     勢いよく内側から扉が開け放たれ、
    「夜更けに騒ぐのは何奴じゃ、ここが天むす女将の城と知っての狼藉……ぎゅむ」
    「おおっと」
     灼滅者たちは勢い余って城の中に前のめりになだれ込んだ。扉を開けた、一階の見張りらしき天むす柄のペナント怪人を巻き込んで。
    「く、くせものだっ、出会え出……うぎゃっ」
     尻餅をついた怪人が声を上げる間も無く、淳・周(赤き暴風・d05550)は拡声器のスイッチを入れて、
    「貰い物の城でお山の大将気取ってる惰弱な天むす怪人に天誅を!」
     地下にいる城主の天むす女将に聞こえるように叫び、拳に炎を乗せてぶん殴ると、
    「天むすって俺食べたことなくてー! それより、この前『名古屋で』味噌カツ食ったらすげー美味くて-!」
     高沢・麦(とちのきゆるヒーロー・d20857)が調子を合わせるが、実は、
    「(迷宮化まで15分ってマジか! ってか迷宮って響きがすでに恐いしっ。とにかく特攻するっきゃない!)」
     少々緊張気味である。しかし堅さを振り払うように、ガトリングガンから爆音凄まじく炎弾を撃ちまくる。
    (天神・緋弥香(月の瞬き・d21718)もハンドマイクを使って、
    「天むすのおばさん、聞こえてますか! 天むすおばさーん!」
     おばさん呼ばわりを執拗に繰り返しながら『紫蘭月姫【緋】』を捻り込み、城橋・予記(お茶と神社愛好中学生・d05478)は蝋燭を掲げて赤い炎を飛ばし、
    「天むすよりも天ぷらのおいしい食べ方、いっぱいあるよ! 天ぷらそばにうどんに……それにご飯はやっぱりお茶碗に盛って食べたいよ!」
     一生懸命天むすをディスるが、食べ盛りの本音としては、食べ物の悪口なんて言いたくない。
    「(天むすも美味しそうなんだけど……でも迷宮化は絶対止めなきゃいけないから!)」
     オルゴールも、
    「(天むすって三重が始まりだったのね。わたくし、知らなかったの。自分の持ち物を取られるって悔しいのわかるけど……でも、その気持ち、利用させてね?)」
     と、若干女将に同情気味。
     せつなそうな2人とは打って変わってとーっても楽しそうなのは、
    「逢魔が時、此方は魔が唄う刻、さぁ演舞の幕開けに!」
     雨松・娘子(逢魔が時の詩・d13768)。ライブ衣装に変身して、激しくギターをかき鳴らし、早速ぶっとばしている。
     いきなりの連続攻撃に受け身一方のペナント怪人は、
    「こっ、この人数はそれがしだけでは何とも……お館様にお知らせせねば……」
     と調理用手袋を掲げつつ、よろよろと地下に通じる階段へと退いていく。
    「うっ、結界……有嬉、回復!」
     灼滅者たちが、予記のナノナノのハートを受けながらそれを追いかけていくと、
    「騒がしい、何事や!」
     階段の下からキンキンした女性の声。エビ天を頭に乗せた、割烹着の中年女性が、2体のペナント怪人を引き連れて階段を上ってこようとしている。
     見紛うはずもない、津天むす女将の登場だ!
    「敵襲にございます!」
     1階の警備ペナントが、地下への階段を遮るように立ちはだかりながら、女将に訴える。
     かくなる上は……。
    「えい!」
    「うわあっ」
     オルゴールが、怪人を思いっきり地下へと蹴り落とした。
     どんごろごろごろ。
    「ぎゃあ、何すんねん!」
    「ぐえぇっ」
     蹴られた怪人は、仲間の上に見事に転がり落ちていった。

     下り階段付近の騒ぎに乗じて、2階への上り階段に忍び寄ったのは、レオン・ヴァーミリオン(鉛の亡霊・d24267)。2,3階の見張りを、旗奪取まで何とか足止めして……と念じつつ駆け上る……と。
    「何奴!」
     間近から誰何する声が。
    「あ」
     早速2体のペナント怪人がレオンの前に現れた。

     北南・朋恵(ヴィオレスイート・d19917)はドキドキの胸を抑えて、城外にいた。1階の窓の下に潜み、緋弥香から渡されたインカムで、城中の気配に耳を澄ましている。
     大騒ぎになっている気配がして、そっと窓から中を覗くと、レオンが2階の階段を昇っていくのが見えた。
     時計を見ると、天むす城到着から既に3分が経過していた。到着して即、躊躇なく突っ込んだつもりだったが、時の経つのが速い。
    「あたしたちも行きましょう、ロッテ。迷宮化ってよくわかりませんですが、とめてみせるのです!」
     朋恵はナノナノに囁きかけ、気合いの入った表情で箒にまたがった。

    ●挑発
     どんごろごろごろ。
    「押し込め-!」
    「敵は地下にあり~でござります!」
     麦がもしものためのシグナルボタン降り口に仕掛けると、陽動組は派手に鬨の声を上げながら、ペナント怪人を蹴落とした勢いを借りて、一気に地下まで雪崩れ込んだ。
    「は、早う体勢を立て直すんや!」
     ヒステリックに女将が叫び、折り重なってもがいていた天むすぺなぺな達は、何とか起き上がるとボスを囲んで地下室の奥の方へと退いた。
     退いたのは、石室と言った感じの、大きな石で形作られた部屋。石の壁面はじっとりと湿り、は虫類めいたぬめりを帯びていて何となく不気味である。もうじきここから迷宮化が始まると知っているからこそかもしれないが。
     とりあえずやるべきことは、目の前の天むす女将一味をあと10分ほどのうちに倒すことである。そしてその為には、朋恵に旗を何とか奪取してもらうことが必要だ。そのためには、地下の敵をしっかり引きつけておかなければ……。
     周は対峙した天むす女将の頭をまじまじと見つめ、
    「マジで天むすだな……しかし、天むすっちゃやっぱ名古屋だよなー」
    「だよねえ」
     さりげなく階段を塞ぐ位置に陣取った麦が、また調子を合わせて。
    「てゆーか、津といえば、津餃子っしょ?」
     栃木ヒーローの彼としては、各地の名物餃子は見逃せないってのもある。
     ちなみに津餃子は、直径15cmの皮を使った給食発祥の巨大揚げ餃子だ。
    「なんやて! 津餃子なんて新参者やのに!!」
     白い丸顔に青筋を立てた女将を尻目に、緋弥香はせせら笑って。
    「ふっ、僻みっぽいおばさんは嫌われますわ」
    「だっ、誰がおばさんや! 誰が僻みっぽいんや!!」 
     女将は、長~い菜箸を振り上げ、配下に。
    「絶対許さんで! いてこましたれー!!」
     どんだけ大きな天むす握るねん、とツッコミたくなる巨大調理用手袋が一斉に挙げられ、結界を地下室中に張り巡らせた。

     その頃2階では。
    「ちょっと足止めに付き合えや」
     レオンが2体の怪人を、全身から発した殺気で押し戻そうとしていた。
    「キミらがいく前にオレの仲間が、ヘボ城主を叩き潰す」
    「何っ!?」
    「本隊は地下か!?」
    「当然だろ」
     レオンは嘲笑を浮かべながらさり気なくインカムをオンにした。朋恵に自分が2体を引きつけていることを知らせたい。
    「キミ『ら』は精々ゆっくり戦うといい。城主の危機は放置でね!」
     そう言い放った時、怪人たちの背後の窓の外を、箒に乗った朋恵がすうっと上っていくのが見えた。一瞬こちらを覗きこんだので、状況を確認できただろう。
     怪人たちは朋恵には全く気づかず、
    「拙い! こんなところでグズグズしている場合ではないぞ」
    「おう、一刻も早くお館様の元へ……そりゃ!」
     息を合わせて、レオンを巨大料理用手袋で殴り倒した。
    「うわ、痛え!」
     旗によってパワーアップした拳、しかもダブルの威力は凄まじかったが、レオンは床に抑えつけられながらも、
    「(朋恵さんは、3階の屋根に着いた頃かな)」
     ニヤリとした。

    ●旗奪取
     もうすぐ最上階の屋根に到達する、という時、朋恵の時計がピピッと5分経過を知らせた。
    「急がないと」
     屋根の上、翩翻とひるがえるご当地旗にナノナノと共に近づいていく。しかし、風が強くてなかなか掴まえられない。
    「早くしないと、みなさんが……っ」
     焦って手を伸ばすが、旗は生き物のように逃げ回る……と、
    『ナ……ナノナノーッ!』
     クリスロッテが捨て身で旗にしがみついた。ナノナノの力では旗はちぎれないようだが、重しにはなる。
    「ナイス!」
     垂れ下がった旗を、朋恵は両手でナノナノごとぎゅうっと掴まえて、力一杯引っ張った。
    「えーいっ!」
     ベリベリビリッ。
    「やったー、とりましたーーーーっ!」

     その頃地下室では。
    「やりましたわ!」
     緋弥香の鬼の拳に殴られて、1階の警備ペナが倒されていた。
    「何すんねん! 安土のお方から預かった大事な手下を!」
     その緋弥香に女将が菜箸を振り下ろした。
    「……くっ!」
     咄嗟に槍で受けたが、ビシリとエネルギーの火花が散り、緋弥香の腕はびりびりと痺れた。
    「(受け流したつもりなのに、大した威力ですわ)」
     内心そう思ったが、ここはまだ挑発するところである。
    「えー、能力上げててこの程度? ガッカリですわ!」
    「はん、よく言うわ」
     一撃発散して落ち着いたのか、女将は挑発には乗らず、
    「あんたらも、結構痛そうに見えるけどなぁ?」
     悔しいが、パワーアップ中の女将一味の攻撃力は、愉快な見た目に似合わず強力だった。ディフェンダーは回復やカバーなどの補助に手一杯で、思うように攻撃できていない。
    「それに迷宮化が始まれば、ウチらの思うツボやしなあ」
     女将はホホホと高飛車に笑った。
     先ほどオルゴールが5分経過を知らせた。迷宮化の時間がどんどん迫ってくる。
    「じきに上の手下らも下りてくるやろし、もちっとだけ時間稼げばええんや。さ、しっかり結界張ってこか」
    「ハッ」
     焦り始めた灼滅者たちをいたぶるように、ペナント怪人はまた巨大手袋を高く掲げた……その時。
    『やったー、とりましたーーーーっ!』
     インカムに、朋恵の喜びの声が!
     同時に、
    「……はうっ?」
     女将一味がよろりとバランスを崩した。
    「な……なんや、突然力が……」
     旗の効き目が切れた! 
     予記が一瞬満面の笑顔になって。
    「やった、さすがだね……今だ!」
     女将の盾になっているペナント怪人に掴みかかって、
    「えーい!」
     思いっきり石の床に投げ落とした。投げられた怪人は腰を打ったのか倒れたまま呻いている。
    「ま……まさか、あんたら、旗を」
     じり、と下がりながら女将が目を剥いた。
    「そのとーりっ!」
     ドタドタとやかましい音を立て、階段を転げ落ちるようにして現れたのはレオン。どや顔であるが、2体相手にしていただけのことはあり結構ボロボロで、
    「おい、大丈夫か!?」
     麦がびっくりして急いで癒やしの光をかけてやる。
     当然レオンの後ろからは、もれなく2,3階の警備ペナントがついてきたが、更にその後ろから、
    「取りましたー!」
     引きちぎった旗を手に、朋恵も箒ですっ飛んできて。
    「よ……よくも」
     ぎりりと歯ぎしりをする女将に向かって、
    「作戦成功にございますな!」
     娘子がギュイーンとギターを鳴らして、
    「さあさあ、怨み節の女将様! さぁさそう腐らず零さず! 楽しんで参りましょう! 不肖このにゃんこ、一生懸命歌い踊り盛り上げますれば!」
     ここからが本番だ!
    「めんどくさいご当地の横の繋がりを、ここでまた一つ断ち切ってやるぜ!」
     周がオーラを乗せた拳で、予記に投げられたペナントに殴りかかり、
    「天むすはっな~ごやの名物♪ 天むすは名古屋で発展♪ 有名♪ お土産物にも人気なのっ♪」
     オルゴールは即興の歌を娘子のギターに合わせ、女将をおちょくりながら流星のような跳び蹴りをかました。
     これで2体目も戦闘不能となり、女将を守っているのは、3体の手下だけ。
    「じ……時間を稼ぐんや……迷宮化までもうじき……ウッ」
     女将は手下に指示を出そうとしたが、朋恵が縛霊手を掲げて素早く結界を張って邪魔をする。
    「ボクはもうボロボロだけどさあ、みんな、頼りにしてるよ!」
     ボロボロと言いつつ、レオンも聖碑文を詠唱する『RoseRedStrauss』から目映い光線を撃ちまくり、
    「アゲて行こうか!」

    ●リミットまで
    「12分経つのよ!」
     オルゴールが知らせた時には、女将を守る手下はあと1体となっていた。
    「お、お館様……っ、どうか迷宮化まで堪え忍んで……」
     その1体もけなげに女将の盾となっていたが、
    「娘子さん!」
    「はいはい~っ!」
     グワッシャ!
     音楽仲間の朋恵と娘子が息を合わせて、光と化した聖剣と、ギターの一撃を見舞うと、動かなくなった。
    「くっ……」
     女将はとうとう丸裸となり、石壁を背に追い詰められた。
    「ペナントくん、カッコよかったねぇ。最後まで主を庇って散っていくとは」
     レオンは黒々と殺気を発ししながらも賞賛しきり。
    「さあ、時間がないよ、行こう!」
     予記が、皆の炎で焦げてしまったエビ天の匂いにお腹をぐうっと鳴らしながらも、石壁を伝って高い位置からの跳び蹴りを放ち、麦は果敢に割烹着の襟元をつかんで、
    「二条大麦ダイナミック!」
     豪快に投げ技を決めた。
     配下を全て失い、列攻撃などでじわじわとダメージを受けてもいた女将は、防戦一方である。
    「あらら、弱くなっちゃいましたのね……」
     緋弥香は注射器で女将の残り少ないエネルギーを情け容赦なく吸い取り、オルゴールはキックで更に炎を畳みかける。
    「ぐああ……」
     炎を消す力もなく、奥の壁にすがりついた女将に、ここが勝負処と見て、ナノナノたちもシャボン玉を大量に発射した。
    「は、早う……早う迷宮を……」
     女将が逃れる術は、もう迷宮化しかないが、変化が始まる兆しは無い。
    「折角ヒーローが辿りついたのに逃げる気か! 最後まで真っ向から勝負しろ!!」
     周が高らかに叫ぶと『睦月』を地下室の暗がりに負けない黒さで伸ばした。影は女将にシュルリと巻き付き、ギリギリと締め付ける。
    「ぎゃあああ……め、めいきゅ……」
     ……グシャリ。
     天むす女将は影に握りつぶされるようにして、散った。

     ――15分経過しても、地下室に変化は起こらず、灼滅者たちはやっと肩の力を抜いた。
    「津餃子って食べてみたいんだけど、どうかな?」
     緋弥香が訊いた。もちろん皆、大賛成である。しかも周おねーさんがおごってくれるという。
    「天むすも食べよ!」
     更に予記がぺこぺこのお腹を押さえながら提案し、娘子が、戦闘中とは打って変わった重々しさで頷いた。
    「そうだな……天むすも食べてやらねばな……」

    作者:小鳥遊ちどり 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2015年9月10日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 2/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 2
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