誘蛾灯~バイカーの受難

    ●高速道路
     広大な田畑を突っ切って、黄色いライトが等間隔で並んだ広い道路が、地の果てまで続いている。夜更けとあって、通る車は少ない。
     だから、その灯りに誘われるように夜空を飛んでいる巨大な蛾……というよりは、羽と脚を持った芋虫がいることに、気づく者はなかった。
     毒々しい赤と黒と金の芋虫の腹は異常な膨らみを見せ、その中で何者かが蠢いているようにも見える。
     ……と、芋虫が突然急降下した。降り立ったのは地味なパーキングエリア。売店や食堂等の有人施設はなく、在るのはトイレと自動販売機のみ。
     芋虫の狙いは、隅のベンチで仮眠を取っているひとりの若い男性バイカーだった。ちょっとだけ横になるつもりだったのが思いの他疲れていたのだろう、熟睡しているようだ。駐輪場にはピカピカの250ccが停められている。
     広い駐車場の反対隅には2台の長距離トラックが停まっているが、人気はない。トラックドライバーも仮眠中なのだろう。
     新たに入ってくる車もない。定時には、エリアの管理会社や警備会社が見回りに来るのかもしれないが、現時点ではその気配もない。
     芋虫は熟睡するバイカーに不気味な頭部をぐっと近づけると……ふっと消えた。まるで吸い込まれたかのように。
     ううっ、とバイカーが苦しげに呻き、もがいた。片足がベンチから落ちたが、しかし目を覚ますことなく。
     再びバイカーは夢の中に戻っていった……。
     
    ●武蔵坂学園
     集った灼滅者たちに、春祭・典(高校生エクスブレイン・dn0058)は早速問うた。
    「最近、虫っぽい気持ち悪いシャドウが、どこからともなく現れて、眠っている人間のソウルボードの中に入り込む事件が多発していることはご存じですよね?」
     彩瑠・さくらえ(望月桜・d02131)の調査によると「絆のベヘリタスの卵」が次々羽化して生じたシャドウが、人間のソウルボードに入り込んでいるようなのだ。
    「僕が予知したのは、東北のある地方高速道路での案件です」
     典は、予知のパーキングエリアを地図で指し示した。
    「皆さんはこのパーキングで待機し、バイカーが眠り、シャドウが飛んでくるのを待っていてください」
     雪国のこととあって、トイレや自動販売機の建物は小さいながらもしっかりしているので、その中から観察すればよいだろう。
    「くれぐれも、介入するのはシャドウがバイカーのソウルボードに入ってからにしてくださいね」
     入る前に仕掛けると、バベルの鎖で察知されて逃げられる恐れがある。別の人間の夢の中に入ってしまえば処置なしだ。
    「首尾良くソウルボードに入れたら、シャドウ本人と戦う事になります」
     入ったばかりなので、悪夢を利用した配下などはまだいない。
    「ボード内のシャドウはあまり強くありません。ただ……」
     典は難しい顔で。
    「このシャドウは、ソウルボードを通じて撤退する能力は持たないため、ボード内で撃破すると、現実世界に現れます。現実に出てきたシャドウは強敵ですが、今の皆さんであれば、決して倒せない敵では無いはずです。可能な限り灼滅を目指してください」
     灼滅者たちが力強く頷くと、典はようやくニコリとして。
    「バイカーは走(かける)さんと言いまして、大学生です。夏休みいっぱい一生懸命バイトしてやっと買った新車の足慣らしに出かけたのですが、調子にのって遠出しすぎたようで」
     疲れて仮眠を取ったところをシャドウに狙われたのだろう。
    「なので、彼の夢も、夜の高速道路です」
     夢の中でも新車で走っているのだろう。
    「皆さんが夢に入ると、すぐに走さんがバイクで走り去って行きますが、彼はそのまま行かせちゃってください」
     え、いいの? と疑問の声を上げた灼滅者たちに。
    「彼のすぐ後をシャドウが追いかけてきますので、そっちを確実に止めてください……むしろ」
     典はまた難しい顔に戻って。
    「現実に戻ってからの方が、注意が必要です。人気の少ないパーキングですからそのまま戦場にできるのはいいんですが、現実の寝ぼけている走さんを守らなければなりません」
     駐車場の反対側ではあるが、トラックも停まっている。おまけに夢の中よりシャドウは強い。
    「今回のシャドウ、絆のベヘリタスの卵から生まれてはいますが、ベヘリタスとは違う姿をしているあたり、何か嫌な予感がするのですよね……膨らんだ腹部からは、また別のシャドウの気配も感じられますし」
     腹部のシャドウは、戦闘能力などは非常に低いと思われるが、油断は禁物だ。
     典は灼滅者たちにがばっと頭を下げて、
    「どうか確実な灼滅を、お願いします」


    参加者
    ギィ・ラフィット(カラブラン・d01039)
    佐藤・志織(大学生魔法使い・d03621)
    明鏡・止水(高校生シャドウハンター・d07017)
    琴鳴・縁(雪弦フィラメント・d10393)
    シャルロッテ・カキザキ(幻夢界の執行者・d16038)
    影龍・死愚魔(ツギハギマインド・d25262)
    押出・ハリマ(気は優しくて力持ち・d31336)
    ロベリア・エカルラート(御伽噺の囚人・d34124)

    ■リプレイ

    ●Parking area
    「んー、広々とした駐車場っすね。これなら思いっきりやり合えそうっす」
     ギィ・ラフィット(カラブラン・d01039))がガラス戸越しに外を見やって呟いた。
     雪国の屋外トイレなので、頑丈そうなガラス戸を入ると狭いフロアがあり、そこから男女それぞれの入り口に分かれている。自動販売機もそのフロアに設置してある。灼滅者たちはそこでじっと時を待つ。
     トイレは新しく、掃除が行き届いている。このくらいキレイならば、不幸な一般人たちを一時待機……というか短時間拉致監禁しておいても、それほど苦痛を与えることはないだろう。
     そこから見えるベンチの上で眠っている若者が、今夜の被害者、走だ。秋の星空の下、これから降りかかってくる不運も知らずに気持ちよさそうに寝ている。
    「……ああ、来ましたよ。醜い虫が」
     バサリ、バサリ……。
     重たげな羽音と共に舞い降りてきたのは、黒と赤と金の巨大な芋虫。ぶよぶよと膨らんだ胴体や、暗黒を固めたような眼はもちろんだが、けばけばしい蛾のような羽もおぞましい。
    「今更シャドウの外見にどうこう言うつもりはないけどさ……」
     ロベリア・エカルラート(御伽噺の囚人・d34124)が顔を思いっきりしかめて。
    「面倒になる前に、とっとと片づけたいね」
    「そっすよね……お腹、やっぱり何か入ってるっぽいっすし」
     ぶるりと身震いをひとつしたが、押出・ハリマ(気は優しくて力持ち・d31336)は一生懸命に敵を観察する。走に狙いを定めたダークネスの腹はぶよりと迫り出し、時にもぞもぞと蠢いている。まるで胎児を宿しているかのよう。
    「ダークネスの中からダークネスとか、よく解んないな……中のダークネスは、親のダークネスと同じものになるんすかね?」
     ダークネスには生殖機能は無いので、親というよりは、宿主という感じだろうか。
    「イナゴの佃煮ならまあ嫌いじゃありませんが……あれは不味そうですね」
     イナゴとダークネスを同列に並べてる強者は 琴鳴・縁(雪弦フィラメント・d10393)。しかしシャドウのおぞましさを目の当たりにしている仲間たちからは、苦笑のひとつも出ない。
    「でっかい蛾のお化けといいましょうか……モ、のつくアレ的な? 歌とか歌った方がいいでしょうか」
     佐藤・志織(大学生魔法使い・d03621)の昭和ネタも、仲間たちの表情を和らげることはできない。なぜなら……。
    「あ……」
     虫がふいっと消えてしまったから。
    「走さんの中に、入ったっすね」
     ギィが言って、そっと皆のためにガラス戸を開けてやると、
    「行こうか。気になることは色々あるけど、まずは目の前の敵をしっかり倒さなくちゃね」
     影龍・死愚魔(ツギハギマインド・d25262)がスレイヤーカードを確認しながら、するりと外に出た。
    「志織先輩」
     シャルロッテ・カキザキ(幻夢界の執行者・d16038))がひとり現実に残る志織に頭を下げ、
    「トラックの運転手、よろしくお願い……します」
    「ええ、任せてください」
     志織は力強く請け負って、早速ESP怪力無双を発動した。
     彼女が見守る中、灼滅者たちは走の回りに集まった。ターゲットは一時寝苦しそうな様子を見せたが、またすやすやと寝息を立てている
    「良い旅になるよう……がんばる」
     明鏡・止水(高校生シャドウハンター・d07017) の言葉を合図に、シャドウハンターたちが走の体に触れて――7人は夢の中へと旅だった。

    ●Battle of dream
     灼滅者たちが降り立ったのは、高速道路のど真ん中だった。秋晴れの空の下、広々とした田畑や丘陵地の間をごくごく緩やかにカーブする、気分のいい道だ。走の心象風景でもあるのだろう。
     辺りを見回す暇もなく、エンジン音が近づいてくる。慌てて中央分離帯に上がると、目の前をぴかぴかの250ccが通り過ぎていく。
     黒のヘルメットにヴィンテージ風のジーンズ、革ジャン風のジャンパーと、学生なりに精一杯カッコつけた走は、灼滅者たちに目もくれずに走り去っていった。
    「ふうん、バイクも良いな……」
     その背中を止水が見送り、ギィが、良い旅を、と手を振って。
    「夢も高速道路とは、よっぽど走るのが好きなんですねえ……あっ」
     彼だけではなく、皆が背後にぞくりと怖気を感じて振り向くと、ばさりばさりと低空飛行で鱗粉を撒き散らしながら、赤黒金のおぞましい虫がすぐそこまで近づいてきていた。
    「きましたね、ひとつ行くとしやしょうか……殲具解放!」
     ギィが『剥守割砕』に炎を載せて飛びかかったのを皮切りに、灼滅者たちは夢の戦いに突入した。死愚魔は、
    「あの人を追う前に、まずはこっちの相手をしてもらうよ」
     背から鋼の帯を放ち、ハリマは雷を宿した掌で、虫の首と思しき部位を狙って喉輪を決めた。シャルロッテは、
    「(……この虫が『人間』から孵化したかどうかは予測には無かったわね。タカトはダークネスにも接触している……ダークネスから孵化した可能性も……まだ可能性でしかないけれど)」
     様々な疑問を脳裏に巡らせながら、
    「(まぁ、今は目の前の敵に集中しないと)」
     フェンスを利用して、落差のある跳び蹴りを見舞った。
    「他人の夢で何する気か知らないけど、さっさと終わらせるよ!」
     続いて、勢いよく放たれたロベリアの影が、蛾のような羽の根元にぎりりと絡まり、芋虫はぐらりとバランスを崩した。
     ギシャアアアアアア!
     見かけに違わぬおぞましい鳴き声が上がったが、
    「虫に追われる夢とか可哀想、だし」
     止水は澄んだ秋空から目映い光線を放つ十字架を降臨させ、抜かりなく走が去った進行方向を背にした縁は、
    「ダークネス個々に恨みがあるわけじゃないですが、慈悲をかける必要も感じませんしね。さくっとやってしまいましょう……美味しく頂きます!」
     剣を紅いオーラで輝かせ果敢に斬りかかった。

     一方、現実世界に残った志織は。
    「おめさ泥棒か強盗か!?」
     仮眠中のトラックドライバー2人を運転席から引っ張り出し、力付くでロープとガムテープで縛り上げる作業をしているが、状況がわかってない彼らは当然ながら騒ぐ暴れる。
    「お二人の安全のためですのに、わかっていただけないのですね」
     志織は悲しそうに首を振ると、10tトラックに手をかけて。
    「ならばこうです! うりゃああぁぁぁぁ!!」
     ――その後の作業はとてもスムーズに進んだ。

    ●Battle of reality
     てきぱきと運転手たちをトイレの入り口フロアに運び込み、走の大事なバイクを建物の陰に移動させた志織が、
    「走さんもすぐに運びこめるよう、準備しておこう」
     折り重なって眠っている仲間たちを起こさないよう、そっと走に近づいていくと、
    「おや?」
     走の瞼がぴくぴくと動き、仲間たちももぞもぞと身体を動かし始めた。
    「目覚めようとしている。早くしなければ」
     手早く手首をガムテープで縛り上げた……その時。
     バサアアア。
    「むっ!?」
     彼の内部から、巨大羽つき芋虫が飛び出してきた。志織は咄嗟に走に覆い被さって庇う。
     次の瞬間、灼滅者たちも一斉にパチリと目を覚ました。
    「ただいまっす! 夢から追い出したっすよ!!」
     ギィは起きあがるより早く、黒い逆十字を夜空に煌々と光らせ、死愚魔は鋭い刃を虫の背後から突き立てた。
    「お帰りなさいッ」
     志織は走を担ぎ上げると、仲間の間をすり抜けて虫から遠ざかった。シャルロッテが護衛として付きそう。
    「ななな、何なのあれ!」
     さすがに目覚めてしまった走が、志織の肩の上でもがき暴れる。
    「おはようございます、夢の続きです!」
     志織がキリッと言い切った。
    「えええええ、夢? 夢なのこれ!?」
    「ええ、これは悪夢よ……大人しく閉じこもってればじき覚めるわ」
     シャルロッテも言い聞かせつつ、2人がかりで縛り上げ、口もガムテで塞いで、トイレに放り込んだ。
     その間、仲間たちは一般人の避難場所から、芋虫の注意を逸らそうと頑張っていた。ハリマは霊犬の円に援護させながら、
    「どすこーい!」
     縛霊手で頭部に張り手をかまして視線をそらし、ロベリアは、
    「アルルカン、防御ヨロシク!」
     ビハインドにトイレ方面のカバーを命じると、
    「お相手はこちらだよ! よそ見している余裕はあるのかな?」
     自らはシールドを構えて挑発しながら突っ込んでいく。止水は包囲陣形になるよう立ち位置に注意しつつ裁きの光を天から落とし、縁が影で絡め取ったところに、
    「清助!」
     茶の柴犬が息を合わせて斬りつける。
     グウァァアアアア!
     芋虫は夜空に響く悲鳴を上げ、バサリ、と羽ばたいた。
    「飛ぶつもりか!?」
     灼滅者たちが焦って武器を上に向けた瞬間、
    「飛ばせませんよ!」
     走を迅速に避難させた志織が、箒で虫の上に回り込んていた。そこから、
    「とおっ!」
     流星のように飛び降りて、眉間にキック!
     ギィヤアァァァァ……!
     バランスを崩し、落ちた虫に地上の仲間たちは一斉に襲いかかる。
    「よしきた!」
     ギィが斬艦刀に炎を載せて羽を焦がし、死愚魔の影の髑髏がずっぽりと喰らい込んだ。ハリマは、
    「頑張って潰すっす!」
     強烈な喉輪を見舞って虫をのけぞらせ、包囲の輪に戻ったシャルロッテは『Axtcalibur』を力一杯振り下ろして、ぶよぶよとした芋虫の外皮を削った。縁は緋色のオーラをダイダロスベルトに宿してエナジーを吸い取り、ロベリアは、
    「アタシたちが相手だって言ってるでしょ!」
     もう1発シールドで殴りつけようと虫の至近に飛び込んだ……が。
     ギラリと虫の暗黒の眼が光り、ぬちゃあと糸を引いて菱形の口が開いて。
    「あっ!」
     その口から撃ち込まれたのは、漆黒の毒弾。ビハインドが主を庇おうと滑り寄っていったがわずかに間に合わず。
    「回復、するよ」
     しかし止水が素早く、毒に苦しみだしたロベリアに治癒の光を浴びせた。
     グギギギギ……。
     見たか、というように醜い頭を振り立てた虫に、
    「よくもやったっすね!」
     ギィが巨刀を力一杯振り下ろし、死愚魔は巨大な羽が作る死角から踊り出て、羽の根元にナイフを突き立てる。ハリマはバシィンと大きな音をたてて張り手を叩きつけ、シャルロッテはESPダブルジャンプを使って、高々と跳び蹴りを決めた。回復なったロベリアと縁が左右から影を放って縛り上げ、止水が、
    「逃がさない、よ」
     鋭い爪を防ぐべく、輝く十字架を降臨させて――。
     グァアアアァァ!
     しかし武器を封じられようとしていることを察知したかのように、虫は両前足の鋭い爪を振り上げて、呪いの竜巻を巻き起こした。
    「うわあっ!」
     前衛が真っ黒な毒竜巻に襲われる。
    「く……現実世界に出ると、さすがに強い……」
     視界も効かぬ黒い風の中で、ディフェンダー陣は必死に攻撃陣をカバーし、中後衛陣は即座に回復サイキックを発動した。
     
    ●Battle the larvae
     数分の後。
     ……ドゥ。
     重たい音を立てて、ついに芋虫シャドウは倒れた。
     苦心の末、現実のシャドウを倒したという手応えはあったが、今回ばかりは気を緩めることはできない。
    「今回の敵、謎がやたらに多いのが気になります。しっかり観察しておきませんと」
     縁は気持ち悪さを堪えて、ぐずぐずと崩れていく芋虫を凝視している……と。
     パンッ。
     崩れゆく芋虫シャドウの、醜い、戦闘中もずっと別の生き物のように蠢いていた腹が破裂し、食い破られるように裂け目が広がっていく。
    「うげ」
     死愚魔がその裂け目から現れたモノを見て、もううんざりというカンジの声を上げた。
    「こうも連戦だとキツいね……。はぁ、体力には自信ないのになぁ」
     腹からぞろぞろと沸いてきたのは、芋虫シャドウを小型化したような、幼性のシャドウだった。およそ30匹もいるだろうか。母体であったシャドウの腹から、次々飛び立っていく。
    「まあまあそう言わずに」
     志織が宥める。多かれ少なかれ、おぞましい連戦に皆心身共にダメージを受けている。
    「絶対皆さん無事で帰りましょう……行きますよ!」
     素早く呪文を唱えた志織が氷魔法を放ち、
    「先発隊の報告書の通りっすけど、分かってても気持ち悪いっすー!」
     ギィが悲鳴のように叫びながら斬艦刀で間近に迫っていた数体をまとめて叩き落とした。零していた死愚魔も竜巻のように蛇剣を振り回して群がってきた小虫をはたき落とし、ハリマは流れ弾を全て受け止める覚悟で、トイレを背にする位置に陣取った。更に愛犬に六文銭射撃を命じると、縛霊手を掲げて一匹たりとも逃がすまいと結界を張り、
    「コレって一匹みたら30匹のアレみたい! つまり全部倒さないと大変なことに!?」
    「嫌なこと言わないでよー!」
     ロベリアも悲鳴を上げつつ『ル・トレッフル』から巻き起こした竜巻で、小虫のやわな外皮を切り裂いた。
    「なんにしろ、確実にここで全滅させるからね!」
     シャルロッテは斧をぶん回して次々と幼虫をたたき落としながら、また首を傾げている。
    「こんなに弱いのに出てきてしまって……何が目的なのか……実験段階?……不気味ね」
     今回の敵への疑問は膨らむばかり。
    「ベヘリタスの卵から生まれて、分裂するカンジとか? ……どうやって成長するんだろうね?」
     止水も、鋼の糸を蜘蛛の巣のように使って虫を絡め取りながら思いを巡らせていたが、ぶるっと肩を震わせて、
    「B級ホラーか、カマキリの卵、だな……うん、見ててなんかちょっと、かゆくなってきた」
    「毒虫は綺麗にしておきませんと!」
     縁は鋼の帯を羽のように広げ、ターゲットをどんどん捕まえていく。
     小虫は一丁前に爪でひっかいたり、毒弾を発射したりしてきたが、いずれも大きなシャドウほどの威力はなく、灼滅者たちの効率的な列攻撃で、程なく殲滅することができた。

     パーキングエリアに、静けさが戻った。
    「……はあ」
     死愚魔が、夜風に冷えたアスファルトにへたりこんだ。
    「結局、小さなシャドウは何だったんだろう……芋虫シャドウが育てていたのかな?」
     縁が受けて。
    「成長したら、芋虫シャドウと同じような姿になったんでしょうかね?」
     幼性の姿も似ていた。
     ギィも刀を納めつつ、
    「ベヘリタスは、数を増やすことに固執しているような気がしますよね。今回の仕掛けは何のつもりっすかねえ?」
     無言の仲間たちも、数多く残った疑問に思いを巡らしている……すると。
    「ああっ」
     志織が突然大声を上げ、
    「走さんたちの拘束を解いてあげなきゃ!」
     慌てて駆け出しながら、気の毒な一般人たちに向けて呼びかける。
    「今解いてあげますよ、びっくりさせてごめんなさいねー! でも全部夢ですから――!」

    作者:小鳥遊ちどり 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2015年9月17日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 5/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 2
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