集結する光の軍勢~殺戮マジシャンを止めろ

    ●路上のマジシャン
     仙台駅、ペディストリアンデッキの上。
    「ふふん、今日は何人殺してやりましょうかね」
     ひとりのマジシャンが鼻歌交じりで、路上マジックショーの準備を行っていた。とはいえ、彼のマジックの多くにはタネがないので、準備といっても簡単なものである。
    「さてと、ぼちぼち始めましょうか」
     開演に向けて、手鏡を出し、タキシードと髪を整える……と。
     その鏡に突然、目映い光が出現した。
    「うっ?」
     眼が潰れそうなほど眩しいのに、マジシャンは魅入られたようにその光を見つめている。
     数秒後、光が治まると、マジシャンは憑かれたような眼でふらりと立ち上がり。
    「……新宿に行かなければ。あの方が呼んでいる」
     準備を終えたショーの小物をほったらかして走り出した。向かっているのは、駅前の高速バスターミナルだ。
     マジシャンはもうすぐ出発しそうなバスを見つけて、ステップを駆け上った。既に乗客は10人ほど乗っているが、彼はそちらは一瞥しただけで、
    「東京へ行ってください」
     席についていた運転手に言った。
    「お客さん、これは山形行きですよ? 東京行きなら0番乗り場からで……」
    「東京へ行くのです!」
     マジシャンの手から、黒い鳥……影の鳥が放たれて。
    「……ぎゃあああっ!?」
     鳥は真ん中あたりに座っていた乗客の胸を貫いた。
     バスは一瞬静まりかえり、次の瞬間、悲鳴と血の匂いで満たされた。
     マジシャンは眼を剥き凍り付いた運転手に、冷酷に言った。
    「東京に行ってくれますね?」

    ●武蔵坂学園
    「我々の仲間がとうとうクロキバを討ち取ったことは、ご存じですよね?」
     春祭・典(高校生エクスブレイン・dn0058)は集った灼滅者を見回して、語り始めた。
     ベヘリタスの卵の事件で暗躍する光の少年と、アンデッド化して白の王配下となったクロキバとの戦いに介入した灼滅者たちが、クロキバを討ち取る事に成功した。これにより、白の王セイメイの計画に致命的なダメージを与える事ができたと思われる。
     また、最後に正気を取り戻したクロキバは、自分が滅んだことにより、新たなクロキバの継承者が出現すると言い残している。継承する者は不明だが、大殊勲といってよいだろう。
     しかし、クロキバを失った白の王の弱体化により、敵対する光の少年『タカト』陣は積極攻勢に転じた。拉致したラブリンスターの無差別篭絡術を利用し、多くのダークネスを配下に組み入れようとしているのだ。
     おそらく、集結させた軍勢を利用して、何か大きな作戦を行おうとしているのだろう。
    『タカト』の持つ力ゆえか、この作戦についての予知は断片的で、全てを阻止する事は難しい。
     しかし、武蔵坂学園に関わった事があり、なんらかの『絆』があるダークネスについては、かなりの確率で予知する事が可能である。
    「そういうわけで、かつて武蔵坂学園と関わり、今また、光の軍勢に加わろうとしているダークネスの灼滅作戦を展開することになりました」
     ここで戦力を減らすことができなければ、もう『タカト』を阻止する事ができないかもしれない。

    「このチームが担当するのは、血塗・絡繰(ちまみれ・からくり)という六六六人衆です」
     松戸の密室事件の際、密室ホテルで惨殺マジックショーを繰り広げていた、マジシャンである。序列は五七〇番。
    「絡繰は、仙台駅から高速バスをハイジャックして、東京に向かおうとします。目的地はおそらくタカトの待つ新宿橘華中学」
     絡繰の灼滅はもちろんだが、バスの乗客・乗員も守らなければならない。
    「皆さんは、この山形行きのバスに予め乗客として乗り込んでおいてください」
     介入するのは、絡繰が乗り込んできて、運転手に行き先変更を命じ、影の鳩を飛ばそうとするタイミングがいいだろう。
    「絡繰はまだ、バスの入り口の不安定なステップに立っています。そこに何人かが不意打ちで飛びかかって、バスの外に追い出すというのはいかがでしょうか。戦場は車外にこしたことはないですしね」
     一般人を巻き添えにしないためにも、不意打ちは近距離肉弾系がいいだろう。
    「うまく追い出せたら、バスに残っていた人が非常ドアを開けて、乗客乗務員を避難させてやってください」
     乗員・乗客合わせて11人。

    「密室の時には戦場が絡繰のフィールドでしたので、逃げられてしまいましたが、今回は違います」
     しかも絡繰には、一刻も早く新宿に行かなければならないという妄執があるので、逃げる可能性は少ない。
     反面、バスジャックに拘るということは、付近に停車するバスにも気をつけなければならないが、それは人払い系のESPで対応できるだろう。
    「五七〇番は灼滅するには難しい序列ですが、タカトに支配され、ヤツ本来の自意識が薄れている今こそ、倒すチャンスであるとも言えます。どうぞ抜かりなく当たってください!」



    参加者
    藤谷・徹也(大学生殺人機械・d01892)
    東谷・円(ルーンアルクス・d02468)
    槌屋・透流(トールハンマー・d06177)
    狩家・利戈(無領無民の王・d15666)
    ライン・ルーイゲン(ツヴァイシュピール・d16171)
    狂舞・刑(その背に背負うは六六零・d18053)
    白藤・幽香(リトルサイエンティスト・d29498)
    押出・ハリマ(気は優しくて力持ち・d31336)

    ■リプレイ

    ●高速バス車内
     バスの最前席で窓の外に目をやり、ターゲットを待ちかねた様子で、白藤・幽香(リトルサイエンティスト・d29498)が呟いた。
    「色々あって以前は見られなかった惨殺マジック、今回こそ見てみたいものだわ」
     その呟きを聞きつけて、後ろの席から押出・ハリマ(気は優しくて力持ち・d31336)がひょいと顔を出した。彼は前回も六六六人衆の奇術師に会っているので、念のためにスポーツウェアのフードを目深に被り、顔を隠している。
    「目的地が新宿橘華中学だけに、今回は分裂マジックとか言い出しそうで、頭痛いっす。ここで悪趣味な奇術は、絶対終わりにしてやるっすよ!」
     通路を隔てた最前席、運転席のすぐ後ろには、狩家・利戈(無領無民の王・d15666)と狂舞・刑(その背に背負うは六六零・d18053)が並んで座っている。
    「タカトはラブリンスターの絆を奪い攫った……」
     刑は先ほどから思い詰めたようにぶつぶつと呟いている。
    「武蔵坂の灼滅者を助けてくれたこともある彼女を……許すものか。絆を、縁を奪う等……っ」
     自らの内なる空虚と人格の不安定さに悩む彼は、絆を奪うという手段に非常な恐怖と怒りを覚えているのだ。
     利戈は、
    「無差別籠絡術って、やっかいなモンだったんだな。光の少年とかいうタチの悪いヤツが使ってるせいもあるんだろうけど」
     刑を落ち着かせるように、ことさら雑駁な口調で。
    「ともあれ今日の相手は六六六人衆、慈悲なんてこれっぱかしも必要ない。これ幸いと灼滅しちまおう」
     最前部の席を陣取っているのは、敵の不意打ちを担当する者たちで、他の4人は一般人の避難誘導係として、バス中程から後ろの適切な席に着いていた。
    「新宿……橘華中学か。絆といえば絆だが、あんまり嬉しくない因縁だな」
     東谷・円(ルーンアルクス・d02468)が囁くと、隣席のライン・ルーイゲン(ツヴァイシュピール・d16171)が頷いて。
    「絆を辿るとか、無差別籠絡術とか、気になることが多いですね」
     彼女はそう応じると、もう一度、すぐ傍らにある非常口の開け方を確認した。気になることの多い事件ではあるが、まずは目の前の出来事に集中しなければ。
     彼らより後方に座っている槌屋・透流(トールハンマー・d06177)も、同じように思考を巡らせていた。
    「(今日の敵は呼ばれて出ていって、何をするのか……いや、そんなことは関係ないな。好き勝手はさせない。それだけだ)」
     藤谷・徹也(大学生殺人機械・d01892)は、真ん中あたりの席に着き、落ち着いた様子で周囲に目配りをしている。絡繰に見せしめとして影鳩を撃たれるのは、このあたりの乗客のはず。もしもの時には、体を張って庇う心づもりだ。
    「……あ」
     最前席で窓の外を見ていた幽香が、小さく声を上げた。燕尾服姿の男が猛烈な勢いで、彼らの乗るバスに駆け込んできたのだ。
    「(来た!)」
     足音高くステップを上った男……六六六人衆・血塗絡繰は、運転手に向かって。
    『東京へ行ってください』
    『お客さん、これは山形行きですよ? 東京行きなら0番乗り場からで……』
     予知通りの会話が交わされるのを聞きながら、前部にいるメンバーは、絡繰の足下に影が黒々と凝って行くのを見ていた。
     丁寧な口調は崩れないが、六六六人衆は昂ぶった声音で叫んだ。
    『東京へ行くのです!』

     ――今だ!

    ●不意打ちと避難
     不意打ち班は素早くカードを解除すると、一斉にターゲットに飛びかかった。
    「お得意の瞬間移動マジックでも使えばいいのに、バスだなんて舞台としても華が無いわよ!」
     幽香が鬼の拳で殴りかかり、ハリマはオーラを宿した張り手でのけぞらす。利戈も、バスの外へと押し出せる角度を狙い、光る拳を叩き込んだ同じ瞬間、低い姿勢で足下に滑り込んだ刑の、鋭い刃がひらめいた。
    「う……あぁ……っ!?」
     相手は六六六人衆、ダメージ自体はさほどのものではなかっただろうが、タイミングを合わせての近距離からの急襲と、ステップ上という足場の悪さにバランスを崩し、仰向けに車外へとひっくり返った。

     不意打ち班の行動開始と同時に、ラインは手際よく非常口を開け、
    「バスジャックです、早くこちらから逃げて下さい!」
     突然の出来事に呆然とする乗客に、通る声で非常口を指し示す。
     円も素早く立って、周辺の乗客に、
    「バスジャックなんて、一昔前の青少年みたいですよね」
     わざと軽口をたたきながら避難を促すが、軽口はむしろ自分を奮い立たせるためかもしれない。何しろ油断出来ない相手だ。
     透流は後ろの方の乗客へ声をかけ、
    「車内は危険だ、非常口から避難を!」
     徹也は敵の盾となるよう意識しながら前方の乗客たちを誘導していく。
     絡繰がステップを転げ落ち、それを不意打ち班の仲間が雪崩をうつようにして追っていったのを確認した徹也は、最後に残っていた運転手の元へ。
    「乗客の保護を最優先任務として認識する」
     運転手は眼前で起こった超常バトルに腰を抜かしていたが、ESP怪力無双で抱え上げ、さくさくと非常口に運んでいく。

    ●車外
     無様な姿勢で転げ落ちた絡繰に、不意打ち班の4人は更に先制攻撃を畳みかけようとしたが、
    「……ワン、ツー、スリーーッ!」
     転がった姿勢のまま絡繰が声を上げると、全身からどす黒い殺気が霧のように吹き上がって前衛を包み込んだ。
    「むっ……しかしここは……これより宴を開始するッ!」
     影鎖を左腕に絡みつかせた刑は一瞬迷ったが、当初の予定通りにESP殺界形成を発動した。バスターミナルという場所柄、周囲には一般人が大勢いる。見える範囲だけでも、近場のバス停に何台ものバスが停車しているし、何十という人が並び、突然起こった騒ぎに目を丸くしている。ここは一般人を遠ざけるのが最優先だ。
    「うわ……強烈……っ」
     全身を蝕み、視界を奪う黒い霧に巻かれながら、ハリマは必死に聖剣をかざし、清らかな風を呼んだ。霊犬も出現させ、ダメージを大きく受けてしまった利戈に重ねての回復を命じる。
     とはいえ、六六六人衆の攻撃は強力だし、彼は本業のメディックではないので、回復は応急処置でしかない……のだが。
    「絶対逃がさないわよ、ちゃんとマジックで愉しませてくれるかしら?」
    「テメエ、マジシャンなんだろ? マジック見せてみろよ、見せられるもんならな!」
     自己回復することなく、幽香は鋼の帯を放ち、利戈は起き上がりかけていた絡繰につかみかかると、石畳に投げ落とした。
     しかしその投げを、絡繰は受け身を取ってしのぐと、ひょいと飛び跳ねるようにして起き上がった。
     そして女子たちの後ろから、殺影器『黒吊幽』を放とうとしていた刑を指して。
    「影の扱いなら、私ほど長けている者はいませんよ!」
     あざ笑うように言い放つと。
    「刑さん!!」
     影の鎖は絡繰の肩と燕尾服を切り裂いたが、同時に、一瞬で膨れ上がったおぞましい影兎が、ずっぽりと刑を飲み込んだ。

     一方、避難誘導係は乗客を順調に車外に出し終えていた。4人の灼滅者たちも車外に揃っている。
     バスの反対側から激しい戦闘音が聞こえてきて気が気ではないが、一般人たちがこのバスから無事に離れてくれるかも心配だ。殺界形成が発動されたようだから、徐々に遠ざかってくれはするだろうが、お年寄りもいるし、運転手のように腰が抜けてしまって迅速に動けなくなっている者もいる状態だ。
     仲間の逡巡を見て取ったラインが、お年寄りを支えながら言った。
    「乗客の避難は、私がもう少し見届けますので、皆さんは戦闘の方へ」
    「ああ、そうさせてもらう」
     透流が答え、早速ESPサウンドシャッターの準備をしながらエアシューズで駆けだし、
    「後は頼んだ!」
     円と徹也もすぐに後を追った。

    「刑先輩、大丈夫っすか!?」
    「うん……なんとか」
     バスの反対側の戦場では、ハリマが刑を必死に手当てしていた。刑自身も自己回復を行ったが、六六六人衆のクリティカルな一撃には追いつかない。
     クラッシャー陣はバスと刑から強敵を引き離すべく、必死に喰らいついている。幽香の炎の蹴りはかわされたが、そこには利戈の拳が待っていて。
    「く……っ」
     もみ合っていた3人が、バッと飛び退って離れた瞬間。
    「……貴様を、狩りにきた」
     戦いの輪の外から放たれた鋼の帯が、ぐさぐさと絡繰に突き刺さった。次の瞬間、大柄な人影がするりと敵の後ろをとり、燕尾服を切り裂く。
    「透流……徹也!」
     避難誘導班のメンバーが来てくれた!
     徹也は素早く敵から離れると、刑のカバーに入った。そこにはすでに円も到着していて、
    「そら、踏ん張れ!」
     早速刑に癒しの矢を撃ち込んだ。
    「……増えましたね」
     絡繰が身構えながら、包囲できる人数になった灼滅者たちを見回した。
    「どこかで見たような気がする顔もありますが……灼滅者ですか」
     とっくにフードが落ちたハリマの顔を一瞥して。
    「とにかく何人であろうと、私が新宿に行くのを邪魔するものは容赦しません!」
    「……ウッ」
     放った影の鳩はディフェンダー陣が動く暇もなく、包囲の輪に入ろうとしていた透流のほっそりとした胸を貫いた。
    「くそ速ぇな!」
     円が毒づきながら急いで矢を弓につがえ、胸を抑えうずくまってしまった透流に撃ち込む。
    「よくも!」
     前中衛は霊犬を透流のカバーに残し、一斉に飛びかかった。
     必死に攻撃を繰り出すが、まだ浅手しか与えていない敵には、全てがヒットというわけにはいかない……しかし、そこに。
    「Gehen Sie!」
     高らかにドイツ語が響いた。声の方を仰ぎみると、大型バスの屋根の上にラインが立っている。ESPダブルジャンプを使って上ったのだろう。
     杖からしゃぼん玉を猛烈な勢いで噴き出しているナノナノを引き連れたラインは、一瞬虚を突かれた六六六人衆に、流星のような跳び蹴りを見舞った。

    ●All set
     ラインが戦闘に参加したということは、乗客の避難が無事に済んだということ。見渡せば、周囲の一般人もバスの数も、かなり減っていた。殺界形成が効いてきている。
     作戦が上手く運んでいることと、そして何より全員揃ったことに灼滅者の意気は上がる。
     小器用な六六六人衆に、全ての攻撃が当たるというわけにはいかないが、手数はこちらの方が断然多い。こちらを躱せば、次の瞬間には別方向から攻撃が飛んでくる。灼滅者たちはじわじわと強敵を追い詰めていく。
    「ええい、一刻も早く東京に行かなければならないのにッ!」
     絡繰は群がる灼滅者を振り払いながら、イライラした様子で叫んだ。ここは駅前なのだから、灼滅者から逃れて新幹線に乗れば済むことだろうに、『光の少年』に操られているせいか、バスジャックへの拘りから離れられないようだ。
     絡繰の目が鋭く光る。
    「仕方ないですね、弱っている者からひとりずつ……」
     ビシュルッ。
     実存するかのような音を立て、影のロープが伸びた。その先には、先刻深手を負った刑が……!
    「……戦力の減少は任務の遂行に影響する」
     しかし彼の前に、徹也が素早く身体を入れた。人数が揃ったことにより、2人と1頭のディフェンダー陣には、仲間の盾に入る余裕も出てきている。
    「すまん」
     影のロープに縛られたディフェンダーの背後で、刑はクッと唇を噛んで礼を言うと、負けじと影の刃を伸ばした。絡繰に対しては、ここで倒すべき相手としての興味しかないが、その背後にいる『光の少年』への怒りと恐怖が、傷の痛みを忘れさせるほどに彼をかき立てる。
     続いてラインがフラメンコギターを情熱的なリズムでかき鳴らし、幽香は、
    「炎上マジックよ。脱出法は考えてないけど」
     足に炎を載せて滑り込む。透流は、
    「ぶち抜いてやる!」
     エアシューズで走り回りながらガトリングガンで連射を見舞い、その間に円は、
    「大丈夫か!?」
     徹也に癒やしの矢を撃ち込み、影の呪縛から解放した。
    「ああ、生命活動の維持に支障はない」
     徹也が無頓着に応えた時。
    「そちらが回復役のようですね!」
     灼滅者の連続攻撃を甘んじて受けていた絡繰が、巨大な影の兎を円に向けて放った。
    「させないっす!」
     今度はハリマが気合い充分で飛び込んで、大切なメディックの代わりに兎に喰われた。
    「おっと、テメェの相手はこっちだぜ!」
     利戈がロッドを振り回して引きつけている隙に、回復を終えたばかりの徹也が急いで兎からハリマを引っ張り出す。
    「あざっす!」
     兎から逃れ、回復を受けたハリマは元気に礼を言う。
    「ちっ」
     絡繰がその様子を見て舌打ちした。
     思うように攻撃が届かないことに苛立つ敵に、灼滅者たちは根気良く仕掛け続ける。

    ●絆を断つ
    『光の少年』の呪縛下にあるとはいえ五〇〇番台の六六六人衆の攻撃は強力で、灼滅者たちの体力はどんどん削られていった。
     しかしそれは敵も同様で、連携の取れた一斉攻撃を数度に渡って受け、さしもの六六六人衆も全身の大小の傷から血を流し、ステージ衣装の燕尾服もボロボロで見る影もない。バッドステータスの積み重ねも効いている。
     しかしよろめきつつも、
    「新宿へ……行かねばならないのですッ!」
     全身から発された禍々しい殺気が、後衛へと襲いかかる。
    「止めるぞ」
    「ハイっ!」
     しかし、残り少ない体力を振り絞り、ディフェンダー陣が果敢にその黒い霧を引き受けた。
     ここまで来たら、全員無事に帰りたい!
    「ありがとよ、痛ぇ目に遭わずに済んだぜ!」
     すかさず円が清らかな風を吹かせ、利戈は鋼鉄の拳で絡繰を覆う霧を打ち払う。
    「ぶっ壊す!」
     透流は合流時に受けた傷を庇うこともなく、お気に入りの帽子を飛ばしそうな勢いでエアシューズで駆け回りながら炎弾を撃ち込み、素早く背後に回り込んだ刑は、燕尾服を更にザックリと切り裂いた。勝負処とみて、円も『森のイチイの木』力一杯捻り込み、ラインはナノナノに援護させながら、フラメンコのステップで華麗に踏み込んでいくと、縛霊手で絡繰を抑え込んだ。すかさず飛び込んだ幽香の手には、鋭い刃が凶暴な光を放っている。
    「切断マジックよ。まぁ種も何もないけど」
    「……グボオッッ!」
     蝶ネクタイを締めた喉元から、激しく血が噴き出した。
    「じ……じん……じゅく……バス……」
     ゴボゴボと血を噴き出しながら、それでもまだしぶとく足下に影を引き寄せようとする六六六人衆を、ラインが容赦なく蹴り倒す。そこに、
    「ひゃっはー! くそったれなマジシャンを灼滅だーーッ!!」
     利戈が雄叫びを上げて飛びかかり、ボロボロの燕尾服を掴むと、力一杯石畳に叩きつけた。
     ゴキィッ。
     何かが折れた、とても嫌な音がして――。
     壊れた操り人形のような不自然な姿勢で地面に横たわった血塗れの六六六人衆は、二度と動くことはなかった。

    作者:小鳥遊ちどり 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2015年11月20日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 6/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 2
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