古物奇譚『蔦鱗文様昼夜帯』

    ●神奈川県内某公園・骨董市にて
    「そんなに安くしてもらえるの? ならいただくわ!」
    「特別や。この帯、ねえさんによう似合いそうやから」
    「やだおじさん、お上手!」
     OLとおぼしき若い女性が嬉しそうに手にしているのは、古着の帯だった。渋めの薄緑に、紅葉した蔦模様。
     相手をしているのは、茶色の着流しに黄色いレンズの丸めがねをかけた老骨董屋である。
     OLはウキウキと財布を出して、
    「華道を習い始めたところなのよ。せっかくだから着物でお稽古に行ってみたいと思って、古着を見て回ってるの」
    「さよか、そら丁度ええな。これは昼夜帯やから、お稽古にはぴったりやで」
     昼夜帯とは、着物や羽織をリフォームして作った帯のことであり、多くはリバーシブルで使える。
     OLは代金を払い、帯を受け取ると嬉しそうに去っていった。
     そんな彼女の後ろ姿を見送った骨董屋は、ククク、と楽しそうに笑いを漏らし、
    「さてと」
     おもむろに懐のタブレット端末を起動した。
    「あの帯には、どないな物語をくっつけたろ」
     考えつつも、慣れた様子でするすると指を滑らせる。
    「表地の蔦が絡むんは鉄板やな。それから、あのねえさんは表にばかり目が行ってたようやけど」
     眼鏡の奥の瞳が、毒々しい金色に光る。
    「裏地は、蛇を意味する鱗紋やし……」

    ●武蔵坂学園
     集った灼滅者たちと、春祭・典(高校生エクスブレイン・dn0058)は、ノートパソコンで、とある都市伝説サイトの掲示板を覗き込んでいた。
    「なになに『呪いの昼夜帯』表地の蔦は人を絞め殺し、裏地の蛇は人を咬み裂く。これすなわち帯の元となった着物が、心中した悲恋の男女のものであった故……なんかありがちな話ィ」
    「そうなんですけどね」
     典は渋い顔をして。
    「写真までついてるので、マニアには妙にウケちゃったようで」
     写真には、表地のシックな蔦模様と、裏地の渋い鼠色濃淡の鱗文様がしっかり写っている。
    『柄から推理すると、心中が流行った明治後期から大正初期のものと思われる』などと煽っているマニアもいて、迷惑な話だ。
    「とにかくネット上で噂が広がったことで、帯が伝説を具現させるだけの力を持ってしまったってことだね?」
    「そうなんです。しかも具現するのが間の悪いことに、現在の持ち主であるOLさんのお華のお稽古中で」
     うわっ、よりによって! と灼滅者たちが悲鳴を上げた。
    「なので、皆さんのうち何人かは、お華の教室に潜り込んで、OLさんと一緒にお稽古をして欲しいのです」
     一般人は、師範とOL含め5名。女性ばかりだ。
     稽古に参加しない者も、庭に面した和室なので、庭に隠れて待機できる。
    「帯の都市伝説……蔦と蛇が動きはじめたら、まず真っ先にOLさんから帯を解かなければなりません」
     人に襲いかかる前に、蔦と蛇が帯の中でざわざわと動き始めるので、そのタイミングをすかさず捉えて解いてやろう。
    「OLさんもさすがに気づくでしょうが、自分で解くのは難しいと思われますので」
    「普段でも着物の脱ぎ着は大変なのに、超常現象で動転してしまったらまず無理だよね」
     その間に、OL担当以外の者が、他の一般人を避難させよう。都市伝説が本格的に具現する前に、何とか一般人を帯から遠ざけたい。役割分担や、適切なESPが必要となるだろう。
    「それから注意して欲しいのですが」
     典は難しい顔になり。
    「この都市伝説は、タタリガミ『骨董屋』の生み出したものと思われます」
     前回『骨董屋』が起こした事件と、やり口が同じだ。売りつけた古物の物語をネットに流し、煽り、伝説を強化していく。
    「もしかしたら戦っているうちに『骨董屋』も現れるかもしれません」
     とはいえ、都市伝説+ダークネスと同時に戦うのは厳しいし、タタリガミは武蔵坂が関わっていると知れば、帯に後を任せて逃げ出す可能性が高いので、灼滅は難しいだろう。
    「しかし、大切に強化した帯を灼滅することは、ヤツにとって大きな傷手になることは間違いありません」
     灼滅者たちは頷き、典は頭を下げた。
    「決して無理をする必要はありませんが、どうかよろしくお願いします」


    参加者
    水瀬・瑞樹(マリクの娘・d02532)
    歌枕・めろ(迦陵頻伽・d03254)
    霞翠・湊(未成無窮動・d03405)
    大御神・緋女(紅月鬼・d14039)
    戸地田・愛子(とじこもりまなこ・d28461)
    芥生・優生(探シ人来タラズ・d30127)
    八月一日・梅子(薤露蒿里・d32363)
    御伽・百々(人造百鬼夜行・d33264)

    ■リプレイ

    ●華道教室
     庭園に面した広い和室には、小春日和の日差しが柔らかく差し込んでいる。その日差しに包まれて、華やかな装いの女性たちが、花々と向き合っていた。
    「素敵な帯ね」
     首尾良く隣席を確保した歌枕・めろ(迦陵頻伽・d03254)が、件のOLに話しかけた。
    「まあ、ありがとう」
     OLは愛想良く応じ、
    「蔦模様ですか、長寿や繁栄など縁起の良い柄ですね」
     反対隣の八月一日・梅子(薤露蒿里・d32363)も会話に加わる。
    「若いのにお詳しいのね」
    「私、着付けのお手伝いを少々しておりますので」
     その後ろの席にいる水瀬・瑞樹(マリクの娘・d02532)は、OLと仲間の会話に耳をそばだてながら、粋な角出しに結ばれた昼夜帯をじっと観察している。
    「(着物に興味を持ってくれた人が被害に遭うのは許せない)」
     和洋裁、手芸が趣味の彼女としては、帯が都市伝説の素材にされたことに腹が立つ……と同時に、伝統的なリフォーム品である昼夜帯自体に興味深々である。
     と、唐突に、
    「うぬぅ、これはどうしたらいいのじゃ!?」
     大御神・緋女(紅月鬼・d14039))が松の枝を振り回した。今日の課題は正月飾りだが、緋女の前には、なかなか個性的な生け花が出来上がりつつある。作戦とはいえ、それぞれ華道教室を楽しんでいるようで、
    「お華はレディの嗜みだって聞くもの!」
     と張り切る戸地田・愛子(とじこもりまなこ・d28461)も、鼻をくんくんさせながら真剣に水盆と向かい合っている。フリフリの黒い浴衣は少々季節はずれだが、可愛いのは確かだし、プラチナチケットもあるので、まあよしとしよう。
     ただ御伽・百々(人造百鬼夜行・d33264)は、件の帯と、『骨董屋』との遭遇にすっかり頭が行っていて、手元がお留守気味。彼女の前には、無駄に切り落とされた松や南天の枝の切れ端ばかりが散らばっている。

     一方、庭園の大石の陰では、男子2人が出番を待っていた。
    「今も拡散してるんだなあ」
    「うん、前回と似たような状況なのかな……」
     霞翠・湊(未成無窮動・d03405)がスマートフォンで今回の伝説の拡散状況を追いかけ、芥生・優生(探シ人来タラズ・d30127)もそれを覗きこんでいる。
    「元々の骨董屋の書き込みを見つけたいんだけど、なかなか難しいね」
     書き込みの特徴を見つけたいと思っているのだが。
    「稽古の方も気になる……」
    「そんなに頭を出すなよなあ」
     無防備に和室を覗こうとした湊の頭を、優生が押さえて引っ込めた。
    「こんな状況でみつかったら、俺たちまるで不審者……んっ?」
     きゃっ、という小さな悲鳴が、正にその和室から聞こえた。

    ●呪いの昼夜帯
     悲鳴は、件のOLが突然帯を押さえてうずくまり、水盆を倒したことによるものだった。
    「く……苦し……」
     呻き苦しむOL本人はもちろん、お稽古仲間や師範まで動揺しだしたが、いち早く緋女が王者の風を発動し、梅子とめろが素早くOLの脇を固めた。
     めろは蔦の蔓がずるずると蠢き始めているのを見てとったが、敢えて落ち着いた口調で。
    「帯がきつくて苦しくなったんじゃないかな? 緩めれば楽になると思うの」
    「そうですね、解いて差し上げます」
     梅子も頷き、背中の結び目へと目をやると。
    「(……まあ!)」
     たれや角など裏地が見える部分の文様が、リアルな蛇の鱗に化けているではないか。
    「(まだ大丈夫なはずです……っ)」
     梅子は思い切って角出しに手を突っ込んで、帯締めの結び目を探った。

     その間にも、
    「この部屋から出るのじゃ!」
     緋女が、おろおろするばかりの女性たちを誘導し始めていた。瑞樹と愛子が彼女らの盾となる。
     潜んでいた男子たちも、都市伝説の具現が始まったと知り、
    「さ、早いとこ離れた部屋に逃げてなあ」
     優生は庭に面した廊下に飛び乗ると、怯えた様子の女性の手を取って家の奥の方へ促した。
     稽古の部屋は玄関に近い場所なので、奥の部屋にいてもらえば安全であろう。
     湊は庭から避難する女性たちにラブフェロモンをかけて、
    「庭には出ないで。奥の部屋に移動してね」
     少しでも不安を和らげようと一生懸命笑みを向ける。
     OL以外の女性たちは稽古場から出、瑞樹と愛子に護衛されながら奥の部屋へと向かった。

    「……ぷはあっ」
     帯を解き終わった瞬間、OLは大きく息を吐いた。締め付けは物理的のみではなかったようなので、相当苦しかったろう。
    「奥の部屋で休んだらいいよ」
     めろが背をさすってやり、梅子はくるくると手早く帯を丸め、OLに見えないところに押しやった。蔦と蛇鱗の動きが激しくなってきている。
    「さあ、皆さんの処へ」
     王者の風を使って百々が命令し、梅子が手を取って立たせる。OLはまだ真っ青な顔をしているが、歩けそうだ。帯解きの助手をしていた百々が、帯枕や帯締めなどをまとめてOLに持たせてやり、梅子が彼女を教室から連れ出すのと入れ違いに、他の一般人を避難させてきた仲間達が戻ってきた。
     昼夜帯は、それ自体が生き物のようにのたうち始めている。灼滅者たちは遠巻きにするように庭に降り、都市伝説が現れるのを待ち受ける。

    ●物語の具現
    「!!」
     灼滅者たちが見つめる中、帯はゆらりと立ち上がり、ゆるゆると伸び上がりだした。壁や大木を這い上る蔦のように、または蛇のように。
     そしてその帯の背後に、薄ぼんやりと煙の固まりのような人影が現れた。人影は明滅するように交互に2つの人物像を形作る。目を凝らすと、束髪に袴姿の女性と、和装に学帽をかぶった男性であることが見てとれる。明治・大正期の女学生と書生のようだ。どちらもとても悲しげな表情をしている。
    「(帯になった着物の持ち主であった心中カップルなんだろうか……)」
     正確に言えば『心中したのはこんなカップルだったのではないか』と、帯の伝説を目にした人々がイメージした人物像の具現、ということになろうか。
     人影は明滅しながら、3D映像のように次第にハッキリと立体的になってきて……。
     ビシュルッ!
    「うあっ!」
     幻想的な光景に見入ってしまっていた灼滅者たちに、幾本もの蔓が伸びてきた。帯の背後に見えているのは女学生の方だ。
     帯本体も、ずずっと滑るように灼滅者たちの方に迫ってくる。
     前衛は蔓の結界にからめ取られてしまったが、
    「紅月鬼の緋女がいざ参る。悪鬼の力を見せようぞ!」
     緋女が素早く清めの風を吹かせ、めろは、湊の毒弾の援護を受けながら、槍を構えてつっこんでいく。癒しの風を受けて蔓から解放された愛猫がいち早く放った猫魔法の捕縛力も借り、槍の穂先は絹地をぶっすりと突き抜けた。
     続けて、蔦から解放された前衛も、次々と帯に飛びかかっていく。
    「Kill me if you can」
     黒いマスクをまとった優生が『R.I.P.per』のくすんだ銀刃をジャキリと鳴らし、百々は、
    「白手箪笥に続いて今度は帯の都市伝説か。骨董屋の企み、此度も我らが打ち砕いてくれようぞ!」
     長々とのたうつ帯を、影で喰らい込もうとする。
    「イグニッション!」
     瑞樹は『無慈悲の刃』の大ぶりの刃に炎を載せて斬りかかり、愛子は利き腕から死の光線を迸らせながら、愛犬に命令を発する。
    「ドリィ、斬魔刀!」
     続いて湊も。
    「お前も行って!」
     2頭の犬が斬りかかった瞬間。
     帯の背後に浮かぶ幻の人影が、書生に代わり。
     シュッ!
    「うにゃっ!?」
     帯の裏地から長い長い蛇が飛び出した。狙っているのは緋女!
    「……お待たせしました!」
     そこに包囲の外側から飛び込みメディックを守ったのは、梅子だった。
    「OLさんの避難も済んだんだね、彼女、大丈夫?」
     湊が素早く癒しの光輪を飛ばしながら尋ねると、
    「ええ、幾分マシになられたようで……それにしても」
     回復なった梅子は鬼の拳で身構えながら、前衛へと加わり、
    「大人しければ良い帯ですのに、残念です」
     凶悪な帯を睨み付けた。優生が、
    「背後霊みたいなのが、男性の時は蛇、女性の時は蔦で攻撃してくるみたいだなあ」
     のんびりした口調で、ここまでで判明した攻撃パターンを教えた。
    「うぬ、そのようだ。見切ってゆこうぞ! 紅蓮の如く燃え散るがよい。灰も残さぬ!」
     梅子のおかげで無傷で済んだ緋女が『荒神切 暁紅』に炎を載せ張り切って斬りかかっていき、優生が『around the clock』に魔力をそそぎ込みながら踏み込んでいく。杖の時計は高速回転し、
     ブーン……カチ……グヮン!
     敵に触れた瞬間に停止し、そしてカチリと振り切れて魔力を放出した。
     百々は禍々しい光を放つ人切りの太刀で接ぎ目を狙い、めろは掌から黒々と毒弾を撃ち込んだ。瑞樹は、円錐と角錐がついた鎖の影『戒めの鎖』を放ち、梅子は鬼の拳でびりりと縫い目を引き裂いた。愛子は蒼い刃で鱗模様を裂き、湊はガンナイフの刃で斬りかかる……と、それを帯はくねるようにかわして。
     明滅していた人影が、女学生になった。
    「蔦がくるよ!」
     瑞樹が叫び、仲間たちは攻撃に備える。
     シュッと伸びた蔓は、声をあげた瑞樹に向かって伸ばされた。しかし、
    「任せて!」
     身構えていた愛子が、瑞樹の盾となった。振り払おうとした腕に蔓が巻き付いたが、間髪入れず、
    「護符よ舞え、護りの力となれ!」
     緋女の護符が飛んでくる。
    「ありがとう!」
     護られた瑞樹が、愛子の陰から鬼の拳を握って飛び出した……その時。
    「――嫌ぁな気配がしたと思うたら、また灼滅者かいな」

    ●骨董屋
     枯れた老人が、玄関の方からとことこと和室に入ってきた。冬だというのに渋い茶色の着流し一枚で、禿頭に帽子もない。
    「すっかりわややないか、ええ帯やのに」
     ジロッと黄色いレンズ越しに灼滅者たちを睨み付けた瞳は、猫のようなどぎつい金色。
    「(来たな、骨董屋……!)」
     骨董屋はトンと身軽に庭に降り、
    「全く、なんてことしてくれんねん」
     灼滅者の攻撃でボロボロの昼夜帯を見上げた。帯には幾つもの穴や裂け目、焦げが生じ、絹地はささくれ、縫い目もほつれ、帯芯が見えている。そして背後の人物像も薄れてきている。
     老人はぶつくさ言いながら、懐からちびた蝋燭を出した。彼の手の中で、全く火気はないのに、蝋燭が赤々と灯った。黒い煙が立ち上り、帯を覆っていく。
    「初めまして、骨董屋」
     優生が老人の持ち物を観察しながら、
    「あんたには悪いけど、この都市伝説は退治させてもらうなあ」
     のんびりとした口調で、しかし幾分挑発気味に言った。
     骨董屋の懐にはタブレット端末が覗き、袂も少々膨らんでいるようだ。
     じろり、と金色の瞳が優生を睨んだ。
     鋭い視線を少しでも逸らそうと、式部を抱いためろが続けて質問を投げる。
    「こんにちは、よ。骨董屋さん。都市伝説を育てて、何が目的かしら?」
    「何が目的て、そらぁ強うなるためや……それから」
     ニヤ、とタタリガミは歪んだ嗤いを漏らし。
    「骨董屋が、商品に付加価値をつけるんは当然やろ?」
    「素敵な趣味をお持ちですね、骨董屋様」
     梅子が上品な中に皮肉を込めて。
    「もし趣味の良い手鏡などありましたら見せて頂きたいものです。お店はどちらに構えていらっしゃるんでしょうか?」
    「店は持っとらん。日本中の骨董市を渡り歩いとる。商品と物語をなるべく広う撒きたいからな。わての品を見たいんなら、どこぞの骨董市で出会うしかないで」
     そこまで言うと、骨董屋は回復中の帯を見上げ。
    「ふん、こらもう治しきらんわ」
     骨張った掌が蝋燭の炎を握り消した。
     修復はあきらめたようだが、帯は多少なりとも回復されたようだし、黒煙の名残を薄くまとっている。
    「この帯は、まだ育ちきらんかったから許したるけどな」
     これで育ちきっていないということは、持ち主のOLを絞め殺すのを待っていたということだろうか。
     骨董屋は蝋燭を手の中に消し、
    「お前ら、ええかげんにせんと、わて、本気で怒るで。次は無しや」
     剣呑な口調で言い捨て背中を向けた。
    「――待て!」
     その背中に百々が声をかけ、
    「貴殿もひとつ語ってみてはどうだ!」
    『怨霊武者』の奇譚を語った。仇を求めて彷徨う武者が出現する。
     じっと骨董屋の動向を観察していた愛子と緋女は、ごくりと生唾を飲んだ。
    「(この老体、うかつに手を出して良いものか……)」
     振り向いた骨董屋は、すっと手を差しだした。
    「しゃあないな、一ぺんだけ遊んだろ」
     掌の上には、小さな陶器の福助人形。黒ずんで色が落ちており、かなり古いもののようだ。
     福助人形はぶわああぁと急激に巨大化した。そして福々しい笑顔のまま、骨董屋に斬りかかろうとしていた武者に体当たり――!
     サイキックエナジーがぶつかりあい、目映い光が目を射て、灼滅者たちは思わず目を細めた。
     光が収まった時には、武者も巨大福助も消えていた。相殺されたのだろう。
     骨董屋の掌の上には、ちんまりと元の福助人形。
    「福助さんにモデルがおることは知っとるか? しかも陶器の人形は空洞や。たんと闇を溜めこめる……」
     骨董屋の台詞を遮るように、仲間の傷を癒やしていた湊が進み出た。
    「……どうも、二度目まして」
     礼儀正しく名乗ってから。
    「あなたの作る物語は面白いね」
    「さよか、そらおおきに」
     クク、と骨董屋は嗤うと、再び背中を向け、玄関の方に去っていく。
     その後ろ姿に、湊は。
    「でも気に入らない部分もあるから、また、会いにくるんで」
     老人は振り向かない。
    「くっ……」
     余力があれば一撃お見舞いするつもりだった瑞樹が『裁きの女神』を握りしめて唇を噛んだ。緋女がその袖を引いて。
    「気をつけるのじゃ、まだ帯も残っておる」
     骨董屋は『一ぺんだけ遊んだろ』と言った。つまり次撃は、もう遊びではないということだ。しかも帯は骨董屋の回復で力を取り戻している。
    「……うん、とにかく帯を倒さなきゃね!」
     瑞樹は潔く切り替え、
    「いくよ!」
     聖剣を思い切りよく振り下ろし、帯を包み込んでいた蝋燭の黒煙を払った。すかさず梅子の影が喰らいつき、緋女が、
    「神風よ吹け、薙ぎ払う刃となれ!」
     風の刃を放った時。
     シュバッ!
     人影が書生に代わり、蛇が、接近していた愛子に鎌首を伸ばす……。
    「……ドリィ!」
     しかし愛犬が主を庇い、愛子は思いっきり利き腕の刃を振り下ろすことができた。
     ザクッ。
     中央部が大きく裂け、くたくたと帯は地面に崩れ落ちた。背後の人影も電波障害のテレビのように粒子が荒くなっている。
    「今よ!」
     めろが愛猫と共に飛びかかり、聖剣でグサリと帯を地面に縫い留めた。そこに。
    「まっぷたつに、ちょん切っちゃおうかなあ!」
     ジャッキン!
     優生の鋏が、大きな刃を閉じて。
     アアアァァァァー……。
     どこか遠くで、ひどく悲しげな悲鳴が響いて、幻の書生は女学生との明滅を繰り返しながら薄れてゆき……。
     呪いの昼夜帯は動かなくなった。
     そこに落ちているのは、もう、ただの古びたボロ布でしかない。

    作者:小鳥遊ちどり 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2015年12月10日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 4/感動した 0/素敵だった 2/キャラが大事にされていた 0
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