クリスマス2015~灯り夜 夢幻のスフィア

    作者:西東西


     12月ともなれば、あたりはすっかり冬の気配に包まれる。
     街のショーウィンドーは煌びやかな雪模様で飾られ、あちこちから軽快なクリスマスソングが流れくる。
     夜にはイルミネーションの明かりがそこ此処を照らし、人々は冷たい空気に凍えながらも、鮮やかな色彩に眼を細めるのだ。
     2015年も残すところわずかではあるが、年越しを迎える前に、ひとびとが楽しみにしている日がやってくる。
     そう、クリスマスだ。
     

     武蔵坂学園では例年通り、伝説の木のツリーの前で盛大なクリスマスパーティを行うことになっている。
     様々なイベントが告知されるなか、一夜崎・一夜(大学生エクスブレイン・dn0023)が広げ見せたのは一枚のポスターだ。
     ――武蔵坂学園キャンドルナイト in クリスマス。
    「要するに、夜のメイン会場周辺をキャンドルで飾ろうというイベントだ」

     イベントが始まるのは、夜のとばりがおりるころ。
     学園が用意した、球形のガラスのキャンドルホルダーとキャンドルが配布されるので、まずはそれを受け取ろう。
     キャンドルホルダーやキャンドルは、各自で自由にアレンジOK。
     ガラスのホルダーにマジックで願い事を書きこんだり、リボンやクリスマスオーナメント等を用いてデコレーションすれば、世界にひとつしかないオリジナルキャンドルが完成だ。
     準備が整ったなら、会場周辺の好きな場所に、手持ちのキャンドルを並べに行こう。
     並べた後は、火を灯すのをお忘れなく。
    「たとえば、道沿いに灯火を並べてキャンドルロードを作ったり、雪だるまや星など、様々な形になるよう並べて飾ったり。友人や仲間たちを誘いあって参加するのも楽しいだろう」
     会場周辺の歩行・移動や、ほかの参加者の迷惑にならないようにだけ気をつければ、どこを飾りつけても構わない。
    「数多のキャンドルが会場を照らしゆく様は、きっと幻想的でうつくしいことだろう」
     夜は冷えるので防寒対策もお忘れなくと告げ、一夜は学生たちに参加案内を配ってまわった。


    ■リプレイ


     陽が落ちれば空気はぐっと冷たく感じられ、時おり舞う雪に、学生たちは身を寄せあい白い吐息を零した。
    「マヤさん、今日はお誘いありがとうございます♪」
    「楽しいクリスマスを過ごしましょう」
     マヤと奏音が手にするのは、赤と青のリボンにミニバラを飾った揃いのキャンドル。
    「こんな私ですが、これからもよろしくおねがいしますね♪」
    「こちらこそ。宜しくお願いします」
     会場の空いている場所に並べ、笑い交わす。
     キャンドルの火はいずれ消えてしまうけれど、想い出はいつまでも消えることはない。
     だからこそ、一年に一度のこの日に、ひとは想いを寄せるのだろう。
     曜灯はクラスメートと共に、飾る場所を探す。
    「校門の壁の上とかどうかしら? こう、影絵ができる様に配置してみるの」
     揃ってキャンドルを据えれば、サンタやトナカイ、雪だるまの行列が並んで。
    「ふふ、やってみればできるものね」
     ジヴェアは、ひとりで複数のキャンドルを用意。
     オーナメントをあしらったもの、玉虫色に染めたもの、模様を描いたもの等、計5つ。
     それらを薔薇の花弁のように並べ、みんながいつまでも幸せで暮らせますようにと、願う。
    「いつもの場所も、こうしてると違った世界に来たみたいですね」
     桜色の和紙で飾った灯りを手に、陽桜が一夜とさかなを振り返る。
    「ああ。どの明かりも、見事なものだな」
    「ん。きれい」
     そうしてお披露目、と陽桜が見せたのは、花弁模様の細工を施したキャンドルホルダー。
     歩けばどの情景も素敵で、置き場所を定めるまで随分とかかった。
     見守る二人を振り返り、今年もお世話になりましたと告げ、改めて挨拶を。
    「来年も、一緒に遊んでくださいね♪」
     皆の気持ちがこもった灯りは、眺めているだけでも一層暖かく感じる。
    「わあ…とっても、綺麗なのです…!」
    「…此処だけ、世界が、違う、みたいです…」
     蝋燭を手にキャンドルロードを歩くのは、蒼と桜。
     蒼は、赤リボンや緑のオーナメント。
     桜は、雪だるまや結晶のシールに、桜を貼って。
     道沿いに仲良く並べ、火を灯す。
    「…こんな、穏やかな日が、ずっと、続くように…、頑張らないと、ですね」
    「またこうして、笑いあえるお友達と過ごせるように、ですねっ」
     仙と小鳥は、二人で1つのホルダーを飾った。
     マスキングテープや赤と緑のリボン。
     松ぼっくりや赤い木の実は霊犬『黒耀』の足にも同じものを飾り、伝説の木へ向かう道沿いへ。
    「リボンで誘導してるようにも見えるだろうし、ここにしよう」
     仙の提案に、小鳥が頷く。
     霊犬に飾り付けた木の実が、からからと音を立てるのを楽し気に見送り、揃って歩きだす。
    「遠くから眺めてみようか。全体を眺めたら綺麗だろうしな」
     ――来年も変わらず、一緒に笑い合えるひとときを。
     【糸括】の8人は各々のキャンドルを手に、花壇を飾る。
     ミカエラの蝋燭は、超絶技巧で彫りあげた赤と青のちび鬼。
     メイド服や表情が素晴らしいと褒められれば、
    「そりゃ、モデルがいいからね~♪」
    「赤鬼が鈍な? 仕方なく付きあってるのが俺」
     ウサミミにうむと頷き、明莉がお菓子の家を演出した蝋燭を並べる。
     美味しそうと告げた渚緒へ、「甘い誘惑には気をつけろ」とにんまり。
    「赤鬼は木元だろ。付きあわされる身にもなってくれ」
     嘆息する脇差の手には、耳と髭のついた猫顔のホルダー。
     クリスマスカラーの長靴をはかせ、雪だるまやトナカイの隣へ。
     続く千尋は、青のホルダーに真珠や貝殻風の小物をあしらったキャンドルを並べた。
     元の童話は、著者の恋愛体験を作品に込めたという。
    「あたしもいい相手がいればなー」
     恋はまだよくわからないけれど、と杏子が零し。
    「大切な友達、そばにいて、ほっと安心できる人達をね、一番大事に想いたいな」
     汽車と星の輝く銀河ステーションを花壇に据え、大切な友を想う。
    「隣で一緒にいたいと思える人がいる。それは、すごく幸せなことだと思うな」
     トナカイの足元にホルダーを飾ったのは、渚緒。
     赤い蝋燭のそばで踊る七色の小人たちを見やり、同じように微笑んで。
    「ボクも、大切な人と…皆ともっと一緒にいたいな」
     輝乃が少女と森を描いた夜色のホルダーに火を灯せば、天から銀貨が降り注ぐ。
     自分にとっての銀貨は学園で出会えた皆だと、微笑み蝋燭を並べて。
     心桜は雪だるまの横に雪の結晶散るキャンドルを置き、揺れる明かりを眺めた。
    (「永遠に灯る明かりはないって、知ってる」)
     けれど。
    「来年も、みんなでクリスマスをお祝いしたいのじゃよ」
     その言葉に、全員が頷きあう。
     仲間と過ごす日々。
     幸せな時間が、少しでも長く続きますように。
     アリスに声を掛けられ、傍に立つクロノへ、さかなが深々とお辞儀して。
    「蝋燭は、そのまま」
    「私のはゴスロリ風、かな?」
     似合わないけれど、興味が無いわけでもないからと告げれば、
    「俺は見てみたいな、アリスのゴスロリ」
     きっと眼福だろうと、クロノが石の上に蝋燭を据え置く。
     隣に並べたアリスの蝋燭は金属粉を混ぜたといい、様々な色で燃えている。
    「おお、幻想的って奴かな」
     いい光景だ、と告げるクロノの視線の先には、アリスの姿があって。
    「明日神さんの方に向くその時まで、俺を見ていてくれないかな?」
     告げる声を背に、さかなはそっと、その場を後にする。
     ピンクのリボンに青い小鳥のオーナメント。
    「なんて書いたんだ?」
     智之が手元を覗きこめば、
    「なっ内緒…!」
     メッセージを隠し、まだ灯りの少ない所へ。
     飾り終え辺りを見渡せば、光は幻想的で、ただただ美しい。
    「来年も再来年も、こうやって居れたらいいのに」
    「あぁ」
     ぽつり返し、白の髪を優しく撫でる。
     外は寒くて冷えるけれど、二人一緒なら暖かい。
    「メリークリスマス、想々」
    「うん、メリークリスマス」
     優しく告げる声に、想々はふにゃり、微笑む。
    「何この毛玉…え、猫?」
     百花は耳を疑い、侑二郎のホルダーを二度見。
    「そういう百花先輩は、何も描かないんですか?」
    「思いつかないのよ。あと下手だし」
     不愛想に告げる手元を見やれば、端に小さく『隣人に幸あれ』の文字が。
     蝋燭を並べ、明かりを眺め歩く。
     二人出歩くのは初めてで、仲良くなれたようで良かったと笑う。
    「先輩のかわいいところも、見れましたしね」
    「どこに可愛い要素なんてあったのよ」
     バカじゃないのと先行く背中に、自然、侑二郎の頬が緩む。
    「クリスは何書いたの?」
    「トーヤより身長伸びますようにってフランス語で書きました☆」
    「身長はオレの方が大きくていいの!」
     クリスはいまのままで十分可愛いんだからと続け、オレはこれとキャンドルを掲げる。
     ――クリスと一緒に幸せになる。
    「顔、赤くなってない?」
    「キャンドルの灯りじゃないかな」
     はぐらかす声に笑い、互いの手を握り交わす。
     並べた蝋燭の火に願うのは、大切な人との日々。
     ――こんなにも素晴らしい幸せが、いつまでも続きますように。
    「あれ? これもしかして俺?」
    「えへへーわかった?」
     眼鏡雪だるまのキャンドルを掲げ、悪戯っぽく夏蓮が笑う。
     途中、揃って広場のツリーを見あげて。
    「近くで見るのって、初めてだっけ」
    「ツリー、おっきい!」
     せっかくだからと、ツリーの見える場所に二つのキャンドルを寄り添わせる。
    「二人でも写真とろっか!」
    「キャンドル持った状態でも撮ろうよ」
     キャンドルとツリー、そして二人の顔が映るようにセッティング。
     肩を並べ、スマホを構えて――はいチーズ!
     雪緒と清十郎も、互いを象徴する青と翠のビー玉とリボンで飾った蝋燭を手にツリーの下へ。
     そっと並べ火を灯せば、ビー玉が灯りを反射し幻想的な輝きを放つ。
    「雪緒と一緒に見られて、とっても嬉しいよ」
    「凄く素敵で…私も嬉しいです。メリークリスマス、清十郎」
    「メリークリスマス、雪緒!」
     二人寄り添い灯りを眺めながら、キャンドルに添えたメッセージが天に届くよう祈る。
     ずっと大好きです。
     いつまでも貴女の傍に。
     ――この幸せが、続きますように。
     葵と嵐も、互いへのメッセージを書いた蝋燭をツリーの下へ。
    「何て書いたの」
    「嵐が秘密なら、僕は内緒だ」
     言葉の代わりに葵が優しく手を包めば、嵐が幸せそうに微笑む。
     メッセージは、読めなかったけれど。
    (「わかるんだ」)
     触れた指先から、同じ気持ちが伝わる。
     ――Du bist mein Ein und Alles.
     隣に居る毎日は、宝物で。
     この景色のように、ずっと、きらきらしていたらいい。
     明日も明後日も。
     一緒に、居られますように。

     白蛇を模したキャンドルを手に、円蔵とイコが足を止めたのは憩いの木の下。
     寄り添うよう枝に飾れば、双つで一つの大きな燈火に。
    「…じつはもうひとつ、あるの」
     囁き取り出したのは、星のラメ瞬く硝子球。
     底には、小さなヤドリギが描かれている。
     それは此処で憩う恋人たちへの贈り物。
     ステキでしょうと笑んだイコが、そっと眼を閉ざして。
    「言い伝えにも従わないといけませんよねぇ、ヒヒ」
     そう笑い、愛しい人へキスを。
     ――ね。わたしたちが最初の一組よ。


     灯りの道の端に、互いへのメッセージプレートを飾ったキャンドルを並べ、火を灯す。
    「…キャンドルも、これだけ並べば見事なものですね」
     呟く綾乃に、響が頷いて。
     せっかくの時間、できるだけゆっくり楽しみたいと、腕を組んで歩く。
     揺れる炎に照らされた道は、祝福されるバージンロードのよう。
    「ふふ、たまにはこういう雰囲気もいいものですね」
    「灯った炎のように、柔らかくあたたかく、ずっといっしょにいたいな」
    「…ええ、ずっと一緒に、いましょうね」

     月と星の蝋燭を前に並ぶのは、リヒトとカイリ。
    「まるで、地上が星空になったかのようです」
     小さな灯りがあれば、前に進んでいける。
     そう零すリヒトに、
    「灯籠流しを髣髴とさせますね」
     今まで殺めてきたダークネスの冥福を祈ることもできると、カイリも灯火を見守る。
    「今は、カイリさんが笑ってくれたらそれで幸せです」
     互いの手が離れないように、ぎゅっと握って。
    「僕も、お祈りしておきますね」
     ――願わくば、この幸せな日々がいつまでも続きますように。

    「百舌鳥くんの手描きの雪の結晶、可愛らしいです♪」
    「楓夏ちゃんのは物語に出てきそう…」
     キャンドルを見せあい歩を進めれば、暗がりが目に入る。
    「ね…あそこに並べようよ…」
     蝋燭を据え、マッチをひと擦り。
     闇夜に揺れる火を見やり、楓夏が「寒いですから」と、おずおず手を差しだす。
    「外套の中に入れてたからオレの手温かいかも…」
    「温かいですし…暖かな気持ちになりますね、ふふ♪」
     触れた温もりを確かめるよう指を絡め、二人、穏やかに微笑み交わした。

     夜月と弥太郎は交換した蝋燭を並べ、火を灯す。
    「弥太郎、ボク手が冷たいなー? なー?」
     差し出された手に思わず笑みを零し、優しく握る。
    「これで、僕も夜月先輩も暖かくなります」
     選んだ赤のリボンは、夜月の色。
     その夜月は、白は特別な色と言った。
     ――この気持ちは、気付かれているのだろうか。
    「素敵な夜をありがとう、弥太郎!」
     光に浮かぶ笑顔は、特別に綺麗で。
    「夜月先輩…大好きです」
     重ねた手から想いも伝われば良いと、弥太郎は眼を細めた。

     大通りを外れ、狭霧が見つけたのは草花の影。
     雫と共に、物語を閉じこめた扉の鍵と、瞬く星を並べる。
     葉影から零れる光が暖かく、「素敵です!」と雫も微笑んで。
    「こんなに近くにあると掴めそうっすね」
     揺れる星灯りに手を伸べようとして、紫の瞳を見つめる。
    「…ねえ、センパイ。少しだけ手、握って良い?」
    「手を?」
     星咲かせた手を、そっと両掌で包みこむ。
     触れた手の温もりは、確かで。
     灯の星は掴めないけれど。
     温もりだけは掌に灯ればいいと、願った。

     シェリーの手を引き広場を離れ、七狼は人波遠い場所に揃いの赤と白、そして青と黄をさし色にしたキャンドルを寄り添わせた。
    「綺麗」
     ぽつり零した恋人を、七狼がそっと後ろからコートで包んで。
     掌を重ねれば、伝わる温かさがいっそう愛おしく感じる。
    「このキャンドルのように、暖かく寄り添う2人で居よう…これからも」
     ――ずっと隣にいて、イトシイヒト。
     耳元で囁く声に、鼓動が高鳴る。
    「七狼、何時までも隣に居るよ」
     ――今はもう少しだけ、此のままで。

    「う…火がうまくつかない…」
    「フレン、危ないから俺が灯すよ」
     たどたどしい手つきにくすりと笑み、ギーゼルベルトはフローズヴィトニルの手からマッチを受け取る。
     代わればすぐに火が点いて。
     まだ灯の少ない場所で揺れる灯りは暖かく、闇夜のなか幻想的に揺れる。
    「寒くないか?」
     問いながら抱き寄せ、その手をぎゅっと握りしめて。
    「うん」
     伝わる体温に頬を緩ませ、フレンは頷き、身体を預けた。
     ――これから先も、二人、この手を繋いだまま歩けますように。

     小太郎と希沙は、せーのでキャンドルを点火。
     夜闇に浮かんだのは、眠り目シャムに寄り添うソマリに、キスとハートを贈る鹿の姿。
    「へっ、え、…――!」
     染まる顔を隠すよう拳を向ければ、「わー、お許しをー」と小太郎も照れ笑い。
     やがて静かに寄り添えば、募る愛しさに細い肩を抱き寄せる。
     ふわり、金の髪が迫ったかと思えば、頬に柔らかな唇が触れて。
    「お返し」
     不意打ちに跳ねる姿も、愛しくて。
     温かく包む腕に身を委ね、囁いた。
     ――きみは、きさの光。

     蝋燭を寄り添うように並べ、七葉は紅詩に甘えるように身を寄せる。
    「ちょっと寒い…かも」
    「こうすれば寒くないですよ?」
     紅詩は二人一緒に入るよう、赤いロングマフラーをふわりと巻いた。
     揺れる灯火と温もりに、七葉の胸が高鳴って。
     闇夜に浮かぶメッセージを、胸に焼き付ける。
     ――Simul simus in aeternum.
     ――Aussi permettez d'etre avec toujours.
     紅詩を強く抱きしめ、眼を閉ざした。

     アルヴァレスと共に蝋燭を並べ、ユエファは星や月で飾ったキャンドルに火を灯す。
     光に照らされたユエファの横顔は、とても綺麗で。
     アルヴァレスはなにひとつ言葉にできず、ただ、ひたと見つめるばかり。
    「去年したお願いごとは、覚えるしてます…か?」
     澄ました様子でねだるユエファに、コクリと頷く。
     ――来年は、唇にしてください…ですよ。
     肩に手を置けば、その身の強張りに気づいて。
     アルヴァレスは愛おし気に緑の瞳を見つめると、そっと、唇を重ねた。

     猫と雪で飾った蝋燭を並べ、雪花は雪菜を抱き寄せる。
     少し慌てながらも、繊細な身体は抵抗せず、腕に収まったままで。
    「雪菜。これからもずっと傍に居てね。離さないから」
    「本当に私でいいの? 可愛くも、素直でもないし。不安になったら逃げちゃうかも」
     問いかける茶の瞳を、赤の瞳がひたと見つめる。
    「逃げたら、どこまでも追いかけて、捕まえて連れ戻すからね!」
     生涯離すつもりはないと、誓って。
     嬉しそうに頷いた雪菜を強く抱きしめ、そっと、唇を重ねた。

    「炉亞先輩、寒くない?」
     キャンドルを並べ終え、ふいに繋がれた手に炉亞の胸が高鳴る。
     ――貴女の暖かさを、独り占めしたい。
     伝わる温もりが堪らなく愛おしく感じられ、
    「一夜」
     名前を呼んで、その手を引いて。
     優しく、唇を重ねる。
     火照る顔を隠しながらも、一夜は喘ぐように零した。
    「大好き」
    「大好きですよ、一夜さん」
     確かめるように応え、冷えきった身体を暖めるように頬を寄せる。
     ずっと、一緒にいたい。
     どうか灯火に託した願いが、叶いますよう――。

    「綺麗だな」
     瞬くキャンドルを前に、感嘆の声を零したのはエレオノール。
     ふわり女性らしいワンピース姿に動揺しつつ、焔は胸中で己を一喝。
     意を決し、口を開いた。
    「好きだ。付きあってくれ」
    「な?! い、いきなり何を言ってるんだ?!」
     突然の告白に、弾かれたように振り向く。
     視線の先には、顔を真っ赤にしながらも真剣な瞳を向ける後輩の姿。
     エレオノールは頬を染め俯くと、深く息を吸いこんで。
    「…はい…喜んで」
     ゆっくりと顔をあげ、微笑んだ。


     緊張のあまり歌いだした鈴とは逆に、千慶は冷静そのもの。
     無装飾のキャンドルにスマイルと星いっぱいのキャンドルを並べ、傍らを見やる。
     が、すぐに目を逸らす。
    「なんで顔逸らすんだよ…あぁ」
     すかさず、鈴の右手をキャッチ。
     恋人繋ぎをして見せれば、
    「わ”ー!!」
     周囲の視線集める大絶叫。
    「いやだ! 見るな! 私ばっかこんななってずるい!!」
    「鈴はかわいいなー」
     照れる様子がまた愛らしく、千慶は手を引き、笑いながら広場を歩く。
     数多の灯の隙間に蝋燭を並べるのは、啓太郎と善之。
    「俺さ、いつもへらへらしてばっかだけど、善之のこと結構大好きなんだよなー」
     来年も一緒に遊ぼうと告げる声に、いつでも歓迎するぜと答えて。
    「――俺も、あんたが」
     言いかけ、口をつぐむ。
     仕舞っていたカイロを差しだす。
    「あんたの願いを聞かせてくれよ。一応、人の願いとか叶えたりする家系なんだ」
    「じゃあ、今度お言葉に甘えてみようかなー」
     カイロを頬にあてる啓太郎を見やり、善之はそっと、眼を細めた。
     詠美と紲は長いマフラーを巻いて手を繋ぎ、歩く。
     キャンドルは人目に付かないところへ、寄り添うように灯した。
    「『この灯りが消えても紲への愛は一生消えない』…なんちゃって」
     記したメッセージを読みあげ、詠美がはにかむ。
     見れば、紲のキャンドルにも文章が。
    「紲のは…何て読むんだ?」
     問われ、紲は詠美にしか聞こえない声で囁いた。
     ――何があっても貴方を離さない。
     この綺麗な景色も、それ以外の風景も。
     一緒に見て過ごしたいと、願って。
    「やっぱり女の子は違うなぁ」
     三色のポインセチアで飾った彩希の蝋燭を見やり、鷲司は写経を施した己の物と見比べる。
     写経のおかげで徳が積めたと告げるのを、どんな徳よと笑って。
     道沿いの空いた場所へ、寄り添うように並べる。
    「彩希の、なんか書いてるように見えたけど、なんて書いたんだ?」
    「一般的な、ごくありふれた文句よ」
     誤魔化すように立ちあがり、背を向ける。
     灯火に揺れるのは、密かな宣言。
     ――来年も、今年と同じように楽しく一緒に過ごします。
     星を散りばめた蝋燭を並べ、口を開いたのは鶫。
    「あのね。私、好きな人ができたの。今日、それを相手に伝えるつもり」
     広樹は幻想的な光景を見つめながら、その声を聞いていた。
     ――後悔しないよう、自分で選んで自分で進む。
    「前に進む勇気が出たから…広樹には、ちゃんと伝えたかったの」
     微笑む鶫を見やり、頷いて。
    「ちゃんと自分で考えて出した答えなんだな…。なら、後悔のないようにしっかりな」
     これからは見守ってねと笑む妹へ、今日はありがとなと、呟く。
     広場への標となるよう、優雨と千代も道沿いに灯りを並べる。
     ステンドグラス風の蝋燭に、星瞬く蝋燭。
     灯を前に想うのは、抱きしめてもらった記憶ともう一人の自分。
    「いつも傍にいてくれてありがとう。優しい優雨先輩が、大好きだよ」
    「私のほうこそ、感謝していますよ」
     巻かれたマフラーを手に、私が私で居られるのは千代ちゃんのおかげと微笑む。
     手から零れ落ちたものも沢山ある。
     けれど、選んだ道だ。
     ――守りたいと思うもののために。私は、何ができるだろう。
    「2年の緩急は体感上どちらともつかなくなった」
    「…あいまいなのは、珍しいです」
    「両方該当するからだ。曖昧では無い」
     返す答えに、まじまじと顔を見て昭子が笑う。
     珍しいようで、時折覚えのある表情。
    「このよるは、どちらに分類されるのでしょうか」
    「どちらにも」
     微笑につられ、純也の口端が緩やかに笑むのを昭子は見た。
     手にする灯火よりもきっと消えやすいそれを、消したくなくて。
    「それなら上々、です」
     瞬きひとつ。
     指摘せぬまま、長く短い時間の共有を続ける。
     鼓と弥彦は並んで火を灯し、瞬く光を見つめる。
    「まっくら道のみちしるべみたいです」
    「道しるべ」
     呟けば、ろうそくを持って立つ鼓の姿が浮かんで。
     ふと思い付いたように、鼓がひょうたん型のホルダーに肉球を描く。
    「わたしの明かり。目印です」
     おれは、目印がなくても華井を見つけられるかな。
     ――そうだといい。
     ろうそくは、ひとのやさしさににていて。
     ふたつの方が、あったかいと思うから。
    「弥彦さん、めりーくりすます、です」
    「華井も、めりーくりすます」
     キィンはありものの火を入り口すぐの道の脇、柵上あたりに置いた。
     一通り広場を見て回った後、
    「一夜崎」
     見知った背に声をかければ、「お前も居たのか」とぞんざいな声。
     眺めの良い場所を陣取って話すのは、いつ通り他愛のない事。
     テストの学年底辺が見えたこと。
     故郷の家族がカードを送った事も告げ、いつかの小鈴の写真を送ったと報告。
    「あの鈴、どうしたんだ?」
     問えば、家から持ってきた物だと言う。
    「きょうだいが好きで、良く集めていたのだ」
     楽しい時間は一瞬で。
     ひとしきり話した後、
    「おやすみ」
     それを言いに来たんだと、キィンが背を向け、手を挙げる。
    「おやすみ、良い夢を」
     ――また、並び歩くその時まで。

     柚羽はなにも飾らないままのキャンドルを手に、はじめから、ただじっと灯される火の光景を見ていた。
     ひとつ前の、その時にはなかったキャンドル。
     けれど、今この時にはあるキャンドル。
     同じその時はないという事を、見ていたくて。
    「柚羽」
    「…さかなさん、一緒にどこかにどうでしょう?」
     何処に置くとか、決めていないですけれどと告げる言葉に、「わたしも」と、さかなが青のホルダーを掲げ見せて。
     薄明かりの闇を見いだせば、いつかの七夜月を思いだす。
     あの時のみこんだ言葉の続きを、今も幾度も、胸中で繰りかえす。
     ――綺麗は儚いから、大切にしないと。
     深い夜闇に粉雪が舞う。
     地上に瞬く星々を前に。
     さかなはそっと、眼を閉ざした。
     
     

    作者:西東西 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2015年12月24日
    難度:簡単
    参加:77人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 0/感動した 1/素敵だった 10/キャラが大事にされていた 0
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