くの一魅々ちゃん町を駆け!

    作者:霧柄頼道

     コスプレ用の特設会場として使われている展示場では、多くの人々が賑わっていた。
     お気に入りの衣装を着てポーズを取るコスプレイヤーと、それを囲んでフラッシュを焚くカメラマン達。イベントはこれといったトラブルもなく、和気藹々と進んでいるように思われた。
     ところが、不意に展示場ホールの窓から飛び込んでくる影がある。その影は空中でくるくると回転しながら中央へ降り立つや、驚く人々に向けてポーズを決めて見せたのだ。
    「プリティくの一、魅々ちゃん参上っ!」
     全身をピンクの忍装束で覆った淫魔の少女は、きゃぴん、という効果音が聞こえるかのようにラブフェロモンを放つ。
     一見忍者を思わせる格好ではあるが下着をつけていないのではないかというほど胸元は突き出て、肩口や腰部分などところどころ布を切り取って肌を露出させた色っぽい姿に、周囲にいた男性陣はたちまちの内に魅了されてしまう。
    「うおお、拙者萌えるでござる……!」
    「あの、と、撮ってもいいですか……っ?」
    「いいよー、撮れるもんならねー!」
     他のコスプレイヤーそっちのけで集まるカメラマン達を小馬鹿に、あるいは誘惑するようにわざとあちこちを跳ね回る魅々。熟練のファインダーさばきをもってしても捉えきれない俊敏な動きに、会場は大騒ぎである。
     だがそのうち、騒ぎを聞きつけた警備員やスタッフ達が駆けつけてくると、魅々はにんまりと笑って身を翻す。
    「こら、君、待ちなさい!」
    「あはは! 捕まえられるなら捕まえてごらんよーっ」
     追っ手から逃れつつ、魅々は大勢のカメラマン達を従えてホールから飛び出す。
     そのまま町中までも駆け回り、心ゆくまでイベントを堪能するのだった。
     
    「……と、そんな感じで淫魔がここのところ町を騒がせているらしい」
     神崎・ヤマト(中学生エクスブレイン・dn0002)が、集まって来た灼滅者達を見る。
    「本人にあまり悪気はないようだが、守るべきルールってのはあるもんだ。それを無視して男達を引き連れて爆走されちゃ、スタッフにも近隣の住民にも迷惑がかかる。ここはお前達の力でお灸を据えてやってくれ」
     頷く灼滅者達に、ヤマトは状況の説明を始める。
    「魅々の現れる展示場ではコスプレイベントが行われ、一般人達で賑わっている。そこへ乱入し散々カメラ小僧どもを振り回したあげく、会場の外にまで逃げ去っちまう寸法だ。魅々は動きが軽く、高い敏捷性を持っている。だから町中にまで取り逃したらまず追いつけないと思っていい」
    「それなら、どうやって捕まえるんでしょうか?」
     安楽・刻(ワースレスファンタジー・d18614)の問いに、ヤマトはぽりぽりと頬を掻きながら答えた。
    「会場の後ろには公園があって、そこも魅々の逃走ルートになってる。幸いその場には人もいないし障害物も少ないから、この公園で待ち伏せするのがベストだな」
     だが魅々はそれまでに魅了した一般人達十数人を連れて逃げており、彼らも追い払っておかないと、いらない犠牲が出る可能性もある。
     その場合は何人かが会場へ潜入し、魅了された振りをしてうまく一般人の輪に入り込んでおければ、先手を打てるだろうとヤマトは言う。
    「会場内で魅々との追っかけっこをする時は、灼滅者とばれないようにつかず離れずで追うのがコツだぜ。熱意を持って追いかけてやれば、魅々もいい気になって隙が大きくなるだろうからな」
    「熱意を持って……」
     自信なさげな刻に、ヤマトは苦笑しながら補足した。
    「魅々のポジションはスナイパーで、忍者っぽい飛び道具や搦め手主体で戦うようだ。戦闘が始まるとどこからともなくフライングメイド服を着た親衛隊の女の子達が守りに現れるから注意してくれ」
     メイド達は六人。やっぱりくの一っぽい攻撃方法かつ前衛に立つ強化一般人だが、メイド服を破ってやれば力を失って一般人へ戻る。
    「魅々はテンションが上がると弾けちまうだけで本来はそこまで邪悪な淫魔でもないようだ。ちょっと痛い目に合わせてやれば大人しくなると思うから、灼滅するかどうかは任せるぜ!」


    参加者
    マリア・スズキ(悪魔殺し・d03944)
    淳・周(赤き暴風・d05550)
    碓氷・炯(白羽衣・d11168)
    アルクレイン・ゼノサキス(黄昏の天使長・d15939)
    安楽・刻(ワースレスファンタジー・d18614)
    真中・翼(高校生サウンドソルジャー・d24037)
    仮夢乃・蛍姫(小さな夢のお姫様・d27171)
    安藤・ジェフ(夜なべ発明家・d30263)

    ■リプレイ


    「こんな淫魔も居るんですね。ダークネスで無ければ、学園に勧誘したいくらいですが……」
     独特の熱気と活気に包まれているコスプレ会場。その中に紛れ、安藤・ジェフ(夜なべ発明家・d30263)が呟く。
     うん、と隣で頷くのは平成ライダー系を思わせる正義のヒーローっぽい赤いスーツに身を包んだ淳・周(赤き暴風・d05550)だ。
    「変わった迷惑のかけ方だなー。ダークネスっぽくないというか。……まあ、人の迷惑になる事には変わりはなし。懲らしめるくらいはしないとな!」
     それからきょろきょろとあたりを見回し、向けられる視線にちょっと照れたみたいに笑い。
    「……こういう場所もたまにはいいかもな!」
    「周りに迷惑をかけないように、きっちり教育的指導をしなければいけないですね」
     アルクレイン・ゼノサキス(黄昏の天使長・d15939)もセクシーなレストラン制服のコスプレをしながら魅々の登場へ気を配る一方で、群がるカメコ達にも快くポーズを取ってイベントに入り込んでいるようだ。
     そんなこんなで各々イベントを過ごす内、何の前触れもなく展示場へ影が飛び込んでくる。
     魅々だった。そのきわどいくの一コスとポージングで瞬く間に人々を虜にするや否や、浮かれたようにあちらこちらを飛び回り始める。
     潜入していた三人も魅了された振りをしながら、不規則な動きで走ったり跳躍したりする魅々を追いかけた。
    「そのコスチューム、凄く素敵です。写真撮らせていただいても良いですか!!」
     アルクレインは一眼レフのデジカメを手に、周囲の一般人の熱意に置き去りにされないよう声を張り上げていく。
    「くの一さん、待って、そんなコス、作りたいんです。写真! 写真お願いします」
    「撮っていいってばー! 止まらないけど、えへっ」
    「いい服着てんなーそれどこの店で……自作か! 素材とか色々教えてくれよ!」
     周も器用に集団へ飛び込みつつノリノリで叫ぶ。
    「こんな跳んじゃっても破れないし外れないんだよー!」
    「すごい動きやすそうだしそういうのもありだな! 次の参考に!」
     形作られる一体感にますますテンションが上がっているのか、魅々の挙動もより大胆になっているようだ。
    「いよ、姉さんイカしてるね!」
     そんな魅々のご機嫌取りをすべく、ジェフは一般人達と歩調を合わせつつ的確なタイミングで声をかけていく。
    「そう? やっぱり?」
    「いい女とあっちゃ、追いかけ無い訳にはいかないね」
     露骨な太鼓持ちだが、魅々は機嫌良く笑いながらさらにスピードを上げたものである。
     その後もつかず離れず、一般人に迷惑をかけないよう魅々を追いかけていると、会場の奥から結構な人数の警備員達がやってくる。
    「こら、君、待ちなさい!」
    「あはははは! 久しぶりにこんなに楽しいのに捕まるわけないよー! ほらみんな、次はあっちで遊ぼっ!」
     有頂天な魅々はくるりと身を翻し、バック宙しながら窓から外へ飛び出していく。
     うおおっ、と一般人達と灼滅者達も汗だくになりながら一斉にその後を追ったのだった。


     一方、マリア・スズキ(悪魔殺し・d03944)をはじめとする灼滅者達は公園で身を潜めていた。
    「……はしゃぎすぎ、だね。悪気が、なくても……迷惑」
     適当な茂みの中へ霊犬とともに隠れたマリアは、距離を置いた先の建物から聞こえてくる騒ぎに小さく漏らす。
    「本人に悪気はないようだし目的も正直分からないけど、度が過ぎてるみたいだからきちんと懲らしめてあげないとね!」
     仮夢乃・蛍姫(小さな夢のお姫様・d27171)も身を隠した遊具の後ろから目を凝らす。
    「振り回された、誰かが……怪我してからじゃ、遅いし、ね」
     それにはマリアも同意見で、魅々に対しては存分におしおきする心づもりだった。
    「……僕はちょっとよくわかりませんがああいうのが良いのです? なんというか否定する気はないのですが、僕にはついていけない世界です……ささっと終わらせたいですね」
     何となく振り回されるような予感がしているのか、碓氷・炯(白羽衣・d11168)は困惑気味に呟く。
    「迷惑……ではあるけれど……これは、どう捉えたら……」
     と、こちらも何とも形容しがたい表情でこめかみへ指を当てている安楽・刻(ワースレスファンタジー・d18614)。
    「……うん。少しお灸を据えて、あとはお説教で、いいかな……」
     とりあえず方針は固まるものの具体的な対応にはやはり困りそうだ。ビハインドの黒鉄の処女は例によってどうでもよさそうにあらぬ方向を眺めている。
    「今回の淫魔がこれ以上騒動を起こす前に、早く止めないとな……。それはそうと……冬なのに露出多めって、寒くないのだろうか?」
     思わず腕組みをする真中・翼(高校生サウンドソルジャー・d24037)。
    「……女ばかりが相手であると言うのはちょっときついな……俺、女が苦手で手が触れただけで顔が赤くなるってのに……大丈夫かな……?」
     ヤマトからさんざん扇情的な服装をしていると聞かされたとあっては意識がかき乱されるのも仕方ないのだ。
    「むっ……! 来たみたい! 皆構えて!」
     しかし時間は容赦なく過ぎ、魅々の接近に気がついた蛍姫が声を上げ、灼滅者達は立ち上がった。
    「……え? あれー? あなた達だれ?」
     突如前方に現れた灼滅者達に、先行していた魅々が怪訝そうに足を止める。
    「みなさん、危険ですからここから先には進まないように」
     魅々が気を取られている背後で、ラブフェロモンを使用したアルクレインが一般人達に言い含める。
    「わざわざご足労頂いたところ申し訳ないのですが、邪魔ですからお引き取り頂けますか。怪我をしても知りませんよ」
     魅々とアルクレインを交互に見やり、踏ん切りのつかない彼らを後押ししたのは炯の王者の風だった。
     静かだがどすの効いた声にさらされ、一般人達はその場から立ち去ろうとする。
    「あれ、みんな? ちょ、ちょっと何してるの……?」
     異変に気がついた魅々の足下へ、翼の放った銃弾が穿たれる。
    「おっと、動かないでくれよ」
     言いつつも魅々の衣装が直視できないのか、咳払いをしてごまかしていた。
    「皆さん、ここからは本当の闘いになるので逃げてください」
    「怪我をしないうちに早く」
     その間にもジェフとウイングキャットのタンゴ、刻達が一般人が安全に避難できるよう誘導し、殺界形成で人払いを完全にする。
    「……あなたは、ここで止める」
     逃走経路をふさぐように立ちふさがるマリアやサウンドシャッターを展開した周に、魅々はようやく罠にかかったのだと悟ったらしく、むかっと顔を歪めて。
    「調子に乗らないでよ! 邪魔するなら……えーと……あんさつしちゃうから!」
     するとどこからともなく六人のメイド達が現れ、戦端が切って落とされたのだった。


    「おしおきタイムだ!」
     真っ赤なヒーローコスをひらめかせ、つむじのように先陣を切って周が突っ込む。その勢いで燃えるレーヴァテインをメイドの一人に炸裂させ、勢いよくはじき飛ばした。
    「ここはさっさと退散していただきましょう」
     続く炯も鏖殺領域を放出し、軽やかなメイド達の機動力を削いでいく。
    「本命に逃げられるわけにはいきませんし……」
     魅々を横目に、刻も乱戦へ持ち込もうと動き回るメイドを捉え蹴りを浴びせると、反対側に回り込んだ黒鉄の乙女が霊撃をぶつけて一気に服を破壊してのける。
    「……」
     無表情のままマリアも、弱ったメイドの一人に狙いをつけて黙示録砲をぶち込む。その後ろでは霊犬が敵を混乱させるように駆け、味方への攻撃を防いでいた。
    「人に迷惑をかけないように、コスプレを楽しめませんか? 会場には、コスプレを楽しむ為に集まった沢山の人が居るんです。皆でルールを守って楽しみましょうよ」
    「そんなの知らないよ! それに、他の子よりもあたし一人の方がもっとみんなを喜ばせられるって!」
     縛霊撃でメイドを薙ぎ倒しながら、アルクレインが魅々へ訴えかける。けれど返事は何とも手前勝手なもの。
    「フライングメイド服来た一般人と戦うのは初めてだけど……『メイド服を破けばいい』とは言うが、相手は一般人だから加減した方がいいのか?」
     いまいち仕組みが分からない翼だが、仲間達の戦いぶりを見るに遠慮なく叩き込んでも大丈夫そうだ。
     とはいえすでにメイド服のあちこちが破けたり正直目の毒な光景が広がりつつもあるので、危うく近づきすぎないよう遠隔攻撃を中心に仲間を支援する事にした。
    「な、何よ……結構強いじゃない……」
    「魅々様、ここはお逃げ下さい!」
    「そ、そうしよっかなー……」
     親衛隊に促され弱気になった魅々がじりじり後ずさりを始めたところで、めざとく蛍姫が気づく。
    「もう逃がさないんだよ!」
     ばっ、と飛び上がりながら肉薄し、振り抜いた縛霊手から黄色い結界を放つと、魅々とメイドをまとめて捕まえた。
    「動かないでね!」
    「僕達にとっての遊びは一般人には危険過ぎますよ」
     もがく魅々へ諭すように言って、ジェフが傷を受けた仲間を祭霊光で回復させる。
     そして最後に残ったメイドの一人をタンゴがパンチでぶっ飛ばし、立っている敵は魅々のみとなっていた。
    「くぬーっ! 好き勝手言ったりやったりしてくれちゃって!」
     相当腹に据えかねたのか、魅々は逃走も忘れて踊るように宙を舞い、ジェフ達後衛へ手裏剣を投げつけてくる。
    「遊びというのはお互いが楽しむものです。ESPで操られた人が楽しめる訳ありませんよ」
    「くの一忍法お色気の術を試したかったの!」
    「僕は魅々さんを灼滅するつもりはありません。ですが、一般人に迷惑をかけた罰は受けてもらいます」
    「やってみれば? 捕まえられるならね!」
    「しかしわがままというかなんというか……ああいう女の子にみなさん心を奪われるものなんでしょうか……?」
     魅々のはっちゃけたテンションについていけず、おまけに取り立てて殺す気もないため、尖烈のドグマスパイクを放つ炯の動作はどこか事務的だ。
    「だからと言って手加減はする気はない。人に迷惑をかけている以上……反省はしてもらわないといけないからな」
     翼は荒療治が必要と制約の弾丸を撃ち込み、魅々の足を鈍らせる。
    「これだけ食らってるのに流石に動きが速いね! でもスピードなら私も負けないんだよ!」
     息を切らす魅々へ、蛍姫が感心したように声をかける。
    「立派なくの一になれるよう努力したもん!」
     自慢げに胸を張った魅々が、ここは一つ回復しようと胸元から小石ほどの丸薬を取り出す。
    「……うぇっ、まず!」
    「いっけー!」
     よほどひどい味なのかえずいている魅々に、蛍姫はユニコーンの形へ変化させた影業を差し向ける。
    「きゃーっ、そんなの入んないからぁ!」
    「どこにだよ!」
     角の部分に刺され、跳ね回る魅々を周がツッコみながら叩き落としている間に、マリアと霊犬は負傷した仲間を清めの風や浄霊眼で癒していく。
     隙を突いた刻がDESアシッドを飛ばすと、液体を振りかけられた魅々の忍装束が一部溶けていくではないか。
    「何すんのよっ」
    「あ、いや……そういうつもりは」
     そこに黒鉄の乙女が近づいて行き、衣服の溶けた部分を隠そうとするように魅々をドレスで覆ってやる。
    「あ、ありが……って痛ーっ!?」
     ドレスにはトゲがあり、しかも至近距離から霊撃を食らって悶絶する魅々。
    「ああ……母さん……」
     こうなっては止められないと、刻はため息をつきながら黒鉄の乙女と追い回される魅々を見守るほかなかった。
     どうにか包囲を突破しようと魅々が目をつけたのは、いやに間合いを開いて消極的な翼。
    「うわ、こっちに来た……!」
     一心不乱に突撃する魅々の服のところどころからもう色々見えそうで、翼は慌てて迎撃するので手一杯。
     ティアーズリッパーで斬り裂くものの、余計に魅々の露出が激しくなり目のやり場に困る。
    「これでも食らいなさいーっ!」
    「甘いよ!」
     ふらつく足取りで魅々が手裏剣を投げるが、目標の蛍姫は公園の木々をじぐざぐに疾走しながらことごとく回避。
    「あなたの負けです」
     そこへ駆けつけた炯とアルクレインが連携して攻撃を見舞っていくが、魅々は倒れない。
    「す、すれいやーなんかに……ぜったいまけない……」
    「これで観念しな!」
     背後へ回り込んだ周が強めに魅々をどつく。いわゆる手加減攻撃だが、そこでやっと魅々はばったりと倒れたのである。
    「やったね!」
     灼滅せず昏倒させるだけで済んだ戦果に、蛍姫は全身で喜びを表現するみたいにみんなと次々、あるいはちょっと強引にハイタッチしていくのだった。


    「……これで、いい」
    「風邪ひくと困るだろうしなー」
     戦いが終わり、一般人に戻った女の子達へマリアと周が替えの服を渡していく。
     意識はありちゃんと受け答えもできるため家に帰らせ、それから正座させられている魅々へ振り返る。
    「素材とかはいいけどそれ活かすにはルール守るのが大事だぞ。会場は舞台、その上ではハジけ過ぎないようにしないとな!」
    「楽しむのは、良いけど……騒ぎすぎて、迷惑掛けたら、駄目」
     そんな風に二人はたしなめるも、魅々はふんっと顔を逸らして聞く耳持たず。
     するとマリアは膝を折って魅々と目線を合わせ、子供を叱るように無表情のまま淡々と説いたものである。
    「次、やったら……お尻、ぺんぺん」
     ……手を鬼神化させながら。
    「ひっ……そんなので叩いたら破裂しちゃうよ!」
    「別に殺す気は無いですが……一般人に危害を加えた暁には次は容赦しません。肝に銘じておくことです」
    「め、銘じる、銘じるからぺんぺんやめて!」
     炯も手をひらひらさせながら言って聞かせると、魅々は震え上がってこくこく頷く。
    「イベントを楽しもうとするのは、いいんだ。でもね、周りに迷惑をかけるのはダメだよ?」
    「かけない、かけないからそっちの人どっかにやって!」
     刻も近づいて説得するが、それ以上に魅々はその側に控える黒鉄の乙女がにやにや笑っているのに恐れをなしているらしく、集気法で回復してあげても気づいていない。
    「ちょっと度が過ぎたんじゃないかな? 反省してるならそれでいいよ! 酷い事してごめんね!」
    「ホントごめんなさーい!」
     蛍姫が慰めるように言うと、これ幸いと魅々は下手に出ながら頭を下げる。
    「ああは言いましたが、僕個人としては楽しかったですよ。もし良ければ、また遊んでください。あ、一般人は巻き込まないように」
     ジェフが連絡先を渡すと、反省した様子の魅々は素直に受け取り、とぼとぼと数歩歩き出したかと思うと。
    「……次はもっとめろめろになっちゃうくらいの忍者コス作るから、覚えといてね!」
     満面の笑顔で振り返って宣言し、颯爽と走り去る。
     こちらの言葉が届いたのかは分からないが、当分は大人しくしているだろう。
     少なくともあの微笑みに邪気はなかったと、灼滅者達は思ったのだった。

    作者:霧柄頼道 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2015年12月21日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
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