新年あけまして羅刹ッ!

    作者:霧柄頼道

     身を切るような寒さの夜。新年に賑わい冷めやらぬ町を、黒塗りのバンが走っていた。
     明らかに制限速度を超過したスピードで目の前の車を無理矢理追い越し、時には歩道へ乗り上げんばかりの乱暴な運転で突き進み、やがて目前に迫る銀行へそのまま突入する。
     ドアが吹き飛び窓ガラスは弾け、忙しなく行き交っていた客達を轢き潰し、大きくドリフトしたバンが止まると、中から銃火器を手にした二人の男が現れる。
    「おら、金を出せ! ありったけだ!」
     恐怖に立ちすくむ銀行員達を怒鳴りつけ、男達はマシンガンやバズーカをやたらめったらにぶっ放し始めた。
    「ひゃはははは! 早く出さねぇと建物ごとぶっ壊しちまうぜ!」
     たちまち大混乱に陥る銀行内を闊歩し、銀行員を急かして大金を用意させる。
    「新年からお疲れ様でーす、ってか?」
    「これだよ、これ! 俺達がやりたかったのはこれなんだよッ!」
     二人は顔を見合わせ、げらげらと笑う。
     男達は『人を襲うな、傷つけるな』という天海大僧正の命令を破り破門された羅刹、殴刹(おうせつ)と轢刹(れきせつ)。
     力を蓄え、人々が集う年始めの瞬間を狙い、こうして暴れ回っているのだ。
    「このままで終わる俺達じゃねぇ、安土城怪人側についてお礼参りさせてもらうぜ!」
    「これだけ暴れてりゃ、いずれ向こうからスカウトに来るだろうしな!」
     二人はさらにバンを走らせ、警察署やヤクザの事務所があるビルを次々と襲撃する。
     全ては大手を振って悪事を働くため。解き放たれた二鬼を止めるものは誰もいなかった。
     
    「もう初詣や大掃除は済ませたか? みんな忙しいのは分かっているが、ダークネスは待っちゃくれないようだぜ」
     神崎・ヤマト(中学生エクスブレイン・dn0002)が、集まって来た灼滅者達に事件の発生を告げる。
    「闇堕ちした刺青羅刹の『依』から学園に連絡が入った。天海大僧正は『人間の殺害の禁止』『人間を苦しめる行為の禁止』『灼滅者と遭遇時は戦わずに逃走する事』という命令を配下に出したんだが、不満に思った粗暴な羅刹達が天海大僧正勢力を破門され、離反しちまった」
     しかも彼らは安土城怪人側に寝返っている。安土城怪人勢力のさらなる強化や破門された羅刹達の凶行を防ぐためにも力を貸してくれ、とヤマトは言う。
    「相手取る事になる羅刹達は殴刹と轢刹。二人は二階建ての安アパートに住んでるが、夜からまた町を襲撃する予定だ」
     アパートは老年に差し掛かった大家以外全ての住人が追い出され、実質殴刹と轢刹のみのアジトとなっている。
     大家は二人に捕まっているも同然で、人質にされる危険もあった。
    「大家さんはもう歳だし、一人じゃとても逃げられそうにねぇ。だが、付けいる隙はある」
     夕方頃、十分ほど二人が別行動する時間帯がある。別れている間にどちらか一方を倒したりと、戦略を工夫する事でずいぶん楽になるはずだ。
    「轢刹は駐車場で武器の点検を行ったりタバコを吸ったりと適当に時間を潰している。殴刹は食料を買いに近くのコンビニまで向かう。こっちは人目につかない裏路地を往復するから仕掛ける場所には事欠かないはずだ」
     戦闘になった場合二人は積極的にもう片方のパートナーと合流するべく動き、逃亡もためらわない。
    「小細工なしで二人そろっている時に真正面から挑むのもありだが、危険も相応に伴うだろうな。どのように戦うかはお前達に任せるぜ」
     灼滅者達が頷くのを見て、ヤマトは敵戦力の詳細な説明に入る。
    「殴刹は格闘系サイキックを中心に使う。単独行動の時はディフェンダーだが、轢刹といるとクラッシャーへ変更するぜ」
     轢刹は銃による攻撃が主で、ポジションはスナイパーと、コンビで遠近を補完する戦闘スタイルだ。
    「大家さんに平和なアパートを返してやりたいし、安土城怪人勢力との戦争も控えてる。憂いを断つためにも、ここで確実に羅刹達を灼滅していってくれ!」


    参加者
    聖刀・凛凛虎(不死身の暴君・d02654)
    迅瀬・郁(陽だまりの詩・d03441)
    室崎・のぞみ(世間知らずな神薙使い・d03790)
    聖刀・忍魔(雨が滴る黒き正義・d11863)
    夜科・悠里(悠久の魔女・d18775)
    風輪・優歌(ウェスタの乙女・d20897)
    クラリス・カリムノ(導かれたお嬢様・d29571)
    切羽・村正(唯一つ残った刀・d29963)

    ■リプレイ


     静かな夜だ。嵐の前の静けさとでもいうべきか。
     駐車場にはバンの側でタバコを吸う轢刹の姿。ライフルを杖のように抱え、こつこつと地面を叩きながら殴刹の帰りを待っている。
     気づかれていないのを確認し、迅瀬・郁(陽だまりの詩・d03441)はウサギに変身。アパートの裏から回り込みつつ、慎重に大家さんのいる角部屋へ向かって行く。
     羅刹達がいつでも踏み込めるようになっているためか、窓やドアには鍵がかかっていなかった。腕を器用に使って窓を開き、するりと身体を忍び込ませる。
    「う、ウサギ……?」
     テーブルの前で座り込んでいた大家さんと目が合う。
    「初めまして、迅瀬郁といいます。あなたを助けに来ました!」
     変身を解いて郁が言うと、大家さんは驚きのあまり固まってしまっている。
    「大家さんを安全な所まで送り届けます。どうか信じて着いて来て下さい」
    「ひえぇ」
     信じるも何も、無力な大家さんには抵抗などという選択肢はない。郁は大家さんをおぶってドアをそっと開き、警戒しながら外へ出る。
     途中、遠ざかる轢刹の背中へちらりと目をやり。
    (元は同じ人間とはいえ、傷付く人が出てしまう以上、悪事を働かせる訳にはいかないよね……。申し訳ないけど、俺たちの手で灼滅させてもらうよ!)
     後で合流するまで仲間に任せ、急いで大家さんを安全な場所へと運ぶのだった。

    「新年早々、厄介な羅刹が出ましたね。人々が怯えている、それは放ってはおけません。かならず助けてあげましょう」
     郁がアパートへ侵入している一方、夜科・悠里(悠久の魔女・d18775)達灼滅者は正面側へ集まり、轢刹の姿を捉えていた。
    「ずいぶんと好き勝手する羅刹ね……絶対に見逃しておけないわ……。多くの人達の為にもここで倒さなきゃ……!」
     ナノナノのドリームメアを連れ、クラリス・カリムノ(導かれたお嬢様・d29571)もいつでも準備はオーケーと、意気は十分のようだ。
    「出て来ましたね。気取られていないみたいですし、うまくいっているようです」
     アパートのドアが開かれるのを目にし、室崎・のぞみ(世間知らずな神薙使い・d03790)が少し安心したように息を吐く。
    「ああ、余計な茶茶が入ってもらっちゃ困るからな、頼むぜ……」
     切羽・村正(唯一つ残った刀・d29963)が闇の中へ紛れていく二人を見届け、そっと妖刀「鬼継礼羽」に手をかけた。
    「では、始めましょうか」
     風輪・優歌(ウェスタの乙女・d20897)がサウンドシャッターを使用。殴刹に察知されないよう、周辺の音を遮断する。
    「轢刹だな?」
     聖刀・忍魔(雨が滴る黒き正義・d11863)達が轢刹の前へ飛び出すと、相手は目を見開く。
    「てめぇら……灼滅者か?」
     さすがに組織に所属していた羅刹か、こちらの正体を即座に見抜き銃口を向けて来た。「お前はどういう終わり方をしたい?」
     けれど聖刀・凛凛虎(不死身の暴君・d02654)は動じず、大剣を担いで不敵な笑みを浮かべる。
    「……まぁ、虫の様に死んで逝くんじゃなく、塵の様に死ぬんだがな」


    「抜かせ!」
     轢刹がためらいなく引き金を引き、暴れ狂う光線を発射して来た。
    「来いよ。貴様の命の炎の煌きを見せろ!」
     幾重もの鞭のように薙ぎ払われる光条のただ中を大剣でガードしながら凛凛虎が駆け抜け、真っ向から轢刹を斬りつけた。
    「ぐ……!」
     その背後から迫った優歌がしなやかな動きで蹴り飛ばし、着地しながら仲間達へ声をかける。
    「皆さん、包囲をお願いします」
    「ここでお前の自由は絶たれる。覚悟しろ」
     距離を取ろうとする轢刹へすぐさま追いつき、忍魔のフォースブレイクが脇腹へ叩き込まれた。
    「ぐぁっ!」
    「行くわよ……メア、しっかりとお願いね……」
     爆発が炸裂し、轢刹がよろめいている隙にクラリスがナイフを片手にドリームメアへ頷きかけて。
    「さぁ、行きましょう……」
     夜霧隠れを展開。先ほど光線による被害を受けた前衛を治癒するとともに、ドリームメアが接近しながら轢刹へしゃぼん玉を浴びせていく。
    「くそがぁ!」
    「仲間は私が守ります……誰も傷つけさせませんし、私も倒れたりしませんよ……」
     いらだちまぎれに轢刹がガトリングガンを構えると、軽やかに接近したのぞみがその顔面へリングスラッシャーを直撃させ、出鼻をくじく形で大きくのけぞらせた。
    「鬼相手なら情けも容赦も必要ねェな……地獄に送り返してやるよ」
     吐き捨てた村正がおもむろに抜刀した途端、みるみる髪が白くなり顔はガラスのようにひび割れ、鬼の形相を作り上げていく。
    「おおおォォォッ!」
     咆哮し、紅に染まった瞳で轢刹を睨み肉薄。異形化させた腕を振りかぶって思い切り殴りつける。
    「この程度で、俺が倒れるとでも……!」
    「新年早々暴れているみたいですね、私のこの攻撃で報いを受けなさい」
     足下がふらつく轢刹へ、咎人の大鎌を手元でくるくると回した悠里がその切っ先から風の刃を飛ばし、確実にダウンを取っていた。
    「ごめん、お待たせ!」
     戦闘開始から三分が経過した頃、大家さんの避難を終えた郁が戦線へと戻って来た。
    「殴刹に見つかるかも知れなかったから、少し時間かかっちゃって」
     留守にしていた分働くよ、と郁が癒しの光で銃弾に傷ついた仲間達を回復させていく。
    「仲間がいやがったのか、くだらねぇ真似を……!」
    「お前の相棒もさぞ面白いのだろうな?」
     舌打ちする轢刹の隙を突き、にやりと笑った凛凛虎が強烈な抗雷撃で突き上げる。
    「相棒もお前と一緒の所に送ってやる」
     間髪入れず忍魔が斬撃を食らわせ、足の浮いた轢刹を吹っ飛ばす。
     吹っ飛ばされた先にはバンがあり、轢刹は弱々しく立ち上がりながらそちらへ向かおうとしていた。
    「天海大僧正の『灼滅者からは逃げろ』という命の正しさがやっとわかったでしょう」
     だがそこへ、優歌の言葉が追いかける。
    「でも、どんなにぶざまにあがいても、もう逃亡を許しはしませんけれど」
    「何ィ……!?」
     轢刹が振り返った瞬間、優歌は集束させたオーラキャノンをその背後の車へ撃ち込み、ばかでかい風穴を開けて見せた。
    「これでもう、逃げられませんね」
     動揺する轢刹を見逃さず、悠里がレイザースラストを射出し、相手をその場へ縫い付ける。
    「逃がすと思ってンのか? てめェはここで死ぬンだよ」
     立て続けに近づいた村正が素早く轢刹を切り刻み、ついに後一歩のところまで追い詰めた。
    「ふざけるなァッ!」
     しかし轢刹は最後の力で光線を乱射し、少しでも灼滅者の体力を削ろうとする。
     するとのぞみが躍り出るや、無数の帯を舞うように広げて味方への攻撃を防いで見せた。
    「初めて使ったのですが……体が覚えてるのかしら?」
    「あなた達の好き勝手もここまでよ……!」
     クラリスとドリームメアの二人で深手を負いつつある村正の傷を可能な限りふさぎ、頑張ってと激励の言葉をかけていく。
     それに対して軽く腕を上げて応じながら、村正はつかつかと轢刹へ歩み寄った。
    「ぐ……くそが……!」
    「どうしたよ、これで終わりかァ? ――つまンねェ……じゃあな」
     使用すれば凄まじい激痛がその身を襲う妖刀を躊躇なく握り込み無造作に一閃。
     次の刹那には、轢刹の身体は左右に一刀両断され果てているのだった。


    「何とかなったわね……」
    「殴刹を探しに行く前に回復しとくね」
     一息つくクラリスと郁の二人が、負傷した仲間を癒すためサイキックを使った、その矢先。
    「おいおい……なんの冗談だ、こりゃあ……?」
     灼滅者達の前に、もう一人の羅刹、殴刹が姿を見せたのだ。
    「もう1体が来たわよ、気をつけて……っ!」
     注意を呼びかけるクラリスを守るように、凛凛虎と忍魔が殴刹と対峙する。
    「戻ってきたか。お前も掛かって来いよ」
    「殴刹、次は貴様だ」
    「……あー……大体事情は分かったわ。……とりあえずお前ら――死ね」
     大穴の空いたバン。散乱した武器類を見て何が起こったのか理解したのだろう。殴刹は缶ビールの詰め込まれた袋を投げ捨て、総身に殺気を纏わせていく。
     かと思えば次の瞬間、殴刹はすでにこちらとの間合いを詰めていた。
    「おらァッ!」
     殺意の籠った拳撃がのぞみを狙う。
     けれどのぞみはそれ以上のスピードで全身を回転させ、殴刹の腕へ裂傷を与えながら退けていた。
    「……へぇ。やるじゃねぇか」
    「聞きたい事があります」
     それでも受け流しきれなかった威力に眉をひそめつつ、のぞみが口を開く。
    「もし破門させられなくても、実際あなた達は天海大僧正の元を離れるつもりだったんじゃないんですか?」
    「破門されようがされまいが、俺達は俺達のやりたいようにやるんだよッ!」
     殴刹が突っ込んでくる。灼滅者達は互いにフォローし合いながら暴力の嵐に対応し、的確に反撃を加えていった。
    「癒しを皆さんへ……」
     とはいえ次第に回復の手が足りなくなり、悠里がピンチヒッターで清めの風を吹き抜けさせる。
    「あなたも逃がすつもりはありませんよ」
     バッドステータスがほぼなくなり、攻勢に出る優歌。
     ウロボロスブレイドを伸ばし、殴刹の足へ巻き付けて機動力を封殺する。
    「貴様の相棒の悲鳴を最初から聞かせたかったぜ!」
     凛凛虎は動けない殴刹の懐へ飛び込むと拳打を容赦なく何度も打ち込む。
    「来い、俺の持つ全てで叩き伏せてやる!」
     その後ろから忍魔が跳躍しながら大上段に斬り落とし、さらに刃を引いてこれでもかと痛苦を与えた。
    「メア、室崎さんの回復をお願い……!」
     ドリームメアに指示を出しつつ、クラリスも懸命に癒しの矢を放ち続ける。殴刹の一撃は重く、轢刹戦との連続もあってかこちらにももう余裕はないのだ。
    「食らいやがれェ!」
     捕縛から逃れた殴刹へ、村正が妖刀の切っ先をかざす。すると刀の影がうごめき、猛烈な速度で敵の背を貫いていた。
    「がはッ……!」
     傷だらけの殴刹は、攻撃も消極的にじりじりと灼滅者達から離れようとしていた。
    「いけない、逃げようとしてるよ!」
     敵の動きから逃走を読み取った郁が、セイクリッドウインドを行使しつつ警告する。
     ここで逃がすのは新たな事件の引き金となるのはもちろん、大家さんが報復される危険性もあるのだ。
     その時、忍魔の放った轟雷が殴刹の死角からぶち込まれ、膝を突かせる。その間に灼滅者達が再び包囲網を作り出していた。
    「いつもは半端者と笑いながら、危なくなると逃げる。半端者より半端者だな」
    「……なんだと?」
     殴刹が、ゆらゆらと立ち上がる。
    「……せっかく見逃してやろうってのに気が変わったぜ。てめぇらまとめてぶっ殺してやらァ!」
    「いいえ。私達は負けません……犠牲になった人々のためにも、これからのためにも」
     悠里が構えを崩さないまま首を振ると、殴刹が怒髪天を突く。もはや逃亡の気配はどこにもなかった。
     決着の時は近い。


     なおも殴刹との攻防は続き、両者のダメージは蓄積していく。
     しかし長期戦となったここに来て、優歌、そしてクラリスの頑張りが目に見えて現れてきたのだ。
     地道にバッドステータスを付与し、味方へは能力向上に努める。キュア、ブレイクされながらも積み上げて来たそれらが、ようやく戦況を灼滅者側へ優位に傾けさせたのである。
    「風輪さん、もう少しだから耐えて……!」
     クラリスが優歌をダイダロスベルトで覆って補強し、ドリームメアと手分けして回復し続ける。
    「ええ、終わらせましょう」
     そうして優歌の斧が殴刹を捉え、したたかにはじき飛ばしていた。
    「死ねやァッ!」
     体勢を立て直した殴刹はのぞみめがけて拳を振るう。
    「くっ……」
     こちらも体力を奪われ、思うように回避できない。
     受けざるを得ないかと覚悟した時、凛凛虎が大剣を掲げ、殴刹の打撃を押しとどめながら割り込んできたのだ。
    「ありがとうございます……!」
     のぞみが小光輪を呼び出し、凛凛虎への盾とする。
    「おう。お互い様ってな」
     おかげで体当たり気味に殴刹を後退させられ、凛凛虎はにこっと笑みを返した。
    「ちぃっ、どれだけしぶてぇんだてめぇらは……!」
    「それはこっちのセリフだろォが!」
     怒号する殴刹へ、鬼気迫る表情で村正が距離を詰めてほとんど零距離から神薙刃を叩きつけていく。
    「ぐおおおお……!」
    「地獄で後悔しな!」
     勢いと気迫だけで殴刹を押し返すも、村正とて限界が近い。前衛の誰か、後一撃でももらえば倒れるのは間違いなかった。
    「どいつでも構わねぇ、まず一人ぶっ殺して……!」
    「させません」
     駆け出そうとする殴刹の腕を、悠里の差し向けた帯が正確な軌道を描いて刺し貫く。
    「今ならいける!」
     好機と悟った郁が、治癒をもたらす光を放射。
     助かる、とその恩恵を受けて力を取り戻した忍魔が、得物を手に走り出す。
    「凛凛虎、合わせるぞ!」
    「おう!」
     フォースブレイクを深々と殴刹の胴体へ突き入れ、蹴り上げて浮き上がらせる。
     すると同じようにジャンプしていた凛凛虎が殴刹を捕まえ、中空から激烈な衝撃をもって叩き落としていた。
    「鬼の型合わせ、痛かろう?」
    「鬼の型に慈悲は無いぜ?」
     直後に殴刹が爆発し、木っ端微塵に。羅刹との死闘は、灼滅者達が制したのである。

    「こんにちは、さっきは突然すみませんでした」
     ひとしきり仲間達と勝利の喜びを分かち合った後、郁と悠里は大家さんを部屋まで送り届けていた。
    「あの二人は居なくなったので、もう大丈夫ですよ」
    「これからは平穏に過ごせますね」
     二人の安心させるような微笑みに、大家さんはもう怯えなくてもいいのだという事を徐々に理解してくれたようだ。
    「そうかね……それは、ありがたい事だ」
     何より、二人の誠意ある言葉や行動に信じてもいいと思えたらしい。三人は打ち解けたように、それから他愛のない話をしていくのだった。

    「かなり散らかってますね……」
     その頃、優歌は羅刹達が根城にしていた部屋を訪れ、捜索を行っていた。
     雑多に転がる武器や、鞄へ乱雑に押し込まれた札束。それらをてきぱきと回収していく。 羅刹達は安土城怪人勢力と合流するために派手に振舞っていた。もしかしたら注意をひかれた安土城怪人の配下がここに来るかもしれない。
     ならば勢力拡大に使われる事を防ぐためにも後始末は必要だ。学園に申請すれば悪いようにはしないだろう。

    「手強い相手だったわね……大分疲れたわ……」
    「さすがは元天海大僧正勢力でしたね……」
     駐車場ではクラリスや悠里達が休憩を取っていた。
    「ですが私達武蔵坂学園にはこの後、さらなる大きな戦いが待っています」
     と、のぞみは各勢力の思惑について思考を巡らせながら言う。
    「まだまだ退治する鬼には事欠かない、って訳か……」
     通常状態に戻った村正も禍々しい気配を放つ妖刀を眺め、呟く。
    「安土怪人と決着を着けないとな……」
    「俺の敵は全て倒すだけだ」
     忍魔と凛凛虎はやがて来る戦争へ思いを馳せ、静かに夜空を見上げるのだった。

    作者:霧柄頼道 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2016年1月15日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
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