伏見城の戦い~烽火、天に連なる

    作者:西東西


     京都府伏見区。
     築城された『伏見城』の城壁には様々なペナントがたなびき、城に集った者たちがいかなるダークネスであるかを伝えていた。
     名産品のペナントを掲げるのは、日本各地の『ご当地怪人』たち。
     鬼の絵や、画数の多い漢字のペナントは、天海大僧正勢力から離脱した『羅刹』たち。
     鎧や武器のペナントを掲げるのは、鎧武者の『アンデッド』たち。
     数多くのペナント怪人と、そのペナント怪人を生産する正社員待遇の『レプラコーン』たち。
     そして城内では、『いけないナース』たちもサービスを行っているようだ。
     頑強な城に、種族をこえた大部隊。
     もはや自分たちの勝利は間違いないものと、安土城怪人勢力の士気は上がるばかり。

     そんななか、武者アンデッド・左内紋十郎(さない・もんじゅうろう)の率いる鎧武者部隊は、静かに状況を見守っていた。
    『これでは、天海の軍勢などひとたまりもなかろう』
    『我らが手を貸さずとも、主のもとで吉報を待てば良いものを』
     同行する武者たちが髑髏の奥でカラカラと嗤うのをよそに、左内は泰然と答える。
    『「白ノ王」は先の戦で御助力くださった盟友。その王のためにも、早急に畿内を制圧することが、我らの御恩返しとなろう』
     いかなる戦場であろうとも、全力をもって己の責務を果たす。
     それが主君への忠義を示すとともに、己を磨くことにも繋がるのだと続け、左内はひとり、城外の空を見やった。
     

    「安土城怪人との決戦準備を行っていた、天海大僧正の勢力から連絡が入った」
     教室に集まった灼滅者たちを前に、一夜崎・一夜(大学生エクスブレイン・dn0023)が開口一番、そう告げる。
    「決戦準備が整う前に安土城怪人が侵攻を開始し、京都周辺に攻め寄せてきたらしい。そのうえ、怪人勢力は京都の伏見区に城を築き、戦力増強に努めているそうだ」
     城に集った者たちの士気は高く、このままでは天海大僧正の勢力が壊滅しかねない。
     連絡によると、天海大僧正は『全力で伏見城を攻略し、攻略成功と同時に琵琶湖の敵拠点に攻めこむ作戦』を行うという。
     敵が「伏見城」と「琵琶湖の拠点」に戦力を分けたため、各個撃破する好機という見立てのようだ。
    「つまり、伏見城の攻略は天海勢力が行うので、城の攻略に成功した後、武蔵坂学園には琵琶湖攻めの助力を願いたいというのが、今回の要請内容だ」
     
     伏見城へは、天海軍の精鋭である『スサノオ壬生狼組』が投入されるという。
     しかし、おそらく。
     伏見城は攻略できても、スサノオ壬生狼組は壊滅。
     伏見城から撤退した怪人勢力の残存兵は、琵琶湖に向かって合流するという結果に終わるだろう。
    「天海の要請をそのまま受け取るのであれば、最初から戦いに助力する必要はない。だが、ここで手を貸し、脱出する敵を減らすことができれば、その結果が琵琶湖の戦いで有利に働く可能性は高い」
     武蔵坂の助力によって壬生狼組が生き残れば、琵琶湖の決戦に援軍として参戦することもありえるのだ。
     いずれ起こる琵琶湖での決戦を考えるなら、ここでの助力は十分な益がある。
    「どこまで手を貸すかは、現場に赴く者たちの判断に任せる。よく検討して、作戦方針を決めてほしい」
     
     出現する敵は、これまでにも何度か灼滅者と対峙してきた武者アンデッド、『左内紋十郎(さない・もんじゅうろう)』が率いる鎧武者部隊。
     壬生狼組と一緒に戦う場合も、撤退する所を襲撃する場合も、この部隊と戦闘になる。
     部隊は左内紋十郎と、同行の武者アンデッド5体の計6体で編成されており、6体ともダークネス級の戦闘力を保有。
     左内紋十郎は体力が高く、沈着冷静で、機知に富む。
     同行する武者アンデッドたちも、練度の高い精鋭ぞろい。
     連携による無駄のない戦術と、戦況に応じた柔軟な対応を行うため、一辺倒の戦い方では逆に切り崩されるおそれがある。
     なお壬生狼たちは、全滅するまでに敵を半分まで減らすだけの戦力を有している。
     よって、撤退する所を襲撃する場合は、部隊の戦力は半減状態。
     途中で救援する場合は、タイミングによって敵戦力が変わることになる。
    「それから、もう一点。伏見城の中で戦う場合、敵の戦闘力は10%程度、上昇するとみられている」
     しかしこの特殊効果は、だれかが天守閣の制圧に成功すれば消滅させることができる。
     また、城に攻め込み素早く敵を撃破し、さらに余力があった場合は、レプラコーンやいけないナースなど、非戦闘要員のダークネスを灼滅することもできるかもしれない。
     いずれにせよ、城内は激戦となる。
     踏みこむと決めた場合は、相応の対策と覚悟をもって臨む必要があるだろう。
     
     繰りかえしになるが、今回の天海大僧正の要請は『伏見城を落とした後の、琵琶湖の拠点攻めを手伝ってほしい』というものだ。
    「ゆえに、今回の戦いで壬生狼たちを無理に救出する必要はない。まずはきみたちの安全と、琵琶湖の拠点へ敵勢力を合流させないことを優先してほしい」
     そう告げ、エクスブレインは深く、頭をさげた。


    参加者
    朝山・千巻(懺悔リコリス・d00396)
    喜屋武・波琉那(淫魔の踊り子・d01788)
    住矢・慧樹(クロスファイア・d04132)
    華槻・灯倭(月灯りの雪華・d06983)
    アルディマ・アルシャーヴィン(リェーズヴィエ・d22426)
    宮儀・陽坐(餃子を愛する宮っ子・d30203)
    若桜・和弥(山桜花・d31076)
    茶倉・紫月(影縫い・d35017)

    ■リプレイ


     城攻めの直前。
     8人は同行する壬生狼の隊士たちへ、こちらの意思を伝えるべく声をかけた。
    「ねぇねぇ、私達も楽しそうなパーティに混ぜてよ!」
     明るく呼びかけた喜屋武・波琉那(淫魔の踊り子・d01788)だったが、声に振り返った壬生狼たちの眼光は鋭く、睨めつけるばかり。
    「私たちの作戦と行動方針を、お教えします」
    「今は、盟約のうえでの同志だからな」
    「補いあって、互いを長く生かした方がお得かと」
     朝山・千巻(懺悔リコリス・d00396)、住矢・慧樹(クロスファイア・d04132)、宮儀・陽坐(餃子を愛する宮っ子・d30203)の3人も言葉を重ねようとするも、
    「同志?」
     フンと鼻を鳴らし、壬生狼たちが牙をむく。
    「貴様の言う通り、『今は』戦場を同じくするだけのこと」
    「笑わせる。見もしない敵を相手に、作戦も糞もあるものか」
     出てきた敵は残らず斬り伏せれば良いと豪語する壬生狼たちを前に、灼滅者たちが、はっと口をつぐむ。
     当たり前のことになりすぎて、忘れがちだが。
     灼滅者たちが事前に綿密な作戦をたてられるのは、エクスブレインの予測情報があるからだ。
     いくら未来にこういう敵とまみえると説いたところで、ダークネスにしてみればなんの裏付けもない話でしかない。
    「まあ、信用できない奴に、誰が背を預けられるかって話よね」
     壬生狼たちの意見に理解を示したうえで、若桜・和弥(山桜花・d31076)も、極力連携をして欲しいと願い出る。
     茶倉・紫月(影縫い・d35017)はひとり居心地の悪さを感じながら、交渉する仲間たちを見ていた。
    (「俺は裏切ったと思うのも、思われるのも……面倒だ」)
     だから期待も信頼も、持ちたくない。
     持たれたくもない。
    「肩を並べる以上は手を抜かないと誓おう。他ならぬ私自身の誇りにな」
     アルディマ・アルシャーヴィン(リェーズヴィエ・d22426)の言葉に、「当然だ」と言い捨て、隊士たちが抜刀する。
     同行は承知した。
     しかし邪魔になるならば斬り捨てると吐き、次々と城へ向かい駆けていく。
     華槻・灯倭(月灯りの雪華・d06983)は今後の事も考え、できれば壬生狼たちと交流を図りたいと考えていた。
     しかしあの様子では、「仲良く」するのは無理そうだ。
     それでも、全力を尽くして助けられるものなら助けたいと、思った。
     そのために、ここに居るのだから。
    「行こう」
     こちらの意思を伝えた以上、遅れをとるわけにはいかない。
     和弥は眼前で両拳を撃ちあわせ、手指に伝わる痛みをその身に叩きこむ。
     続く7人も決意と武器を手に、壬生狼組に続いて伏見城へと踏みこんだ。


     城へ入るなり、現れたのは大量のペナント怪人たちだった。
     それを先行く壬生狼たちが次々と斬り伏せ、羽織と回廊を血に染めながら突き進んでいく。
     このまま天守閣まで攻められればと、勢いづいた時だ。
    『怪人たちよ、退くがいい』
     回廊に現れたのは、見あげるほどの体躯に甲冑をまとった武者アンデッド、左内・紋十郎。
     同じく甲冑姿の武者アンデッド5体を引き連れ、行く手を阻んでいる。
    「左内殿! 恩に着るペナ!」
    「今のうちに皆に知らせるペナ!」
     命拾いした怪人たちは武者アンデッドたちの脇をすり抜け、天守閣へと向かい、逃げていく。
    「逃すか――!」
     壬生狼の1体がすかさず白刃を閃かせるも、
    『ここは、我らが任された』
     左内が身の丈ほどの大槍を回転させ、嵐の如き勢いで突撃を仕掛ける。
     灼滅者たちへの攻撃はライドキャリバー『ぶんぶん丸』、霊犬『一惺』が受け止めたが、怒りにかられた壬生狼数体が左内へ剣を向けたところへ、
    『鬼飼いの狗ども』
    『逃れられぬは、貴様らの方よ』
     回廊に撃ちこまれた杭の振動波に続き、飛来する小刀に貫かれ、次々と膝をつく。
     千巻は急ぎ黄の交通標識を掲げ、
    「支援するよぉ!」
     威勢よく、一声。
     灼滅者と壬生狼を含めた後衛へ、枷への耐性を施す。
     敵も戦術を練ってきている。
     陽坐は迷ったすえ、これが最後と口を開いた。
    「剣と帯を持ってるやつから狙ってください!」
     陽坐が浄化の光を、霊犬『ピース』が浄霊眼を施し、我を忘れた壬生狼たちの眼を覚まさせていく。
     壬生狼たちは支援に気づきこそすれ、礼を告げるでなく、戦意の赴くままに戦闘を続けた。
     しかしその攻撃先は、陽坐が提案した先へと変化していて。
     慧樹はその微かな変化に口の端をもたげ、自らも集中させたオーラを撃ちはなつ。
     しかし。
    『潰せ』
     光は左内によって阻まれ、声に応えた槌の激震と帯の乱舞が、壬生狼と灼滅者たちの自由を奪った。
     ――三度目の邂逅となる、左内。
    「よう、会いにきたぜ!」
     慧樹が声を掛けるも、答えは返らず。
     波琉那はサーヴァントたちと共に仲間への攻撃を肩代わりした後、状況を鑑み、浄化の旋律を奏でた。
    「なるべく犠牲を出さないように、がんばらないとね……!」
     足止めを受けていた仲間たちが、次々と枷から解放されていく。
    「私も、負けてはいられないな」
     敵の動きを見据えながら、アルディマも剣を閃かせ、同じく剣持つ武者を引き裂く。
     陽坐の声がなくとも、武者アンデッドたちは灼滅者の動きを読み、警戒していた。
     ゆえにいくらかの攻撃は左内に阻まれたが、壬生狼と灼滅者の集中攻撃を受けた剣の武者は早々に膝をつき、灰塵となって消滅。
     紫月は蝋燭を掲げ、事前に決めたとおり帯使いめがけ、炎の花を飛ばす。
     赤黒く染まった血濡れの帯に炎が燃え広がるも、壬生狼と灼滅者を狙わんと、さらに戦場を乱れ舞う。
    「まさか、どっちも後衛とはね」
     手持ちの技では届かぬと判じた和弥と灯倭は、攻撃の先を次点の目標、壁役である左内へと定めた。
     捻りを加え繰りだした和弥の槍は、回避を試みた左内の腕をかろうじて捉え。
     続く灯倭が雪のように白く軽やかなエアシューズで回廊を駆け、炎をまとった蹴りをはなつ。
    (「次に繋げるためにも、いま私にできることを、精一杯やりたい……!」)
     脚は左内の胴をしかと捉え、青白い骨身甲冑に赤い炎が燃えうつる。
     敵は、徹底的にこちらの足止めを行うつもりであるらしい。
     しかし、壬生狼たちが益のある提案とあれば灼滅者たちの声に添い攻撃を仕掛けはじめたことで、立ちまわりの効率は格段にあがっていた。
     対する武者アンデッドたちも連携を駆使して猛攻を仕掛けたが、壬生狼と灼滅者による集中攻撃と、手厚い護りと回復に阻まれ、思うように傷を蓄積させることができない。
    『易々とは倒れぬか』
     感心したようすの左内の言葉に、祝福を唱え仲間たちを癒した千巻と陽坐が、負けじと声をはりあげる。
    「私がいるうちは、絶対に誰も倒れさせない!」
    「どんなにやられても、餃子魂で立ちあがり続けます!」
     その言葉に、左内はどこか笑ったようだった。
    『いつだったか。まみえた灼滅者の小僧も、似たようなことを叫んでいた』
     『しかしそれは、我らも同じ』と、告げた左内の槍が閃き、庇い出たぶんぶん丸のボディをまっすぐに貫いて。
     幾多の攻撃を受け続けたライドキャリバーが、エンジン音を唸らせ、消えていく。
     同じころ。
    「気があうねって言いたいところだけど、私たちも譲るつもりはないんだよね」
     波琉那の構築した結界により、霊的因子を強制停止させられた帯の武者が倒れた。
     灰と化した帯と骸を蹴散らし、壬生狼たちはすぐに前衛の杭武者と刀武者へ攻撃を集中させた。
     もとより、壬生狼たちの動きを制御しきれないであろうことは想定済みだ。
     灼滅者たちの次なる標的は、壁役の武者アンデッド。
     ――相手が強敵であろうとも、ここで退くわけにはいかない。
     裂帛の叫びとともに枷を払いのけた左内を見据え、8人はさらに攻撃を仕掛けるべく、地を蹴った。


     羽根舞うように身をひるがえし、間合いを詰めた灯倭が剣を一閃。
     非物質化させた刃が左内の霊魂と霊的防護を、確実に破壊して。
    「慧樹くん!」
     声に応えるように、慧樹は地を蹴り、流星の如き煌めき宿した飛び蹴りを炸裂させる。
    「前に言ったよな。『相互の信頼なくして、「裏切り」は存在しえない』って」
     青白くひかる暗い眼窩が、慧樹を見た。
    『忘れもしない』
    「だから俺は、この場に立ってる……!」
     和弥を狙った杭武者の一撃を『一惺』が受け止め、はね飛ばされた先で消滅。
     薄らいでいく気配をその背に感じながらも、和弥は先に感じた痛みを想い出し、硬く拳を握りしめた。
    (「勝者だけが、我を通せるって言うなら――」)
     桃色の瞳がきらめき、見据えた左内めがけ、百の拳を叩きこむ。
     左内はすんでのところで身をかわそうとしたが、全てを避けきることができず、体勢を崩した。
     そのうちにも、槌の武者による幾度めかの大震撃が回廊を揺るがし、波琉那と慧樹が仲間たちをかばうべく突き飛ばす。
     見れば壬生狼の集中攻撃を受け、刀武者が膝をついている。
     紫月は次で仕留められると判じ、重い口をひらいた。
    「――封じていた奇譚、聞いてみるか?」
     否応なく語りはじめる紫月に応え現れたのは、青白いローブを着た幼子。
     刀持つ武者へ杭を打ち、喰らいつき、悔いをふりまき、とり憑いた亡者へ二度目の死を与えた。
     残る敵は、杭と槌をもつ武者と、左内。
     対する壬生狼と灼滅者たちは、サーヴァント2体を失いこそすれ、今なお攻勢を保っている。
     壬生狼の猛攻はなおも凄まじく、残敵わずかとみるなり、ふたたび苛烈な攻撃を仕掛けはじめた。
     それをみて、霊犬『ピース』の回復を受けたアルディマが杭武者へと狙いを切り替える。
    「この場で、決着をつけさせてもらうぞ!」
     体内から噴出させた炎を剣に宿し、気合いとともに敵へと叩きつけて。
     燃えあがる武者めがけ追撃をはなった壬生狼の爪が、鎧ごとその身を引き裂き、灰となって四散する。
     勢いに乗って、波琉那はバイオレンスギターを振りあげ、左内へ挑みかかった。
    「わたしとイイ事しない?」
     誘うように告げ、渾身の力で叩きつける。
     なおも後方から足止めを狙う槌武者の攻撃は、千巻が施した耐性のおかげもあり、もはや恐るるにたらない。
     駆けまわり仲間たちを支え続ける霊犬『ピース』も健在。
     回復は十分と判断した陽坐は、敵を翻弄すべく跳躍し、自らも攻勢にうってでた。
     ――闇堕ちから救われた、あの日。
     ――小さな括りにこだわらない、大きくて深い、餃子愛を知ったから。
    「京都が侵攻されたなら、俺は京都の餃子民のため戦う!」
     京の大地に眠っていた『畏れ』をその身にまとい、縛霊手を手に、鬼気迫る斬撃で武者鎧を引き裂く。
    『気概、信念。ともに一人前となったか、灼滅者』
     問いかけるような、確かめるような左内の言葉に、千巻が頷く。
    「だから、リベンジできたら嬉しい!」
     強く、前を向く千巻の胸のうちをあらわすように、煌々と輝く裁きの光条が武者を撃つ。
     瀕死の反撃をはなつ槌の武者が、壬生狼たちをはね飛ばすのが見えた。
     すかさず、青水晶の雪花を手に灯倭が舞い。
     刻みこまれた斬撃がとどめとなり、5体目の武者も、灰塵となって回廊に散った。
     左内は仲間が倒れ、己の体力が限界に近付きつつあることを知りつつも、灼滅者たちから眼を離さなかった。
     大槍を回転させればごうと風が唸るも、動きを見切り、回避したアルディマが一閃。
     おなじく死角へ回りこんだ紫月が影を走らせ、骨身を喰らわせる。
    「『義』を重んじ、信頼関係を大事にするあんたの考え方が俺は好きだ」
     半端者と言いながら、一騎打ちに応じた。
     琵琶湖ちかくの旅館では、一時的とはいえ共闘もした。
     その態度はいつ何時であっても、誠意に満ちていた。
    「俺達がここにいるのも、『義』に報いるため。だから、全力でいかせてもらう!」
     噴出した炎が、手にした槍――『明慧黒曜』に宿る。
     かつて惨敗した相手を前に、血が、想いが沸きあがるのを感じる。
     地を蹴り、柄を握りしめ、叫ぶ。
    「俺は! 今度こそあんたに勝つ!!」
     沸きたつ炎とともに、槍の柄を武者鎧深く突きたてる。
     一瞬にして燃えあがった巨躯の骨身は、どっと膝をつき、天を仰ぐように回廊へ倒れた。
     焔に包まれながら、暗い眼窩を灼滅者たちへと向けて。
    『往くがいい、住矢慧樹。その「義」、どこまで貫けるか――』
     脳裏に響く言葉が途切れると同時に、火中の骨が音をたてて砕けた。
     ――ありがとう。
     呟いた慧樹の言葉は、左内に届いたかどうか。
     燃え尽きた骨は、灰さえも残らなかった。
     波琉那はその一部始終を見届けると、犠牲となったすべての闇へ向け、静かに弔いの祈りを捧げた。


     戦闘を終え。
     これから天守閣へ向かうと告げる灼滅者たちを前に、壬生狼たちは周囲に敵がいなくなったことを確認したうえで、自陣へ撤退すると答えた。
     さすがに、これ以上の連戦は叶わぬと判断したらしい。
     激戦をともに戦い抜きながら一度も振りかえらずに去っていく壬生狼の背を見やり、ダークネスとの意思疎通の難しさを改めて痛感する。
     しかし、今はまだ敵地のただ中。
     城内には、レプラコーンやいけないナースなど、非戦闘要員のダークネスたちもいるはずだ。
     天守閣へ続く路を見つけ出した8人は、勇んで、階段を駆けあがり。
     階段の先のがらんどうの空間をみるなり、意気を落とした。
    「ここはもう、もぬけのカラですね」
    「後方支援のダークネスも含めて、みんな撤退したみたい」
     あたりの様子を探ってきた陽坐と千巻が、なにも残っていなかったと首を振る。
    「私たちが戦っているうちに、逃げてしまったのかな」
    「他班の多くも、開戦と同時に城内へ踏みこんでいたようだしな」
    「退路に敵がいなかったら、そりゃ逃げるわね」
     灯倭が不安げに呟き、アルディマ、和弥が悔し気に城下にひろがる町を見おろす。
     逃走したダークネスたちはいまごろ琵琶湖への道をすすみ、やがて本隊と合流を果たすだろう。
    「退路を塞ぐ。あるいは、壬生狼を捨てて天守閣に斬りこみ、戦闘中に制圧できていれば、また違った結果になっていたかもしれないが」
     戦況を分析しつつ、紫月が城から出るべく早々に背を向ける。
     ――今ならわかる。
     おそらく、左内はこうなることをわかったうえで、灼滅者たちの足止めを買ってでたのだ。
    「信じる心を、ダークネスから教わるなんてな……」
     呟いた慧樹の言葉は、もはやその闇へは届かない。
     いずれにせよ、この戦いで勝利をおさめたことは、間違いなく。
     共闘した壬生狼たちの被害は最小限に抑えられ、天海勢力は戦力を保持したまま、決戦へと挑むだろう。
    「むしろ、次の戦いが本番だ」
     急ぎ学園へ戻り状況を確認しようと、アルディマが皆に提案して。
     8人はそろって、伏見城を後にした。
     
     

    作者:西東西 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2016年2月1日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 0/感動した 2/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 0
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