プレスター・ジョンの国防衛戦~王葬ワヤンクリ

    作者:西東西


     多数の巨大な十字架に囲まれ、ひかり輝く城塞を中心に戴く宇宙空間の如き広大なソウルボード――『プレスター・ジョンの国』。
     浮遊大陸群中央に浮かぶ絢爛豪華な城には『理想王』プレスター・ジョンと呼ばれるシャドウが王座につき、この国を統括している。

     その城の前に、ひとりのデモノイドロードが立っていた。
     かつて灼滅者と戦い敗れ、残留思念となってこのソウルボードに招かれたハイジ(灰路)と呼ばれる少年だ。
    「この、クソツマンネー世界を統治してるオッサンがいる城ってのがコレか? 良い趣味してんじゃねーか」
     生前と同じ学生服に身を包み、愉快そうにまばゆい城を見あげる。
     その隣に立つのは、小学校低学年ほどの幼い少女。
     お嬢様然とした真紅のワンピースに、腰までの波打つ黒髪をもつあどけない姿の持ち主だが、その正体は六六六人衆だ。
    「ですです。このおしろのえっけんのま? ってゆーところにいるおうさまを、ブッコロ! してこいって、いわれましたっ!」
     はいっと手を挙げ、笑顔で告げる幼女をうさんくさそうに見やり、ハイジは大仰に口を歪める。
    「ま。オレもいい加減、この国には飽き飽きしてたところだ。ひと暴れするにゃいい機会だぜ」
     バキバキと拳を鳴らすハイジの隣で、幼女はぴょんぴょんと飛び跳ね、喜ぶ。
    「わーいわーい! いっしょにいこういこう! どいつもこいつもブッコロだー!」
     

    「優貴先生が、高熱をだして倒れた」
     教室に集まった灼滅者たちを見渡し、一夜崎・一夜(大学生エクスブレイン・dn0023)が眉根を寄せたまま、説明を開始する。
     いっこうに回復しないため調査を行ったところ、『歓喜のデスギガスによるプレスター・ジョンの国への侵攻』が行われており、それが高熱の原因になっていると判明。
     デスギガス勢力の目的は、『プレスター・ジョンの暗殺』。
     そうしてプレスター・ジョンの国の残留思念を奪い、その残留思念をベヘリタスの秘宝で実体化させようというのだ。
    「あの国の数多の残留思念が復活し、デスギガスの勢力に加われば、現在活動しているダークネスのなかでも一大勢力となりかねない」
     プレスター・ジョンの国に攻めこんでいるのは、シャドウによってソウルボードに招かれた六六六人衆たちだ。
    「最近闇堕ちした序列外の六六六人衆たちで戦闘力は低いが、その分、複数で行動している」
     六六六人衆の目的は、言わずもがな『プレスター・ジョンの暗殺』だ。
     そのため、プレスター・ジョンを守ろうとする残留思念との間で戦闘が勃発。
     残留思念のなかには攻めこんできた六六六人衆に呼応し、プレスター・ジョン殺害を目論む者も出ている。
    「よって、君たちには『プレスター・ジョンの国』に向かってもらい、私が予測した残留思念のダークネスと六六六人衆を撃退願いたい」
     
     対峙することになる敵は、デモノイドロード『三桜灰路(ささくら・はいじ)』と、六六六人衆『五童和音(ごどう・かずね)』の2体。
     ハイジは敵対者を圧倒する戦い方を好み、扱う攻撃はどれも殺傷ダメージが高いのが特徴だ。
     体力も高いため、単純に戦いを挑むだけでは相手の攻撃に押し切られ、痛手を負うおそれがある。
     一方、五童和音はあどけなさとは裏腹に、ビジネスライクな殺しをおこなうダークネスだ。
     機動力が高く、獲物を確実に仕留めるためであれば他者との協調も厭わないため、ハイジの動きに合わせ臨機応変に立ちまわることが予想される。
     2体の連携を阻むことができなければ、苦戦はまぬがれないだろう。
     
    「六六六人衆がデスギガスに協力した理由は、おそらく『ベヘリタスの秘宝』だ」
     なにを企んでいるのかはわからないが、今回相対する雇われ者の六六六人衆にそれを問うたところで、答えてくれるとも思えない。
     そしてこの戦いはデスギガス軍の戦力増強策であると同時に、四大シャドウの戦いの前哨戦でもあるだろう。
    「デスギガス勢力のシャドウも、コルネリウス勢力のシャドウも、今回の戦いには加わっていないようだ。どこか別の場所で戦っているのか、あるいは協定などがあるのか……。いずれにせよ、四大シャドウの動きには今後も注意する必要がありそうだ」
     なによりも今は、優貴先生の状態が心配だ。
     「皆、頼んだぞ」と言い添え、エクスブレインは深く、頭をさげた。


    参加者
    犬神・夕(黑百合・d01568)
    リーリャ・ドラグノフ(イディナローク・d02794)
    百舟・煉火(イミテーションパレット・d08468)
    八乙女・小袖(鈴の音・d13633)
    野乃・御伽(アクロファイア・d15646)
    月居・巴(ムーンチャイルド・d17082)
    幸宮・新(二律背反のリビングデッド・d17469)
    茶倉・紫月(影縫い・d35017)

    ■リプレイ


    「この国には飽き飽きしてたところだ。ひと暴れするにゃいい機会だぜ」
    「わーいわーい! いっしょにいこういこう! どいつもこいつもブッコロ――」
     ふいに五童・和音(ごどう・かずね)が言葉を切り、深く身を沈め。
     ガーネットのエナメル靴で地を蹴ると同時に、その場を猛る雷が駆けぬけた。
     真っ先に駆けつけた、幸宮・新(二律背反のリビングデッド・d17469)の一撃。
     和音はふわりとワンピースをふくらませ、三桜・灰路(ささくら・はいじ)――ハイジの背後に着地する。
    「わーっ! びっくりした!」
    「クソガキども!!」
     気づいたハイジが波刃付きナイフを両手に顕現させ、仕返しとばかりに毒交じりの竜巻をはなつ。
     攻撃線上に飛びだしたのは、新、八乙女・小袖(鈴の音・d13633)、犬神・夕(黑百合・d01568)の3人だ。
    「この国の王様のことは正直あんまり信用できないけどさ、そっちが暴れるとうちの先生が無駄に苦しむことになるんだよ」
    「残留思念を、現実世界に戻させるわけにはいかぬ故」
     新が掌に『鬼ノ眼』もつ縛霊手を構え受け、小袖が烈風の如き蹴りで風を斬り裂いて。
    「やる事は至ってシンプル。――さて、状況を開始しましょうか」
     半獣化させた夕の指先に輝くのは、鋭利な銀爪。
     踏みこんだ勢いのまま力任せに引き裂くも、身を捻ったハイジにかわされてしまう。
    「ほら、良い子はお家に帰る時間だよ!」
     連携に持ちこまれてはたまるものかと、すかさず百舟・煉火(イミテーションパレット・d08468)が2体を分断するべく蹴りをはなつが、
    「おせえよ」
     さらに攻撃をかわしたハイジの死角から飛びだした和音の動きは、この場のだれよりも速い。
    「おにさんこちら!」
     ケタケタと笑いはなったおぞましい殺気が、灼滅者たちをひと息に飲みこんだ。
     やむなく2体から間合いをとる仲間たちの背をみやりながら、
    (「ハイジか……。『アルプス』とか言ったら狙われるだろうから、黙っとこう」)
     茶倉・紫月(影縫い・d35017)は黒炎揺れる蝋燭を掲げ、たち昇らせた黒煙で傷を癒していく。
     調子づいた和音が、灼滅者たちに斬りかかろうとした時だ。
    「君らにどんどん進軍されても、困るからねえ。ふたり集まったところ申し訳ないけれど、僕らがその目論見を潰してあげよう」
     真っ先に体勢をたてなおした月居・巴(ムーンチャイルド・d17082)のオーラキャノンが、横合いから和音の身を穿った。
    「シャドウの同種討ちは有難いが、場所は選べっつの」
     入れ替わるように飛びだしたのは、野乃・御伽(アクロファイア・d15646)。
     雷を宿したするどい拳を脇腹に撃ちこみ、上空へと殴り飛ばす。
     和音は空中で器用に体勢をたて直そうとしたが、
    「!?」
     後を追うように飛来した光輪がその身を引き裂き、たまらず地に落ちた。
    (「敵の分断に使える場所は、なさそうですね」)
     追撃を仕掛けたリーリャ・ドラグノフ(イディナローク・d02794)は、その合間にも周囲の状況に注意をはらう。
     これまでの動きをみたところ、和音はハイジの近くに位置取り、後方から攻撃を仕掛けてきている。
     ぴょこんと立ちあがった和音の周囲に、血が飛び散る。
     裂けた服はもともと紅いので、どれほどの血が流れているのかはわからない。
     幼女は乱れた黒髪をそのままに、にっこりと微笑んだ。
    「あー、いたかったあ!」
     黒髪の隙間から見える血紅の眼は、かけらも笑っていない。
    「きめたきめた! おうさまのまえに、すれいやーたちをミナゴロシだー!」
    (「――となれば、私たちで引き離すしかありません」)
     胸中で呟き。
     リーリャは改めて、武器を構えた。


     重い一撃を仕掛けるハイジに、細かな立ち回りで灼滅者たちを翻弄する和音。
     灼滅者たちの読み通り、この戦いにおいて主導権をもっていたのは和音の方だった。
     とはいえ、だれかの命令を聞くなどハイジの気性ではありえない。
     一方の和音ももとよりハイジを操るつもりなどなく、ハイジの動きに同調し、灼滅者の動きを読むことで戦闘を優位に運ぼうとしていた。
     だが、その戦略はすぐにたちゆかなくなる。
    「貴殿らには、ここで消えてもらうぞ」
     向けられた攻撃を、とんとステップを踏むように回避し。
     至近距離から撃ちはなった小袖の魔法弾がハイジを捉えたところへ、
    「貴様は哀れだなぁ。何処までも落ちぶれていったと思ったら、灼滅者に邪魔されて理不尽に殺されて」
     続く煉火が、煌めきと重力を宿した飛び蹴りを叩きこむ。
    「うるっせえんだよ!」
     叫び返すハイジはひとのかたちをしてはいても、デモノイドロードの端くれだ。
     蹴りを受けてびくともしない。
     しかし今度こそ攻撃が入ったことを確認し、煉火は挑発を続けようとする。
    「こらこらー! なにハイジさんをそそのかしてるんですかっ!」
     横合いから和音の声が飛ぶものの、
    「よそ見してる暇はないぜ!」
     棍の如き長槍『阿修羅』を薙いだ御伽がつららを撃ちこみ、
    「さぁ始めよう、闘争の宴を!」
     間髪入れず、巴が激しく逆巻く風の刃で和音を斬り裂いていく。
     髪を揺らし、靴音を鳴らし、幼女は体重を感じさせない動きで地を跳ねた。
     ハイジに近寄ろうとするその動きを、見逃す新ではない。
    「まるで『影絵』みたいだね。思念の残りかすを拾いあげて、君がてい良く操ってるわけだ」
     語る足元から這い出したのは、一つ眼の鬼影。
    「調和の女神の名前が、聞いて呆れるよ」
     命じると同時に、爪と牙をむき、幼女を血祭りにあげる。
     和音はぼろぼろに裂けたワンピースを気にするでなく、血をまき散らしながら、やむなくハイジと灼滅者たちから距離をとった。
    「あれあれ? どーしてあたしのあだなをしってるのかな、おにーさん?」
     ――『ハルモニア』は、「調和」をつかさどる女神の名。
     そもそもそれをどこで聞いたのかと問いかけるも、
    「貴様の知ったことではない」
     言い捨てたリーリャの練りあげたオーラが、回避しようと駆けた和音を追従し、確実に撃ちぬいた。
     そこへきてようやく、ハイジは和音と分断されたことに気がついた。
     もとよりダークネス――それも六六六人衆である和音のことなどカケラも信用してはいなかったが、このままやられるのも癪だ。
    「殺るってんなら、この城のオッサンにしとけっての!」
     行く手をさえぎる灼滅者たちを突破するべく波刃ナイフを閃かせるも、
    「ハイジと言いましたか。『この世界に色はあるか?』」
     真正面に飛びこんできた夕が、身をていして攻撃を受け止める。
     止められた刃をそのままに、ハイジは額を打ちつけんばかりに迫り、不機嫌に叫んだ。
    「ハア? ここらの色が見えねーってんなら、オレが真っ赤に染めてやらぁ!」
    「――あるのならば、ここが貴様の永遠の居場所に相応しい」
     声とともにハイジを蹴り飛ばし。
     大地に眠りし『畏れ』をその身にまとい、銀爪にのせ鬼気迫る斬撃をはなつ。
     避けようとしたハイジの身がこわばり、一瞬、行動が遅れた。
     視界が赤に染まる。
     寄生体の浮かんだ腕が、紫に変じる。
    「チイッ」
     思わぬ痛手となった腕を押さえ、眼前に立つ灼滅者たちを睨めつける。
     紫月はその隙に防護符をはなち、夕の身を癒した。
     敵を分断できたおかげで、灼滅者たちは手傷を抑えることに成功していた。
     随時こまめに回復を重ねていたおかげで、今のところ、過度に疲労した者もいない。
     作戦通りの手順を踏めていることに安堵しつつ、
    (「残留思念は。繰りかえしの世界から抜けることを、何度夢視るんだろうか」)
     ふと、そんなことを考えていた。


     和音は六六六人衆としては、駆け出しだった。
     番外とはいえ、暗殺を任されるだけの技と知恵を見こまれ、この地に送りこまれた。
     その知恵をもって六六六人衆を殺害し、技を磨き続けていれば、いずれは高位の序列に就くことも不可能ではなかっただろう。
     しかし。
    「和音、きみの戦い方は好ましいものがあるけれど……。戦略家には、向かないね」
     白い仮面の下、諭すように告げる巴が踏みこみ、百の拳を叩きつけ。
    「己の知略を過信したのが、運のツキだ」
     ロシアンコートをひるがえしたリーリャが、手にした杖で倒れた和音の身を容赦なく打ち据える。
     流しこんだ魔力の奔流は、すぐに幼女の身の内で爆ぜた。
     知略を備えたとて、まだ経験の浅い六六六人衆。
     これまで経験を積んできた灼滅者4人の連携にはとうてい及ばず、すぐにその体力は潰えた。
    「……おっかしーな、おかしいな」
     倒れた視界が赤に染まる。
     もはやワンピースの色か、己の血の色かわからなくなった全身の赤をみやりながら、和音はそれでも身を起こし、にこりと笑みを浮かべた。
    「すれいやーたち、ひどいんだー」
     告げながら繰りだされた蹴りを御伽が相殺し、押さえこんだうえで、問いかける。
    「お前なんか知ってる事ねーのかよ? 暗殺を指示したのはデスギガスか? それとも、ミスター宍戸か?」
     両の名を聞いて、和音は口を曲げてにんまりと笑った。
    「あたし、れんらくもーをみてきただけだもん! なんにもしらないもーん」
     ケタケタと嗤う幼女を見おろし。
     新は冷めた緑の目を向けたまま、言いはなつ。
    「その気色悪い『女の子』の演技、そろそろやめたら? ――この、大根役者」
     声を聞くなり、和音は顔色を変え御伽を跳ねのけた。
     渾身の力をこめ蹴りをくりだそうとしたところへ、すかさず御伽がオーラを叩きこんで。
     新は微動だにせず、じっと目線だけを向け。
     足元に控えていた影鬼が、体勢を崩した幼女を掴み、牙をむいた。
    「こんなこんなこんなこんなはずじゃァァアア”ア”――!」
     己をこの場へ送りこんだ者への恨みを、抱きながら。
     鬼に喰われた和音は、血の涙を流し消えていった。

     六六六人衆の絶叫は、残る灼滅者に阻まれ続けていたハイジの耳にも届いた。
    「クッソ! やられっぱなしじゃねえかよ!」
     信用していなかったとはいえ、利害の一致していた相手だ。
     隙あらば灼滅者を突破してふたたび連携しようと画策していたが、ついぞ叶わなかった。
     足止め役として立っていた煉火、小袖、夕。
     そして徹底して3人の回復を行っていた紫月が、それを許さなかったのだ。
    「あんな小さい子に騙されるなんてなぁ。ま、貴様もガキだから仕方ないな!」
    「黙れ!」
    「おや、図星かい?」
     斬りかかるハイジの動きを見切り、煉火が虹色の残像を描くネオンサインを、振りかぶる。
     ――口では嘲りの演技こそすれ、煉火の心中ははじめからずっと、怒りに満ち満ちていた。
     赤く光る墓標が、容赦なくダークネスを打ち据えて。
    「どうした。デモノイドロードの力とは、この程度のものか」
     小袖はステップに交え鋭い蹴りをくりだしながら、引き続きハイジを牽制し続ける。
     攻撃を仕掛けようものなら夕が飛び蹴りをさく裂させ、地面に蹴倒して。
     和音を抑えていた4人が加わるや、もはや回復も十分と察した紫月も、ダイダロスベルトをはなち攻撃手に転じた。
    「っしゃ、行くぜ!」
     改めて気合いを入れなおした御伽がニヤリと笑み、影が走る。
    「死人は死人らしく、大人しく眠っていてください」
    「嘘っぱちの調和も、仄まみれの道筋も、ここから先には続かせない。――三文芝居の恐怖劇場も、これで終わりだよ」
     リーリャと新が、たて続けにオーラキャノンを撃ちこみ。
     ハイジはすでに、重ねられた枷によって思うまま攻撃を繰り出せない状態になっていた。
     もはや立ち上がることさえままならず、憎々し気に8人を見やる。
    「まさかこうして、ふたたび会う事になるとは思わなかったけれど」
     感慨深げに巴が告げるも、ハイジは灼滅者の顔など覚えていないらしい。
    「――今度こそ、おやすみ」
     ねじ込まれた『フュルフュールの槍』をその身に受け、血を吐き、あえぐ。
    「他人にそそのかされて行動を起こす程度。貴方の中の悪とやらも、随分しみったれたものですね」
     夕が幾度目かの銀爪を閃かせ、
    「だから死んだんですよ」
     重ねた言葉と爪が追い撃ちとなり、ハイジの身を引き裂く。
     倒れたダークネスへ向け、紫月は赤く揺らめく蝋燭を掲げた。
     はらり、ひらり。
     炎の花がハイジの視界を埋めつくし。
    「此処で会うのは何度目だ? さぁ忘れろ。今回は、少しいつもと違っただけだ」
     己の身が燃えていると気づいた時には、もう遅い。
    「チックショォオオオオ!」
     ハイジはふたたび訪れた己の死を悟り、無念を叫びながら霧散した。


     戦闘後。
    「面倒くさい人形だったな……。しかし、復活したらまたあの顔を見ることになるのか」
     嘆息する煉火と同じく、7人も似たような感想を抱いていた。
    「果たして彼は、ここで何回殺されるのでしょう。たとえ倒されても、消滅する事すら叶わない」
     何千、何万、何億回。
     いつまで繰り返されようと、安息は叶わず。
    「どこまで正気を保っていられるか、正直興味があります」
     淡々と告げるリーリャの言葉に、改めてブレイズゲート化現象の恐ろしさを思う。
     しかし、それゆえに。
     歪んだ理から抜けだすための力を求める者が、後を絶たないのだろう。
    「厄介なのは、『ベヘリタスの秘宝』も同じだよ」
    「残留思念をかくまわせるだけさせといて、侵略されても助けに来ないコルネリウスにも引っかかる」
    「このさきの顛末は、はたして『喜劇』と成るか、『悲劇』と成るか」
    「色々な思惑が背後で動いている案件のようですが……。引き続き、できる事をやっていかないといけませんね」
     新、御伽、巴。
     そして夕の言葉に、一同がそろって頷く。
    「そういえば。ほかのチームも、上手く立ちまわれたであろうか」
     全体の戦況がどうなっているかはわからないが、手傷を負った状態でここに留まるのは得策ではないだろうと、小袖が提案して。
    「ひとまず、帰還するか」
     見つからなかった探し人への想いを振りきるよう、御伽は仲間に先んじて、現実世界へと意識を向けた。

     次々とその場を後にする仲間たちを見送って。
     紫月は荘厳な城を仰ぎ、胸中でつぶやく。
    (「なりたての六六六人衆たちは捨て駒、だったのかもな」)
     ――弱かろうと、数で攻めれば誰かは王のもとに辿り着くかもしれない。
     無茶で無謀な作戦だが、それをやるのがダークネスだ。
     今回の戦いの結果がどうあれ、デスギガス、六六六人衆ともに、このまま事を終わらせるつもりはないだろう。
     ふと見やれば、懐に忍ばせたサシェからふわりラベンダーが香って。
     現実世界を想い。
     紫月は眠るように、両の眼を閉ざした。

     こうして、三度目の『グラン・ギニョール(恐怖演劇)』は灼滅者たちの完全勝利で、幕を閉じ。
     『廃園の王』はいつまでも、いつまでも、おまけのような人生を繰りかえし続けるのでした。
     めでたし、めでたし。
     
     

    作者:西東西 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2016年2月8日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 5/感動した 0/素敵だった 1/キャラが大事にされていた 0
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