琵琶湖・田子の浦の戦い~煙焔、天に漲る

    作者:西東西


    「まずは、伏見城にて力を尽くしてくれた者たちに感謝を。帰還早々となるが、これから今回の戦果による状況の変化と、今後の動きについて説明を行う」
     このところの予測続きで、さすがのエクスブレインも情報整理が追いつかないらしい。
     多くの場合手ぶらで現れる一夜崎・一夜(大学生エクスブレイン・dn0023)が、情報をまとめたノートを手に口を開く。

     伏見城の戦いは、天海と武蔵坂学園の共闘勢力が勝利をおさめた。
     壬生狼組の被害も少なく、天海は全軍を率いて琵琶湖に向かい、安土城怪人との決戦に挑もうとしている。
     琵琶湖大橋ではすでに両勢力のダークネスがにらみあいを始めており、小競りあいも始まっているという。
    「天海勢力からは、『自分たちが琵琶湖大橋で戦線を膠着(こうちゃく)させている間に、後方から安土城怪人の本拠地を攻撃して欲しい』という要請があった」
     この要請は学園との協定に沿ったものであり、なんら問題はない。
     しかし――。
    「このタイミングで、『第2次新宿防衛戦』直後から消息を絶っていた軍艦島が静岡県沖に出現。田子の浦の海岸に上陸しようと、近づいてきていることがわかった」

     用意していた地図を黒板に貼り付ければ、二戦場の距離が遠いことは、一目瞭然。
     一夜は灼滅者たちを振りかえり、続ける。
    「現在の状況、これまでに集めた情報から考えて、軍艦島は機を見て出現したとみて間違いないだろう」
     日本のご当地幹部であるザ・グレート定礎が、安土城怪人勢力と連携したのか。
     予知能力を持つ刺青羅刹・うずめ様が、なんらかの作戦を遂行しているのか。
     いずれにせよ、『琵琶湖』と『田子の浦』。
     二か所に出現した敵を放置するわけにはいかない。
     ざわめく灼滅者たちに背を向け、一夜はチョークを手に、黒板へ情報を書き連ねていく。
     
     【1】琵琶湖の戦い(vs 安土城怪人勢力)
     ・琵琶湖大橋の反対側から攻めこむ陸上戦。
     ・勝利した場合 ⇒ 圧勝できれば、安土城怪人勢力を壊滅に追いこめる可能性あり。
      敗北した場合 ⇒ 天海勢力はおそらく壊滅。
     ・懸念点。「武蔵坂が天海との協定を反故にし、見殺しにした」という見解が広まれば、今後のダークネス勢力との交渉などに悪影響を与える可能性がある。

     【2】田子の浦の戦い(vs 軍艦島勢力)
     ・上陸してくる敵軍を海岸戦で迎え撃つ迎撃戦。
     ・勝利した場合 ⇒ 圧勝できれば、軍艦島に逆侵攻し、壊滅に追いこめる可能性あり。
      敗北した場合 ⇒ 軍艦島勢力が、白の王勢力と合流する可能性が高い。
     ・懸念点。軍艦島勢力は小規模勢力ではあるが、有力ダークネスが多く参加している。
      反対に、白の王勢力は大規模戦力ではあるが、有力な将が少ない。
      2勢力が合流すれば強大なダークネス組織となることが確実のため、阻止できるならば阻止しておきたい。
     
     戦力を二分すれば、両方で勝利できる可能性がある。
     しかし、両方で敗北する可能性があることも、決して忘れてはならない。
     いずれにせよ、この戦いの結果が今後の情勢に大きな影響を与えるのは、間違いない。
    「どちらの戦場も見過ごすことができない以上、往く先に『正解』などありはしない。よって、どちらの戦いに参加するかは、君たちの意志に任せる」
     手にしていたノートを閉じ、エクスブレインは不意に、微笑んだ。
     これまで予測した事件のなかには、最悪の結果を待つよりほかにないものも、いくつかあった。
     けれどそのたびに、灼滅者たちは一夜の予想を超える活躍をみせ、事態を打破してきた。
     そのことを、想い出したのだ。
    「君たちは私の言葉を信じ、戦地へ往く。だから私は君たちの意思を信じ、ここで待つ」
     己の杞憂は、いつも灼滅者たちが蹴散らしてくれた。
     だからこそ、今回はだれのためでもなく、彼らがやりたいと思ったことを、してほしい。
     ――どのような選択をしたとしても、悔いのないように。
    「みちを見失ったら、『無事カエル』と三べん唱えたまえ」
     必ず、君たちのもとに道を繋げると、力強く告げ。
     エクスブレインは静かに、頭をさげた。


    参加者
    羽柴・陽桜(こころつなぎ・d01490)
    戒道・蔵乃祐(プラクシス・d06549)
    森村・侑二郎(一人静・d08981)
    神乃夜・柚羽(燭紅蓮・d13017)
    志乃原・ちゆ(トワイライト・d16072)
    九葉・紫廉(稲妻の切っ先・d16186)
    エリノア・テルメッツ(串刺し嬢・d26318)
    土屋・筆一(つくしんぼう・d35020)

    ■リプレイ


     琵琶湖大橋では、すでに天海大僧と安土城怪人の2勢力が激突し、熾烈な争いが始まっていた。
     一方、安土城怪人勢力の後方から仕掛ける灼滅者の数は100余名。
     エリノア・テルメッツ(串刺し嬢・d26318)は吹き寄せる湖風に金の髪をなびかせ、
    「天海の軍勢が囮となって、私達が後方から奇襲をかける。信頼してない者達に任せる役割じゃないわね」
     「応えるためにも全力を尽くすわ」と、スレイヤーカードの封印を解放。
    「あたしも、天海おじいちゃんとの同盟、守りたいって思う」
     羽柴・陽桜(こころつなぎ・d01490)も桜色の縛霊手を固く握りしめ、決意を胸にして。
     勇み進軍を開始すれば、すぐに1体のダークネスが立ちふさがった。
     魔力で強化した腕を地面に叩きつけた一撃に、侑二郎のウィングキャット『わさび』と紫廉のライドキャリバー『カゲロウ』が仲間たちを護りに入る。
     ――大悪魔ザガンが召喚した、ソロモンの悪魔。
     鎧をまとい、主に似た牛型の姿をした悪魔を目の当たりにし、戒道・蔵乃祐(プラクシス・d06549)が唇を噛みしめる。
    「あの命懸けの戦いも、犠牲も。奴等にとっては想定内の誤差だったんでしょうか……」
     知的さとはかけ離れた、荒々しい悪魔の攻撃。
     土屋・筆一(つくしんぼう・d35020)はその勢いに呑まれぬよう地を踏みしめ、叫んだ。
    「回復は任せてください!」
     展開した夜霧が傷をふさぐのに身をまかせ、蔵乃祐は歌うモノリスを構え光の砲弾を撃ちこむ。
     同時に、悪魔の死角へ回りこんだ神乃夜・柚羽(燭紅蓮・d13017)が意志持つ帯をはなち、連撃を仕掛けていく。
    「俺たちが相手になりますよ」
     柚羽が退いたタイミングに合わせ、声をあげたのは森村・侑二郎(一人静・d08981)だ。
     月光のオーラに乗せ炎を叩きつければ、延焼する炎を身に受けながら、悪魔は不敵に嗤う。
    「なるほど。貴様らがザガン様の言う『灼滅者』か!」
     ふいに足元に複数の魔法陣が浮かんだと思えば、巨大な氷柱が生え、灼滅者たちを次々と呑みこんだ。
    「ぐあっ!」
     仲間をかばった九葉・紫廉(稲妻の切っ先・d16186)、侑二郎をはじめ、複数の灼滅者が砕けた氷に全身を貫かれ、膝をついて。
    「紫廉さんの回復、担当します!」
     すぐに陽桜の癒しの矢が飛び、わさびがリングを光らせる。
    (「――回復は、大丈夫です」)
     志乃原・ちゆ(トワイライト・d16072)はそう己に言い聞かせ、エアシューズで地を蹴った。
     流星の煌めきが弧を描き、重い一撃となって燃える悪魔を蹴り飛ばす。
     たたらを踏んだ悪魔はしかし、倒れることなく反撃に移った。
     弾丸の如き勢いで撃ちこまれた拳を受け止めたのは、カゲロウだ。
    「ふんっ、さすがに簡単には倒れないわね」
     追撃を受け吹き飛ぶライドキャリバーの死角からエリノアが飛びだし、緋色のオーラをまとった槍で悪魔の身を貫く。
    「これならどうです?」
     動きを止めた一瞬を狙い、蔵乃祐はすかさず模造兵器『ストームコーザー・ウロボロス』を振るった。
     嵐の如き唸りをあげ、伸びた刃が悪魔を戒めると同時に、鎧ごとその身を斬り裂いていく。
     敵の動きをつぶさに観察していた柚羽が、その隙を逃すはずもない。
    「あなたに割いている時間は、ないんです」
     走らせた影が悪魔を呑みこんだかと思えば、
    「き、貴様は……!」
     牛の姿をした悪魔には、あらぬ幻影が見えているらしい。
     間合いに飛びこんだ紫廉は力強く地を踏み、脇を締めた。
    「背中が、がら空きだぜ!!」
     霹靂一声。
     身をひねり、稲妻の如き勢いで超硬度の拳を撃ちはなつ。
     全身の骨という骨を砕かんばかりの重い一撃に、たまらず悪魔は裂帛の叫びをあげた。
     傷が消えると同時に炎や枷も吹き飛んだが、皮膚はただれ、重なった疲労は色濃く、その動きには陰りが見えはじめている。
    「畳みかけましょう!」
     仲間への呼びかけか、悪魔への宣言か。
     侑二郎はぐんと身をかがめ、悪魔を翻弄するように周囲を旋回。
     火花を散らした靴が一瞬のうちに燃えあがるや、痛烈な一撃を見舞う。
     筆一の癒しの矢、陽桜のラビリンスアーマーが幾重にも重ねられ、灼滅者たちの攻撃は確実に悪魔を捉え、追い詰めていった。
     魔法陣が地を埋めつくすと同時に、紫廉、侑二郎、そしてサーヴァントたちが仲間たちを陣の外へ突き飛ばす。
     氷は護り手たちの身を容赦なく砕いたが、
    「あなたの命運は、ここまでです!」
     すぐに筆一が夜霧を展開し、傷を癒していく。
     連携に次ぐ、連携。
     眼前の敵を打ち倒し、さらなる敵のもとへという灼滅者たちの想いは、そのまま怒涛の攻勢となって悪魔を圧倒していき。
     己の片腕を異形巨大化させ、ちゆは地に膝をついた悪魔へと迫り、拳を固めた。
    「終わりにしましょう」
     語りかけるように、静かな声音。
     しかし向けた拳は凄まじい膂力とともに悪魔の身を砕き、地面へと叩きつけた。
     絶命の間際にあって、ソロモンの悪魔は呵々と嗤う。
    「我を倒したとてザガン様には遠くおよばぬ! いずれ絶望の淵に沈むが良い、灼滅者!」
     耳に残る不吉な言葉が気にかかる。
     とはいえ、今は戦いのただ中だ。
     塵と消えゆく悪魔を見送り、灼滅者たちは互いの無事を確かめあった。
     いくらかの疲労こそあれ、灼滅者、サーヴァントともに健在。
     最低限の癒しを施した後、エリノアが言った。
    「往きましょう。敵の幹部は、まだ残っているわ」
     8人は隊列を組みなおすと、直ちに次の戦場へと向かうべく走りだした。


     一同は戦地へ赴く前、他班の灼滅者とは携帯電話の連絡先を交換していた。
     しかし、
    「だめです。情報が断片的で、位置を特定できません」
    「こっちも交戦に入ったらしく、通話が途絶えた」
     陽桜と紫廉が移動がてら情報収集を行おうとするも、どうやら安土城怪人の周囲には多数の敵が配置されているらしい。
     連絡のついた班は次々と敵の襲撃を受け、通信を諦めざるをえない状態だ。
     すくなくとも、彼らが身近にいて、その勢いを失っていないのは確かだと気を奮い立たせた矢先、
    「居たぞ、灼滅者だ」
    「全員やっちまえ!」
    「言われずとも、斬り捨ててくれよう!」
     ソロモンの悪魔、羅刹、妖刀怪人の混成部隊が現れ、一気に攻撃を仕掛けてくる。
     時間があれば回復に専念したかったが、敵もそれだけの猶予を与えてはくれない。
     陽桜と筆一が仲間たちへ向け支援の矢をはなち、蔵乃祐がサウンドシャッターを展開。
     柚羽が自律帯を手繰り、羅刹の身を刺し貫く。
    「わさびさん!」
     妖刀怪人の攻撃を受け止めた主の声に応え、ウィングキャットのリングが輝く。
     ちゆは侑二郎に背を預け、柚羽と同じく自律帯を走らせる。
     狙うは、羅刹。
     悪魔のはなった魔法の弾丸をカゲロウが受け止め、紫廉も攻撃を集中させるべく、固めた拳を撃ちはなつ。
    「私たちも、黙ってやられるわけにはいかないのよね」
     バベルブレイカーを閃かせたエリノアの一撃が羅刹を穿った瞬間、
    『全軍撤退せよ!』
     空気を震わせるほどの声が響き渡り、ダークネスたちが動きを止めた。
    「安土城様の御命令だ……!」
     妖刀怪人が悔し気に叫び、悪魔が傷を負った羅刹をともない、即座に反転しはじめる。
     安土城怪人の命令は、戦場全体に鳴り響いたらしい。
     ダークネスたちは蜘蛛の子を散らすように戦場から去り、やがて城の姿をしたご当地怪人だけが残った。
     ――このダークネスこそが、天海大僧正の宿敵。安土城怪人。
     その時になってようやく戦場に駆けつけた他班の灼滅者たちの姿も見え、一気に畳みかけようとした、その時だ。
    「まさか、ここで巨大化フードを使わされるとは思わなかったぞ」
     隠し持っていた巨大化チョコレートを口にすると、安土城怪人の身体がみる間にふくれあがっていく。
    「長期戦は、消耗している此方が圧倒的に不利です!」
     そうはさせまいと蔵乃祐が黙示録砲を仕掛けるも、なおも巨大化する怪人の攻撃に巻きこまれてはたまらない。
     8人は間合いを図りつつ、一時的に後退。
     見あげるほどの巨躯に変じた敵の首領は、その身を悠然と構え、言いはなった。
    「武力で天下統一を成し、ゆくゆくは世界征服を行なう我が野望、ここで潰えさせるわけにはいかぬ」
     声とともに『天下布武』と書かれた旗が大量に現れたかと思うと、その旗から一斉にビームがはなたれて。
     間合いに踏み込むべく迫っていた者たちを薙ぎ払う強力な一撃に、集っていた他班の灼滅者たちも後退を強いられた。
     散り散りになれども、学園の仲間たちが集い、ともに眼の前の敵にたちむかっているのは確かだ。
    「皆で、絶対帰るんだから!」
     決意とともに陽桜が叫び、仲間たちの護りを固める。
     見据える先の空中に浮かぶのは、三千丁の火縄銃の幻影。
    「全ての銃口がお前達を向いているぞ。怖かろう?」
     告げる声に続き、けたたましい発砲音が鳴り響く。
     狙いの先は、後方から支援にあたっていた灼滅者たち。
    「カゲロウ!」
     主の呼び声に応え、ライドキャリバーが唸りをあげる。
     雨のように降る弾丸をその身に受け、1人と1台はその場に倒れた。
     かばわれた筆一が、本日幾度めかの夜霧を展開。
     同じく攻撃を受けぬようにと突き飛ばされたちゆはすぐに体勢をたて直し、巨大化させた腕で怪人に殴り掛かる。
     攻撃は届けど、その身はびくとも揺るがず。
     しかし圧倒的な強さをほこる安土城怪人であっても、100人を超える灼滅者に囲まれた状態では、その優勢も長くは続かなかった。
    「巡れ我が体内のサイキックエナジーよ」
     傷と枷を払うべくサイキックの巡りを活性化させる様子を目の前に、灼滅者たちに士気がもどる。
     大量の旗からはなたれるビームをかいくぐりながら、8人はなおも迫った。
     次から次へと、己が身に立ち向かう少年少女たちを前に、ついに怪人の体勢が崩れて。
    「灼滅者よ、お前達は何故、これほどの力を持ちながら……!」
     再び『長篠式三千丁銃撃ダイナミック』で灼滅者たちに斉射を浴びせながら、安土城怪人は駆けつけようとするシャドウの姿を認め、強く命じた。
    「グレイズモンキーよ、救援は無用。お前は生き延び、そして伝えるのだ」
     おそらくその命令内容から、すでにいずれかの班が迎撃に向かったのだろう。
     戦地を同じくする仲間たちに遅れをとるまいと、満身創痍の身を奮いたたせる。
    「大将を討ち取る以外に勝機は有り得ません。勝って活路を切り開きましょう――世界を、変革するために!!」
     伸縮する刃を振るい攻撃を仕掛ける蔵乃祐に続き、柚羽は舞うように影を走らせた。
     括目し、戦場を見据える。
    (「其処に立たねば、それを視ることすら叶わない」)
     ――だから今、自分は、この場に立っている。
     数多の灼滅者に囲まれ、傷を受けながらも、安土城怪人は決して背を向けることをしなかった。
     劣勢のなかにあって、願うはただひとつ。
    「まだだ、まだ倒れぬ。我が愛しき部下達が逃げ延びるまで、我は倒れるわけにはいかぬのだ」
     このダークネスがどのような想いで仲間を束ね、天海大僧正と対峙していたのか。
     巨大化した姿に投げかけたところで、答える声はなかったろう。
     しかし、その堂々とした姿を見れば、この怪人がどれだけ仲間を大事にしていたかが、灼滅者たちにも伝わってくる。
    「我が命の輝きを見よ、天下布武ビーーームぅ!」
     『天下布武』と書かれた旗が林立し、一斉に光線をはなつ。
     護りに走ったわさびとカゲロウが弾き飛ばされ、消滅。
     紫廉は直撃を受け、ついにその場に倒れた。
    「支えます。僕が、皆さんを、絶対に……!」
     急ぎ仲間たちを癒した後、筆一は歯を食いしばり、紫廉の身を支え後退する。
     対峙する力は強大で、圧倒されそうにもなるけれど。
     わが身を賭して護ってくれた、仲間がいる。
     ともに戦う、学園の仲間たちがいる。
    「ちゆさん!」
     侑二郎が呼びかけるよりも早く、ちゆは走りはじめていた。
     駆ける二人の心を映すように、エアシューズが激しく燃えて。
     地を蹴り、飛びあがったのは同時だった。
    「勝って、無事に帰るのです……!」
     交差した蹴りが安土城怪人の身を揺るがし、瞬時に炎を燃えあがらせていく。
    「これが三段撃ち三段目。この銃撃を耐えられたならば、お前達の勝ちだ」
     天を埋めつくすほどの、三千丁の火縄銃。
     銃口が一斉に火を噴いて。
     破壊の嵐が灼滅者を呑みこんだ後、なおも攻撃を仕掛ける者たちの姿があった。
    「ならば、私達の勝利だ……!」
     星降るような蹴りと烈火。
     そして巨体に挑むのは、ひとりのご当地ヒーローの少年。
     渾身の力で安土城怪人の巨体にとりつき、叫ぶ。
    「二条!! 大麦!! ダイナァッ、ミィーーーーーック!!!」
     巨大な身体が天地を返され。
     地面に激突した瞬間、麦色の大爆発が巻き起こる。
     そうして、安土城怪人は地に沈んだまま動かず。
     やがて倒れた少年が拳を突きあげたのを見て取り、戦場に大歓声が響き渡った。


     すべてが終わった戦場に、湖からの風が吹く。
    「天海勢力の勝利だな」
     携帯電話に続々と届く仲間たちの情報を確認し、紫廉が嘆息交じりに呟く。
     一方、敵の首領の最期を目の当たりにし、侑二郎は複雑な表情を浮かべていた。
    「彼らに直接の恨みは、ありませんでしたが……」
     学園の方針ならばと、戦いに赴いた。
     学園は己の居場所だから、と。
    「でも、帰れます。戦って、きちんと勝って、――誰も欠かさずに」
     傍に立ち告げるちゆの声は静かで、侑二郎の惑いを理解しつつも、心から安堵しているのがわかった。
     柚羽は乱される黒髪をそのままに、ぽつり、零す。
    「――わが身をさても、いづちかもせむ」
    「どういう意味ですか、それ」
     スケッチブックを広げ、荒々しく鉛筆を走らせていた筆一が、顔をあげぬまま問いかけて。
     柚羽は問いには答えず、しかし、ゆっくりと言葉を重ねた。
    「いつだって。正しいかどうかなんて、立ち位置と視点で変わるから」
     その言葉を耳に、陽桜も口を開く。
     先のことはわからないけれどと、言い添えて、
    「あたしは、あたしができる精一杯で、選択した道を進むよ」
    「そうですね。少なくとも……これでひとつの路は開けました」
     蔵乃祐がそう続けるも、表情は冴えない。
     この戦いでザガンがどうなったのかは、未だ確認できておらず。
     ソロモンの悪魔の動きには、なおも注意が必要に思えてならない。
    「帰りましょう。こちらの戦いは征することができたけれど。田子の浦の戦況が、気になるわ」
     きびすをかえすエリノアの提案に頷き、灼滅者たちが歩きだす。
     やがて戦場と牛型の悪魔を描き終えた筆一が、最後に、その場を後にした。

     天海との盟約は果たされ、安土城怪人は滅びた。
     その事実がこの先、灼滅者たちにどのような運命をもたらすのか。
     今はだれにも、わからない。
     
     

    作者:西東西 重傷:九葉・紫廉(稲妻の切っ先・d16186) 
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2016年2月16日
    難度:やや難
    参加:8人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 7/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 0
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