これは、予兆!?
まさか、私の中にまだ、灼滅者の熾火が残っているとでもいうのか?
……だがこれで、私が尾行したあの軍勢の正体が判明した。
あれは、軍艦島の大勢力。そして軍勢の向かった先は、白の王セイメイの迷宮!
予兆を見たのも何かの縁だ、武蔵坂学園には連絡を入れておこう。
その連絡で、灼滅者としての私は本当に最後。
これより私は、混じり無きひとつの『黒牙』となる……!
●
「琵琶湖大橋の戦いは、武蔵坂学園と天海の共闘勢力が圧勝をおさめた」
最新情報をまとめたノートを手に、一夜崎・一夜(大学生エクスブレイン・dn0023)が、これからの動きについて説明を開始する。
敗走した『安土城怪人勢力』の残党たちは、琵琶湖北側の「竹生島(ちくぶしま)」にたてこもった。
しかし、安土城怪人を失ったことで離反した者も多く、勢力は大きく減退。
安土城怪人に次ぐ実力者であった『グレイズモンキー』が拠点に戻らないこと。
献身的な活動で支持されていた『もっともいけないナース』が灼滅され、組織としての結束力もなく、自壊するのは時間の問題とみられている。
反対に、軍艦島勢力が合流した『白の王勢力』は大幅に強化された。
エクスブレインとは全く違う予知能力を持つ、『うずめ様』。
現世に磐石の拠点を生みだす、『ザ・グレート定礎』。
ソロモンの大悪魔の一柱、『海将フォルネウス』。
そして、セイメイと同じ「王」の格を持つ『緑の王アフリカンパンサー』。
彼らは、白の王セイメイのこれまでの失策を補って余りある力を持っている。
「――しかし。軍艦島勢力を富士の迷宮へと招き入れたことは、セイメイにとって致命的な隙となった」
富士の樹海で探索を続けていた『クロキバ』が、迷宮の入り口を発見。
闇堕ちしてクロキバとなった白鐘・睡蓮(荒炎炎狼・d01628)が、突破口の情報を武蔵坂学園に連絡してきたのだ。
『クロキバ』は先代たちの意志を継ぐべく、白の王の迷宮に挑もうとしている。
もし、この戦いを有利に進めることができたなら。
セイメイだけではない。
田子の浦の戦いで討ち取ることのできなかった、軍艦島のダークネスたちを灼滅する好機となるはずだ。
「迷宮の入り口を通過できる人数には限りがあり、全軍で攻め入ることはできない。しかしこの機を逃せば、二度と侵入できなくなってしまう」
迷宮を突破し、有力なダークネスを灼滅することは言うほど簡単なことではなく、むしろ困難をともなうことだろう。
しかしこれまでになく有利な条件がそろっている今なら、危険を冒してでも、挑戦する意義はあるはずだ。
なお白の王の迷宮は、内部から迷宮を破壊しようとすると外にはじき出されるという防衛機構が備わっている。
そのため、危機に陥った場合は、迷宮自体を攻撃する事で緊急脱出が可能。
反面、迷宮への破壊工作は不可能となっているので、その点は注意が必要となる。
迷宮からの脱出は難しくない反面、こちらも、敵拠点に攻めこむのに十分な戦力とは言い難い。
しかし、暗躍を続けてきたセイメイの喉下に牙をつきつける今回の作戦は、非常に重要な任務となる。
「今回の作戦による結果は、今後の戦局に大きく影響を与えることとなるだろう。有力敵の撃破はもちろん、敵の目的やその他の情報収集など、皆でどういった結果を求めるかを検討し、突入願いたい」
一定の成果をあげるためには、ある程度目的を絞って行動するのが得策だ。
ただし、行動や対応がかたよれば、結果もまた一辺倒となる可能性があることを、決して忘れてはならない。
「白の王セイメイを灼滅できれば、クロキバとなった白鐘を闇堕ちから救出できる可能性も出てくる。そしてこの戦いは……田子の浦の戦いの、雪辱戦でもある」
いまなお戻らない、多くの仲間たち。
いまこの時も、内なる闇と対峙しているであろう彼らのためにも。
「忘れないでくれ。どんな時も。活路をきりひらくのは君たち自身の意志と、行動力だということを」
――武運を。
そう告げ、一夜は背筋を伸ばし、灼滅者たちを見送った。
参加者 | |
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月翅・朔耶(天狼の黒魔女・d00470) |
喜屋武・波琉那(淫魔の踊り子・d01788) |
ヴォルフ・ヴァルト(花守の狼・d01952) |
森田・供助(月桂杖・d03292) |
和歌月・朱彦(宵月夜・d11706) |
神乃夜・柚羽(燭紅蓮・d13017) |
霧島・サーニャ(北天のラースタチカ・d14915) |
チェーロ・リベルタ(忘れた唄は星になり・d18812) |
●
早朝。
重くたれこめる、曇天の下で。
総勢37チームの灼滅者たちは、富士の樹海を1時間弱すすんだ場所にある、隠された風穴に集まっていた。
『クロキバ』の情報によれば、風穴を10分ほど進んだ場所に『氷柱』があり、その先が『セイメイの迷宮』につながる入り口だという。
「上層へ向かわはる方々もご武運を。俺らも手土産持って帰れるよう、頑張りますよって」
突入していく上層探索班を送りだす和歌月・朱彦(宵月夜・d11706)の言葉に、黒衣に身を包んだ7人の仲間たちも頷きあい、風穴へ。
情報にしたがい進めば、壁の一部がチラチラと二重写しになっているように見える場所を見つけた。
狙い定め体当たりすれば、身体はそのまま壁をすり抜け、迷宮側へと飛びだした。
どういう仕掛けか内部は淡く光っており、目が慣れれば光源がなくとも行動に支障はなさそうだ。
敵に気取られぬためにも、この場に長居してはいられない。
「行くぞ」
短く告げる森田・供助(月桂杖・d03292)に続き、7人は次々と洞窟の奥へ駆けだしていった。
●
迷宮内部を歩けば、ひやりとつめたい空気が頬を撫でる。
今回の作戦では、下層探索を行う班は18チームと半数近い。
人手が多く集まったため、灼滅者たちは発見した敵を残らず駆逐していくことに決めた。
とはいえ、『セイメイが準備してきたなにか』を見つけるという目的を果たすまで、むやみに体力を消耗するわけにはいかない。
8人は物音をたてぬよう、ESP「接触テレパス」やハンドサインで意思疎通を図り、細心の注意を払いながら進んだ。
見通しの悪い場所は月翅・朔耶(天狼の黒魔女・d00470)の霊犬『リキ』や、喜屋武・波琉那(淫魔の踊り子・d01788)の霊犬『ピース』を先行させ、敵が居れば先制攻撃に持ちこんだうえで、征圧。
始終手際よく事を運ぶことができたおかげで、これまでほとんど傷を負わずに戦闘を終えることに成功している。
そうして見つけた小部屋のスケルトンを灼滅し、他班と連絡をとろうとしたところで、気づいた。
「携帯電話も無線も、使えないみたいだ」
用意していた機器を手に、朔耶が小声で告げる。
機器はきちんと作動しているが、『通信機能』が一切使用不能になっている。
「『スーパーGPS』もダメみたいだね」
朱彦がESPを使い、波琉那が地図を手にしていたが、現在位置を示すマーカーは見当はずれの場所を示すばかりで、ついには消えてしまった。
ダークネスの築いた迷宮なのだ。
迷宮自体が樹海とは全く別の場所、あるいは異空間のような所にあったとすれば、ESPがうまく働かなかったとしても不思議ではない。
「それらしいものも、見つからないでござるな」
手帳を手にした霧島・サーニャ(北天のラースタチカ・d14915)が、ため息交じりに呟く。
重要な小部屋かと思えば眷属がいただけで、特にこれといった発見はない。
気をとりなおしふたたび奥へ向かい歩きはじめると、今度は道の分岐に立ったチェーロ・リベルタ(忘れた唄は星になり・d18812)が、足を止めた。
「どの道も、印が付いています」
分岐点の道には積み石や目印など、他班が残したであろう複数の印がついている。
「ひとつ前の分岐へ、戻りますか?」
迷宮に入ってからは、ヴォルフ・ヴァルト(花守の狼・d01952)がESP「アリアドネの糸」を引いていた。
同じ班の仲間にしか見えない糸だが、念のためにと使用していたのだ。
しばし、一同で思案した後。
「このまま、進みましょう」
神乃夜・柚羽(燭紅蓮・d13017)が、そう提案する。
先ほどから、奥へ進めば進むほど敵の数が少なくなっている。
それに、別の場所から戦闘音が聞こえてくることもしばしばあった。
下層の道や敵は、学園の仲間たちによってしらみつぶしにしているとみて良さそうだ。
後続の仲間たちのため、選んだ道の入口に積み石を置き、先を急ぐ。
やがて異変に気づいたのは、供助だった。
眉間に深いしわを寄せ、うめく。
「……ひどい匂いだ」
はじめはその言葉をいぶかった仲間たちも、すぐに気づいた。
――強烈に生臭い匂い。
迷宮に入ってから、何度もスケルトンやゾンビと対峙した。
その時もアンデッド特有の異臭はしていたが、この匂いはその比ではない。
不快感を抱きながらも歩きつづければ、やがて洞窟は枝分かれすることなく、一本道となった。
進めば進むほど、匂いはより強くなり。
やがて視界に入ったのは、
「これは、一体」
絶句した朱彦の目の前には。
東京ドームがいくつも収まりそうなほどの、広大な空間がひろがっていた。
●
ここが最下層なのだろう。
先ほどの一本道を経て、他班の灼滅者も続々と広間に集まりつつあった。
中央には、『なにか』が密集しているのが見える。
匂いも、そこから漂ってきているようだ。
これがセイメイの準備していた『なにか』であると判じた朔耶、ヴォルフ、サーニャの3人は、情報を記録に収めるべく、カメラやビデオカメラを手に走った。
薄明かりのなかシャッターをきり、動画を撮影していた3人の足がすぐに止まる。
「これって……」
撮影をとりやめた朔耶の横に膝をつき、ヴォルフが『それ』を確認した。
「亡くなっている」
自分たちとそれほど変わらない年齢の、女性の遺体。
驚いたように眼を見開いたまま、まるで今にも、動きだしそうに見える。
なにかに噛みつかれて殺されたのだろうか。
腕に残る傷が痛々しく、サーニャは眼前にひろがる、おびただしい量の死体の山を見つめ涙を浮かべた。
「……こんなことって、ないでござる」
――1万体近い、死体の山。
これがセイメイの準備していた『なにか』であることは明白で、訪れた灼滅者たちの胸に、驚きと悲しみ、そして強い怒りがわき起こる。
「辛いけど……。今は、できるだけ情報を集めよう」
波琉那がそう提案し、大広間の調査を行おうとした時だ。
霊犬リキとピースがそろって唸り、けたたましく吠えはじめた。
見れば折り重なった遺体の一部が、緩慢な動きで身体を起こそうとしている。
「まだ、生きて――」
「いいえ」
チェーロの台詞が終わるより早く、柚羽は『それ』が何であるかに気づき、警戒する。
死体の数は多いが、それだけとは思えない。
ざっと見ただけでも、死体には共通して、なにかに噛まれたような傷痕があった。
もしこれが、『セイメイの研究成果』なのだとしたら。
「嫌な予感がします」
灼滅者たちを前に、生者の気配を感じたのだろう。
動きはじめたひとでなくなってしまった者たち――『噛み傷をもつゾンビ』たちを前に、ためらう理由はなかった。
8人が戦闘に入ると同時に、大広間のあちこちでサイキックの閃光がほとばしる。
供助は真っ先に動き、守り手として立つ朱彦の防護を強化する。
「いい加減、後手も届かぬのも勘弁だ!」
その胸には、先日の戦いで闇堕ちし、今なお戻らぬ仲間たちの姿があり。
――気をつける。
そう言って田子の浦に行った少年も、柚羽のもとへは帰らなかった。
(「何もかも潰して潰して、潰し尽くしてやりたい……!」)
感情を抑えようにも漆黒の瞳は怒りに震え、一般人の遺体を使ったゾンビといえど、容赦などできようはずもない。
「雪辱戦です」と自律帯を繰りだす柚羽に続き、朱彦は敵の動きを止めるべく除霊結界を展開。
「ずっと水面下で暗躍してはるとは、思とったけど」
まさか、これほどの一般人を犠牲にし、研究を進めていたとは。
春に進学予定だったのだろう、真新しいランドセルを背にした幼子。
くたびれたスーツに身を包んだ、けれど長年真摯に働き続けていたであろう男性。
婚約指輪をはめた女性は、新居で使う予定だった包丁を手にして。
髪の白い老齢の女性は生前よりもしっかりとした足取りで、少年少女たちに焦点のずれた眼を向ける。
制服を着用した学生の遺体も多く、隙を見て噛みつこうとしてくる。
だれもが、つい先ほどまで『日常』にいたかのような姿で、灼滅者たちを道連れにしようと手を伸ばす。
――もしも、もっと早い段階でセイメイの企みに気づくことができていたなら。
――これほどの犠牲を出さずに、済んだのだろうか。
過去の可能性をいくら探ったとて、犠牲になった者たちの命は戻らない。
灼滅者たちはやり場のない怒りを胸に、ただただ、迫りくる者たちへサイキックを振るい続けた。
波琉那は仲間たちへ向かう攻撃をできる限りかばい受けたが、手あたりしだいに攻撃を仕掛けるゾンビたちに、間合いに入られてはひとたまりもない。
「ちょっと大人しくしててね!」
縛霊手を掲げ、霊的因子を強制停止させる結界を構築。
取り囲むゾンビの一部が動きを止めた隙に、
「せめて、苦しまずに逝ってくれ……!」
朔耶が弓引き、死者の頭上に百億の星が降りそそぐ。
まばゆい流星が大広間を明るく照らし、煌めきのなか、見あげた死者たちを次々と灰塵へと還していく。
相棒が討ちきれなかった敵のもとへは、霊犬リキとヴォルフが駆けた。
斬魔刀を閃かせ果敢にゾンビの合間を駆けめぐるリキとともに、ヴォルフは大鎌に宿らせた炎を叩きつけ、確実に敵の数を減らしていく。
敵の役割を見極める暇もない。
倒しても倒しても群がりくる数百体のゾンビを前に、動きも思考も、止めるだけの余裕はなかった。
戦闘が始まってから、数十分以上が経過した後。
どれだけのゾンビをいなし、どれほどの数を塵へと還したのか。
仲間をかばい続けた霊犬リキは姿を消し、朱彦、波琉那、チェーロの守り手3人も、供助とサーニャ、ピースが回復を繋ぐことで、なんとか立ち続けていた。
広間には今なお、ゾンビが蠢いている。
しかし、前衛、特に守り手たちは攻撃を受け続けたことで、体力の限界が近い。
「数が、多すぎます……!」
かさんだ疲労を前に、ついにチェーロが膝をついた。
霊犬ピースが回復に駆けつけたのに続き、サーニャが巨大な法陣を展開し、仲間たちの傷を癒していく。
隙を見て噛みつこうとしたゾンビを遠ざけるべく、蹴りをはなった時だ。
蹴りつけたゾンビが体勢を崩し、そのまま、灰となって消えていく。
(「あれっ?」)
一瞬の、違和感。
サーニャをかばおうと注視していたチェーロが、その理由に気づいた。
「今の、『サイキックを使わない攻撃』でした、よね……?」
回避行動を行う際、敵との間合いを取ろうと思った場合などに、蹴りを入れることがある。
本来であれば、サイキックを使用しない攻撃は敵の体表を覆う永続型の結界膜――『バベルの鎖』の効果で、かすり傷に留まってしまうのだが――。
声に気づいた供助が、仲間の攻撃に続いて眼前のゾンビを蹴り飛ばした。
するとやはり、床に倒れ、灰と化して消えていく。
「これは、『バベルの鎖を持っていない』……ということでござろうか?」
――そんなことが、ありえるのだろうか。
しかし、灼滅者たちのもつ知識情報から判断するならば。
『サイキックを使わない攻撃でダメージを受ける』ということは、そうとしか考えようがなかった。
「こないに危いもん、手土産にするわけにはいかへんよって!」
体力の限界に近づきつつある朱彦が、攻撃を肩代わりすると同時に、ゾンビたちへ体当たりを食らわせる。
もしも『バベルの鎖』を持たない存在が実在し、世に出たなら。
その情報はたちまち日本中を駆けめぐり、大混乱に陥ることだろう。
セイメイの狙いも、おそらくは、そこにある。
「危険因子と知ったからには、地上へ出すわけにはいかないね」
ヴォルフが中空から無数の刃を召喚し、残るゾンビたちを駆逐する。
8人だけではない。
広間に集まった150人近い灼滅者の奮闘の甲斐あって、5000体ほどのゾンビは、着実にその数を減らしていた。
半数の遺体は倒れたまま動かず残っていたが、起き上がり、噛みつこうとしてくるゾンビはほとんど灼滅し尽くしていた。
このまま、集まった灼滅者たちで残ったゾンビを灼滅せんと奮いたった、その時だ。
大広間に激震がはしり、
『――セイメイが倒されたぜ!』
使えないものと思っていた朱彦の無線機から、同じ下層探索班である東堂・昶(d17770)の声が響いた。
その言葉を裏付けるように、主をうしなった迷宮は地響きをたてはじめた。
大広間の壁はたちどころにヒビ割れ、天井から崩落していく。
「セイメイが倒されましたわ!」
「崩壊する前に撤退しましょう」
騒然とする広間内からもベリザリオ・カストロー(d16065)と葦原・統弥(d21438)の呼びかける声が聞こえ、迷宮を攻撃した灼滅者たちが転移を利用し、次々と姿を消していく。
「神乃夜!」
残るゾンビへ、最後の最後まで攻撃を向けようとする柚羽の腕を掴み、供助は仲間たちの姿を確かめた。
一同の疲労は色濃い。
けれどだれひとり欠けることなく、自分たちの足で立っている。
柚羽は忌々し気に崩れゆく天井を見やり、
「――っ!」
迷宮の壁へ向け、容赦なく魔力をはなった。
●
浮遊感に包まれたのち、身体がふたたび重力を感じた。
暗闇に慣れた眼を光がさし、灼滅者たちは思わず眼をつぶる。
まぶた越しに感じるのは、温かい光。
のどかに鳴き交わす鳥の声。
無事に脱出できたのだと安堵した、瞬間。
あの、生臭い匂いが鼻をついた。
「さっきのゾンビでござる!」
サーニャが警戒の声をあげ、すかさず重い飛び蹴りをはなつ。
視界には3体のゾンビ。
チェーロは疲労をおして、その場から跳躍。
赤の逆十字を顕現させた柚羽に続き、破邪の聖剣を繰りだし、1体を灼滅する。
朱彦が影を走らせると同時に、供助は迷わず攻め手へ回る。
異形巨大化させた腕で殴りつければ、2体目のゾンビもすぐに動きを止めて。
「ヴォルフ!」
呼びかけた朔耶が鋼糸を手繰り、敵を絡めとる。
間をおかず花守の狼が銀爪で引き裂けば、3体目のゾンビもすぐに塵と消えていく。
「一緒に、転移してきたんでしょうか?」
ヴォルフが呟き、周囲を見渡す。
8人が立っているのは、どこかの学校のようだった。
時計を確認すれば、迷宮へ潜入してから一時間ほどが経過している。
奥まった廊下の端なのでひと目にはつきにくい場所だったが、もしこれが学生の多い時間帯であったなら、混乱が起きる危険性もあった。
念のためにと周囲を警戒してまわったが、先ほどの3体のほかには、ゾンビの姿は見当たらない。
そして他班の灼滅者たちの姿も、なかった。
「ほかの班は、どこに転移したのかな?」
「いったい、どうなってるんだ……」
波琉那が首を傾げ、供助が額を押さえる。
富士の樹海。
セイメイの迷宮。
噛み傷をもつ遺体に、バベルの鎖をもたないゾンビ。
そして行きついた、この、『日常』の風景。
この一時間ほどで眼にし、体験した事実はあまりに重く――。
ようやく電波を受信しはじめた携帯電話に、続々と仲間たちの知らせが入る。
8人は『日常』の朝の喧騒を聞きながら、しばし身体をやすめた後。
自分たちの学び舎へ戻るべく、ふたたび歩きだした。
作者:西東西 |
重傷:なし 死亡:なし 闇堕ち:なし |
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種類:
公開:2016年3月2日
難度:やや難
参加:8人
結果:成功!
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得票:格好よかった 5/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 0
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