富士の迷宮突入戦~奇縁交差

    作者:長谷部兼光

     
     これは、予兆!?
     まさか、私の中にまだ、灼滅者の熾火が残っているとでもいうのか?
     ……だがこれで、私が尾行したあの軍勢の正体が判明した。
     あれは、軍艦島の大勢力。そして軍勢の向かった先は、白の王セイメイの迷宮!

     予兆を見たのも何かの縁だ、武蔵坂学園には連絡を入れておこう。
     その連絡で、灼滅者としての私は本当に最後。
     これより私は、混じり無きひとつの『黒牙』となる……!
     
    ●琵琶湖・田子の浦の戦い・戦後動向
    「本題に入る前に、現在の状況を少し整理してみましょう」
     見嘉神・鏡司朗(高校生エクスブレイン・dn0239)はチョーク片手に板書を始める。
     武蔵坂学園・天海大僧正の同盟は琵琶湖大橋の戦いに勝利し、結果『安土城怪人』、『もっともいけないナース』の灼滅に成功。
    『グレイズモンキー』も琵琶湖から消息を絶ち、その他安土城勢力残党は琵琶湖北側の竹生島に遁走。
     何とか逃げ果せたは良い物の、皆を纏め上げるだけのカリスマを持つ『頭』を欠いた事は如何ともし難く、多数の離散者を出しながら勢力は急激に縮小。
     遠からず……勢力の滅亡は、最早避けられまい。
    「夢幻の如くなり……ですね」
     他方、田子の浦上陸に成功した軍艦島勢力は、そのまま白の王の拠点・富士の樹海に進軍。
     エクスブレインとは全く違う予知能力を持つ『うずめ様』。
     現世に磐石の拠点を生み出す事ができる『ザ・グレート定礎』。
     ソロモンの大悪魔の一柱『海将フォルネウス』。
     セイメイと同じ『王』の格を持つ『緑の王アフリカンパンサー』。
     彼ら強大な力を持つダークネスと合流した白の王勢力は、大幅な戦力増強を果した。

    ●黒と白の因縁
    「しかし……です。多くのダークネスを富士の迷宮へと招き入れた事は、白の王に致命的な隙……即ち、クロキバに絶好の機会を与える事にも繋がってしまいました。何せ、彼女がずっと探していた迷宮への入り口を、自ら晒してしまったのですから」
     ならば無論と、闇堕ちしてクロキバとなった白鐘・睡蓮(荒炎炎狼・d01628)は先代達の意志を継ぐべく、白の王の迷宮に挑もうとしている。
     それと同時に、クロキバは武蔵坂学園に対してこの突入口の情報をもたらした。
    「今こそ白の王セイメイだけでなく、田子の浦の戦いでは討ち取る事が出来なかった軍艦島のダークネス達を灼滅する千載一遇の好機となるでしょう。ただし……」
     白の王の迷宮の入り口を通過できる人数には限りがあり、武蔵坂学園全軍で攻め入る事は出来ない。
     また、この機を逃せば、再び侵入する事は出来なくなる。
     迷宮を突破し有力なダークネスを灼滅する事は難しいが、それでも挑戦する意義は十分にある。
     更に、有力敵意外にも、白の王が長い年月をかけて準備してきた作戦が『何』なのかを迷宮内で探り当て、その準備してきた作戦を破壊する事が出来たなら、その功績は計り知れないものになるだろう。
    「誰が何をし、何を為すのか……より良い成果を得るためには、作戦に参加する全チーム間の連携も重要になってくるでしょう」
     なお、白の王の迷宮は、内部から迷宮を破壊しようとすると外にはじき出されるという防衛機構がある。
     その為、危機に陥った場合はこれを逆利用し、迷宮(ダンジョン)自体に攻撃を加える事で緊急脱出が可能だ。
     また、この防衛機構により、迷宮自体への直接破壊工作もほぼ不可能となっている。この点は注意が必要だろう。
    「これまで様々な暗躍をしてきた白の王の喉下に牙をつきつける今回の作戦は、非常に重要なものと言えるでしょう。ただし、迷宮の性質上、敵拠点に攻め込むこちら側の戦力はそう多くはありません」
     この作戦で取れる選択肢は多い。
     ……いや、多すぎると言うべきか。
     明確な成果を上げる為には、目的を絞る事も必要かもしれない。
    「大規模な作戦が連続していますが……どうかお気をつけて」


    参加者
    小碓・八雲(鏖殺の凶鳥・d01991)
    彩瑠・さくらえ(三日月桜・d02131)
    文月・咲哉(ある雨の日の殺人鬼・d05076)
    ユークレース・シファ(リトルセルリアンローズ・d07164)
    オリキア・アルムウェン(翡翠の欠片・d12809)
    静闇・炉亞(刻咲世壊・d13842)
    黒鐵・徹(オールライト・d19056)
    目・茸(星めぐりの歌・d19289)

    ■リプレイ

    ●虱潰し
     富士樹海。午前6時。
     天然の氷穴を利用して作られた迷宮内は、天から地から無数の氷柱が伸びに伸び、月明かりに照らされた夜道の如く、全域がうすぼんやりと輝いていた。
     それだけならば百歩譲って風光明媚な観光名所、と言う感想だけで済むのだが、下層部へ足を踏み入れた黒鐵・徹(オールライト・d19056)はあまりの臭いに顔をしかめた。
     思わずチームメンバーの顔を見回せば、全員がこの臭いに顔を歪めている。
    『業』の匂いでは無い。
     だが。だとしたら、この『強烈な生臭さ』は、一体……?

     かち合う形で遭遇したノーライフキングを、静闇・炉亞(刻咲世壊・d13842)が即座の殺刃鋏で切り裂き、さらに追撃と文月・咲哉(ある雨の日の殺人鬼・d05076)の閃光百裂拳で徹底的に乱撃を浴びせると、突如としてチームの前に現れた屍王はそのまま反撃一つせずに地に伏した。
     どうやら彼は、既に手負いであったらしい。
    「馬鹿な……この下層部に……一体どれだけの灼滅者が……!」
     その断末魔から察するに、彼に深手を負わせたのは複数のチームだろう。
     前触れなく現れたのも、奇襲を仕掛けるためではなく、単に彼が前方無警戒で逃げ回っていたからだ。
     自身の本拠地(ホーム)の筈なのに、何処へ移動しても灼滅者がいる。
     灼滅者と接触し、ここは不利と一旦逃走するが、その度に別のチームと遭遇し攻撃を受け……灼滅されるまでその繰り返しだった事は想像に難くない。
    「縁の剥奪者が用意した舞台で繋ぐ縁、ね……腐れ縁でも繋がれば御の字ってとこか」
     彩瑠・さくらえ(三日月桜・d02131)が道中拾った小石を掌中で玩ぶ。
     迷宮に突入した灼滅者の半数がここ下層部に殺到したのだ。
     全体人員の多さから、音を立てず極力戦闘せずの隠密行動は意味を為さず……。
     下層班は充実した戦力を背景に、文字通り虱潰しで迷宮内を探索する。
     結果、息を殺し、身を潜めなければならぬのは、迷宮内に取り残された敵勢力の方だった。
     故に、些か拍子抜けの展開ではあった。
     ともすれば。
     氷柱を伝い、雫がぽとりと地面に落ちる。
    「上層に向かったチームは、大丈夫だろうか」
     小碓・八雲(鏖殺の凶鳥・d01991)は淡く光輝く天井を見上げた。
    「……駄目ですね。インカム、使えません」
     炉亞が他班との通信を試みるも、インカムから聞こえてくるのはノイズ音ばかり。
     周囲の様子を撮影する事自体は可能なので、何かしらの形で通信を妨害されていると見るべきか。
    「うーん……この周辺は、特に変わった所は無いみたいだね」
     天、地、壁……オリキア・アルムウェン(翡翠の欠片・d12809)が辺りをくまなく調べ上げるが、空振りに終わった。
     先程オリキアが隠し小部屋を発見し、そこでユークレース・シファ(リトルセルリアンローズ・d07164)がダイダロスベルト『Aquarius』を入手したが、それは偶然に偶然が重なった結果だったのだろう。
     ダークネスは殲滅道具を住処に溜め込む性質があると聞くが……この『何もなさ』はセイメイ勢力が、失策を続けた代償なのかもしれない。
    「東西南北いずれも行き止まり。後は……」
     目・茸(星めぐりの歌・d19289)がスーパーGPSを使用するも、指し示された現在位置は迷宮入り口からそう離れていない。
     ならばと茸は富士山周辺地図をウィングキャット・チョボ六に一旦預け、手動でマッピングした方眼紙を確認するが、どうもこの迷宮は四方へ平面的に広がる類の構造ではなく、『目的のモノ』へと続く道は、より下層部へと伸びているらしかった。
    「下へ下へ地の底へ、か……まるで黄泉平坂やな……」
     茸達は意を決し、さらなる地下へと足を踏み入れる。

    ●群
     前方にいるのは別の班。後方にいるのも別の班。
     迷宮は入り組んでいるが、本命に通じる道はどうやら一つしかないらしい。
     このままいけば、全てのチームが最下層に辿り着く。それは良い。
     だが、地下へ一歩降りる毎に強烈になっていく生臭さが、『セイメイの策』と関連があるのなら、それは間違いなく碌なモノではない。
     坂を下り終え、傾斜がなくなりしばらく経つと生臭さは消えた。
     ……否。最下層に辿り着いたのなら、これ以上臭くなる事はないのだから、嗅覚が麻痺したのだ。
     下層全チームがそのまま歩を進めると、やがて開けた場所に出た。
     ドーム型の野球場が複数個すっぽりと入りそうなくらい、広大な空間であり、そしてその中央に置かれていた『それ』こそ、『セイメイが準備していたモノ』に相違なかった。
     ……楔。死者の融合体。ブレイズゲート。白炎換界陣。スサノオ大神。
     灼滅者達は『それ』に対する様々な予想を立てた。
     しかし、その正体は。
    「ふ――」
     八雲はその光景に驚愕し、
    「――ざけるな! 外道! 貴様が奪ってきた多くの命と、縁と……誇りの集大成がこれだと言うのか!」
     驚愕は刹那、憤怒へと昇華する。
    「なっちん……」
     ユークレースは深く目を瞑り、ナノナノ・なっちんを強く、強く抱きしめた。
     ――『ダークネス』は、今この瞬間も人類を苦しめている……。
     不意に、そんな当たり前の言葉が脳裏を過った。
     そんな事はわかっている。
     わかっていた筈だ。
     だが……これは。

     ランドセルを背負った少年の姿が在った。
     学生服を身に纏った少女の姿が在った。
     スーツを着込んだ青年の姿が在った。
     家事途中であったであろう主婦の姿が在った。
     くたびれた様子の中年の姿が在った。
     趣味に興じていた筈の老人の姿があった。

     一万人分の、死体が在った。

     視覚も嗅覚も、通常持ち得る感覚は、そのあまりに異様な光景を前に麻痺を起こす。
     しかし……灼滅者としての超人的な感覚は立ち止まる事を許さない。
     徹には明確に眼前の死体たちが発する『業』の匂いを感知できた。
    「皆さん、気を付けて下さい! これは……ただの死体じゃないです!」
     侵入者の気配を感じてか、比較的損傷の軽い――まるで噛み殺されたかのような痕のある死体達はむくりと起き上がり、此方に生気の無い顔を向けて来る。
    「これは不死の軍隊じゃない! 死の群れ……死の群体……!」
     炉亞の右瞳に無数の死が映り込む。
     動き出した死の数は、およそ五千。
    「文字通り、腐っているね。縁に限った話じゃない。白の王セイメイ……その発想の根本が……!」
     せめて彼らを『涅槃』へ導くために、さくらえは黒塗りの断罪輪を携える。
    「なるほどなぁ。ダークネスは敵。学園がそう価値観をお仕着せてくるわけや」
     茸は合点が行ったと頷く。
     今、この瞬間だけはその価値観に乗ってやろう。
     自分の足で立って考え歩き始める。
     その岐路が訪れるのは、きっと、もう少しだけ先の話なのだ。
    「蠢く死者達……セイメイの研究成果だ。ただのゾンビ、ではないだろうな。その噛み痕は人の歯型か?」
     咲哉が日本刀・十六夜の柄に手をかける。
     数が多い。だがここで可能な限りゾンビを撃破しなければ、例えセイメイの灼滅に成功したとしても、誰かがこの業を引き継ぐだろう。
     もしも少数精鋭で下層部探索に赴いていた場合、どうすることも出来ず相当数の闇堕ちを出しながら撤退するしかなかった可能性が高い。
     だが、今現在、迷宮最深部で五千のゾンビと相対している灼滅者は18チーム144名。
    「これだけの灼滅者が居ればやれるよ! だから行こう。皆で、一緒に!」
     オリキアの溌剌とした言に彼女のビハインド・リデルは幽かに頷いた。
     サーヴァントも数に含めれば、それ以上だ。
    「さて……迷宮攻略と行こうじゃないか!」
     咲哉の抜刀と同時、灼滅者は死の怒濤に飛び込んだ。

    ●血戦
     十は斬ったか。二十は撃ったか。
     否。既に倒した敵の数を誇る意味はなく、仮に数千の屍を既に屠ったとしても、眼前には未だ数千の屍がいた。
     敵の実力は然程ではないが、数が数だ。
     真綿の如くゆっくりと体力が削り取れていくのを皆実感していたが、まだ……もつはずだ。
     八雲が縮地法で屍の一体に距離を詰めると、その屍を踏み台に跳躍し、さらに何も無いはずの空を蹴って加速する。
     赫を宿す霊刀の強襲は八雲を全く認識していなかった個体(ゾンビ)の急所を斬り、屍はたちまち動きを停める。
    (「ん……?」)
     ふと八雲が足蹴にしたゾンビを見ると、その個体も動かなくなっていたようだった。
    「回収は……無理だね。『成果』を持ち帰るためには、彼らを完全に倒さなくちゃならない。妙な話だけど」
     八雲に押し寄せる屍の群れ。
     その集団相手に、さくらえは九字を唱える。
    「その為に、出来る事は惜しまないよ」
     九字を唱え終わると、屍の集団は内側から破裂し倒れ伏すが、未だ無傷の屍達はそんな光景を意にも介さず……屍が、屍を越えてやってくる。
     そのまま敵意をユークレースへ向けたのは、彼女がメディックだからと言う、計画だった行動では無いだろうと、徹はユークレースへ迫る攻撃を受け止める。
     琥珀糖を一齧りしたかったが、腐臭に満ちたこの空間では糖の甘さもわかるまい。
    「ひどいです……ユルよりちいさな子のゾンビも、たくさんいて……」
     沈んだユークレースを元気づけようと、なっちんは味方を回復させながら元気一杯彼女の周囲を飛び回る。
     その姿に励まされたのは、ユークレースだけではない。
     徹は僅かに微笑むと、縛霊手による除霊結界を構築する。
    (「そうだ……あの子もきっと、この迷宮のどこかで戦っている」)
     心が折れてしまいそうな光景の中にいるが、こんなところで情けない恰好は出来ない。
     そう。強く、勇敢に。
    「……ユルはみんなで帰りたいのです……! だれも倒れさせたりなんて、したくないのです……!」
     小さく吐露した言葉とともにユークレースのダイダロスベルトが炉亞を癒し、そして堅固な装甲に変じた。
    「うん。皆で、帰るんだ。そして……」
     炉亞はエアシューズに『影』を宿すと、屍を鋭く蹴り砕く。
    「絶対にみんなで、『壊』す。セイメイの好きになんて、させない」
     蹴撃で吹き飛ばされた屍は、そのまま屍の群れへとぶつかるとドミノの如くバタバタと倒れ、倒れた屍は二度と起き上がってこなかった。
     何か……違和感がある。出来過ぎのような気もした。
     炉亞への凶撃をリデルが引き受ける。
     今まで散々に攻撃を引き受けたリデルはそれを最後に消滅するが、それはオリキアの計画通りでもある。
     だが、リデルを攻撃した屍自体も反動で崩れたのは想定外だ。
    「ダメージが蓄積していたから自壊した……の?」
     その様子を横目に入れながら、オリキアはセイクリッドウィンドで前列を癒す。
     柔らかな風がそよいだ影響か、戦場にひらひらと紙片が舞う。
     何かの文書の切れ端か、咲哉は隙を見て宙を漂うそれを掴むと、文字の妖精さんを発動しようとして……やめた。
     ESPを駆使するまでもない、在り来たりで平易な文章だったからだ。
     紙片に書かれた内容は、どこにでもある小学校の学級通信。
     丁寧に発行年月まで印字されている。
     その日付は――2016年2月。
    「……っ!」
     それを見て、咲哉は彼らの素性を理解する。
     異常な生臭さの正体は、これだ。
     彼らはつい最近まで生きていた『腐りかけの新鮮な死体』だからこそ此処まで強烈な異臭を放っていたのだ。
     そして、もう一つ。
     咲哉は十六夜の『峰』部分で屍を打ち据えた。
     サイキックですらない単なる峰打ち。
     だがそれでも簡単に……屍は動かなくなった。
    「やはりそうか。こいつら『バベルの鎖』が無いんだ」
     咲哉は確信する。
     通常攻撃で倒せてしまうと言う事は、そう結論付けるより他無い。
    「ということは、同じバベルの鎖の能力の、『情報が過剰に伝播しない』って効果も無くなってるか知れへんなぁ。チョボ六さん!」
     茸の呼び声に応え、十分の消滅から復活したばかりのチョボ六は肉球パンチならぬ猫頭突きで屍達を沈める。
    「もし、バベルの鎖の無い状態のゾンビが大量に出現すれば、何処もかしこも大混乱は避けられへん。白の王セイメイ……一体何を企んでいたんや?」
     今ある情報だけでは、それ以上はわからない。
     唯一確かなのは、仮に策が実行されれば多くの人々が恐怖の底でもがき苦しむ事になると言う、その一点。
     そしてそれは、セイメイの策を御破算にする理由としては十分に過ぎる物だった。

    ●陽の光差す場所で
     怒濤は波濤に変わり、波濤はさざ波に変わり、そしてさざ波は水面を揺らす小さな波紋に変わった。
     下層班全員が力を合わせ、残存するゾンビは残り数百。
     戦闘開始からおよそ数十分で、四千数百体以上のゾンビを打倒した計算になる。
     皆息も絶え絶えだがあともう少し、といった頃合いで迷宮内が大きく揺れる。
    『セイメイの灼滅に成功した』
     無線が復旧し上層班から齎されたその吉報は、瞬く間に迷宮最深部を駆け巡る。
     この振動は主を失った迷宮が崩壊する前兆か。
    「だったら早く逃げないと! 崩壊に巻き込まれて生き埋めになっちゃうよ!」
     皆がオリキアの言葉に応じ、一か所に集まると、復活したビハインド・リデルが亀裂の入った迷宮の地面めがけ霊撃を放つ。
     霊撃が地に接触した直後。
     全員の意識が一瞬、途切れた。

     白む空。
     視界が一気に明るくなって、外の光に慣れるまで、しばらく眼に痛みが走った。だが、嬉しい痛みだ。
    「うん? ここ、どこなんやろ?」
     茸が首を傾げる。スーパーGPSが反応しない。
     日本の高校、その校庭である事は確かだが……もしかすると現在位置は静岡や山梨では無いのかもしれない。
    「僕たち『は』帰ってこれた。でも……」
     そう呟いた炉亞の視線の先に居たのは、スーツを着込んだ屍だった。
     おそらく、こちらの『転移』に偶然巻き込まれたのだろう。
     それともただ……無理やり死体にされただけの彼もまた、日の当たる場所へ帰りたかっただけなのかもしれない。
    「業の匂いがしません……これは?」
     目の前に屍人がいるにも拘らず、徹のDSKノーズは何の反応も示さない。
    『業』が充満しすぎて気づかなかったが、もしかするとあの地下には、匂いのする個体としない個体が混在していたのだろうか。
    「悪いが……お前を日常に帰してやる事はできない」
     咲哉の言葉を皮切りに、灼滅者達は今一度、屍へ殲術道具を突きつける。
    「これも一つの『縁』なのかな。けど、その先は」
     サウンドシャッターを展開したさくらえは、『その先』を敢えて口にしなかった。
    「殺人鬼に出来ることなんて、たった一つしかない。業を、殺す。それだけだ……」
     八雲は静かに屍へ語りかけ、
    「安らかに……です」
     ユークレースはなっちんを抱きしめ、優しく、柔らかい声色でそう発し……。
     
     灼滅者達は屍を葬った。
     この結末は、彼らにとって幸運なものと言えただろう。
     ……これ以上、心無い存在に操られる事は無いのだから。

    作者:長谷部兼光 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2016年3月2日
    難度:やや難
    参加:8人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 6/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 1
     あなたが購入した「複数ピンナップ(複数バトルピンナップ)」を、このシナリオの挿絵にして貰うよう、担当マスターに申請できます。
     シナリオの通常参加者は、掲載されている「自分の顔アイコン」を変更できます。
    ページトップへ