セイメイ最終作戦~追い詰められて

    ●追い詰められて
    「おい、女子共、ビビってる場合じゃねえぞ、棚動かしてバリケード作るから、どんどん本出せ!」
     不良っぽいため普段は敬遠され気味の田中だが、意外に肝が据わっていることに、佳菜はちょっと驚き、涙を拭いた。
    「わかった、この棚だね?」
    「急げよ!」

     その日。
     放課後の図書室、佳菜たち数人の女子グループは図書室で勉強をしていた。そこに、田中たちの不良グループが突然駆け込んできて、入り口の扉を乱暴に閉めた。
    「図書室では静かにね」
     カウンターの司書教諭が眉を顰めたが、田中は顔を引きつらせ施錠までして。
    「そんなこと言ってる場合じゃねえっすよ!」
     ……と。
     ガタガタガタ!
     廊下から乱暴に扉が揺すぶられた。
    「何?」
     佳菜たちが廊下に面した小窓から覗き込むと、そこには。
    「……ひっ」
     映画で見るようなゾンビが数体、扉に群がっていた。
     しかも全身血塗れで。

     田中たちはゾンビと教室で遭遇したのだという。しかも、ゾンビに食い殺された生徒は、ゾンビとして復活したという。
    「ダチもゾンビになっちまって、食い殺されそうになったぜ」
     せっせとバリケードを作りながら、田中は顔を歪めた。
     図書準備室から、警察に通報していた司書教諭が青ざめた顔で出てきた。
    「警察、どうでした?」
    「来てはくれるけど、ゾンビが出たなんて、全然信じてくれないわ」
     ちっ、と田中は舌打ちし、
    「仕方ないわよ……」
     佳菜は宥めた。
    「まあここに来りゃ本当のことだって、イヤでもわかるだろ」
     そう言っている間にも、向かい合わせにある西校舎の廊下を、何体ものゾンビがうろついているのが見える。図書室は東校舎3階にあるので見通しがいいのだ。
     バリケードの向こうの扉は、先ほどからガタガタ言いっ放しだ。微かな腐臭とうめき声さえ伝わってくる。
    「ホントなら即行機動隊でも来てくれりゃいいんだけどな」
    「どうして?」
    「ちょっとやそっとじゃ倒せねえよ、アイツら。俺、机で思いっきりぶんなぐって首へし折ってやったんだけど、それでも倒れなかった」
    「そんな……」
     拳銃ならば何とかなると信じたい。
    「……ねえ田中、校内に、私たち10人以外に生きてる人、まだいるかな?」
    「そもそも試験中で、残ってる生徒少ないからな……でも、いると思うぜ。西校舎にもゾンビがうろついてるってのは、獲物を探してるってことだろ? きっと俺らみたいに、必死に立てこもってるヤツらがいるんだ」
    「そっか……」
     西校舎にいる人たちも、頑張って欲しい……私たちも絶対諦めないから。
     佳菜は心からそう思った。

    ●武蔵坂学園
    「まずは、富士の迷宮突入戦の大勝利、おめでとうございます。白の王セイメイや海将フォルネウスを灼滅し、セイメイが準備していた数千体のゾンビを壊滅させ、迷宮も崩壊させたのですから、大成功と言っていいでしょう」
      春祭・典(高校生エクスブレイン・dn0058)はそう言ったが、表情は堅い。
    「ただ、喜んでばかりもいられません。日本各地の高校で、白の王の置き土産ともいえる事件が発生しているのです」
     各地の学校に出現した数体のゾンビが、生徒などをゾンビ化し、学校を征圧しようとしている。
     噛み殺した人間を同じゾンビとする性質から、このゾンビは、仮に『生殖型ゾンビ』と呼ぶ事とする。
    「生殖型ゾンビは、我々エクスブレインの予知を妨害する力があるらしく、事件現場の状況はわかりません。しかし、事件が起こる場所は確認できているので、急ぎ現場に向かってください」
    「アタシたちが行く学校はドコなの?」
     黒鳥・湖太郎(黒鳥の魔法使い・dn0097)が訊くと、典はタブレットを操作し、北関東の地方都市の地図を呼び出して拡大した。
    「この県立高校です……地図によると、校舎が東西二棟あるようですね。見取り図も急いで用意します」
     全校をカバーするには役割分担をする必要があるかもしれない。
     敵となる生殖型アンデッドは、富士の迷宮の下層にいたものと同じと推測される。決して強力な敵ではないが、噛み殺した人間を同じゾンビとする能力は脅威だ。放っておけば、次々と数を増やし、生徒だけでなく周辺住民をもゾンビ化してしまうだろう。
    「幸い、数千体いた生殖型ゾンビの大多数は、富士の迷宮で灼滅できています。生き残りは100体以下、その全てが地上に出現したと推測されるので、今回の作戦で総てを撃破できれば、生殖型ゾンビの脅威を完全に払拭する事が出来るでしょう」
     また、生殖型ゾンビには『バベルの鎖を持たない』という特徴もあるため、ゾンビ撃破後、可能な範囲で、ゾンビがいたという物証を持ち帰るか破棄する必要がある。
     バベルの鎖が無ければ、情報が伝達されないという効果も無くなるため、物証を残せば残すほど、ゾンビのような超常現象が表に出てきてしまう可能性が高まる。
    「完全に情報を遮断する事は不可能ですが、可能な限り証拠を隠滅してください」
     深刻な事態に、頷く灼滅者たちの表情も堅い。
    「生殖型ゾンビが5000体もいれば、日本社会をズタズタにする事も簡単だったでしょう。富士迷宮の戦いで最下層に向かってくれた皆さんは、結果的に日本を救ったのかもしれません……その努力を無駄にしないためにも」
     典は、どうかよろしくお願いします、と頭を下げた。


    参加者
    三園・小次郎(燕子花のいろ・d08390)
    青和・イチ(藍色夜灯・d08927)
    狩家・利戈(無領無民の王・d15666)
    居木・久良(ロケットハート・d18214)
    神宮寺・柚貴(不撓の黒影・d28225)
    波崎・葉織(斬り狂い・d28232)
    押出・ハリマ(気は優しくて力持ち・d31336)
    依代・七号(後天性神様・d32743)

    ■リプレイ

    ●東甲班1
     東校舎の壁をESP壁歩きで駆け上った青和・イチ(藍色夜灯・d08927)と依代・七号(後天性神様・d32743)は、10人ほどが立てこもっているはずの図書室を、窓から覗き込んだ。
     バリケードのおかげで一般人は無事なようだったが、彼らの生気を求めて集まってきたゾンビはたくさんいる様子で、ぎしぎしと扉が外側から揺すぶられている。更に、廊下に面した小窓のひとつが破られ、そこから土気色の腕が突っ込まれている。男子生徒のひとりが勇気を振るってその腕を椅子で殴りつけ、他の生徒たちと司書教諭らしい女性は、恐怖を必死に堪えた表情でバリケードを補強している。
     イチと七号は素早く視線を交わすとそのまま平行移動し、
     ガシャーン!
     七号がロッドで派手に廊下の窓を破った。2人は廊下に飛び込み、同時にイチは霊犬のくろ丸を出現させる。
     図書室の扉に群がっていたゾンビたちは、突然出現した壁越しでない獲物の方をぞろりと振り向く。10体ほどもいるだろうか。
    「怖い思いしてる人……早く助けなきゃ」
     イチが素早く縛霊手を挙げて結界を張り、くろ丸は六文銭を連射し、七号は鋼の帯を四方に放出した。それだけで、灼滅こそできなかったが、ゾンビたちには結構なダメージを与えることができたようだった。富士の迷宮で得たデータ通り、1体1体は決して強くない。数こそ多いが、2人と1頭でここは始末できるだろう。
     ゾンビの中には明らかに古びたものが3体おり、おそらくこれが富士の迷宮から転送された、この事態の元凶であろう。
     ゾンビが離れた小窓から、生徒のひとりが驚いた顔でこちらを覗いている。
    「助けに来ました」
     七号が精一杯の笑みで語りかけ、
    「皆さんは、下がっていてください」
     任せてとばかりに頷いた。

    ●東乙班1
    「ていっ!」
     力強い回し蹴りが2体のゾンビをまとめて蹴り倒し、無雑作に閉じられた巨大な鋏の刃が1体の首をジャキリと斬り落とす。続けざまにもう1体の頭部を、十字架の一撃がグシャリとたたきつぶした。
    「ゾンビって、あんまり好きじゃないんだよね……」
     交通標識で殴られた傷口を円――押出・ハリマ(気は優しくて力持ち・d31336)の愛犬――に癒やされながら、波崎・葉織(斬り狂い・d28232)が零した。
    「ま、斬れればなんでもいいけど」
     ハリマは、素早く回復を行った円を褒めてやってから、
    「富士で数削れてなかったらどんな酷いことになってたのか……」
     制服姿のゾンビの『残骸』を見下ろして、柔和な丸顔を歪ませた。
    「ここできっちり食い止めてセイメイの目論見をなかった事にしてやるっす!」
    「うんっ、北関東の学校の危機、宇都宮ぎょうざのご当地ヒーローとして、精一杯手伝わせてもらうよ!」
     元気に宣言したのは、サポートの八重葎・あき(とちぎのぎょうざヒーロー・d01863)。
     彼らは東校舎の1階から探索を始め、甲班が先に突入しているはずの3階の図書室を目指している。
     どうやら、1,2階で発生したゾンビは3階を目指しているようで、彼らがゾンビを見つけたのも、校舎の真ん中付近にある階段だった。
    「1階の探索をさっさと済まして、上を目指した方がよさそうだね」
    「そうっすね」
     3人と1頭は足を速め、更に奥へと向かう。

    ●西班1
    『西校舎の1階には、少なくとも外からはゾンビの姿は確認できないわ』
     箒を使って外から探索を行っている黒鳥・湖太郎(黒鳥の魔法使い・dn0097)からの通信通り、今のところゾンビの姿は見かけない。
    「誰かいませんかー!?」
    「助けにきたぞー!」
     西甲班の居木・久良(ロケットハート・d18214)と三園・小次郎(燕子花のいろ・d08390)の声がガランとした廊下に響く。
    「助けられる命は、出来るだけ助けたいよね」
     久良が苦しそうな表情で呟いた。
    「手から溢れていってしまうものもたくさんあるだろうけど……可能性があるうちは命懸けで助けたいのに」
     先ほど彼らは幾つかの遺体をサイキックで葬った。ゾンビはいなくとも、明らかに殺されたばかりの遺体が――ゾンビとして蘇る可能性のある死体が幾体か発見され、それらは涙を呑んで始末せざるを得なかった。
    「そうだな、助けを求める声には応えてやらなくっちゃ」
     小次郎が励ますように久良の背中をポンと叩いた。
    「それがヒーローってモンだろう? なぁ、きしめん!」
     白い霊犬も、ワンと鳴いて尻尾を振った。その笑顔に、久良も釣られて笑みを浮かべた。
    「この階にはおらんみたいやな」
     トイレから西乙班の神宮寺・柚貴(不撓の黒影・d28225)と狩家・利戈(無領無民の王・d15666)が出てきた。2人は1階の外から見えない場所を隅々まで調べ回っていたのだ。
    「やっぱ、上に行ったんじゃねえの?」
     と、利戈が階段を見上げた、その時。
    『生存者発見!』
     会議モードにしてある携帯から、野太い金切り声が。
    『西校舎2階の南奥の部屋よ! ゾンビが集まってきてる。バリケードで何とか防いでるようだけど、危ないわ!!』

    ●東甲班2
    「これで……ひとまず」
     目映い魔力の火花を散らす七号のロッドの一撃で、図書室前のゾンビの掃討は一段落した。
     くろ丸に、かすり傷ではあるが七号の噛み傷を癒すように命じてから、イチは携帯を取り出して。
    「ここの守りは、サポートの人に、お願いして……僕らも、探索に?」
     西校舎で生存者が発見されたという連絡が先ほど入ってきた。こちらにもまだいるかもしれない。イチの提案に頷いた七号は、図書室の中の一般人たちに尋ねる。
    「ここの他に、東校舎内で人が残っていそうなところはないでしょうか?」
     その間にイチは東乙班に連絡を入れる。
    「八重葎さんに、図書室の守備を、お願い、できないかな?」
    『承知した……と言いたいところだけど』
     答える葉織の声のバックから、激しい戦闘音や、ハリマの『どすこーいッ』という力のこもった叫びが聞こえてくる。
    『3階に上ろうとしているゾンビが続々やってきてさ、階段から動けないんだよね。図書室の生存者の匂いに惹かれてるのかな』
    「……え」
     と思わず辺りを見回すと、確かに遠くから戦闘音が響いてくるし、
    「……!」
     廊下の奥の部屋から2体の新たなゾンビが現れて、こちらに向かってくるではないか!
    「こっちもまた、出た。とりあえず、がんばるよ」
     武器を握りなおして新手の接近に備えた時、また携帯が、別の仲間の声を届けてきた。
    『こちら正門、警察がきたよ』

    ●正門にて
     正門で、司書教諭の通報でかけつけた警察の到着を待ち受けていたのは、サポートの富士川・見桜(響き渡る声・d31550)である。
    「警察がきたよ。対処するね」
     手早く仲間たちに連絡すると、王者の風を吹かせる。
     戸惑った表情でパトカーを降りてきた2名の制服警察官に、
    「今この高校で起きている事態は、普通の人には対処できないことなの」
     毅然と言い聞かせる。
    「警察官といえども危険だから、帰ってね」
     警察官はおどおどと顔を見合わせた。彼らは『ゾンビに襲撃されている』という通報内容に、半信半疑でやってきたのだ。しかし現場で『普通の人には対処できないこと』が起きていると言われてしまえば、むしろ緊急事態が起こっていると認識せざるを得なくなってしまったわけで……。
     警察官の内で、ESPの力と、職業意識がせめぎ合う。

    ●西甲乙班2 
     生存者がいるという連絡を受けた西校舎担当の2班は、道中幾体かのゾンビを蹴散らし、目当ての2階奥の教室にたどり着いた。
    「急げ!」
     すてに引き戸の一部が破られており、数体のゾンビが机・椅子などを積み上げたバリケードを崩そうとしている。ゾンビはどうやら職員室から来たらしく、生前は教師だったとおぼしき大人たちだ。 
     教室内からは、パニック状態の激しい悲鳴が聞こえてくる。
    「助けにきたで!」
     群がるゾンビに向け、まずは柚貴が強烈な竜巻を呼び起こし、小次郎が縛霊手を挙げて結界を張る。久良が『454ウィスラー』を連射し、利戈は槍をぶん回して突っ込んでいき、敵を引きつける。
     立て続けの攻撃に、ゾンビたちはたまらずバリケードから離れた。クラッシャー2人は手を緩めることなく追撃し、ディフェンダー2人は、攻撃陣のフォローをきしめんに任せ、バリケードの向こうに呼びかけた。机や椅子の隙間から見えるのは、女子生徒ばかり5人。
    「ここにいるヤツは今倒してやるから、もうしばらくここにいてくれな」
     小次郎がそう呼びかけたが、女子たちはやはりパニックに陥っているらしく、ここから出たい、帰りたい、学校から逃がしてくれと泣きわめく。
     小次郎と利戈は顔を見合わせると、致し方なくESPを発動した。小次郎が王者の風、利戈がラブフェロモン。
    「校舎内はまだ危険だ。そのまま立てこもってろ」
    「この階の安全はすぐに確保するから、動かないでくれよ」
     宥め賺しと威圧で、女子たちはとりあえずおとなしくなってくれたが、何とも申し訳ない気分になる。
     しかし2人はそんな気持ちを振り切って、戦線へと目をやると。
     4体いたゾンビは、すでに半分に減っていた。見る間に柚貴がもう1体を杖で打ちのめし、最後の1体も久良が裁きの光で断罪した。
     とりあえずここは一段落だ。
     4人はふっと息を吐き、改めて教室の中へと呼びかける。久良が念のためラブフェロモンを重ねがけし、机の間から何とか顔を覗かせて笑いかけ、
    「大丈夫だから、ここでじっとしててね……えっ!?」
     その笑顔が凍り付く。バリケードのすぐ下の見えづらいところに、遺体が寝かされているのを発見したのだ――しかも噛み殺されたように見える。

    ●東乙班2
    「アハハ! 斬られてもう1回冥土に行きなよ!」
     葉織が蛇剣をハイテンションに振り回し、ハリマが回し蹴りで3体をひとまとめに階段から蹴り落とした。
     彼らは2階を探索する暇もなく、東校舎2階から3階へ上っていこうと集まってくるゾンビを階段付近で倒し続けていた。
     蹴り落とした3体はもう動かないかと思われたが、またぎくしゃくと起きあがる。
    「しぶとい……っすね」
     2階の探索もまだだし、3階の甲班も図書室に釘付けで他の場所まで調べにいく余裕はないだろう。外から探索している湖太郎も、西校舎から見て回っているので、まだこちらまで来ていない。
     気は焦るが、まずは生存者がいると確認できている3階に行こうとするゾンビをくい止めなければ……ハリマが拳を鋼鉄のように堅く握ったその時。
     カッと頭上に光が広がり、同時に、無数の刃が起き上がりかけていたゾンビを薙ぎ倒した。3階から階段に身を乗り出したイチの除霊結界と七号の虚空ギロチンだった。
    「図書室から階段までは、安全確認できました」
    「なので、八重葎さん、図書室の守備、お願い」
     ゾンビにとどめを刺した甲班の2人は冷静な表情で、しかしちらちらと図書館の方に目を配りながら言った。生存者に携帯の番号を預け、連絡はとれるようにしているといえ、気が気ではない様子。
     あきは頷き、階段を駆け上がっていく。
    「これで2、3階の探索ができるっすね」
     ハリマがホッとしたように血と体液に汚れた顔を、ジャージの袖で拭うと。
    『東班、動けるッ?』
     携帯から湖太郎の声が。
    『今、2階の北端の教室で3体蘇ったわ!』
    「了解、乙班急行する」
     葉織が嬉しそうに答え、2つの班はぐっと拳を突き出して互いに気合いを入れあうと、2階と3階に再び別れた。

    ●西甲乙班3
     西班はサポートのカーリー・エルミール(元気歌姫・d34266)を呼び寄せることにした。ESPが効いているとはいえ、パニック状態だった女子生徒たちの眼前で遺体を灼滅するのは……遺体をきちんと整えていたところから見ても、彼女らの友達なのだろうし……精神的なショックが大きいであろうと判断したのだ。
     女子生徒たちの話によると、亡くなってからボチボチ15分経つということだが……。
     生存者の避難誘導のため待機していたカーリーは、壁歩きを使ってすぐにやってきた。事情を簡単に説明し、バリケードを少しだけ崩して教室に入ってもらう。
     小次郎が威圧的に、けれど言葉を選びつつ。
    「彼女は傷の手当と君らの護衛のために残ってもらう。言うこときいて、おとなしく待っててくれな」
     手当と護衛とは言っているが、カーリー最大の任務は女子生徒たちを吸血捕食し記憶を曖昧にすることだ。
     そして灼滅者たちは、カーリーと入れ違いに遺体を外へと出す。
    「どこへ連れていってしまうの?」
     女子生徒の1人が不安げに訊いた。
     久良が精一杯の笑顔で答える。
    「俺達を信じて欲しい」
     亡き者のためでもあるのだから……。
     利戈と柚貴が遺体を少し離れた教室に運ぶ。まずは柚貴が走馬燈使いを試みるが……蘇らない。喉笛や内蔵を大きく食いちぎられた姿では、さすがに無理か。
     2人は悲しげに炎と竜巻を巻き起こす。
    「スマン……俺らにはこうしてやることしか……スマン……」
     遺体がサイキックで浄化されていく。
     利戈がギリと歯噛みして。
    「セイメイのやつ、メンドウな置き土産を残していきやがって……死んでも憎たらしい野郎だぜ」
     その時。
    「まだ3階から降りてくるヤツがいるぜ!」
     小次郎の叫びと、きしめんの吠え声が廊下に響いた。
     外からの探索では見つけられなかったか、それとも新たに蘇ったモノか。
     何にしろ、この学校から全てのゾンビを掃討するまで悲しんでいる暇はない。2人は武器を構えなおして廊下に飛び出した。
     
    ●東乙班3
    「トドメだッ!」
    「こっちもあと一撃っす!」
     ハリマの炎の蹴りがゾンビの内蔵を四散させ、葉織の利き腕の刃が首を刈り取って……。
     通報を受けて駆けつけた教室も、静かになった。
    「こちら東乙、知らせてもらった分、灼滅完了っす」
     ハリマが携帯で報告すると、
    『東甲、3階の安全確認できました。2階手伝います』
     七号の声が帰ってきた。
    「助かるっす。じゃ、南側からお願いするっす」
    『了解』
     先ほど西班からも、新たに降りてきたゾンビを灼滅し、あとは3階を確認するだけだという連絡が入ってきた。
    「もう少しだな」
     一時よりもテンションが下がってきたらしい葉織が冷静な声で。
    「最後まできっちりぶった斬っていこう」
    「うっす!」
    「ワン!」
     ハリマと円が元気に応じた。

    ●後始末
     校内のゾンビを無事に掃討し終えた灼滅者だったが、後始末という大仕事がまだ残っていた。
     結局生存者は図書室の10名と西校舎2階にいた5名だけだった。まずはサポート隊が中心になり、彼らの傷の手当と精神的なフォロー……そして何より、このリアルホラーな事態を忘れてくれるように処置しなければならない。
     用意してきた偽の物語は『不審者が強い幻覚作用のある毒を撒いた』。ESPも駆使したし、ゾンビよりは信じやすかったのか、それで納得してくれる生存者もいたが、無理そうな者にはイチとカーリーが吸血捕食を行った。
     その上で、携帯などの記録も破棄させ、学校中の監視カメラを破壊し、警備室のデータも消したりと、できうる限りのゾンビの痕跡を消去した。
     その間に柚貴と葉織は校内を巡り、走馬燈使いを死体という死体にかけて回った。ゾンビになって後灼滅されたものは蘇ることができず、ならなかったものも損傷がひどければ蘇らなかったし、探索中にもゾンビ化しそうなものは予めサイキックで処理していたので、かりそめの命で再び立ち上がったものは限られていた。
     生存者と、走馬燈使いによって蘇った者を処置して下校させると、最後にもっとも気の重い作業が待っていた。
     集めた屍体に、灼滅者たちはサイキックの炎を放ち、風を吹かせた。
    「今度は、迷わず逝けよ……」
     利戈が浄化の炎を見つめて呟いた。霊犬たちも悲しそうに身を寄せ合っている。七号はダークネスを倒した時よりも、背負った命を重たく感じている。その隣で、柚貴も手を合わせて、
    「スマン……スマン……」
     ひたすら謝り祈る。
     ガラガラと勢いよく、葉織が何十個もの携帯を炎に投じた。ゾンビたちの遺留品だ。
    「哀れとは思うけどね……それだけだよ」
     確かに、滅んだ白の王の置きみやげの犠牲になった人々は、ひたすら哀れだ……と。
     パトカーのサイレンの音が近づいてくる。しかも複数。見桜が一度は追い払った警官たちが、応援を連れて戻ってきたのかもしれない。そろそろESPの効き目も切れたころであろう。
    「帰るか」
     小次郎がそう言って、うなだれるイチの肩を、ポンポンと叩いた。
     皆が無言で頷き、深い哀しみを胸に屍の学舎を後にした。

    作者:小鳥遊ちどり 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2016年3月17日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 5/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 0
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