6人の盟主候補~柴・観月

    作者:西東西


     ――夜の帳がおりるのを見た。

     地平をいっぺんに見渡せる視界には、見晴るかす山の稜線。
     峰々が白く染まるのはすべて、雪の果てだろうか。
     頭上をあおげば、さえぎるもののない空に、月と満天の星が瞬いている。
     ひとけのない、南アルプスのある岳の上。
     いまは夜闇にいだかれて、草木も虫も、なにもかもが眠りについている。
    「みんなは、別の場所で武蔵坂の灼滅者を待つようだね」
     ソロモンの悪魔――闇堕ちした柴・観月(サイレントノイズ・d12748)が、己の首筋を抱く『神様』に語りかける。
     黒の喪服。
     首筋の包帯。
     胸元には、月明かりにあってなお鮮やかな赤いアネモネの花。
     左眼は泣きボクロを濡らし続けるかのように、とめどなく涙を流し続ける。
     ふいに、ヴェールを被った『神様』が、観月の耳元に唇を寄せて。
    「わかってるよ、神様」
     優しく慈愛に満ちた彼女の言葉に、観月はただ静かに、頷いた。
    「今度こそ君が、みんなが、幸せであるように。――神様の言う通り」
     

    「『富士の迷宮突入戦』での勝利から、たて続けに発生した『生殖型ゾンビ事件』。任務続きで多忙を極めるなか、駆けつけてくれた皆に、深く感謝する」
     ゾンビ事件については、対応に向かっている灼滅者たちが必ずや朗報をもたらしてくれるだろうと告げ、一夜崎・一夜(大学生エクスブレイン・dn0023)が説明を開始する。
    「今回だが、生殖型ゾンビと同じく、崩壊する富士の迷宮から逃げ延びたと思われるダークネスたちについて情報を得られた」
     エクスブレインとは違う予知能力を持つダークネス――『うずめ様』がいるため、その行方の捜索は困難をきわめた。
    「だが、情報をさらい尽くした甲斐はあったぞ。ようやく、田子の浦で闇堕ちした灼滅者たちの動きを掴むことができた」
     6人の闇堕ち灼滅者のうち、5人は南アルプスの山中に。
     残る1人は、三重県の鈴鹿山脈で灼滅者を待ち構えていることがわかった。
     この6人のうち、1人でも闇堕ちから救出することができれば、富士の迷宮から逃げ延びたダークネスたちの足取りを掴む情報を得られるかもしれない。
     
    「闇堕ちした6人の目的は、うずめ様など、富士の迷宮から逃げ延びたダークネスたちを安全に逃がすこと。そして、自らが。彼らを率いる『盟主』となることとみられている」
     灼滅者を迎撃して撃破することは、その試練のひとつなのかもしれない。
    「私の予測に現れたのは、闇堕ちした柴だ」
     ダークネスとなった柴・観月に配下などはおらず、単独で待ち構えていることまではわかった。
     だが、観月がどのような戦い方をするか等、詳細は不明だ。
     相手がどう出るかわからない以上、厳しい戦いとなる可能性が高い。
    「しかし、ここで6人を抑えることができなければ、事態はより悪化していくだろう」
     最悪の事態を、防ぐためにも。
     観月たちを、闇から取りもどすためにも。
    「きみたちの力を、かしてくれ」
     柴を頼むと、エクスブレインは深く、頭をさげた。


    参加者
    桃野・実(水蓮鬼・d03786)
    戒道・蔵乃祐(プラクシス・d06549)
    森村・侑二郎(一人静・d08981)
    袖岡・芭子(幽鬼匣・d13443)
    玖律・千架(エトワールの謳・d14098)
    庵原・真珠(魚の夢・d19620)
    四刻・悠花(高校生ダンピール・d24781)
    杜乃丘・ひより(フェアリーテイルシンドローム・d32221)

    ■リプレイ


     真夜中。
     肌をさす冷気をおして険しい岳を登りゆけば、エクスブレインの伝えたとおり、喪服に身を包んだ柴・観月(サイレントノイズ・d12748)の姿があった。
     癖の強い髪の毛。
     左目の下の泣きボクロ。
     眼鏡を外した面差しは、かつての観月と変わらない。
     けれどその表情には一切の感情がなく。
     たえず涙を流しながら、光源を備え現れた灼滅者たちを見つめる。
    「いらっしゃいませ、灼滅者の皆様方」
    「迎えに来た」
     万感の想いをこめ告げた桃野・実(水蓮鬼・d03786)の言葉に、小さく首を傾げて。
    「退いてはもらえない?」
    「君が居ないと困るんだ。私は、君を頼りにしているから」
    「絶対に逃がしませんし、撤退もしません」
     断固と言いはなつ袖岡・芭子(幽鬼匣・d13443)に、死角にまわった森村・侑二郎(一人静・d08981)が、緑の瞳に強い光をたたえ、告げる。
    「……そう」
     どんな回答も、闇堕ちした観月にはさして関心がなかった。
     こちらを見据える四刻・悠花(高校生ダンピール・d24781)に気づき、「なに」と水を向ける。
    「柴さんは、仲間を救うために2度も闇落ちしたんですよね。また、最初に闇落ちした時『一般人10人と自分の命のどっちを救うのか』と選択を迫ったそうですね」
    「なにを言いたいのか、わからないんだけど」
     そんな人物がダークネスの盟主となり統率するのであれば、今より状況は良くなるのかもしれない。
     そう、思ったのだが。
     悠花は一度言葉を置き、率直に尋ねた。
    「あなたは何故、『盟主』になろうと考えたのですか?」
     ――話せば話すほど、『みんな』はより遠くへ逃げることができる。
     だから興味のない問いにも、観月は淡々と答えた。
    「救いたいだけだよ。手の届く『みんな』を」
    「それが、貴方の言う『幸せ』ってこと? 神様の幸せ? 大多数の人間の幸せ?」
     重ねて問う杜乃丘・ひより(フェアリーテイルシンドローム・d32221)の言葉に、
    「『みんなの幸せ』の中に、先輩の幸せは含まれてますか?」
     庵原・真珠(魚の夢・d19620)が穏やかな声色で問う間にも、『神様』は優雅な微笑みを浮かべている。
    「その神様、本当はなに言ってるの? 柴さんの心?」
     続く玖律・千架(エトワールの謳・d14098)の言葉には耳を貸さず、観月は言った。
    「それをするには、あのままじゃ無理だった。だから――」
     かざした手に現れたのは、『神様』と揃いの漆黒のヴェール。
     ふわりまとえば、裾端からうまれた風が、一瞬にして灼滅者めがけ舞い踊って。
    「『こいつ』には、消えてもらう」
     抑揚のない声が、説得など無意味だと告げていた。


     攻撃線上へ、真っ先に身を投げたのは実だ。
     『迷企羅』の名を冠した靴で地を蹴り、身を切り裂かれながらも、叫ぶ。
    「柴さん、泣いてるのか! 悲しいのか!?」
     しかし、観月からの声はなく。
     実と同じく仲間をかばった者たちへ、侑二郎のウイングキャット『わさび』と千架の霊犬『栄養食』が回復を重ねる。
     戒道・蔵乃祐(プラクシス・d06549)は光の刃を撃ちだしながら、仲間たちと観月のやりとりを反芻していた。
    (「柴くんは、名前の通りに月のような人なんだろう」)
     月はいつでも夜空に在る。
     そして、太陽の光を受けてこそ輝く。
     故に今は――。
     攻撃が相殺されたのを見届け、蔵乃祐も叫んだ。
    「神様のため。皆の幸せのためではなく。柴くん自身の頭で考えて、想いと心に従って欲しい。それが、人に向きあうということだから……!」
     続けて悠花が繰りだした鋭い鋏を、悪魔はトンと地を蹴り、軽やかに回避する。
    「数が多いからね。早めに減らそう、神様」
     癒し手めがけはなたれる霊障波は、かばい受けたひよりのビハインド『一ヶ谷・京子』の体力を大きく奪った。
     標的から逸れようとも、結果的に体力を削げるのなら問題ない。
     観月と『神様』は執拗に後衛を狙い、かばい手たちの疲労はかさんだ。
     悪魔の攻撃は重い枷をともない、そのたびに、癒し手たちの手数をも奪っていく。
     戦場を駆けまわるサーヴァントと連携しながら、千架は懸命に防護符をはなち続けた。
    「柴さんは、もっと欲張りになっていいと思う。それに、なにも話さないのはずるい。いつもずるいよ柴さん。ふたりの幸せを教えて欲しい……!」
     契約の指輪から魔法弾を撃つと同時に、侑二郎も想いの丈をぶつける。
    「先輩はいっつも、自分の幸せは置いてけぼりですよね。なにが正しいかの基準を外に置いて、それに従って」
     そのくせ一人で抱えこんで。
     人に、俺に頼るのが、悪いことみたいに言って。
    「むかつくんですよ! 頼ればいいじゃないですか。俺も、周りの皆も。いつだって手を差し伸べるのに」
     攻撃は命中。
     しかし身体の動きが鈍ったと思えば、観月はアネモネの花弁を散らし、自らを癒した。
     触れた花弁は、次々と塵と化し消えていく。
    「『己が手を汚さずに、なにも成せはしない』」
    「それも神様の言葉か、柴」
     真珠のウイングキャット『くろ』が猫魔法で神様を牽制し、芭子が一気に間合いを詰める。
    「君は神様を『神様』にしちゃった事を認めたくないからって、自分たち以外を否定しようとしているみたいに見えるよ。まるで、自分だけの居場所を作ろうとしてるみたい」
     煌めきと重力を宿した蹴りが、観月の脇を捉えた。
     渾身の力で蹴り飛ばすも、悪魔の身体は揺るがない。
     反撃に転じた観月の一撃は、ひよりが受けとめる。
     地面から、中空から。
     融けない氷が幾重にも貫き、檻のように閉じこめて。
     身を裂く痛みに負けじと、ひよりは青の瞳を燃やし、声を張りあげた。
    「柴、聞こえる? あなたの過去を否定するつもりは無いわ。過去があってこその貴方よ」
     血にまみれた腕で深蒼のシールドを振りかぶるも、観月には届かない。
    「過去から続く貴方の歩み総てが、今の貴方を形作ってきてるものじゃないの? 一緒に過ごしてきた時間全てが、今の貴方に、柴観月にしてるんでしょ……!」
    「それなら、こうも言えるよね。過去から続くあいつの歩み総てが、今の俺を形作ったんだって」
     ひとつひとつ、希望を摘みとるように。
     観月と神様は攻撃を重ね、確実に標的を仕留めていった。
     最初は、芭子のビハインド。
     次は、ひよりのビハインド。
     その次は、千架の霊犬。
     『怒り』で攻撃を寄せたとて、圧倒的な力が、かばい受けた者たちの体力を削いでいく。
     不利に働いたのは、説得のため、『神様』にとどめをささないと決めたことだ。
    「……神様、倒さないんでしょう?」
     観月がそれを見逃すはずもなく、神様への回復を最小限に抑え、灼滅者たちへの攻撃を優先して動いた。
     反面、灼滅者たちは、観月たちにかけられる枷に苦慮し、戦闘が長引けば長引くほど、数の優位は崩れていった。
    「わさびさん……!」
     さらに己のウイングキャットが霧散するのを見送り、侑二郎も奥歯を噛みしめて。
     それでも真珠は巨大十字を振りあげ、足止めに徹しながら、呼びかけ続けた。
    「神様を自分で作ってもいいです。それが、先輩を支えるものなら。でも、先輩を助けたい人は。心から心配する人は、たくさんいますよ。私たちでは――」
    「彼女は、『つくりもの』じゃない」
     それまで一定の調子で響いていた声音が。
     わずかに、揺らいだ。


     ――観月と、観月の神様を切り離しては、救えない。
     そうと感じていたからこそ、灼滅者たちは不利を承知で『神様』を灼滅しないと決めた。
     観月から神様を奪えば、届く声も、届かなくなる、と。
     実は幾度も攻撃を引きつけ、仲間たちの代わりに傷を負いながらも、説得の声をあげ続ける。
    「柴子さんはどうしたい? どんな馬鹿なことでもいい、教えて。声が出なくてもいい、唇読むから……!」
     観月に手ごたえがないのなら、神様でもいい。
     すがるような気持ちで説得の糸口を探るも、神様は穏やかな笑みを浮かべるばかり。
     やがて懸命に観月の注意を引き続けていた悠花が、見えない刃を受け八つ裂きにされた。
     不可視の刃が次々と悠花を斬り裂き、その身を血の海に沈める。
     起きあがろうにも疲労が色濃く、腕に力が入らない。
    「別れはいつも突然で。別れはいつも、悲しいものだ」
     淡々と告げる観月に、悠花はせめて声だけでもと、口をひらいた。
    「……だれかが、言ってました。目の前の人を救えるだけの力があれば、それでいいって。私も、そう思います」
     灼滅者たちにとって幸いだったのは、倒れた悠花に対して悪魔がトドメをさそうとしなかったことだ。
     それは、闇堕ちを恐れての判断だったのだが――。
    「柴くんの悲しみは、他のだれにも身をもって理解することができない。世界でただ一人、柴くんだけにしか分からない。でも」
    (「――でも僕は。託された想いに報いたい。君に、人の側へと戻って欲しい」)
     傷痕を消すことはできない。傷痕を含めて、今の観月が在るから。
     それでも、傷の痛みを癒すことはできるはずだ。
     皆そう思って、ここに来た。
    「僕らに君の痛みが量れないように。柴くんにも、皆の想いは量れない!」
     己の片腕を半獣化させ、蔵乃祐が鋭い銀爪を一閃。
     踏みこんだ一撃が、観月の喪服を大きく斬り裂く。
     その合間に千架が悠花のもとへと走り、血に染まった身体を引きずって、後方へと退避させる。
     戦いのさなかにあっても、千架の脳裏をよぎるのは楽しい想い出ばかりだ。
     アイスのお店に連れて行ってくれると約束したこと。
     一緒に星を眺めに行ったこと。
     クリスマスを過ごしたこと。
     秘密にした言葉のこと。
    (「――ただ、笑ってればいいって、思ってた」)
     でも、違う。
     『観月』でなければ。
     どんな言葉であっても、観月の言葉で聞きたい。
    「だから、帰ってきてくれないと、困る。なにも、言えないままなのは嫌です……!」
     褪せた灰桜の髪を振り乱し、告げた言葉。
     それさえも、観月は右から左に流した。
    「予定が狂ったけど、次はキミかな」
     癒し手は真っ先に仕留める予定だったのだと、呟いて。
     千架へ不可視の刃が迫る寸前、その身を突き飛ばしたのは、ひよりだった。
    (「流星探しの時に、決めたの。いつか仲間に危機が訪れたのなら。仲間のために、この身を燃やそうって」)
     ぼろぼろになった身体に、追撃が続く。
     身体が限界を迎えようとも、ひよりは瞳に炎を燃やし、観月を見据え続けた。
     ここには、侑二郎、千架、芭子、真珠がいる。
     そして、観月もいる。
     ――だれも欠けたくない。
    「ごめんね。君の居場所はちゃんとあるから迎えに来たよ。その神様も含めて、君なんでしょ」
     ひよりの言葉を継ぎ、告げる芭子の表情にも強い決意が宿る。
     想いの強さなら、絶対に負けない。
     その自信が、灼滅者たちにはあった。
     だから、
    「ぶん殴ってでも、帰ってきてもらうよ……!」
     ロケットハンマーのエンジンが唸る。
     弧を描いて叩きつければ、強烈な一撃となって観月をとらえた。
     この機を逃すまいと、侑二郎が己の影を手繰り刃を向ける。
    「先輩からの質問、ずっと考えてました」
     ――だれかを傷つけたダークネスが、救われていいのか。
    「でも俺は、他のだれが何と言おうと。それが観月先輩なら、帰ってきてほしいって、思ったんですよ……!」
     観月のことは嫌いで。
     だけど、失いたくないひとだから。
     真珠も目尻に涙をためながら、つま先でトンと地を蹴る。
     いつもは笑顔の少ない仏頂面。
     〆切間近の怖い顔。
    (「泣き顔なんてはじめて見た。ずっと、泣きたかったの?」)
     もう会えないかもしれないという恐怖に、目に声に、涙がにじむ。
     ここでお別れなんて、嫌です。
     想いを締めくくる言葉は、ほかに考えられない。
    「帰ってきて。私たちと一緒に、生きてください。あなたも一緒に、幸せになってください!」
    「……っ!」
     涙を零しながらはなった蹴りが、観月の体勢を崩した。
     神様の繰りだした霊撃を、実が歯を食いしばり、耐えしのぐ。
     体力はもうとっくに限界で。
     体中痛くて、それでも。
     これで最後だと、己を奮いたたせる。
    (「命を賭ける。命を賭けて、止める――!」)
    「おおおおおぉぉぉおおおおお!!」
     叩きこんだ蹴りが、観月の胸を捉えた。
     想いと、意思と、命をかけて。
     文字通り全身全霊で臨んだ灼滅者たちの力は、『神様の願い』を肩代わりしようとした悪魔のそれを、はるかに上回った。
     地面に叩きつけられた身体が、悲鳴をあげる。
     願えど叶わぬ願望の破片が、疵だらけの手からこぼれ落ちていく。
    「――そんな、今度こそ」
     今度こそ。
     すべて救い、すべて排し、すべて殺すと決めた。
     なんでもします。
     『君』が望むなら。
     『君』が願うなら。
     ――それが、『彼女』の最後の望みだったのだから。
     どっと音を立てて倒れた視界に、灼滅者たちが駆け寄るのが見える。
     偽物の神はなおも首を抱いたまま。
     優美な微笑みをたたえ、なにも言おうとしない。
     わかっていた。
     最初から。
     彼女はなにも想わず。
     なにも話さず。
     ただ、優雅に微笑むだけ。
     それでも、ヴェールの下に咲く赤いアネモネの花に触れようとして。
    「いこう、神様――」
     手を伸べた悪魔の瞳から、涙がこぼれ落ち。
     そこで、すべてはまばゆい閃光にのまれた。


    「柴くん!」
    「先輩!」
    「柴!」
    「柴さん!」
     頬に触れた温もりに眼を覚ませば、不安げに覗きこむ実の顔。
     目があえば、その顔が一気にしわくちゃに歪んで。
     同じく涙でぐちゃぐちゃになった顔を見せ、侑二郎がうめく。
    「観月先輩」
    「……ひどい顔」
    「おかえりなさい」
     ぶっきらぼうな物言いに安堵し、真珠と千架も泣きながら、微笑む。
    「ごめんなさい。さっきは、とても言える雰囲気ではなかったので今言います」
     ふいに悠花が、身に着けていた防寒用のマントを観月へとさしだして。
    「寒いので……。帰るっていうのは、却下ですよね」
     遠慮がちな言葉に、仲間たちが顔を見合わせ、ふっと吹きだす。
    「その提案なら、僕は賛成です」
     蔵乃祐が葬衣をパンとはたき、立ちあがった。
     芭子も「ん」と頷き、
    「いい加減帰って原稿をしてもらわないと、そろそろ誤魔化せないよ」
     闇堕ちしてから一か月以上過ぎたと告げれば、観月の顔色が目に見えて変わった。
    「帰りましょう。ランプだらけのマンションに。インクの匂いがする部屋に。貴方の、ビハインドと一緒に」
     伸べられたひよりの手を取り、観月は痛む身体をおし、立ちあがる。

     頭上には、星。
     ひやり冷たい風が、頬を撫でて。
     振りかえれば、東の空が白みはじめているのが見えた。
    (「星に願っても、叶わないけど」)
     奇跡ではない。
     灼滅者たちがたぐりよせた結果だからこそ、信じることができる。
     何度、夜の帳がおりようと。
     明けない夜はないのだ、と。
     
     

    作者:西東西 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2016年3月24日
    難度:やや難
    参加:8人
    結果:成功!
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