メシマズ彼女のなだめ方

    ●とある公園で
     北関東も桜の季節である。同時に花粉もピークだが、人々はメゲずにせっせと花を愛でに出かけてゆく。
     とある町の児童公園にも、2本だけなかなか立派な桜の木がある。もちろん全く有名処ではないが、それでも季節には木の下のベンチに近所の人々がやってきて、お茶を飲んだり、ランチしたりとプチ花見を楽しんでいる。
     その日も、高校生らしきカップルが、彼女の手作りらしきお弁当を開いていた。
     ――ところが。
    「ぶえっ!」
     彼氏が卵焼きを口に入れたと思ったら、思いっきり吐き出した。
    「何だよこれ、めちゃくちゃしょっぺえじゃねーかっ!」
    「だ、だって、ケイくん、卵焼きは甘くないのが好きだって言ってたじゃないの」
     涙目でぷるぷるしている彼女は、華奢な大和撫子風でなかなか可愛らしい……のだが。
    「言った、言ったよ! でもな、限度ってものがあるだろっ。口ん中で、塩がじゃりっていったぜ? どんだけ入れたんだよ。しかも白身と黄身がきっぱり分離してるしっ。全然混ざってねっつーの。卵は切るように混ぜるって、家庭科でやったから俺だって知ってるぜ? シズ、お前調理実習は皿洗いしかしたことねーだろ? 唐揚げは衣は黒こげ、中は半生。ポテサラだってマヨネーズ舐めてる方が100倍マシだっ! 食えるもんが全くないじゃんよ。料理得意じゃないって聞いてたけど、こりゃ得意じゃないってレベルじゃないだろ、センスなさすぎっ、メシマズにもほどがあるっ……え?」
     立て板に水の罵倒を、ぷるぷると聞いていた彼女が変化しはじめたことに、彼氏は気づいた。悲嘆のあまりか、白い肌が青く……いや、蒼く変色してきているような……?
    「……な、なに……うわっ!?」
     突然、華奢な腕を突き破るように、メキメキムキムキっと蒼い筋肉が盛り上がり、
    「そこまで……」
     彼女はすっくと立ち上って。
    「そこまで言わなくていいじゃないのおおおおおーーーーっ!!」
     怒りの雄叫びを上げ、狂気を宿した眼差しで彼氏をギリッと見下ろして……。

    ●武蔵坂学園
    「それは彼氏の言い方もよくないと思うなっ」
     華槻・灯倭(月灯りの雪華・d06983)はぷんっと頬を膨らませ、それについては同感ですけどね、と春祭・典(大学生エクスブレイン・dn0058)は苦笑して。
    「でも、彼女がデモノイドになってしまうのを見過ごすわけにはいかないでしょう」
     放っておけば、デモノイド化した彼女は理性を失って暴れ回り、彼氏だけでなく、大勢の人間を殺しまくるだろう。
    「現場の公園にすぐ向かってもらえば、彼氏が罵倒しているあたりに到着できますので、何とか彼女の完堕ちを阻止してください」
     デモノイド化した彼女と、彼氏の間に割り込む形で介入すれば、彼氏を助けることもできるだろう。
     デモノイドに堕ちかける彼女は、豆居・志澄(まめい・しず)といい、地元の高校生だ。暴れ出す段階では、まだ人としての理性が残っているので、説得が可能である。
    「説得して、人としての理性を取り戻させ、メシマズでも前向きに生きていこうと思わせた上でKOすれば、灼滅者として覚醒する可能性があります」
    「どんな風に説得すればいいかな?」
    「例えば『メシマズをこんな風に克服した』とか『俺の彼女もメシマズだがそれでも大好きなんだ』とか『こんなメシマズな私でも彼氏のために努力してるの』等々、皆さんの体験談を具体的に話してやって、人生に希望を持たせてやる方向がいいんじゃないでしょうか」
    「なるほどね……でも、それじゃあお料理上手な人は話しにくいよ?」
    「そこはそれ、友達や知り合いの例でもいいでしょうし、なんなら作り話でも」
     何にしろ、メシマズの絶望から彼女を救ってやれればいいのだ。
    「わかった」
     灯倭はコクンと頷いて。
    「志澄ちゃんもまだ高校生だもんね、これからお料理が上手になるかもだし、何とか説得してみるよ」
    「ぜひよろしくお願いします……そうだ、北関東は今ちょうど桜が満開ですから、ついでにお花見もしてきたらどうですか? それこそお弁当でも持って」


    参加者
    北条・吉篠(緋の風車・d00276)
    華槻・灯倭(月灯りの雪華・d06983)
    咲宮・律花(花焔の旋律・d07319)
    新妻・譲(灰・d07817)
    物集・祇音(月露の依・d10161)
    マーガレット・リバー(氷弾の狂姫・d21079)

    ■リプレイ

    ●桜咲く公園で
     花曇りの空の下、ほろほろと桜色の花びらが散っている。それ自身が白く光を放っているような満開の桜の大木が2本。
     だが、それに見とれている暇はない。
    「あれだ!」
     件の公園につくなり、灼滅者たちはその桜の木の下へと駆け出した。そこには、花見弁当を挟んで揉めている様子の若いカップルがいる。
     近づくにつれ、
    『料理得意じゃないって聞いてたけど、こりゃ得意じゃないってレベルじゃないだろ!』
     彼氏の罵り声が聞こえてくる。そして彼女の様子が変わっていく……。
     公園にいた人々は、カップルを遠巻きにしていたが、走りながらマーガレット・リバー(氷弾の狂姫・d21079)が殺界形成を、咲宮・律花(花焔の旋律・d07319)と華槻・灯倭(月灯りの雪華・d06983)が公園全域を覆うようにサウンドシャッターを発動した。物集・祇音(月露の依・d10161)は、
    「此処危ねぇから、どっか他の場所行ってな!」
     と、声をかけ霊犬の菊理も吠えたてる。
     その間にも
    『そこまで言わなくていいじゃないのおおおおおーーーーっ!!』
     ついに彼女……デモノイド化しつつある豆居志澄が、彼氏に向かって言い返し、異形と化した蒼い腕を振り上げた。その腕の陽光にギラリと光る鋭い刃は、愛しいはずの恋人めがけて――!
    「……いけませんわ!」
     その刃をカップルの間に割り込んだマーガレットが受けた。同時に北条・吉篠(緋の風車・d00276)が炎を載せたWOKシールド『護』で、志澄をぐいと押しやって引き離す。
     その間に新妻・譲(灰・d07817)が、衝撃のあまり機能停止状態の彼氏をベンチから引きずりおろして志澄から遠ざけ、
    「彼女はオレらが落ちつかせっから、一旦離れててくれよ」
     祇音と吉篠も手助けして、公園から追い出す。
     ぽんっと祇音が閉じた扇子で彼氏の頭を叩き、
    「空いてる相手なら、もっと大事にしてやんな」
     全くだ、と吉篠も頷き。
    「ちっと言い方が悪かったようだな?」
    「世話のかかる恋人たちだよな。色々教えてやんなくちゃいけねぇな」
    「女性のスキルは褒めて育てるもんだぞ」
     彼氏はひきずられながら言われまくりだが、可憐でおとなしいはずの彼女の変貌に茫然自失で、耳に入っているかどうか。
     その志澄の方は、女子とサーヴァントたち……灯倭の一惺、マーガレットのお父様ことニコル、祇音の菊理が素早く包囲していた。
     四肢を蒼く分厚い筋肉に変化させた志澄は、愛らしい顔を憎々しげに歪め、彼女らを見回して叫んだ。
    「あなたたちは誰なの!?」

    ●メシマズだもの
    「私たちは灼滅者よ。あなたとお料理の話をしにきたの」
     灯倭が慎重に近づきながら、
    「えっとね……私も最初はお料理苦手だったよ?」
     志澄を宥めようと優しく話しかけたが、
    「りょ……料理の話なんて聞きたくないわーッ!」
     完全に頭に血が上っているらしく、志澄は綺麗だったはずの黒髪を振り乱して叫ぶと、
    「これでも喰らえーーーっ!」
     ぶんっと投げたのは、黒く焦げ臭を放つ物体……唐揚げだ!
    「灯倭ちゃん、危ない!」
     マズイ唐揚げは灯倭の口めがけて一直線……だがそこに。
    「ワンッ!」
     ジャンプし、自分の口で、フリスビーよろしく受け止めたのは!
    「ごめんね一惺!」
     唐揚げを食べてしまった忠犬はキャウーンと鳴いてしっぽを巻いて伏せてしまったが、その後ろから灯倭と律花が志澄の間近に飛び込み、
    「私たちの話を聞いてよ!」
     炎の蹴りを見舞い、マーガレットは、
    「お父様は一惺をカバーして差し上げて!」
     ビハインドに指示を出しながら、防御を高める光輪をくるりと振り向いて投げた。今しも、男子たちが、いきなり戦端が切られたのを見て、急ぎ駆け戻ってきたところであった。
     祇音は抜刀するなり上段から利き腕に鋭く振り下ろし、光輪を受けた吉篠は大鎌に炎を載せて突っ込んでいく。譲は盾を振り上げながら志澄の真ん前に出て、
    「ちょっと落ち着けよ、説教とかそういうんじゃねーんだ、彼氏の言い方は確かにひどかったもんな」
     宥めると、蒼い筋肉を怒りにモリモリさせていた志澄は、唇をとがらせながらも、振り上げかけていた利き腕の刃を下ろした。
     譲は菊理に回復を受けている一惺にコソっと
    「唐揚げどうだった?」
     訊くと、霊犬は涙目できゅーんと鳴いた。
    「そ……そっか……」
     譲は再びグロテスクに蒼い大足に支えられた志澄の顔を見上げて、
    「やっぱ料理は基本が大事でさ、唐揚げの肉は、調理前に常温に戻して、大きく切りすぎず、油は低温でゆっくり揚げるといいんだぜ?」
     優しくアドバイスしたが、
    「そうは言っても、揚げ物、難しいですわよね!」
     悩ましげに進み出たのはマーガレット。
    「火加減って難しいですわよね……火が強ければ中まで火が通りそうですのに、何で上手くいかないのかしら……黒焦げ半生、凄く分かりますの。私なんて練習していたら、火事を起こさないように、とまで言われたんですのよ!」
     うんうん、と頷きながらお姉さんたちも。
    「最初はどんな料理でも上手くいかないよね。形が不揃いだったりとか、味が部分的にしょっぱかったりとかね」
    「私は卵割るのですら苦労したわ。レシピ本の調味料の目分量とか、美味しそうな狐色とか、なにそれって思ったし」
    「でも、好きな人のためなら頑張れるんだよね」
    「そうよね、可愛い妹のために毎日練習したわ」
    「な……」
     灼滅者の話に神妙に耳を傾けている様子だった志澄の目の色が変わった。
    「なにさ、あなたたち、何のかんの言って、今はちゃんと作れるのね? 私は絶望的にセンスが無いんだもの、きっとメシマズのままで一生終わるんだわーーーっ!」
    「……ぐぼっ」
     砲弾のように射出された黄色と黒の物体……卵焼きが、譲の口にストライク!
     やむを得ず灼滅者は再び志澄を迎え撃つ。少し暴れさせて鬱憤を晴らさせないと、話を聞く余裕もないのかもしれない。
     灯倭とマーガレットは桜の木の枝で反動をつけ、左右から流星のような跳び蹴りを見舞い、
    「いいぞ、灯倭!」
     すかさず吉篠はオーラを宿した拳の連打を見舞う。
     その間に律花は譲の背中をさすって卵焼きを吐き出させ、癒しの矢を撃ち込んでやる。
     連続攻撃によろめいた志澄であるが、やけくそ気味に太い腕を振り回す。
    「なによなによ、お料理できる人に、私の気持ちなんてわからないわよーーーっ!」
     ガシッ。
     その腕を祇音の鬼の腕が受け止めて。

    ●メシマズだけど
     祇音は拳から血を流しつつも笑顔を作り。
    「メシが不味いからって、そんなに落ち込むこた、ねぇよ。味覚が育ってないだけなんじゃねぇのか? 忘れがちだが、センス育てるには、まず美味いもん食って味覚を養えよ。それから繰り返し練習して回数を重ねる」
     それは大切だな、と吉篠も。
    「男から見ても、好きな奴の為に頑張ってる女子の姿ってのは悪くないもんだよ。料理は確かに難しいよな、俺も自炊するが失敗がないわけじゃない。酷く言われると凹むもんだけど、失敗は成功の母ていうだろ。次は今より少し上手くなるさ。また失敗したら、更に次にもっと上手くなる。そうやって成長してくもんだし、めちゃめちゃに罵倒されたままじゃ悔しいだろ。美味いって言わせて見返さなくても良いのか?」
     譲も、先ほどの卵焼きの味を思い出してうえっぷとなりつつも、
    「彼氏もさ、お前さんが料理苦手って知ってて、それでも口に入れたってことは……やっぱ嬉しいんじゃ? いや、男ならぜってー嬉しい。オレも彼女の作った、焦げて生焼けのチョコケーキは……幸せの味だったからな!」
     ノロケだな、と祇音は苦笑して。
    「アンタ、好きなアイツの為に早起きして一生懸命作ったんだろ? 良いじゃねえか、相手がいない俺からしたら、アンタみたいに尽くしてくれる女は好印象だぜ」
    「そ、そうかしら……」
     志澄が照れたように下を向いた。言葉が染みてきたのはもちろんだが、イケメン3人に囲まれて照れたというのもあるかもしれない。
     しかも、心なしかデモノイド化した四肢が小さくなったような……?
     これはチャンスと見て、灯倭と律花も。
    「そうよ! 食べてくれる人の事を考えながら練習すれば、きっともっと上手になるよ。なにより気持ちが大事だと思うの。私も、ここにいる皆も、お料理のお手伝いやアドバイスもするよ」
    「私も毎日練習して、今は料理上手の相方にも食べてもらえるくらいにはなったし……実験台は私のを貸すから、諦めちゃダメよ!」
     律花の言う練習台とは兄のことで……逃げてー、律花の兄ちゃん超逃げてー!
    「……言われてみれば」
     うつむき加減だった志澄がハッと顔を上げた。
    「うちのお母さんも、お料理苦手なの……」
     なるほど、家庭の味がアレだったことで、味覚が充分養われないまま来てしまったのかもしれない。
    「ちょうどいいですわ!」
     マーガレットが満開の桜を降り仰いで。
    「この桜で花見をしようと、お兄さまお姉さま方がお花見弁当を作ってきて下さってるのです。それを志澄お姉さまもご一緒にいただいてお手本にいたしましょうよ。そして共に練習がんばりましょう?」
    「わ、私も……いいの……?」
     志澄とマーガレットの間に、キラキラキラリンと希望の光が流れる。
    「でも志澄、その姿のままじゃ、花見のやり直しはできないよな」
     律花に言われ、志澄は今更気づいたというように、自らの醜い四肢を眺め、
    「わ、私……どうすれば?」
     すがるように志澄は灼滅者たちを見回して。
    「大丈夫よ、私たちが祓ってあげるから」
     灯倭が手に取ったのは『華冰』。
    「だから、もう少しだけ辛抱してね!」
     灯倭が気迫を籠めた斬撃を繰り出したのを皮切りに、灼滅者たちは再び攻撃に出た。ここまでは補助に回っていたサーヴァントたちも攻めに転じる。
     志澄はもうわかっている。メシマズにも希望があることに。だからこそ、全力で、心を込めて、できるだけ早く救ってやらなければ!
     集中攻撃を受ける志澄は、何度かマズイ攻撃や、マズい回復を発動しかけたが、そのたび灼滅者たちに声をかけられ、励まされ、堪え忍んだ。
     そして、ついに……。
    「もうちょっとだからな!」
     譲が指輪から撃ち込んだ弾丸が志澄の動きを止め、
    「菊理、射撃!」
     愛犬に牽制させながら祇音が日本刀で、吉篠が大鎌で斬りこんで……!
     2本の刃が深々と食い込み。
    「……うぐっ……」
     デモノイド化した少女は苦悶の呻きを上げ。
     ズ……ウン。
     華奢な胴体と、不釣り合いに大きな異形の四肢が倒れ込んだ。
    「志澄っ……あ」
     倒れた振動で桜がサアッと散り、灼滅者の視界を桜色が一瞬覆い隠した。

     ――桜吹雪が治まった時、彼らの前に倒れているのは、静かな表情で眠る可憐な少女だった。

    ●お花見弁当
    「譲くんのお赤飯、相変わらず美味しいわね」
    「あ、咲宮先輩ウマいっすか?」
     年上美女に褒められて、鼻の下の伸びる譲である。
     譲の家の赤飯は、小豆じゃなく甘納豆入りの甘口だ。
     無事に任務を終えた灼滅者たちは、桜の下にババーン! と弁当を開いている。
    「豆居ちゃんも、どう?」
     譲は、花見の席の隅っこで恐縮した様子の志澄にも尋ねた。
    「あ……お、美味しいです」
    「そお? 良かった。へへ、オレも昔は料理全然だったんだけど、ここまで来れたからさ……大丈夫、豆居ちゃんもそんだけ伸びシロあるってことだからさ。な? カレシさん」
     志澄の隣には彼氏もいる。公園から追い出されたが、志澄のことが心配で近くをうろうろしていたらしく、戦闘後に呼び出したらすぐに現れた。激高した志澄の姿を見てしまっても、それでも戻ってきたのだから、口は悪くても、彼女に惚れてることは確かなのだろう。
     律花も自作の弁当を皆に勧める。
    「マーガレットちゃんはお寿司とか大丈夫? 灯倭ちゃんや吉篠くんもよかったらどうぞ」
     ちらし稲荷寿司や唐揚げなど、律華のはもちろん真っ当に美味しい出来である。
    「いただきまーす!」
    「お寿司は大丈夫ですわ、凄く嬉しいですの」
    「ありがとう……うん、旨いな」
    「律花お姉様は料理がお上手なんですのね!」
     マーガレットは手作り弁当にうっとりしつつも、
    「私は飲み物を持ってきましたの、紅茶に珈琲、緑茶もありますわ……どれになさいます? 彼氏様もどうぞ……って、そうですわお兄様! ひとこと申し上げてよろしいでしょうか!」
     ポットから飲み物を注いでやりながら、彼氏に説教を始めた。
    「もう、お兄さま! レディーが頑張った事に対して罵倒を浴びせるなんて酷いですのよ!やってもらって当たり前、はカッコ悪いですわ!」
     彼氏としては首をすくめるしかない。
     まあまあ、と律花と譲が宥めて。
    「志澄ちゃんもこのくらいならすぐ習得できるわよ。そしたら彼氏くんも、もう怒らないわよね?」
    「いっそふたりで作るとか、よくね? 一応アドバイスしとくとさ、ポテサラは……」
     芋は水からゆっくり、竹串が通るまで茹でて。潰すのは熱い内、マヨネーズは粗熱とれてから。それと卵焼きは、最初は控えめに味付けて味見な。何の料理にも言えることだけど……などと、譲は熱心に語る。
     楽しげな戦友たちの姿を眺めながら、祇音は持参の菓子を差し入れる。
    「俺も花見団子を持ってきたから、食べてくれよな……ん?」
     ぽたり。
     風のせいか、もしくは先ほどの激戦の影響か、花のついた桜の小枝が、傍らに広げていた扇に落ちてきた。扇に花びらを受けて楽しんでいたのだ。
    「おいで」
     菊理を呼び、その頭に小枝を刺してやる。
    「ふふ、桜の菊理も可愛いぞ」
     その時またザッと風が吹き、桜がざわりと大量の花びらを散らした。
     吉篠が眩しそうに桜を仰ぎ見て。
    「ここいらの桜も、ボチボチ終わりだな……」
     皆で腕を伸ばし、身体一杯に桜の花びらを受け、過ぎる春を存分に味わう。

    作者:小鳥遊ちどり 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2016年4月14日
    難度:普通
    参加:6人
    結果:成功!
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