南アルプス壬生狼行~鬼女の妄執

    ●南アルプスにて
     数人の若者グループが南アルプスの麓を歩いている。まだ山頂に雪を頂く初夏の南アルプスの清らかな空気に包まれているのに、彼らの表情は堅い。
     若者たち……苔石・京一(こけし的な紳士・d32312)と、武蔵坂学園の仲間は、単に山歩きをしているわけではない。彼らは、うずめ様はじめ、彼女を巡るダークネス各派の動きを察知しようと、探索中なのである。
    「……敗走して南アルプスに逃げ込んだうずめ様の刺青を狙って、依が動き出すと思うのです」
     京一が軽く息を切らしながら呟くと、仲間のひとりが頷いた。
    「動き出すのは依だけじゃないと思うわ。うずめ様の予知能力を欲して、朱雀門高校も彼女を取り込もうとする可能性が高い。朱雀門には刺青羅刹の鞍馬天狗や、こういう交渉ごとが得意な本織識音が居るもの。きっと彼らをうずめ様の元へと遣わすでしょう」
     ええ、と京一は同意して。
    「それに、鞍馬天狗とうずめ様が接触するようなことがあれば、2つの刺青を一時に奪取するチャンスと見て、依はますます張り切るでしょうし」
     依とうずめ様を巡るダークネスたちの動きについては、京一たちだけではなく、他にも同じ考えに至った灼滅者たちが何人もおり、10チームほどが南アルプスで捜索活動を進めている。
    (「他の隊は、手がかりを見つけただろうか……」)
     京一が他隊に思いを至らせた、その時。
     プルルルッ。
     彼のポケットの中で携帯が鳴った。正に南アルプスを捜索している他隊からの連絡である。
    「はいっ、もしもしっ」
     京一はドキリと高鳴った胸を抑え、慌てて携帯を耳に当てた。

    ●行動開始
    「ええ……はい、了解です。私たちもすぐに行動開始します」
     緊張した様子で電話を切った京一を、チームメイトたちは興奮した様子で囲んだ。
    「何だって?」
    「私たちはどうしたら?」
     京一は、まあ落ち着いて聞いてください、と、チームメイトを宥めるように見回して。
    「あるチームが南アルプス山中で、刺青羅刹の依を発見したそうです。スサノオ壬生狼組の精鋭を連れています。彼女らの目的はおそらく、うずめ様の刺青」
     すでに天海と外道丸の2つの刺青を持つ依は、うずめ様の刺青をも狙っている。
     仲間のひとりが首を傾げる。
    「予知能力を持つうずめ様が、簡単に居場所を特定されるとは思えないけど……」
    「朱雀門の鞍馬天狗たちが、うずめ様に接触しようとしたのを、依が察知したのかもしれません」
     依は、朱雀門部隊を追っていけば、いずれうずめ様に至ると考えたのだろう。
    「そんなわけで、私たちはまず、依とスサノオ壬生狼組が行こうとしている場所に向かうことになりました。敵の戦力は脅威ですが、依の狙いは、うずめ様や鞍馬天狗を襲撃し刺青を奪う事でしょう。その戦いに乗じる事ができれば、現在南アルプスにいる灼滅者だけでも、対応は可能かと思われますので……」

    ●南アルプス壬生狼行
     彼らは道なき道の急斜面を登っていた。指示された目的地はもうすぐだ……と、その時。
     しっ、と先頭を行く仲間が沈黙を促した。
     行く手からかすかに戦闘音が聞こえてくる。
    「!」
     同時に、京一の携帯が震えた。
    「もしもしッ……はい、もうすぐ到着しますが、戦闘の気配が……はい……えっ!?」
     急報は、ダークネスの軍勢同士が戦闘に突入したことを知らせるものだった。依の軍勢が、うずめ様と、交渉に来ていた朱雀門部隊に襲いかかったのだ。
     戦場のすぐ傍で偵察しているチームの報告によると、攻め込んだの依の勢力は壬生狼組100体。それを防衛するうずめ様の手勢は旧日本軍風の羅刹30体、朱雀門は鞍馬天狗と本織識音、その護衛のクロムナイト20体である。
     戦況はスサノオ壬生狼組が優勢で、このまま勝てば、依は、うずめ様と鞍馬天狗の刺青両方を手に入れることになるだろう。
     電話を切り、急報の内容をチームメイトに一通り説明すると、ここまで終始丁寧だった京一の口調と目つきが変わった。
    「俺たちが戦闘に乱入すれば、依の勝利は防げるかもしれない。しかし、ダークネス達が灼滅者を脅威と考えれば、一時的に同盟を組んで、こちらを先に攻撃してくる可能性もある。どのように戦闘に介入するべきだろうか?」
     問われた仲間たちも難しい顔で考えこんだ。
     せっかくの好機、依の刺青奪取のもくろみを妨害し、あわよくば有力ダークネスを倒してしまいたい気持ちは皆同じだ。だが、どのような行動をとれば最も効果的なのだろう……?


    参加者
    天鈴・ウルスラ(星に願いを・d00165)
    月姫・舞(炊事場の主・d20689)
    津島・陽太(ダイヤの原石・d20788)
    レオン・ヴァーミリオン(鉛の亡霊・d24267)
    荒吹・千鳥(祝福ノ風ハ此処ニ在リ・d29636)
    不破・九朗(ムーンチャイルド・d31314)
    押出・ハリマ(気は優しくて力持ち・d31336)
    苔石・京一(こけし的な紳士・d32312)

    ■リプレイ

    ●移動
    「ヨッコイセ」
     天鈴・ウルスラ(星に願いを・d00165)が『怪力無双』で行く手を塞いでいる岩をゴロリと転がした。
    「この先で洞窟に降りられるはずだよ」
     山岳地図を見るレオン・ヴァーミリオン(鉛の亡霊・d24267)を先頭に、8人の灼滅者達は岩の脇を次々すり抜けた。『隠された森の小路』を使い順調に来たものの、さすがに岩までは退いてくれない。
     出たのは件の洞窟にまっすぐ降りる、切り立った岩場の上だった。そこからは戦場も一望でき……彼らは息を飲んだ。
    「こんな乱戦の中に1チームだけ、なんでやの」
     荒吹・千鳥(祝福ノ風ハ此処ニ在リ・d29636)が呻いた。
     洞窟前の戦場で、先行して状況を知らせてくれていたチームが、スサノオ壬生狼組に殲滅されそうになっているではないか!
     そしてうずめ様や朱雀門方の姿は見えない……ということは、すでに洞窟に撤退してしまったのか。
     苔石・京一(こけし的な紳士・d32312)は戦友のピンチに声を震わせた。
    「嫌な予想が当たってしまった以上、できるだけ被害を抑えて行動したいと思っていましたのに……」
    「助けにいきませんと」
     月姫・舞(炊事場の主・d20689)はもう岩場に足を踏みおろしていたが、
    「ちょっと待って」
     千鳥が戦場を見回して。
    「助けが入るとこや」
     見れば確かに、それぞれ別方向から2チームが加勢に現れた。
    「それなら、僕らは予定通り洞窟に向かった方がいいんじゃない?」
     不破・九朗(ムーンチャイルド・d31314)が冷静に言うと、押出・ハリマ(気は優しくて力持ち・d31336)も頷いて。
    「大乱戦に乗じることができる、千載一遇のチャンスっすもんね」
     確かに、ここで全チームが依軍とぶつかってしまえば、勝ったとしても、洞窟内の敵を倒す戦力は残らないだろう。洞窟の敵に戦闘を仕掛けつつ、何とかつり出して依軍とぶつけたい。
     灼滅者たちは友軍を心配しつつも、岩場を素早く降り始めた。登山装備のおかげで、険しい岩場もスムーズに降りられる。
     洞窟前に降り立つと、同時にまた他の2チームがやってきた。彼らも洞窟に入るつもりだという。
     耳をすましても、洞窟内から戦闘音は聞こえてこない。スサノオ全てが先行チームに引きつけられているため、内部ではまだ戦闘が発生していないのだろう。
     友軍の者が提案した。
    「洞窟内の敵は苛烈、単独で行くより3チーム同時に突入した方が良いでござる。くれぐれも逸れたりせぬよう」
     皆頷いた。元よりチーム間で上手く連携をとらねば成功しない作戦である。
     灼滅者たちは持参のライトを点し、足早に、けれど密やかに、洞窟へと侵入していく。
     津島・陽太(ダイヤの原石・d20788)は洞窟の入り口にチョークで素早く矢印を書いた。先に入ったチームがあることを後続に知らせるためだ。

    ●遭遇
     24人の灼滅者はひたひたと洞窟を進んでいった。陽太と九朗は壁面に時々印をつけた。後続チームのためでもあるし、自分達の帰途のためでもある。
     しばらく行くと、
    「……あっ」
     集団の先頭から押し殺した声が上がった。そしてすぐに、
    「何故灼滅者が?」
     女の声が響いた。後続もライトの光量を増しながら追いつくと。
     そこには20体ほどの銀色の装甲を着けたクロムナイトと、そして――。
    「まさか、依と同盟を結んだわけじゃないでしょうね?」
     当惑の色を隠しきれない本織識音がいた。スサノオの進軍に備えて待ち受けていたらしい。
     早々とターゲットとのご対面である。
     レオンが小声でインカムに本織隊との遭遇を知らせる。電波や戦闘の状況でどれだけ伝わっているかは解らないが、敵との遭遇は知らせておかねば。
     九朗がチームメイトだけに聞こえる声で囁く。
    「彼女は生徒会長の側近として、色々暗躍してくれてきたが、ここで終わりにしてやろう」
     8人は頷いて視線を絡め、そして。
    「いくぞ!」
     早速本織のいる軍勢の中央部を目指して突っ込んでいく。
     しかし本織も素早く指示を出し、配下を前に出すと自分は最後方に引っ込んでしまい、8人の前には、10体余りものクロムナイトが立ちふさがった。それぞれ槍か刀を装備している。
    「……ウッ」
     ゾッと恐怖が沸き上がる。本織を狙えば、必然的にクロムナイトを排除しなければならないとは予想していた。しかし、これほどの数……。
     ところが、
    「これは中々楽しそうな状況ですね。退屈せずに済みそうです……貴方は私を殺してくれる? それとも殺されるのかしら!?」
     カードを解除した舞は、嬉しそうに『黒影布』を放った。
     そうだ、躊躇していても始まらない。配下を減らして、どうにか本織に攻撃を届かせねば!
    「円、援護!」
     ハリマは愛犬に援護させながら、鋼鉄の拳で張り手を一撃、ウルスラは黒々とした殺気をたちこめさせた……その時。
    「……!」
     クロムナイトが一斉に槍と刀を上げ、前衛へと仕掛けてきた。
    「月姫先輩を!」
     盾役は必死に攻撃の要である舞を庇い、舞自身も必死に受け流そうとしたが、避けきれるものではなく、強烈な2撃を受けてしまった。
    「やりやがったな!」
     レオンがロッドから刃を含んだ竜巻を巻き起こし、陽太が鬼の拳を振り回して敵を一歩遠ざける。その隙に九朗が傷に耐えて炎の翼を広げて前衛を包み込み、千鳥が殲術玉串『塞之神』から黄色の光球を投げかけた。
    「ありがとうございます!」
     比較的傷の浅かった京一は回復に礼を言うと、拳にオーラを宿して果敢に殴りかかったが、クロムナイトの数と威力に背筋が寒くなる。
    「焦らずに削っていくデス!」
     ウルスラがことさら明るい声で叫んで、早速深手を負ってしまった前衛に聖なる風を吹かせたが、状況の悪さは明らかだ。
     今はまだ本織が用心して防御態勢でいるが、状況を悟れば、積極攻撃に切り替えてくるに違いない。そうなれば、この人数では圧倒されてしまうだろう。
     一緒に突入した2チームも、右側と左側でそれぞれクロムナイトを相手にしており、数が少ない分まだ少しマシそうだが、加勢してくれる余裕はない。
     悪い状況に思いを巡らせている間に、
    「危ないっ!」
     今度は全体に、多数の敵から毒弾と酸性液が飛んだ。盾役がまた必死に庇ったが、全てを防ぐことはできない。皆に容赦なく毒と酸が浴びせかけられる。
     何人かは列攻撃で少しでもクロムナイトを遠ざけようとし、何人かは必死に互いを、特に連続でダメージを受けた前衛を回復した。
     こんな防戦一方のまま戦い続けても、チームが瓦解するのは時間の問題だ。しかも本来のターゲットである本織は、まだ配下の分厚い壁の向こう――と。
     突然、洞窟内に足音が響き渡った。振り向けば、入り口方面から仲間の姿が現れた。しかも3チームも!
     ――援軍が来てくれた!
     先行組の者が状況を簡単に説明すると、援軍の仲間もクロムナイトと戦う意義を即座に理解してくれ、チーム毎に戦場に散った。
    「よかった、これだけ人数が揃えば、なんとか互角に戦えますね!」
     京一が元気よく言って、バベルブレイカーを構え直した。

    ●銀蒼の壁
     援軍のおかげで、このチームが相手にするクロムナイトは3体に減った。これで数的には何とか互角。しかし、援軍が来るまでに受けたダメージは甘くなかった。特に、強烈な近距離攻撃を複数受けた前衛の体力はギリギリで――数分が経った頃、ついに。
     ジュッ。
    「円っ!」
     ハリマが悲鳴を上げた。ひたすらカバーに徹してきた霊犬が、酸と毒を浴び、蒸発するように消えてしまったのだ。
     その時、後方で戦っているチームから、やった! という歓声が沸いた。クロムナイトを倒したようだ。
     それをちらりと振り返ったレオンが、
    「俺らも頑張らなきゃだねぇ」
     傷だらけの顔でニヤリと仲間たちに笑いかけると、杖を掲げ竜巻を呼んだ。
    「頑張るっす! 円はすぐに帰ってくる……てえいっ!」
     ハリマが空元気も元気のうち、とばかりに痣と傷だらけの身体で洞窟の壁を身軽く駆け上り、高い位置からの跳び蹴りを決めた。1体がその蹴りでよろめいたところに、
    「雑魚は散りなさい!」
     舞が血塗れの顔で、それでも楽しそうに蛇剣を振り回し3体まとめて切り裂いた……が。
     殺戮マシンは自らのダメージなど意に介せず、一斉に槍と刀を舞に向けて突き出してきた。3本の刃が彼女に迫る。
    「……!!」
     一瞬覚悟した舞の前に飛び込んだのは、九朗。
    「させないよ……っ」
     彼は3本のうち2本を受けた。槍と刀が深々と細い身体を抉り……濡れた床に倒れこんだ。
    「は……離れろッ!」
     千鳥は、倒れた仲間から敵を引き剥がしたい一心で『黄泉比良坂交別神奈比』から魂のエネルギーを浴びせかけた。レオンは『自律斬線 鏖殺悪鬼』を四方に広げて装甲を叩き、京一は冷たい炎を放つ。3体が凍り付いたその一瞬に、陽太が、
    「でえいっ!」
     最も弱っているとおぼしき敵に、渾身の力を籠めて杭を撃ち込んだ。杭は甲冑と分厚い腹を突き破り――やっと1体が動かなくなった。
    「やったぜ!」
     1体倒した! しかし喜んでいる暇はない。
     ハリマと京一が、倒れた九朗とその後ろで傷を抑えてうずくまる舞のカバーに入ると、ウルスラも駆け寄ってきた。回復を得て舞は何とか立ち上がったが、九朗は動けそうにない。それでもうっすらと目を開けた。
    「ごめんなさ……」
     九朗は舞の謝罪を痛そうに首を振って止め。
    「……僕の役割を果たしただけだよ」
     小さな声で言った。彼は、この作戦では攻撃陣をしっかり護るということを自らに課していた。
    「一旦下がって手当するデスヨ」
     ウルスラは怪力無双で九朗を抱え上げ、流れ弾が飛んでこなそうな小さな枝道に運んだ。戦闘の様子も何とか見える場所だ。岩壁によりかかる彼に応急手当を施す。深手ではあるが、命に別状はなさそうだ。
     ウルスラが戦線に戻ると、レオンの刃が弱った1体の足を切り裂いており、
    「――クロムナイトには、どんなトラウマが見えるのでしょうね?」
     京一の影がそれをすかさずくるみこみ、
    「行け、くま太郎!」
     千鳥のくま太郎が影の中でもがく敵に襲いかかってパンチを喰らわせ……それでまた1体が動かなくなった。
     これで2体! あと1体倒せば、銀と蒼の生ける壁の向こうに見え隠れしている司令官にも手が届きそう、と気合いを入れ直すと。
    「……増援にスサノオが居ないという事は、どうやら依と組んだわけではなさそうね」
     その本識の思案する声が微かに聞こえてきた。
    「ということは、洞窟の外で、別の灼滅者が依たちを攻撃している可能性が高い。洞窟内にこれだけの戦力を投入したという事は……脱出するには、うずめ様の予知にすがるしかなさそうね」
     ヴァンパイアは踵を返すと、洞窟の奥めがけて駆けだした。

    ●本織識音
    「本織が逃げた!」
     彼らは倒しかけのクロムナイトの横をすりぬけ、彼女を追った。同時に彼女の動きに気づいた1チームも一緒だ。
     ハリマが追いすがりながら声を張り上げる。
    「結局、ミスター宍戸に匹敵するような、才能のある一般人て、見つかったの?」
     問われた本織はちらりと振り返ると、憎々しげな視線を向けた。少しだけ逃げ足が緩む。続けてレオンが。
    「ねぇ、瑠架が生きてるって、知ってた?」
    「な……んですって」
     本織の足どりが完全に緩み、一瞬驚愕の表情になったが、彼女はすぐにまた険しい顔に戻ると首を振り、
    「ふん、そんな嘘で私を動揺させようったって、無駄よ」
    「え、嘘じゃないって!」
     予想外の反応にレオンは愕然としたが、この隙を逃す灼滅者たちではない。
    「とりゃああ!」
     ハリマが足に炎を載せて蹴りを見舞い、舞が足下に滑り込んで刃を突き立てた。陽太は鬼の拳で殴りかかり、千鳥は玉串から赤い光球を放つ。
     友軍のメンバーも攻撃し始めたのを見て、
    「貴女の交渉は今回が最後になります」
     京一は、こちらもダメージは蓄積しているとはいえ、これだけの人数ならきっと倒せる……という確信を胸に、足止めのために杭を撃ち込んだ。
     ザン……ッ!
     本織が大鎌を振り、虚空から現れた刃が前衛を襲ったが、クロムナイトの力を散々受けてきた彼らからすれば、耐えるに難くない。
     問いかけへの反応に呆然としてしまったレオンも、何かを振り切ったように、魔力を宿した杖で殴りかかり、九朗の容態を見、送れて追いついてきたウルスラも勝負処とみて、
    「―――!」
     洞窟に響き渡る金切り声を張り上げる。
     ブン……ッ!
     また大鎌が振られ、今度は後衛に刃が向かったが、すでに威力は落ちつつあるようだ。
     友軍のメンバーも次々と果敢な攻撃を繰り出して、見る間に本織は消耗していく。
     ――そして。
     よろよろと振られた鎌をかいくぐった舞が。
    「私がここまで戦い続けられたのは、皆さんのおかげ――悪を極めんとした男の業(わざ)と業(ごう)を見なさい。血河飛翔っ、濡れ燕!」
     同時に飛び込んだ友軍の曜灯の鮮やかな蹴りと共に、力を込めて愛刀を振り下ろした。
    「こ、こんな……ところ、で……」
     ――2人の渾身の一撃には耐えられず、ヴァンパイアはゆっくりと崩れ落ちた。
     本織識音を倒した! 灼滅者たちが大きく息を吐いた……その時。
    「それほど親しかったわけでは無いが、仲間の仇は取らせてもらおう」
     野太い男の声が、洞窟奥の暗がりから響いてきた。
     現れたのは、旧日本軍風羅刹隊と、それを率いる鞍馬天狗だった。
     再び彼らの背筋をゾッと恐怖が駆け上がった。
    「(……無理だ!)」
     皆の体力はギリギリだ。この上鞍馬天狗の隊と戦うことなど、とても出来はしない。
     すると、クロムナイトと戦い続けていたチームの方から、
    『連中を巧く引き付け、外に居るスサノオ壬生狼組の軍勢に突き合わせれば、鞍馬天狗、そして、その奥にいるうずめ様を討ち取るチャンスがある』
     という作戦が伝わってきた。
    「(それに賭けるしかない!)」
     彼らはそれを聞いてすぐに出口に向かった。九朗はウルスラが背負い、他の者は敵に追いつかれないよう牽制しながら洞窟を駆け抜ける。行きにつけた印が役に立った。
     出口が見えてきた。暗がりに慣れた目に、外光が眩しい――。
    「うまくスサノオ壬生狼組と鞍馬天狗をぶつけなければ……えっ?」
     しかし、洞窟の外には、すでにスサノオの姿はなかった。洞窟外チームの灼滅者たちが取り残されているだけ。彼らも戦闘不能者を多数抱えている。
    「なんということだ……」
     この状況で、鞍馬天狗とうずめ様を敵にまわして戦う事は不可能――。
     全員が一瞬にして状況を悟った。
    「――撤退だ」
     灼滅者たちは悔しい気持ちをかみ殺し、負傷者を助け、撤退を始めた。
     聞けば、洞窟外のチームは依を灼滅していた。本織識音と依を倒したことは、重要な戦果である。けれど、うずめ様と鞍馬天狗には残念ながら手が届かなかった。
     ――彼らと次に相見える日は、いつになるのか。

    作者:小鳥遊ちどり 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2016年6月1日
    難度:やや難
    参加:8人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 8/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 0
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