運動会2016~シンクロせよ!二人三脚障害物レース

    作者:西東西


     梅雨の訪れと、夏の来訪が気になる時分。
     きたる6月5日に、武蔵坂学園『運動会2016』が開催されることとなった。
     『運動会』とは、学生たちが9つの組連合にわかれ、各種競技によって得点を競いあう一大イベントだ。
     開催される競技は、多種多様。
     一般人の学校でも定番のものから武蔵坂学園特有のものまで、幅広く行われる。
     クラスメイトや組連合の者たちと力をあわせ、たちはだかる好敵手としのぎを削る。
     ただひとつの『優勝』を目指して展開される熱き戦いが、今年もまた、繰りひろげられようとしていた――。
     

    「――というわけで。私が説明するのは『二人三脚障害物レース』についてだ」
     運動会2016の資料を手に、一夜崎・一夜(大学生エクスブレイン・dn0023)がルール説明を開始する。
     二人三脚とは、『2人1組』で行うペア競技だ。
     走者2人の足首を紐で結び、歩調をあわせてゴールまでを走りきる。
     コースは直線100メートル。
     『障害物レース』と名のある通り、途中には3つの障害物が設置されている。

     1つ目は『網くぐり』。
     コースの真ん中に広げ置かれた網と地面の間を、這い進む。

     2つ目は『なわとび』。
     ペアで前飛びをしながら、次の障害物地点まで進む。

     3つ目は『スプーン走』。
     小さなスプーンに、ピンポン玉を乗せたままゴールまで進む。
     ピンポン玉を落とした場合は、落とした地点へ戻ってやり直す。

    「このほかにも、今回は競技中にライバルへの妨害が可能となっている。といっても、サイキックの使用は不可。反則を行ったペアは即退場となるので、注意するように。いかにライバルより抜きんでるか。ライバルの妨害をかわし、先へ進むか。パートナーとの作戦が勝負の分かれ目となるだろう」
     なお競技に参加した学生たちの中で、最も素晴らしい連携プレーを発揮したペアには『MVP』が贈られる。
     『MVP』が所属する組連合にはボーナス得点が加算されるため、優勝を目指す者は、ぜひとも狙ってほしい。
     
    「勝負や駆け引きを楽しみたいペアは、事前にどういったアクションを起こすのか考えておくと良いだろう。もちろん、純粋に競技を楽しみたいペアは、練習通りマイペースに臨めば良い」
     ――レースでの勝利を目指し、心・技・体いずれを鍛えるか。
     ――強敵が多いなか、いかにマイペースを崩さず臨むか。
     出場ペアごとに戦略を巡らせて楽しめるのが、このレースの醍醐味だ。
    「興味があるなら、親しい者たちと誘いあって参加してみてはどうだ?」
    「レース以外に。競技の手伝いや応援も、できる」
     捕捉するように七湖都・さかな(終の境界・dn0116)が告げ、一夜を手伝うべく、学生たちにエントリーシートを配って回った。


    ■リプレイ

     2016年度の『二人三脚障害物レース』への参加は計10チーム。
     調整の結果、全2レースの開催が決まった。
     救護係としてグラウンドに立つ茶倉・紫月(d35017)の眼前には、スタートラインに立ち、互いの脚を固く結びあう選手たちの姿がある。
    (「……二人三脚って、うまい具合に転べないと普通に転ぶより痛い、と思う」)
     無理した奴には首裏に冷却材を当てようと胸中でひとりごち、第1レースに出場する漆黒の眼と髪をもつ少女へと視線を送る。
     ――彼女のことも、気にはなるけれど。
     だれひとり怪我などしないで欲しい。
     自分の出番は少ないに越したことはないのだと思いつつ、スターターピストルを手にした教師が、その腕を掲げるのを見守る。
    「位置について――」

    ●第1レース
     銃声が鳴り響くと同時に、慧樹(d04132)は歓声に負けじと声を張りあげた。
    「真ん中の繋がってる足から、前へ!!」
     ――初のMVPを勝ちとったあの日と、同じ言葉。
     羽衣(d03814)はスミケイを信じ、どん!と力強く地を踏みしめ、後ろへ蹴りだしていく。
    「今年こそ王座奪還! なのよ!」
     その隣を軽やかに駆けるのは、双子の殺雨姉弟。
     運動は苦手という音音(d02611)だが、空音(d00394)に褒めてもらいたいという強い想いが、その背を後押しする。
    「ネオン達のラブラブっぷりをアピールしようね、クオンv」
    (「……怪我しないように、見てなきゃな」)
     真っ先に網にたどり着いた空音は、先だって行く先の網を持ちあげ、姉に怪我をさせまいと先導していく。
     同じような作戦をとったのは、【兎星】の二人だ。
     小柄なイコ(d05432)が網を持ちあげ、風を送りこむように波打たせ、円蔵(d02629)を導いていく。
    「恋に障害がないように、妨害なんてなんでもないわ!」
    「此処はひとつ、愛の力的な感じで、勝ち抜く姿を披露せねばいけませんねぇ、ヒヒ!」
    「わぁ……、ゆーさん上手……!」
    「こんなの楽勝なのじゃ! 有象無象を置き去り、栄光の勝利をもぎ取り、白狼の威厳を示すのじゃ!」
     力強く網をかいくぐり進む悠(d28799)を頼もしく見やりながら、保(d26173)も遅れをとるまいと身を寄せ、動きをあわせていく。
     猛進する【保は俺の嫁】チームの後を追うよう、最後に網をくぐり抜けたのは【luciora】チームだ。
    「まだ慌てない、そのような時ではない、です……」
     先行くいくつもの背を見送り、網を押しのけた柚羽(d13017)がぷるぷると震えるも、さかな(dn0116)は顔色ひとつ変えずに、「ん」と短く返した。
    「まだ。全力じゃ、ない」
     協調性と冷静さでは、随一。
     その自信があればこそ、以降の巻き返しを狙い、急ぎ縄を手にとった。

     ひゅんと風切る縄を手繰り、先頭を行くのはイコと円蔵。
     背丈や腕の長さを補うよう互いにしかと腕を回しあい、巧みに歩幅差を調整し、駆ける。
     軽やかに跳ねるさまは、まるで踊っているようで、楽しくて。
    「あとは息のあったステップで、ヘッチャラですよぉ」
     満面に咲くイコの笑顔を見やりながら、先を急ぐ。
     そんな【兎星】に迫らんとペースをあげたのは、羽衣と慧樹。
     あのころから身長は伸びて、互いの歩幅も、もうずいぶんと違うけれど。
     それでも、毎日並んで歩いているから。
     二人の呼吸のタイミングは完璧だと、自信をもって言える。
    「っしゃあ! 気合い入れるぞ!」
     縄を手に跳ねるごとに、空をきり、ぐんぐん前に進むのがわかる。
     一歩一歩が、どんどん大きくなっていく。
     ともに在ることがいつも通りなのは、双子も同じ。
    「ここが、姉弟の見せ所ってやつだろう」
    「跳びやすいよ~に、ギュってくっつこうねv」
     ぴったりと身を寄せあい、負けじと勢いをあげていく。
    「ピョンピョン跳ねて、楽しいにゃ~」
     告げた音音の横をすり抜け並んだのは、『蛍』の名を冠する【luciora】の二人。
    「さかなさん」
    「柚羽、右」
     互いに足を挫かないよう声をかけあい、最小限の動きでコースを駆ける。
     ここへきて遅れをとったのは、【保は俺の嫁】チームだった。
     ここまでは超・猪突猛進の勢いで突き進んだものの、手足が勢いに乗りきれず、幾度も縄を足に引っかけてしまったのだ。
    「しかし体力には自信があるでな、野生の白狼様を舐めるでない!」
     他チームとの差はひらいてしまったが、まだ、3つめの障害物が残っている。
    「征くぞ保よ、ついてくるのじゃ!」
    「うん、ゆーさん、行くよ……!」

     急ぎ縄を捨て、小さなスプーンとピンポン玉に持ち替えれば、風向きにも注意をはらいながら他チームの背を追い駆ける。
     「今こそ風になる時なのじゃ!」と叫ぶ悠の声は、先をいく4チームの耳にも届いている。
    「わわ~っ!」
     ぐらり揺れた身体を引き寄せ、空音が姉を抱きとめる。
     玉を落とさず耐えきったものの、その分、足は止まってしまった。
    「クオンは安定してるにゃ~」
    「大丈夫だ。もし落としても、俺は怒らないよ」
     転ばれる方が心配だからなと胸中で付けくわえ、先行くペアを真似てみようと提案する姉にならい、競技を再開する。
     その前を行くのは、さかなと柚羽。
     後方からの妨害を警戒していたが、足音や聞こえくる会話から察するに、背後の心配をする必要はなさそうだ。
     ――互いに、どこか似ていて。
     ――言葉にせずとも、考えていることはなんとなくわかって。
     だから、積極的に触れあおうとしなかった。
     その必要はないと、思っていた。
     けれど。
    「往こう」
    「はい」
     これまでの距離を埋めるように、二人ぴったりと身と呼吸をひとつにして、走る。
     ――あとは、最後まで諦めず駆け抜けるのみ。
     繋がる足から前に、もっと前に。
     スプーンを持つ手に細心の注意を払いつつも、強い決意を胸に進むのは羽衣と慧樹。
     ほぼ同じペースで円蔵とイコが走るのが見えたが、今は気を散らしている場合ではない。
    (「いつものペースは、スミケイが守ってくれる。だから大丈夫って信じるだけなのは、二年前まで」)
     今は、信じたその先。
     見据えた先まで、想い重ね、ともに駆けぬけていきたい。
    「目指せMVP! 今年こそ、トップ返り咲きだっ!」
     力強い声に負けじと、目前に迫るゴールテープを見やり、イコも声を張りあげる。
    「体格よりも、息の合うことが重要なの!」
    「ヒヒ、集中しているイコさんも可愛いですねぇ」
     飄々と笑う円蔵だが、邪念に惑わされること無く、歩調も呼吸も完璧にあわせている。
     最後の最後まで、指先にまで集中を切らさず。
    「この紐よりも確かに結ばれた、愛という名の絆は誰にも負けないわ! ――御覧じあれ!」
     イコと円蔵は自由に空舞う鳥のように、風をきり、軽やかにゴールを駆けぬけた。

     気迫で圧した【兎星】が1位を勝ち取り、【雪片住矢ペア】は惜しくも2位。
     【luciora】は3位と健闘し、続く【殺雨姉弟】が4位で、【保は俺の嫁】の挽回はならなかった。
    「くっ。栄光の勝利ならずとは……!」
    「ともあれ、怪我がなくてなにより」
     結果はどうあれ、力を出しきったのは確かだと保が悠を励ます。
     一方の音音も、ゴール後は晴れやかな笑顔で。
    「クオンは今日もカッコよかった~☆」
    「姉さんも、よく頑張ったね」
     姉が満足したならそれで十分だと、空音は姉を労うべく、たくさんの言葉を重ねる。
    「やっぱり、運動会でこうして一緒に走るのが、大好きだわ」
     互いの絆を再確認した羽衣と慧樹が、イコと円蔵とともに互いの健闘をたたえあう。
     悔しい気持ちもあるけれど、それはまた次の機会への、力となるはずだ。
     そうして、さかなと柚羽は、すこし離れたところに佇んで。
     いつも通り、言葉なく。
     けれど肩と頬を寄せあい、清かに吹き抜ける風を、心地よさげに見送った。

    ●第2レース
    「今回も、最後まで全力で頑張ろうね!」
    「自分たちのペースを大事に、頑張りましょうー潤子ちゃん」
     笑顔でぐっと拳を固め、気合を入れあうのは潤子(d11987)と真琴(d11900)の【吉祥寺3年D組】二人組。
     その隣では、
    「……私、運動……苦手、だけど……。ジーク、一緒……できる、限り……頑張り、ます……!」
    「うん。せっかく一緒に競技に参加できる機会だし、思う存分堪能したいな」
     きつくなり過ぎないようにと互いの足を結びつけ、ジーク(d29886)は渚(d32101)の気持ちを和らげるべく、練習時のポイントを思いだすようにとアドバイス。
     一方、智巳(d01340)はというと。
    「悪いが、全力で1番を取りにいく!」
     周囲を牽制するように豪語する相棒を、パートナーの雪紗(d01780)が眼鏡越しに見やって。
     沸きあがる観衆をよそに、
    「ペースとか気にすんな。積極的に絡んでいこうぜ」
     キィン(d04461)と己の足首を固く結び、シグマ(d18226)が楽し気に笑う。
     愛想に欠けるパートナーの視線の先には、さかなと話す一夜(dn0023)の姿。
     そのパートナーである有無(d03721)が、袖余りのジャージ&パーカーで頭を隠しながら佇んでいる。
    「キィン。シグマ」
     「応援、してる」と顔見知りのもとへも駆け寄る少女を見送り、一夜は有無を見やった。
    「七湖都でなくて、良かったのか」
     みなまで言わず問えば、『闇』は目に見えて口元を緩ませて。
     聞いた私が愚かだったと、一夜が半眼になって足首を括りにかかる。
    「いいか。目指すは3位以上だ」
     七湖都に遅れはとれん。
     あと、あいつらにも。と、【鷲と琴】チームへ目線を向ける。
    「何、ただの戯れ。されど大事な戯れ。諸々は技量で埋めましょう」
     気分に左右されやすいとはいえ、理詰めなら大体のことに納得し、協力を惜しまない。
     そして。
     進行役の教師が位置についたのを認め、学生たちは次々とスタートラインへと向かう。

    「位置について、よーい」
     ――パァン!
     青空に二度目の銃声が鳴り渡り、10人の学生たちが一斉に地を蹴り、駆けだしていく。
    「「せーの!!」」
     第一声の掛け声を重ね、最初に飛びだしたのは真琴と潤子だ。
     タイミングを合わせ、「いち、に、いち、に」とテンポ良く足を踏みだしていく。
     策らしい策を立てていなかった【夜叉】の二人だったが、相性は悪くないらしい。
     【吉祥寺3年D組】に続き難なく網をくぐり先行するも、
    「シグマ!」
     追いすがったキィンが、パートナーとともに一夜と有無の進む進路の網を、思いっきり引っ張った。
     その動きに即座に反応したのは、雪紗だ。
    「智巳、こっちだ!」
     突っ込み、押し通ろうとする相棒を抑え、妨害組の巻き添えを回避するべく経路を見極める。
     残る【天文シグナギ】チームは、こういった競技は初めてという渚と、渚を気遣うジークが組んでいたからこそ、他のどのチームより冷静に場の状況把握に努めていた。
    「わ、わ……あ、足、繋がって……む、難しくて、私も、その……背、高いから……。ご、ごめんね、ジーク……!」
    「渚さん、落ちついて。網くぐりは絡まるとなかなか抜けだせないから、一層慎重にいかないと……!」
     頷き、渚は懸命にジークの後を追う。
     その甲斐あって、他班におくれをとることなく網くぐりを完了。
     妨害を受けた【夜叉】と仕掛けた【鷲と琴】は、そろって網の下で足止めを食うことになってしまった。
    「あまり驚かないな」
     つまらなさそうなキィンの呟きをよそに、
    「くそ。これでは共倒れだ……!」
     表情こそいつも通り涼し気だが、一夜の口調にはちらりと負けず嫌いの『修羅』が覗いていた。

    「妨害に走るのは、ミイラ取りがミイラになるだけだからな」
     後方の様子をうかがいながら智巳がぼやくも、後ろを気にしているだけの余裕はない。
     智巳と雪紗はこの勢いに乗り、第2の障害物である縄跳びを開始。
    「俺は全力でまわす。雪紗、お前がタイミングを見切れ!」
    (「――智巳の高速縄跳び、自慢の技術で見切ってみせる!」)
     ここがブレーンたる己の腕の見せどころとばかりに、雪紗の眼鏡がきらりと光る。
    「ハイ! ハイ!」
     声に合わせ絶妙のタイミングで縄をかわし、軽やかに独走。
    「な、なんて早さ……!」
     マイペースに頑張ろうと誓いあった【吉祥寺3年D組】の二人も、ぐんぐんと離される様子に驚きを隠せない。
     渚は懸命に縄と足へと気を配りつつ、背後から迫る足音にも振り返らず、前だけを見据えていた。
    「……その、勝て、なくても……最後まで、走って……みたい、です……!」
    「諦めるのは早いよ。俺たちも、声を出しあって足並みと息を合わせよう」
     ライバルが自分たち以上の力を見せつけるというなら、自分たちもそこへ近づけるよう工夫すれば良いだけのこと。
     二人はすぐに調子をあわせ、先行する2チームとの距離を縮めていく。
     【夜叉】の二人も懸命に追うが、初めに開いた差はなかなかせばまってはくれない。
    「流石ですねえ」
    「言ってる場合か」
     軽口を叩きつつも、有無と一夜の動きは淀みない。
     一夜は、『同類』として。
     有無は、『協力者』として。
     思考の理解と利害の一致があればこそ、二人の動きは研ぎ澄まされていく。
     続く【鷲と琴】の二人も巻き返しを図るものの、これという決定打を出せないまま、眼前にスプーンとピンポン玉が見えてくる。

     先行する2チームの位置を確認しながら、ジークは渚を励まし、着実にゴールまでの距離を縮めていった。
    「少し、ずつ……一歩、一歩……」
     ここまでのやりとりで、二人の一歩はだんだんと大きくなり、スピードも出始めている。
     とはいえ、ここは慎重に進まねばならない。
    「勝っても負けてもすっきりした気持ちで終わればそれでよし! 失敗なんて気にしない!」
     最後まで力を尽くそうと前を見やれば、先をいく真琴のスプーンからピンポン玉がこぼれ落ちたところだった。
    「大丈夫、落ち着いていこう!」
     励ます潤子が笑顔で話しかけ、
    「うん、行こう!」
     玉を拾いあげた真琴も笑顔で走りだすも、ここへきて着実に追いあげてきた【天文シグナギ】が二人と並んだ。
     先頭をいく智巳と雪紗はというと、
    「大丈夫だ、あとは俺が何とかしてみせる!」
     2つのスプーンを雪紗に任せ、智巳が雪紗の身体をわきに抱えるようにして、ラストスパート!
     スプーンとポンポン玉は各チーム2つづつ用意されていたが、1人1セット持たなければならないという決まりはなく、ゴール地点についた時に2セット揃っていれば良い。
     あまりに大胆と言えば大胆な作戦に客席からも歓声があがり、二人の追いこみにも力が入る。
    「左……右、左!」
     雪紗は智巳にしがみつき後続を警戒しながらも、スプーンと掛け声に意識を集中する。
     状況に合わせ的確にフォローしあい、さらにラストスパートへ向け体力を温存していた二人に追いつけるチームは、もはや無い。
     大差をつけてゴールした【一橋二神ペア】が、堂々の1位に。
     自分たちの力量と状況を冷静に見つめ、最後まで協力しあった【天文シグナギ】は最後の最後に逆転し、2位を獲得。
     【吉祥寺3年D組】の二人は惜しくも3位となったが、ゴールした後には2人そろってハイタッチ!
    「ありがとう潤子ちゃん。お疲れさまー」
    「真琴ちゃんも、おつかれさまっ!」
     ぎゅうと抱きしめあい、笑顔で互いをねぎらう。

     残った【夜叉】と【鷲と琴】の2チームはというと、ほぼ横並び状態でコースを進んでいた。
     下位2枠とはいえ、相手が相手なだけに互いに譲る気はない。
    「スプーン走が、一番任せてもらう所だな」
     それまでキィンにあわせる形で走り続けていたシグマが、ここぞとばかりにパートナーをリードする。
     対する一夜は口端に不敵な笑みを浮かべ、この状況を楽しんでいた。
    「倫道」
    「わかっています」
     もとより、終盤の妨害や追いあげは警戒のうちだ。
     ライバルのことも順位のことも、なにもかも頭の中から振り払い、ただただパートナーと呼吸を合わせ、全力を出し、走る。
     ――ここで引き離されれば、負けは確実。
    「来いッ!!」
     キィンはシグマの肩を強引に掴み、引っ張るようにして加速。
     揺れるピンポン玉はシグマがなんとかバランスをとり、4人、もつれるようにしてゴールラインに倒れこんだ。
    「は、判定は……!?」
     駆けつけた教師に向かい、ゴール地点に待機していた紫月がすっと、指をさす。
     ゴールラインの手前に、ピンポン玉がひとつ、落ちている。
    「【鷲と琴】の分、だ」
    「負けたら負けたで心配かけたぶんと思えば……。いーや、思えないな」
     仰向けになり青空を見やれば、同じく倒れたまま、一夜がどや顔でキィンを見ていた。
    「私たちの勝ちだな」
     シグマが体を起こしながら、最後はテンションが上がったぞと、笑う。
    「こういうのも、楽しいもんだな」
     視線を投げかけられた有無は肩をすくめ、旗を手に駆け寄る『光』へと、視線を向けた。

     すべてのレースが終了し、審査員が集まった学生たちの前に立つ。
    「二人三脚障害物レース、MVPは――」
     ――まっすぐに勝ちを狙う、ひたむきな『心』。
     ――状況を的確に見極め、実現に導く『技』。
     ――そして、ここぞという時に輝く『体』。
     三つを兼ね備え、宣言通り1位を駆けぬけた学生の名は。
    「製菓学部2年、一橋智巳!」

     7G蘭連合から、大歓声が沸き起こり。
     智巳はサングラスを光らせ、力強く、両拳を空へ突きあげた。
     
     

    作者:西東西 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2016年6月5日
    難度:簡単
    参加:19人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 2/感動した 0/素敵だった 4/キャラが大事にされていた 0
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